説明

液体クロマトグラフ、および液体クロマトグラフ用送液装置

【課題】複数の溶媒の混合比を変化させながら試料を分析する液体クロマトグラフおよび液体クロマトグラフ用送液装置において、混合器等の特別な装置を新たに付加することなく複数の溶媒の混合を促進させることができる装置を提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフ用送液装置は、その内部に複数の溶媒を流入させるシリンダと、複数の溶媒を流入させるとともに吐出して送液するために往復運動するプランジャとを備え、シリンダに複数の溶媒が混合する複数個の流路を設けた構成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフに係り、特に液体クロマトグラフ用送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフは、試料を搬送するための溶媒を送液装置で送り、溶媒に試料を加えた後に分離カラムを通すことで、試料を成分毎に分離し、検出器で検出してクロマトグラムを作成し、試料の成分を分析するものである。また、液体クロマトグラフには、複数種類の溶媒を混合させるとともに、開閉弁により各溶媒の混合比を変化させながら送液装置で送液する低圧グラジエントシステムと呼ばれる送液システムが用いられるものがある。このシステムでは、複数種類の溶媒の混合比の精度をあげるために、各溶媒の容器の弁を1個ずつ順番に開けて送液する。したがって、溶媒の容器の直後の配管内は、各溶媒毎の濃度が高くなっていて混合していない。しかし、試料を導入するときに、これらの複数種類の溶媒を十分に混合させておくことができないと、分離カラムでの試料の分離が不十分になり、分析精度の低下をもたらす。したがって、例えば、配管の途中に混合器を設けて複数種類の混合を促進させる試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。混合を促進させるためには、混合器の容量を十分に大きくする必要があり、溶媒から分離カラムまでの配管の容量が大きくなる。その結果、管内抵抗が大きくなるため、送液装置の負荷が増えるので、送液装置を大型化する必要があり、コストアップにつながる。
【0003】
液体クロマトグラフの送液装置として、シリンダ内に設けられたプランジャの往復運動により溶媒の吸引と吐出を繰り返し、連続送液を行う送液装置が知られている。開閉弁によって混合される溶媒は流れ方向に対して交互に配置され、送液過程の拡散によって混合されるが、混合性能は高くない。そこで、シリンダ壁とプランジャの間の空間で混合を促進させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−324026号公報
【特許文献2】特開2009−121483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低圧グラジエントシステムに代表される複数の溶媒の混合比を変化させながら試料を分析する液体クロマトグラフおよび液体クロマトグラフ用送液装置において、混合器等の特別な装置を新たに付加することなく複数の溶媒の混合を促進させることができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の実施態様は、その内部に複数の溶媒を流入させるシリンダと、複数の溶媒を流入させるとともに吐出して送液するために往復運動するプランジャとを備えた液体クロマトグラフ用送液装置であって、特に、シリンダに複数の溶媒が混合する複数個の流路を設けた構成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低圧グラジエントシステムに代表される複数の溶媒の混合比を変化させながら試料を分析する液体クロマトグラフおよび液体クロマトグラフ用送液装置において、混合器等の特別な装置を新たに付加することなく複数の溶媒の混合を促進させることができる装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】液体クロマトグラフの概要を示す構成図である。
【図2】配管内の複数の溶媒の流れの状態を示す説明図である。
【図3】送液装置のシリンダ部の構成を示す断面図である。
【図4】送液装置のシリンダ部の構成を示す断面図である。
【図5】送液装置のシリンダ部の構成を示す断面図である。
【図6】送液装置の構成の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。
【0010】
〔実施例〕
図1は、液体クロマトグラフの概要を示す構成図であり、特に、低圧グラジエントシステムの代表的な構成例を示す。低圧グラジエントシステムは、複数の溶媒容器1a,1b,1c,1dに保管された複数種類の溶媒の混合比を変化させる溶媒切換装置2と、溶媒を送液するプランジャポンプ等の送液装置3と、測定対象試料を溶媒中へ注入する試料注入装置4と、溶媒とともに送液された試料を分離する分離カラム5と、分離された試料を順に検出する検出器6と、溶媒切換装置2の切換え動作、溶媒切換装置2の弁の切換え、送液装置3の排出容量、試料注入装置4の試料注入タイミングを制御し、検出器6から送信されるデータを解析し、クロマトグラムを図示しないディスプレイへ表示する制御装置100とを備えている。
【0011】
図2は、配管内の複数の溶媒の流れの状態を示す説明図である。溶媒切換装置2と送液装置3との間の配管内は、溶媒切換装置2の切換え順序に従って、図2に示すような順番で、図1に示す4種類の溶媒がそれぞれまとまって流れてくる。
【0012】
図3は、送液装置のシリンダ部の構成を示す断面図であり、溶媒容器と溶媒切換装置との接続状態も示してしる。送液装置のシリンダ7の内部をプランジャ8が、モータ駆動等により往復運動し、入口側流路9と出口側流路10のそれぞれに設けられた図示しない弁機構により、入口側流路9から吸引された溶媒が出口側流路10から吐出される。制御装置100は、図2に示した溶媒切換装置2による溶媒の切換えを、プランジャ8が吸引工程のときに、全種類の溶媒について行うようにする。そして、吐出工程のときに、複数個の開口部を有している出口側流路10から、全種類の溶媒が吐出され、合流部に設けたフィルタ11で合流して送液される。この構成により、送液装置3から溶媒が吐出されるときには、複数種類の溶媒が混合された状態となっている。
【0013】
図4(a)は、シリンダ7の内部空間と入口側流路13との間にフィルタ14を設け、シリンダ7の内部空間と出口側配管15との間にフィルタ16を設けた構成である。シリンダ7の耐圧力を考慮すると、フィルタの構造は、図4(b)に示したような、シリンダ7に複数個の出口側流路10を設け、それらを繋ぐ流路を形成するとともに、その流路内にフィルタ16を設け、出口側配管15が接続された流路を密閉するカバー17を設ける構造とする。入口側流路についても同様に、シリンダ7に設けた複数の流路の前側にフィルタを設ける構造とする。図2に示した溶媒切換装置2による溶媒の切換えは、プランジャ8が吸引工程のときに、全種類の溶媒について行われるようにする。溶媒がフィルタ14で混合されながらシリンダ7の内部に吸引される。そして、吐出工程のときに、図4に示すように、複数個の流路とフィルタ16通過して混合され、出口側配管15から全種類の溶媒が吐出される。この構成により、送液装置3から溶媒が吐出されるときには、複数種類の溶媒が混合された状態となっている。
【0014】
図5は、送液装置のシリンダ部の構成を示す断面図であり、図3の構成と異なり、溶媒がシリンダに流入する側に複数の流路を設けた構成の一例を示している。プランジャ42の吸引動作のときに、溶媒切換装置2の切換弁が開閉して、溶媒容器1a,1b,1c,1d内の複数種類の溶媒が順番に吸引される。溶媒はシリンダ41に流入するときに入口側複数流路43を通過して混合され、シリンダ41内でも混合され、プランジャ42の吐出動作のときに吐出流路44から吐出される。
【0015】
図6は、送液装置の構成の概要を示す構成図である。図3に示した溶媒の混合のための出口側流路を設けたシリンダを複数個、たとえば2個を、溶媒の流れ方向が直列になるように設けた、低圧グラジエントシステム用の送液装置である。低圧グラジエントシステムでは、複数種類の溶媒を、予め決められた混合割合を時間的に変化させながら、クロマトグラムを作成するものである。そして、ある瞬間では、複数種類の溶媒は、よく混合されていてムラがないことが要求される。
【0016】
図6に示す送液装置は、第1プランジャ22が設けられた第1シリンダ23と、第2プランジャ24が設けられた第2シリンダ25を備えている。第1シリンダ23と第2シリンダ25には、それぞれ複数個の吐出流路26,27と、各吐出流路から吐出された溶媒が合流する合流部28,29が設けられている。第1シリンダ23には入口側逆止弁32と出口側逆止弁33が設けられている。
【0017】
モータ34の回転が第1カム30,第2カム31の回転に伝達され、第1プランジャ22,第2プランジャ24は、それぞれ第1カム30,第2カム31により往復運動する。モータ34の回転は、制御装置35により制御される。第1カム30と第2カム31の回転軸には、カムの位置を判定するために、スリットを備えた部材36が取り付けられ、回転センサ37により部材36のスリットが検知され、このデータが制御装置35へ送られ、それぞれのカムの位置が制御装置35で判定される。
【0018】
制御装置35は、カムの位置と、第2シリンダ25からの吐出圧力を測定する吐出側流路内圧力検出器38から送られる圧力データとに基づき、モータ34の回転を制御する。また、制御装置35は、低圧グラジエントシステムとして必要な溶媒の混合比になるように、溶媒切換装置2の切換弁21a,21b,21c,21dの開閉制御を行う。これらの動作は、図示しないメモリからプログラムを読み出して、図示しないプロセッサが実行することで、各装置への指令が送られる。溶媒切換装置2と送液装置3との間の配管内は、各溶媒が流れ方向に対して切換弁の開閉順に流れる。
【0019】
送液の開始時点では、制御装置35により、第1シリンダ23に設けられた入口側逆止弁32が開放され、第1プランジャ22が吸引動作を開始する。入口側逆止弁32からは、各溶媒が溶媒切換装置2で切換えられた順番に流入する。第1シリンダ23に溶媒が満たされると、第1プランジャ22が停止し逆方向への押し込みが開始される。第1プランジャ22の押し込みのときには、入口側逆止弁32が閉鎖され、出口側逆止弁33が開放され、第1シリンダ23内の溶媒が第2シリンダ25へ流入する。第1シリンダ23には、図3に示したような複数の吐出流路26が設けられ、溶媒が合流部28で合流して出口側逆止弁33へ流れる。第1シリンダ23内の複数の溶媒は、第1プランジャ22の吸引動作のときと、複数の吐出流路26を流れ合流部28で合流するときに混合される。第2プランジャ24の吸引動作が終了し、逆方向への押し込みが開始すると、出口側逆止弁33が閉鎖され、第2シリンダ25内の溶媒は、第2シリンダ25に設けられた図3に示したような複数の吐出流路27を流れ、合流部29を通過して、さらに混合される。
【0020】
本実施例では、図3に示した複数の吐出流路を2個のシリンダに設けた例を説明したが、合流部にフィルタを設けたり、図4に示したフィルタで混合させる構造のシリンダを用いても、溶媒を混合させることができる。また、図5に示した入口側に複数流路を設けた構造のシリンダを用いても、溶媒を混合させることができる。また、2個のシリンダを、溶媒の流れ方向が並列になるように並べた構成の液体クロマトグラフ用送液装置でも、図3,図4,図5に示した構成を採用することで、溶媒の混合を促進させることができる。
【0021】
以上述べたように、本発明の実施例によれば、低圧グラジエントシステムに代表される複数の溶媒の混合比を変化させながら試料を分析する液体クロマトグラフおよび液体クロマトグラフ用送液装置において、混合器等の特別な装置を新たに付加することなく複数の溶媒の混合を促進させることができる装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0022】
2 溶媒切換装置
3 送液装置
7,51 シリンダ
8,52 プランジャ
9,13 入口側流路
10 出口側流路
11,14,16 フィルタ
12,15 出口側配管
17 カバー
22 第1プランジャ
23 第1シリンダ
24 第2プランジャ
25 第2シリンダ
32 入口側逆止弁
33 出口側逆止弁
53 入口側複数流路
54 吐出流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溶媒の混合比を変化させながら試料を導入し、分離カラムで前記試料を分離して成分を検出する液体クロマトグラフにおいて、
前記複数の溶媒を前記分離カラムへ送液する送液装置を備え、
該送液装置は、その内部に前記複数の溶媒を流入させるシリンダと、前記複数の溶媒を流入させるとともに吐出して送液するために往復運動するプランジャと、前記複数の溶媒が混合する複数個の流路とを有することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記複数個の流路は、前記複数の溶媒が前記シリンダから吐出する側に設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項3】
請求項2の記載において、前記複数の流路の後流側に合流部が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項4】
請求項2の記載において、前記複数の流路の後流側にフィルタが設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項5】
請求項1の記載において、前記複数個の流路は、前記複数の溶媒が前記シリンダに流入する側に設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
請求項5の記載において、前記複数の流路の前側にフィルタが設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
複数の溶媒を分離カラムへ送液する液体クロマトグラフ用送液装置において、
その内部に前記複数の溶媒を流入させるシリンダと、前記複数の溶媒を流入させるとともに吐出して送液するために往復運動するプランジャと、前記複数の溶媒が混合する複数個の流路とを有することを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項8】
請求項7の記載において、前記複数個の流路は、前記複数の溶媒が前記シリンダから吐出する側に設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項9】
請求項8の記載において、前記複数の流路の後流側に合流部が設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項10】
請求項8の記載において、前記複数の流路の後流側にフィルタが設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項11】
請求項7の記載において、前記複数個の流路は、前記複数の溶媒が前記シリンダに流入する側に設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。
【請求項12】
請求項11の記載において、前記複数の流路の前側にフィルタが設けられていることを特徴とする液体クロマトグラフ用送液装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−17985(P2012−17985A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153538(P2010−153538)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)