説明

消化管用デバイス

【課題】操作性を向上させるとともに生体への負担を低減可能な消化管用デバイスを提供する。
【解決手段】貫通孔111を備える筒部110と、前記筒部110の貫通方向の基端側に設けられて外部から供給される流動体が流入することで外径が広がるように拡張可能な第1拡張部130と、前記筒部110の貫通方向の基端側に前記第1拡張部130よりも先端側に設けられて外径が広がるように拡張可能な第2拡張部140と、前記第1拡張部130よりも前記第2拡張部140を先に拡張させるように外部からの流動体の流れを調整する調整部162と、を有する消化管用デバイス100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管内に設置される消化管用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療方法として、胃の上部と小腸の下部を外科的に直結するバイパス術が有効であることが知られている。このようなバイパス術を行うと、摂取した栄養素が胃の上部から小腸の下部へ直接流れ込むため、小腸上部の十二指腸や空腸上部に栄養素が流れなくなり、栄養の吸収を減少させることができる。さらに、小腸上部に栄養素が流れなくなることで、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)やグルカゴン等が分泌され難くなり、かつ未消化の栄養素が小腸下部の空腸下部や回腸を通ることで、栄養素による刺激によって消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の分泌が増加する。GIPやグルカゴンは、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害され難くなる。また、GLP−1は、インスリンの分泌を促す因子であると考えられている。このように、バイパス術は、摂取した栄養素の吸収を制限するのみならず、消化管ホルモンの作用によってインスリンの分泌を促して血糖値を減少させ、糖尿病や肥満の治療に効果を発揮すると考えられている。
【0003】
しかしながら、バイパス術は侵襲性が高いため、近年、小腸上部に栄養素が流れるスリーブを設置する低侵襲な方法が注目されている。例えば特許文献1には、胃の幽門輪を挟むように配置させる2つのバルーンと、このバルーンから小腸へ向かって伸びる筒状のスリーブとを備えたデバイスが記載されている。このデバイスは、経口的に設置可能であるために低侵襲であり、幽門輪に到達した栄養素を、スリーブの内部を通過させることで小腸の上部に触れさせずに小腸の下部へ到達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7803195号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなデバイスを消化管内に設置する際には、通常、X線により観察しつつ設置する必要があり、操作が煩雑であるとともに、生体への負担が大きい。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、操作性を向上させるとともに生体への負担を低減可能な消化管用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための消化管用デバイスは、貫通孔を備える筒部と、前記筒部の貫通方向の基端側に設けられて外部から供給される流動体が流入することで外径が広がるように拡張可能な第1拡張部と、前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられて外径が広がるように拡張可能な第2拡張部と、前記第1拡張部よりも前記第2拡張部を先に拡張させるように外部からの流動体の流れを調整する調整部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した消化管用デバイスは、第1拡張部よりも第2拡張部を先に拡張させるように外部からの流動体の流れを調整する調整部を有するため、消化管内に設置する際に、第1拡張部よりも遠位側(肛門側)に位置する第2拡張部を先に拡張させることができる。したがって、遠位側の第2拡張部を拡張させた後に、消化管用デバイスを後退させて第2拡張部を消化管内の内径が小さい部位に接触させるだけで位置決めでき、さらに第1拡張部を拡張させることで、消化管用デバイスを消化管内に容易に留置できる。しかも、第2拡張部が消化管内の内径が小さい部位に接触した際に、操作者は手の感覚によって検知でき、X線による観察が不要となり、操作性が向上するとともに生体への負担を軽減できる。
【0009】
また、前記第2拡張部が、外部から供給される流動体が流入することで外径が広がるように拡張可能であれば、外部からの流動体の流れを第2拡張部から第1拡張部へ調整することで、第1拡張部よりも第2拡張部を先に拡張させることができる。
【0010】
また、前記調整部が、前記流動体の圧力の変化によって前記第1拡張部への流路を閉鎖した状態から開いた状態に切り換える流路切り換え部を有するようにすれば、流動体の圧力を変化させるだけで、流路の切り換えが可能となり、構成を単純化できるとともに操作性が向上する。
【0011】
また、前記調整部が、前記第1拡張部への流路に設けられ、所定の解放圧力以上となるまで流動体の流入を妨げる第1弁部と、前記第1弁部および第2拡張部に連通し、第2弁部へ向かう流動体の流路を閉塞可能な流路閉塞用器具を配置可能な流路部と、を有するようにすれば、第1弁部の開放圧力未満の圧力の流動体を供給して第2拡張部を拡張させた後、第1弁部の開放圧力以上の圧力の流動体を供給して第1弁部を介して第1拡張部を拡張させることができる。
【0012】
また、前記調整部が、前記第2拡張部への流路に設けられ、流動体を供給する供給管を挿入および引き抜き可能な第2弁部と、前記第1拡張部および第2弁部に連通し、前記第2弁部から引き抜かれた供給管を配置可能な流路部と、を有するようにすれば、第2弁部に挿入した供給管により第2拡張部を拡張させた後、第2弁部から供給管を引き抜いて流路部に配置することで、第1拡張部を拡張させることができる。
【0013】
また、前記調整部が、前記第1拡張部への流路に設けられ、所定の解放圧力以上となるまで流動体の流入を妨げる第1弁部と、前記第1弁部および第2拡張部に連通する流路部と、を有するようにすれば、流路部に第1弁部の開放圧力未満の圧力の流動体を供給することで第2拡張部を拡張させた後、第1弁部の開放圧力以上の圧力となる流動体により、第1拡張部を拡張させることができる。
【0014】
また、前記筒部が、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結されるようにすれば、第1拡張部側から、若しくは第1拡張部と第2拡張部の間から筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させることができる。
【0015】
また、前記筒部が、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有するようにすれば、第1拡張部側から第1筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させて第1拡張部と第2拡張部の間に食物が引っかかることを抑制しつつ、第1拡張部と消化管の隙間から漏れ出る一部の食物を、第1拡張部と第2拡張部の間から第2筒部の貫通孔に流入させて、消化管への食物の接触を極力減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る消化管用デバイスを示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】流動体の供給圧力を上昇させる前の調整部の動作を説明するための断面図である。
【図4】流動体の供給圧力を上昇させた後の調整部の動作を説明するための断面図である。
【図5】第1実施形態に係る消化管用デバイスを消化管内に設置するための消化管用デバイス設置用システムを示す概略図である。
【図6】第1実施形態に係る消化管用デバイスに把持部材および供給管を連結した際を示す断面図である。
【図7】消化管の一部を示す概略断面図である。
【図8】消化管の内部に内視鏡を挿入した際を示す概略断面図である。
【図9】消化管の内部に内視鏡を介して消化管用デバイスを挿入した際を示す概略断面図である。
【図10】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの第2拡張部を拡張させた際を示す概略断面図である。
【図11】消化管の内部で第2拡張部を拡張させた消化管用デバイスを後退させた際を示す概略断面図である。
【図12】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの第1拡張部を拡張させた際を示す概略断面図である。
【図13】消化管の内部に設置された消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図14】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部を拡張させる際を示す断面図である。
【図15】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部を拡張させる際を示す断面図である。
【図16】第3実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図17】第3実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部を拡張させる際を示す断面図である。
【図18】第4実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部を拡張させる際を示す断面図である。
【図19】消化管用デバイスの変形例を示す断面図である。
【図20】消化管用デバイスの他の変形例を示す平面図である。
【図21】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す平面図である。
【図22】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図23】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図24】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る消化管用デバイス100は、経口的または経鼻的に消化管内に挿入されて消化管の一部を覆うように留置されて、摂食された食物を、消化管の覆われた部位に接触させないように流通させるデバイスである。本消化管用デバイス100は、図1,2に示すように、筒状に形成されて貫通孔111を備える柔軟な筒部110と、筒部110の貫通方向の一端側(基端側)に設けられる留置部120とを備えている。以下、消化管用デバイス100において、筒部110が設けられる側を先端側、留置部120が設けられる側を基端側と称する。また、消化管内において、肛門側を遠位側、口腔側を近位側と称する。
【0019】
筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能な膜状の部材により形成されている。筒部110は、設置される小腸上部の内径よりも若干小さな外径を有している。筒部110の外径は、筒部110の貫通孔111の貫通方向に略一定であるが、必ずしも一定でなくてもよい。
【0020】
筒部110の厚さは、好ましくは0.002mm〜0.02mmであり、筒部110の外径は、好ましくは10mm〜60mmであり、筒部110の貫通方向の長さは、好ましくは600mm〜1300mmであるが、筒部110の寸法は必ずしもこれらに限定されない。
【0021】
筒部110は、本実施形態ではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)により形成されるが、柔軟に変形可能に形成可能であれば材料は限定されず、例えばポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリウレタン等を用いてもよい。なお、筒部110に適用される材料に応じて、上述した筒部110の寸法は、適宜変更され得る。
【0022】
留置部120は、筒部110の貫通方向に沿って並ぶ第1拡張部130および第2拡張部140と、第1拡張部130および第2拡張部140を連結する連結部150と、第1拡張部130および第2拡張部140の内部に流動体を流入させる流入部160とを備えている。流動体は、例えば生理的食塩水であるが、他の液体、空気等の気体、液体中や気体中に固体が分散したもの、または粒子の集合体等であってもよい。また、流動体を、液体および気体の混合体とすることで、非圧縮性の液体によって強い保持力を維持しつつ、圧縮性の気体によって消化管からの強い圧縮力を吸収する構成としてもよい。
【0023】
連結部150は、筒部110と同一素材によって筒部110と一体的に筒状に形成されている。連結部150の径は、本実施形態では筒部110の径と同一となっているが、筒部110の径と異なってもよい。なお、連結部150は、筒部110とは異なる他の部材によって形成されてもよく、例えば、第1拡張部130および第2拡張部140と同一素材によって一体的に形成されてもよい。また、連結部150は、筒状でなくてもよく、例えば周方向の一部のみに設けられたり、または周方向に複数に分割して設けられてもよい。
【0024】
第1拡張部130は、連結部150の基端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第1孔部131が筒部110の貫通孔111と連通している。第1拡張部130の内部には、外部から供給される流動体が第1流入孔133を介して流入可能な第1流入空間部132が形成されている。第1孔部131は、食物が流入する空間を形成し、後述する第2拡張部140の第2孔部141および筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0025】
第2拡張部140は、連結部150の先端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第2孔部141が筒部110の貫通孔111と連通している。第2拡張部140の内部には、外部から供給される流動体が第2流入孔143を介して流入可能な第2流入空間部142が形成されている。第2孔部141は、第1拡張部130の第1孔部131から食物が流入する空間を形成し、筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0026】
第1拡張部130および第2拡張部140は、弾性的に変形可能なシリコーン樹脂により形成される。なお、第1拡張部130および第2拡張部140は、例えば天然ゴム、フルオロ・シリコーン重合体等の弾性的に変形可能な他の弾性材料により形成されてもよい。また、折り畳まれて収縮した状態から、流動体を流入させることで折り畳みを開いて拡張する構成とすることも可能であり、この場合には、第1拡張部130および第2拡張部140は、必ずしも弾性材料でなくてもよい。
【0027】
第1拡張部130は、拡張することで外径が好ましくは5mm〜60mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmであり、第2拡張部140は、拡張することで外径が好ましくは10mm〜50mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmであり、第1拡張部130と第2拡張部140との間の間隔は、好ましくは10mm〜60mmであるが、第1拡張部130および第2拡張部140の寸法は必ずしもこれに限定されない。
【0028】
流入部160は、外部からの流動体の流入を許容するとともに、一旦流入した流動体の逆流を防止する逆流防止部161と、第1拡張部130よりも第2拡張部140を先に拡張させるように外部からの流体の流れを調整する調整部162とを備えている。
【0029】
逆流防止部161は、外部からの流動体の流入を許容するとともに、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、外部から流入した流動体の逆流を防止できるのであれば、構造は限定されない。
【0030】
調整部162は、第1拡張部130の基端側から第2拡張部140まで延在する流路管163(流路部)と、第1拡張部130および第2拡張部140への流路を切り換える流路切り換え部170とを備えている。
【0031】
流路管163は、第1拡張部130および第2拡張部140の孔部近傍(内周側)に位置し、外部から供給される流動体を第1拡張部130および第2拡張部140へ導く管体である。流路管163は、シリコーン樹脂、フルオロ・シリコーン重合体等により形成されるが、材料は特に限定されない。
【0032】
流路切り換え部170は、流路管163の途中に設けられており、第1拡張部130の第1流入孔133へ流動体を導く第1流路171と、第2拡張部140の第2流入孔143へ流動体を導く第2流路172と、流動体の圧力に応じて移動する切換部材173と、切換部材173を付勢する弾性部材174とを備えている。切換部材173は、流動体の供給が停止した状態では、流路部160と第1流路171および第2流路172の間の流路を塞ぐ位置に付勢されており、流動体の圧力が低い状態では、図3に示すように、弾性部材174によって第1流路171を塞ぐとともに第2流路172を開く位置に付勢されており、流動体の圧力が上昇することで、図4に示すように、流動体に押されて第2流路172を塞ぐとともに第1流路171を開く位置に移動する構成となっている。すなわち、流動体の圧力が低い場合には第2拡張部140が拡張し、圧力が上昇することで、第1拡張部130が拡張する構成となっている。また、流動体の圧力の調整によって、第1流路171および第2流路172の両方が開くことも可能な構成でもよい。また、流動体の供給が停止した状態では、切換部材173は、第1流路171を塞ぐ位置、もしくは第2流路172を塞ぐ位置、もしくは第1流路171および第2流路172の間の流路を塞ぐ位置に付勢されてもよい。
【0033】
次に、第1実施形態に係る消化管用デバイス100を、消化管内に設置する方法を説明する。
【0034】
消化管用デバイス100を設置する際には、図5,6に示すように、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40を使用する。すなわち、消化管用デバイス100、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40は、消化管用デバイスを消化管内に設置するための消化管用デバイス設置システムを構成する。
【0035】
内視鏡10は、撮像を行うためのCCDセンサ等からなる撮像素子11と、消化管用デバイス100を生体内に挿入するためのチャネル12とを備えている。なお、内視鏡10は、一般的なものを使用でき、撮像が可能であって消化管用デバイス100の挿入が可能であれば、構成は特に限定されない。
【0036】
表示装置20は、内視鏡10により取得される映像を表示するモニターを備えている。
【0037】
流動体供給装置30は、流動体である生理的食塩水を任意の圧力で供給可能な加圧装置31と、一端が加圧装置31に連結されて流動体が流通し、他端が消化管用デバイス100の流入部160に対して液密に連結可能な供給管32とを備えている。
【0038】
把持装置40は、消化管用デバイス100を把持して所定の位置まで移動させた後、把持を解除して消化管用デバイス100を所定の位置に位置決めする装置である。把持装置40の手元側には、レバー41を備える操作部42が設けられ、レバー41を操作することで、把持装置40の先端に設けられる把持部材43により消化管用デバイス100を把持し、または把持を解除することができる(図6の一点鎖線を参照)。なお、把持装置40の構造は、特に限定されず、例えばバルーンを用いることもできる。
【0039】
消化管用デバイス100を設置する部位は、消化管内の幽門輪M2の近傍である。幽門輪M2は、図7に示すように、胃M1と十二指腸M3との間に位置し、内径が胃M1および十二指腸M3よりも小さくなっている。十二指腸M3は、幽門輪M2を介して胃M1と隣接する十二指腸球部M4を有し、十二指腸球部M4の遠位側に、十二指腸球部M4よりも内径が小さい十二指腸下行部M5を有する。胃M1は、空のときには細くなるように収縮しており、食物が摂取されると、径を広げるように拡張する。そして、胃M1の収縮の波により食物を撹拌するとともに胃液により食物を消化して糜粥状の分解産物としつつ遠位側へ搬送する。幽門前庭部M6は、アルカリ性の粘液を分泌し、酸性の糜粥状の分解産物を中和し、分解産物がアルカリ性となると、幽門輪M2の括約筋が緩んで幽門輪M2を開き、腸の腸動が生じる。そして、胃M1の下部の幽門前庭部M6の収縮によって、分解産物が幽門輪M2を通って十二指腸M3へ送り込まれる。十二指腸M3は、蠕動運動、分節運動および振り子運動を含む腸動により、分解産物を撹拌しつつ遠位側へ搬送する。
【0040】
消化管用デバイス100を設置する際には、まず、内視鏡10を口または鼻から挿入し、図8に示すように、画像を確認しながら内視鏡10の先端が幽門M2を通過するまで前進させる。幽門輪M2を通過した内視鏡10の先端は、十二指腸M3内に位置する。なお、消化管用デバイス100を胃M1側から幽門輪M2を通して十二指腸M3側へ挿入できるのであれば、内視鏡10の先端は、必ずしも幽門輪M2を通過させなくてもよい。
【0041】
次に、消化管用デバイス100の筒部110を折り畳み、さらに第1拡張部130および第2拡張部140を収縮させ、加圧装置31に繋がる供給管32に流入部160を連結する(図5参照)。そして、把持装置40により消化管用デバイス100を把持して消化管用デバイス100を内視鏡10のチャネル12に挿入し、把持装置40を押し込むように操作して消化管用デバイス100を先端側へ移動させる。なお、内視鏡10を口または鼻から挿入する前に、把持装置40および供給管32に連結された消化管用デバイス100を予めチャネル12内に挿入しておいてもよい。
【0042】
そして、内視鏡10により得られる映像を確認しつつ、図9に示すように、消化管用デバイス100を内視鏡10の先端から十二指腸M3内に突出させる。消化管用デバイス100が、幽門輪M2に隣接する十二指腸球部M4または十二指腸球部M4よりも遠位側に到達すると、十二指腸M3の蠕動運動によって、折り畳まれていた筒部110が遠位側へ伸長する。なお、蠕動による筒部110の伸長を促すために、筒部110の先端側に補助部材を仮止めしておいてもよい。補助部材は、例えば球状の部材であり、蠕動運動によって遠位側へ向かう力を受けて筒部110を伸長させ、筒部110が完全に伸長した後に、蠕動運動から受ける力によって筒部110から離脱し、最終的に排泄される。仮止めする際には、接着剤を用いたり、または所定の力で外れるように係合させてもよい。
【0043】
次に、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス100に供給する。このとき、流動体の圧力を、流路切り換え部170の切換部材173が第1流路171を塞ぐとともに第2流路172を開いた状態を維持する程度の低い圧力に調整する(図3参照)。したがって、供給管32を介して消化管用デバイス100に到達した流動体は、まず逆流防止部161を通って流路管163に入り、流路切り換え部170の第2流路172を通って第2拡張部140の第2流入空間部142に流入する。そして、図10に示すように、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第2拡張部140を拡張させ、第2拡張部140が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を一旦停止させる。
【0044】
次に、図11に示すように、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第2拡張部140が幽門M2に接するまで内視鏡10とともに把持装置40を近位側へ後退させて、消化管用デバイス100を後退させる。第2拡張部140が幽門輪M2に接すると、消化管用デバイス100はこれ以上後退しなくなるため、操作者は手の感覚および画像によって、第2拡張部140が幽門輪M2に接したことを確実に検知でき、正確な位置決めが可能である。これにより、第2拡張部140が、十二指腸球部M4に嵌った状態となり、拡張していない第1拡張部130は、幽門輪M2を通って十二指腸M3側から胃M1側へ移動することになる。これにより、第1拡張部130および第2拡張部140が、幽門輪M2を挟むように正確に位置決めされる。
【0045】
この後、加圧装置31を操作して流動体を再び消化管用デバイス100に供給する。このとき、第1拡張部130および第2拡張部140を位置決めする前と同様に、流動体の圧力が、流路切り換え部170の切換部材173が第1流路171を塞ぐとともに第2流路172を開いた状態を維持する程度の低い圧力に調整する(図3参照)。したがって、流動体は、流路切り換え部170の第2流路172を通って第2拡張部140の第2流入空間部142に流入する。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第2拡張部140をさらに拡張させ、第2拡張部140を十二指腸球部M4に留置するために適切な大きさまで拡張させた後に、加圧装置31により流動体の圧力を上昇させる。このときの流動体の圧力は、流路切り換え部170の切換部材173が移動して第2流路172が塞がれるとともに第1流路171が開かれるように、切換部材173が移動する所定の圧力以上に調整する(図4参照)。これにより、流動体は、遠位側の第2拡張部140へは流入せずに、流路切り換え部170の第1流路171を通って近位側の第1拡張部130の第1流入空間部132に流入する。そして、図12に示すように、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第1拡張部130を拡張させ、第1拡張部130が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさ以上の望ましい大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止させる。これにより、幽門輪M2の内径よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門M2よりも近位側に位置し、第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、しかも第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門M2を挟み込んだ構成となる。したがって、消化管用デバイス100は、消化管に強固に留置される。なお、ここでは、第2拡張部140をある程度拡張させ、消化管用デバイス100を後退させて第2拡張部140を幽門輪M2に接触させた後に、再び第2拡張部140を拡張させているが、消化管用デバイス100を後退させる前の第2拡張部140の拡張が十分であれば、第2拡張部140をさらに拡張させることなしに、第1拡張部130の拡張を開始してもよい。
【0046】
この後、供給管32を牽引して供給管32を消化管用デバイス100の流入部160から離脱させる。なお、供給管32を外しても、消化管用デバイス100には逆流防止部161が設けられているため、消化管用デバイス100の内部の流動体は漏出せず、第1拡張部130および第2拡張部140が拡張した状態が維持される。この後、把持装置40の操作部42を操作して、消化管用デバイス100の把持を解除する(図6の一点鎖線を参照)。そして、図13に示すように、内視鏡10、把持装置40および供給管32を消化管内から引き抜き、手技が完了する。
【0047】
次に、本実施形態に係る消化管用デバイス100の作用を説明する。
【0048】
消化管に消化管用デバイス100を設置された患者が摂食すると、食物が胃M1で胃内消化された後、糜粥状の分解産物が幽門輪M2の近傍から筒部110の貫通孔111に流入する。このとき、幽門輪M2の内側に位置する連結部150は、柔軟に変形可能であり、幽門輪M2の開閉を阻害しない。また、筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能となっているため、筒部110の内部に流入した分解産物は、十二指腸M3の腸動によって撹拌されつつ遠位側へ押し出されることになる。そして、筒部110に覆われている小腸上部の十二指腸M3および空腸上部には、栄養素が直接接触せず、栄養の吸収は、食物が筒部110を通過した後に行われることになる。そして、小腸上部に食物が接触しなくなると、栄養の吸収が減少されるとともに、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるGIPやグルカゴン等が分泌され難くなる。GIPやグルカゴン等は、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害されず、インスリンによって血糖値を減少させることができる。そして、未消化の食物が小腸下部の空腸下部や回腸に到達すると、栄養素による刺激によって、インスリンの分泌を促す因子と考えられている消化管ホルモンであるGLP−1の分泌が増加し、インスリンの分泌がさらに促されて血糖値を減少させることができる。このように、消化管用デバイス100を消化管内に設置することで、栄養素の吸収を低減させるとともに血糖値を減少させ、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療に高い効果を発揮する。
【0049】
そして、本発明は、第1拡張部および第2拡張部が一端に備えられた筒部を有する消化管用デバイスを、第1拡張部および第2拡張部を収縮させた状態で経口的または経鼻的に消化管内へ挿入し;第1拡張部よりも遠位側の第2拡張部を消化管内の特定の部位(本実施形態では幽門)よりも遠位側に位置させ;第2拡張部を拡張させ;消化管用デバイスを近位側に後退させて第2拡張部を前記特定の部位に接触させ;第1拡張部を前記特定の部位よりも近位側で拡張させて;消化管用デバイスを消化管内に留置する方法をも提供する。
【0050】
なお、本方法は、糖尿病や肥満に対する利用において、これら患者の病気または症状を治療、治癒、軽減、緩和、変化、改善、改良、回復、向上または作用させることを含む。
【0051】
そして、前述の特定の部位は、内径がその近位側および遠位側よりも小さくなっている部位であることが好ましく、本実施形態では幽門輪M2であるが、胃M1の上部の噴門M7(図7参照)であってもよく、または消化管内の他の部位に設置することも可能である。
【0052】
以上のように、本実施形態に係る消化管用デバイス100は、外部から供給される流動体が流入することで拡張可能な第1拡張部130および第2拡張部140と、第1拡張部130よりも前記第2拡張部140を先に拡張させるように外部からの流動体の流れを調整する流路切り換え部170とを備えているため、消化管用デバイス100を消化管内に設置する際に、近位側の第1拡張部130を拡張させずに遠位側の第2拡張部140のみを拡張させることができる。したがって、実際の設置場所よりも遠位側で第2拡張部140のみを拡張させた後、消化管用デバイス100を後退させることで、第2拡張部140を幽門輪M2等の内径の小さい設置位置に位置決めすることができる。したがって、消化管用デバイス100を用いることで、操作者は手の感覚および内視鏡10の画像によって、第1拡張部130が幽門M2に接したことを確実に検知でき、容易かつ正確な位置決めが可能となる。このため、消化管用デバイス100の留置においてX線による観察が不要となり、操作性が向上するとともに患者への負担を低減できる。
【0053】
また、第1拡張部130および第2拡張部140が、流動体の流入によって拡張する構造であるため、生体の形状に適合するように拡張させることが可能であり、生体の個体差を吸収できるとともに、より確実な留置が可能となる。したがって、胃M1や十二指腸M3等が蠕動運動を行っても、生体から受ける力を受け流すことで消化管用デバイス100が外れ難く、かつずれ難くなる。また、拡張させる構成として、金属製のワイヤー等のアンカー部材(位置を固定する部材)を使用する必要がなく、第1拡張部130および第2拡張部140が柔軟に変形できるため、拡張圧が局所に集中せずに分散させることができ、かつ生体が異物と認識し難くなる。このため、生体組織の炎症を生じ難くし、生体への負担を低減できる。
【0054】
また、第1拡張部130、第2拡張部140および筒部110が力を分散させつつ柔軟に変形できるため、消化管の動きを制限せず、消化管の動きに追従して変形して、分解産物を搬送できる。したがって、未消化の分解産物が消化管用デバイス100よりも遠位側へ急速に到達することを抑制でき、腹痛や吐き気を抑制できる。
【0055】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張しているため、消化管用デバイス100を消化管から外す際には、内視鏡10により観察しつつ内視鏡10のチャネル12を介して挿入する器具により第1拡張部130および第2拡張部140を破るだけで消化管に対する固定を解除でき、容易に取り外すことができる。
【0056】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張するため、消化管の内径に応じて拡張させることができ、しかも筒部110は望ましい長さに容易に切断できるため、1つの寸法規格で様々な形状に対応できる。
【0057】
また、調整部162は、流動体の圧力の変化によって第1拡張部130への第1流路171を閉鎖した状態から開いた状態に切り換える流路切り換え部170を有するため、消化管用デバイス100への供給管32を1つ備えるだけで、流動体の圧力を変化させることで流路の切り換えが可能となり、構成を単純化して生体への影響を低減でき、かつ操作性を向上できる。
【0058】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る消化管用デバイス200は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、調整部270の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0059】
第2実施形態に係る消化管用デバイス200の調整部270は、図14に示すように、流路管271と、流路管271から第1拡張部130の第1流入孔133への導入部に設けられる第1弁部272(流路切り換え部)と、流路管271から第2拡張部140への導入部に設けられる第2弁部273とを備えている。そして、第1弁部272および第2弁部273は、圧力が所定の圧力(開放圧力)未満では流動体の流通を妨げ、開放圧力以上となることで流動体の流通を許容する弁部であり、第2弁部273の解放圧力が、第1弁部272の解放圧力よりも低く設定されている。第1弁部272および第2弁部273は、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、開放圧力を異ならせることが可能であれば、構造は限定されない。
【0060】
そして、流路管271の内部には、供給管32および逆流防止部161を介して、膨張および収縮が可能な流路閉鎖用バルーン281を先端に有する流路閉塞用器具280を挿入可能である。流路閉塞用器具280は、他端側から流体を流入させることで先端側のバルーンを拡張させることが可能である。流路閉鎖用バルーン281が収縮した状態では、流路管271における流動体の流通は妨げられないが、流路閉鎖用バルーン281が拡張すると、流路管271の内部が塞がれて流動体の流通が妨げられる。流路閉塞用器具280は、供給管32に逆止弁を備える挿入口(不図示)を設けることで、供給管32内に挿入可能である。
【0061】
第2実施形態に係る消化管用デバイス200を使用する際には、まず、第1実施形態と同様に、内視鏡10を十二指腸M3まで挿入した後、把持装置40および供給管32に連結された消化管用デバイス200を、把持装置40を操作して内視鏡10のチャネル12から消化管内に突出させる。なお、消化管用デバイス200の内部には、供給管32および逆流防止部161を介して、収縮した状態の流路閉鎖用バルーン281が挿入されている。
【0062】
次に、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス200に供給する。流路閉鎖用バルーン281は収縮されており、第2弁部273の解放圧力が第1弁部272の解放圧力よりも低く設定されているため、流動体は開放圧力の低い第2弁部273を通って第2流入空間部142に流入し、遠位側の第2拡張部140が拡張する。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第2拡張部140を拡張させ、第2拡張部140が幽門M2を通り抜け不能な大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を一旦停止させる。
【0063】
次に、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第2拡張部140が幽門輪M2に接するまで内視鏡10とともに消化管用デバイス200を後退させる。第2拡張部140が幽門輪M2に接した後、必要であれば、第2拡張部140にさらに流動体を供給して望ましい大きさとなるまで拡張させる。
【0064】
次に、図15に示すように、流路閉鎖用バルーン281を第1弁部272と第2弁部273との間で拡張させる。これにより、第2拡張部140への流動体の流路が遮断される。この後、加圧装置31を操作して流動体を再び消化管用デバイス200に供給すると、流動体は、調整部270の第1弁部272を通って第1拡張部130の第1流入空間部132に流入することになる。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第1拡張部130を拡張させ、第1拡張部130が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさ以上の望ましい大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止させる。これにより、第1実施形態と同様に、幽門輪M2よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門輪M2よりも近位側に位置し、第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、さらに第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門M2を挟み込むように消化管用デバイス200を設置することができる。
【0065】
この後、供給管32を消化管用デバイス100から離脱させ、把持装置40による把持を解除し、内視鏡10、把持装置40および供給管32を消化管内から引き抜いて、手技が完了する。
【0066】
第2実施形態に係る消化管用デバイス200によれば、調整部270が、第1弁部272と、第1弁部272および第2拡張部140に連通して第2拡張部140への流動体の流路を閉塞可能な流路閉塞用器具280を配置可能な流路管271を備えているため、第1弁部272の開放圧力よりも低い圧力で第2弁部273を介して第2拡張部140を拡張させた後に、流路閉塞用器具280により流路を塞ぎ、第1拡張部130を拡張させることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、第1弁部272よりも第2弁部273の開放圧力を小さくすることで、第1拡張部130よりも第2拡張部140を先に拡張するようにしているが、第2弁部273を設けない構成としてもよい。
【0068】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る消化管用デバイス300は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、調整部370の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第3実施形態に係る消化管用デバイス300の調整部370は、図16に示すように、流路管373と、流路管373から第2拡張部140への導入部に設けられる第2弁部372(流路切り換え部)とを備えている。第2弁部372は、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、逆止効果を発揮するのであれば、構造は限定されない。そして、流路管373の第2弁部372の近傍には、後述する供給管50を第2流入空間部142へ挿入しやすいようにテーパ部374が形成される。
【0070】
そして、第1拡張部130の第2流入孔133は、逆流防止部161が設けられる入り口から直接的に連通している。
【0071】
そして、加圧装置31に連結される供給管50は、逆流防止部161および第2弁部372を介して第2拡張部140の第2流入空間部142に挿入および引き抜きが可能となっている。供給管50の先端部には、流動体を供給する開口部51が形成されている。
【0072】
第3実施形態に係る消化管用デバイス300を使用する際には、まず、第1実施形態と同様に、内視鏡10を十二指腸M3まで挿入した後、把持装置40および供給管50に連結された消化管用デバイス300を、把持装置40を操作して内視鏡10のチャネル12から消化管内に突出させる。なお、消化管用デバイス300には、逆流防止部161、流路管373および第2弁部372を介して、第2流入空間部142の内部に供給管50の先端部が挿入されている。
【0073】
次に、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス300に供給する。第2流入空間部142の内部に供給管50の先端部が挿入されているため、流動体は第2流入空間部142の内部に直接的に流入し、遠位側の第2拡張部140が拡張する。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第2拡張部140を拡張させ、第2拡張部140が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を一旦停止させる。
【0074】
次に、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第2拡張部140が幽門輪M2に接するまで内視鏡10とともに消化管用デバイス300を後退させる。第2拡張部140が幽門M2に接した後、必要であれば、第2拡張部140にさらに流動体を供給して望ましい大きさとなるまで拡張させる。
【0075】
次に、図17に示すように、供給管50を後退させ、開口部51を第2弁部372から引き抜いて流路管373内に位置させる。この後、加圧装置31を操作して流動体を再び消化管用デバイス300に供給すると、流動体は、第2弁部372が設けられているため第2拡張部140には流入せず、第1拡張部130の第1流入空間部132に流入することになる。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第1拡張部130を拡張させ、第1拡張部130が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさ以上の望ましい大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止させる。これにより、第1実施形態と同様に、幽門輪M2よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門輪M2よりも近位側に位置し、第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、さらに第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門輪M2を挟み込むように消化管用デバイス300を設置することができる。
【0076】
この後、供給管50を消化管用デバイス100から引き抜き、把持装置40による把持を解除し、内視鏡10、把持装置40および供給管50を消化管内から引き抜いて、手技が完了する。
【0077】
第3実施形態に係る消化管用デバイス300によれば、調整部370が、第2拡張部140への流路に設けられて供給管50を挿入および引き抜き可能な第2弁部372と、第1拡張部130および第2弁部372に連通し、第2弁部372から引き抜かれた供給管50を配置可能な流路管373とを備えるため、第2弁部372を介して供給管50を第2拡張部140に挿入して第2拡張部140を拡張させた後に、供給管50を第2弁部372から引き抜いて流路管373に配置して第1拡張部130を拡張させることができる。
【0078】
なお、第2弁部372は、第2拡張部140を拡張させている際に、必ずしも流動体の第1拡張部130への流入を完全に防止できるものである必要はなく、したがって、例えば、供給管50が差し込まれることで隙間が限定される第2流入孔143のみであっても、第2弁部として機能し得る。
【0079】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、調整部470の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0080】
第4実施形態に係る消化管用デバイス400の調整部470は、図18に示すように、流路管473と、流路管473から第1拡張部130への導入部に設けられる第1弁部471(流路切り換え部)とを備えている。第1弁部471は、圧力が所定の圧力(開放圧力)未満では流動体の流通を妨げ、開放圧力以上となると流動体の流入を許容するとともに、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、開放圧力を設定できるのであれば、構造は限定されない。また、第1弁部として、圧力が所定の値未満では流動体の流通を妨いでおり、所定の値以上となると剥離や破壊によって非可逆的に流路が開いて流通を許容する構造を適用することもできる。
【0081】
そして、第2拡張部140の第2流入孔143は、逆流防止部161が設けられる入り口から直接的に連通している。
【0082】
第4実施形態に係る消化管用デバイス400を使用する際には、まず、第1実施形態と同様に、内視鏡10を十二指腸M3まで挿入した後、把持装置40および供給管32に連結された消化管用デバイス400を、把持装置40を操作して内視鏡10のチャネル12から消化管内に突出させる。
【0083】
次に、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス400に供給する。このとき、第1拡張部130には第1弁部471が設けられているために流動体は流入せず、流動体は第2拡張部140の第2流入空間部142へ流入し、第2拡張部140が拡張する。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第2拡張部140を拡張させ、第2拡張部140が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を一旦停止させる。
【0084】
次に、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第2拡張部140が幽門輪M2に接するまで内視鏡10とともに消化管用デバイス400を後退させる。
【0085】
この後、加圧装置31を操作して流動体を再び消化管用デバイス400に供給すると、第2流入空間部142が流動体で満たされて流動体の圧力が上昇する。流動体の圧力が、第1弁部471の開放圧力以上となると、第1弁部471を介して第1流入空間部132内に流動体が流入することになる。そして、内視鏡10により得られる映像を確認しながら第1拡張部130を拡張させ、第1拡張部130が幽門輪M2を通り抜け不能な大きさ以上の望ましい大きさまで拡張した後に、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止させる。これにより、第1実施形態と同様に、幽門輪M2よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門M2よりも近位側に位置し、第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、さらに第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門輪M2を挟み込むように消化管用デバイス400を設置することができる。
【0086】
この後、供給管32を消化管用デバイス100から離脱させ、把持装置40による把持を解除し、内視鏡10、把持装置40および供給管32を消化管内から引き抜いて、手技が完了する。
【0087】
第4実施形態に係る消化管用デバイス400によれば、調整部470が、第1拡張部130への流路に設けられて所定の解放圧力以上となるまで流動体の流入を妨げる第1弁部471と、第1弁部471および第2拡張部130に連通する流路管473とを備えるため、第1弁部471の解放圧力未満の圧力で流動体を供給することで第2拡張部140を拡張させた後に、第1弁部471の解放圧力以上の流動体により、第1拡張部130を拡張させることができる。
【0088】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図19に示すように、筒部510を構成する素材を、留置部120を覆うように折り返して覆い部511を形成してもよい。このような構成は、筒部510の材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)が、第1拡張部130および第2拡張部140の材料(例えばシリコーン樹脂)よりも消化管内で強い耐性を発揮する場合に、第1拡張部130および第2拡張部140を保護する上で有効である。
【0089】
また、図20に示すように、第1拡張部630および第2拡張部640の表面に、凹凸形状を形成してもよい。このような構成とすることで、状況に応じて生体への密着性を向上させ得る。
【0090】
また、遠位側の第2拡張部140のみを流動体により拡張する構成とし、近位側の第1拡張部を、流動体により拡張する構成とは異なる構成としてもよい。一例として、図21のように、第1拡張部730を、内視鏡10のチャネル12から押し出すことで弾性的に戻るように自己拡張する複数の弾性線材から構成することができる。このような構成とした場合、第2拡張部140のみを内視鏡10のチャネル12から突出させ、第2拡張部140を拡張させた後、第1拡張部730をチャネル12から突出させることで、第1拡張部730を拡張させることができる。
【符号の説明】
【0091】
32,50 供給管、
100,200,300,400 消化管用デバイス、
110,110A,110B,510 筒部、
110C 第1筒部、
110D 第2筒部、
111 貫通孔、
130,630,730 第1拡張部、
140,640 第2拡張部、
162,270,370,470 調整部、
163,271,373,473 流路管(流路部)、
170 流路切り換え部、
171 第1流路、
172 第2流路、
272,471 第1弁部(流路切り換え部)、
273,372 第2弁部(流路切り換え部)、
280 流路閉塞用器具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を備える筒部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に設けられて外部から供給される流動体が流入することで外径が広がるように拡張可能な第1拡張部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられて外径が広がるように拡張可能な第2拡張部と、
前記第1拡張部よりも前記第2拡張部を先に拡張させるように外部からの流動体の流れを調整する調整部と、を有する消化管用デバイス。
【請求項2】
前記第2拡張部は、外部から供給される流動体が流入することで外径が広がるように拡張可能である、請求項1に記載の消化管用デバイス。
【請求項3】
前記調整部は、前記流動体の圧力の変化によって前記第1拡張部への流路を閉鎖した状態から開いた状態に切り換える流路切り換え部を有する請求項2に記載の消化管用デバイス。
【請求項4】
前記調整部は、
前記第1拡張部への流路に設けられ、所定の解放圧力以上となるまで流動体の流入を妨げる第1弁部と、
前記第1弁部および第2拡張部に連通し、第2弁部へ向かう流動体の流路を閉塞可能な流路閉塞用器具を配置可能な流路部と、を有する請求項2または3に記載の消化管用デバイス。
【請求項5】
前記調整部は、
前記第2拡張部への流路に設けられ、流動体を供給する供給管を挿入および引き抜き可能な第2弁部と、
前記第1拡張部および第2弁部に連通し、前記第2弁部から引き抜かれた供給管を配置可能な流路部と、を有する請求項2または3に記載の消化管用デバイス。
【請求項6】
前記調整部は、
前記第1拡張部への流路に設けられ、所定の解放圧力以上となるまで流動体の流入を妨げる第1弁部と、
前記第1弁部および第2拡張部に連通する流路部と、を有する請求項2または3に記載の消化管用デバイス。
【請求項7】
前記筒部は、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項8】
前記筒部は、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有する請求項7に記載の消化管用デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−90656(P2013−90656A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232773(P2011−232773)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】