説明

消臭被覆材

【課題】堆肥や施肥後の畑あるいは生ゴミ、ペットの排泄物の上など、においの発生源にかぶせて用いる消臭被覆材に関するもので、付着した臭気や発生する臭気を消臭し、新たな臭気を発生させることなく、更には、長期間にわたり高い効果を持続することができると共に使用可能な消臭被覆材
【解決手段】インド南部からニューギニアにかけて分布するフタバガキ科の樹木で、Vatica属あるいはCotylelobium属に属するレサックの樹材を粉砕し、水または水可溶性の溶剤による抽出物を含浸せしめたことを特徴とする消臭被覆材である。抽出物にはバチカノールCが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥や施肥後の畑あるいは生ゴミ、ペットの排泄物の上など、においの発生源にかぶせて用いる消臭被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
畑に鶏糞、畜糞等を施肥すると周囲ににおいが漂い、都市部では近隣に迷惑がかかる。すきこんでマルチングすれば若干抑えれるが充分ではない。堆肥、生ゴミあるいはペットの排泄物等生活環境でにおいを発するものは多い。これらの臭気を除去する方法としては、芳香剤によるマスキング効果を利用した方法が多く採られてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、芳香剤を利用した方法では、その芳香剤と臭気との混合された臭気が新たな別の不快臭気となったり、十分なマスキング効果を出すのに多量に芳香剤を使用したために芳香が強くなりすぎてかえって不快に感じられたり、また、臭気の原因成分の分解等に作用していないので、芳香剤が揮散した後に再度、臭気が感じられる場合も多く、根本的な解決とはならず、また、効果としては不充分なものであった。発明者らは、これら臭気のもとを封じこめる被覆材に消臭性をもたせることで有効に臭気をおさえることができ本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らはフタバガキ科のレサックの樹材からの抽出物が大きな消臭効果のあることを見出した。本発明は上記に鑑みなされたもので、請求項1の発明はフタバガキ科レサック樹材の、水または水可溶性の溶剤による抽出物を含浸せしめたことを特徴とする消臭被覆材である。
【0005】
請求項2の発明は、下記化1に示す構造を有するスチルベン四量体化合物を含浸せしめたことを特徴とする消臭被覆材である。
【化1】



但し、Rは水素、メチル基又はアセチル基であり、C1とC2、又はD1とD2は入れ替わってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の消臭被覆材は、フタバガキ科レサック樹材の、水または水可溶性の溶剤による抽出物(消臭抽出物)を被覆材媒体に含浸せしめたことを特徴とする。レサックはインド南部からニューギニアにかけて分布するフタバガキ科の樹木で、Vatica属あるいはCotylelobium属に属する。レサックは樹脂分が多く、常法により溶剤抽出できる。溶剤は、アセトン、エーテル、アルコール、石油ベンジン等通常用いられる溶剤を使用することも出来るが、水可溶性の溶剤を用いることが後で水に分散しようとするとき分散しやすく好ましい。さらには、水単独でも、樹材を微粉砕し煮沸することで、有効成分たるスチルベン四量体化合物を抽出することができる。水可溶性の溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン等を用いることが出来る。人に対する安全性からエタノールを好ましく使うことができる。
【0007】
フタバガキ科レサック樹材は南洋材として知られ、Cotylelobium属ではC.flavum Pierre、C.malayanum V.SL.、C.melanoxylon Pierre、C.burckii Heim、C.lanceolatum Craiv、C.beccarii Pierre、C.harmandii Heimなどがあげられる。Vatica属ではV.blancona Elm、V.elliptica Foxw、V.mangachapoi Blco、V.mindanensis Foxw、V.obtusifolia ELM、V.pachyphylla Merr、V.papuana Dyer、V.whitfordii Foxw、V.albiramis V. Sl.、V.bancana Scheff、V.dulitensis Sym、V.maingayi Dyer、V.mangachapoi Bluco、V.marilima V. Sl.、V.micrantha V. Sl.、V.oblongifolia Hook. f.、V.sarawakensis Heim、V.scortechinii Brandis、V. umbonata Burck、V. bantamensis Burck、V. borneensis Burck、V. coriacea Ashton、V. cupularis V. Sl.、V. granulata V. Sl.、V. havilandii Brandis、V. odorata Sym、V. pedcellata Brandis、V. parvifolia Ashton、V. ramiflora V. Sl.、V. salawakensis V. Sl.、V. staphiana V. Sl.、V. venulosa Bl.、V. verrucosa Burck、V. vinosa Ashton、V.bella V. Sl.、V. cinerea King、V. cuspidate Sym.、flavida Foxw.、V. heteroptera Sym.、V. lobata Foxw.、V. lowii King、V. nitens King、V. pallida Dyer、V. patula Sym.、V. perakensis King、V. ridleyana Brandis、V. wallichii Dyer、V. celebica V. Sl.、V. flavovirens V. Sl.、V. rassak Bl.、V. subcordata Haillier、V. astrotricha、V. philastreana Pierre、Vatica sp. 、V. tonkinensis A. Chev.、Vatica chinensis Linn. 、V. obscure Trim.、V. lanceifolia Bl.、Vatica rassak、Vatica paucifloraなどがあげられる。Upuna属ではUpuna borneesis Sym.があげられる。Vatica属のレサック類が好ましく用いられる。
【0008】
レサック抽出物を作るには、前記フタバガキ科の樹木で、Vatica属あるいはCotylelobium属に属するレサックの樹材を粉砕した木粉粒を溶剤に浸漬し、木粉粒を濾別することで抽出物が得られる。あるいは、木粉粒を溶剤でソックスレイ抽出または水蒸気蒸留により抽出してもよい。
【0009】
レサック類樹材の抽出物には、特徴的なバチカノール類が含有されている。バチカノール類はポリフェノールであるスチルベンオリゴマーであり、代表的なバチカノールCは以下の化1に示す構造式のRがすべて水素である化合物である。このバチカノールCは、レスベラトロールを基本単位とするスチルベン四量体化合物であり、分子式C56H42O12、分子量906、淡黄色不定晶(粉末状)の天然物由来の有機化合物である。このバチカノールの有する多量のフェノール性OH基がにおい成分と結びつき、においを不揮発化して消臭効果を有すると考えられる。
【0010】
【化1】



【0011】
化1に示す構造を有するスチルベン四量体化合物では、Rは水素、メチル基又はアセチル基であり、C1とC2、又はD1とD2は入れ替わってもよい。 レサックを含むフタバガキ科の天然の植物では前記バチカノールCだけを単独に含有しているのではなく、スチルベン四量体の置換基Rが水素、メチル基又はアセチル基である化合物の混合物であり、置換基あるいは構造異性体により、バチカノールC,バチカノールB,バチカノールF,イソバチカノールB,イソバチカノールC等と呼ばれ,またスチルベンのオリゴマーであることから多量体が存在し、三量体ではバチカノールA,バチカノールE,バチカノールG,六量体ではバチカノールD,七量体ではバチカノールJ,が存在する。表1はフタバガキ科の樹材と含有している化合物を示す。
【0012】
【表1】


記号 ○:それぞれの化合物を含有している樹材
・ :vaticanolを含有している樹材
樹材略号 HU;Hopea utilis、 HP;Hopea parviflora、 DG;Dipterocarpus grandiflorus、 VI;Vateria indica、 SH;Sorea hemsleyana
【0013】
表1よりVatica属の樹材であるVatica rassakは特徴的にvaticanol化合物を含有しており、また、Vatica属以外のDipterocarpus grandiflorus、 Vateria indica、 Sorea hemsleyanaもvaticanolの一部を含有していることがわかる。レサック樹材からの抽出物はこれらバチカノールの混合物であるが、その特徴づけるものとして化1に示す構造を有するスチルベン四量体化合物で、Rは水素、メチル基又はアセチル基のものを選び、さらには置換基Rが水素であるバチカノールCを含有する抽出物を本願を特徴付けるものとするところである。
【0014】
消臭抽出物としては、水媒体に分散することが環境、安全性の面からも好ましい。レサックの抽出を水可溶性の溶剤、例えばエタノールで行い、得られた抽出液から溶剤を留去して析出物を得る。この析出物の定量を再び少量のエタノールに溶解し、多量の水を加えることで水分散したレサック抽出物の消臭被覆材を作ることが出来る。
レサック抽出物の濃度は用途に応じて適宜選択することができる。水分散する場合1wt%までは容易に分散できるが10wt%をこえるとアルコールを加えないと分散は困難になる。
また、バチカノールCはOH基が多く水に可溶のため、樹材を微粉砕すれば水で煮沸することでも抽出することができる。微粉樹材を予めアルコールに漬けてから煮沸することも有効である。
【0015】
被覆材媒体は消臭抽出物を含浸できるものであれば使用できるが、表面積を大きくするために多孔質あるいは繊維質の材料が好ましい。
【0016】
被覆材媒体の形態は消臭被覆材を適用する状況により選択される。堆肥、培土、ごみ等には、施用がしやすい粉、粒、片状が選択される。例えば活性炭、木炭粒、竹炭片、木粉、おがくず、カンナ屑、木片、繊維くず、茶がら、シリカゲル、アルミナ、活性白土、珪藻土、壌土、製紙かす、さらには堆肥、培土、ごみそのものを挙げることができる。これらは施用後そのまま廃却あるいは堆肥、培土に混ぜ込んで使用される。
【0017】
被覆材媒体の他の形態は紙あるいは布のような面状の形である。におい発生源を包むあるいは被せる形で用いられる。例えば、紙、織布、不織布、編布、ガーゼ、綿、不織シート等が挙げられる。
【0018】
本発明の消臭被覆材は上記被覆材媒体に前記消臭抽出物を含浸せしめることで得ることが出来る。含浸するには、スプレイ、どぶづけ等通常の方法で行うことができる。消臭抽出物の濃度は消臭被覆材での含有量により適宜選ぶことができるが、アルコール溶液の場合は10%から0.1%程度、水溶液の場合は0.5%から0.01%程度が好ましく用いられる。抽出物で濡れたまま使うこともできるが、乾燥して細孔から液をとばしたほうが表面積が大きくなってより好ましい。
消臭被覆材中の消臭抽出物の含有量は用途により適宜選ばれるが、固形分にして10%から0.001%で使うことができ、より好ましくは1%から0.01%で用いられる。
【0019】
以下に消臭抽出物の製造例と消臭被覆材の実施例を説明する。
【製造例1】
【0020】
Vatica rassakの樹材を粉砕し、その木粉粒500gに70%エタノール1Lを加えて、70〜75℃で3時間還流したのち濾過した。蒸発残分中バチカノールCを約10%含有していた。この濾液にアルコール溶液を加えてレサック抽出物の2%溶液を得た。
【製造例2】
【0021】
実施例4のVatica rassakにかえてVateria indicaの樹材を用い、実施例4と同様の操作で抽出物の2%溶液を得た。
【製造例3】
【0022】
1mm以下に粉砕したレサック樹材40gに水400gを加えて2時間煮沸した。ろ紙で樹材を除去しレサックの水抽出液を得た。
【実施例1】
【0023】
製造例1,2,3の消臭抽出物をおがくずにスプレイしたのち乾燥し、消臭抽出物含有量0.1%の消臭被覆材を得た。この消臭被覆材を、鶏糞を施肥した畑の表土の上に散布しマルチングした結果、いずれもにおいを抑えることができた。
【実施例2】
【0024】
製造例1,2,3の消臭抽出物を消臭抽出物含有量0.1%となるよう紙にスプレイして消臭被覆材を得た。この消臭被覆材を、生ゴミ容器の生ごみ上に被せた結果、いずれもにおいを抑えることができた。
【実施例3】
【0025】
製造例1,2,3の消臭抽出物を消臭抽出物含有量0.1%となるよう茶がらにスプレイして消臭被覆材を得た。この消臭被覆材を、電気掃除機に吸わせてフィルタにかぶせた結果、いずれもにおいを抑えることができた。
【実施例4】
【0026】
製造例1,2,3の消臭抽出物を消臭抽出物含有量0.1%となるよう紙粉にスプレイして消臭被覆材を得た。この消臭被覆材を、ペットの排泄物にかぶせた結果、いずれもにおいを抑えることができた。
【0027】
[評価方法1]
実施例1,2,3の消臭被覆材2gを5Lのテドラーバッグにいれ、3Lの所定の初期濃度のにおい成分ガスを送入する。2時間後の濃度を検知管で測定した。
におい成分として、アンモニア、トリメチルアミン、イソ吉草酸を試験した。
【0028】
[実施例1]被覆材;おがくず
【表2】

【0029】
[実施例2]被覆材;紙
【表3】

【0030】
[実施例3]被覆材;茶がら
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の消臭被覆材は、簡単に散布またはかぶせるだけで、効果的に素早く、日常生活中の様々な臭気や生活臭気や複合臭気等にも広く優れた消臭効果が得られる。また、新たな臭気を発生させることもない。持続性もあるため、快適な生活環境を供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタバガキ科レサック樹材の、水または水可溶性の溶剤による抽出物を含浸せしめたことを特徴とする消臭被覆材。
【請求項2】
下記化1に示す構造を有するスチルベン四量体化合物を含浸せしめたことを特徴とする消臭被覆材。
【化1】


但し、Rは水素、メチル基又はアセチル基であり、C1とC2、又はD1とD2は入れ替わってもよい。

【公開番号】特開2008−259570(P2008−259570A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102867(P2007−102867)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(307010465)株式会社 明煌 (4)
【Fターム(参考)】