説明

消臭剤及び消臭処理物品

【課題】 バインダー中の残留モノマーや、油剤、染料などの各種繊維処理材によるゼオライトの消臭力低下を抑制し、ゼオライト本来の消臭機能を維持することができる消臭剤及びこれで処理した繊維製品を提供すること。
【解決手段】 モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、バーミュキュライト、フッ素四珪素雲母等のインターカレーション能を有する層状化合物と、ゼオライトを含有する消臭剤、及び該消臭剤で処理した繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消臭剤に関し、さらに詳しくは、広い範囲の有害な臭気成分を吸着・持続できる消臭剤に関する。本発明はさらにこの消臭剤により処理された物品、例えば、繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、悪臭や揮発性有機化合物に対する消臭ニーズが急速に高まっており、衣料、カーペット、カーテン、自動車のシートやエアコン、電気製品のフィルター等、種々の繊維製品に消臭性を持たせる試みがなされている。例えば、ポルフィリン系及びフラボン系の酸化還元能をもつ金属錯体による悪臭物質の分解が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかしこれらの金属錯体は有色化合物であるため、白色や淡色繊維に加工した際には着色を起こしてしまう問題があった。
一方、ゼオライトは、結晶中に存在する陽イオンによる静電場の働きにより臭気発生物質であるアミン類、含硫黄化合物、アルデヒド類、有機酸、低級脂肪酸、ケトン類、インドール類、アンモニアなど広範囲な悪臭に対して高い消臭効果を有しており、また活性炭や金属錯体とは異なり一般に白色物質であることから、繊維等への応用が期待されている。また、ゼオライトの中でもSiO2/Al23モル比が30以上のものは疎水性ゼオライトと呼ばれ、高湿度環境下でも水分を吸着することなく、安定的に有機酸、アルデヒド類、トルエン等の揮発性有機化合物を吸着できる材料として繊維製品への応用が提案されている(特許文献3)。
しかし、ゼオライトを繊維に配合した場合、繊維または繊維処理材中に含まれる微量の有機成分(残留モノマー、樹脂添加剤、油剤、帯電防止剤、染料等)がゼオライト粒子に吸着または付着することでゼオライトの空隙を塞いでしまい、本来ゼオライトの持つ高い消臭能力を十分に発揮することができないという問題を抱えていた。特に、繊維表面にゼオライトをコーティングで後加工する場合は、バインダー中の残留モノマーや、油剤、染料などの繊維処理材の影響を特に受けやすい。
【0003】
【特許文献1】特公平2−13064
【特許文献2】特公平2−44952
【特許文献3】特開平7−310226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、消臭剤を提供することである。さらに詳細には、バインダー中の残留モノマーや、油剤、染料などの各種繊維処理材によるゼオライトの消臭力低下を抑制し、ゼオライト本来の消臭機能を維持することができる消臭剤を提供することである。
本発明の他の目的は、上記消臭剤により処理され、消臭能に優れた物品、例えば、繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、インターカレーション能を有する層状化合物をゼオライトと併用することにより、バインダー中の残留モノマーや、油剤、染料などの各種繊維処理材によるゼオライトの消臭力低下を抑制し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
本発明は以下に示す消臭剤及び繊維製品を提供するものである。
(1)インターカレーション能を有する層状化合物とゼオライトを含有する消臭剤。
(2)インターカレーション能を有する層状化合物が、0.75〜15nm層間容積が0.1cm3/g以上、かつ7.5〜7500nm層間容積が0.5cm3/g以上である上記1記載の消臭剤。
(3)インターカレーション能を有する層状化合物をゼオライトに対して10〜500質量%含有する上記1または2記載の消臭剤。
(4)上記1〜3のいずれか1項記載の消臭剤により処理された物品。
(5)繊維製品である上記4記載の物品。
【発明の効果】
【0006】
本発明の消臭剤は、残留モノマーなどの低分子量有機成分の吸着は勿論のこと、ゼオライトの細孔を塞いでしまうような蛍光染料、油剤、糊剤といった比較的分子量の大きな有機物までインターカレーション能を有する層状化合物が吸着するため、加工時におけるゼオライトの吸着能低下を軽減することが可能となる。
ゼオライトとともにインターカレーション能を有する層状化合物を配合した本発明の消臭剤の消臭力低下抑制のメカニズムは明確ではないが、以下のようなことが考えられる。つまり、インターカレーション能を有する層状化合物はゼオライトと同様に極性分子や分極性分子を吸着する能力を有しているが、ゼオライトのような限定された細孔径ではなく、比較的自由に変化することができる層状構造を有しているため、ゼオライトとは異なり色素、蛍光染料、油剤、糊剤など比較的分子量の大きい有機分子でも吸着することが可能である。そのため、ゼオライトの細孔を塞いでしまうような比較的分子量の大きな有機物までインターカレーション能を有する層状化合物が吸着し、加工時におけるゼオライトの吸着能低下を軽減することが可能となる。尚、インターカレーション能を有する層状化合物自身もある程度の消臭性能を示すといわれているが、本実施例に記載されているように、その程度は極めて低く、殆ど消臭力を示していないことから、インターカレーション能を有する層状化合物は単なる消臭剤として機能しているものではないと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に使用するインターカレーション能を有する層状化合物とは、層状構造を有する物質の層と層の間に目的の分子、イオンなど異種の物質を挿入できる性能を有する化合物である。
このような化合物の具体例としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、バーミュキュライト、白雲母、金雲母、フッ素四珪素雲母、カオリナイト、セピオライト、カネマイト、マガディアイト、トバモライト、フライポンタイト等の層状ケイ酸塩、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、リン酸アルミニウムなどの層状リン酸塩、グラファイトなどの層状炭素化合物、層状チタン酸塩、層状ウラン酸塩、層状バナジン酸塩、層状ニオブ酸塩、層状タングステン酸塩、層状モリブデン酸塩、ハイドロタルサイトなどの層状水酸化物が挙げられる。またそれぞれの層間にカチオン界面活性剤やアニオン界面活性剤などの有機成分を担持させた有機変性層状化合物も本発明に使用できる。
【0008】
これらのインターカレーション能を有する層状化合物のなかで、0.75〜15nm層間容積が0.1cm3/g以上、かつ7.5〜7500nm層間容積が0.5cm3/g以上であるものは、広い範囲の繊維または繊維処理材中に含まれる微量の有機成分を効率よく吸着することから好ましい。
0.75〜15nm層間容積とは、BET式窒素ガス吸着法による測定値である。BET式窒素ガス吸着法は、被験粒子の表面に吸着占有面積がわかる窒素ガスを吸着させる。吸着した窒素ガスが何層も吸着すると層間中にガス分子が凝集する。この窒素ガス分子の凝縮量から被験粒子の層間容積を測定する方法で、島津製作所製トライスター3000装置などで測定できる。
上記の条件に適合したインターカレーション能を有する層状化合物としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、バーミュキュライト、フッ素四珪素雲母がある。
【0009】
また7.5〜7500nm層間容積は、液体水銀圧入法による測定値である。液体水銀圧入法は、物質を濡らさず表面張力が大きい液体水銀を高い圧力で被験粒子の層間に押し込む。押し込まれた水銀量から層間容積を測定する方法で、島津製作所製ポロシメーターオートポアIV9500装置などで測定できる。
層状化合物において層間隙は、極性溶媒や無極性溶媒などを吸収させた層状化合物のC軸方向における層間の隙間であり、X線回折法または透過型電子顕微鏡により測定することが可能である。X線回折法の場合、(001)面のX線回折角(2θ)のピークから層間距離(長さ)を求め、その数値から骨格層の厚み(長さ)を減算した数値が層間隙である。
本発明の消臭剤に使用するにインターカレーション能を有する層状化合物は、5Å以上の層間隙を有するものであることが好ましい。尚、骨格層の厚みは、各層状化合物により異なるが、モンモリロナイトやヘクトナイト等の2:1型の層状ケイ酸塩は9Åである。
【0010】
また層状化合物の吸着能力の指標として膨潤力がある。これは、試料2gをとり、試料が親水性であるならば水、又は試料が疎水性であるならばトルエンのような有機溶剤100mlを入れたメスシリンダーに、試料を10回に分けて添加し、試料を加え終わったら栓をし、24時間静置後、メスシリンダーの下部に堆積した容積(ml)を読み取る。この膨潤力測定によって、水又は有機溶剤中での層状化合物の膨潤性を評価することができる(参考文献:日本ベントナイト工業会標準試験方法:ベントナイトの膨潤試験方法(JBAS-104-77)、(1977))。本発明の消臭剤に使用するにインターカレーション能を有する層状化合物は、膨潤力が20ml/2g以上であることが好ましい。
本発明品の膨潤力の測定条件は、被験試料に水を入れて膨潤後の容積を読みとる。
本発明に使用するインターカレーション能を有する層状化合物の粒子径は、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0011】
本発明に使用するゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩である三次元骨格構造を有するもので、種々のSiO2/Al23比を有する材料が知られており、いずれも使用できる。例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、β型ゼオライト、モルデナイト、エリオナイト、オフレタイト、クリノプチロライト、フェリエライトやZSM−5、ZSM−11、シリカライトなどのペンアタシル型ゼオライト、ハイシリカゼオライトなどがある。これらのうち、対象ガスが種々の化学物質であることから幅広く極性溶媒・非極性溶媒を共に強く吸着するSiO2/Al23比が30以上であるゼオライトが好ましく、SiO2/Al23比が100以上であるゼオライトがさらに好ましい。
本発明に使用するゼオライトの粒子径は、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
【0012】
インターカレーション能を有する層状化合物とゼオライトを含有する本発明の消臭剤の調製方法は特に制限はなく、基本的にはインターカレーション能を有する層状化合物とゼオライトを所定量混合すれば良く、液相、固相のいずれの状態であっても良い。混合装置としては、ボールミル、振動ミル、ポットミル、ヘンシェルミキサー、ロッキングミキサー、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ニーダー、ロールミル、乳鉢等が挙げられる。インターカレーション能を有する層状化合物のゼオライト100質量部に対する配合量は、10〜500質量部、好ましくは、20〜300質量部、より好ましくは、50〜200質量部である。
【0013】
本発明の消臭剤は、種々の加工方法によって基材に加工して消臭機能を発揮する製品を製造できる。例えば繊維製品では、消臭剤とバインダーを混合したものを浸漬加工、パッディング加工、塗付加工、スクリーン加工などで繊維表面に適用できる。また金属、ガラス、タイル、合成樹脂、石膏ボード、コンクリートなどにも消臭剤とバインダーの混合物を塗付加工や蒸着加工により適用することができる。
バインダーとしては各基材に適した素材のものを適宜選択することができる。繊維加工には水系エマルジョンタイプであるエチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンアクリレート共重合樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、セルロース系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂などが挙げられる。
バインダーの使用量は目的により異なるが、本発明の消臭剤100質量部に対して、通常は20〜400質量部、好ましくは50〜250質量部である。
【0014】
本発明の消臭剤は、種々の有害ガス種を対象として適用することができる。例えば、トルエン、キシレンなど揮発性有機溶媒(VOC)やアセトアルデヒド、酢酸、硫化水素、メチルメルカプタン、アンモニアなどがある。
本発明の消臭剤には、光触媒、空気触媒、酸化・還元触媒などを併用することができる。
本発明の消臭剤は、消臭能が要求される各種の物品の消臭に使用できる。このような物品としては、繊維製品(衣料、下着、インテリア品など)、寝装具製品(ベッド中綿、シーツ、枕カバー、枕中綿など)、自動車内装品(シートカバー、フロアカーペット、ヘッドライナー、ドアトリム、トランクライナーなど)、建築材料製品(壁材、床材、天井材、畳など)が挙げられる。
本発明の消臭剤の使用量は、目的、被処理物品の使用環境等により異なるが、被処理物品がシート状である場合には1m2あたり好ましくは0.1〜15g、さらに好ましくは1〜5gが適当である。また、被処理物品が非シート状である場合は1m3あたり、好ましくは0.5〜50g、さらに好ましくは5〜15gが適当である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ゼオライトとインターカレーション能を有する層状化合物を所定量混ぜて、常温下ボールミルで2時間混合した。各実施例の詳細な調製条件を表1に示す。



















【0016】
表1 消臭剤の調製条件

【0017】
調製した消臭剤についてトルエンについての消臭性を評価した。評価方法は、実施例及び比較例で調製した消臭剤全量(5部〜15部)を水500gに懸濁し、更にシリコン系バインダーを12.5g加え処理液とした。木綿布(130g/m2)に、マングルを用いてビックアップ率100%で処理液をパディング加工し、100℃で10分間乾燥させ、消臭剤添着木綿布を得た。尚、木綿布1m2当りに添着加工されている消臭剤の量は、表2の通りである。この消臭剤添着木綿布15cm×20cm(3.9g)を1000mlの容器に入れ、この容器を、初期濃度100ppmのトルエンガスで満たし、室温下3時間放置した後、残留トルエンガス濃度をガス検知管で測定した。結果を表2に示す。
【0018】
表2 消臭性能の評価結果

【0019】
ゼオライトと層状化合物を併用した本発明の実施例1〜3では残留ガス濃度が65%以下に低減している。特に、0.75〜15nm層間容積が0.1cm3/g以上、かつ7.5〜7500nm層間容積が0.5cm3/g以上の層状化合物を使用した実施例1及び2の消臭剤は、0.75〜15nm層間容積が0.1cm3/g未満の層状化合物を使用した実施例3の消臭剤よりも消臭効果が高いことがわかる。
これに対して実施例2においてゼオライトのみを使用した比較例1では、残留ガス濃度が100%であり、消臭効果は全く認められず、実施例2において層状化合物のみを使用した比較例2、及び比較例1においてゼオライトの量を2倍にした比較例3では、残留ガス濃度がそれぞれ95%及び90%であり、消臭効果が殆どないことがわかる。
以上の結果は、ゼオライトと層状化合物を併用した本発明の消臭効果が顕著に優れていることを明瞭に示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターカレーション能を有する層状化合物とゼオライトを含有する消臭剤。
【請求項2】
インターカレーション能を有する層状化合物が、0.75〜15nm層間容積が0.1cm3/g以上、かつ7.5〜7500nm層間容積が0.5cm3/g以上である請求項1記載の消臭剤。
【請求項3】
インターカレーション能を有する層状化合物をゼオライトに対して10〜500質量%含有する請求項1または2記載の消臭剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の消臭剤により処理された物品。
【請求項5】
繊維製品である請求項4記載の物品。

【公開番号】特開2007−61549(P2007−61549A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254977(P2005−254977)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(391031764)株式会社シナネンゼオミック (20)
【Fターム(参考)】