説明

液体中の磁性粒子の集合/分散装置

【課題】容器内の液体に混入して懸濁している磁性粒子を、磁気手段を移動させることにより任意の位置に集合させ、磁性粒子と液体の分離及び分散を高効率に行うようにする装置の提供。
【解決手段】容器1内に収容された液体10に磁性粒子11を混入して分散させ、前記容器1の外部から磁気手段4を用いて前記磁性粒子11を前記容器1内の所定位置に移動させることにより、吸引手段2を用いて前記液体10の吸引を少なくとも行うことができるようにし、前記磁気手段4を前記容器1に対して移動手段を介して移動させ、前記容器1内の任意の位置に前記磁性粒子11を集合させるようにした液体中の磁性粒子の集合/分散装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の磁性粒子の集合/分散装置に関し、特に、容器内の液体に混入して懸濁している磁性粒子を、磁気手段を移動させることにより任意の位置に集合させ、磁性粒子と液体の分離及び分散を高効率に行うようにするための新規な改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、用いられていたこの種のDNA蛋白質スクリーニング装置の磁性粒子の集合分散装置としては、例えば、特許文献1及び2に開示された構成を図18に示すことができる。
すなわち、前述の特許文献1に開示された蛋白質スクリーニング装置においては、容器1内に収容されたスクリーニング対象の液体から蛋白質を抽出するために、図18に示される結合工程A、洗浄工程B及び抽出工程Cからなるスクリーニング工程が採用されている。
【0003】
まず、結合工程Aにおいては、容器1内に試薬のサンプルである蛋白質あるいは化学物質と磁性微粒子を吸引手段であるチップ2でピストンポンプ3を介して注入し、撹拌した後、前記容器1の底部に磁気手段であるマグネット4を設けることによって磁性微粒子を容器1の底部に集合させて磁気による固液分離が行われる。
【0004】
次に、固液分離した容器1内の上澄みをチップ2で吸引して外部に取出した後、洗浄工程Bにおいて、前記容器1内にピストンポンプ3を用いて洗浄液を入れ、チップ2を容器1内に挿入して吸引と吐出を反覆(ピペッティング)することによって撹拌が行われる。
その後、前記結合工程Aと同様に、容器1の底部にマグネット4を設けることにより磁気による固液分離が行われ、上澄みを吸引して外部に廃棄することによって洗浄が完了する。
【0005】
次に、抽出工程Cにおいては、前記容器1内に解離用試薬である抽出液を注入し、チップ2の吸引及び吐出によるピペッティングにより撹拌して分離が行われ、前述と同様に容器1の底部にマグネット4を設けることにより、磁気による固液分離が行われる。
この状態で、上澄みは蛋白あるいは化学物質サンプルが含まれているため、この上澄みをチップ2で吸引して取出すことにより、抽出したサンプルを回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−194671号公報
【特許文献2】特開2001−70827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の液体中の磁性粒子の集合/分散装置は、以上のように構成されていたため、次のような課題が存在していた。
すなわち、前述の磁気手段を用いた各工程A,B,Cにおいて液体の吸引を行う固液分離の際、液体を吸引するチップの吸引口付近に磁性粒子があると誤って吸引してしまう可能性が高いため、磁性粒子を回収する位置はできる限りチップの吸引口から遠い液面付近が望ましい。
一方、撹拌による分離においてチップに設けたピストンポンプによる液体の吸引吐出で発生する水流を利用して磁性粒子を分散させる場合は、チップ吸引口から遠い液面付近に回収された磁性粒子位置では著しく水流が減衰してしまい分散時間が長引いてしまう懸念がある。よって液体の流れが速いチップ吸引口付近に磁性粒子が回収されていることが望ましい。以上により、「固液分離」と「分散」では理想的な磁性粒子の回収位置が異なるため、磁力位置を任意に移動させ回収位置を変えることや、回収された磁性粒子を任意の位置に誘導できる構造やプロセスを付加することができれば、工程の効率化につながるとともに液量の変化に対しても適切な位置に磁力位置を移動させることが可能であるが、容器の底部に磁気手段を接離させることしかできず、容器内における磁性粒子の磁気吸引による集合位置を種々目的に応じて変更することはできず、固液分離及び分散時間を短縮させることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による液体中の磁性粒子の集合/分散装置は、容器内に収容された液体に磁性粒子を混入して分散させ、前記容器の外部から磁気手段を用いて前記磁性粒子を前記容器内の所定位置に移動させることにより、吸引手段を用いて前記液体の吸引を少なくとも行うことができるようにし、前記磁気手段を前記容器に対して移動手段を介して移動させ、前記容器内の任意の位置に前記磁性粒子を集合させるようにした液体中の磁性粒子の集合/分散装置において、前記磁気手段は永久磁石又は電磁石よりなり、前記移動手段により前記磁気手段は前記容器の側部を移動するようにし、前記容器は、チューブ、チップ、マイクロプレート及びPCRプレートの何れかよりなり、前記移動手段は、多数の容器を各保持孔に保持して有する筐体の側部に設けられ制御コントローラで制御されるモータと、前記モータに設けられたピニオンと、前記筐体の側部に上下動自在に設けられ前記ピニオンと噛合するラックと、前記ラックを上下動自在に案内するため前記筐体に設けられたラック案内体と、よりなり、前記ラック案内体は、前記ラックを有しC字型をなすC字型摺動体を備えたラック連結体と、前記筐体に設けられ前記C字型摺動体と係合する案内体と、からなる構成である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による液体中の磁性粒子の集合/分散装置は、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、容器における磁気手段の対応位置を任意に変更することができるため、固液分離及び分散の工程に対して最適な位置にラック/ピニオンを有する移動手段を介して磁気手段を移動させることができ、固液分離、分散の工程を短縮することができる。同時に、液量の変化にも応じて追従できるため、特に、粒径の小さい磁性粒子を用いた時に問題であった工程の時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による液体中の磁性粒子の集合/分散装置を示す構成図である。
【図2】本発明による液体中の磁性粒子の集合/分散装置を示す構成図である。
【図3】本発明による集合/分散装置を示す具体的構成図である。
【図4】図3の断面図である。
【図5】図3のうち磁気移動手段を抜粋したものである。
【図6】図5の要部の平面図である。
【図7】図6の右側面図である。
【図8】図3の他の形態を示す構成図である。
【図9】容器に対する磁気手段を示す構成図である。
【図10】図9の他の形態を示す構成図である。
【図11】図9の他の形態を示す構成図である。
【図12】図10の他の形態を示す構成図である。
【図13】図12の他の形態を示す構成図である。
【図14】図9の他の形態を示す構成図である。
【図15】図14の他の形態を示す構成図である。
【図16】磁性粒子の集合を示す構成図である。
【図17】固液分離から再分散を示す構成図である。
【図18】従来の結合、洗浄及び抽出工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、容器内の液体に混入して懸濁している磁性粒子を磁気手段を移動させることにより任意の位置に集合させ、磁性粒子と液体の分離及び分散を高効率に行うようにした液体中の磁性粒子の集合/分散装置を提供することを目的とする。
【実施例】
【0012】
以下、図面と共に本発明による液体中の磁性粒子の集合/分散装置の好適な実施の形態について説明する。
尚、従来例と同一又は同等部分には、同一符号を付して説明する。
図1は本発明における固液分離工程における理想的な磁性粒子の集合(すなわち、容器1内の特定位置へ集合させること)位置を示すもので、容器1の液体10の上面近くに磁気手段(永久磁石又は電磁石からなる)4を移動させ、チップからなる吸引手段2の先端の吸引口2aを容器1の底部に位置させ、磁性粒子11を吸引することなく、液体10のみを短時間に効率よく吸引し、容器1内に磁性粒子11のみを残留させることができる。
【0013】
図2は、前記磁気手段4を容器1の底部側へ移動させて分散工程における理想的な磁性粒子の集合(すなわち、容器1内の特定位置へ集合させること)位置を示している。
従って、図2の位置では、磁性粒子11が容器1の底部側へ集合されると共に、吸引手段2の先端の吸引口2aが磁性粒子11の近傍に位置しているため、吸引口2aから液体10の吸引と吐出を反覆する(ピペッティング)ことにより、液体10と磁性粒子11の撹拌による分散を短時間で迅速に達成することができる。
【0014】
前述の図1及び図2で示したように、前記磁気手段4を前記容器1の側部に沿って、例えば、その長手方向に沿って移動させる場合、例えば、図3及び図4で示される移動手段20が用いられる。
前記移動手段20は、多数の容器1を各保持孔21に保持して有する筐体22の側部に設けられ制御コントローラCで制御されるモータ23と、前記モータ23に設けられたピニオン24と、前記筐体22の側部に上下動自在に設けられ前記ピニオン24と噛合するラック25と、前記ラック25を上下動自在に案内するため前記筐体22に設けられたラック案内体26と、よりなり、前記ラック案内体26は、前記ラック25を有しC字型をなすC字型摺動体28を備えたラック連結体27と、前記筐体22に設けられ前記C字型摺動体28と係合する案内体29と、から構成されている。
【0015】
前記ラック25に接続部材25aを介して接続された保持体30は、前記ラック25の長手方向と同一の方向に並列配置されると共に、前記筐体22の貫通孔31を貫通して前記筐体22内に突出し、前記保持体30の先端には永久磁石からなる磁気手段4が設けられている。
【0016】
前記モータ23の回転により、ピニオン24及びラック25を介して保持体30が上下動することにより、磁気手段4が矢印Aの方向に移動させ、筐体22に設けられた容器1の側部に対して、図1又は図2の位置に磁気手段4を任意に移動させることができる。尚、前記ラック連結体27の移動位置は、周知の光式又は磁気式の検出を行う位置センサ40で検出されるように構成されている。
尚、前記移動手段20は、前述のラックとピニオンの構成に限ることなく、例えば、周知の回転直線運動変換機構であるボールネジ、台形ネジ等のネジ送り機構やタイミングベルト、リニアモータに置き換えることができる。
【0017】
次に、図5、図6及び図7は、前述の図3及び図4の形態の他の形態を示すもので、図3及び図4と同一部分には同一符号を付し、異なる部分についてのみ説明する。
前記筐体22に設けられたモータ23のピニオン24にはラック25が噛合され、ラック案内体26に設けられた保持体30には多数の取付孔30aが設けられ、各取付孔30aには永久磁石からなる磁気手段4が並設され、各磁気手段4が図示しない多数の並設された各容器1に対して各々対応し、各容器1に対して同時に磁気手段4を移動させることができるように構成されている。すなわち、多数並設された各容器1に対して、同時に磁気手段4を移動させることができる構成である。
【0018】
また、図8に示す形態は、前述のように、磁気手段4を直接機械的に移動させるのではなく、磁気手段4として鉄心35及びコイル36からなる電磁石4Aを用い、この電磁石4Aが複数多段式に所定の間隔で台37上に配設され、前記各鉄心35は、筐体22の容器1の長さ(高さ)方向に沿って所定間隔でかつ非接触状態で配設されている。
【0019】
前記各電磁石4Aを5個使用しているため、5チャンネルA〜Eとすると、制御コントローラCに接続された電流発生部41からの駆動信号40aを選択的に各コイル36に印加することにより、各鉄心35の何れも任意に励磁することができ、機械式に磁気手段4を移動させた構成と同様の作用効果を得ることができる。
従って、制御コントローラCと電流発生部41とにより各電磁石4Aに対する選択励磁手段50を構成することができ、この選択励磁手段50が図8の移動手段20を構成している。尚、前述のチャンネル数は、5チャンネルに限ることなく、任意のチャンネル数とすることができる。
【0020】
また、図9から図15は、磁気手段4の他の形態を示すもので、図9の(A)と(B)は、チューブからなる容器1に対して円柱又は角柱の永久磁石を用いる場合と、リング状の永久磁石を用いる場合が示される。
【0021】
また、図10は、周知のマイクロプレートからなる容器1に対してリング状の永久磁石を用いる場合を示し、図11は、チューブ状の容器1に、円柱、角柱の永久磁石を用いる場合を示している。
また、図12は、周知のPCRプレート1Aの容器1に対して、円柱又は角柱の永久磁石からなる磁気手段4を上下動させる場合を示している。
【0022】
また、図13は、図12と同様のPCRプレート1Aからなる容器1に対してリング状の永久磁石からなる磁気手段4を上下動自在に設けた構成をしめしている。
また、図14は、周知のチップからなる容器1の側部に、円柱又は角柱からなる永久磁石を用いた磁気手段4を上下動させる構成を示している。
また、図15は、周知のチップからなる容器1の側部にリング状の永久磁石からなる磁気手段4を上下動させる構成を示している。
【0023】
図16は、容器1の側部に位置する磁気手段4を、容器1の下部近くに位置させ、磁性粒子11を下部へ集合させる状態を示し、前記磁気手段4をA位置から上部のB位置に移動することにより、磁性粒子11が液面近くのB位置に集合する状態を示している。
【0024】
図17は、固液分離工程から再分散工程に変化する状態を示している。
すなわち、固液分離工程では、磁気手段4が上部のB位置に移動するため、磁性粒子11は上部に移動していることにより、チップ2による液体の吸引が下部から可能となり、磁気手段4をC位置へ下げることにより、磁性粒子11は容器1の下部へ集合して誘導され、さらに、磁気手段11を容器1の下部からさらに離れた位置へ退避させることによって、液体10内の磁性粒子11は集合状態から分散状態となる。
【符号の説明】
【0025】
1 容器
2 吸引手段(チップ)
2a 吸引口
3 ピストンポンプ
4 磁気手段
10 液体
11 磁性粒子
20 移動手段
21 保持孔
22 筐体
23 モータ
24 ピニオン
25 ラック
25a 接続部材
26 ラック案内体
27 ラック連結体
28 C字型摺動体
29 案内体
30 保持体
30a 取付孔
31 貫通孔
C 制御コントローラ
35 鉄心
4A 電磁石
36 コイル
37 台
40 位置センサ
40a 駆動信号
41 電流発生部
50 選択励磁手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器(1)内に収容された液体(10)に磁性粒子(11)を混入して分散させ、前記容器(1)の外部から磁気手段(4)を用いて前記磁性粒子(11)を前記容器(1)内の所定位置に移動させることにより、吸引手段(2)を用いて前記液体(10)の吸引を少なくとも行うことができるようにし、
前記磁気手段(4)を前記容器(1)に対して移動手段(20)を介して移動させ、前記容器(1)内の任意の位置に前記磁性粒子(11)を集合させるようにした液体中の磁性粒子の集合/
分散装置において、
前記磁気手段(4)は永久磁石又は電磁石よりなり、前記移動手段(20)により前記磁気手段(4)は前記容器(1)の側部を移動するようにし、
前記容器(1)は、チューブ、チップ、マイクロプレート及びPCRプレートの何れかよりなり、
前記移動手段(20)は、多数の容器(1)を各保持孔(21)に保持して有する筐体(22)の側部に設けられ制御コントローラ(C)で制御されるモータ(23)と、前記モータ(23)に設けられたピニオン(24)と、前記筐体(22)の側部に上下動自在に設けられ前記ピニオン(24)と噛合するラック(25)と、前記ラック(25)を上下動自在に案内するため前記筐体(22)に設けられたラック案内体(26)と、よりなり、前記ラック案内体(26)は、前記ラック(25)を有しC字型をなすC字型摺動体(28)を備えたラック連結体(27)と、前記筐体(22)に設けられ前記C字型摺動体(28)と係合する案内体(29)と、から構成されていることを特徴とする液体中の磁性粒子の集合/分散装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2012−152213(P2012−152213A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−29204(P2012−29204)
【出願日】平成24年2月14日(2012.2.14)
【分割の表示】特願2007−234907(P2007−234907)の分割
【原出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000203634)多摩川精機株式会社 (669)
【Fターム(参考)】