説明

液体から汚染物質リガンドを選択的に除去するためのハイブリッド陰イオン交換体の製造方法及び使用

【課題】水溶液からリガンドを選択的に除去する媒体、また陰イオン交換樹脂の上に水和した酸化鉄を効果的にロードするための方法を提供する。
【解決手段】水和Fe(III)酸化物(HFO)が交換体ビーズ内部に不可逆的に分散したポリマー陰イオン交換体がホスト材料として使用された。陰イオン交換体は正に帯電した4級アンモニウム官能基を有するので、砒酸塩、クロム酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、フタル酸塩等のアニオン性リガンドはゲル相の内外へ浸透でき、ドナン排除効果には支配されない。結果的に陰イオン交換体に支持されたHFOミクロ粒子は、陽イオン交換体に支持されたものと比較して、砒素及び他のリガンドの除去において非常に大きな容量を示す。HFO粒子のローディングは、予備的に陰イオン交換樹脂を、例えばMnO4−またはOCl等の酸化性アニオンでロードし、その後樹脂に硫酸第一鉄溶液を通過させることによって実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体から汚染物質を選択的に除去するためのハイブリッド陰イオン交換体の製造及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
固定層吸着プロセスが操作上単純であり、事実上始動時間を必要とせず、フィード組成における変動に対して寛容であることは広く一般に認められている。しかしながら、固定層プロセスが実行可能で、そして経済的に競合的であるために、吸着剤は目標汚染物質に対して高い選択性を示さなくてはならず、耐久性がなくてはならず、そして効率的に再生及び再利用しやすいものでなくてはならない。
【0003】
理想的には、目標汚染物質の除去はpHまたは流入液の組成に大きな変化を起こすべきではない。この点に関して、アモルファス、そして結晶の水和したFe酸化物(HFO)は、構造的Fe原子の配位圏でのリガンド交換を通してAs(III)及びAs(V)酸素酸及びオキシアニオンに対して強い吸着親和性を示す。広域X線吸収微細構造(EXAFS)を使った最近の調査では、As(III)及びAs(V)種が内圏錯体の形成を通じて酸化物表面に選択的に結合されていることを確認した。HFO粒子はリン酸塩、天然の有機物、セレナイトと他のアニオン性リガンドに対して同じく高い吸着親和性を示す。図1は水和したFe(III)酸化物またはHFO上における種々の溶質の結合の例を示す。塩化物または硫酸塩のような一般に遭遇する競合イオンは、クーロン相互作用または外圏錯体の形成を通してのみ吸着されることができる。結果として、それらはHFO粒子に対して低い吸着親和性を示す。比較すると、亜砒酸塩、一価砒酸塩、二価砒酸塩、リン酸塩などのリガンドが、ルイス酸塩基相互作用または内圏錯体の形成を通して強く吸着される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の合成プロセスは、簡単であるけれども、非常に細かいサブミクロンのHFO粒子のみを製造する。この粒子は、過度の圧力降下、機械的強度の低さ及び受け入れ難い耐久性のために、固定層、透過性の反応性バリアまたは流動システムにおいては使用できない。この問題を克服するために、強酸カチオン交換体が砒素の除去のためにHFO粒子をドープ/分散するよう変更を加えられてきた。鉄がロードされた陽イオン交換樹脂及びアルギン酸塩も、セレン及び砒素オキシアニオンの除去に関して試みられてきた。陽イオン交換体にロードされた水和したFe(III)酸化物(HFO)粒子は砒酸塩またはリン酸塩を取り除くことができるが、陽イオン交換体のゲル相がスルホン酸基の存在に起因して負に帯電されるため、それらの除去容量は減少する。結果的に、砒酸塩または砒素(V)オキシアニオン及びリン酸塩はドナン共イオン排除効果のために拒絶され、ゲル相中に分散されたHFO粒子は選択的吸着のために溶解したアニオン性リガンドに接近できない。
【0005】
マクロ多孔性陽イオン交換体がホスト材料として使用されたとき、砒素除去容量は高くはないが、750μgAs/吸着剤gのオーダーであった。しかしながら、ゲル型の陽イオン交換体がHFO粒子を分散させるために使われたとき、結果として生じる材料はまったく効果がないものであった。
【0006】
図2は、ゲル型陽イオン交換体が、Feとして8パーセントのHFOが存在するようロードされたときのカラム処理溶出液履歴を示す。砒素破過がほとんどすぐに起きた。結果的に、材料はほとんど砒素除去容量を持っていなかった。我々は、HFO粒子が図3で説明されるように陽イオン交換サイトの内部に閉じ込められたとき、選択的吸着のための砒酸塩または他のアニオン性リガンドが接近できないことを観察した。しかしながら、陽イオン交換体材料の中のHFO粒子の分散は比較的簡単なプロセスである。
【0007】
よって、本発明の目的は、水溶液から砒素種及び他のリガンドを選択的に除去する新規な、そしていっそう効果的な媒体を提供し、また陰イオン交換樹脂の上に水和した酸化鉄を効果的にロードするための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
陽イオン交換体と異なり、陰イオン交換体は正に帯電した官能基が固着されている。結果的に、アニオン性のリガンドがドナンの共イオン排除効果に出会うことなくゲル相の中に及び外に容易に浸透することができる。もしHFO粒子が重合体の陰イオン交換体ビーズの中で分散される場合、砒素またはリガンド除去容量は大きく増大され得る。他方、陰イオン交換樹脂内部で水和Fe(III)酸化物を形成することは、正に帯電した4級アンモニウム官能基に起因する大きな挑戦を提示する。結果的に、これまで、重合体の陰イオン交換体内部におけるHFO粒子の分散をうまく達成する方法は知られていなかった。
【0009】
本発明による選択的吸着体の合成は、中間体を製造するためにアニオン交換挙動を示す材料と陰イオン性の酸化剤とを反応させる段階、その中間体と被酸化性の金属塩溶液とを反応させる段階、結果として酸化剤の働きによって中間体を通じて金属塩を沈殿及び分散し、吸着剤を製造する段階を含む。
【0010】
陰イオン交換挙動を示す材料をアニオン性酸化剤と反応させる段階は、好ましくは前記材料を通じてアニオン性酸化剤の溶液を通過させることによって実行される。金属塩の溶液を中間体と反応させる段階は、中間体を通じて塩の溶液を通過させ、結果として金属を酸化し、前記金属がもとの塩の中にあるよりも高い酸化状態であるような他の塩を沈殿及び分散させることによって実行される。金属塩の溶液を中間体と反応させる段階の後に、吸着剤を有機溶媒、好ましくはアセトンで洗浄し、吸着剤を乾燥する段階が行われてよい。
【0011】
吸着剤の調製において、陰イオン交換挙動を示す材料とアニオン性酸化剤との反応の段階、及び金属塩溶液と中間体との反応の段階が繰り返されることによって結果が改良されてよい。
【0012】
陰イオン交換挙動を示す材料は、好ましくはポリマー陰イオン交換樹脂であって、1級、2級または3級アミン基、またはそれらの混合物を含む弱塩基性有機イオン交換樹脂ビーズを含んでよい。他に好ましい材料としては、正に帯電した窒素原子を有する4級アンモニウム基を含む強塩基有機イオン交換樹脂ビーズ、及びポリスチレンまたはポリスチレン/ジビニルベンゼンマトリックスを有する有機イオン交換樹脂ビーズがある。
【0013】
好ましい金属塩は第一鉄塩溶液であり、好ましいアニオン性酸化剤は過マンガン酸塩、または次亜塩素酸塩である
【発明の効果】
【0014】
このように製造された吸着剤は、鉄の酸素含有化合物の分散粒子を含むポリマー陰イオン交換樹脂を含み、吸着剤と接触された液体流からリガンドを選択的に除去することが可能である。吸着剤は、例えば砒酸塩、亜砒酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩、亜セレン酸塩、バナジン酸塩のようなリガンドを、飲料水、地下水、工業プロセス水、または工業排水の流れから除去するのに特に有効である。
【0015】
好ましい実施形態では、水溶液からリガンドを選択的に除去するための吸着層は、例えば過マンガン酸塩、過硫酸塩、または次亜塩素酸塩のような酸化性イオンを含む溶液を、ポリマー陰イオン交換樹脂層を通して通過させることによって調製される。その後、例えば硫酸第一鉄等の第一鉄塩の溶液が層を通され、それによって同時に酸化性陰イオンを脱着し第一鉄イオンを第二鉄イオンに酸化する。これにより、ポリマー陰イオン交換樹脂内部で固体の水和した酸化第二鉄の沈殿及び均一な分散が起こる。例えば砒酸塩、クロム酸塩、シュウ酸塩、リン酸塩、フタル酸塩等のアニオン性リガンドは、ゲル相の内外に浸透することができ、ドナン排除効果には支配されない。結果的に、陰イオン交換体に支持されたHFOミクロ粒子は、陽イオン交換体に支持された粒子と比較して、他のリガンドと同様に、砒酸塩、亜砒酸塩、及び他の砒素オキシアニオンの除去において非常に大きな容量を示す。
【0016】
本発明の他の利点は、陰イオン交換材料の物理的性質が、別の方法でもろくて弱い材料に構造上の完全性を与えることが可能なことである。このように、陰イオン交換材料内部にHFO粒子を分散させることによって、HFO粒子そのものが造粒及び凝集されたときと比較して、より優れた材料特性を示す層を合成することが可能である。陰イオン交換材料の使用により与えられた物理的ロバストネスの改善によって、例えばより高圧である、より流れが増大している等、さらに要求の厳しい状況下でのHFO粒子の使用が可能となる。ハイブリッド材料の改良された物理的ロバストネスは、ベッドの効率的な再生及び再利用をも可能にし、基板によって支持されていない水和金属酸化物を有するストリームの処理において共通する逆洗及び他のメンテナンスの必要性を減少させる。
【0017】
本発明の他の目的、詳細及び利点は、図と共に解釈するとき、以下の詳細な記述から明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】様々な溶質の水和Fe(III)酸化物上部への結合を説明する概略図である。
【図2】ハイブリッド陽イオン交換体ゲルを用いたカラム処理の間の砒素の溶出液履歴のグラフである。
【図3】なぜHFOドープされた陽イオン交換樹脂が砒素吸着容量を十分与えることができないかを説明する概略図である。
【図4A】ハイブリッド陰イオン交換体吸着剤の調製における第一段階を説明する概略図である。
【図4B】ハイブリッド陰イオン交換体吸着剤の調製における第二段階を説明する概略図である。
【図5A】マクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換吸着体粒子像である。
【図5B】母材ポリマービーズ切片の走査型電子顕微鏡像である。
【図5C】ハイブリッド陰イオン交換ビーズ切片の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】固定層カラム処理及び再生試験に関する装置の概略図である。
【図7A】塩化物型母材陰イオン交換体でのカラム処理の間の硫酸塩及び砒素に関する溶出液履歴であり、早期の砒素の破過を示す。
【図7B】マクロ多孔体ハイブリッド陽イオン交換体を用いたカラム処理の間の砒素の溶出履歴のグラフである。
【図7C】マクロ多孔体ハイブリッド陰イオン交換体を用いたカラム処理の間の砒素の溶出履歴のグラフである。
【図8】ハイブリッドゲル型陽イオン交換体及びハイブリッドゲル型陰イオン交換体における砒素の溶出液履歴を比較するグラフである。
【図9】新しく調製されたマクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換体を用いた地下水処理の間のAs(V)及びシリカ破過のプロファイルを比較するグラフである。
【図10】水素陰イオン交換樹脂の典型的な再生の間の砒素濃度プロファイルを説明するグラフである。
【図11】マクロ多孔体ハイブリッド陰イオン交換体でのカラム処理の間のAs(V)及びCr(VI)の溶出液履歴のグラフである。
【図12】マクロ多孔体ハイブリッド陰イオン交換体再生の間の砒素及びクロムの濃度プロファイルを示すグラフである。
【図13】マクロ多孔体ハイブリッド陰イオン交換体でのカラム処理の間の亜リン酸の、及び他のアニオンの破過プロファイルを示すグラフである。
【図14】同じ汚染地下水を供給したマクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換体を用いた、二つの連続的なカラム処理の間の砒素の溶出液履歴を示すグラフである。
【図15】マクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換粒子を用いたカラム処理の間の溶出液中の鉄の濃度を示すグラフである。
【図16A】新しく調製されたハイブリッド陰イオン交換粒子のX線回折図である。
【図16B】使用されたハイブリッド陰イオン交換粒子のX線回折図である。
【図17】ハイブリッド陰イオン交換体及び母材陰イオン交換体に関するバナジン酸塩の溶出液履歴の比較を示すグラフである。
【図18】ハイブリッド陰イオン交換体及び母材陰イオン交換体に関するモリブデン酸塩の溶出液履歴の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
Fe3+及びFe2+は陽イオンなので、陰イオン交換体の正に帯電した官能基によって反発され、陰イオン交換樹脂上にロードされることができない。このように、陽イオン交換体ビーズ内部へのHFO粒子の分散に関して以前使われていた技術は、陰イオン交換体ビーズがホスト材料として使われるときには適用できない。しかしながら、我々は一連の段階によってHFO粒子が陰イオン交換体内に支持され得ることを見出した。その好ましい例は以下の通りである。
【0020】
最初の段階として、過マンガン酸アニオン(MnO)が陰イオン交換樹脂(例えば、ペンシルバニア、Bala Cynwyd、The Purolite Companyから購入可能なA−500P、塩化物型の4級アンモニウム官能基を有する陰イオン交換樹脂)上にロードされる。過マンガン酸アニオンの樹脂へのローディングは、層に過マンガン酸カリウム溶液(500mg/L KMnO)を通過させることによって実行される。
【0021】
これは、例えば以下の反応を起こすために、層に500mg/L KMnO溶液を通過させることによって、実行されてよい。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
化学式2は塩化物型の4級アンモニウム官能基を有する陰イオン交換樹脂である。
【0025】
もちろん、他の製造業者の陰イオン交換樹脂が使われてよい。陰イオン交換樹脂の粒子サイズは、好ましくは300μm〜1000μmの範囲である。
【0026】
第二の段階は同時的な過マンガン酸塩の脱着、Fe(II)酸化及び陰イオン交換体内部でのHFO形成である。この段階の間、過マンガン酸塩がロードした陰イオン交換体は、5%の硫酸第一鉄溶液に接触される。硫酸によるMnOの脱着、MnOのMnO(s)への還元及びFe2+のFe3+への酸化、及び最終的に陰イオン交換体ビーズ内部のFe(OH)(s)の沈殿が、以下に従って起こる。
【0027】
MnOの脱着:
【化3】

【0028】
Fe(II)の酸化及び水酸化第二鉄の形成:
【化4】

(上部バー及び(s)は固層を示す。)
【0029】
第三段階はアセトンによる洗浄及び乾燥である。第二段階の陰イオン交換体ビーズはアセトンで洗浄され、35℃で12時間乾燥される。
【0030】
プロセスの主要な段階、すなわち第一及び第二段階は図4A及び4Bに示されている。これらの段階は、Fe(III)ローディングをより多くするため繰り返されてよい。また、陰イオン交換体内部のマンガン含量は複数のサイクルに従い減少するが、これは応用の観点からは望ましい現象である。第三段階では、アセトンの使用が水の誘電率を減少させ、表面電荷の抑制を通してHFOサブミクロン粒子の凝集を強める。HFOの塊は球状の陰イオン交換体ビーズ内部で不可逆的に閉じ込められた。乱流及び機械的攪拌は、HFO粒子の顕著な損失にはつながらない。
【0031】
我々の研究には、ゲル及びマクロ多孔性陰イオン交換体ビーズ(Purolite A−400及びA−500P)の双方が使われた。陰イオン交換体上へのHFOのローディング質量は、鉄にして10−15%の範囲で変化し、マンガン含量はマンガンの質量で1%未満であった。図5Aはハイブリッド陰イオン交換体(HAIX)粒子を示す。図5Bは母材ポリマービーズ切片の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、マクロ細孔の存在が容易に観察される。図5CはHFOナノ粒子を含むスライスされたHAIX粒子を示す。
【0032】
ポリマー陰イオン交換体ビーズは、固定層カラム処理の間優れた水硬性及び耐久性を示し、分散されたHFOミクロ粒子はターゲットとするリガンドに対して活性な吸着剤として働く。
【0033】
例示のために、ハイブリッド陰イオン交換体粒子の典型的な研究室レベルの合成において実行される段階の詳細は以下のとおりである。
【0034】
500mg/Lの過マンガン酸カリウム溶液で満たされた4.0リットルの容器中で、Purolite陰イオン交換体樹脂30gは30分間断続的に攪拌しながら前記溶液中に浸漬された。過マンガン酸塩でロードされた樹脂は、脱イオン水で2回すすがれた。その後、過マンガン酸塩をロードされた樹脂は、5.0%(w/v)の硫酸第一鉄溶液1.0リットル中に浸漬され、4時間振とうされた。修飾された樹脂(ハイブリッド陰イオン交換体)は、その後脱イオン水で何度かすすがれた。これらの段階は、第2及び第3サイクルの鉄のローディングに関して繰り返された。各サイクルの後、ハイブリッド陰イオン交換体のサンプル約50mgが、鉄及びマンガンの含量分析のために採取された。
【0035】
前記ハイブリッド樹脂は脱イオン水及びアセトンですすがれ、その後35℃のオーブン中で12時間乾燥された。The Purolite Companyのマクロ多孔性及びゲル型陰イオン交換体、すなわち、PuroliteA−500P及びA−400の双方は母材材料として使用された。HAIX粒子の鉄及びマンガンローディングは、室温で24時間、10%硫酸を2度適用することによって見出された。
【0036】
各調製サイクルの終了時における鉄及びマンガンの値は以下に示される。
【0037】
HAIX−M(マクロ多孔性母材樹脂)について
【表1】

【0038】
HAIX−G(ゲル母材樹脂)について
【表2】

* 乾燥されたハイブリッド陰イオン交換体ビーズに基づく
【0039】
HAIX−Mでは約10の異なるバッチ及びHAIX−Gの五つのバッチが合成された。3サイクル後のHAIX−Mにおける鉄含量は120−175mgFe/gの間で変化したが、一方HAIX−Gにおける鉄含量は70−100mgFe/gの間であった。
【0040】
マクロ多孔性陰イオン交換樹脂の白色が、過マンガン酸(MnO)イオンでロードする間紫に変化したことが観察された。硫酸第一鉄溶液を加えた後、樹脂の紫色は徐々に薄い茶色に変化した。均一な薄茶色は、樹脂ビーズ内部における水和酸化第二鉄またはHFOの形成の完了を特徴付ける。この段階が完了するのにおよそ4時間必要とされる。
【0041】
同様の実験計画に従い、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)溶液を使用してHAIXを調製するための研究室試験が実施された。例示のために、研究室での次亜塩素酸イオン(OCl)を用いたハイブリッド陰イオン交換体粒子合成において実行される段階の詳細を以下に示す。
【0042】
500mg/LのNaOCl溶液で満たされた4.0リットルの容器中で、マクロ多孔性陰イオン交換体樹脂30gは30分間断続的に攪拌しながらNaOCl溶液中に浸漬された。次亜塩素酸アニオンでロードされた樹脂は、その後脱イオン水で2回すすがれた。その後、次亜塩素酸をロードした樹脂は、5.0%(w/v)の硫酸第一鉄溶液1.0リットルに浸漬され、4時間振とうされた。修飾された樹脂(ハイブリッド陰イオン交換体)は、その後脱イオン水で何度かすすがれた。
【0043】
上記段階は、第2及び第3サイクルの鉄のローディングに関して繰り返された。各サイクルの後、約50mgのハイブリッド陰イオン交換体のサンプルが、鉄含量分析のために採取された。
【0044】
前記ハイブリッド樹脂は脱イオン水及びアセトンですすがれ、その後35℃のオーブン中で12時間乾燥された。鉄ローディングは以下のとおりであった。
【0045】
【表3】

* 乾燥されたハイブリッド陰イオン交換体ビーズに基づく
【0046】
鉄のローディングは、過マンガン酸塩と比較して次亜塩素酸塩に関して顕著に低いので、固定層カラム処理の間のHAIXの性能評価及び他の吸着の検討は、酸化剤として過マンガン酸塩を使用して得られた製造物において実行された。
【0047】
HAIXの性能評価において、以下の実験計画が使用された。
【0048】
一連の固定層実験は、HAIXのAs(III)及びAs(V)の除去容量を評価するために実行された。図6には実験装置が説明されており、リザーバー20からの汚染水がポンプ22によってグラスファイバ層28上にHAIXビーズ26を含むカラム24内へとポンプで汲み上げられた。リザーバー30内の再生剤はポンプ32によってカラム内へと汲み上げられた。溶出液は、溶出液サンプルチューブ34内に収集された。
【0049】
この試験装置を用いて、HAIXのクロム酸、リン酸及び天然の有機物を除去する能力を検証するための試験も行われた。以下の結果は注目すべきものである。
【0050】
図7A−7Cは、ほぼ理想的な状況下における三つの分離したカラム処理に関するAs(III)溶出液履歴を与え、図7Aでは塩化物型の母材陰イオン交換体Purolite A−500Pを、図7BではHFOがロードされたマクロ多孔性陽イオン交換体を、及び図7Cではハイブリッド陰イオン交換体またはHAIXを各々用いている。縦座標(C/C)は、カラム出口において存在する流入液濃度の分率を表す。
【0051】
図7Aに示されるように、母材陰イオン交換体はAs(III)を除去することができなかった。エンプティベッドコンタクトタイム(empty bed contact time、EBCT)は4.5分だった。流入溶液は100μg/LのAs(III)、170mg/LのSO2−、90mg/LのCl、100mg/LのHCO、を含み、pHが6.2であった。砒素はすぐに破過し、それは硫酸塩の破過よりもずっと前であった。
【0052】
図7Bに示されるように、HFOがロードした陽イオン交換体は、層体積(bed volume)2000以上にわたってAs(III)を除去し、層体積約2500において破過濃度10μg/Lであった。このケースでは、EBCTは3.1分だった。流入液は100μg/LのAs(III)、122mg/LのSO2−、70mg/LのCl、100mg/LのHCO、を含み、pHが7.2であった。
【0053】
図7Cで示された実験において、実験パラメータは図7Aと同様であった。すなわち、EBCTは4.5分であって、流入液は100μg/LのAs(III)、170mg/LのSO2−、90mg/LのCl、100mg/LのHCO、を含み、pHが6.2であった。図7Cで説明されるように、HAIXまたはHFOがロードされた陰イオン交換体は、溶出液の砒素濃度が10μg/Lに達する前に、汚染された供給水を層体積12、000近く処理した。HAIX−M(マクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換体)はHCIX−M(マクロ多孔性ハイブリッド陽イオン交換体)よりも6倍大きなAs(III)除去容量を提供した。
【0054】
ホスト材料におけるドナン共イオン排除効果が、水和酸化鉄粒子の砒素除去容量に大きく影響するという仮説を検証するために、一つのゲル型陽イオン交換体(HCIX−G、Purolite C−100使用)及び一つのゲル型陰イオン交換体(HAIX−G、Purolite A−400使用)は、酸化鉄粒子でロードされた。続いて、二つのカラム処理が、これら二つの材料を使用して、砒素除去を目的として別々に実行された。
【0055】
HAIX−GのFe含量は、HAIX−G1gあたり60mgであり、HCIX−GのFe含量は、HCIX−G1gあたり70mgであった。試験は、理想的な実験条件下で行われた。空塔液体速度(superficial liquid velocity、SLV)は0.60m/hであり、EBCTは3.9分であった。流入液は、100μg/LのAs(V)、120mgのSO2−、100mg/LのCl、100mg/LのHCO、を含み、pHが7.3であった。
【0056】
図8は、二つのカラム処理に関する砒素溶出液履歴を示す。ハイブリッド陽イオン交換体は、鉄含量が若干高い状態であっても事実上砒素を除去することがなかった。ハイブリッド陰イオン交換体、またはHAIXは、反対に、層体積10,000を優に超えて砒素を除去した。他の全ての状態は理想的であった。
【0057】
ニューメキシコ州アルバカーキの地下水は砒素で汚染され、高レベルの溶解シリカも含んでいる。約20ガロンの汚染された地下水がアルバカーキから収集され、マクロ多孔性HAIXを用いてカラム処理が実行された。SLVは0.83m/h、EBCTは3.8分だった。流入液は、4.6μg/LのAs(V)、33mg/Lのシリカ及び0.46mg/Lの亜リン酸を含んでいた。流入液のpHは7.6であった。
【0058】
図9は砒素除去に関する溶出液の履歴を示す。汚染水中に33mg/Lの溶解シリカが存在していたものの、砒素除去は非常に良好だった。シリカのカラムからの破過が層体積500以内であったのに対して、層体積7,200の後砒素の破過10ppbが観察された。
【0059】
砒素がロードされたHAIX−Mカラムは、pH12.4の3%NaCl及び2%NaOHの溶液を用いて、EBCT5.6分で非常に効率よく再生可能である。図10に示されるように、90%を超える砒素が層体積10以内で脱着された。
【0060】
マクロ多孔性ハイブリッド陰イオン交換体(HAIX−M)でのカラム処理中のAs(V)及びCr(VI)の溶出液履歴を示す図11において説明されるように、砒酸塩及びクロム酸塩は同時に除去されることが可能である。ここで、EBCTは3.8分であった。流入液は代表的な供給水であり、100μg/LのAs(V)、100μg/LのCr(VI)、120mgのSO2−、125mg/LのCl、100mg/LのHCO、を含み、pHが7.1であった。HAIXカラムは代表的な合成供給水を与えられた。HAIXカラムは、層体積約2000まで砒素(V)及びクロム(VI)の双方を同時に除去するにあたって、非常に効率的であることが示された。
【0061】
消耗すると、カラムは2%NaOH及び3%NaClを用いて再生された。図12は、EBCT3.9においてHAIX−Mの再生の間の砒素及びクロムの濃度プロファイルを示す。砒酸塩及びクロム酸塩の脱着は非常に効率的であることが示された。
【0062】
図13はハイブリッド陰イオン交換体を用いたリン酸の除去を説明する。HAIXカラムは他の一般的に出会うアニオンと共にリン酸を含む供給液を供給される。具体的には、流入液は4.43mg/Lのリン酸(Pとして)、90mg/LのCl、42mg/LのSO2−、56mg/LのNO、78mg/LのHCO、を含み、pHが7.1であった。EBCTは3.3分であった。図13に描かれるように、Pに関する溶出液履歴は、他の競合するアニオン、すなわち塩化イオン及び硫酸塩の存在下で、選択的にリン酸を除去するHAIXの能力を確かなものとする。
【0063】
一つのHAIXカラムは三つの連続的なサイクルで操作された。各サイクルの後、カラムは2%NaOH及び3%NaClの溶液を用いて再生された。図14は、カナダ、オンタリオの汚染箇所から収集された地下水を用いた二つの連続的なカラム処理における砒素の溶出液履歴を示す。SLVは1.58m/hであり、EBCTは1.56分であった。流入液は430μg/LのAs、280μg/LのP、3.0mg/LのTOC、11.9mg/LのSO2−、6.4mg/LのCl、21.9mg/LのNOを含み、pHが7.2であった。砒素溶出液履歴は本質的に同じであった。これらの結果は、HAIXが再生可能であり、砒素除去容量における大きな損失なしに、複数サイクルの再使用が可能であるという証拠を与える。
【0064】
図15は、SLVが0.70m/h及びEBCT4.5分の状況下で、長いカラム処理の間に放出された全鉄濃度を示す。流入液は100μg/LのAs(III)、170mg/LのSO2−、90mg/LのCl、100mg/LのHCOを含み、pHが6.2であった。カラム出口における鉄濃度は層体積15,000近傍で非常に低かった(3μg/L未満)。HAIXからの鉄の損失はその全容量(120−150 mgFe/g HAIX)と比較して無視できる(30μg/g HAIX−M)ものである。
【0065】
経年変化及び連続使用で、アモルファスHFO粒子が次第により結晶化し、針鉄鉱、ヘマタイト等の形成に繋がるのは、ありそうなことである。しかしながら、図16A及び16Bは、新しく調製された(図16A)、及び使用された(図16B)HAIXサンプルのX線回折(XRD)パターンの比較を示す。双方のパターンは非常に似ており、非常にわずかな変化しかない。陰イオン交換体に埋め込まれたHFOナノ粒子に何らかの構造変化が起こることはなさそうである。
【0066】
図17は本発明によるハイブリッド陰イオン交換体の、Vとしてのバナジン酸塩が3mg/L入った水道水からバナジン酸塩を除去する性能を示す。二つの溶出液履歴が示され、一つは母材陰イオン交換体に関するものであり、他方はハイブリッド陰イオン交換材料に関するものである。グラフに示されるように、バナジン酸塩はほとんどすぐに母材陰イオン交換体を通過し始めるのに対して、ハイブリッド陰イオン交換材料の場合、測定可能量のバナジン酸塩は層体積約3000の後からのみ検知され始め、層体積8000において200ppb以下のレベルに保持された。
【0067】
本発明によるハイブリッド陰イオン交換体のモリブデン酸塩除去の性能も、図18によって示されるように効果的であった。二つのカラム処理が実行され、一つは母材陰イオン交換体を使用し、他方はハイブリッド陰イオン交換体を使用し、流入液はMoとしてモリブデン酸塩が3mg/L入った水道水からなるものであった。母材陰イオン交換体では、モリブデン酸塩は層体積約100において破過し始め、層体積約300において100μg/Lのレベルから、層体積1300において約1700μg/Lのレベルまで上昇した。それに対して、ハイブリッド陰イオン交換体の場合には、モリブデン酸塩は層体積約1000まで100μg/L以下のレベルを保持し、層体積1300において約400μg/Lにだけ上昇した。
【0068】
記述されたように本発明には多くの変更が可能である。前に示されたように、リガンドの選択的除去のために広い種類のどのような陰イオン交換樹脂が使用されてよい。例えば、正に帯電した窒素原子を持つ4級アンモニウム官能基を有する強塩基陰イオン交換樹脂の代替として、例えば1級、2級または3級アミン基またはそれらの混合物を有する弱塩基有機イオン交換樹脂ビーズ、ポリスチレンまたはポリスチレン/ジビニルベンゼンマトリックスを有する有機イオン交換樹脂ビーズ、ポリアクリル酸マトリックスを有する有機イオン交換樹脂ビーズ、有機または無機膜、及びポリマー繊維または繊維状陰イオン交換材料等の、他の陰イオン交換材料が使われてよい。
【0069】
原則として、過マンガン酸塩の替わりにどのようなアニオン性酸化剤が使われてよい。例えば、前に述べた次亜塩素酸塩に加え、他のアニオン性酸化剤、例えば過硫酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩等が使用されてよい。
【0070】
陰イオン交換材料をアニオン性酸化剤と反応させることによって製造される中間体は、被酸化性の金属塩の溶液、好ましくは、例えば硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、塩化第一鉄または酢酸鉄等の第一鉄塩と反応させられてよい。陰イオン交換材料中に析出した水和酸化鉄粒子は、例えばヘマタイト、ゲータイト、マグネタイト、及び水酸化鉄等様々な形態をとりうる。
【0071】
以下のクレームに規定される本発明の範囲から逸脱せずに、さらに他の変更が上記装置及び方法に対してなされてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、水からの汚染物除去、特に飲用水、工業プロセス水、有害排水、及び工業排水の処理に、及び汚染現場の再生に適用性を有する。
【符号の説明】
【0073】
20 リザーバー
22 ポンプ
24 カラム
26 HAIXビーズ
28 グラスファイバ層
30 リザーバー
32 ポンプ
34 溶出液サンプルチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体からリガンドを選択的除去するための吸着剤であって、前記吸着剤は鉄の酸素含化合物の分散粒子を含むポリマー陰イオン交換樹脂を含む吸着剤。
【請求項2】
液体流から汚染物質を除去する方法であって、前記液体流はHFOが浸透した陰イオン交換材料を含む吸着剤と接触される方法。
【請求項3】
前記汚染物質がリガンドである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記汚染物質は、砒酸塩、亜砒酸塩、クロム酸塩、モリブデン酸塩、亜セレン酸塩及びバナジン酸塩からなる群からの一つ以上のアニオンを含むリガンドである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記液体流が、飲料水、地下水、工業プロセス水または工業排水の液体流である、請求項2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【公開番号】特開2011−255383(P2011−255383A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214685(P2011−214685)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【分割の表示】特願2006−551161(P2006−551161)の分割
【原出願日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(506249956)
【Fターム(参考)】