説明

浸透性防錆剤

【課題】曇点以上の高温環境下でも分離することなく均質を維持し、鉄筋コンクリート中に深く埋まっている鉄筋鋼材へ、防錆性を発現する亜硝酸塩を十分に到達させるコンクリート浸透性防錆剤を、提供する。
【解決手段】コンクリート浸透性防錆剤は、アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドからなる非イオン活性剤と、この防錆剤は、前記非イオン活性剤が0.01〜10重量%、前記両性界面活性剤が0.01〜10重量%、前記亜硝酸塩が0.1〜30重量%含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート建造物の保全や補修をする際に、その中の鉄筋鋼材を防錆するために用いられるコンクリート浸透性防錆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビルや橋梁のような建造物の骨格は、鉄筋鋼材をコンクリートで固めた鉄筋コンクリートでできている。鉄筋コンクリートは、優れた耐性および大きな圧縮強度を持つコンクリートと、大きな引張強度を持つ鉄筋鋼材との長所を併せ持っている。
【0003】
施工直後のコンクリートは、アルカリ性を示しているうえ、埋込まれている鉄筋鋼材との付着性が良くしかも外気を遮断しているので、鉄筋鋼材を錆びから保護している。
【0004】
しかし施工後長年経過すると、コンクリートが外気中の炭酸ガスの影響で中性化したり、ひび割れを生じそこから水分等が浸入したりして、鉄筋鋼材が徐々に錆びて朽ちる結果、鉄筋コンクリートが劣化し、建造物の耐性と強度との特性が低下してしまう。
【0005】
そこで鉄筋コンクリート建造物の保全や補修をするため、その鉄筋鋼材を防錆する防錆剤が鉄筋コンクリート表面に塗布される。防錆剤は、鉄筋コンクリート表面から浸透し、鉄筋鋼材に到達して付着し、錆びの進行を防ぐ。このような防錆剤として、例えば特許文献1には、アルキルオキシポリエチレンオキサイドのような非イオン性界面活性剤、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、グリセリンおよび亜硝酸カルシウムを含む浸透型防錆剤が開示されている。
【0006】
鉄筋コンクリート構造物中の鋼材は、通常表面から8〜12cmの位置に存在することが多い。従来の浸透性防錆剤は浸透力が弱く、防錆力を発揮する十分な濃度の亜硝酸カルシウムが鋼材に到達しないため、コンクリートの補修が不十分になり易い。
【0007】
本発明者らは、亜硝酸カルシウムをコンクリートに浸透させる浸透剤として、疎水性のエーテル型非イオン活性剤であるアルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドを含む亜硝酸塩水溶液を見出している。このエーテル型非イオン活性剤はアルカリ環境下でも安定で、亜硝酸カルシウムとの良好な相溶性を示す。しかし、このエーテル型非イオン活性剤を含む浸透性防錆剤は、その温度や塗布すべきコンクリート表面の温度が、夏季のような時期的、又は直射日光が当たる場所的な原因で、防錆剤の曇点を超えると、二層に分離してしまう結果、その浸透性が減少し、十分な防錆効果が得られなくなる恐れがあった。
【0008】
【特許文献1】特開2002−371388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、曇点以上の高温環境下でも分離することなく均質を維持し、鉄筋コンクリート中に深く埋まっている鉄筋鋼材へ、防錆性を発現する亜硝酸塩を十分に到達させるコンクリート浸透性防錆剤を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドからなる非イオン活性剤と、両性界面活性剤と、亜硝酸塩とが含まれた水溶液であることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、請求項1に記載されたもので、前記非イオン活性剤が0.01〜10重量%、前記両性界面活性剤が0.01〜10重量%、前記亜硝酸塩が0.1〜30重量%含まれていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、請求項1に記載されたもので、前記両性界面活性剤が、ベタイン化合物、エーテルアミンオキシド化合物及び/又はイミダゾリン基含有化合物であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、請求項1に記載されたもので、前記亜硝酸塩が、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸カルシウムであることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、請求項1に記載されたもので、前記亜硝酸塩が、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸カルシウムであることを特徴とするコンクリート浸透性防錆剤である。
【0015】
請求項6に記載のコンクリート浸透性防錆剤は、請求項1に記載されたもので、pHが最低でも9であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンクリート浸透性防錆剤は、室温から防錆剤の曇点を越える高温までの広範な環境下で、コンクリートへの浸透性が優れたものである。また、このような高温環境下でも亜硝酸塩と非イオン活性剤と両性界面活性剤との相溶性が良く、分離しない。
【0017】
このコンクリート浸透性防錆剤を鉄筋コンクリートに塗布して補修すると、十分量の防錆剤が鋼材の存在する位置まで安定して分離しないまま浸透するので、コンクリートに深く埋まっている鉄筋鋼材の防錆を確実に行なうことができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の浸透性防錆剤の調製の好ましい実施の形態の一例は、非イオン活性剤であるポリオキシエチレン2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールと、両性界面活性剤であるアルキルジメチルアミノ酢酸ベタインと、前記亜硝酸塩である亜硝酸カルシウムとを、均質に混合して、水溶液を得るというものである。
【0020】
この浸透性防錆剤を補修すべき鉄筋コンクリートに塗布する。すると、この浸透性防錆剤がコンクリートに浸透し、亜硝酸イオンがコンクリートの鉄筋鋼材に付着する結果、不動態皮膜を形成して新たな錆の発生を防ぐ。
【0021】
別な形態を具体的に説明する。
【0022】
浸透性防錆剤中、非イオン活性剤は、0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%含まれる。このような非イオン活性剤は、その分子内に、疎水基であるアセチレン基と、親水基であるポリオキシエチレン基及び/又はポリオキシプロピレン基とを有している。そのような非イオン活性剤は、例えば炭素数6〜18のアルキニルアルコールにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドが付加した数平均分子量200〜3000のものであることが好ましい。アルキニルアルコールは、アセチレン基を直鎖または分岐鎖の途中に有していても末端に有していてもよく、モノオールであってもポリオールであってもよい。エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドは、それぞれ単独で付加させてもよく、混合したものを付加させてもよい。この非イオン活性剤はアルカリ中でも安定であり、アセチレン基と亜硝酸塩との相溶性が良く、コンクリートへの優れた亜硝酸塩浸透性を発現させる。
【0023】
アルキニルアルコールは、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールの他、1,1,6,6−テトラアルキル−2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールが挙げられる。
【0024】
浸透性防錆剤中、両性界面活性剤が0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜2.5重量%含まれる。このような両性界面活性剤として、ベタイン化合物、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインのようなアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインのようなイミダゾリン基含有ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシドのようなエーテルアミンオキシド化合物を用いてもよい。このアルキル基は炭素数6〜18の直鎖状、分岐鎖状又は環状の脂肪族鎖である。これらの両性界面活性剤は、曇点以上の高温時における非イオン活性剤と亜硝酸塩との分離を防止する。
【0025】
浸透性防錆剤中、亜硝酸塩は、0.1〜30重量%、好ましくは10〜30重量%含まれる。このような亜硝酸塩の中でも、亜硝酸カルシウムは、前記非イオン活性剤との相溶性が最も優れている。また亜硝酸カルシウムは、アルカリ骨材反応を生じる恐れがある亜硝酸ナトリウムや高価な亜硝酸リチウムよりも、安定であるうえ安価であるため、特に好ましい。
【0026】
浸透性防錆剤は、コンクリートへ浸透した亜硝酸イオン濃度が約500ppm以上であると、有効に不動態を形成して十分な防錆力を発揮する。浸透性防錆剤中の亜硝酸塩の含有量が30重量%を超えると、浸透性防錆剤の粘度が大き過ぎてコンクリートに浸透できない。また、亜硝酸塩の含有量が0.1重量%に満たないと、十分量の亜硝酸イオンが鉄筋鋼材へ到達できない。
【0027】
浸透性防錆剤は、そのpHが高いと、鉄筋鋼材がより安定化するので錆びが進行し難くなり、一層優れた防錆性を発現する。pHは、前記亜硝酸塩の濃度の増減により調整されてもよく、アルカリ試薬の添加により調整されていてもよい。
【実施例】
【0028】
本発明を適用するコンクリート浸透性防錆剤を調製し浸透性測定試験を行なった例を実施例1〜6に示し、本発明を適用外のコンクリート浸透性防錆剤を調製し浸透性測定試験を行なった例を比較例1〜6に示す。
【0029】
(実施例1)
表1に示すように、非イオン活性剤である数平均分子量666のポリオキシエチレン2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール5重量部を、亜硝酸カルシウム10重量部と両性界面活性剤であるラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン2.5重量部と水82.5重量部との溶液に加えて攪拌し、コンクリート浸透性防錆剤を得た。そのpHは9.8であった。
【0030】
下記構成の角柱試験コンクリートを作製し、その上面に25℃に調製したコンクリート浸透性防錆剤を800mL/mの割合で塗布し、45日間放置した。試験コンクリートを割り、上面から所定の深さ毎に、浸透している亜硝酸イオンの濃度を、定量用亜硝酸検出試験紙で比色定量し、浸透性を測定した。また、45℃に調製したコンクリート浸透性防錆剤を調製し、同様にして浸透性を測定した。25℃および45℃のコンクリート浸透性防錆剤について、それぞれの深さ、即ち浸透距離毎の亜硝酸イオン濃度を表3に示す。
【0031】
試験コンクリートの構成
幅100mm、奥行100mm、高さ150mm
単位セメント量:280kg/m、W/C=60%、スランプ:10cm、空気量:5.0%、粗骨材:max20mm、圧縮強度:26N/mm(材齢28日)
【0032】
(実施例2〜6、比較例1〜6)
表1または表2の組成比としたこと以外は、実施例1と同様にして、コンクリート浸透性防錆剤を得、それぞれの浸透性を測定した。その結果を表3および表4に示す。
【0033】
上記の比較例において、比較例1〜3は実施例のコンクリート浸透性防錆剤と組成の異なる別なコンクリート浸透性防錆剤であり、比較例4〜6は両性界面活性剤を含まないこと以外は実施例のコンクリート浸透性防錆剤と同様の組成のコンクリート浸透性防錆剤である。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
表3および表4から明らかな通り、実施例のコンクリート浸透性防錆剤は、800ppmの亜硝酸塩が深さ9〜10cmまで浸透していたのに対し、比較例1〜3のコンクリート浸透性防錆剤は、800ppmの亜硝酸塩が深さ5〜7cmまでしか浸透していなかった。
【0039】
さらに、実施例のコンクリート浸透性防錆剤は、45℃に加熱して使用しても25℃で使用した場合と同様の浸透性を示したのに対し、比較例4〜6のコンクリート浸透性防錆剤は、45℃に加熱して使用すると25℃で使用した場合の半分程度しか浸透しなかった。このことから、両性界面活性剤を配合したコンクリート浸透性防錆剤は、高温環境下でも優れた浸透性を維持できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のコンクリート浸透性防錆剤は、老朽化したり劣化したりした鉄筋コンクリート建造物を、保全したり補修したりするために用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドからなる非イオン活性剤と、両性界面活性剤と、亜硝酸塩とが含まれた水溶液であることを特徴とするコンクリート浸透性防錆剤。
【請求項2】
前記非イオン活性剤が0.01〜10重量%、前記両性界面活性剤が0.01〜10重量%、前記亜硝酸塩が0.1〜30重量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤。
【請求項3】
前記両性界面活性剤が、ベタイン化合物、エーテルアミンオキシド化合物及び/又はイミダゾリン基含有化合物であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤。
【請求項4】
前記アルキニルオキシ基含有ポリアルキレンオキサイドが、アルキニルアルコールにエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加させたものであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤。
【請求項5】
前記亜硝酸塩が、亜硝酸リチウム、亜硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤。
【請求項6】
pHが最低でも9であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート浸透性防錆剤。

【公開番号】特開2008−101265(P2008−101265A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286689(P2006−286689)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000162076)共栄社化学株式会社 (67)
【出願人】(591041196)旭化成ジオテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】