説明

液体クロマトグラフ

【課題】
酸化分解反応を含むポストカラム法を用いた測定において、アミノメチルりん酸とグリホサートを共に高感度に測定する。
【解決手段】
移動相を送液する第1の送液ポンプと、移動相に試料を導入するインジェクタと、試料を分離する分離カラムと、第1の反応試薬を送液する第2の送液ポンプと、第2の反応試薬を送液する第3の送液ポンプと、前記分離カラムから溶出された試料に前記第1の反応試薬を混合する第1の混合部と、前記第1の混合部を経た溶液に前記第2の反応試薬を混合する第2の混合部と、当該第2の混合部を経た溶液を検出する検出器とを備えた液体クロマトグラフであって、前記第2の送液ポンプは、少なくともアミノメチルりん酸が前記第1の混合部を通過した後に、前記第1の反応試薬を送液する。
【効果】
アミノメチルりん酸とグリホサートを同時に高感度に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリホサートおよびアミノメチルりん酸の測定に適した液体クロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道水中の農薬の高感度分析の要求が高まっている。グリホサートは、除草剤として広く使用され、その分解物はアミノメチルりん酸として存在する。水質基準では、グリホサートとアミノメチルりん酸の合計値で判定し、μg/Lレベルの高感度分析が求められている。分析手法の一つとして、ポストカラム法を用いて液体クロマトグラフで測定する例がある。このような例としては、下記非特許文献1が挙げられる。
【0003】
この装置においては、移動相に試料を注入して分離カラムで分離した後、反応試薬を混合して反応させ、その後検出器で検出を行う。
【0004】
【非特許文献1】厚生労働省健康局水道課長通知,平成15年10月10日 健水発第1010001号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グリホサートを測定するためにポストカラム法を用いる液体クロマトグラフでは、複数の反応試薬を使用する。具体的には、試料に第1の反応試薬を混合し、酸化分解を行って2級アミンから1級アミンに分解し、その後第2の反応試薬を混合して、生成した1級アミンの蛍光誘導体化反応を行う。第1の反応試薬には、水酸化ナトリウム(NaOH)を含むアルカリ性緩衝液と次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)の混合液を用い、第2の反応試薬には、アミノ基(−NH2 )を有する化合物と特異的に反応するオルトフタルアルデヒドを含むホウ酸緩衝液を用いるのが一般的である。
【0006】
上記の手法では、グリホサートは感度良く測定されるものの、アミノメチルりん酸に関しては高感度に測定することができなかった。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決し、グリホサートおよびアミノメチルりん酸の同時分析において、何れの成分も高感度に測定することのできる液体クロマトグラフを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、アミノメチルりん酸が溶出するまでは、酸化分解を行うための反応試薬を送液しないか、次亜塩素酸ナトリウム溶液を含まない反応試薬を送液することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アミノメチルりん酸およびグリホサートをそれぞれ最適条件で高感度に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施例を説明する。
【0011】
従来はグリホサートとアミノメチルりん酸を同時に感度良く得ることはできていなかった。本発明者らが検討した結果、酸化分解を行うための反応試薬に加えられている次亜塩素酸ナトリウム試薬が、グリホサートおよびアミノメチルりん酸の感度に影響を与えていることが分かった。
【0012】
図2に、反応試薬に含まれる次亜塩素酸ナトリウム溶液添加量とグリホサートおよびアミノメチルりん酸の得られるピーク強度の関係を示す。横軸が反応試薬に含まれる次亜塩素酸ナトリウム溶液添加量、縦軸がグリホサートおよびアミノメチルりん酸を蛍光検出器を用いて得た信号強度である。次亜塩素酸ナトリウム溶液添加量が0の場合、アミノメチルりん酸の感度は、良好であるが、グリホサートの感度は低くなる。逆に、グリホサートに最適な次亜塩素酸ナトリウム溶液添加量に設定すると、アミノメチルりん酸の感度が低下してしまうことが図2より分かる。即ち、次亜塩素酸ナトリウムは、グリホサートを検出するためには、必要な成分であるが、アミノメチルりん酸に対しては、酸化分解を起こし、得られる信号強度が減少しピーク強度が低くなるものであることが判明した。
【0013】
図1は、上記検討結果に基づく第1の実施例の概略構成図である。
【0014】
25mmol/Lのりん酸二水素カリウム(KH2PO4)からなる移動相を0.8mL/
min の流量で送液ポンプ1によって送液し、送液された移動相に対してインジェクタ2から試料を注入する。試料は、カラムを加熱あるいは冷却して温度を制御するカラムオーブン3内に設置された分離カラム4で分離される。分離後の試料に対して、三方ジョイント5,13において、2種類の反応試薬が混合される。
【0015】
送液ポンプ7は、反応試薬10を0.4mL/minの流量で送液する。反応試薬10は、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)、0.01mol/Lのりん酸二水素カリウム(KH2PO4)、0.2mol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)が混合された水溶液に、次亜塩素酸ナトリウム液(5%)を0.2mL/L 加えたものである。送液ポンプ8は、反応試薬11を0.5mL/minの流量で送液する。反応試薬11は、0.05mol/Lの四ほう酸ナトリウム(Na247) 水溶液に、オルトフタルアルデヒドメタノール溶液を0.2g/2.5mL、及び2−メルカプトエタノール0.5mL を加え1Lに調製したものである。反応試薬10が混合された試料は、反応コイル6を介してカラムオーブン3内で反応し、さらに三方ジョイント13において反応試薬11と混合し、反応コイル14を介してカラムオーブン3で反応し、蛍光検出器などの検出器9へ導かれ、クロマトグラムを得る。
【0016】
本実施例の特徴は、反応試薬10の送液を制御するようにした事にある。具体的には、分離カラム4からアミノメチルりん酸が溶出し、少なくとも三方ジョイント5を通過するまで送液ポンプ7を停止し、アミノメチルりん酸が三方ジョイント13を通過した後に送液を開始するようにする。より安全には、溶出したアミノメチルりん酸が、三方ジョイント13を通過するまで送液ポンプ7を停止し、その後送液を開始するようにする。
【0017】
上記の移動相流量の場合、通常、アミノメチルりん酸は分析開始から5〜6分程度で溶出され、グリホサートは分析開始から15〜16分程度で溶出される。したがって、分析開始から10分までの間、送液ポンプ7の流量を0mL/min とし、反応試薬10を流さないことでアミノメチルりん酸の酸化分解を防ぎ高いピーク強度を得ることができる。
10.1分から送液ポンプ7の流量を0.4mL/min で送液すれば、試料に対して酸化分解が行われ、グリホサートも問題なく検出できる。また、反応試薬10を途中から送液することで、流量が変化し、ベースラインは変動するが、目的成分の定量には影響はない。また、10.1 分から反応試薬10の送液を開始する分析プログラムは、溶出したアミノメチルりん酸が、三方ジョイント13を通過した後に反応試薬10の送液が開始されることになる。このような分析プログラムでは、反応試薬10の送液開始タイミングが、アミノメチルりん酸が反応コイル6を通過した後であるので、アミノメチルりん酸に反応試薬
10が混合される可能性が無くなり、より確実にアミノメチルりん酸の検出を行うことができる。
【0018】
ここで、送液ポンプ7の流量を、分析開始から最後まで0.4mL/minで測定した場合と、上記の本実施例のように途中から流量切替えを行った場合の測定結果を図4に示す。図4中の一番下のクロマトグラムが分析開始から最後まで送液ポンプ7の流量を変えない場合のクロマトグラム、一番上のクロマトグラムが本実施例のクロマトグラムである。本来、ベースラインは同程度の信号強度であるが、ここでは便宜上、高さを変えて記載している。図4において、5〜6分の間にあるピークがアミノメチルりん酸、15〜16分の間にあるピークがグリホサートである。図4のクロマトグラムによれば、本実施例を用いて分析を行った場合、アミノメチルりん酸のピーク強度は、従来行われていたように常に反応試薬10を送液していた場合と比較し、約15倍高い強度が得られ、グリホサートのピーク強度は、同等の感度が得られていることが分かる。
【0019】
尚、上記の例において、反応試薬10の送液開始時期は、アミノメチルりん酸とグリホサートの溶出時期の中間辺りとなるように、予めプログラムするものであるが、検出器9でアミノメチルりん酸のピークが検出された事を確認した後に、送液ポンプ7が反応試薬10の送液を開始するように、フィードバック制御を行っても良い。
【0020】
図3に、第2の実施例を示す。図1と基本的な構成は同じであるが、送液ポンプ7に、低圧グラジエントユニット機能を装備し、反応試薬10と反応試薬12の2つの反応試薬を切替えて送液するようにする。
【0021】
反応試薬10は、第1の実施例の反応試薬10と同じ組成の試薬である。反応試薬12は、0.01mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH),0.01mol/Lのりん酸二水素カリウム(KH2PO4),0.2mol/Lの塩化ナトリウム(NaCl)を混合した水溶液である。即ち、反応試薬10は次亜塩素酸ナトリウム液を含む試薬であり、反応試薬12は次亜塩素酸ナトリウム液を含まない試薬である。
【0022】
本実施例においては、分離カラム4からアミノメチルりん酸が溶出し、少なくとも三方ジョイント5を通過するまで送液ポンプ7は反応試薬12を送液し、アミノメチルりん酸が三方ジョイント13を通過した後に反応試薬10に切替えて送液を続けるようにする。より安全には、溶出したアミノメチルりん酸が、三方ジョイント13を通過するまで反応試薬12を送液し、その後反応試薬10の送液に切替えるようにする。
【0023】
具体的には、分析開始から10分までは、反応試薬12を0.4mL/minで送液し、アミノメチルりん酸を検出し、10.1分から反応試薬10を0.4mL/min で送液しグリホサートを検出する。図4に、本実施例による測定結果を示す。中間にあるクロマトグラムが本実施例によるものである。本実施例においても、第1の実施例と同様にアミノメチルりん酸の強度は、従来のように反応試薬10を常に送液している場合と比較し、約15倍の高い強度が得られ、グリホサートのピーク強度は同等の強度を得られることが確認された。
【0024】
また、10.1 分から反応試薬10の送液を開始する分析プログラムは、本実施例においても、溶出したアミノメチルりん酸が、三方ジョイント13を通過した後に反応試薬
10の送液が開始されることになる。このような分析プログラムでは、反応試薬10の送液開始タイミングが、アミノメチルりん酸が反応コイル6を通過した後であるので、アミノメチルりん酸に反応試薬10が混合される可能性が無くなり、より確実にアミノメチルりん酸の検出を行うことができる。
【0025】
尚、上記の例において、反応試薬10と反応試薬12の送液切替え時期は、アミノメチルりん酸とグリホサートの溶出時期の中間辺りとなるように、予めプログラムするものであるが、検出器9でアミノメチルりん酸のピークが検出された事を確認した後に、送液ポンプ7が反応試薬12から反応試薬10へ送液を切替えるように、フィードバック制御を行っても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施例の概略構成図である。
【図2】反応試薬中の次亜塩素酸ナトリウム溶液の影響を示す図である。
【図3】第2の実施例概略構成図である。
【図4】従来方法,第1の実施例,第2の実施例で得られるクロマトグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1,7,8…送液ポンプ、2…インジェクタ、3…カラムオーブン、4…分離カラム、5,13…三方ジョイント、6,14…反応コイル、9…検出器、10,11,12…反応試薬。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を送液する第1の送液ポンプと、移動相に試料を導入するインジェクタと、試料を分離する分離カラムと、第1の反応試薬を送液する第2の送液ポンプと、第2の反応試薬を送液する第3の送液ポンプと、前記分離カラムから溶出された試料に前記第1の反応試薬を混合する第1の混合部と、前記第1の混合部を経た溶液に前記第2の反応試薬を混合する第2の混合部と、当該第2の混合部を経た溶液を検出する検出器とを備えた液体クロマトグラフであって、
前記第2の送液ポンプは、少なくともアミノメチルりん酸が前記第1の混合部を通過した後に、前記第1の反応試薬を送液することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の反応試薬は、水酸化ナトリウム(NaOH)を含むアルカリ性緩衝液と次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)の混合液であり、前記第2の反応試薬は、オルトフタルアルデヒドを含むホウ酸緩衝液であることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項3】
移動相を送液する第1の送液ポンプと、移動相に試料を導入するインジェクタと、試料を分離する分離カラムと、第1の反応試薬および第2の反応試薬を送液する第2の送液ポンプと、第3の反応試薬を送液する第3の送液ポンプと、前記分離カラムから溶出された試料に前記第1または第2の反応試薬を混合する第1の混合部と、前記第1の混合部を経た溶液に前記第3の反応試薬を混合する第2の混合部と、当該第2の混合部を経た溶液を検出する検出器とを備えた液体クロマトグラフであって、
前記第2の送液ポンプは、少なくともアミノメチルりん酸が前記第1の混合部を通過した後に、前記第1の反応試薬から第2の反応試薬へ送液を切替えることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1の反応試薬は、次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)を含まず、前記第2の反応試薬は、次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)を含むものであることを特徴とする液体クロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−53000(P2006−53000A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234005(P2004−234005)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【出願人】(000233550)株式会社日立サイエンスシステムズ (112)