説明

消化槽運転状況の管理方法

【課題】消化槽の運転管理指標である揮発性有機酸(以下、揮発性有機酸と記す)濃度を簡便かつ迅速に定量して、消化槽の運転状況をリアルタイムに把握することができる消化槽運転状況の管理方法を提供する。
【解決手段】嫌気性消化槽から採取した消化液のアルカリ度を測定し、この測定値から揮発性有機酸濃度を定量して嫌気性消化プロセスにおける消化槽の運転条件を制御するようにした。
揮発性有機酸濃度は、アルカリ度と揮発性有機酸濃度の関係を示す一次回帰式により定量することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化槽の運転管理指標である揮発性有機酸濃度(VFA濃度ともいう)を簡便かつ迅速に定量して、消化槽の運転状況をリアルタイムに把握することができる消化槽運転状況の管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、下水汚泥や生ゴミ等の廃棄物の処理方法として嫌気性消化プロセスが知られている。この嫌気性消化プロセスは、例えば特許文献1に示されるように、嫌気性消化槽に流入した廃棄物を嫌気性の微生物で消化分解し、上部からバイオガスを回収するとともに、下部からは消化汚泥を回収して資源の有効利用を図るものである。また、このような嫌気性消化槽の運転状況を管理する場合、揮発性有機酸濃度を指標として、例えば廃棄物の流入量や槽温度等を制御するのが普通であった。
【0003】
しかしながら、揮発性有機酸濃度を測定するには、嫌気性消化槽から採取した消化液を分析試料として分析室に持ち込み、煩雑な手順の分析操作を行なう必要があった。
図4は、このような従来の揮発性有機酸濃度の測定手順の一例を示すフロー図であるが、消化液を分析室に運搬後、遠心分離して上澄液を約2時間水蒸気蒸留し、次いで、留出液を水酸化ナトリウム溶液で滴定することにより揮発性有機酸濃度を測定する方法であり、約8時間程度を要した。従って、結果が出るのは最短でも試料採取日の翌日になることが通常であり、嫌気性消化プロセスにおける消化槽の運転状況を正確かつタイムリーに把握して管理することは難しいという問題点があった。また、分析に要する費用も高いという問題点もあった。
【特許文献1】特開2002−263462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決して、嫌気性消化槽の運転管理指標である揮発性有機酸濃度を簡便かつ迅速に定量して、消化槽の運転状況をリアルタイムに把握し、これに基づいて消化槽の運転条件を的確に制御することができる消化槽運転状況の管理方法を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の消化槽運転状況の管理方法は、嫌気性消化槽から採取した消化液のアルカリ度を測定し、この測定値から揮発性有機酸濃度を定量して嫌気性消化プロセスにおける消化槽の運転条件を制御することを特徴とするものである。
【0006】
なお、前記揮発性有機酸濃度は、アルカリ度と揮発性有機酸濃度の関係を示す一次回帰式により定量することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、従来の運転管理指標である揮発性有機酸濃度を直接に測定するのに代えて、測定が簡便かつ容易なアルカリ度を測定し、このアルカリ度の測定値より揮発性有機酸濃度を定量するようにしたので、揮発性有機酸濃度を短時間で正確に測定することができ、嫌気性消化槽の運転状況をリアルタイムに把握して適正な管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施の形態を示す。
図3は、本発明による揮発性有機酸濃度の測定手順を示すフロー図であり、嫌気性消化槽から消化液を分析試料として採取した後、所定の倍率に希釈して消化液のアルカリ度を測定する。ここで、アルカリ度とは試料中のアルカリ成分をpH4.8まで中和するのに要する塩酸の量をいう。
このアルカリ度の測定は、例えばメチルオレンジ等の適当な試薬を用いて、強酸標準液による中和滴定を行なう一般的な化学分析手法であり、ものの数分で行なうことができるとともに、特別な器具や試薬等のある分析室へ持ち込まなくても消化槽の近傍(オンサイト)で簡単に行なうことができるものである。
【0009】
次いで、このアルカリ度の測定値から揮発性有機酸濃度を定量して嫌気性消化プロセスにおける消化槽の運転状況を即座に把握する。
前記揮発性有機酸濃度は、アルカリ度と揮発性有機酸濃度の関係を示す一次回帰式により定量することができる。より具体的には、前記の揮発性有機酸濃度は、下記[式1]の一次回帰式により定量する。
Y=0.169X−43.6 ・・・[式1]
(式1で、Y:揮発性有機酸濃度(mg/l)、X:アルカリ度(mg/l)である。)
【0010】
これは、本発明者が研究した結果、図1に示されるように、嫌気性消化槽から採取した消化液の希釈液(2倍、4倍、8倍希釈)を試料として用い検討した結果、アルカリ度と揮発性有機酸濃度(図中では、VFA濃度と記す)の間には非常に高い相関関係(R=0.999)が認められ、[式1]の一次回帰式を用いれば、判定が簡便なアルカリ度を求めるだけで、分析が複雑な揮発性有機酸濃度を迅速かつ正確に定量できることを見出したことによる。
【0011】
また、連続運転中の嫌気性消化槽から採取した消化液を用いて、それぞれ定量した揮発性有機酸濃度の実測値と、アルカリ度から算出した揮発性有機酸濃度の推測値の関係を調べた結果は、図2に示すとおりであり、両者間には有意な相関があることも確認された。
なお図2において、揮発性有機酸濃度の実測値と推測値の相関係数がR=0.579と若干低いのは、消化液に含まれる妨害因子の影響によるものであり、揮発性有機酸濃度の実測値と推測値間に相関があることには間違いない。
【0012】
本発明と従来例による揮発性有機酸濃度の測定を比較して評価すると、下記の[表1]に示すとおりであり、本発明によれば揮発性有機酸濃度を簡便かつ迅速に定量することができることが判る。また、揮発性有機酸濃度の分析に要する費用も、本発明は従来法に比べて単価が1/3以下であり、ランニングコストを低減することもできる。
【0013】
【表1】

【0014】
以上の説明からも明らかなように、本発明は従来のように運転管理指標である揮発性有機酸濃度を実際に測定するのに代えて、測定が簡便かつ容易なアルカリ度を測定することにより揮発性有機酸濃度を定量するようにしたので、嫌気性消化槽の運転管理指標である揮発性有機酸濃度を簡便かつ迅速に定量して、消化槽の運転状況をリアルタイムに把握することができることとなり、消化槽の運転条件を的確に制御できることとなる。
よって、本発明は従来の問題点を解決した新規な消化槽運転状況の管理方法として、産業の発展に寄与するところ極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】アルカリ度と揮発性有機酸濃度の関係を示すグラフである。
【図2】揮発性有機酸濃度の推測値と揮発性有機酸濃度の実測値の関係を示すグラフである。
【図3】本発明による揮発性有機酸濃度の測定手順を示すフロー図である。
【図4】従来例による揮発性有機酸濃度の測定手順を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性消化槽から採取した消化液のアルカリ度を測定し、この測定値から揮発性有機酸濃度を定量して嫌気性消化プロセスにおける消化槽の運転条件を制御することを特徴とする消化槽運転状況の管理方法。
【請求項2】
揮発性有機酸濃度を、アルカリ度と揮発性有機酸濃度の関係を示す一次回帰式により定量することを特徴とする請求項1に記載の消化槽運転状況の管理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−222802(P2007−222802A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47958(P2006−47958)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】