説明

消火装置

【課題】簡単な構成で長期にわたって継続的に加圧ガスを消火ガス貯留容器に供給することができるとともに、設置スペースおよびコストを低減することができる消火装置を提供する。
【解決手段】液化消火ガス13が貯留される消火ガス貯留容器10と、消火ガス貯留容器内の液化消火ガスを、所定の圧力で加圧するための加圧ガス33が貯留される加圧ガス貯留容器30と、消火ガス貯留容器から放出された消火ガスを、消火対象領域に導く消火ガス輸送手段20と、加圧ガス貯留容器から放出された加圧ガスを、消火ガス貯留容器に導く加圧ガス輸送手段41,42と、加圧ガス輸送手段による加圧ガス貯留容器から消火ガス貯留容器に導かれる加圧ガスの流路に設けられ、この流路の加圧ガス貯留容器に連なる上流側流路の加圧ガスを、消火ガス貯留容器に連なる下流側流路に前記所定の圧力に減圧して放出する減圧弁43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化消火ガスが貯留された消火ガス貯留容器に加圧ガス貯留容器から加圧ガスを供給して、消火ガス貯留容器から液化消火ガスを所定時間、継続して放出することができる消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、消火装置においては、圧力容器本体内に消火剤である液化消火ガスが貯留されるとともに、この液化消火ガスを圧力容器本体内から押出すための加圧ガスが充填され、圧力容器本体に装着された容器弁の開放に伴って加圧ガスの圧力で液化消火ガスを輸送管へ放出するように構成された蓄圧式の消火ガス貯留容器が用いられている。
【0003】
このような蓄圧式の消火ガス貯留容器では、液化消火ガスが放出されると、圧力容器本体内における液化消火ガスの容積の減少に伴って、加圧ガスの占有容積が増大する。それ故、消火ガス貯留容器からの液化消火ガスの放出が進むにつれて、圧力容器本体内における加圧ガスの圧力が徐々に低下してしまう。したがって、液化消火ガスの放出の勢いを減衰させずに一定時間、継続して輸送管へ放出し続けるためには、複数の消火ガス貯留容器を設置しておかなければならないという問題がある。
【0004】
このような問題を解決する従来技術の消火装置が、たとえば特許文献1に開示されている。図5は、特許文献1に開示される従来技術の消火装置101の構成の一部を概略的に示す系統図である。消火装置101は、液化消火ガス105と加圧ガス106とが充填される液化消火ガス貯留槽102と、加圧ガスが充填される加圧ガス貯留槽103と、液化消火ガス貯留槽102の頂部に装着される第1容器弁107と、加圧ガス貯留槽103の頂部に装着される第2容器弁144と、起動装置112とを備える。火災の発生が火災検出器によって検出されると、起動装置112から第1容器弁107に高圧の起動ガスが送出され、第1容器弁107が起動ガスの圧力によって開放され、液化消火ガス105が液化消火ガス貯留槽102から放出され、搬送管109を介して消火すべき部屋である防護区画へ供給される。
【0005】
また、前記搬送管109には、分岐搬送管145が分岐して接続されており、この分岐搬送管145を介して、液化消火ガス貯留槽102から放出された液化消火ガス105の圧力によって第2容器弁144が開放される。第2容器弁144が開放されると、加圧ガス貯留槽103内に充填されている加圧ガスが、加圧ガス導出管146および逆止弁147を介して、液化消火ガス貯留槽102へ供給される。これにより、液化消火ガス貯留槽102内の液化消火ガス105の減少に伴う液化消火ガス貯留槽102内の加圧ガス106の圧力低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−79758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6は、他の従来技術に係る消火装置151の構成の一部を概略的に示す系統図である。消火装置151は、液化消火ガス155と加圧ガス156とが充填された消火ガス貯留容器152と、消火ガス貯留容器152へ供給するための加圧ガス157が充填された加圧ガス貯留容器153とを備え、消火ガス貯留容器152に設けられる第1容器弁161を開放することによって、消火ガス貯留容器152内の加圧ガス156の圧力によって液化消火ガス155が輸送管159へ放出されるとともに、消火ガス貯留容器152に設けられる第2容器弁162および加圧ガス貯留容器153に設けられる容器弁163を開放することによって、容器弁163、オリフィス165が設けられる加圧ガス輸送管164および第2容器弁162によって形成される加圧ガス輸送路を介して、加圧ガス貯留容器153から消火ガス貯留容器152へ加圧ガス157が供給されるように構成されている。
【0008】
この消火装置151では、消火ガス貯留容器152には、3MPaの加圧ガス156が40L充填されているのに対し、加圧ガス貯留容器153には、消火ガス貯留容器152に充填される液化消火ガス155を3MPa程度の押出し圧力で一定時間継続して放出するために必要な量として、15MPaの加圧ガス157が80L充填されており、加圧ガス157は、加圧ガス輸送路において減圧されて消火ガス貯留容器152に供給される。
【0009】
図7は、さらに他の従来技術に係る消火装置171の構成の一部を概略的に示す系統図である。この消火装置171は、前記消火ガス貯留容器152に充填された液化消火ガス155と加圧ガス156と同量かつ同圧で液化消火ガス175と加圧ガス176とが充填された消火ガス貯留容器172と、加圧ガス177が充填された5本の加圧ガス貯留容器173とを備え、消火ガス貯留容器172に充填される液化消火ガス175を3MPa程度の押出し圧力で一定時間継続して放出するために必要な量として、各加圧ガス貯留容器173には、3MPaの加圧ガス157が80L充填されている。
【0010】
図6に示す消火装置151は、加圧ガス貯留容器153に充填する加圧ガス157の圧力を高圧にすることによって、図7に示す消火装置171よりも加圧ガス貯留容器の設置本数を低減することができ、すなわち、加圧ガス貯留容器153を設置するために必要な空間を低減することができる。
【0011】
しかしながら、消火装置151では、第2容器弁162および容器弁163が誤作動してしまった場合、または、第2容器弁162および容器弁163において加圧ガス157の漏洩が生じた場合、オリフィス165によって流量が制御されるため瞬時の圧力上昇は生じないが、平衡状態においては、消火ガス貯留容器152および加圧ガス貯留容器153内における加圧ガスの圧力がいずれも11MPa程度になってしまう。
【0012】
したがって、消火装置151では、安全性を考慮して、消火ガス貯留容器152に、少なくとも11MPa以上の許容圧力を有する圧力容器を用いておく必要がある。これに対し、消火装置171では、消火ガス貯留容器172内における加圧ガスの圧力が不所望に増大するおそれがないので、消火ガス貯留容器172に、4MPa程度の許容圧力を有する圧力容器を用いればよい。このように、消火装置151の場合には、消火ガス貯留容器152の許容圧力を高くしておく必要があるために、消火ガス貯留容器152に対するコストが増大してしまうという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、簡単な構成で長期にわたって継続的に加圧ガスを消火ガス貯留容器に供給することができるとともに、加圧ガス貯留容器の設置本数を低減し、設置スペースおよびコストを低減することができる消火装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、液化消火ガスが貯留される消火ガス貯留容器と、
消火ガス貯留容器内の液化消火ガスを、所定の圧力で加圧するための加圧ガスが貯留される加圧ガス貯留容器と、
消火ガス貯留容器から放出された液化消火ガスを、消火対象領域に導く消火ガス輸送手段と、
加圧ガス貯留容器から放出された加圧ガスを、消火ガス貯留容器に導く加圧ガス輸送手段と、
加圧ガス輸送手段による加圧ガス貯留容器から消火ガス貯留容器に導かれる加圧ガスの流路に設けられ、この流路の加圧ガス貯留容器に連なる上流側流路の加圧ガスを、消火ガス貯留容器に連なる下流側流路に前記所定の圧力に減圧して放出する減圧弁とを備えることを特徴とする消火装置である。
【0015】
また本発明は、前記減圧弁は、前記下流側流路の加圧ガスの圧力に応答して、前記上流側流路の加圧ガスを減圧して放出するように作動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消火装置は、加圧ガス貯留容器から消火ガス貯留容器に導かれる加圧ガスの流路に、この流路の加圧ガス貯留容器に連なる上流側流路の加圧ガスを、消火ガス貯留容器に連なる下流側流路に所定の圧力に減圧して放出する減圧弁を設けるという構成を採用している。それ故、加圧ガス貯留容器に高圧の加圧ガスを充填しておくことができるとともに、消火ガス貯留容器の許容圧力を高くしておく必要がない。したがって、長期にわたって継続的に加圧ガスを消火ガス貯留容器に供給することができるとともに、加圧ガス貯留容器の設置本数を低減し、設置スペースおよびコストを低減することができる。
【0017】
また本発明によれば、減圧弁が、下流側流路の加圧ガスの圧力に応答して、上流側流路の加圧ガスを減圧して放出するように作動するので、消火装置の構成を複雑化することなく簡素な構成によって、長期にわたって継続的に加圧ガスを消火ガス貯留容器に供給することができるとともに、加圧ガス貯留容器の設置本数を低減し、設置スペースおよびコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る消火装置1の概略的な構成を示す系統図である。
【図2】本実施形態の消火装置1に備えられる急速開放調圧弁43の構成を示す断面図である。
【図3】急速開放調圧弁43の封圧部分の構造例を示す部分断面図である。
【図4】急速開放調圧弁43の弁体部材202の寸法関係およびこれによる圧力調整機能の説明図である。
【図5】従来技術の消火装置101の構成の一部を概略的に示す系統図である。
【図6】他の従来技術に係る消火装置151の構成の一部を概略的に示す系統図である。
【図7】さらに他の従来技術に係る消火装置171の構成の一部を概略的に示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る消火装置1の概略的な構成を示す系統図である。消火装置1は、たとえばビルなどの建物に設置され、火災の発生に応じて、消火対象領域D1に消火ガスを放出可能に構成されている。
【0020】
消火装置1は、大略的に、消火ガス貯留容器10と、消火ガス輸送手段である輸送管20と、放出ノズル21と、加圧ガス貯留容器30と、加圧ガス輸送手段である第1および第2輸送管41,42と、圧力制御のための減圧弁である急速開放調圧弁43と、火災感知器50と、起動装置60とを備えて構成されている。
【0021】
消火ガス貯留容器10は、圧力容器本体11と、蓋体12とを備えている。圧力容器本体11には、容器頂部において開口が形成されており、蓋体12は、この開口を開放/閉塞するように、圧力容器本体11に対して着脱可能である。すなわち、蓋体12を装着し、前記開口を閉塞することによって、消火ガス貯留容器10の内部には密閉空間が形成される。
【0022】
消火ガス貯留容器10は、前記開口を閉塞することによって形成された内部空間に対して、液化消火ガス13と、所定の圧力に圧縮された加圧ガス14とを充填した状態で、たとえばボンベ室D2に設置される。このとき、ボンベ室D2には、消火対象領域D1において発生した火災を消火するために十分な量の液化消火ガス13が備えられ、本実施形態では、2本の消火ガス貯留容器10を設置することによって、十分な量の液化消火ガス13が備えられている。
【0023】
消火ガス貯留容器10としては、内部に充填される加圧ガス14の圧力に対して適した耐圧性を有する圧力容器本体11が用いられている。本実施形態では、内部に充填される液化消火ガス13を3MPa程度の押出し圧力で外部へ押出すために、加圧ガス14が3MPa程度の圧力で充填されている。したがって、圧力容器本体11としては、4MPa程度の許容圧力を有するものが用いられている。
【0024】
なお、消火ガス貯留容器10に充填される液化消火ガス13としては、消火作用を有するものであれば特に限定されないが、たとえば二酸化炭素、ハロゲン化物などを挙げることができる。また加圧ガス14としては、たとえば窒素ガスなどの不活性ガスを挙げることができる。
【0025】
また蓋体12には、消火ガス貯留容器10内の液化消火ガス13を外部へ導出するための流路(以下、「消火ガス流路」と称する)が形成されるとともに、消火ガス貯留容器10の内部空間へ加圧ガスを導入するための流路(以下、「第1加圧ガス流路」と称する)が形成され、さらに、消火ガス流路および第1加圧ガス流路をそれぞれ開放/閉塞するための図示しない容器弁が設けられている。
【0026】
消火ガス流路を開閉可能な一方の容器弁(以下、「第1容器弁」と称する)は、常時は、前記消火ガス流路を閉塞している閉状態を維持し、火災の発生に応じて、起動装置60によって作動されて、前記閉状態から消火ガス流路を開放している開状態へ移行するように構成されている。
【0027】
また、第1加圧ガス流路を開閉可能な他方の容器弁(以下、「第2容器弁」と称する)は、常時は、前記第1加圧ガス流路を閉塞している閉状態を維持し、火災の発生に応じて、起動装置60によって作動されて、前記閉状態から第1加圧ガス流路を開放している開状態へ移行するように構成されている。
【0028】
蓋体12には、さらに、第1容器弁の入力ポートに連通するように、導入管15aの一端部が連結され、第1容器弁の出力ポートに連通するように、輸送管20における液化消火ガス13の輸送方向上流側の端部が連結されている。この導入管15aは、蓋体12を圧力容器本体11に装着した状態において、第1容器弁に連結される側とは反対側の他端部が、圧力容器本体11内における容器底部の近傍に配置されるような寸法に形成されている。
【0029】
蓋体12には、さらに、第2容器弁の入力ポートに連通するように、第2輸送管42における加圧ガスの輸送方向下流側の端部が連結され、第2容器弁の出力ポートに連通するように、導入管15bの一端部が連結される。この導入管15bは、蓋体12を圧力容器本体11に装着した状態において、第2容器弁に連結される側とは反対側の他端部が、消火ガス貯留容器10に充填された液化消火ガス13の液面よりも上方に配置されるような寸法に形成されている。
【0030】
輸送管20は、消火ガス流路が開放されることによって消火ガス貯留容器10内から外部へ導出された液化消火ガス13を、消火対象領域D1に導くための流路を形成する。この流路には、図示しないが、流路を開閉可能に構成された開閉弁が設けられていてもよい。輸送管20において、蓋体12に設けられる第1容器弁に連結される側とは反対側の他端部は、消火対象領域D1に配置されて、放出ノズル21が装着される。
【0031】
加圧ガス貯留容器30は、圧力容器本体31と、蓋体32とを備えている。圧力容器本体31には、容器頂部において開口が形成されており、蓋体32は、この開口を開放/閉塞するように、圧力容器本体31に対して着脱可能である。すなわち、蓋体32を装着し、前記開口を閉塞することによって、加圧ガス貯留容器30の内部には密閉空間が形成される。
【0032】
加圧ガス貯留容器30は、前記開口を閉塞することによって形成された内部空間に対して、消火ガス貯留容器10へ供給するための加圧ガス33を充填した状態で、消火ガス貯留容器10と同様に、ボンベ室D2に設置される。このとき、加圧ガス貯留容器30には、ボンベ室D2に設置される消火ガス貯留容器10に貯留される液化消火ガス13を、前記所定の押出し圧力で一定時間、継続して放出させることができるように算出された量の加圧ガス33が、消火ガス貯留容器10内に充填される加圧ガス14の圧力よりも高圧に圧縮された状態で充填される。
【0033】
加圧ガス貯留容器30としては、内部に充填される加圧ガス33の圧力に対して適した耐圧性を有する圧力容器本体31が用いられている。本実施形態では、2本の消火ガス貯留容器10に充填される液化消火ガス13を、3MPa程度の押出し圧力で継続して放出させるために、加圧ガス33が30MPa程度の圧力で充填されている。したがって、圧力容器本体31としては、32MPa程度の許容圧力を有するものが用いられている。なお、加圧ガス貯留容器30には、消火ガス貯留容器10に充填される加圧ガス14と同一の物質の加圧ガス33が充填される。
【0034】
また蓋体32には、加圧ガス貯留容器30内の加圧ガス33を外部へ導出するための流路(以下、「第2加圧ガス流路」と称する)が形成され、さらに、第2加圧ガス流路を開放/閉塞するための図示しない容器弁(以下、「第3容器弁」と称する)が設けられている。
【0035】
この第3容器弁は、常時は、前記第2加圧ガス流路を閉塞している閉状態を維持し、火災の発生に応じて、起動装置60によって作動されて、前記閉状態から第2加圧ガス流路を開放している開状態へ移行するように構成されている。
【0036】
蓋体32には、さらに、第3容器弁の入力ポートに連通するように、導入管35の一端部が連結され、第3容器弁の出力ポートに連通するように、第1輸送管41における加圧ガス33の輸送方向上流側の端部が連結されている。この導入管35は、蓋体32を圧力容器本体31に装着した状態において、第3容器弁に連結される側とは反対側の他端部が、圧力容器本体31内に配置されるように形成されている。
【0037】
第1および第2輸送管41,42は、第2加圧ガス流路が開放されることによって加圧ガス貯留容器30内から外部へ導出された加圧ガス33を、消火ガス貯留容器10に導くための流路を形成する。また、この流路には、後で詳述する急速開放調圧弁43が介在されている。
【0038】
第1輸送管41は、前記のように、加圧ガス33の輸送方向上流側の端部が加圧ガス貯留容器30の蓋体32に連結され、輸送方向下流側の端部が後述する急速開放調圧弁43の入口ノズル部211に連結されている。
【0039】
また第2輸送管42は、加圧ガス33の輸送方向上流側の端部が後述する急速開放調圧弁43の出口ノズル部212に連結され、前記のように、輸送方向下流側の端部が各消火ガス貯留容器10の蓋体12に連結されている。なお、本実施形態では、急速開放調圧弁43は、第1輸送管41と第2輸送管42との間に介在されているが、他の実施形態では、急速開放調圧弁43は、蓋体32に一体に設けられていてもよい。
【0040】
図2は、本実施形態の消火装置1に備えられる急速開放調圧弁43の構成を示す断面図である。急速開放調圧弁43は、本体201、弁体部材202、本体201に形成された通路としての横導通孔214および側部導通孔215、受け部材としてのバネ受け203、カバー203a、付勢部材としての圧縮コイルバネ204、封圧手段としての封板機構205、封圧解除手段としての弁作動機構206を有する。なお、図において矢符Zで示す方向を弁開閉方向と称し、弁開閉方向Zのうち矢符Z1で示す方向を弁閉方向と称し、弁開閉方向Zのうち矢符Z2で示す方向を弁開方向と称する。
【0041】
本体201は、加圧ガス33の入口である入力ポート211aを形成する入口ノズル部211と、加圧ガス33の出口である出力ポート212aを形成する出口ノズル部212と、弁座213と、弁作動機構206を装着するためのシリンダ部216とを有するとともに、横導通孔214および側部導通孔215が形成されている。
【0042】
入口ノズル部211は、本体201の弁開方向Z2側の端部に形成され、その外周面部には、第1輸送管41を連結するためのネジ211bが刻設されている。また、出口ノズル部212は、本体201の弁開閉方向Zの略中央部から弁開閉方向Zに垂直な一半径方向外方に突出するように設けられ、その外周面には、第2輸送管42を連結するためのネジ212bが刻設されている。また、シリンダ部216は、本体201の弁開閉方向Zの略中央部から弁開閉方向Zに垂直な一半径方向外方に突出するように設けられ、弁作動機構206を挿入するための挿入口216aが形成されている。
【0043】
横導通孔214は、一端側が入力ポート211aに連通し、他端側が挿入口216aに連通するように形成されている。また、側部導通孔215は、一端側が挿入口216aに連通し、他端側が本体201の弁閉方向Z1側の端部に形成された開口217に連通するように形成されている。なお、本体201には、図示しないが圧力計やボンベ用安全弁の座などを必要に応じて適宜設けることができる。
【0044】
弁体部材202は、弁座213に接離して開閉される弁体部としてのキャップ221および弁体222、閉受圧面224、開受圧面225を備えていて、弁開閉方向Zに移動可能に本体201によって案内される。閉受圧面224は、出力ポート212aに連通する空間S1を臨み、ここから弁閉方向Z1の圧力を受ける。このため、弁体部材202が本体201によって案内される案内面には、圧力シール用のOリング207が介装されている。開受圧面225は、弁閉方向Z1の端に形成され、弁開方向Z2の圧力を受ける。
【0045】
バネ受け203は、本体201の弁閉方向Z1の端部の内側に、ねじ込まれることによってこれに装着されていて、バネ204の反力を支持している。また、弁体部材202が気密状態で摺動可能なように、弁体部材202の弁閉方向Z1の端部とバネ受け203との間がOリング208によってシールされている。圧縮コイルバネ204は、弁体部材202のバネ受け部226とバネ受け203との間に介装され、弁体部材202をZ2方向に付勢している。
【0046】
図3は、急速開放調圧弁43の封圧部分の構造例を示す部分断面図である。封圧機構205は、封圧部材としてのたとえば薄肉ステンレス鋼板などから成る封板252、弁作動機構206の内筒262で押し付けられることによって、本体201の側部との間で封板252を挟み込むパッキン253,254によって構成されている。これにより、封板252は、横導通孔214の他端側を閉鎖している。
【0047】
弁作動機構206は、シリンダ部216にねじ込みによって装着され、作動されたときに針部材265の尖端265aで封板252を突き破って開放することによって、入力ポート211aにおける加圧ガス33の圧力を、横導通孔214、封板252、内筒262に形成された孔262a、および側部導通孔215を介して、本体201の弁閉方向Z1の端部を覆うように取り付けられたカバー203aと本体201およびバネ受け203の弁閉方向Z1の端部と開受圧面225とによって形成された密閉空間S2に導く。密閉空間S2に導かれた加圧ガス33の圧力は、瞬時に開受圧面225に作用し、圧縮コイルバネ204の力によって弁体部材202を作動させて弁を開くことができる。
【0048】
弁作動機構206は、本実施形態では、起動装置60から送出される起動ガスによって針部材265を封圧機構205に向かって変位させることにより、尖端265aで封板252を突き破るように構成されている。
【0049】
図4は、以上のように構成された急速開放調圧弁43の弁体部材202の寸法関係およびこれによる圧力調整機能の説明図である。この図では、図2に示す封板252は破られていて、横導通孔214と側部導通孔215とが連通し、開受圧面225には入力ポート211aの圧力P1が付与されている。また、閉受圧面224には出力ポート212aの圧力P2が付与されている。
【0050】
弁体部材202は、圧力調整機能に関連した各部寸法として、弁座213の寸法としての弁座の当たり部分の中心直径d2、閉受圧面224の寸法としての外径d4、および開受圧面225の寸法としての外径d3を有する。これら各部寸法および付勢力としての図示のバネ力Fとは、出力ポート212aの圧力P2が所定圧力以下になる関係に定められる。なお、d1は、出力ポート212aの圧力P2が作用する弁体部材202の軸部の最小直径で、中間的に介在する寸法である。
【0051】
上記のような関係に構成するためには、出力ポート212aの圧力P2が所定圧力以上になると弁が閉鎖するように上記寸法などを定める必要がある。したがって、入力ポート211aの圧力をP1としてその条件を式にすると、
(弁閉鎖力) (π/4)〔P1×d2+P2(d4−d1)〕≧
(π/4)〔P1×d3+P2(d2−d1)〕+F (弁開放力)
したがって、
(π/4)〔P1(d2−d3)+P2(d4−d2)〕≧F …(1)
と表される。
【0052】
式(1)の左辺は圧力P1,P2による弁閉鎖力の合計であり、右辺はバネ力Fによる弁開放力である。ここで、入力ポート211aの圧力P1は一定であり、バネ力Fはバネ定数が定まると一定伸びにおいては一定の力になる。
【0053】
式(1)によれば、d4をd2より大きくしておけば、圧力P2が大きくなると弁閉鎖力が大きくなる。したがって、諸寸法およびバネ力Fを式(1)のような関係に定めると、出力ポート212aの圧力P2が一定値を越えると圧力による弁閉鎖力がバネ力Fよりも大きくなって弁が閉じ、圧力P2はそれ以上圧力P1に接近しない。それ故、出力ポート212aの圧力P2を目的とする所定圧力以下に制限することができる。
【0054】
火災感知器50は、消火対象領域D1に設置され、たとえば熱、煙、炎などの検出対象を検出可能なセンサを備え、センサによる検出結果に基づいて火災の発生を感知すると、火災の発生を示す火災発生信号を起動装置60へ出力するように構成されている。
【0055】
起動装置60は、火災感知器50から火災発生信号が入力されると、消火ガス貯留容器10および加圧ガス貯留容器30に設けられる各容器弁を作動させて、閉状態から開状態へ移行させるとともに、弁作動機構206を作動させて封板252を突き破るように構成されている。容器弁の作動方法は、容器弁を開閉するための機構に応じて適宜選択される。
【0056】
以下、消火対象領域D1において火災が発生した場合における消火装置1の動作を説明する。
【0057】
消火対象領域D1において火災が発生すると、火災感知器50によって火災発生信号が起動装置60へ出力される。起動装置60は、火災発生信号が入力されると、消火ガス貯留容器10および加圧ガス貯留容器30に設けられる各容器弁を作動させて、各容器弁を閉状態から開状態にするとともに、弁作動機構206を作動させて封圧機構205の封板252を突き破る。
【0058】
消火ガス貯留容器10の第1容器弁が開状態にされると、輸送管20と導入管15aとが連通する。これにより、消火ガス貯留容器10内に充填されている加圧ガス14の圧力によって、液化消火ガス13が消火ガス貯留容器10から輸送管20へ放出される。輸送管20へ放出された液化消火ガス13は、輸送管20によって形成された流路に沿って流下し、放出ノズル21から消火ガスとして消火対象領域D1内へ放出される。
【0059】
また、消火ガス貯留容器10の第2容器弁が開状態にされると、第2輸送管42と導入管15bとが連通する。これにより、急速開放調圧弁43の出力ポート212aには、消火ガス貯留容器10内に充填されている加圧ガス14の圧力が導かれる。
【0060】
また、加圧ガス貯留容器30の容器弁が開状態にされると、第1輸送管41と導入管35とが連通する。これにより、加圧ガス貯留容器30内に充填されている加圧ガス33が第1輸送管41へ放出され、急速開放調圧弁43の入力ポート211aには、加圧ガス33の圧力が導かれる。
【0061】
また、急速開放調圧弁43において、封圧機構205の封板252が突き破られると、横導通孔214と側部導通孔215とが連通することにより、弁体部材202の開受圧面225に対して、入力ポート211aに導かれた加圧ガス33の圧力が付与される。これにより、急速開放調圧弁43は、出力ポート212aにおける加圧ガス14の圧力に応じて、弁を開閉することができる。
【0062】
一方、消火ガス貯留容器10から液化消火ガス13が放出されると、消火ガス貯留容器10内における加圧ガス14の占有容積が増大し、加圧ガス14の圧力が低下する。この消火ガス貯留容器10内における加圧ガス14の圧力低下に応答して、急速開放調圧弁43の出力ポート212aに導かれている加圧ガス14の圧力も同様に低下する。
【0063】
消火ガス貯留容器10からの液化消火ガス13の放出開始からの時間が経過し、急速開放調圧弁43の出力ポート212aに導かれている加圧ガス14の圧力が所定の設定圧力よりも低下すると、上流側流路と下流側流路とを閉塞する閉塞位置へ変位していた弁体部材202が、弁座213から離間する方向に変位される。これにより、上流側流路から高圧の加圧ガス33が下流側流路へ流入し、下流側流路およびそれに連なる消火ガス貯留容器10内の加圧ガス14の圧力が上昇する。
【0064】
急速開放調圧弁43における前記所定の設定圧力は、消火ガス貯留容器10内の液化消火ガス13を加圧するための加圧ガス14が、液化消火ガス13を押出すための所定の圧力を維持することができるような圧力に設定される。本実施形態では、急速開放調圧弁43における設定圧力は、3MPaである。
【0065】
上流側流路から下流側流路へ加圧ガス33が流入することにより、急速開放調圧弁43の出力ポート212aにおける加圧ガス14の圧力が再び所定の設定圧力よりも上昇すると、弁座213から離間していた弁体部材202が、再び閉塞位置まで変位する。これにより、上流側流路から下流側流路への加圧ガス33の流入が停止される。
【0066】
消火ガス貯留容器10から液化消火ガス13の放出が開始された後は、前記のように、急速開放調圧弁43の出力ポート212aにおける加圧ガス14の圧力に応答して、弁体部材202が変位駆動することにより、断続的に上流側流路の加圧ガス33が下流側流路に流入される。
【0067】
これにより、消火ガス貯留容器10内の加圧ガス14の圧力が所定の圧力を維持するように、加圧ガス貯留容器30から消火ガス貯留容器10へ加圧ガス33を供給することができる。
【0068】
以上のように、消火装置1は、加圧ガス貯留容器30から消火ガス貯留容器10に導かれる加圧ガス33の流路に、この流路の加圧ガス貯留容器30に連なる上流側流路の加圧ガス33を、消火ガス貯留容器10に連なる下流側流路に所定の圧力に減圧して放出する急速開放調圧弁43を設けるという構成を採用している。それ故、加圧ガス貯留容器30に高圧の加圧ガス33を充填しておくことができるとともに、消火ガス貯留容器10の許容圧力を高くしておく必要がない。したがって、長期にわたって継続的に加圧ガス33を消火ガス貯留容器10に供給することができるとともに、加圧ガス貯留容器30の設置本数を低減し、設置スペースおよびコストを低減することができる。
【0069】
また、急速開放調圧弁43は、下流側流路の加圧ガス14の圧力、すなわち二次側の圧力に応答して、上流側流路の加圧ガス33を減圧して放出するように作動するので、消火装置1の構成を複雑化することなく簡素な構成で、長期にわたって継続的に加圧ガス33を消火ガス貯留容器10に供給することができるとともに、加圧ガス貯留容器30の設置本数を低減し、設置スペースおよびコストを低減することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 消火装置
10 消火ガス貯留容器
11 圧力容器本体
12 蓋体
13 液化消火ガス
14 加圧ガス
20 輸送管
30 加圧ガス貯留容器
31 圧力容器本体
32 蓋体
33 加圧ガス
41 第1輸送管
42 第2輸送管
43 急速開放調圧弁
50 火災感知器
60 起動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化消火ガスが貯留される消火ガス貯留容器と、
消火ガス貯留容器内の液化消火ガスを、所定の圧力で加圧するための加圧ガスが貯留される加圧ガス貯留容器と、
消火ガス貯留容器から放出された液化消火ガスを、消火対象領域に導く消火ガス輸送手段と、
加圧ガス貯留容器から放出された加圧ガスを、消火ガス貯留容器に導く加圧ガス輸送手段と、
加圧ガス輸送手段による加圧ガス貯留容器から消火ガス貯留容器に導かれる加圧ガスの流路に設けられ、この流路の加圧ガス貯留容器に連なる上流側流路の加圧ガスを、消火ガス貯留容器に連なる下流側流路に前記所定の圧力に減圧して放出する減圧弁とを備えることを特徴とする消火装置。
【請求項2】
前記減圧弁は、前記下流側流路の加圧ガスの圧力に応答して、前記上流側流路の加圧ガスを減圧して放出するように作動することを特徴とする請求項1記載の消火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−16415(P2012−16415A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154363(P2010−154363)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(390010342)エア・ウォーター防災株式会社 (56)
【Fターム(参考)】