消化管用デバイス
【課題】消化管が運動しても破裂し難く、かつ外れ難い消化管用デバイスを提供する。
【解決手段】貫通孔111を備える筒部110と、前記筒部110の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部132が内部に形成される第1拡張部130と、前記筒部110の貫通方向の基端側に前記第1拡張部130よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部142が内部に形成される第2拡張部140と、前記第1空間部132および第2空間部142を連通させて前記流動体が移動可能な流路部170と、前記第2拡張部140の拡張を制限する拡張制限部180と、を有する消化管用デバイス100である。
【解決手段】貫通孔111を備える筒部110と、前記筒部110の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部132が内部に形成される第1拡張部130と、前記筒部110の貫通方向の基端側に前記第1拡張部130よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部142が内部に形成される第2拡張部140と、前記第1空間部132および第2空間部142を連通させて前記流動体が移動可能な流路部170と、前記第2拡張部140の拡張を制限する拡張制限部180と、を有する消化管用デバイス100である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管内に設置される消化管用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療方法として、胃の上部と小腸の下部を外科的に直結するバイパス術が有効であることが知られている。このようなバイパス術を行うと、摂取した栄養素が胃の上部から小腸の下部へ直接流れ込むため、小腸上部の十二指腸や空腸上部に栄養素が流れなくなり、栄養の吸収を減少させることができる。さらに、小腸上部に栄養素が流れなくなることで、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)やグルカゴン等が分泌され難くなり、かつ未消化の栄養素が小腸下部の空腸下部や回腸を通ることで、栄養素による刺激によって消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の分泌が増加する。GIPやグルカゴンは、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害され難くなる。また、GLP−1は、インスリンの分泌を促す因子であると考えられている。このように、バイパス術は、摂取した栄養素の吸収を制限するのみならず、消化管ホルモンの作用によってインスリンの分泌を促して血糖値を減少させ、糖尿病や肥満の治療に効果を発揮すると考えられている。
【0003】
しかしながら、バイパス術は侵襲性が高いため、近年、小腸上部に栄養素が流れるスリーブを設置する低侵襲な方法が注目されている。例えば特許文献1には、胃の幽門輪を挟むように配置させる2つのバルーンと、このバルーンから小腸へ向かって伸びる筒状のスリーブとを備えたデバイスが記載されている。このデバイスは、経口的に設置可能であるために低侵襲であり、幽門輪に到達した栄養素を、スリーブの内部を通過させることで小腸の上部に触れさせずに小腸の下部へ到達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7803195号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の2つのバルーンを有するデバイスを小腸上部に設置すると、胃や小腸の運動により、バルーンが強い力を受けて破裂するおそれがあり、破裂すると、デバイスが外れてしまう。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、消化管が運動しても破裂し難く、かつ外れ難い消化管用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための消化管用デバイスは、貫通孔を備える筒部と、前記筒部の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部が内部に形成される第1拡張部と、前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部が内部に形成される第2拡張部と、前記第1空間部および第2空間部を連通させて前記流動体が移動可能な流路部と、前記第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した消化管用デバイスは、第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部を有するため、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1拡張部の流動体を第2拡張部へ移動させて第1拡張部の破裂を抑制しつつ、第1拡張部が収縮し過ぎて消化管用デバイスが外れることを抑制できる。
【0009】
また、前記収縮制限部が、前記第1空間部および第2空間部の少なくとも前記第1空間部に収容されて前記流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材を有するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1空間部に収容された吸収性部材によって第1拡張部の収縮を制限できる。
【0010】
また、第1拡張部を、前記貫通方向と直交する方向から収縮させる力を受けた際に前記貫通方向へ拡張する構成とすることで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1拡張部が貫通方向へ拡張して第1空間部を維持し、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0011】
また、前記第1拡張部の前記第2拡張部と近接する部位よりも前記第2拡張部から離れた部位の剛性を低く設定することで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、剛性の高い部位により第1空間部を維持し、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0012】
また、前記収縮制限部が、前記第2拡張部の外周を覆い、前記第2拡張部が所定の大きさ以上に拡張することで当該第2拡張部のさらなる拡張を制限する制限部材を有するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、制限部材によって第2拡張部の拡張を抑制することで、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0013】
また、前記第1拡張部よりも前記第2拡張部の剛性を高く設定することで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、剛性の高い第2拡張部によって第2拡張部の拡張を抑制することで、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0014】
また、前記筒部が、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結されるようにすれば、第1拡張部側から、若しくは第1拡張部と第2拡張部の間から筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させることができる。
【0015】
また、前記筒部が、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有するようにすれば、第1拡張部側から第1筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させて第1拡張部と第2拡張部の間に食物が引っかかることを抑制しつつ、第1拡張部と消化管の隙間から漏れ出る一部の食物を、第1拡張部と第2拡張部の間から第2筒部の貫通孔に流入させて、消化管への食物の接触を極力減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る消化管用デバイスを示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】第1実施形態に係る消化管用デバイスを消化管内に設置するための消化管用デバイス設置用システムを示す概略図である。
【図4】第1実施形態に係る消化管用デバイスに把持部材および供給管を連結した際を示す断面図である。
【図5】消化管の一部を示す概略断面図である。
【図6】消化管の内部に内視鏡を挿入した際を示す概略断面図である。
【図7】消化管の内部に内視鏡を介して消化管用デバイスを挿入した際を示す概略断面図である。
【図8】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの位置決めした際を示す概略断面図である。
【図9】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの第1拡張部および第2拡張部を拡張させた際を示す概略断面図である。
【図10】消化管の内部に設置された消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図11】第1拡張部が収縮する際の消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図12】第2拡張部が収縮する際の消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図13】第2実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図14】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図15】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図16】第3実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図17】第3実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図18】第3実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図19】第4実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図20】第4実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図21】第4実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図22】第5実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図23】第5実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図24】第5実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図25】消化管用デバイスの変形例を示す断面図である。
【図26】消化管用デバイスの他の変形例を示す平面図である。
【図27】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図28】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図29】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図30】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る消化管用デバイス100は、経口的または経鼻的に消化管内に挿入されて消化管の一部を覆うように留置されて、摂食された食物を、消化管の覆われた部位に接触させないように流通させるデバイスである。本消化管用デバイス100は、図1,2に示すように、筒状に形成されて貫通孔111を備える柔軟な筒部110と、筒部110の貫通方向の一端側(基端側)に設けられる留置部120とを備えている。以下、消化管用デバイス100において、筒部110が設けられる側を先端側、留置部120が設けられる側を基端側と称する。また、消化管内において、肛門側を遠位側、口腔側を近位側と称する。
【0019】
筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能な膜状の部材により形成されている。筒部110は、設置される小腸上部の内径よりも若干小さな外径を有している。筒部110の外径は、筒部110の貫通孔111の貫通方向に略一定であるが、必ずしも一定でなくてもよい。
【0020】
筒部110の厚さは、好ましくは0.002mm〜0.02mmであり、筒部110の外径は、好ましくは10mm〜60mmであり、筒部110の貫通方向の長さは、好ましくは600mm〜1300mmであるが、筒部110の寸法は必ずしもこれらに限定されない。
【0021】
筒部110は、本実施形態ではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)により形成されるが、柔軟に変形可能に形成可能であれば材料は限定されず、例えばポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリウレタン等を用いてもよい。なお、筒部110に適用される材料に応じて、上述した筒部110の寸法は、適宜変更され得る。
【0022】
留置部120は、筒部110の貫通方向に沿って並ぶ第1拡張部130および第2拡張部140と、第1拡張部130および第2拡張部140を連結する連結部150と、第1拡張部130の内部に流動体を流入させる流入部160と、第1拡張部130および第2拡張部140の内部空間を連通させる流路部170とを備えている。流動体は、例えば生理的食塩水であるが、他の液体、空気等の気体、液体中や気体中に固体が分散したもの、または粒子の集合体等であってもよい。また、流動体を、液体および気体の混合体とすることで、非圧縮性の液体によって強い保持力を維持しつつ、圧縮性の気体によって消化管からの強い圧縮力を吸収する構成としてもよい。
【0023】
連結部150は、筒部110と同一素材によって筒部110と一体的に筒状に形成されている。連結部150の径は、本実施形態では筒部110の径と同一となっているが、筒部110の径と異なってもよい。なお、連結部150は、筒部110とは異なる他の部材によって形成されてもよく、例えば、第1拡張部130および第2拡張部140と同一素材によって一体的に形成されてもよい。また、連結部150は、筒状でなくてもよく、例えば周方向の一部のみに設けられたり、または周方向に複数に分割して設けられてもよい。
【0024】
第1拡張部130は、連結部150の基端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第1孔部131が筒部110の貫通孔111と連通している。第1拡張部130の内部には、流動体を収容可能な第1空間部132が形成されている。第1孔部131は、食物が流入する空間を形成し、後述する第2拡張部140の第2孔部141および筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0025】
第2拡張部140は、連結部150の先端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第2孔部141が筒部110の貫通孔111と連通している。第2拡張部140の内部には、流動体を収容可能な第2空間部142が形成されている。第2孔部141は、第1拡張部130の第1孔部131から食物が流入する空間を形成し、筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0026】
流入部160は、外部から第1拡張部130へ流動体を流入させる部位であり、一旦流入した流動体の逆流を防止する逆流防止部161を備えている。逆流防止部161は、外部からの流動体の流入を許容するとともに、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、外部から流入した流動体の逆流を防止できるのであれば、構造は限定されない。
【0027】
流路部170は、第1拡張部130および第2拡張部140の孔部近傍(内周側)に位置し、流動体を第1拡張部130および第2拡張部140の間で移動させる管体である。流路部170は、本実施形態では連結部150の周囲に均等に配置される4本の管体で構成されているが、流動体を第1拡張部130および第2拡張部140の間で移動させることが可能であれば、管体の数や形状は限定されない。
【0028】
第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170は、弾性的に変形可能なシリコーン樹脂により一体的に形成されている。なお、第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170は、例えば天然ゴム、フルオロ・シリコーン重合体等の弾性的に変形可能な他の弾性材料により形成されてもよい。また、第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170を別体で形成してもよく、この場合、流路部170は弾性材料でなくてもよい。また、第1拡張部130および第2拡張部140は、折り畳まれて収縮した状態から、折り畳みを開いて拡張する構成とすることも可能であり、この場合には、第1拡張部130および第2拡張部140は、必ずしも弾性材料でなくてもよい。
【0029】
流路部170は、消化管内で幽門輪M2等から力を受けた場合にも、流動体が流通する流路を確保できるように、完全に潰れない程度の剛性を備えている。
【0030】
第1拡張部130は、拡張することで外径が好ましくは5mm〜60mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmである。第2拡張部140は、拡張することで外径が好ましくは10mm〜50mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmである。第1拡張部130と第2拡張部140との間の間隔は、好ましくは10mm〜60mmであるが、第1拡張部130および第2拡張部140の寸法は必ずしもこれに限定されない。
【0031】
第1空間部132および第2空間部142には、流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材180(収縮制限部)が収容されている。吸収性部材180は、例えばポリウレタンやメラミン等の合成樹脂、アルギン酸やアルギン酸誘導体等の食品成分、天然ゴム、セラミック多孔質等からなるスポンジ状の柔軟な多孔質体である。
【0032】
そして、流路部170には、吸収性部材180を通さずに流動体のみを通す大きさの隙間を備えるフィルタ171が設けられる。フィルタ171は、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース等の繊維の集合体で形成することができるが、これに限定されない。
【0033】
なお、本実施形態では、吸収性部材180は、第1拡張部130および第2拡張部140の両方に収容されているが、第1拡張部130にのみ収容されてもよい。
【0034】
次に、第1実施形態に係る消化管用デバイス100を、消化管内に設置する方法を説明する。
【0035】
消化管用デバイス100を設置する際には、図3,4に示すように、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40を使用する。すなわち、消化管用デバイス100、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40は、消化管用デバイス100を消化管内に設置するための消化管用デバイス設置システムを構成する。
【0036】
内視鏡10は、撮像を行うためのCCDセンサ等からなる撮像素子11と、消化管用デバイス100を生体内に挿入するためのチャネル12とを備えている。なお、内視鏡10は、一般的なものを使用でき、撮像が可能であって消化管用デバイス100の挿入が可能であれば、構成は特に限定されない。
【0037】
表示装置20は、内視鏡10により取得される映像を表示するモニターを備えている。
【0038】
流動体供給装置30は、流動体である生理的食塩水を任意の圧力で供給可能な加圧装置31と、一端が加圧装置31に連結されて流動体が流通し、他端が消化管用デバイス100の流入部160に対して液密に連結可能な供給管32とを備えている。
【0039】
把持装置40は、消化管用デバイス100を把持して所定の位置まで移動させた後、把持を解除して消化管用デバイス100を所定の位置に位置決めする装置である。把持装置40の手元側には、レバー41を備える操作部42が設けられ、レバー41を操作することで、把持装置40の先端に設けられる把持部材43により消化管用デバイス100を把持し、または把持を解除することができる(図4の一点鎖線を参照)。なお、把持装置40の構造は、特に限定されず、例えばバルーンを用いることもできる。
【0040】
消化管用デバイス100を設置する部位は、消化管内の幽門輪M2の近傍である。幽門輪M2は、図5に示すように、胃M1と十二指腸M3との間に位置し、内径が胃M1および十二指腸M3よりも小さくなっている。十二指腸M3は、幽門輪M2を介して胃M1と隣接する十二指腸球部M4を有し、十二指腸球部M4の遠位側に、十二指腸球部M4よりも内径が小さい十二指腸下行部M5を有する。胃M1は、空のときには細くなるように収縮しており、食物が摂取されると、径を広げるように拡張する。そして、胃M1の収縮の波により食物を撹拌するとともに胃液により食物を消化して糜粥状の分解産物としつつ遠位側へ搬送する。幽門前庭部M6は、アルカリ性の粘液を分泌し、酸性の糜粥状の分解産物を中和し、分解産物がアルカリ性となると、幽門輪M2の括約筋が緩んで門を開き、腸の腸動が生じる。そして、胃M1の下部の幽門前庭部M6の収縮によって、分解産物が幽門輪M2を通って十二指腸M3へ送り込まれる。十二指腸M3は、蠕動運動、分節運動および振り子運動を含む腸動により、分解産物を撹拌しつつ遠位側へ搬送する。
【0041】
消化管用デバイス100を設置する際には、まず、内視鏡10を口または鼻から挿入し、図6に示すように、画像を確認しながら内視鏡10の先端が幽門輪M2を通過するまで前進させる。幽門輪M2を通過した内視鏡10の先端は、十二指腸M3内に位置する。なお、消化管用デバイス100を胃M1側から幽門輪M2を通して十二指腸M3側へ挿入できるのであれば、内視鏡10の先端は、必ずしも幽門輪M2を通過させなくてもよい。
【0042】
次に、消化管用デバイス100の筒部110を折り畳み、さらに第1拡張部130および第2拡張部140を収縮させ、加圧装置31に繋がる供給管32に流入部160を連結する(図3参照)。そして、把持装置40により消化管用デバイス100を把持して消化管用デバイス100を内視鏡10のチャネル12に挿入し、把持装置40を押し込むように操作して消化管用デバイス100を先端側へ移動させる。なお、内視鏡10を口または鼻から挿入する前に、把持装置40および供給管32に連結された消化管用デバイス100を予めチャネル12内に挿入しておいてもよい。
【0043】
そして、内視鏡10により得られる映像を確認しつつ、図7に示すように、消化管用デバイス100を内視鏡10の先端から十二指腸M3内に突出させる。消化管用デバイス100が、幽門輪M2に隣接する十二指腸球部M4または十二指腸球部M4よりも遠位側に到達すると、十二指腸M3の蠕動運動によって、折り畳まれていた筒部110が遠位側へ伸長する。なお、蠕動による筒部110の伸長を促すために、筒部110の先端側に補助部材を仮止めしておいてもよい。補助部材は、例えば球状の部材であり、蠕動運動によって遠位側へ向かう力を受けて筒部110を伸長させ、筒部110が完全に伸長した後に、蠕動運動から受ける力によって筒部110から離脱し、最終的に排泄される。仮止めする際には、接着剤を用いたり、または所定の力で外れるように係合させてもよい。
【0044】
次に、図8に示すように、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第1拡張部130と第2拡張部140との間に幽門輪M2が位置するまで内視鏡10とともに把持装置40を近位側へ後退させて、消化管用デバイス100を後退させる。
【0045】
この後、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス100に供給する。供給管32を介して消化管用デバイス100に到達した流動体は、まず流入部160の逆流防止部161を通って第1拡張部130に流入し、さらに流路部170を介して第2拡張部140に流入する。したがって、図9に示すように、第1拡張部130および第2拡張部140が同時に拡張することになる。これにより、幽門輪M2の内径よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門輪M2よりも近位側に位置し、幽門輪M2の内径よりも大きく拡張した第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、そして第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門輪M2を挟み込んだ状態となる。
【0046】
この後、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止する。そして、供給管32を牽引して供給管32を消化管用デバイス100の流入部160から離脱させる。なお、供給管32を外しても、消化管用デバイス100には逆流防止部161が設けられているため、消化管用デバイス100の内部の流動体は漏出せず、第1拡張部130および第2拡張部140が拡張した状態が維持される。この後、把持装置40の操作部42を操作して、消化管用デバイス100の把持を解除する(図4の一点鎖線を参照)。そして、図10に示すように、内視鏡10、把持装置40および供給管32を消化管内から引き抜き、手技が完了する。
【0047】
次に、本実施形態に係る消化管用デバイス100の作用を説明する。
【0048】
消化管に消化管用デバイス100を設置された患者が摂食すると、食物が胃M1で胃内消化された後、糜粥状の分解産物が幽門輪M2の近傍から筒部110の貫通孔111に流入する。このとき、幽門輪M2の内側に位置する連結部150は、柔軟に変形可能であり、幽門輪M2の開閉を阻害しない。また、筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能となっているため、筒部110の内部に流入した分解産物は、十二指腸M3の腸動によって撹拌されつつ遠位側へ押し出されることになる。そして、筒部110に覆われている小腸上部の十二指腸M3および空腸上部には、栄養素が直接接触せず、栄養の吸収は、食物が筒部110を通過した後に行われることになる。そして、小腸上部に食物が接触しなくなると、栄養の吸収が減少されるとともに、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるGIPやグルカゴン等が分泌され難くなる。GIPやグルカゴン等は、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害されず、インスリンによって血糖値を減少させることができる。そして、未消化の食物が小腸下部の空腸下部や回腸に到達すると、栄養素による刺激によって、インスリンの分泌を促す因子と考えられている消化管ホルモンであるGLP−1の分泌が増加し、インスリンの分泌がさらに促されて血糖値を減少させることができる。このように、消化管用デバイス100を消化管内に設置することで、栄養素の吸収を低減させるとともに血糖値を減少させ、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療に高い効果を発揮する。
【0049】
なお、本実施形態に係る消化管用デバイス100の取り付け位置は、幽門輪M2であるが、内径がその近位側および遠位側よりも小さくなっている部位であれば他の部位でも設置可能であり、例えば胃M1の上部の噴門M7(図5参照)であってもよい。
【0050】
そして、胃Mに蠕動運動等が生じて、第1拡張部130に幽門括約筋による強い収縮力が作用すると、図11に示すように、第1拡張部130が収縮し、第1拡張部130の内部の吸収性部材180も収縮して吸収性部材180から流動体が放出され、流路部170を通って流動体が第2拡張部140へ移動する。このとき、流路部170にはフィルタ171が設けられているため、第1拡張部130内の吸収性部材180は第2拡張部140へ移動することはない。したがって、第1拡張部130は吸収性部材180の存在によって完全に収縮することはなく、収縮した吸収性部材180によってある程度の大きさおよび強度が維持される。このため、強い圧縮力を受けても、第1拡張部130は、ある程度収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさおよび強度を維持することで、ある程度のアンカー効果(位置を固定する効果)を維持できる。
【0051】
そして、第1拡張部130から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140内の吸収性部材180によって吸収され、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、逆に拡張する第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持する。
【0052】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図12に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の吸収性部材180も収縮して吸収性部材180から流動体が放出され、流路部170を通って流動体が第1拡張部130へ移動する。このとき、流路部170にはフィルタ171が設けられているため、第2拡張部140内の吸収性部材180は第1拡張部130へ移動することはない。したがって、第2拡張部140は吸収性部材180の存在によって完全に収縮することはなく、収縮した吸収性部材180によってある程度の大きさおよび強度が維持される。このため、強い圧縮力を受けた第2拡張部140は、収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさおよび強度を維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0053】
そして、第2拡張部140から第1拡張部130へ移動した流動体は、第1拡張部130内の吸収性部材180によって吸収され、第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持する。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る消化管用デバイス100は、吸収性部材180(収縮制限部)を有するため、消化管の運動に応じて第1拡張部130または第2拡張部140に強い圧縮力が作用すると、強い圧縮力を受けた拡張部が収縮して破裂を抑制しつつ、吸収性部材180(収縮制限部)によってある程度のアンカー効果を維持し、かつ流動体の移動を受けて拡張した他方の拡張部によって、消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持できる。
【0055】
また、第1拡張部130、第2拡張部140および筒部110が力を分散させつつ柔軟に変形できるため、消化管の動きを制限せず、消化管の動きに追従して変形して、分解産物を搬送できる。したがって、未消化の分解産物が消化管用デバイス100よりも遠位側へ急速に到達することを抑制でき、腹痛や吐き気を抑制できる。
【0056】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張しているため、消化管用デバイス100を消化管から外す際には、内視鏡10により観察しつつ内視鏡10のチャネル12を介して挿入する器具により第1拡張部130および第2拡張部140を破るだけで消化管に対する固定を解除でき、容易に取り外すことができる。
【0057】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張するため、消化管の内径に応じて拡張させることができ、しかも筒部110は望ましい長さに容易に切断できるため、1つの寸法規格で様々な形状に対応できる。
【0058】
なお、吸収性部材(収縮制限部)は、スポンジ状の構成に限定されず、例えば吸水性ポリマー等を適用してもよい。
【0059】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る消化管用デバイス200は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第1拡張部230の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0060】
第2実施形態に係る消化管用デバイス200の第1拡張部230は、図13に示すように、貫通方向の中央部に径方向へ突出する突出部235が全周的に形成されており、突出部235の貫通方向の両側に窪んで形成される凹部236が形成されている。そして、消化管用デバイス200は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0061】
なお、消化管用デバイス200の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0062】
そして、消化管用デバイス200を消化管内に設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部230に貫通方向と直交する方向からを中心とした強い収縮力が作用すると、図14に示すように、第1拡張部230が径方向に収縮し、第1拡張部230の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。このとき、第1拡張部230は、突出部235が押圧されて、凹部236が筒部110の貫通方向へ広がるように大きく拡張する。したがって、第1拡張部230は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。すなわち、第1拡張部230が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部230は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0063】
そして、第1拡張部230から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部230の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持する。
【0064】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図15に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部230へ移動して第1拡張部230を拡張させる。拡張した第1拡張部230は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部230が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持する。
【0065】
以上のように、第2実施形態に係る消化管用デバイス200は、貫通方向と直交する方向からを中心とした収縮させる力を受けた際、すなわち径を縮小する方向に収縮力を受けた際に、貫通方向へ大きく拡張する形状の第1拡張部230(収縮制限部)を備えている。このため、第1拡張部230が、強い圧縮力を受けつつもある程度の大きさを維持するため、第1拡張部230の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって、強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持できる。
【0066】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る消化管用デバイス300は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第1拡張部330の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0067】
第3実施形態に係る消化管用デバイス300の第1拡張部330は、図16に示すように、第2拡張部140と近接する厚肉部335と、第2拡張部から離れた位置に厚肉部335よりも薄く形成される薄肉部336とを備えている。厚肉部335は、薄肉部336よりも厚く形成されるため、剛性が高く設定される。そして、消化管用デバイス300は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0068】
なお、消化管用デバイス300の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0069】
そして、消化管用デバイス300を設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部330に貫通方向と直交する方向からを中心とした強い収縮力が作用すると、図17に示すように、第1拡張部330が径方向に収縮し、第1拡張部330の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。このとき、第1拡張部330は、剛性の低い薄肉部336が大きく収縮するが、第1拡張部330内で流動体が移動して剛性の高い厚肉部335は収縮が抑えられる。特に、蠕動運動では近位側から遠位側に収縮力が移動することから、厚肉部335よりも薄肉部336が先に収縮して厚肉部335に流動体が移動するため、より高い効果を発揮する。したがって、第1拡張部330は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさおよび強度が維持される。すなわち、第1拡張部330が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部330は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0070】
そして、第1拡張部330から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部330の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持する。
【0071】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図18に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部330へ移動して第1拡張部330を拡張させる。拡張した第1拡張部330は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部330が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持する。
【0072】
以上のように、第3実施形態に係る消化管用デバイス300は、第2拡張部140と近接する厚肉部335と、第2拡張部140から離れて厚肉部335よりも剛性の低い薄肉部336とを備えた第1拡張部330(収縮制限部)を備えている。このため、第1拡張部330が強い圧縮力を受けても、第1拡張部330は厚肉部335によってある程度の大きさを維持でき、第1拡張部230の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持できる。
【0073】
なお、本実施形態では、第1拡張部330の厚さにより剛性を調整しているが、材料を変更することで剛性を調整してもよい。
【0074】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0075】
第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、図19に示すように、第2拡張部140の外周を覆う通気性を備えたメッシュ状の制限部材480(収縮制限部)を備えている。制限部材480は、筒状に形成されており、先端部が第2拡張部140の先端側に連結され、基端部が第2拡張部140の基端側に連結されている。そして、制限部材480は、第2拡張部140が所定の大きさまで拡張することで第2拡張部140のさらなる拡張を抑制するが、第2拡張部140が収縮する際には、制限部材480は第2拡張部140の収縮を抑制しない。
【0076】
制限部材480は、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース等により形成されるが、これに限定されない。制限部材480は、第2拡張部140よりも拡張し難い材料により形成されることが好ましい。また、制限部材480はメッシュ状で構成されているが、制限部材480と第2拡張部140との隙間に外部から気体や液体が流入できる構造であれば、構造は特に限定されず、網状の部材や、膜状の部材に複数の孔が形成された構造であってもよい。
【0077】
そして、消化管用デバイス200は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0078】
なお、消化管用デバイス400の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0079】
そして、消化管用デバイス400を消化管内に設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部130に貫通方向と直交する方向から強い収縮力が作用すると、図20に示すように、第1拡張部130が径方向に収縮し、第1拡張部130の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。そして、第2拡張部140が所定の大きさまで拡張すると、制限部材480が第2拡張部140と接し、第2拡張部140の拡張が制限部材480によって制限され、第2拡張部140への流動体の流入が制限されて、結果として第1拡張部130の収縮が制限される。したがって、第1拡張部130は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部130は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0080】
そして、拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持する。
【0081】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図21に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部130へ移動して第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持する。
【0082】
以上のように、第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、第2拡張部140の外周を覆い、第2拡張部140が所定の大きさ以上に拡張することで第2拡張部140と接して第2拡張部140のさらなる拡張を制限する制限部材480を備えている。このため、第1拡張部130が強い圧縮力を受けても、第1拡張部130はある程度の大きさを維持でき、第1拡張部130の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持できる。
【0083】
なお、本実施形態では、第2拡張部140の外周に制限部材480を設けたが、第1拡張部130の周囲にも設けることもできる。
【0084】
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態に係る消化管用デバイス500は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第2拡張部540の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0085】
第3実施形態に係る消化管用デバイス500の第1拡張部530は、図22に示すように、第2拡張部540が、第1拡張部130よりも厚く形成されている。これにより、第2拡張部540は、第1拡張部130よりも拡張し難い構造となっている。そして、消化管用デバイス500は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0086】
なお、消化管用デバイス500の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0087】
そして、消化管用デバイス500を設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部130に貫通方向と直交する方向から強い収縮力が作用すると、図23に示すように、第1拡張部130が径方向に収縮し、第1拡張部130の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部540へ移動する。このとき、第2拡張部540は、第1拡張部130よりも拡張し難い構造となっているため、第2拡張部540への流動体の流入が抑制され、第1拡張部130の収縮が抑えられる。したがって、第1拡張部130は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。すなわち、第2拡張部540が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部130は、収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0088】
そして、第1拡張部130から第2拡張部540へ移動した流動体は、第2拡張部540を拡張させる。拡張した第2拡張部540は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、第2拡張部540が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス500を消化管内に強固に維持する。
【0089】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部540に収縮力が作用すると、図24に示すように、第2拡張部540が収縮し、第2拡張部540の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部130へ移動して第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部540の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス500を消化管内に強固に維持する。
【0090】
以上のように、第5実施形態に係る消化管用デバイス500は、第2拡張部540(収縮制限部)が第1拡張部130よりも厚く形成されている。このため、第1拡張部130が強い圧縮力を受けても、第2拡張部540が拡張し難いために第1拡張部130はある程度の大きさを維持でき、第1拡張部130の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部540によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持できる。
【0091】
なお、本実施形態では、肉厚により剛性を調整しているが、材料を変更することで剛性を調整してもよい。
【0092】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図25に示すように、筒部610を構成する素材を、留置部120を覆うように折り返して覆い部611を形成してもよい。このような構成は、筒部610の材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)が、第1拡張部130および第2拡張部140の材料(例えばシリコーン樹脂)よりも消化管内で強い耐性を発揮する場合に、第1拡張部130および第2拡張部140を保護する上で有効である。
【0093】
また、図26に示すように、第1拡張部730および第2拡張部740の表面に、凹凸形状を形成してもよい。このような構成とすることで、状況に応じて生体への密着性を向上させ得る。
【0094】
また、図27に示すように、流入部160Aが第1拡張部130ではなしに第2拡張部140に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0095】
100,200,300,400,500 消化管用デバイス、
110,110A,110B,610 筒部、
110C 第1筒部、
110D 第2筒部、
111 貫通孔、
130,230,330,630,730 第1拡張部、
140,540,640 第2拡張部、
170 流路部、
335 厚肉部、
336 薄肉部、
480 制限部材、
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管内に設置される消化管用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療方法として、胃の上部と小腸の下部を外科的に直結するバイパス術が有効であることが知られている。このようなバイパス術を行うと、摂取した栄養素が胃の上部から小腸の下部へ直接流れ込むため、小腸上部の十二指腸や空腸上部に栄養素が流れなくなり、栄養の吸収を減少させることができる。さらに、小腸上部に栄養素が流れなくなることで、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)やグルカゴン等が分泌され難くなり、かつ未消化の栄養素が小腸下部の空腸下部や回腸を通ることで、栄養素による刺激によって消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)の分泌が増加する。GIPやグルカゴンは、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害され難くなる。また、GLP−1は、インスリンの分泌を促す因子であると考えられている。このように、バイパス術は、摂取した栄養素の吸収を制限するのみならず、消化管ホルモンの作用によってインスリンの分泌を促して血糖値を減少させ、糖尿病や肥満の治療に効果を発揮すると考えられている。
【0003】
しかしながら、バイパス術は侵襲性が高いため、近年、小腸上部に栄養素が流れるスリーブを設置する低侵襲な方法が注目されている。例えば特許文献1には、胃の幽門輪を挟むように配置させる2つのバルーンと、このバルーンから小腸へ向かって伸びる筒状のスリーブとを備えたデバイスが記載されている。このデバイスは、経口的に設置可能であるために低侵襲であり、幽門輪に到達した栄養素を、スリーブの内部を通過させることで小腸の上部に触れさせずに小腸の下部へ到達させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7803195号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の2つのバルーンを有するデバイスを小腸上部に設置すると、胃や小腸の運動により、バルーンが強い力を受けて破裂するおそれがあり、破裂すると、デバイスが外れてしまう。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、消化管が運動しても破裂し難く、かつ外れ難い消化管用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための消化管用デバイスは、貫通孔を備える筒部と、前記筒部の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部が内部に形成される第1拡張部と、前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部が内部に形成される第2拡張部と、前記第1空間部および第2空間部を連通させて前記流動体が移動可能な流路部と、前記第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した消化管用デバイスは、第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部を有するため、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1拡張部の流動体を第2拡張部へ移動させて第1拡張部の破裂を抑制しつつ、第1拡張部が収縮し過ぎて消化管用デバイスが外れることを抑制できる。
【0009】
また、前記収縮制限部が、前記第1空間部および第2空間部の少なくとも前記第1空間部に収容されて前記流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材を有するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1空間部に収容された吸収性部材によって第1拡張部の収縮を制限できる。
【0010】
また、第1拡張部を、前記貫通方向と直交する方向から収縮させる力を受けた際に前記貫通方向へ拡張する構成とすることで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、第1拡張部が貫通方向へ拡張して第1空間部を維持し、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0011】
また、前記第1拡張部の前記第2拡張部と近接する部位よりも前記第2拡張部から離れた部位の剛性を低く設定することで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、剛性の高い部位により第1空間部を維持し、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0012】
また、前記収縮制限部が、前記第2拡張部の外周を覆い、前記第2拡張部が所定の大きさ以上に拡張することで当該第2拡張部のさらなる拡張を制限する制限部材を有するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、制限部材によって第2拡張部の拡張を抑制することで、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0013】
また、前記第1拡張部よりも前記第2拡張部の剛性を高く設定することで前記収縮制限部を構成するようにすれば、第1拡張部に収縮させる力が作用した際に、剛性の高い第2拡張部によって第2拡張部の拡張を抑制することで、第1拡張部の収縮を制限できる。
【0014】
また、前記筒部が、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結されるようにすれば、第1拡張部側から、若しくは第1拡張部と第2拡張部の間から筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させることができる。
【0015】
また、前記筒部が、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有するようにすれば、第1拡張部側から第1筒部の貫通孔に食物を円滑に流入させて第1拡張部と第2拡張部の間に食物が引っかかることを抑制しつつ、第1拡張部と消化管の隙間から漏れ出る一部の食物を、第1拡張部と第2拡張部の間から第2筒部の貫通孔に流入させて、消化管への食物の接触を極力減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係る消化管用デバイスを示す斜視図である。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】第1実施形態に係る消化管用デバイスを消化管内に設置するための消化管用デバイス設置用システムを示す概略図である。
【図4】第1実施形態に係る消化管用デバイスに把持部材および供給管を連結した際を示す断面図である。
【図5】消化管の一部を示す概略断面図である。
【図6】消化管の内部に内視鏡を挿入した際を示す概略断面図である。
【図7】消化管の内部に内視鏡を介して消化管用デバイスを挿入した際を示す概略断面図である。
【図8】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの位置決めした際を示す概略断面図である。
【図9】消化管の内部に挿入された消化管用デバイスの第1拡張部および第2拡張部を拡張させた際を示す概略断面図である。
【図10】消化管の内部に設置された消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図11】第1拡張部が収縮する際の消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図12】第2拡張部が収縮する際の消化管用デバイスを示す概略断面図である。
【図13】第2実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図14】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図15】第2実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図16】第3実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図17】第3実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図18】第3実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図19】第4実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図20】第4実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図21】第4実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図22】第5実施形態に係る消化管用デバイスを示す断面図である。
【図23】第5実施形態に係る消化管用デバイスの第1拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図24】第5実施形態に係る消化管用デバイスの第2拡張部が収縮する際を示す断面図である。
【図25】消化管用デバイスの変形例を示す断面図である。
【図26】消化管用デバイスの他の変形例を示す平面図である。
【図27】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図28】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図29】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【図30】消化管用デバイスのさらに他の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る消化管用デバイス100は、経口的または経鼻的に消化管内に挿入されて消化管の一部を覆うように留置されて、摂食された食物を、消化管の覆われた部位に接触させないように流通させるデバイスである。本消化管用デバイス100は、図1,2に示すように、筒状に形成されて貫通孔111を備える柔軟な筒部110と、筒部110の貫通方向の一端側(基端側)に設けられる留置部120とを備えている。以下、消化管用デバイス100において、筒部110が設けられる側を先端側、留置部120が設けられる側を基端側と称する。また、消化管内において、肛門側を遠位側、口腔側を近位側と称する。
【0019】
筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能な膜状の部材により形成されている。筒部110は、設置される小腸上部の内径よりも若干小さな外径を有している。筒部110の外径は、筒部110の貫通孔111の貫通方向に略一定であるが、必ずしも一定でなくてもよい。
【0020】
筒部110の厚さは、好ましくは0.002mm〜0.02mmであり、筒部110の外径は、好ましくは10mm〜60mmであり、筒部110の貫通方向の長さは、好ましくは600mm〜1300mmであるが、筒部110の寸法は必ずしもこれらに限定されない。
【0021】
筒部110は、本実施形態ではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)により形成されるが、柔軟に変形可能に形成可能であれば材料は限定されず、例えばポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリウレタン等を用いてもよい。なお、筒部110に適用される材料に応じて、上述した筒部110の寸法は、適宜変更され得る。
【0022】
留置部120は、筒部110の貫通方向に沿って並ぶ第1拡張部130および第2拡張部140と、第1拡張部130および第2拡張部140を連結する連結部150と、第1拡張部130の内部に流動体を流入させる流入部160と、第1拡張部130および第2拡張部140の内部空間を連通させる流路部170とを備えている。流動体は、例えば生理的食塩水であるが、他の液体、空気等の気体、液体中や気体中に固体が分散したもの、または粒子の集合体等であってもよい。また、流動体を、液体および気体の混合体とすることで、非圧縮性の液体によって強い保持力を維持しつつ、圧縮性の気体によって消化管からの強い圧縮力を吸収する構成としてもよい。
【0023】
連結部150は、筒部110と同一素材によって筒部110と一体的に筒状に形成されている。連結部150の径は、本実施形態では筒部110の径と同一となっているが、筒部110の径と異なってもよい。なお、連結部150は、筒部110とは異なる他の部材によって形成されてもよく、例えば、第1拡張部130および第2拡張部140と同一素材によって一体的に形成されてもよい。また、連結部150は、筒状でなくてもよく、例えば周方向の一部のみに設けられたり、または周方向に複数に分割して設けられてもよい。
【0024】
第1拡張部130は、連結部150の基端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第1孔部131が筒部110の貫通孔111と連通している。第1拡張部130の内部には、流動体を収容可能な第1空間部132が形成されている。第1孔部131は、食物が流入する空間を形成し、後述する第2拡張部140の第2孔部141および筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0025】
第2拡張部140は、連結部150の先端側に配置される環状のバルーンであり、環の中央の第2孔部141が筒部110の貫通孔111と連通している。第2拡張部140の内部には、流動体を収容可能な第2空間部142が形成されている。第2孔部141は、第1拡張部130の第1孔部131から食物が流入する空間を形成し、筒部110の貫通孔111へ食物を導く役割を果たす。
【0026】
流入部160は、外部から第1拡張部130へ流動体を流入させる部位であり、一旦流入した流動体の逆流を防止する逆流防止部161を備えている。逆流防止部161は、外部からの流動体の流入を許容するとともに、一旦流入した流動体の逆流を防止するダックビル型逆止弁であるが、外部から流入した流動体の逆流を防止できるのであれば、構造は限定されない。
【0027】
流路部170は、第1拡張部130および第2拡張部140の孔部近傍(内周側)に位置し、流動体を第1拡張部130および第2拡張部140の間で移動させる管体である。流路部170は、本実施形態では連結部150の周囲に均等に配置される4本の管体で構成されているが、流動体を第1拡張部130および第2拡張部140の間で移動させることが可能であれば、管体の数や形状は限定されない。
【0028】
第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170は、弾性的に変形可能なシリコーン樹脂により一体的に形成されている。なお、第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170は、例えば天然ゴム、フルオロ・シリコーン重合体等の弾性的に変形可能な他の弾性材料により形成されてもよい。また、第1拡張部130、第2拡張部140および流路部170を別体で形成してもよく、この場合、流路部170は弾性材料でなくてもよい。また、第1拡張部130および第2拡張部140は、折り畳まれて収縮した状態から、折り畳みを開いて拡張する構成とすることも可能であり、この場合には、第1拡張部130および第2拡張部140は、必ずしも弾性材料でなくてもよい。
【0029】
流路部170は、消化管内で幽門輪M2等から力を受けた場合にも、流動体が流通する流路を確保できるように、完全に潰れない程度の剛性を備えている。
【0030】
第1拡張部130は、拡張することで外径が好ましくは5mm〜60mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmである。第2拡張部140は、拡張することで外径が好ましくは10mm〜50mm程度まで拡張可能であり、長さは、好ましくは30mm〜50mmである。第1拡張部130と第2拡張部140との間の間隔は、好ましくは10mm〜60mmであるが、第1拡張部130および第2拡張部140の寸法は必ずしもこれに限定されない。
【0031】
第1空間部132および第2空間部142には、流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材180(収縮制限部)が収容されている。吸収性部材180は、例えばポリウレタンやメラミン等の合成樹脂、アルギン酸やアルギン酸誘導体等の食品成分、天然ゴム、セラミック多孔質等からなるスポンジ状の柔軟な多孔質体である。
【0032】
そして、流路部170には、吸収性部材180を通さずに流動体のみを通す大きさの隙間を備えるフィルタ171が設けられる。フィルタ171は、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース等の繊維の集合体で形成することができるが、これに限定されない。
【0033】
なお、本実施形態では、吸収性部材180は、第1拡張部130および第2拡張部140の両方に収容されているが、第1拡張部130にのみ収容されてもよい。
【0034】
次に、第1実施形態に係る消化管用デバイス100を、消化管内に設置する方法を説明する。
【0035】
消化管用デバイス100を設置する際には、図3,4に示すように、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40を使用する。すなわち、消化管用デバイス100、内視鏡10、表示装置20、流動体供給装置30および把持装置40は、消化管用デバイス100を消化管内に設置するための消化管用デバイス設置システムを構成する。
【0036】
内視鏡10は、撮像を行うためのCCDセンサ等からなる撮像素子11と、消化管用デバイス100を生体内に挿入するためのチャネル12とを備えている。なお、内視鏡10は、一般的なものを使用でき、撮像が可能であって消化管用デバイス100の挿入が可能であれば、構成は特に限定されない。
【0037】
表示装置20は、内視鏡10により取得される映像を表示するモニターを備えている。
【0038】
流動体供給装置30は、流動体である生理的食塩水を任意の圧力で供給可能な加圧装置31と、一端が加圧装置31に連結されて流動体が流通し、他端が消化管用デバイス100の流入部160に対して液密に連結可能な供給管32とを備えている。
【0039】
把持装置40は、消化管用デバイス100を把持して所定の位置まで移動させた後、把持を解除して消化管用デバイス100を所定の位置に位置決めする装置である。把持装置40の手元側には、レバー41を備える操作部42が設けられ、レバー41を操作することで、把持装置40の先端に設けられる把持部材43により消化管用デバイス100を把持し、または把持を解除することができる(図4の一点鎖線を参照)。なお、把持装置40の構造は、特に限定されず、例えばバルーンを用いることもできる。
【0040】
消化管用デバイス100を設置する部位は、消化管内の幽門輪M2の近傍である。幽門輪M2は、図5に示すように、胃M1と十二指腸M3との間に位置し、内径が胃M1および十二指腸M3よりも小さくなっている。十二指腸M3は、幽門輪M2を介して胃M1と隣接する十二指腸球部M4を有し、十二指腸球部M4の遠位側に、十二指腸球部M4よりも内径が小さい十二指腸下行部M5を有する。胃M1は、空のときには細くなるように収縮しており、食物が摂取されると、径を広げるように拡張する。そして、胃M1の収縮の波により食物を撹拌するとともに胃液により食物を消化して糜粥状の分解産物としつつ遠位側へ搬送する。幽門前庭部M6は、アルカリ性の粘液を分泌し、酸性の糜粥状の分解産物を中和し、分解産物がアルカリ性となると、幽門輪M2の括約筋が緩んで門を開き、腸の腸動が生じる。そして、胃M1の下部の幽門前庭部M6の収縮によって、分解産物が幽門輪M2を通って十二指腸M3へ送り込まれる。十二指腸M3は、蠕動運動、分節運動および振り子運動を含む腸動により、分解産物を撹拌しつつ遠位側へ搬送する。
【0041】
消化管用デバイス100を設置する際には、まず、内視鏡10を口または鼻から挿入し、図6に示すように、画像を確認しながら内視鏡10の先端が幽門輪M2を通過するまで前進させる。幽門輪M2を通過した内視鏡10の先端は、十二指腸M3内に位置する。なお、消化管用デバイス100を胃M1側から幽門輪M2を通して十二指腸M3側へ挿入できるのであれば、内視鏡10の先端は、必ずしも幽門輪M2を通過させなくてもよい。
【0042】
次に、消化管用デバイス100の筒部110を折り畳み、さらに第1拡張部130および第2拡張部140を収縮させ、加圧装置31に繋がる供給管32に流入部160を連結する(図3参照)。そして、把持装置40により消化管用デバイス100を把持して消化管用デバイス100を内視鏡10のチャネル12に挿入し、把持装置40を押し込むように操作して消化管用デバイス100を先端側へ移動させる。なお、内視鏡10を口または鼻から挿入する前に、把持装置40および供給管32に連結された消化管用デバイス100を予めチャネル12内に挿入しておいてもよい。
【0043】
そして、内視鏡10により得られる映像を確認しつつ、図7に示すように、消化管用デバイス100を内視鏡10の先端から十二指腸M3内に突出させる。消化管用デバイス100が、幽門輪M2に隣接する十二指腸球部M4または十二指腸球部M4よりも遠位側に到達すると、十二指腸M3の蠕動運動によって、折り畳まれていた筒部110が遠位側へ伸長する。なお、蠕動による筒部110の伸長を促すために、筒部110の先端側に補助部材を仮止めしておいてもよい。補助部材は、例えば球状の部材であり、蠕動運動によって遠位側へ向かう力を受けて筒部110を伸長させ、筒部110が完全に伸長した後に、蠕動運動から受ける力によって筒部110から離脱し、最終的に排泄される。仮止めする際には、接着剤を用いたり、または所定の力で外れるように係合させてもよい。
【0044】
次に、図8に示すように、内視鏡10により得られる画像を確認しつつ、第1拡張部130と第2拡張部140との間に幽門輪M2が位置するまで内視鏡10とともに把持装置40を近位側へ後退させて、消化管用デバイス100を後退させる。
【0045】
この後、加圧装置31を操作して流動体を消化管用デバイス100に供給する。供給管32を介して消化管用デバイス100に到達した流動体は、まず流入部160の逆流防止部161を通って第1拡張部130に流入し、さらに流路部170を介して第2拡張部140に流入する。したがって、図9に示すように、第1拡張部130および第2拡張部140が同時に拡張することになる。これにより、幽門輪M2の内径よりも大きく拡張した第1拡張部130が幽門輪M2よりも近位側に位置し、幽門輪M2の内径よりも大きく拡張した第2拡張部140が十二指腸球部M4に嵌合し、そして第1拡張部130および第2拡張部140の間に幽門輪M2を挟み込んだ状態となる。
【0046】
この後、加圧装置31を操作して流動体の供給を停止する。そして、供給管32を牽引して供給管32を消化管用デバイス100の流入部160から離脱させる。なお、供給管32を外しても、消化管用デバイス100には逆流防止部161が設けられているため、消化管用デバイス100の内部の流動体は漏出せず、第1拡張部130および第2拡張部140が拡張した状態が維持される。この後、把持装置40の操作部42を操作して、消化管用デバイス100の把持を解除する(図4の一点鎖線を参照)。そして、図10に示すように、内視鏡10、把持装置40および供給管32を消化管内から引き抜き、手技が完了する。
【0047】
次に、本実施形態に係る消化管用デバイス100の作用を説明する。
【0048】
消化管に消化管用デバイス100を設置された患者が摂食すると、食物が胃M1で胃内消化された後、糜粥状の分解産物が幽門輪M2の近傍から筒部110の貫通孔111に流入する。このとき、幽門輪M2の内側に位置する連結部150は、柔軟に変形可能であり、幽門輪M2の開閉を阻害しない。また、筒部110は、消化管の運動に応じて柔軟に変形可能となっているため、筒部110の内部に流入した分解産物は、十二指腸M3の腸動によって撹拌されつつ遠位側へ押し出されることになる。そして、筒部110に覆われている小腸上部の十二指腸M3および空腸上部には、栄養素が直接接触せず、栄養の吸収は、食物が筒部110を通過した後に行われることになる。そして、小腸上部に食物が接触しなくなると、栄養の吸収が減少されるとともに、栄養素の刺激により分泌される消化管ホルモンであるGIPやグルカゴン等が分泌され難くなる。GIPやグルカゴン等は、インスリンの分泌を減少させる因子であると考えられており、これらが分泌されなくなることで、インスリンの分泌が阻害されず、インスリンによって血糖値を減少させることができる。そして、未消化の食物が小腸下部の空腸下部や回腸に到達すると、栄養素による刺激によって、インスリンの分泌を促す因子と考えられている消化管ホルモンであるGLP−1の分泌が増加し、インスリンの分泌がさらに促されて血糖値を減少させることができる。このように、消化管用デバイス100を消化管内に設置することで、栄養素の吸収を低減させるとともに血糖値を減少させ、糖尿病(特に2型糖尿病)や肥満の治療に高い効果を発揮する。
【0049】
なお、本実施形態に係る消化管用デバイス100の取り付け位置は、幽門輪M2であるが、内径がその近位側および遠位側よりも小さくなっている部位であれば他の部位でも設置可能であり、例えば胃M1の上部の噴門M7(図5参照)であってもよい。
【0050】
そして、胃Mに蠕動運動等が生じて、第1拡張部130に幽門括約筋による強い収縮力が作用すると、図11に示すように、第1拡張部130が収縮し、第1拡張部130の内部の吸収性部材180も収縮して吸収性部材180から流動体が放出され、流路部170を通って流動体が第2拡張部140へ移動する。このとき、流路部170にはフィルタ171が設けられているため、第1拡張部130内の吸収性部材180は第2拡張部140へ移動することはない。したがって、第1拡張部130は吸収性部材180の存在によって完全に収縮することはなく、収縮した吸収性部材180によってある程度の大きさおよび強度が維持される。このため、強い圧縮力を受けても、第1拡張部130は、ある程度収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさおよび強度を維持することで、ある程度のアンカー効果(位置を固定する効果)を維持できる。
【0051】
そして、第1拡張部130から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140内の吸収性部材180によって吸収され、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、逆に拡張する第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持する。
【0052】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図12に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の吸収性部材180も収縮して吸収性部材180から流動体が放出され、流路部170を通って流動体が第1拡張部130へ移動する。このとき、流路部170にはフィルタ171が設けられているため、第2拡張部140内の吸収性部材180は第1拡張部130へ移動することはない。したがって、第2拡張部140は吸収性部材180の存在によって完全に収縮することはなく、収縮した吸収性部材180によってある程度の大きさおよび強度が維持される。このため、強い圧縮力を受けた第2拡張部140は、収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさおよび強度を維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0053】
そして、第2拡張部140から第1拡張部130へ移動した流動体は、第1拡張部130内の吸収性部材180によって吸収され、第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持する。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る消化管用デバイス100は、吸収性部材180(収縮制限部)を有するため、消化管の運動に応じて第1拡張部130または第2拡張部140に強い圧縮力が作用すると、強い圧縮力を受けた拡張部が収縮して破裂を抑制しつつ、吸収性部材180(収縮制限部)によってある程度のアンカー効果を維持し、かつ流動体の移動を受けて拡張した他方の拡張部によって、消化管用デバイス100を消化管内に強固に維持できる。
【0055】
また、第1拡張部130、第2拡張部140および筒部110が力を分散させつつ柔軟に変形できるため、消化管の動きを制限せず、消化管の動きに追従して変形して、分解産物を搬送できる。したがって、未消化の分解産物が消化管用デバイス100よりも遠位側へ急速に到達することを抑制でき、腹痛や吐き気を抑制できる。
【0056】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張しているため、消化管用デバイス100を消化管から外す際には、内視鏡10により観察しつつ内視鏡10のチャネル12を介して挿入する器具により第1拡張部130および第2拡張部140を破るだけで消化管に対する固定を解除でき、容易に取り外すことができる。
【0057】
また、第1拡張部130および第2拡張部140は、流動体によって拡張するため、消化管の内径に応じて拡張させることができ、しかも筒部110は望ましい長さに容易に切断できるため、1つの寸法規格で様々な形状に対応できる。
【0058】
なお、吸収性部材(収縮制限部)は、スポンジ状の構成に限定されず、例えば吸水性ポリマー等を適用してもよい。
【0059】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る消化管用デバイス200は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第1拡張部230の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0060】
第2実施形態に係る消化管用デバイス200の第1拡張部230は、図13に示すように、貫通方向の中央部に径方向へ突出する突出部235が全周的に形成されており、突出部235の貫通方向の両側に窪んで形成される凹部236が形成されている。そして、消化管用デバイス200は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0061】
なお、消化管用デバイス200の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0062】
そして、消化管用デバイス200を消化管内に設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部230に貫通方向と直交する方向からを中心とした強い収縮力が作用すると、図14に示すように、第1拡張部230が径方向に収縮し、第1拡張部230の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。このとき、第1拡張部230は、突出部235が押圧されて、凹部236が筒部110の貫通方向へ広がるように大きく拡張する。したがって、第1拡張部230は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。すなわち、第1拡張部230が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部230は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0063】
そして、第1拡張部230から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部230の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持する。
【0064】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図15に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部230へ移動して第1拡張部230を拡張させる。拡張した第1拡張部230は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部230が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持する。
【0065】
以上のように、第2実施形態に係る消化管用デバイス200は、貫通方向と直交する方向からを中心とした収縮させる力を受けた際、すなわち径を縮小する方向に収縮力を受けた際に、貫通方向へ大きく拡張する形状の第1拡張部230(収縮制限部)を備えている。このため、第1拡張部230が、強い圧縮力を受けつつもある程度の大きさを維持するため、第1拡張部230の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって、強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス200を消化管内に強固に維持できる。
【0066】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係る消化管用デバイス300は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第1拡張部330の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0067】
第3実施形態に係る消化管用デバイス300の第1拡張部330は、図16に示すように、第2拡張部140と近接する厚肉部335と、第2拡張部から離れた位置に厚肉部335よりも薄く形成される薄肉部336とを備えている。厚肉部335は、薄肉部336よりも厚く形成されるため、剛性が高く設定される。そして、消化管用デバイス300は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0068】
なお、消化管用デバイス300の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0069】
そして、消化管用デバイス300を設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部330に貫通方向と直交する方向からを中心とした強い収縮力が作用すると、図17に示すように、第1拡張部330が径方向に収縮し、第1拡張部330の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。このとき、第1拡張部330は、剛性の低い薄肉部336が大きく収縮するが、第1拡張部330内で流動体が移動して剛性の高い厚肉部335は収縮が抑えられる。特に、蠕動運動では近位側から遠位側に収縮力が移動することから、厚肉部335よりも薄肉部336が先に収縮して厚肉部335に流動体が移動するため、より高い効果を発揮する。したがって、第1拡張部330は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさおよび強度が維持される。すなわち、第1拡張部330が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部330は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0070】
そして、第1拡張部330から第2拡張部140へ移動した流動体は、第2拡張部140を拡張させる。拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部330の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持する。
【0071】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図18に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部330へ移動して第1拡張部330を拡張させる。拡張した第1拡張部330は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部330が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持する。
【0072】
以上のように、第3実施形態に係る消化管用デバイス300は、第2拡張部140と近接する厚肉部335と、第2拡張部140から離れて厚肉部335よりも剛性の低い薄肉部336とを備えた第1拡張部330(収縮制限部)を備えている。このため、第1拡張部330が強い圧縮力を受けても、第1拡張部330は厚肉部335によってある程度の大きさを維持でき、第1拡張部230の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス300を消化管内に強固に維持できる。
【0073】
なお、本実施形態では、第1拡張部330の厚さにより剛性を調整しているが、材料を変更することで剛性を調整してもよい。
【0074】
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0075】
第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、図19に示すように、第2拡張部140の外周を覆う通気性を備えたメッシュ状の制限部材480(収縮制限部)を備えている。制限部材480は、筒状に形成されており、先端部が第2拡張部140の先端側に連結され、基端部が第2拡張部140の基端側に連結されている。そして、制限部材480は、第2拡張部140が所定の大きさまで拡張することで第2拡張部140のさらなる拡張を抑制するが、第2拡張部140が収縮する際には、制限部材480は第2拡張部140の収縮を抑制しない。
【0076】
制限部材480は、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース等により形成されるが、これに限定されない。制限部材480は、第2拡張部140よりも拡張し難い材料により形成されることが好ましい。また、制限部材480はメッシュ状で構成されているが、制限部材480と第2拡張部140との隙間に外部から気体や液体が流入できる構造であれば、構造は特に限定されず、網状の部材や、膜状の部材に複数の孔が形成された構造であってもよい。
【0077】
そして、消化管用デバイス200は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0078】
なお、消化管用デバイス400の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0079】
そして、消化管用デバイス400を消化管内に設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部130に貫通方向と直交する方向から強い収縮力が作用すると、図20に示すように、第1拡張部130が径方向に収縮し、第1拡張部130の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部140へ移動する。そして、第2拡張部140が所定の大きさまで拡張すると、制限部材480が第2拡張部140と接し、第2拡張部140の拡張が制限部材480によって制限され、第2拡張部140への流動体の流入が制限されて、結果として第1拡張部130の収縮が制限される。したがって、第1拡張部130は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部130は、収縮することで圧縮力を減少させて破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0080】
そして、拡張した第2拡張部140は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、第2拡張部140が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持する。
【0081】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部140に収縮力が作用すると、図21に示すように、第2拡張部140が収縮し、第2拡張部140の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部130へ移動して第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部140の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持する。
【0082】
以上のように、第4実施形態に係る消化管用デバイス400は、第2拡張部140の外周を覆い、第2拡張部140が所定の大きさ以上に拡張することで第2拡張部140と接して第2拡張部140のさらなる拡張を制限する制限部材480を備えている。このため、第1拡張部130が強い圧縮力を受けても、第1拡張部130はある程度の大きさを維持でき、第1拡張部130の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部140によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持できる。
【0083】
なお、本実施形態では、第2拡張部140の外周に制限部材480を設けたが、第1拡張部130の周囲にも設けることもできる。
【0084】
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態に係る消化管用デバイス500は、第1実施形態に係る消化管用デバイス100と、第2拡張部540の形状および収縮制限部の構成が異なる。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0085】
第3実施形態に係る消化管用デバイス500の第1拡張部530は、図22に示すように、第2拡張部540が、第1拡張部130よりも厚く形成されている。これにより、第2拡張部540は、第1拡張部130よりも拡張し難い構造となっている。そして、消化管用デバイス500は、吸収性部材およびフィルタを備えていない。
【0086】
なお、消化管用デバイス500の設置方法は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0087】
そして、消化管用デバイス500を設置した後、胃M1に蠕動運動等が生じて第1拡張部130に貫通方向と直交する方向から強い収縮力が作用すると、図23に示すように、第1拡張部130が径方向に収縮し、第1拡張部130の内部の流動体が、流路部170を通って第2拡張部540へ移動する。このとき、第2拡張部540は、第1拡張部130よりも拡張し難い構造となっているため、第2拡張部540への流動体の流入が抑制され、第1拡張部130の収縮が抑えられる。したがって、第1拡張部130は完全に収縮することはなく、ある程度の大きさが維持される。すなわち、第2拡張部540が、収縮制限部として機能する。このため、強い圧縮力を受けた第1拡張部130は、収縮することで破裂を抑制し、しかもある程度の大きさを維持することで、ある程度のアンカー効果を維持できる。
【0088】
そして、第1拡張部130から第2拡張部540へ移動した流動体は、第2拡張部540を拡張させる。拡張した第2拡張部540は、十二指腸球部M3内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第1拡張部130の代わりに、第2拡張部540が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス500を消化管内に強固に維持する。
【0089】
また、十二指腸球部M3に蠕動運動等が生じて第2拡張部540に収縮力が作用すると、図24に示すように、第2拡張部540が収縮し、第2拡張部540の内部の流動体が、流路部170を通って第1拡張部130へ移動して第1拡張部130を拡張させる。拡張した第1拡張部130は、胃M1内で強いアンカー効果を発揮する。すなわち、消化管から強い圧縮力を受けて収縮してアンカー効果が減少した第2拡張部540の代わりに、第1拡張部130が強いアンカー効果を発揮して消化管用デバイス500を消化管内に強固に維持する。
【0090】
以上のように、第5実施形態に係る消化管用デバイス500は、第2拡張部540(収縮制限部)が第1拡張部130よりも厚く形成されている。このため、第1拡張部130が強い圧縮力を受けても、第2拡張部540が拡張し難いために第1拡張部130はある程度の大きさを維持でき、第1拡張部130の破裂を抑制しつつもある程度のアンカー効果を維持できる。そして、逆に拡張する第2拡張部540によって強いアンカー効果を発揮させて、消化管用デバイス400を消化管内に強固に維持できる。
【0091】
なお、本実施形態では、肉厚により剛性を調整しているが、材料を変更することで剛性を調整してもよい。
【0092】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図25に示すように、筒部610を構成する素材を、留置部120を覆うように折り返して覆い部611を形成してもよい。このような構成は、筒部610の材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)が、第1拡張部130および第2拡張部140の材料(例えばシリコーン樹脂)よりも消化管内で強い耐性を発揮する場合に、第1拡張部130および第2拡張部140を保護する上で有効である。
【0093】
また、図26に示すように、第1拡張部730および第2拡張部740の表面に、凹凸形状を形成してもよい。このような構成とすることで、状況に応じて生体への密着性を向上させ得る。
【0094】
また、図27に示すように、流入部160Aが第1拡張部130ではなしに第2拡張部140に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0095】
100,200,300,400,500 消化管用デバイス、
110,110A,110B,610 筒部、
110C 第1筒部、
110D 第2筒部、
111 貫通孔、
130,230,330,630,730 第1拡張部、
140,540,640 第2拡張部、
170 流路部、
335 厚肉部、
336 薄肉部、
480 制限部材、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を備える筒部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部が内部に形成される第1拡張部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部が内部に形成される第2拡張部と、
前記第1空間部および第2空間部を連通させて前記流動体が移動可能な流路部と、
前記第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部と、を有する消化管用デバイス。
【請求項2】
前記収縮制限部は、前記第1空間部および第2空間部の少なくとも前記第1空間部に収容されて前記流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材を有する、請求項1に記載の消化管用デバイス。
【請求項3】
第1拡張部を、前記貫通方向と直交する方向から収縮させる力を受けた際に前記貫通方向へ拡張する構成とすることで前記収縮制限部を構成する、請求項1または2に記載の消化管用デバイス。
【請求項4】
前記第1拡張部の前記第2拡張部と近接する部位よりも前記第2拡張部から離れた部位の剛性を低く設定することで前記収縮制限部を構成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項5】
前記収縮制限部は、前記第2拡張部の外周を覆い、前記第2拡張部が所定の大きさ以上に拡張することで当該第2拡張部のさらなる拡張を制限する制限部材を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項6】
前記第1拡張部よりも前記第2拡張部の剛性を高く設定することで前記収縮制限部を構成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項7】
前記筒部は、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項8】
前記筒部は、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有する請求項7に記載の消化管用デバイス。
【請求項1】
貫通孔を備える筒部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に設けられるとともに流動体が収容される第1空間部が内部に形成される第1拡張部と、
前記筒部の貫通方向の基端側に前記第1拡張部よりも先端側に設けられるとともに流動体が収容される第2空間部が内部に形成される第2拡張部と、
前記第1空間部および第2空間部を連通させて前記流動体が移動可能な流路部と、
前記第1拡張部の収縮を制限する収縮制限部と、を有する消化管用デバイス。
【請求項2】
前記収縮制限部は、前記第1空間部および第2空間部の少なくとも前記第1空間部に収容されて前記流動体を吸収および放出することが可能な吸収性部材を有する、請求項1に記載の消化管用デバイス。
【請求項3】
第1拡張部を、前記貫通方向と直交する方向から収縮させる力を受けた際に前記貫通方向へ拡張する構成とすることで前記収縮制限部を構成する、請求項1または2に記載の消化管用デバイス。
【請求項4】
前記第1拡張部の前記第2拡張部と近接する部位よりも前記第2拡張部から離れた部位の剛性を低く設定することで前記収縮制限部を構成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項5】
前記収縮制限部は、前記第2拡張部の外周を覆い、前記第2拡張部が所定の大きさ以上に拡張することで当該第2拡張部のさらなる拡張を制限する制限部材を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項6】
前記第1拡張部よりも前記第2拡張部の剛性を高く設定することで前記収縮制限部を構成する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項7】
前記筒部は、前記第1拡張部および第2拡張部の少なくとも一方に連結される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の消化管用デバイス。
【請求項8】
前記筒部は、前記第1拡張部に連結される第1筒部と、前記第2拡張部に連結される第2筒部と、を有する請求項7に記載の消化管用デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2013−90672(P2013−90672A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233158(P2011−233158)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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