説明

液体クロマトグラフのオンライン廃液処理装置

【課題】
本発明の解決すべき課題は、捕捉剤の長寿命化を図ると共に、溶媒の劣化を長期にわたり抑制することのできるオンライン廃液装置を提供することにある。
【解決手段】
移動相溶媒に対し試料注入が行われ、分離カラムにて試料成分の分離を行う液体クロマトグラフ10の廃液処理装置12であって、
前記分離カラムから流出してくる廃液の流路をドレイン流路26とトラップカラム流路28に切り替える流路切替バルブと、
前記トラップカラム流路28に接続され、前記廃液中の試料成分を捕捉するトラップカラム32と、
前記トラップカラム32より流出する移動相溶媒を回収する溶媒貯留槽14と、
を備え、試料中に含まれる試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出時には廃液流路をドレイン流路と連結し、試料溶解溶媒流出後にトラップカラム流路に切り替えることを特徴とする液体クロマトグラフのオンライン廃液処理装置

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフの廃液処理装置、特に液体クロマトグラフと直結して移動相溶媒のリサイクルを行うことのできるオンライン廃液処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフは移動相溶媒として、測定に各種有機溶媒、水、緩衝液などを使用し、その廃液量は大量となる。このため、環境、手間、経費などの観点からも、廃液処理が大きな問題となる。特に有機溶媒を移動相溶媒として用いた場合には、廃液が環境に与える影響が大きく、しかも溶媒が高価な場合も多く、装置数が増えるにつれ問題も大きくなる。
そこで、溶媒自体の使用量を低減するため、溶媒の使用量の少ないミクロHPLCや超高速HPLCが提唱されているが、新たな装置や技術が必要であるため、日常的に行われているHPLCをこれらの手法に置換することは容易ではない。
したがって、HPLC測定で使用する溶媒のリユースに対する期待は大きい。
【0003】
これに対し、たとえば特許文献1に示されるように循環回帰流路を有する廃液処理装置も開発されている。
この種のオンライン廃液処理装置は、特に品質管理、製造管理など、近似サンプルの反復分析に有用である。
しかしながら、本発明者らがさらに検討したところ、廃液成分の捕捉剤、溶媒の劣化が比較的早いという問題が明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−197505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、その解決すべき課題は捕捉剤の長寿命化を図ると共に、溶媒の劣化を長期にわたり抑制することのできるオンライン廃液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために本発明は、
移動相溶媒に対し試料注入が行われ、分離カラムにて試料成分の分離を行う液体クロマトグラフの廃液処理装置であって、
前記分離カラムから流出してくる廃液の流路をドレイン流路とトラップカラム流路に切り替える流路切替バルブと、
前記トラップカラム流路に接続され、前記廃液中の試料成分を捕捉するトラップカラムと、
前記トラップカラムより流出する移動相溶媒を回収する溶媒貯留槽と、
を備え、試料中に含まれる試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出時には廃液流路をドレイン流路と連結し、試料溶解溶媒流出後にトラップカラム流路に切り替えることを特徴とする。
【0007】
また、前記装置において、液体クロマトグラフには、前記分離カラムと廃液流路の間に試料成分検出器が設けられており、
流路切替バルブの切替制御をおこなうバルブ制御手段は、該試料成分検出器から試料溶解溶媒と多量夾雑化合物の流出終了信号を受領し、前記流路切替バルブに対し、廃液流路をドレイン流路からトラップカラム流路に切り替えるよう指示を与えることが好適である。
また、前記装置において、流路切替バルブの切替制御をおこなうバルブ制御手段は、液体クロマトグラフより試料注入信号を受領し、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出終了に要する時間をカウントした後に、前記流路切替バルブに対し、廃液流路をドレイン流路からトラップカラム流路に切り替えるよう指示を与えることが好適である。
【0008】
また、前記装置において、トラップカラムには、表面積の大きい多孔質材であって、かつ低圧力損失である捕捉剤が充填されていることが好適である。
また、前記装置において、トラップカラム内の捕捉剤の劣化を報知するトラップカラム劣化報知手段を備え、該劣化報知手段は試料注入回数を積算し、所定値に達したことにより劣化報知を行うことが好適である。
また、前記装置において、劣化報知手段は、検知器による試料成分検知信号より、試料成分の積算量を演算し、所定値に達したことにより劣化報知を行うことが好適である。
すなわち、前記オンライン廃液処理装置は、廃液中に含まれる試料成分をカラムによりトラップするものであるが、試料成分自体の絶対量は少ないため、本来は長期にわたり捕捉剤が使用可能であり、溶媒の劣化も少ないことが予想される。
【0009】
しかしながら、試料成分を液体クロマトグラフに注入する段階で、通常、試料成分溶解のため、試料溶解溶媒が用いられており、この試料溶解溶媒は試料量に比較しきわめて多い。
そして、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物までをトラップカラムにより捕捉しようとすれば必然的にカラム捕捉剤の劣化が早まり、またトラップカラムにより捕捉されない試料溶解溶媒等は移動相溶媒に混入したままリサイクルされることになり、移動相溶媒の組成変化が生じる。
そこで本発明においては、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出期間の廃液をリサイクルから外すように構成しているのである。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明にかかるオンライン廃液処理装置は、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出時には流路切替バルブの操作によりドレイン流路に切り替えることで、トラップカラムへの試料溶解溶媒と多量夾雑化合物の流入を抑制し、カラム捕捉剤の長寿命化、移動相溶媒の劣化抑制を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかるオンライン廃液装置(試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出時)の説明図である。
【図2】前記図1に示す廃液処理装置(試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出後)の説明図である。
【図3】本発明のリサイクル期間の説明図である。
【図4】本実施形態にかかるオンライン廃液装置の具体的構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる液体クロマトグラフのオンライン廃液処理装置の概略構成が示されている。
同図より明らかなように、本実施形態では、液体クロマトグラフ10に対しオンライン廃液処理装置12が適用されている。
そして、液体クロマトグラフ10は、同図より明らかなように移動相溶媒が貯留される溶媒貯留槽14と、移動相溶媒を圧送するポンプ16と、ポンプ16より供給される移動相溶媒中に試料を順次注入するオートサンプラー18と、移動相溶媒中の試料成分を分離する分離カラム20と、該分離カラム20より流出する試料成分を順次検出する検出器22とを備える。
【0013】
一方、本実施形態にかかるオンライン廃液処理装置12は、検出器22よりの廃液流路24をドレイン流路26ないしトラップカラム流路28に切替接続する流路切替バルブ30と、廃液内の試料成分を補足可能なトラップカラム32とを備える。
そして、ポンプ16より送出される移動相溶媒中にオートサンプラー18が試料を注入すると、分離カラム20が試料成分、および該試料成分を溶解していた試料溶解溶媒を分離し、検出器22を経由して廃液流路24より排出する。
【0014】
通常、試料溶解溶媒は分離カラム20より最初に流出してくる。このため、図1に示すように、試料注入より試料溶解溶媒の流出が終了するまでの所定時間、流路切替バルブ30は廃液流路24をドレイン流路26に接続し、廃液はドレインタンク34に廃棄される。
そして、試料溶解溶媒の流出が終了すると、流路切替バルブ30は廃液流路24をトラップカラム流路28に切り替え、廃液中の試料成分はトラップカラム32の捕捉剤に捕捉され、移動相溶媒は溶媒貯留槽14に導かれる。
【0015】
分離カラム20より最初に流出する試料溶解溶媒と多量夾雑化合物は、注入試料中の大半を占める。この試料溶解溶媒と多量夾雑化合物が流出している期間は廃液がドレインタンク34へ導かれる。しかし、この試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出期間は、全クロマト分析に要する時間と比較すればきわめて短く、移動相溶媒の廃棄量は小さい。
そして、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出後に、廃液はトラップカラム32に送られ、試料成分が捕捉されたのちに溶媒貯留槽14に送られるが、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物は含まれないため、トラップカラム32の負荷にはならず、また試料溶解溶媒のように捕捉しにくい物質が流出することもない。さらに試料成分は検出器出力(ピーク)は大きいものの実量は少ないため、その除去は効率的に行われ、トラップカラムの長寿命化が図られる。
【0016】
図4には本実施形態にかかる廃液処理装置の具体的構成が示されており、前記図1と対応する部分には同一符号を付し、説明を省略する。
図示の廃液処理装置12は、ハウジング50内に流路切替バルブ30、トラップカラム32と共に、前記流路切替バルブ30を駆動するモータ52と、バルブ30の切替制御を指示するバルブ制御手段54と、トラップカラム32の劣化の検知および報知を行う劣化報知手段56と、液体クロマトグラフの制御コンピュータ、あるいは検知器、オートサンプラーなどから制御信号を受領するインターフェース58とを備える。
【0017】
そして、前記バルブ制御手段54は、液体クロマトグラフのオートサンプラー18よりインターフェース58を介して試料の注入信号を受け、モーター52に回転指示を与え流路切替バルブ30を廃液流路−ドレイン流路に切り替える。そして、所定時間経過後、あるいは検出器22からの試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出終了信号を受け、モーター52に回転指示を与え流路切替バルブ30を廃液流路−トラップカラム流路に切り替える。
なお、バルブ制御手段54は、試料注入信号を受けた後、一定時間のみを廃液流路−ドレイン流路に切り替えるよう、カウンタを作動させる構成、あるいは液体クロマトグラフの制御コンピュータから指示を受け、タイムプログラムを起動させる構成等も採用可能である。
【0018】
また、本実施形態において、劣化報知手段56は試料注入信号の受信回数をカウントし、所定回数に達したらトラップカラム32の交換を促すランプを点灯させる。このため、トラップカラム32の劣化が進み、溶媒貯留槽14に捕捉不能となった試料成分が混入するのを防止することができる。また、たとえば試料成分の変動が大きい場合などは、前記劣化報知手段56は、検知器22による試料成分検知信号より、ピーク高さあるいはピーク面積などの積算を行い、トラップカラム32に導通された試料成分積算量を演算し、所定値に達したことにより劣化報知を行うことも好適である。
【0019】
また、ハウジング50のトラップカラム32収納部前面は開閉可能なドア62となっており、トラップカラム32の着脱、交換が容易である。
なお、本発明において、トラップカラム32に充填される捕捉剤は、表面積の大きい多孔質、かつ低圧力損失である材料を用いることで検出器22のフローセルに対する負荷を軽減するのが好適である。
また、液体クロマトグラフがステップ状に移動相溶媒を切り替える場合には、トラップカラムを複数本並列に配置し、移動相流路切替に対応してトラップカラムを切り替え、移動相溶媒の混合が起こらないようにすることも好適である。
さらに、多種の試料を注入する場合には、前記同じく複数のトラップカラムを並列ないし直列に配置し、各カラムに異なる捕捉剤を充填することで、多種の試料成分を捕捉可能とすることが好適である。
【符号の説明】
【0020】
10 液体クロマトグラフ
12 廃液処理装置
20 分離カラム
22 試料成分検出器
24 廃液流路
26 ドレイン流路
28 トラップカラム流路
30 流路切替バルブ
54 バルブ制御手段
56 劣化報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相溶媒に対し試料注入が行われ、分離カラムにて試料成分の分離を行う液体クロマトグラフの廃液処理装置であって、
前記分離カラムから流出してくる廃液の流路をドレイン流路とトラップカラム流路に切り替える流路切替バルブと、
前記トラップカラム流路に接続され、前記廃液中の試料成分を捕捉するトラップカラムと、
前記トラップカラムより流出する移動相溶媒を回収する溶媒貯留槽と、
を備え、試料中に含まれる試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出時には廃液流路をドレイン流路と連結し、試料溶解溶媒流出後にトラップカラム流路に切り替えることを特徴とする液体クロマトグラフのオンライン廃液処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、液体クロマトグラフには、前記分離カラムと廃液流路の間に試料成分検出器が設けられており、
流路切替バルブの切替制御をおこなうバルブ制御手段は、該試料成分検出器から試料溶解溶媒と多量夾雑化合物の流出終了信号を受領し、前記流路切替バルブに対し、廃液流路をドレイン流路からトラップカラム流路に切り替えるよう指示を与えることことを特徴とする液体クロマトグラムのオンライン廃液処理装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、流路切替バルブの切替制御をおこなうバルブ制御手段は、液体クロマトグラフより試料注入信号を受領し、試料溶解溶媒と多量夾雑化合物流出終了に要する時間をカウントした後に、前記流路切替バルブに対し、廃液流路をドレイン流路からトラップカラム流路に切り替えるよう指示を与えることを特徴とする液体クロマトグラフの廃液処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の装置において、トラップカラムには、表面積の大きい多孔質材であって、かつ低圧力損失である捕捉剤が充填されていることを特徴とする液体クロマトグラフの廃液処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の装置において、トラップカラム内の捕捉剤の劣化を報知するトラップカラム劣化報知手段を備え、該劣化報知手段は試料注入回数を積算し、所定値に達したことにより劣化報知を行うことことを特徴とする液体クロマトグラフの廃液処理装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の装置において、劣化報知手段は、検知器による試料成分検知信号より、試料成分の積算量を演算し、所定値に達したことにより劣化報知を行うことを特徴とする液体クロマトグラフの廃液処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−223707(P2010−223707A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70271(P2009−70271)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(595005617)ジャスコエンジニアリング株式会社 (3)