説明

消火システム

【課題】工作機械内部等の、ある容積内で発生する火災を確実に鎮火させることが可能な消火システムを提供する。
【解決手段】工作機械類の加工室11に設置される排気装置16と、加工室11内に設置される火炎検出装置21と、加工室11内に設置され、エアロゾルを生成させる消火装置22と、火炎検出装置21による加工室11内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置16に排気停止を行わせるとともに消火装置22に作動指令を出す制御装置20とを備える。制御装置20は、火炎検出装置21による加工室11内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置16に排気停止を行わせた後、消火装置22に作動指令を出す、又は、火炎検出装置21による加工室11内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置16に排気停止と同時に、消火装置22に作動指令を出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、工作機械内部等において発生する火災を抑制する消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械内部で発生した火炎を迅速に鎮火するために、消火剤を散布する消火手段を備えた工作機械が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この工作機械は、加工室の上部に、収容箱の底壁を下方に開閉可能とし、収容箱内に鋳鉄の切屑を乾燥させてなるダライ粉からなる消火剤を貯留する消火装置を配設し、加工室内において発火していることを温度検出センサにより検出すると、収容箱の底壁を下方に開いて消火剤を発火燃焼中の切屑上に落下散布して鎮火するように構成されている。
【0003】
また、工作機器類の発火前に防火対応信号を発し、この信号を自動消火装置又は火災感知器に予知連絡することによって発火を防止し、また発火後における初期消火活動の開始を図ることを可能とした防火及び自動消火システムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−188567号公報
【特許文献2】特開2001−299949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の工作機械では、可燃性金属の加工に対応することを目的としており、加工室内のオイルによる発火などへの対応はできない。
また、常に、収容箱内に鋳鉄の切屑を乾燥させてなるダライ粉からなる消火剤を貯留する必要があるため、装置が大型化するとともに、維持管理を必要とするという不具合がある。
【0006】
一方、特許文献2の防火及び消火システムでは、工作機器類の使用する可燃性液体の温度を検出する温度検出手段によって、異常発生の判定は確実にできる。
しかしながら、発火後における対応は、従来の消火活動と変わることがないため、別途に消火装置や消火に必要とする機器等を設置したり、消火に伴うシステムを構築する等の作業を要し、工作機械における火災を確実に鎮火することはできない。
【0007】
本発明は斯かる従来の問題点を解決するために為されたもので、その目的は、工作機械内部等の、ある容積内で発生する火災を確実に鎮火させることが可能な消火システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、工作機械類の加工室に設置される排気装置と、加工室内に設置される火炎検出装置と、加工室内に設置され、エアロゾルを生成させる消火装置と、火炎検出装置による加工室内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置に排気停止を行わせるとともに消火装置に作動指令を出す制御装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の消火システムにおいて、火災検出装置は、熱感知センサであることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の消火システムにおいて、消火装置は、薬剤の燃焼によって無毒の火炎抑制エアロゾルを発生する消火用火工品であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか記載の消火システムにおいて、制御装置は、火炎検出装置による加工室内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置に排気停止を行わせた後、消火装置に作動指令を出すことを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1乃至3の何れか記載の消火システムにおいて、制御装置は、火炎検出装置による加工室内で発生した火炎の検出に基づいて排気装置に排気停止と同時に、消火装置に作動指令を出すことを特徴とする。
【0011】
次に、本発明に係る消火システムが工作機械に対して有効な点について考察する。
例えば、NC旋盤や放電加工機等において、精度や工具寿命の維持のために油系切削油もしくはグリースのような加工油を用いていることが多いが、加工油類は加工性向上や冷却のために用いられているものの可燃性であるために、工作機械・装置類に不具合が生じた際には発火し火災に至る危険性がある。
【0012】
この場合、速やかに加工機を停止し、消火活動に当たるのが適当であるが、工場の省力化や無人化が進む状況下においては、自動的に消火活動が開始される自動消火システムが好ましい場合が多く、更には維持管理費用が安価でかつ設置が簡易である自動消火システムが望ましい。例えば、工作機械に適用される消火器として、二酸化炭素ガスを火災領域に噴射する消火器もあるが、配管作業による設置費、及び維持管理費用が大きい。
【0013】
本発明に係る消火システムにおける消火用火工品は、普通火災・油火災・電気火災に対応するものである。
消火用火工品から放出される成分は、不活性ガス及び火炎抑制成分であり、火炎抑制成分とは負触媒効果を有するカリウム塩を主成分とした粒子サイズ数μm以下の微粒子である。
【0014】
これらは、通常エアロゾルの性質を有し、放出後に沈降・堆積することなく長時間防火空間内に浮遊するため、放出後も継続して火炎抑制及び再燃防止の効果を維持することができ、復旧に際してもファンや圧縮空気等で容易に排出できるため、清掃が容易である。
また、粉末系消火剤のように消火成分の粉末が壁体や機器に多量に積層したり付着したりすることがほとんどないため、防火空間や機器への被害を抑えることができる。
しかし、防火空間や使用の状況によっては、火炎抑制成分の微粒子の少量が壁体や機器に付着する場合があるが、固着したり化学反応したりすることはなく、水やエタノールなどにも容易に溶解するので、清掃に支障をきたすことはない。
【0015】
従って、本発明における自動消火システムは、機械にダメージを与えることなく消火活動ができるとともに、ファン等により容易に清掃できることから、復旧活動の省力化及び復旧時間の最小化を計ることができる。
【0016】
次に、工作機械用としての特殊性について説明する。
1.消火用火工品は、普通火災・油火災・電気火災に対応しており、工作機械の火災に適する。
例えば、水系消火装置は、電気を使用している場所には好ましくなく、粉末消火装置は、噴射部位にしか効果がないため、防火空間全体に対しては長時間の火災抑制効果がないといったデメリットがあるが、本消火用火工品においてはこれらのデメリットがない。
【0017】
2.閉鎖容積内の火災に対して長時間火災抑制効果を持つため、工作機械内の火災に適する。
3.消火能力が高い(防火空間容積あたりの消火剤必要量が少ない)ため、コンパクトであり、工作機械内への取り付けが容易である。
4.火炎抑制成分は数μm以下の微粒子であり、エアロゾルの性質を有しているため、清掃・排出が容易である。
5.設置費及び維持管理費が従来の消火システムよりも低い。
【0018】
次に、排ガスの無毒性について説明する。
排ガスの有害性については、人体に対する影響を示しているため、工作機械の消火に対しての直接的な関連はない。
しかし、消火成分が防火空間内に充満して消火するシステムにおいては、消火後の開放の際あるいは非閉鎖部分からの漏れにより人体と消火成分との接触が少なからず発生する。
【0019】
この際、ガス系消火剤等においては、外部雰囲気により希釈されるので、一般的に有害でない濃度であることが多く、接触の時間も通常では人体に有害な影響を与えない範囲である。
しかし、消火濃度においては、人体に有害な影響を及ぼす濃度であることがほとんどであるので、場合によっては高濃度の消火成分と接触する可能性も存在する。
例えば、不意な操作による直接暴露、排気装置の異常等による高濃度消火成分の残留、再燃の確認時、その他様々なケースが存在するため、消火成分が無毒性でなくては安全な活動の支障となる危険性が常に起こり得る。
故に、消火器から放出される排ガス成分は無毒であることが好ましい。
【0020】
次に、無毒性を特徴とした場合の応用例について説明する。
人がいても使える。
・人のいるところに使用できる。
・初期消火活動において、十分な消火ができなかった場合でも、補助消火・救助活動 ができる。
・その空間は火災発生の際にも長時間安全な場所になる。
【0021】
従来のものでは、ガス系は充満して長時間火災抑制効果をもつものの消火濃度で有害なものが多く、粉末系では部分的な火災抑制しかできず、水系は装置が大掛かりであり、すぐに消火できれば良いがそうでなければ大量の水散布が必要である。
つまり、ある程度簡易な装置で長時間一定容積の空間の火災を抑制できて且つ、人体に無害な消火方法は無く、要所空間に長時間の防火システムを備えるのがコスト面で困難であった。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長期間保管においても、消火剤の容量が減衰しない消火用火工品を使用した自動消火システムを確立することができるので、一定容積内の火災に対して高い信頼性を有する小型の消火システムを提供できる。
本発明によれば、工作機械と連動した、消火用火工品を使用した消火システムを確立することができるので、火炎抑制エアロゾルを発生する消火用火工品の消火能力を、確実に発揮できることで、消火信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る消火システムを工作機械10に適用した一実施形態を示す図である。
【図2】火災発生を示す図である。
【図3】工作機械を停止し、排気装置の排気を停止した状態を示す図である。
【図4】消火装置による消火を開始した状態を示す図である。
【図5】消火装置による火災抑制を示す図である。
【図6】鎮火した状態を示す図である。
【図7】消火メカニズムの概念図である。
【図8】消火用火工品の一例を示す図である。
【図9】図8の消火用火工品の上面図である。
【図10】図8の消火用火工品の底面図である。
【図11】消火用火工品の別の例を示す図である。
【図12】図11の消火用火工品の分解斜視図である。
【図13】図11の消火用火工品の底面図である。
【図14】消火用火工品の更に別の例を示す図である。
【図15】図14の消火用火工品の分解斜視図である。
【図16】図14の消火用火工品の底面図である。
【図17】消火試験状況(消火器作動前)を示す図である。
【図18】消火器作動状況を示す図である。
【図19】火炎抑制粒子(消火剤)がボックス内に浮遊し消火している状況を示す図である。
【図20】消火完了を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る消火システムを工作機械10に適用した一実施形態を示す。
本実施形態においては、例えば、自動旋盤等の工作機械10の加工室11内には、例えば、ワーク13を把持するチャック12と、工具15を把持する工具ホルダ14とが対向配置され、必要とする加工が施されるようになっている。
【0025】
加工室11には、例えば、加工時に発生するミストなどを外部へ排出する排気装置16の吸込口17が取り付けられ、吸込口17に繋がる排気ダクト19にはその流路を開閉するモータ作動式ダンパ18が装着されており、火災発生時にはこのモータ作動式ダンパ18を閉じることが火災を抑制するために有効である。
従って、本システムにおいては、火災を検知した場合に、工作機械10の制御装置20よりモータ作動式ダンパ18を閉じるための信号を発信する。これを受けて排気装置16のモータ作動式ダンパ18が閉じる。このモータ作動式ダンパ18は、配線18aによって制御装置20に連絡し、制御装置20によって開閉が制御されている。
【0026】
工作機械10の制御装置20は、モータ作動式ダンパ18を閉じるための信号を発信すると同時に、運転中の工作機械10を停止させる信号を発信する。例えば、工作機械10を無人運転中に火災が発生した場合には必要な機能である。
また、加工室11内には、床面側に熱感知センサからなる火災検出装置21が取り付けられている。火災検出装置21も配線21aを介して制御装置20に連絡し、加工室11内の火災を検出し、制御装置20に報知するようになっている。
【0027】
ここで、熱感知センサとしては、例えば、+60℃でONとなるA接点の感熱スイッチを用いる。この感熱スイッチは、機械の通常運転中(+40℃程度)はOFFであり、+60℃になるとONする仕組みであり、制御装置20はONになった場合に流れる電流を検知することで、火災発生と認識する回路を備えている。
また、例えば、φ20mm×高さ30mm程度の小型のユニットを用いることで、加工室11内部の火災発生源と想定しうる位置に複数設置することが可能であり、より迅速に火災を検知することが可能となる。
【0028】
更に、加工室11内には、天井側に薬剤の燃焼によって無毒の火炎抑制エアロゾルを発生する消火用火工品からなる消火装置22が取り付けられている。消火装置22は、配線22aを介して制御装置20に連絡し、制御装置20からの指令に基づいて作動するようになっている。
ここで、消火用火工品(エアロゾル消火器)とは、化学反応により消火剤を生成する薬剤、冷却材、点火装置を内部に含み、薬剤は金属カリウム酸化物、樹脂、その他の添加物などで構成される。
【0029】
この消火用火工品は、制御装置20からの作動電気信号を受けて薬剤が消火用火工品内で燃焼し、その際に微細な消火成分とガス成分(圧力を発生させ噴射を助ける働きをする)が生成する。これらの生成物(消火成分+ガス成分)は冷却層を通過し、ノズルを通じて噴射される。
噴射された消火成分が火炎(消火を要求される場所)に供給されると、消火成分のカリウムラジカルが火炎の連鎖反応を遮断(負触媒作用)することにより火炎を抑制する。
【0030】
この消火用火工品(エアロゾル消火器)は、燃焼によって生じる消火粒子が非常に小さいため(一般的に1〜5μm)、消火効率が他のシステムに比べて数倍優れている。
また、既存のガス系消火装置と違い、配管作業がなく、簡単に固定できるので、設置及び維持管理費を低減できる。
【0031】
消火用火工品は、水を使うことができない油火災及び電気火災に対して優れた効果を持ち、工作機械内部で発生する火災に対して非常に有効である。
消火用火工品は、薬剤の燃焼により火炎抑制エアロゾルを発生して、火炎の連鎖反応を化学的に抑制する消火機構のため、モータ作動式ダンパ18開放状態では、生成したエアロゾルが工作機械10外に排出されてしまうために消火性能が低下する。
【0032】
また、火災を検知してから消火装置22を作動させるために時間がかかる場合には、火災が大きくなり工作機械10の損失等が発生することから好ましくない。
これらを改善するために、本実施形態においては、モータ作動式ダンパ18を閉じる信号を発信してから消火用火工品を作動させる信号を発信するまでのディレイを制御装置20に内蔵したICのプログラムにより調整することができる。
【0033】
従って、信号を受信してからモータ作動式ダンパ18が閉じるまでの時間に合わせたディレイを設定することで、最終的には最も迅速に消火を実現することができる。
なお、本実施形態における、モータ作動式ダンパ18停止信号と消火器作動信号のディレイは0(ダンパー停止/消火器作動=同時)である。
また、制御装置20は、工作機械10に必要とされる運転制御を司るように構成されている。
【0034】
次に、本実施形態に係る消火システムの動作を説明する。
工作機械10で機械のトラブルによりワーク13と工具15とが摩擦熱を発生し、冷却オイルに引火する場合があり、火災が発生することがある。そのため、火災検出装置21は、工作機械10の作動時に常時火災発生を検出するように監視する。
【0035】
そして、図2に示すように、火災検出装置21が火災を検出すると、制御装置20に火災を検出した信号を発信する。
次に、制御装置20は、図3に示すように、排気装置16のモータ作動式ダンパ18を閉じるための信号を発信する。これによって、排気ダクト19が閉じられる。
同時に、制御装置20は、工作機械10を停止させる。
【0036】
次に、制御装置20は、図4に示すように、消火装置22を作動させ、薬剤の燃焼によって無毒の火炎抑制エアロゾルを発生させる。
図5に示すように、消火装置22から噴射される無毒の火炎抑制エアロゾルによって、火炎が徐々に小さくなり、図6に示すように、鎮火する。
【0037】
次に、消火用火工品の消火メカニズムを説明する。
図7は消火メカニズムの概念図である。
消火器から生成した消火成分が、燃焼反応をストップさせる作用を説明する。
【0038】
STAGE1[O、OH、Hラジカルによって火炎が大きくなる概念図]
燃焼には、燃焼ラジカル[主としてO、H、OHラジカル]が大きく関与しており、燃焼の継続・拡大はすなわちラジカルが増殖する反応である。燃焼により生成した燃焼ラジカルは通常大気中の酸素と反応し、更に燃焼ラジカル数を増加させる反応を連鎖的に引き起こすので、燃料・熱・酸素のある環境下では燃焼は継続し続ける(あるいは拡大してしまう)。
【0039】
STAGE2[消火成分のカリウムラジカルが火炎に投入される概念図]
薬剤が反応すると、消火に有効なカリウムラジカルを有する消火成分が多く生成し、消火器から噴射され、火炎(消火を要求される場所)に投入される。
【0040】
STAGE3[カリウムラジカルによる消火の概念図]
消火器から噴射されたカリウムラジカルは、火炎中の酸素ラジカルと優先的に結びついて燃焼ラジカルが酸素と反応する燃焼反応を妨げる。カリウムラジカルと結びついた燃焼ラジカルは、最終的に他の燃焼ラジカルと反応し、H2Oなどの物質に変換される。
つまり、火炎中のラジカルが減少し、燃焼反応を妨げられることになり、火炎は縮小もしくは鎮火する。このとき、カリウムラジカルは、変化・化合を起こさないので、燃焼反応を妨げる働きを続け火炎を抑制する。
【0041】
次に、消火用火工品の構造及び作動メカニズムについて説明する。
図8〜図10は、米国特許第6,042,664号明細書に記載の消火用火工品220を示す。 消火用火工品220は、消火剤の組成が、KNO367〜72wt%、フェノールフォルムアルデヒド樹脂8〜12wt%、及びDCDA(ジシアンジアミド)16〜25wt%としてある。主剤(及び着火薬)組成は、硝酸カリウム(KNO3)75wt%、DCDA(ジシアンジアミド)16.6wt%、フェノール樹脂8.4wt%である。
【0042】
消火用火工品220は、作動電気信号により、着火薬を点火する電気式点火具221と、電線を保護する樹脂製のシーラント222と、圧力容器を形成するSUS製のバックプレート223と、主薬剤を保護するスペーサ224と、主薬剤に着火する粉状(組成は主薬剤と同様)の着火薬 225と、燃焼すると火炎抑制エアロゾルを発生する主薬剤(ドーナツ型ペレット)226と、薬剤と冷却層のスペース(燃焼室)とを確保するスペーサ227と、冷却層を保持するスクリーン228と、冷却層を形成してガス温度を低減する不活性球229と、冷却層を保持するスクリーン230と、残渣を排出しないための空間を確保する支持体231と、圧力容器を形成し噴出口を有するSUS製のオリフィスプレート232と、噴出口を閉じ、気密を保ち、ガス圧で破れるラプチャーシール233と、着火部を固定・形成するSUS製のホルダ234と、圧力容器を形成し、両端をかしめるSUS製のハウジング235とで構成されている。
【0043】
図11〜図13は、本実施形態に用いるために作製した消火用火工品250を示す。
消火用火工品250は、消火剤の組成として、酸化剤及び燃料成分、樹脂成分を含んだものであり、図8に示す消火用火工品220で示されている組成とほぼ同じにしてある。
【0044】
消火用火工品250は、作動電気信号により、着火薬を点火する電気式点火具251と、電線を保護する樹脂製のシーラント252と、圧力容器を形成するSUS製のホルダ253と、主薬剤に着火する粉状(組成は主薬剤と同様)の着火薬 254と、燃焼すると火炎抑制エアロゾルを発生する主薬剤(ドーナツ型ペレット)255と、薬剤と冷却層のスペース(燃焼室)を確保するスペーサ256と、圧力容器を形成するSUS製のハウジング257と、冷却層を保持するスクリーン258と、冷却層を形成してガス温度を低減する不活性球259と、冷却層を保持するスクリーン260と、残渣を排出しないための空間を確保する支持体261と、噴出口を閉じ、気密を保ち、ガス圧で破れるラプチャーシール262と、圧力容器を形成し噴出口を有するSUS製のオリフィスホルダ263とで構成されている。
【0045】
図14〜図16は、本実施形態に用いるために作製した消火用火工品270を示す。
消火用火工品270は、消火剤の組成として、酸化剤及び燃料成分、樹脂成分を含んだものであり、図8に示す消火用火工品220で示されている組成とほぼ同じにしてある。
消火用火工品270は、冷却層として排ガス浄化用触媒(ハニカム)を含む構造としたことを特徴としている。
【0046】
消火用火工品270は、作動電気信号により、着火薬を点火する電気式点火具271と、電線を保護する樹脂製のシーラント272と、圧力容器を形成するSUS製のホルダ273と、主薬剤に着火する粉状(組成は主薬剤と同様)の着火薬 274と、燃焼すると火炎抑制エアロゾルを発生する主薬剤(ドーナツ型ペレット)275と、薬剤と冷却層のスペース(燃焼室)を確保するスペーサ276と、圧力容器を形成するSUS製のハウジング277と、ガス温度を低減する(触媒効果)触媒層278と、残渣を排出しないための空間を確保する支持体279と、噴出口を閉じ、気密を保ち、ガス圧で破れるラプチャーシール281と、圧力容器を形成し噴出口を有するSUS製のオリフィスホルダ280とで構成されている。
【0047】
次に、図11〜図13に示す消火用火工品250の作動メカニズムを説明する。
制御装置20の指令によって、電気式点火具251に電気が流れる。
通電により、点火具の先端から高熱のスパークが発生し、これにより着火薬254が燃焼する。
着火薬254の燃焼により、主薬剤255に着火される。
【0048】
主薬剤255はドーナツ形状をしたペレットであり、この中心穴に着火することで、ペレットの中心に近い面から燃焼が始まり、ゆったりした速度で外側へ燃焼が進行する。
主薬剤255の燃焼により、高温のガス発生とともに火炎抑制粒子(エアロゾル)が生成する。
発生したガスと粒子は、不活性球259が敷き詰められた冷却層を通過し、この時にガス温度が低下する。
【0049】
冷却層を通過したガスのガス圧により、オリフィスホルダ263に貼られたラプチャーシール262を破り、オリフィス口からガス及び火炎抑制粒子が噴射される。
例えば、冷却層を有さない構造の場合には、火炎がノズルより噴出し、火災を助長するケースが発生する。また、ガス温度が高い場合に、火炎抑制粒子が上方へ流れてしまい、消火効率が低下するケースが発生する。ただし、冷却効果により、消火薬剤の不完全燃焼が発生し、排出されるガスにおいて、有毒なガスが有害なレベルで発生する。
【0050】
次に、本実施形態における消火用火工品からなる消火装置22について更に詳述する。
消火用火工品からなる消火装置22の火炎抑制効果が発揮されるのは、ある閉じられた容積内の範囲である。容積が広い場合であれば、相当の消火剤を使用することで対応はできるが、屋外等のオープン環境では効力が著しく低下する(効力を発揮しない)。
例えば、消火能力としては、主薬剤量が30gの場合の消化能力(消せる容積)は0.5m3、主薬剤量が60gの場合の消化能力(消せる容積)は1.0m3である。
また、工作機械(NC旋盤)稼働中においては、機械内部に切削油が常時飛散している状況であり、このオイルミストを機械外部へ排出するためのミストコレクターが連動して作動している。
【0051】
機械内部で火災が発生した場合には、消火器を作動させる以前のタイミングで排気用のダンパを閉じ、ミストコレクタを停止させる必要がある。
このタイミングが重要であり、例えば、バネ作動式ダンパのように火災検知信号を受けて、即ダンパが閉じる(バネ式のため、ダンパの開閉は瞬時になされる)場合については、ダンパを閉じる動作と消火器を作動させる動作が同時でも問題はない。
ただし、工作機械によっては、モータ作動式ダンパが装着されているものがあり、この場合には火災検知信号を受けてからモータ作動式ダンパが閉じるまでに時間がかかる。即ち、瞬時には閉じない。
【0052】
従って、このようにダンパが完全に閉じるまでに時間がかかる場合には、火災検知と同時に消火器が作動すると、火災抑制エアロゾルが機械外部へ排出されてしまい、消火能力が低下し、消火できないといったケースが発生する。
この問題に対しては、工作機械に取り付けられているダンパが閉鎖するまでにかかる時間に合わせて、火災検知から消火器作動までのディレイをシステムで制御することで確実で効率の良い消火を実現できる。
【0053】
例1)
バネ作動式ダンパを用いて、ディレイを0秒としたシステム設定とした。
火災検知と同時にダンパーを閉じ、消火器を作動する。
結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
例2)
閉じるまでに10秒かかるモータ作動式ダンパを用いて、ディレイを0秒としたシステム設定とした。
火災検知と同時に消火器を作動するが、モータ作動式ダンパは10秒後に閉じる。
結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
例3)
閉じるまでに10秒かかるモータ作動式ダンパを用いて、ディレイを10秒としたシステム設定とした。
火災検知をし、10秒後にモータ作動式ダンパが閉鎖し、消火器が作動する。
結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
例1及び例3は、ダンパが閉鎖した状態(工作機械の排気機構が停止した状態)で消火器を作動するため、効率の良い消火ができるが、例2で示した設定では、モータ作動式ダンパが開いた(閉じきらない)状態で消火器が作動するため、排気機構より火災抑制粒子(エアロゾル)が排出され、場合によっては消火できない。
従って、消火器を作動するには、工作機械の排気機構を含めたシステムが必要となる。
【0060】
本発明における消火システムにおいては、制御装置20内に内蔵したICのプログラムによってディレイ時間の調節が可能なため、工作機械ごとに常に最適な消火を実現することができる。
また、特に無人運転を行う工作機械においては、『確実な消火』を実現することが必要であり、本実施形態に係る消火システムが非常に有効である。
【0061】
次に、本実施形態に係る消火システムを試験によって確認する。
本実施形態に係る消火システムを用いて模擬消火試験を実施した。
図17〜図20は、工作機械内部を模擬した容器を示す。内部容積は0.4m3である。
排気条件は、ミストコレクタのモデル選定における風量計算及びヒュームフードの実力より設定した。ここでは、排出口径:φ75mm、排出口風速:20m/sとした。ダンパの排気量は、0.088m3/sである。
【0062】
模擬火災として、切削油(300cc)を燃焼させた。
試験は、ダンパが閉じるまでの時間を調整し、消火器を作動させてから、ダンパを閉じた場合の消火能力を検証した。
試験結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
表4から下記の事項が確認された。
・ダンパが閉鎖された状態であれば、迅速な消火ができる(No.1、No.4)。
・火災抑制粒子が排出されるため、消火はできるが、消火までに時間がかかる(No.2)。
【0065】
・消火器の粒子噴射時間は、30gでは約7秒程度であり、消火器が停止してからダンパを閉じても消火はできない(No.3)。
・排気能力に対しても、消火剤の能力(薬量)を大きくすることで、消火は可能であるが、消火までに時間がかかっており、好ましくない(No.5)。
以上より、本実施形態に係る消火システムにより、火災を消火できることを確認した。
また、排気用のダンパを閉じることが有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、一定容積内の火災に対して高い信頼性を有する小型の消火システムを提供できるので、工作機械類に限らず適用することが可能である。しかも、消火剤の容量が減衰しない消火用火工品を使用した消火システムであるから、長期間保管においても可能である。更に、火炎抑制エアロゾルを発生する消火用火工品の消火能力を、確実に発揮できるので、あらゆる火災の消火に対して信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0067】
10 工作機械
11 加工室
16 排気装置
17 吸込口
18 モータ作動式ダンパ
19 排気ダクト
20 制御装置
21 火災検出装置
22 消火装置
220、250、270 消火用火工品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械類の加工室に設置される排気装置と、
前記加工室内に設置される火炎検出装置と、
前記加工室内に設置され、エアロゾルを生成させる消火装置と、
前記火炎検出装置による前記加工室内で発生した火炎の検出に基づいて前記排気装置に排気停止を行わせるとともに前記消火装置に作動指令を出す制御装置と
を備えることを特徴とする消火システム。
【請求項2】
請求項1記載の消火システムにおいて、
前記火災検出装置は、熱感知センサである
ことを特徴とする消火システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の消火システムにおいて、
前記消火装置は、薬剤の燃焼によって無毒の火炎抑制エアロゾルを発生する消火用火工品である
ことを特徴とする消火システム。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか記載の消火システムにおいて、
前記制御装置は、前記火炎検出装置による前記加工室内で発生した火炎の検出に基づいて前記排気装置に排気停止を行わせた後、前記消火装置に作動指令を出す
ことを特徴とする消火システム。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか記載の消火システムにおいて、
前記制御装置は、前記火炎検出装置による前記加工室内で発生した火炎の検出に基づいて前記排気装置に排気停止と同時に、前記消火装置に作動指令を出す
ことを特徴とする消火システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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