説明

消防自動車

【課題】
水槽の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供する。また、災害時には、給水車として使用することのできる消防自動車を提供する。
【解決手段】
運転室2と、シャーシ3と、シャーシ3上に搭載した水槽4を有する消防自動車1において、前記水槽4が、アルミニウム又はアルミニウムの合金で構成され、前記運転室2と前記水槽4の間の距離L2が、前記消防自動車1の進行方向xにおける前記運転室2の長さの50%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽を搭載した消防自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に水槽とポンプを搭載した消防自動車が、火災等の現場で使用されている(例えば特許文献1参照)。図5に、従来の消防自動車の1例を示す。この消防自動車1Xは、運転室2と、シャーシ3と、シャーシ3上に搭載したステンレス製の水槽4Xを有している。また、消防自動車1Xは、シャーシ3の後端部にポンプ5を有している。ここで、6は前輪、7は後輪を示し、L1は消防自動車1Xの進行方向xにおける運転室2の長さを示し、L2Xは消防自動車1Xの進行方向xにおける運転室2後端部と水槽4Xの前端部の間の長さを示している。
【0003】
消防自動車1Xの具体的な大きさは、例えば消防自動車1Xの進行方向xにおける全長が約9.5m、運転室2の長さL1が約2.0m、運転室2と水槽4Xの間の距離L2Xが約1.2m、運転室2の天井部の高さが約3mである。また、水槽4Xの容量が、5000L〜8000L程度である。
【0004】
なお、消防自動車1Xの水槽4Xは、後輪7の車軸側(車両の後方側)に寄せて配置されているため、運転室2と水槽4Xの間に距離L2Xの隙間が生じている。これは、超重量物であるステンレス製の水槽4Xの荷重が、消防自動車1Xの前輪6の車軸にかかり過ぎないようにするためである。一般的に、トラックやトレーラ等の車両は、前輪の車軸にかかる荷重に制限があるため、積載物は、後輪の車軸に寄せた位置に配置されている。
【0005】
この消防自動車1Xは、上水等を搭載した状態で火災現場に移動し、水槽4Xからポンプ5を介して放水を行うことができる。そのため、水源等を確保できないような火災現場であっても、消火活動を行うことができる。
【0006】
しかしながら、上記の消防自動車はいくつかの問題点を有している。第1に、消防自動車は、走行方向xにおける全長が長いため、走行する区域を限られてしまうという問題を有している。つまり、消火活動に必要な量の水(例えば約8000L)を搭載した消防自動車は、車両の全長が長く大型となり、狭い路地を走行することができない。そのため、消火活動に支障がでることがあった。
【0007】
他方で、消防自動車の移動可能な領域を増やすために、車両を小型化することも考えられる。しかしながら、車両を小型化すると、同時に水槽も小さくなり、消火用の水を十分に運搬できないという問題が発生する。
【0008】
第2に、消防自動車は、水槽の容量の大型化が困難であるという問題を有している。これは、水槽を大容量化する場合、車両のホイールベース(前輪6と後輪7の間の長さ)が更に長くなってしまうためである。つまり、水槽を大容量化する場合、水槽の重量増大に伴い車両の前輪の車軸にかかる荷重が増大する。そのため、水槽の大容量化には、車両の全長を延長し、且つ水槽の搭載位置を後輪の車軸側に移動させることが必要となる。以上より、全長を延長された消防自動車は、走行可能な区域が更に制限され、火災現場に近づくことができなくなる。具体的には、水槽の容量を8000L〜10000L以上とすると、消防自動車は石油運搬用のタンクローリーのような牽引型としなくてはならないため、幹線道路以外を走行することが困難となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−189536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、水槽の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供することにある。また、災害時には、給水車として使用することのできる消防自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る消防自動車は、運転室と、シャーシと、シャーシ上に搭載した水槽を有する消防自動車において、前記水槽が、アルミニウム又はアルミニウムの合金で構成され、前記運転室と前記水槽の間の距離が、前記消防自動車の進行方向における前記運転室の長さの50%以下であることを特徴とする。
【0012】
この構成により、水槽の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供することができる。これは、重量の軽いアルミ製水槽の採用により、この水槽を消防自動車の前輪の車軸に接近させて配置することが可能となる。そのため、消防自動車の進行方向における運転室と水槽の間の距離を短縮し、車両全体の長さ(ホイールベース)を短縮することができる。以上より、狭い路地等で火災が発生した場合であっても、消防自動車は火災現場直近まで接近することができる。
【0013】
上記の消防自動車において、前記運転室と前記水槽の間の距離が、前記消防自動車の進行方向における前記運転室の長さの20%以下であることを特徴とする。この構成により、消防自動車のホイールベースを更に短縮することができる。
【0014】
上記の消防自動車において、前記水槽が、内部にアルミニウム又はアルミニウムの合金で構成された仕切板を有し、前記仕切板が、前記水槽を前記消防自動車の進行方向における前方側の前室と後方側の後室に分割するよう設置され、且つ前記前室と前記後室の間で流体の移動を可能とする貫通孔を有することを特徴とする。
【0015】
この構成により、水槽の剛性を向上し、水槽の大容量化を実現することができる。また、貫通孔を介して水槽内を実質的に1つの部屋とした構成により、水槽内の水等を短時間で外部に放出することができる。つまり、消防自動車としての機能を、十分に有することができる。
【0016】
上記の消防自動車において、前記水槽が、塗料の吹き付けによる塗装、又はフッ素樹脂によるコーティング、又は陽極酸化被膜を形成する方法のいずれかにより、内面処理を施されていることを特徴とする。この構成により、アルミ製の水槽の耐腐食性能を向上することができる。そのため、災害時には、消防自動車を給水車として使用することができる。
【0017】
上記の消防自動車において、前記水槽が、前記仕切板と、封止部材を有し、前記仕切板が、前記消防自動車の進行方向における後方側又は前方側に折り曲げて構成した縁部を有し、且つ前記縁部を介して前記水槽に固定されており、前記封止部材が、前記仕切板の前記縁部の近傍の前方側又は後方側と前記水槽の間に形成された空間を封止するように配置されたことを特徴とする。
【0018】
この構成により、仕切板の湾曲部と水槽内壁の間に形成された空間を封止することができ、水槽内部の塗装等の内面処理を均一且つ高品質に仕上げることができる。そのため、アルミ製の水槽であっても耐腐食性能を向上することができる。また、災害時には、消防自動車を給水車として使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る消防自動車によれば、水槽の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供することができる。また、災害時には、給水車として使用することのできる消防自動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る実施の形態の消防自動車を示した側面図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の消防自動車の水槽の概略を示した図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態の消防自動車の水槽の内部の構造を示した図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態の消防自動車の水槽の内部の構造を示した図である。
【図5】従来の消防自動車を示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態の消防自動車について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明に係る実施の形態の消防自動車1を示す。消防自動車1は、運転室2と、シャーシ3と、シャーシ3上に搭載した水槽4を有している。この水槽4は、アルミニウム又はアルミニウムの合金で形成されている。また、消防自動車1は、シャーシ3の後端部にポンプ5を有している。ここで、L1は消防自動車1の進行方向xにおける運転室2の長さを示し、L2は消防自動車1の進行方向xにおける運転室2の後端部と水槽4の前端部の間の長さ、つまり運転室2と水槽4の間の距離を示している。
【0022】
次に、消防自動車1の機能について説明する。この消防自動車1は、水槽4をアルミニウム又はその合金で構成しているため、水槽4自体の重量を軽量に構成することができる。例えば10000Lの容積を有するステンレス製水槽は約2000kgであるのに対して、アルミ製水槽は約850kgとなる。この構成により、水槽4を、L2が短くなるように運転室2に接近させて配置しても、消防自動車1の前輪6の車軸に過大な荷重が発生しない。そのため、従来は無駄なスペースであった運転室2と水槽4の間の距離L2を短縮し、消防自動車1の全長を短縮することができる。
【0023】
具体的には、運転室2と水槽4の間の距離L2を、消防自動車1の進行方向xにおける運転室2の長さL1の50%以下、望ましくは20%以下、更に望ましくは10%以下となるように構成することができる。例えば、消防自動車1の運転室2の長さL1が図5の従来例と同様に約2.0mとすると、消防自動車1の進行方向xにおける全長が約8.3m、運転室2と水槽4の間の距離L2が約0.3m(L1の15%)となる。また、水槽4の容量は、8000L〜10000L程度、望ましくは10000L〜15000L程度とすることができる。
【0024】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、消防自動車1の水槽4の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供することができる。これは、従来、無駄となっていたスペースである消防自動車の運転室2と水槽4の間の距離L2を短縮し、ホイールベースを短く構成することができるためである。具体的には、図5に示した従来の消防自動車と比較すると、運転室2と水槽4の間の距離L2を約1.2mから0.3mに短縮し、消防自動車の全長を約9.5mから約8
.3mに短縮することができる。
【0025】
第2に、消防自動車1の水槽4を容易に大型化することができる。これは、水槽4を大容量化(例えば8000L以上と)した場合であっても、消防自動車1の前輪6の車軸にかかる荷重の増大量が少なく、ホイールベースの延長が不要となるためである。以上より、消防自動車1は、大量の水を、火災現場の近くまで運搬することが可能となる。
【0026】
図2に、水槽4の断面図を示す。図2左方は、水槽4を消防自動車1の進行方向xに沿って切断し、側方から観察した断面図を示し、図2右方は、水槽4の内部に固定した仕切板10の正面図を示している。この仕切板10は、アルミニウム又はアルミニウムの合金で構成されている。また、仕切板10は、水槽4を消防自動車の進行方向xにおいて、前方側となる前室11と後方側となる後室12に分割するように設置されている。更に、仕切板10は、前室11と後室12の間で、水等の流体が移動できるように貫通孔13を有している。加えて、この仕切板10は、yz平面における水槽4の断面形状と同様の楕円形となるように構成されており、その縁部を折り曲げて水槽内壁41に固定している。
【0027】
この構成により、水槽4の剛性を向上することができる。また、仕切板10に貫通孔13を設けた構成により、水槽4の剛性を向上しながら、水槽4を実質的に1つの部屋となるように構成することができる。特に、消防自動車の水槽として使用する場合、水槽4が複数の独立した部屋に分かれていることは望ましくない。これは、消防自動車1が、短時間に大量の水を放出できる機能を要求されるためである。
【0028】
なお、yz平面の水槽4の断面は、楕円形となるように構成しているが、本発明はこの構成に限定されない。水槽4が、例えば矩形の断面を有するように構成してもよい。また、この水槽4の内面を、塗料の吹き付けによる塗装、又はフッ素樹脂によるコーティング、又は陽極酸化被膜を形成する方法のいずれかにより、内面処理を施すことが望ましい。この構成により、水槽4の耐腐食性能が向上するため、災害時には消防自動車を給水車として利用することができる。
【0029】
次に、水槽4の水槽内壁41と、仕切板10の接合部18について説明する。図3に、接合部18(図2参照)の異なる実施例の拡大図を示す。水槽4Aは、仕切板10と封止部材16Aを有している。この仕切板10は、消防自動車の進行方向における後方側(図3右方)又は前方側(図3左方)に折り曲げて構成した縁部14を有している。この縁部14と水槽内壁41を溶接部20の溶接にて固定している。
【0030】
また、封止部材16Aは、仕切板10の湾曲部15と水槽内壁41の間に形成された空間Rを封止するように、溶接部20により固定されている。封止部材16Aは、外形が環状であり、断面は図3に示すように湾曲面を有する形状である。
【0031】
この構成により、水槽4の内面処理を均一且つ高品質に仕上げることができる。これは、塗装や表面処理を行う際に、この塗装等が困難となる微細な空間Rを、封止部材16Aにより埋めることができるためである。
【0032】
図4に、異なる実施例の封止部材16Bを示す。封止部材16Bは、仕切板10の湾曲部15と水槽内壁41の間に形成された空間Rを封止するように、溶接部20により固定されている。封止部材16Bは、外形が環状であり、断面は図4に示す様に円形を有する形状である。この構成により、前述の封止部材16Aと同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
なお、封止部材16A、16Bの形状は、前述の形状に限定されない。塗装等が行き届
かない空間Rを封止する形状であればよい。また、仕切板10の折り曲げ方向が、消防自動車の進行方向における前方側(図4左方)である場合には、封止部材16(16A又は16B)は仕切板10の後方(図4右方)側に固定することになる。
【0034】
以上より、水槽の容量を維持又は増加させながら、狭い路地等であっても走行可能な消防自動車を提供することができる。なお、水槽は、アルミニウム又はアルミニウムの合金の代わりに、ガラス繊維又は炭素繊維で形成してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 消防車
2 運転室
3 シャーシ
4、4A、4B 水槽
10 仕切板
11 前室
12 後室
13 貫通孔
14 縁部
16、16A、16B 封止部材
L1 消防自動車の進行方向における運転室の長さ
L2 運転室と水槽の間の距離
R 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室と、シャーシと、シャーシ上に搭載した水槽を有する消防自動車において、
前記水槽が、アルミニウム又はアルミニウムの合金で構成され、前記運転室と前記水槽の間の距離が、前記消防自動車の進行方向における前記運転室の長さの50%以下であることを特徴とする消防自動車。
【請求項2】
前記運転室と前記水槽の間の距離が、前記消防自動車の進行方向における前記運転室の長さの20%以下であることを特徴とする請求項1に記載の消防自動車。
【請求項3】
前記水槽が、内部にアルミニウム又はアルミニウムの合金で構成された仕切板を有し、
前記仕切板が、前記水槽を前記消防自動車の進行方向における前方側の前室と後方側の後室に分割するよう設置され、且つ前記前室と前記後室の間で流体の移動を可能とする貫通孔を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の消防自動車。
【請求項4】
前記水槽が、塗料の吹き付けによる塗装、又はフッ素樹脂によるコーティング、又は陽極酸化被膜を形成する方法のいずれかにより、内面処理を施されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の消防自動車。
【請求項5】
前記水槽が、前記仕切板と、封止部材を有し、
前記仕切板が、前記消防自動車の進行方向における後方側又は前方側に折り曲げて構成した縁部を有し、且つ前記縁部を介して前記水槽に固定されており、
前記封止部材が、前記仕切板の前記縁部の近傍の前方側又は後方側と前記水槽の間に形成された空間を封止するように配置されたことを特徴とする請求項4に記載の消防自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111093(P2013−111093A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257052(P2011−257052)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000187208)昭和飛行機工業株式会社 (72)
【出願人】(509080587)株式会社モリタ (1)
【Fターム(参考)】