説明

液体クロマトグラフ用制御装置及びプログラム

【課題】様々な条件でのグラジエント分析を連続的に行う場合において、一連の分析に要する時間を短縮する。
【解決手段】液体クロマトグラフ用の制御装置において、試料の分析(実分析)の前に該試料の分析時と同様のグラジエント条件による予備送液(空分析)を行うように液体クロマトグラフを制御すると共に、試料の分析を複数回行う場合に、前後して実行される2つの試料分析に適用されるカラムの種類、溶媒の種類、グラジエント工程開始時の溶媒の混合比を比較してこれらが同一である場合には該2つの試料分析の間の予備送液を省略する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフの動作を制御するための制御装置、及び該制御装置において用いられるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフは、オートサンプラ、ポンプ、カラムオーブン等の複数のユニットから構成されており、制御装置からの制御信号に従って各ユニットの動作が制御される。
【0003】
近年、こうした液体クロマトグラフにおいても、各分析ユニットを統括的に制御したり採取されたデータを処理したりするために、パーソナルコンピュータに所定の制御/処理プログラムをインストールした制御装置が広く利用されている。こうした制御装置では、分析の開始に先立ってスケジュールテーブルを作成しておくことにより、多検体の連続分析などを自動的に行うことができるようになっている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
図11は液体クロマトグラフ分析におけるスケジュールテーブルの一例である。このテーブル上では1行が1回の分析に対応しており、1行中に、その分析を実行するのに必要な情報として、試料番号、試料の注入量、メソッドファイル名、及び分析結果を保存する際のデータファイル名などが記述される。なお、メソッドファイルとは、液体クロマトグラフを構成する各ユニットの動作条件(以下、「分析メソッド」と呼ぶ)を規定したファイルであり、例えば、分析時に使用する移動相やカラムの種類、分析時におけるポンプの流量やカラムオーブンの温度といった各種のパラメータが記述されている。
【0005】
以上のようなスケジュールテーブルが作成された上で分析の開始が指示されると、そのスケジュールに従って順次試料が選択されるとともに分析条件が設定され、多数の試料の分析が自動的に実行される。
【0006】
こうした液体クロマトグラフにおいて、1つの試料に対して様々な条件での分析を行って該試料に最適な分析条件を探索することが行われることがある。これをメソッドスカウティングと呼ぶ。こうしたメソッドスカウティングでは、ユーザが予め上記の各種パラメータを様々に組み合わせた複数種類のメソッドファイルを作成し、更に、図11のようなスケジュールテーブルの各行でそれぞれ異なるメソッドファイルを指定し、各行の試料名及び試料注入量は同一として分析の開始を指示する。これにより、各行のメソッドファイルの記述に従った種々の条件での分析が順次実行される。また、分析結果であるクロマトグラムデータは各分析毎にそれぞれ1つのデータファイルに格納され、ハードディスクドライブ等の記憶装置に保存される。ユーザは該記憶装置に保存されたクロマトグラムデータを参照し、最適な分析結果が得られた時の分析条件を該試料の分析に適用する分析メソッドとして決定する。
【0007】
ところで、液体クロマトグラフの分析手法の1つとしてグラジエント送液法がある。これは、例えば水と有機溶媒といった性質の異なる複数の溶媒を混合し、その混合比率を時間経過に伴って変化させた移動相をカラムに送るものであり、多成分を含む試料の各成分の分離を良好に行うのに特に有用である。
【0008】
グラジエント送液法による分析(以下、「グラジエント分析」と呼ぶ)を行う場合、ユーザは前記メソッドファイルに含める分析パラメータの1つとして、例えば図10に示すようなグラジエントプロファイルを設定する。グラジエントプロファイルは分析開始からの時間経過に伴う移動相組成の目標値を示すものである。図10の例は、溶媒Aと溶媒Bの混合液を移動相としたグラジエント分析のプロファイルであり、移動相組成を前記混合液中における溶媒Bの比率で表している。なお、溶媒Aとしては、比較的溶出力の弱い溶媒(例えば、逆相モードの場合は極性が高い溶媒)が用いられ、溶媒Bとしては溶媒Aよりも溶出力の強い溶媒(例えば、逆相モードの場合は極性が低い溶媒)が用いられる。まず、時刻t0で試料が注入されてから所定の時間が経過するまでの間(時刻t0〜t1)は、溶媒Bの比率が低い状態が維持され、これにより試料中の各成分が一旦カラムに吸着される。その後、時間経過に比例して溶媒Bの比率が上昇し(時刻t1〜t2)、これにより前記各成分がその特性(例えば極性)に応じて順次カラムから溶出される。続いて、一定時間(時刻t2〜t3)にわたって溶媒Bの比率が高い状態が維持されてカラム内に残留していた成分がカラムから排出された後、再び初期の移動相組成に戻され、その状態が更に一定時間維持されて(時刻t3〜t4)カラム内が平衡化される。
【0009】
以下では上記の時刻t0〜t1に相当する工程を試料導入工程と呼び、時刻t1〜t2に相当する工程をグラジエント工程、時刻t2〜t3に相当する工程を洗浄工程、時刻t3〜t4に相当する工程を平衡化工程と呼ぶ。なお、上記の試料導入工程を省略し、試料の注入と同時にグラジエント工程を開始する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005-127814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、グラジエント分析では、グラジエント工程の後に洗浄工程が実行されてカラム内が洗浄され、更に、平衡化工程によりカラム内が平衡化される。しかしながら、同一試料に対し同一条件でのグラジエント分析を複数回に亘って連続的に行った場合、1回目の分析と2回目以降の分析とでは、各成分の保持時間にズレが生じる。例えば、図12は同一試料に対して同一条件によるグラジエント分析を3回連続で行った結果を重畳したものであり、2回目と3回目の分析で得られたクロマトグラム(太線)は完全に一致しているが、1回目の分析で得られたクロマトグラム(細線)と他のクロマトグラムとではピークの出現時刻(保持時間)が異なっている。
【0012】
こうした保持時間のズレは、1回目の分析と2回目以降の分析とで分析開始時におけるカラムの平衡状態が異なっていることに起因している。そのため、グラジエント分析において適切な分析結果を得るためには、同一条件で連続的に複数回のグラジエント分析を行って2回目以降のデータを採用する必要がある。このような場合において、2回目以降のグラジエント分析を実分析と呼び、1回目のグラジエント分析を空分析と呼ぶこととする。
【0013】
従って、上述のメソッドスカウティングにおいて様々なグラジエントプロファイルによる複数回の分析を行うような場合、各グラジエントプロファイルによる実分析を行う前に、その都度、該実分析と同一のグラジエントプロファイルを用いた空分析を行う必要があるため一連の分析が完了するまでに長時間を要するという問題があった。
【0014】
また、メソッドスカウティングでは多様な分析条件の検討を行うため、一般的に分析数が多くなる傾向がある。そのため、分析結果として多数のデータファイルが生成されるので、データファイルを開いてみないと各ファイルがどの条件での分析結果であるのかが把握できない状態となるという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、第1の目的とするところは、様々なグラジエントプロファイルによる複数回のグラジエント分析を連続的に行う場合において、一連の分析に要する時間を短縮することのできる液体クロマトグラフ用制御装置を提供することにある。また、第2の目的とするところは、多数のデータファイルが生成された場合でも各データファイルがどのような条件での分析結果であるかをユーザが容易に判別可能な液体クロマトグラフ用制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明に係る液体クロマトグラフ用制御装置は、移動相を構成する複数の溶媒の混合比を時間的に変化させつつクロマトグラフ分析を行うグラジエント分析機能を備えた液体クロマトグラフの動作を制御する液体クロマトグラフ用制御装置であって、
a)試料の分析の際に、前記溶媒の混合比が、移動相の溶出力が該分析中で最小となる第1混合比から移動相の溶出力が該分析中で最大となる第2混合比を経て再び前記第1混合比に戻るように液体クロマトグラフを制御する分析制御手段と、
b)前記試料の分析の前に、前記溶媒の混合比を、前記試料の分析時と同一の第1混合比から前記試料の分析時と同一の第2混合比を経て再び前記第1混合比に戻す予備送液を実行するように液体クロマトグラフを制御する予備送液制御手段と、
を有し、前記予備送液制御手段が、試料の分析を複数回行う場合に、前後して実行される2つの試料分析に適用されるカラムの種類、溶媒の種類、前記第1混合比、及び前記第2混合比がそれぞれ同一である場合には該2つの試料分析の間の予備送液を省略することを特徴としている。
【0017】
ここで、前記「試料の分析」が上述の実分析に相当し、「予備送液」が上述の空分析に相当する。なお、一般的に、1回のグラジエント分析における移動相の溶出力は、グラジエント工程の開始時点で最小となり、洗浄工程で最大となる。従って、典型的には、前記グラジエント工程の開始時点における溶媒の混合比が本発明における第1混合比となり、洗浄工程における溶媒の混合比が本発明における第2混合比となる。なお、グラジエント工程終了時における移動相の溶出力が十分に高いときには、洗浄工程が省略される場合もある。このような場合には、グラジエント工程終了時における溶媒の混合比が本発明における第2混合比となる。
【0018】
上記のように、連続する2つの試料分析に適用されるカラムの種類、溶媒の種類、第1混合比、及び第2混合比がそれぞれ同一である場合には、先に実行される試料分析が後に実行される試料分析についての空分析と同様の役割を果たすこととなる。そのため、後に実行される試料分析の前に空分析を行わなくても該試料分析において上述のような保持時間のズレが生じることはない。このように、上記構成から成る本発明に係る液体クロマトグラフ用制御装置によれば、分析結果に影響しない範囲で空分析を省略することが可能となる。
【0019】
更に、前記本発明に係る液体クロマトグラフ用制御装置は、
c)複数回のグラジエント分析の結果を各分析毎にそれぞれ1つのデータファイルに格納する分析結果格納手段と、
d)各グラジエント分析に使用されたカラムの名称及び溶媒の名称、並びに各グラジエント分析において溶媒の混合比を連続的に変化させる工程の開始時点における溶媒の混合比及び該工程の終了時点における混合比の少なくともいずれかを含んだファイル名を、その分析の結果が格納されるデータファイルに付与するデータファイル名自動付与手段と、
を備えたものとすることが望ましい。
【0020】
ここで、前記「溶媒の混合比を連続的に変化させる工程」が、上述のグラジエント工程に相当する。
【発明の効果】
【0021】
以上で説明した通り、上記構成から成る本発明に係る液体クロマトグラフ用制御装置によれば、分析結果に影響しない範囲で空分析(予備送液)を省略することが可能となる。そのため、上述のメソッドスカウティングのように複数回のグラジエント分析を連続的に行う場合において、分析精度を低下させることなく、一連の分析に要する時間を短縮することが可能となる。
【0022】
また、上記のデータファイル名自動付与手段を備えた構成とすれば、各データファイルがどの条件での分析結果であるかをユーザがファイルを開くことなく容易に判別できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例に係る制御装置を備えた液体クロマトグラフの概略構成図。
【図2】同実施例に係る制御装置の動作を示すフローチャート。
【図3】同実施例におけるスケジュールテーブル作成部の動作を示すフローチャート。
【図4】本実施例におけるグラジエントプロファイルの例を示す図。
【図5】空分析及び実分析の実行時における移動相組成変化の例を示すタイムチャートであって、(a)は従来の装置によるものであり、(b)は本実施例の装置によるものである。
【図6】本実施例におけるグラジエントプロファイルの別の例を示す図。
【図7】空分析及び実分析の実行時における移動相組成変化の別の例を示すタイムチャート。
【図8】メソッドスカウティングにおけるスケジュールテーブルの一例を示す図であって、(a)は従来の装置によるものであり、(b)は本実施例の装置によるものである。
【図9】本実施例の装置による効果を説明するための模式図。
【図10】グラジエントプロファイルの一例を示す図。
【図11】従来のスケジュールテーブルを示す図。
【図12】同一試料に対して同一条件によるグラジエント分析を3回連続で行った結果を示すクロマトグラム。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る液体クロマトグラフ用制御装置の一実施例を、図面を参照して説明する。図1は本実施例による制御装置を備えた液体クロマトグラフの概略構成図である。
【0025】
この液体クロマトグラフは、送液部10、オートサンプラ20、カラムオーブン30、検出部40、これら各部をそれぞれ制御するシステムコントローラ50、システムコントローラ50を通して分析作業を管理したり検出部40で得られたデータを解析・処理したりする制御装置60、制御装置60に接続されたキーボードやマウスから成る操作部71、ディスプレイから成る表示部72などを備える。
【0026】
送液部10は、送液ポンプPによって吸引された溶媒Aと、送液ポンプPによって吸引された溶媒Bとをグラジエントミキサー17によって混合した上でカラムへと送出するものであり、更に、送液ポンプP、Pにはそれぞれ溶媒切替バルブ15、16及び脱気ユニット13、14を介して4つの溶媒容器が接続されている。このうち、送液ポンプPに接続された溶媒容器11a〜11dには例えば水系の溶媒(即ち水を主成分とする溶媒)が収容されており、溶媒切替バルブ15の切り替えにより、これら4つの溶媒容器11a〜11dの内の1つが選択されて該容器内の溶媒が前記溶媒Aとして送液ポンプPにより吸引される。一方、送液ポンプPに接続された溶媒容器12a〜12dには例えば有機系の溶媒(即ち有機溶媒を主成分とする溶媒)が収容されており、溶媒切替バルブ16の切り替えにより4つの溶媒容器12a〜12dの内の1つが選択されて該容器内の溶媒が前記溶媒Bとして送液ポンプPにより吸引される。これら送液ポンプP、Pの流量は時間経過に伴ってそれぞれ変化するように制御することが可能であり、これによって溶媒A、Bの混合比率が時間的に変化するグラジエント方式の送液を行うことができる。カラムオーブン30は、6つのカラム32a〜32f、及びこれらのカラムのいずれか1つを選択的に移動相の流路に接続するための流路切替部31、33を内装している。検出部40には例えばPDA検出器などの検出器41が設けられている。なお、本実施例の液体クロマトグラフでは、カラム32a〜32fとして逆相クロマトグラフィー用のカラムが用いられ、溶媒Bとしては溶媒Aよりも極性が低いものが用いられる。そのため、移動相における溶媒Bの比率が高くなるほど該移動相の溶出力(カラムから試料成分を溶出させる力)は強くなる。
【0027】
制御装置60は、記憶部61、分析条件設定部62、スケジュールテーブル作成部63、分析制御部64、及びデータ処理部65を機能ブロックとして含んでいる。制御装置60の実体はパーソナルコンピュータであり、パーソナルコンピュータにインストールした専用の制御/処理ソフトウエアを実行することにより後述するような各種機能が達成される。なお、前記のスケジュールテーブル作成部63及び分析制御部64が協同して本発明における分析制御手段及び予備送液制御手段として機能する。また、データ処理部65が本発明における分析結果格納手段及びデータファイル名自動付与手段に相当する。
【0028】
上記の液体クロマトグラフを用いた1回のグラジエント分析における標準的な分析動作は次の通りである。即ち、制御装置60の分析制御部64から指示を受けたシステムコントローラ50の制御の下で、溶媒切替バルブ15、16がそれぞれ1つの溶媒容器を選択し、送液ポンプP、Pが前記溶媒容器から所定の流量で以て溶媒を吸引する。送液ポンプPで吸引された溶媒Aと送液ポンプPで吸引された溶媒Bは、グラジエントミキサー17によって均一に混合され、混合後の移動相は、オートサンプラ20を介してカラムへと流入する。オートサンプラ20には1つ以上の試料瓶(バイアル)が搭載されたラックがセットされており、システムコントローラ50の制御の下に所定の試料を選択してこれを採取し、所定のタイミングで以て該試料を移動相中に注入する。この試料は移動相に乗ってカラム32a〜32fのいずれかに導入される。
【0029】
このとき、図10のグラジエントプロファイルに示すように、試料の注入から所定の時間が経過するまでの間は、溶媒Bの比率が低く、溶媒Aの比率が高い状態となるように送液ポンプP、Pの流量が制御される(時刻t0〜t1:試料導入工程)。溶媒Aとしては、溶出力の弱い溶媒が用いられるため、これにより試料中の各成分が一旦カラムに吸着する。続いて、送液ポンプP、Pの流量を時間経過に従って変化させて溶媒Bの比率を上げていく(時刻t1〜t2:グラジエント工程)。溶媒Bとしては、溶出力の強い溶媒が用いられるため、これによりカラムに吸着していた各成分がその極性に応じて順次カラムから溶出されて検出部40に導入される。
【0030】
そして、検出部40に設けられた検出器41によって各成分が順次検出され、その濃度に応じた検出信号をデジタル化したデータがシステムコントローラ50を介して制御装置60へ送られる。制御装置60では受け取ったデータをハードディスク等の記憶装置上に設けられた記憶部61に格納するとともに、データ処理部65で所定の処理を行ってクロマトグラムを作成し表示部72の画面上に表示する。その後、溶媒Bを一定時間高濃度で送液することによりカラムを洗浄し(時刻t2〜t3:洗浄工程)、再び初期の移動相組成に戻してカラムを一定時間平衡化する(時刻t3〜t4:平衡化工程)。
【0031】
次に、本実施例の液体クロマトグラフ用制御装置における特徴的な動作として、メソッドファイル及びスケジュールテーブルの作成時の動作について図2のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0032】
まず、ユーザが操作部71を操作して、グラジエント分析によるメソッドスカウティングを行う旨を分析条件設定部62に入力する。これにより、表示部72の画面上に所定の設定画面(図示略)が表示されるので、分析対象とする試料名とその注入量、溶媒Aとして使用する溶媒の種類、溶媒Bとして使用する溶媒の種類、及びカラムの種類等をそれぞれ前記設定画面上でユーザが選択する(ステップS11)。
【0033】
前記の設定画面での設定が完了すると、続いて表示部72の画面上にグラジエント条件入力画面(図示略)が表示されるので、ユーザは1回のグラジエント分析に適用するグラジエント条件を設定する。ここで、グラジエント条件とは、上述の試料導入工程、グラジエント工程、洗浄工程、及び平衡化工程の実行時間、グラジエント工程の開始時における移動相の組成、グラジエント工程の終了時における移動相の組成、及び前記洗浄工程における移動相の組成であり、ユーザがこれらの値を入力すると、前記分析条件設定部62により、図10のようなグラジエントプロファイルが作成される(ステップS12)。なお、前記移動相の組成は、例えば混合後の移動相(即ち溶媒A+溶媒B)における溶媒Bの比率によって指定することができる。
【0034】
なお、試料導入工程及び平衡化工程における移動相組成は、前記グラジエント分析の開始時点における移動相組成と同一であるため、ユーザが該グラジエント工程開始時の移動相組成を設定すれば、これらの工程における移動相組成も自動的に決定される。また、洗浄工程における移動相組成は、該洗浄工程における移動相の溶出力が前記グラジエント工程終了時点における移動相の溶出力と同等以上になるように設定される。従って、1回のグラジエント分析では、グラジエント工程の開始時(及び試料導入工程と平衡化工程)において移動相の溶出力が最小となり、洗浄工程において移動相の溶出力が最大となる。従って、前記グラジエント工程開始時の移動相組成が本発明における第1混合比に相当し、前記洗浄工程における移動相組成が本発明における第2混合比に相当する。
【0035】
その後、ユーザが操作部71からメソッドファイルの作成を指示すると、以上で設定した内容に基づいて、1つのメソッドファイルが生成され、記憶部61に保存される(ステップS13)。このメソッドファイルには、上記のステップS11で入力された溶媒A、Bの種類やカラムの種類などのパラメータと、ステップS12で作成されたグラジエントプロファイルが記述される。
【0036】
その後、上記のステップS11及びS13を繰り返し実行することにより、メソッドスカウティングにおいて実行しようとする複数回のグラジエント分析について、それぞれグラジエントプロファイル及びメソッドファイルを作成する。これにより、分析条件の異なる複数のメソッドファイルが生成されて記憶部61に保存される。以下、各メソッドファイルをメソッド1、メソッド2…等と呼ぶ。
【0037】
なお、ここでは、各分析におけるグラジエントプロファイルをユーザが1つずつ入力設定するものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、基本となるグラジエント条件と、前記グラジエント工程の開始時及び終了時における移動相組成をそれぞれ何段階に変更するか、及び前記変更の1段階毎に移動相組成をどれだけ変更するかをユーザに指定させるようにし、分析条件設定部62が、前記基本となるグラジエント条件から前記グラジエント工程の開始時及び終了時の移動相組成を段階的に変更した複数種類のグラジエントプロファイルを作成し、更に各グラジエントプロファイルを含んだ複数のメソッドファイルを自動的に作成して記憶部61に記憶させる構成としてもよい。
【0038】
メソッドスカウティングにおいて実行しようとする全てメソッドファイルの作成が完了したら(即ち、ステップS14でYes)、続いて、ユーザが操作部71で所定の操作を行うことによりスケジュールテーブル作成部63へスケジュールテーブルの作成を指示する。これにより、各メソッドファイルを用いた空分析及び実分析がスケジュールテーブルに登録される(ステップS15)。
【0039】
以下、このときのスケジュールテーブル作成部63の動作を図3のフローチャートを参照しつつ説明する。まず、スケジュールテーブル作成部63は、メソッドファイルの番号を表す変数nを1に設定し(ステップS21)、前記ステップS13で作成された複数のメソッドファイルの内の1番目のメソッドファイル(即ち、メソッド1)を用いた空分析をスケジュールテーブルの1行目に登録する(ステップS22)。なお、上述の通り、空分析では試料の導入を行わないため、該スケジュールテーブルの1行目には、試料名と試料注入量は記入されない。続いて、スケジュールテーブル作成部63は、前記1番目のメソッドファイルを用いた実分析をスケジュールテーブルの2行目に登録する(ステップS23)。このとき、試料名及び試料注入量の欄には上記のステップS11でユーザが設定した値が記載される。
【0040】
その後、スケジュールテーブル作成部63は上述のステップS13で作成されたメソッドファイルが全てスケジュールテーブルに登録されたか否かを判定し(ステップS24)、登録されていないと判断した場合(ステップS24でNo)には、前記変数nをインクリメントする(ステップS25)。
【0041】
続いて、スケジュールテーブル作成部63は、2番目のメソッドファイル(即ち、メソッド2)の記述内容と、直前の実分析に用いられるメソッドファイル(即ち、メソッド1)の記述内容とを比較し、両メソッドファイルに記述されたカラムの種類が同じか否か(ステップS26)、溶媒A、Bの種類がいずれも同一であるか否か(ステップS27)、グラジエントプロファイルにおけるグラジエント工程開始時の移動相組成が同一であるか否かを判定する(ステップS28)。そして、いずれも同一(即ち、ステップS26〜S28が全てYes)であった場合は、前記2番目のメソッドファイルを用いた実分析をスケジュールテーブルの3行目に登録して(ステップS30)、前記のステップS24に戻る(即ち、メソッド2を用いた空分析はスケジュールテーブルに登録されない)。
【0042】
一方、前記ステップS26〜S28のいずれかがNoとなった場合は、前記2番目のメソッドファイルを用いた空分析をスケジュールテーブルの3行目に登録し(ステップS29)、更に、同じメソッドファイルを用いた実分析をスケジュールテーブルの4行目に登録した上で(ステップS30)、前記のステップS24に戻る。このときも空分析の行には試料名及び試料注入量は記載されず、実分析の行にはステップS11でユーザが設定した試料名及び注入量が記載される。
【0043】
その後、ステップS24でYesとなるまで(即ち、全てのメソッドファイルがスケジュールテーブルに登録されるまで)、ステップS24〜S30の処理を繰り返し実行する。
【0044】
なお、洗浄工程における移動相組成は全てのメソッドファイルで同一の値に設定される場合が多いため、上記の例では、2つのメソッドファイル間で洗浄工程の移動相組成が同一であるかどうかの判定は行っていない。しかしながら、洗浄工程の移動相組成がメソッドファイル間で異なる値に設定される可能性がある場合には、上記のカラム、溶媒、及びグラジエント工程開始時の移動相組成が同一であるか否かの判定(ステップS26〜S28)に加えて、更に、洗浄工程の移動相組成が同一か否かの判定を行うものとすることが望ましい。これらが1つでも異なっていた場合には該メソッドファイルについて空分析と実分析の両方をスケジュールテーブルに登録し(ステップS29、S30)、全て同一であった場合には空分析の登録を省略して実分析の登録を行う(ステップS30)。
【0045】
このように、本実施例に係る制御装置60では、前後して実行される2回の実分析におけるカラムの種類、溶媒の種類、及びグラジエント工程開始時の移動相組成が同一か否かを判定し、同一であった場合には、両分析の間の空分析を省略するようになっている。以下、この点について具体例を挙げて説明する。
【0046】
例えば、上記のメソッド1には図4中に実線で示すようなグラジエントプロファイル(プロファイル1)が記述され、メソッド2には図4中に点線で示すようなグラジエントプロファイル(以下、「プロファイル2」と呼ぶ)が記述されているものとする。なお、カラムの種類や溶媒の種類は、メソッド1、2でそれぞれ同一であるとする。
【0047】
図4に示す通り、プロファイル1とプロファイル2は、グラジエント工程終了時の移動相組成のみが異なっており、その他の条件、即ち、試料導入工程、グラジエント工程、洗浄工程、及び平衡化工程の実行時間や、グラジエント工程開始時の移動相組成、及び洗浄工程の移動相組成はそれぞれ同一となっている。
【0048】
こうしたプロファイル1を記述したメソッド1及びプロファイル2を記述したメソッド2をスケジュールテーブルに登録する場合、従来の装置では、メソッド1を用いた空分析(空分析1)、メソッド1を用いた実分析(実分析1)、メソッド2を用いた空分析(空分析2)、及びメソッド2を用いた実分析(実分析2)がこの順番で登録される。このときの移動相組成変化のタイムチャートを図5(a)に示す。これは、図4で示したプロファイル1とプロファイル2をそれぞれ2つずつ並べたものに相当する。
【0049】
上述した通り、プロファイル1とプロファイル2では、グラジエント工程開始時の移動相組成が同一(溶媒Bの濃度:5%)となっており、更に洗浄工程における移動相組成も同一(溶媒Bの濃度:95%)となっている。そのため、図5(a)に示す通り、前記タイムチャートでは、溶媒Bの混合比が5%の状態から95%の状態を経て再び5%に戻るという工程が4回繰り返されることとなる。このとき、前記工程の2、3、4回目、即ち、実分析1、空分析2、実分析2の開始時点t、t、tにおけるカラムの平衡状態はほぼ同一になっていると考えられる。このことから、仮に、図5(a)の空分析2の開始時点tで試料の導入を行ったとしても、実分析2の開始時点tで試料導入を行った場合とほぼ同一の分析結果が得られると考えられる。
【0050】
そこで、本実施例の制御装置60では、空分析2を省略して、空分析1、実分析1、実分析2をこの順番でスケジュールテーブルに登録する。このときの移動相組成変化のタイムチャートを図5(b)に示す。これは、図4で示したプロファイル1を2つと、プロファイル2を1つを並べたものに相当する。これにより、空分析1の開始から実分析2の終了までに要する時間を従来よりも短縮することができる。
【0051】
一方、例えば、図6に示すように、プロファイル1とプロファイル2におけるグラジエント工程開始時の移動相組成が異なる場合には、本実施例の装置においても、従来と同様に、空分析1、実分析1、空分析2、及び実分析2がこの順番でスケジュールテーブルに登録される。このときの移動相組成変化のタイムチャートを図7に示す。これは、図6で示したプロファイル1とプロファイル2をそれぞれ2つずつ並べたものに相当する。
【0052】
上述した通り、図6のプロファイル1とプロファイル2では、グラジエント工程開始時の移動相組成が異なっているため、図7のタイムチャートにおける実分析1、空分析2、実分析2の開始時点t、t、tにおけるカラムの平衡状態は互いに異なっていると考えられる。そのため、このような場合には空分析2を省略することはできない。
【0053】
本実施例の液体クロマトグラフ用制御装置により作成されるスケジュールテーブルの一例を図8(b)に示す。該テーブル上では1行が1回のグラジエント分析に対応しており、1行中に、その分析を実行するのに必要な情報として試料名、試料注入量、メソッドファイル名、データファイル名などが記述される。なお、空分析では試料の導入を行う必要はないため、空分析に対応する行には試料名及び試料注入量は記述されない。
【0054】
ここでは、前記グラジエント工程開始時の移動相組成が、メソッド1と3で異なり、メソッド1と2、及びメソッド3と4では同一である場合のスケジュールテーブルを示している。このような場合でも、従来の装置では図8(a)のように全てのメソッドファイルについて実分析と空分析を登録していたが、本実施例の装置では、図9に示す通り、実分析1と2の間、及び実分析3と4の間における空分析(即ち、空分析2と4)が省略される。そのため、図8(b)のスケジュールテーブルでは、メソッド1、3を用いた分析はそれぞれ2行ずつ登録されているが、メソッド2、4を用いた分析はそれぞれ1行ずつしか登録されていない。
【0055】
このように、本実施例によれば分析結果に影響しない範囲で空分析を省略することが可能となるため、メソッドスカウティング等において分析精度を低下させることなく一連の分析に要する時間を短縮することができるようになる。
【0056】
また、上記の通り、スケジュールテーブルの各行には、分析結果を保存する際のデータファイル名が記述される。従来の装置では、データファイル名として通し番号等が記述されていたが、本実施例の装置では図8(b)に示すような分析条件を表したファイル名が自動的に記述される。図8(b)の例の場合、データファイル名は、(プレフィックス)_(カラム名)_(溶媒Aの名称)_(溶媒Bの名称)_(グラジエント工程開始時の溶媒Bの組成比)_(グラジエント工程終了時の溶媒Bの組成比)となっている。このうち、プレフィックスは各行で共通しており、予めユーザが設定しておいた任意の文字列が入力される。また、プレフィックス以外の部分はその行に記載されたメソッドファイルの記述に基づいて適当な文字列が入力される。
【0057】
その後、ユーザが所定の操作を行って分析の開始を指示すると、該スケジュールテーブルに従った自動分析が開始され、様々なグラジエントプロファイルによるグラジエント分析が順次実行される。
【0058】
各分析の結果として得られるクロマトグラムデータは分析毎にそれぞれ1つのデータファイルに格納され、各データファイルには、前記スケジュールテーブルの対応する行に記述されたデータファイル名が付与される。これにより、各データファイルがどの条件での分析結果であるかを、ユーザがファイルを開くことなく容易に判別できるようになる。
【0059】
なお、上記の図8(b)の例では、実分析の行とそれに対応する空分析の行には同一のデータファイル名が記述されているため、空分析の実行により生成されたデータファイルは、直後に実行される実分析のデータファイルによって上書きされることとなる。しかしながら、空分析の結果をユーザが参照する可能性は低いため特に問題はない。また、例えばファイル名の末尾に空分析と実分析の区別を表す文字列が付与されるようにして、空分析の結果と実分析の結果とがそれぞれ異なるデータファイル名で保存されるようにしてもよい。あるいは、空分析のデータファイル名には従来通り通し番号等を付与するようにして、空分析のデータファイルと実分析のデータファイルをユーザが容易に区別できるようにしてもよい。また、空分析のデータファイルと実分析のデータファイルの保存場所を分けてもよい。
【0060】
以上、実施例を用いて本発明を実施するための形態について説明を行ったが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容されるものである。例えば、上記の例では前後して実行される2つの実分析においてカラムの種類、溶媒の種類、及びグラジエント工程開始時における移動相組成が同一であるか否かの判定を行い、これらが全て同一であった場合には前記2つの実分析の間の空分析を省略するものとなっているが、更に、各実分析における試料導入工程、グラジエント工程、洗浄工程、及び平衡化工程の少なくともいずれか1つの工程の実行時間についても前記2つの実分析間で同一となっているか否か判定するようにしてもよい。この場合、前記2つの実分析において、カラムの種類、溶媒の種類、グラジエント工程開始時における移動相組成、及び前記実行時間が同一であった場合には、該2つの実分析の間の空分析を省略し、1つでも同一でないものがあった場合には空分析を省略しないものとする。
【0061】
また、上記の実施例では前後の分析に関するメソッドファイルを1つずつ比較しながら順次スケジュールテーブルに登録するものとしたが、全てのメソッドファイルをスケジュールテーブルに登録した後に、一括して前後するメソッドファイルの比較を行うようにしてもよい。この場合、まず全てのメソッドファイルについて実分析の行と空分析の行をスケジュールテーブルに登録した後に前記の比較を行い、その結果、省略可能と判断された空分析の行のみを削除するようにしてもよく、あるいは、まず全てのメソッドファイルについて実分析の行のみをスケジュールテーブルに登録した後に前記の比較を行い、その結果、空分析を省略できないと判定されたメソッドファイルついてのみ実分析の行の前に該メソッドファイルを用いた空分析の行を挿入するようにしてもよい。また、各メソッドファイルをスケジュールテーブルに登録した後に、該テーブル中に完全に同一の分析が複数存在していないかを判定し、存在していた場合には、そのうちの1つを残して削除するようにしてもよい。これによりメソッドスカウティングに要する時間を更に短縮することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
10…送液部
11a〜11d、12a〜12d…溶媒容器
、P…送液ポンプ
15、16…溶媒切替バルブ
17…グラジエントミキサー
20…オートサンプラ
30…カラムオーブン
32a〜32f…カラム
40…検出部
41…検出器
50…システムコントローラ
60…制御装置
61…記憶部
62…分析条件設定部
63…スケジュールテーブル作成部
64…分析制御部
65…データ処理部
71…操作部
72…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を構成する複数の溶媒の混合比を時間的に変化させつつクロマトグラフ分析を行うグラジエント分析機能を備えた液体クロマトグラフの動作を制御する液体クロマトグラフ用制御装置であって、
a)試料の分析の際に、前記溶媒の混合比が、移動相の溶出力が該分析中で最小となる第1混合比から移動相の溶出力が該分析中で最大となる第2混合比を経て再び前記第1混合比に戻るように液体クロマトグラフを制御する分析制御手段と、
b)前記試料の分析の前に、前記溶媒の混合比を、前記試料の分析時と同一の第1混合比から前記試料の分析時と同一の第2混合比を経て再び前記第1混合比に戻す予備送液を実行するように液体クロマトグラフを制御する予備送液制御手段と、
を有し、
前記予備送液制御手段が、試料の分析を複数回行う場合に、前後して実行される2つの試料分析に適用されるカラムの種類、溶媒の種類、前記第1混合比、及び前記第2混合比がそれぞれ同一である場合には該2つの試料分析の間の予備送液を省略することを特徴とする液体クロマトグラフ用制御装置。
【請求項2】
c)複数回のグラジエント分析の結果を各分析毎にそれぞれ1つのデータファイルに格納する分析結果格納手段と、
d)各グラジエント分析に使用されたカラムの名称及び溶媒の名称、並びに各グラジエント分析において溶媒の混合比を連続的に変化させる工程の開始時点における溶媒の混合比及び該工程の終了時点における混合比の少なくともいずれかを含んだファイル名を、その分析の結果が格納されるデータファイルに付与するデータファイル名自動付与手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフ用制御装置。
【請求項3】
コンピュータを請求項1に記載の分析制御手段及び予備送液制御手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−24603(P2013−24603A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157132(P2011−157132)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)