説明

液体加熱器

【課題】急速に液体を加熱する液体加熱器の機器本体の過熱などを防止する。
【解決手段】液体加熱器1が液体が通液される加熱用液体流路2と、前記加熱用液体流路2の外側に配置された加熱部3と、前記加熱部3による熱輻射側に対向して配置される熱反射部(反射板4)と、前記熱反射部の反射面の裏面側に冷却媒体を通流して前記熱反射部を冷却する冷却部5とを備えることで、液体に吸収されなかった輻射熱を熱反射部で反射し加熱器本体や周辺部材が輻射熱を受けて高温になって焼損や溶損をするのを防止し、さらには輻射熱を反射する熱反射部を冷却部5で冷却することで加熱器本体や周辺部材を所定温度以下に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を急速に加熱する液体加熱器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるレジスト剥離工程においては、洗浄液として硫酸等の溶液を加熱して高温で用いる場合が多い。特に、硫酸溶液を電気分解して得られる過硫酸(ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ一硫酸)を有効成分とする硫酸電解液を用いて、枚葉式洗浄機にてウエハのレジスト剥離を行う場合には、硫酸電解液を約100℃から洗浄機での使用温度である180℃〜200℃程度に急速(5〜10秒程度で)に加熱しなければならない。この加熱に用いる装置として、近赤外線ヒーターを用いた急速加熱器が提案されている。(特許文献1参照)
【0003】
一般に、伝熱の原理には、(1)伝導、(2)対流、(3)輻射がある。急速加熱器では短時間に熱を伝える必要がある。一定流量の流体に熱を短時間に伝えるためには、機器内滞留時間を短くしなければならないが、そうすると伝熱面積を広く取ることができないので、(1)伝導や(2)対流という伝熱方式では十分な熱量を伝えることができない。そこで、上記急速加熱器では近赤外線ヒーターから光を発し、直接、流体中の分子、ここでは硫酸や水の分子に光を吸収させる方式を取っている。また、液滞留時間を短くするために、液流路の厚さを小さく抑えている。
【0004】
一般の加熱装置では、外部を断熱材で覆って熱を内部に閉じ込め、内部を高温に保って熱効率を高くする。この概略を図13に基づいて説明する。
加熱用液体流路100の外側に近赤外線ヒーター101が配置され、近赤外線ヒーター101の反対側に断熱材102が配置される。近赤外線ヒーター101から出力された熱線は加熱用液体流路100に向けて照射され、加熱用液体流路100を流れる硫酸電解液が輻射熱で急速に加熱され、高温の硫酸電解液が加熱用液体流路100から出液される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−060147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、硫酸電解液で吸収されなかった熱線は、加熱用液体流路を通過して外に漏れることになる。しかし、加熱用液体流路は内容積が小さく、有効伝熱面積が小さいので、近赤外線ヒーターによる輻射伝熱では、断熱材が捉えた熱は流体に有効に伝わらず、断熱材の温度が上昇して高温に至る。この状態で運転を続けると、断熱材の耐熱温度を超えて装置が溶損するなどの事故に繋がる。また、断熱せずにそのまま放射すれば、急速加熱装置を設置した筐体(通常は、塩ビ製)が高温になるという問題がある。
【0007】
本発明では上記課題を解決し、輻射熱で高熱を与える方式の急速加熱器において、機器本体や周辺部材が輻射熱を受けて高温になり焼損や溶損をすることなく、安全に連続稼働させることができる液体加熱器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の液体加熱器のうち第1の本発明は、加熱用液体が通液される加熱用液体流路と、前記加熱用液体流路の一側に配置され、熱放射方向が前記通液の方向に交差するように前記加熱用液体流路に向けて熱放射が可能な加熱部と、前記加熱用液体流路の他側に配置される熱反射部と、前記熱反射部を冷却する冷却部と、を備え、
前記冷却部は、前記熱反射部の反射面の裏面側に冷却媒体を通流して、前記熱反射部を前記冷却媒体によって冷却する冷却用冷却媒体流路を備えることを特徴とする。
【0009】
第2の本発明の液体加熱器は、前記第1の本発明において、前記冷却用冷却媒体流路の導入側と排出側とにそれぞれ外部冷却媒体流路が接続され、前記排出側の前記外部冷却媒体流路に前記冷却媒体を冷却する第2冷却部が介設されていることを特徴とする。
第3の本発明の液体加熱器は、前記第1または第2の本発明において、前記加熱用液体流路が二重管で構成され、前記二重管の内管の内側に一または二以上の前記加熱部が配置され、前記二重管の外管の外側に前記熱反射部が配置され、さらに前記熱反射部の外側に前記冷却部が配置されていることを特徴とする。
第4の本発明の液体加熱器は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記冷却部は、前記冷却用冷却媒体流路に冷却用媒体として空気を圧縮して吹き込む圧縮ポンプを備え、前記圧縮ポンプの吹き出し側と前記冷却用冷却媒体流路の入口側との間に、周囲の空気を取り込む空気取込部を有することを特徴とする。
第5の本発明の液体加熱器は、前記第4の本発明において、前記外部冷却媒体流路に、該外部冷却媒体流路で送られる空気を前記圧縮ポンプ側に向けて送風する空気ファンを備えることを特徴とする。
第6の本発明の液体加熱器は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記加熱用液体流路が液導入側を下方、液排出側を上方にして縦方向に沿って配置され、前記冷却用冷却媒体流路の液導入側に接続され、冷却媒体として液体を送るポンプが介設された外部冷却媒体流路を備え、さらに前記外部冷却媒体流路に、前記ポンプをバイパスする冷却媒体バイパス路を備え、該冷却媒体バイパス路に、前記外部冷却媒体流路での通常送液の間は閉となり、前記外部冷却媒体流路での送液停止または送液不良の間は開となるバルブを備えることを特徴とする。
第7の本発明の液体加熱器は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記加熱用液体が70〜120℃であり、前記加熱用液体流路を通液する間に140〜220℃の沸点未満まで昇温されるものであることを特徴とする。
第8の本発明の液体加熱器は、前記第1〜第7の本発明のいずれかにおいて、前記加熱用液体流路の熱放射方向の厚みが10mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体に吸収されなかった輻射熱を反射して、加熱器本体や周辺部材が輻射熱を受けて高温になって焼損や溶損をするのを防止し、さらには輻射熱を反射する反射部を冷却することで加熱器本体や周辺部材を所定温度以下に維持する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の装置構成の概略を説明する図である。
【図2】同じく、空冷方式の液体加熱器の例を示す横端面図である。
【図3】同じく、空冷方式の液体加熱器の例の縦端面図である。
【図4】同じく、空気吹き込み部分の拡大端面図である。
【図5】同じく、一実施形態の液体加熱器を収容して空冷する構成を示す図である。
【図6】同じく、水冷方式の液体加熱器の他例を示す横端面図である。
【図7】同じく、水冷方式の液体加熱器の一例の縦端面図である。
【図8】同じく、一実施形態の液体加熱器を含み、水冷を行う構成を示す図である。
【図9】同じく、空水冷方式の液体加熱器の例を示す図である。
【図10】同じく、実施例における液体加熱器を非常停止した際の温度変化を示すグラフである。
【図11】比較例における液体加熱器の例を示す横端面図(a)および縦端面図(b)である。
【図12】比較例の液体加熱器を収容して空冷する構成を示す図である。
【図13】従来の液体加熱器の概略を説明する縦端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の液体加熱器1を概念的に説明する図であり、以下に説明する。
液体加熱器1は、硫酸電解液を通液しつつ急速加熱して図示しない電子材料基板の洗浄に用いるものであり、硫酸電解液は、硫酸を電解して得られる。硫酸電解液は、65〜96質量%の硫酸溶液を10〜90℃の液温にして、少なくとも陽極をダイヤモンド電極とした電極間で電解して得られた後に90〜120℃まで予備加熱されたものであり、液体加熱器1において急速(例えば0.5〜10秒)、かつ高温(例えば140〜220℃)に加熱して洗浄に供する。
【0013】
液体加熱器1は、扁平な加熱用液体流路2を有し、加熱面に対する奥行きが10mm以下(望ましくは1mm〜5mm)になっている。該加熱用液体流路2の扁平面外側に近赤外線ヒーター3が加熱部として配置されている。なお、加熱部としては輻射熱を放出できるものであればよく、本発明としては特定のものに限定されない。例えば、赤外線を近赤外域のものに限定するものではなく、さらにマイクロウェーブを利用したものなどを用いることも可能である。
【0014】
液体加熱器1による熱輻射側に対し、反射板4が対向して配置されている。反射板4は、本発明の熱反射部に相当する。反射板4の反射面は前記熱輻射側に向いており、その裏面側に冷却部5が配置される。
【0015】
加熱用液体流路2には、硫酸電解液が通液され、その際に近赤外線ヒーター3から輻射熱線が放出される。熱線は、加熱用液体流路2内を流れる硫酸電解液に照射され、硫酸電解液に吸収され、硫酸電解液を急速に加熱する。また、熱線の一部は硫酸電解液に吸収されることなく加熱用液体流路2を通過し、一部が反射板4に吸収され、その他の熱線は反射板4で反射されて加熱用液体流路2内の硫酸電解液を再度加熱する。これにより硫酸電解液による熱線の吸収率を高めることができる。なお、近赤外線ヒーター3を挟んで加熱用液体流路2の反対側にさらに図示しない第2の反射板を配置すれば、近赤外線ヒーター3で反射板4とは反対側に放出された熱線、および前記反射板4で反射され、硫酸電解液で吸収されることなく図示しない第2の反射板に至る熱線の一部をさらに第2の反射板で反射することができる。
【0016】
反射板4は、熱線の一部を吸収することによって加熱されるが、冷却部5において導入される冷却媒体により冷却されて過度の昇温が抑制され、所定温度以下に維持される。即ち、熱の逃げ場を設けることにより、反射板および周囲の部材が過度に温度上昇するのを避けることができる。
【0017】
なお、冷却には、代表的には(1)空冷、(2)水冷、(3)空水冷の三つの方式がある。ただし、本発明としては冷却の方式がこれらに限定されるものではない。
(1)空冷は、冷却媒体として空気を用いる方式である。
(2)水冷は、冷却媒体として水を用いる方式である。
(3)空水冷は、冷却媒体として空気を用い、その空気を水で冷却して空気を循環使用する方式である。特徴は以下の通りである。
【0018】
(1)空冷:装置からの排気風量が大きくなる欠点はあるが、装置構成が簡単である。
(2)水冷:装置がコンパクトで設置面積を小さくできるメリットがあるが、冷却水の供給が非常停止した時に冷却水が沸騰しないような工夫が必要である。
(3)空水冷:排気風量が小さく、ユーティリティ使用量の面で有利であり、かつ沸騰の心配も無いが、装置構成が複雑で設置面積が大きくなる。
このように利害得失があるので、状況に合わせて適切な方式を選ぶ必要がある。以下に、各冷却方式を採用した液体加熱器の例を説明する。
【0019】
(1)空冷方式
空冷方式の一実施形態の急速加熱器10を説明する。急速加熱器10は、全体が円筒形をしており、図2(a)に示すように中心部に円柱状の近赤外線ヒーター11を置き、順に外に向かって断面リング状の加熱用液体流路12、円筒状の反射板13、円筒状の外部保護管15が同心状に配置されている。
加熱用液体流路12は、二重管構造からなる外管および内管同士の間隙によって形成されている。加熱用液体流路12の流路厚み(内径外径差)は望ましくは1〜5mmとされる。
反射板13と外部保護管15の間は、冷却媒体としての空気を通風する通気路14が確保されており、通気路14は本発明の冷却用冷却媒体流路に相当し、本発明の冷却部の一部を構成している。なお、この形態では加熱用液体流路12を断面リング状としたが、断面円周上に複数の加熱用液体流路が配置された構成とすることも可能である。
【0020】
また、図2(b)は、急速加熱器20の変更例を示すものであり、図2(a)と同様の形態については同一の符号を付している。
急速加熱器20は、円筒の管路によって中心部に円柱状の加熱用液体流路21を有しており、該加熱用液体流路21の外周側に、複数の円柱状の近赤外線ヒーター22が円周上に沿って配置されている。該近赤外線ヒーター22が配置された円周の外周側に円筒状の反射板13、円筒状の外部保護管15がこの順に同心状に配置されている。大型の加熱器(液流量が多い場合)では、ヒーター本数を多く必要とし、中心部にヒーター配置できないことがある。このような場合には、図2(b)のように、加熱用液体流路21の外周側にヒーターを配置するのが効果的である。
この形態においても、反射板13と外部保護管15との間に通気路14が確保されている。なお、円柱状の加熱用液体流路21では、外周から均等に加熱されているため、その流路幅を10mm以下(さらに望ましくは1mm〜5mm)とするのが望ましい。
【0021】
なお、上記反射板13の材質は、例えば、石英板に金をコーティングしたものを用いることができる。金は各種金属の中でも反射率が極めて高い。但し、あまり高温になると蒸気圧が高くなり、昇華(揮散)してしまう。よって、適切な温度に保つ必要がある。金以外の金属を用いることもできるが、同様の考慮が必要である。
【0022】
次に、上記通気路14を有する冷却部の構成を、図2(a)の急速加熱器10を例として、図3(a)に基づいて説明する。図3(a)は、図2において近赤外線ヒーター11を貫くIIIa−IIIa線端面図である。
【0023】
図3(a)に示すように、液体加熱器10は軸方向を略上下にして配置されており、反射板13と外部保護管15の間には上下に貫通する隙間を有し、該隙間が通気路14となっている。通気路14の下部の導入側には、通気路14内を吹き出し方向とする空気ノズル16が配置されており、該空気ノズル16に空気流路16aが接続されている。空気流路16a、空気ノズル16および空気ノズル16の空気吹き出し部分から通気路14に至る空間は、本発明の外部冷却媒体流路を構成する。
【0024】
なお、空気ノズル16には、図4に示すように圧縮空気を動力として用い、周辺の空気を巻き込んで風量を大きくするタイプのものを用いても良い。但し、効率良く空気を吹き込むものであれば、その形式を限定するものではない。
圧縮空気を利用する形態では、圧縮空気の通気路14内への吹き込みによって、空気ノズル16の空気吹き出し部分と通気路14との間にある空間外周側から周囲の空気が引き込まれて通気路14内に大量に導入され、反射板13が冷却される。反射板13を冷却した空気は、通気路14の上方側から周囲空間に排出される。したがって、空気ノズル16の周囲空間は本発明の空気取込部として機能する。なお、空気ノズル16の周囲に通気路14に連通するカーテンなどを空気取込部として設け、空気の取り込みをより確実にするように構成してもよい。
【0025】
次に、前記通気路14を有する冷却部の構成を、図2(b)の急速加熱器20を例として、図3(b)に示す。図3(b)は、図2において近赤外線ヒーター11を貫くIIIb−IIIb線端面図である。
液体加熱器20は軸方向を略上下にして配置されており、反射板13と外部保護管15の間には上下に貫通する隙間を有し、該隙間が通気路14となっている。通気路14の下部の導入側には、通気路14内を吹き出し方向とする空気ノズル16が配置されており、該空気ノズル16に空気流路16aが接続されている。
【0026】
液体加熱器10を筐体17内に設置した例を図5に基づいて説明する。なお、図5では図3に基づき、液体加熱器10の構造を簡略に記載している。
筺体17の下方部にはガラリ17aが設けられ、筺体17の上方部に排気部17bが設けられており、排気部17bに接続した排気路17cに排気ファン18が接続されている。これにより、筺体17内では、排気ファン18の動作によって冷却用空気の大半はガラリ17aから吸い込まれ、筺体17内を通過しつつ、排気部17b、排気路17cを通して筺体17外に排出される。この空気を反射板13と外部保護管15との間の通気路14に通すための動力として上記のように圧縮空気を用いるのが望ましい。通常、排気路17cは塩ビ管でできており、耐熱性(常用温度)は45℃までである。このため、圧縮空気の動作によって機能する空気取込部を利用して通気路14に大量の空気を吸い込んで排気温度を下げる必要がある。
【0027】
(2)水冷方式
次に、冷却部を水冷方式とした液体加熱器について図6(a)、(b)および図7に基づいて説明する。
図6(a)に示す液体加熱器30では、中心部に円柱状の近赤外線ヒーター31を有し、その外周側に二重管の管同士の隙間によって形成された断面リング状の加熱用液体流路32、円筒状の反射板33、断面リング状の水冷ジャケット34をこの順にして同心状に配置されている。水冷ジャケット34は、冷却水が通水されるものであり、本発明の冷却部に相当する。なお、反射板33と水冷ジャケット34を個別に製作し、両者が接するように配置しても良いし、水冷ジャケット34の内側に反射性物質、例えば金などをメッキして反射板33を構成してもよい。反射板33は、本発明の熱反射部に相当する。
【0028】
図6(b)に示す液体加熱器40は、水冷方式の変更例を示すものである。なお、図6(a)と同様の構成について同一の符号を付して説明する。
液体加熱器40は、中心部に円筒管路によって形成された加熱用液体流路41を有し、該加熱用液体流路41の外周側に、複数の円柱状の近赤外線ヒーター42が円周上に沿って配置されている。該近赤外線ヒーター42が配置された円周の外周側に円筒状の反射板33、水冷ジャケット34が同心状に配置されている。
【0029】
次に、上記水冷ジャケット34を有する冷却部の構成を、図6(a)の急速加熱器30を例として、図7に基づいて説明する。図7は、図6において近赤外線ヒーター31を貫くVII−VII線端面図である。
【0030】
図7に示すように、加熱器30では、反射板33の外周側に水冷ジャケット34が密着して配置されている。水冷ジャケット34の下部には、外部冷却水路35の送り側が接続され、水冷ジャケット34の上部には外部冷却水路35の戻り側が接続されている。外部冷却水路35は、本発明の外部冷却媒体流路に相当する。外部冷却水路35に設けた図示しないポンプによって冷却水を循環させることで、水冷ジャケット34内で冷却水が通水され、反射板33を冷却することができる。
【0031】
水は空気に較べて体積当りの熱容量が大きいので、小流量で同じ熱量を排除することができる。この点がメリットであるが、デメリットは、トラブル等が原因で冷却水の供給が停止した場合に水冷ジャケット内の水が沸騰し、トラブルを招くおそれがある。これを防ぐためには、水冷ジャケットを大きくして、水冷ジャケット内の水の保有量を十分に大きくする、あるいは他の方法で水が循環するような工夫が必要である。水冷ジャケットを大きくすると装置が重くなり、装置の取り扱い上、極めて不便である。
そこで、例えば図8に示すような安全機構を備える構成にすることが考えられる。図8では、液体加熱器30の構成を簡略に示している。
【0032】
すなわち、外部冷却水路35に冷却水槽36を介設するとともに冷却水槽36の下流側にポンプ37を介設する。冷却水槽36は、液体加熱器30よりも高い位置に設置する。また、外部冷却水路35に、前記ポンプ37をバイパスする冷却水バイパス路38を冷却水槽36の下流側に設け、冷却水バイパス路38に、バルブ39を介設する。バルブ39は、外部冷却水路35を冷却水が正常に流れる際に閉じ、ポンプ37の故障や停電などにより冷却水が水冷ジャケット34に供給されなかったり、送液量が異常に少なくなった際に開く。バルブ39の開閉は、外部冷却水路35を流れる冷却水の水量、水圧に基づいて動作するものであってもよく、また、制御部による制御などによって動作させることができる。制御部による制御では、外部冷却水路35を流れる冷却水の水量などを検出し、その検出結果に基づいて制御を行うことができる。また、通常の通電状態では、バルブ39を閉にし、停電によって不意に通電が途絶えると、付勢部材などによってバルブが開く機構などを設けることができ、例えば、フェイルオープンのバルブを選定することができる。
【0033】
これにより、送液が不良になると、バルブ39が開き、さらに水冷ジャケット34内で温度が上昇した冷却水は浮力で上昇し、冷却水バイパス路38を通して自然循環で冷却水が循環することができる。循環水量が少ない場合には、水冷ジャケット34下部から空気を吹き込んで浮力を大きくすることもできる。空気の供給も停止した場合であって水冷ジャケット34内の水が一部沸騰しても、沸騰により大きな浮力が働くので、冷却水槽36に水があれば循環する。即ち、流路の下降側と上昇側の水の密度差を利用するのである。十分な量の水が冷却水槽に確保されていることが重要である。
上記構成では、運転を継続すると冷却水槽36の温度が上昇するので、随時冷却水を外部から冷却水槽36に受け入れ、また返送することにより一定温度を保つことができる。
【0034】
(3)空水冷方式
空冷方式のように大量の排気を出さず、また、水冷のようにユーティリティ喪失時の沸騰の心配をしなくて良い方法として、空水冷方式が考えられる。
液体加熱器を冷却する部分は、空冷方式と同じであるが、高温になった空気を冷却水で冷やして循環使用するのである。空気を効率良く冷やす装置としてエアフィンクーラーを使用するのが妥当である。この方式を図9に示す。この実施形態では、液体加熱器10を例にして説明する。なお、前記実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明する。また、図9では、液体加熱器10の構成を簡略に示している。
【0035】
すなわち、液体加熱器10は、ガラリ17a、排気口17b、排気路17cを有する筺体17内に配置される。
液体加熱器10の上方には、フード50が配置され、通気路14を通過した上方に放出された空気が吸引される。フード50には、外部空気路51が接続され、外部空気路51には、エアフィンクーラー52が介設されている。エアフィンクーラー52は、冷却水が供給されており、外部空気路51を通る空気を水冷する。上記外部空気路51は、本発明の外部冷却媒体流路に相当し、エアフィンクーラー52は、本発明の第2冷却部に相当する。
【0036】
外部空気路51の下流端には、空気循環ファン53が接続されており、該空気循環ファン53は、外部空気路51を通り、エアフィンクーラー52で冷却された空気を通気路14の導入側空間に送風する。
これにより、通気路14に圧縮空気を導入する際に、空気循環ファン53で送風される。空気循環ファン53は、本発明の空気ファンに相当する。冷却された空気が通気路14内に大量に取り込まれ、液体加熱器10内、特に反射板13を効果的に冷却する。液体加熱器10内で冷却に用いられ、昇温した空気は、フード50で回収され、外部空気路51を通ってエアフィンクーラー52で冷却された後、空気循環ファン53で通気路導入側に供給されて、空水冷が継続して行われる。
【0037】
この形態で、停電などで冷却水や圧縮空気の供給が停止しても、エアフィンクーラー52内部の水は高温部に接していないので、沸騰に至るようなことはない。液体加熱器10内部の熱は自然放熱により温度が下がっていく。自然通風によりガラリ17aから空気を吸込み、排気ダクトに排出する。
【実施例1】
【0038】
以下に、冷却方式の異なる発明例および比較例について説明する。
発明例:
(1)空冷方式
図2(b)および図3(b)に示す構造の加熱器、図4に示すノズル、図5に示す装置構成で、本発明の方法を実施した。実施条件と結果は以下の通りであった。
条件
ランプ入力:18kW
熱効率:50% (硫酸溶液の温度上昇から計算される効率)
冷却負荷:9kW (= 18kw×(100−50)/100)
圧縮空気流量:500NL/min
筐体外温度:25℃
排気風量:25m/min
結果
反射板温度=500℃
外部保護管温度=100℃
排気温度=44℃
【0039】
評価
1.反射板温度:反射板は石英板に金をコーティングしたものである。石英の最高使用温度は1000℃であり、金の昇華(揮散)は1000℃を超えなければ顕著にならない。実用的には800℃以下であれば問題ないと考えられる。
2.外部保護管:外部保護管の材質はJIS SUS304またはセラミックスである。よって、100℃は材質的には全く問題ない。外部保護管から筐体への輻射熱も100℃からの輻射であるので、極僅かであり、問題とならない。
3.排気温度:塩ビ管の常用温度45℃を下回る。

以上より、長期連続運転が可能であることが分かった。
【0040】
(2)水冷方式
図6(a)および図7に示す構造の加熱器、図8に示す装置構成で、本発明の方法を実施した。実施条件と結果は以下の通りであった。
【0041】
条件
ランプ入力:12kW
熱効率:60% (硫酸溶液の温度上昇から計算される効率)
冷却負荷:4.8kW (=12kW×(100−60)/100 )
冷却水入口温度:25℃
冷却水戻り温度:35℃
結果
反射板表面温度=100℃
冷却水流量=6.9L/min
【0042】
非常停止テストの結果:
定常運転状態からランプを消灯すると同時に水冷ポンプを停止したところ、バルブが開いて水の自然循環が始まった。この時、冷却水槽の保有水量は20Lであった。温度変化を計測したところ、図10のようになった。ポンプ停止後約5分間は、水冷ジャケット出口水は沸騰状態であった。しかし、その後温度が下がり、約70℃になった。また、冷却水槽温度は徐々に上がり、3時間後には約65℃になった。
【0043】
評価
1.反射板温度:反射板は直接水冷ジャケットに接しているので温度が低く、表面で100℃であった。装置上の問題無し。
2.冷却水流量:6.9L/minは枚葉式洗浄機1台にとって大きな流量ではない。
3.保有水量が20Lあれば、ポンプが停止しても冷却水系統全体が沸騰することは無く、安全に停止できることが分かった。

以上より、長期連続運転が可能であること、および冷却水ポンプが停止しても安全に装置全体が停止できることが分かった。
【0044】
(3)空水冷方式
図2(b)に示す構造の加熱器、図4に示すノズル、図9に示す装置構成で、本発明の方法を実施した。実施条件と結果は以下の通りであった。
【0045】
条件
ランプ入力:18kW
熱効率:50% (硫酸溶液の温度上昇から計算される効率)
冷却負荷:9kW (=18kw×(100−50)/100)
圧縮空気流量:500NL/min
筐体外温度:25℃
排気風量:2m/min
冷却水入口温度:25℃
冷却水戻り温度:35℃
【0046】
結果
反射板温度=500℃
外部保護管温度=100℃
排気温度=40℃
冷却水流量=12.2L/min
【0047】
評価
1.反射板温度:空冷方式に同じ。
2.外部保護管:空冷方式に同じ。
3.排気温度:塩ビ管の常用温度45℃を下回る。
4.冷却水量:枚葉式洗浄機1台の使用量として、妥当な量である。

以上より、妥当なユーティリティ使用量で長期連続運転が可能であることが分かった。
【0048】
比較例:
(1)比較例1
図11(a)(b)に示すように、反射板の外側を断熱材で覆った液体加熱器を用いた。断熱材は、テフロン(登録商標)の一種であるゴアテックス(登録商標)を用いた。装置全体の構成は図12に示す通りである。
以下に、比較例の液体加熱器60の構造を簡略に説明する。
二重管の管同士の隙間で形成した加熱用液体流路62の中心部に、近赤外線ヒーター61を配置し、液体流路62の外周側に、反射板63を配置され、反射板63の外周に、筒状の断熱材65が配置されて、液体加熱器60が構成されており、該液体加熱器60は、前記した筺体17内に収納されている。
【0049】
比較例における実施条件と結果は以下の通りであった。
条件
ランプ入力:18kW
熱効率:50% (硫酸溶液の温度上昇から計算される効率)
冷却負荷:9kW (=18kW×(100−50)/100)
筐体外温度:25℃
【0050】
結果
定常状態に至る前に、ゴアテックス(登録商標)が溶損して煙が発生した。テフロン(登録商標)の耐熱温度は260℃であるが、これをはるかに超えたものと推定される。
【0051】
評価
耐熱温度がもっと高い材料を断熱材としなければならない。あるいは装置を冷却する必要がある。
【0052】
(2)比較例2
比較例1と同様の液体加熱器を用い、断熱材を高温に耐える石英ウールに交換した。
条件
比較例1に同じ。
結果
石英ウールを輻射熱線が透過し、石英ウールを固定する鋼板製の外筒(図示せず。)が過熱し、鋼板に塗った塗料(テフロン(登録商標)コーティング)から発煙した。よって、テフロン(登録商標)の耐熱温度をはるかに超える温度に達したものと推定される。
【0053】
評価
例え、極めて高温に耐える断熱材を用いたとしても、熱が装置内にこもれば温度が上昇する。よって、断熱材の種類に拘わらず、流体に吸収されなかった熱線に相当するエネルギーを除去するために装置を冷却する必要があり、現実的でない。
【符号の説明】
【0054】
1 液体加熱器
2 加熱用液体流路
3 近赤外線ヒーター
4 反射板
5 冷却部
10 液体加熱器
11 近赤外線ヒーター
12 加熱用液体流路
13 反射板
14 通気路
15 外部保護管
20 液体加熱器
21 加熱用液体流路
22 近赤外線ヒーター
30 液体加熱器
31 近赤外線ヒーター
32 加熱用液体流路
33 反射板
34 水冷ジャケット
35 外部冷却水路
36 冷却水槽
38 冷却水バイパス路
39 バルブ
40 液体加熱器
41 加熱用液体流路
42 近赤外線ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用液体が通液される加熱用液体流路と、前記加熱用液体流路の一側に配置され、熱放射方向が前記通液の方向に交差するように前記加熱用液体流路に向けて熱放射が可能な加熱部と、前記加熱用液体流路の他側に配置される熱反射部と、前記熱反射部を冷却する冷却部と、を備え、
前記冷却部は、前記熱反射部の反射面の裏面側に冷却媒体を通流して、前記熱反射部を前記冷却媒体によって冷却する冷却用冷却媒体流路を備えることを特徴とする液体加熱器。
【請求項2】
前記冷却用冷却媒体流路の導入側と排出側とにそれぞれ外部冷却媒体流路が接続され、前記排出側の前記外部冷却媒体流路に前記冷却媒体を冷却する第2冷却部が介設されていることを特徴とする請求項1記載の液体加熱器。
【請求項3】
前記加熱用液体流路が二重管で構成され、前記二重管の内管の内側に一または二以上の前記加熱部が配置され、前記二重管の外管の外側に前記熱反射部が配置され、さらに前記熱反射部の外側に前記冷却部が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体加熱器。
【請求項4】
前記冷却部は、前記冷却用冷却媒体流路に冷却用媒体として空気を圧縮して吹き込む圧縮ポンプを備え、前記圧縮ポンプの吹き出し側と前記冷却用冷却媒体流路の入口側との間に、周囲の空気を取り込む空気取込部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体加熱器。
【請求項5】
前記外部冷却媒体流路に、該外部冷却媒体流路で送られる空気を前記圧縮ポンプ側に向けて送風する空気ファンを備えることを特徴とする請求項4記載の液体加熱器。
【請求項6】
前記加熱用液体流路が液導入側を下方、液排出側を上方にして縦方向に沿って配置され、前記冷却用冷却媒体流路の液導入側に接続され、冷却媒体として液体を送るポンプが介設された外部冷却媒体流路を備え、
さらに前記外部冷却媒体流路に、前記ポンプをバイパスする冷却媒体バイパス路を備え、該冷却媒体バイパス路に、前記外部冷却媒体流路での通常送液の間は閉となり、前記外部冷却媒体流路での送液停止または送液不良の間は開となるバルブを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体加熱器。
【請求項7】
前記加熱用液体が70〜120℃であり、前記加熱用液体流路を通液する間に140〜220℃の沸点未満まで昇温されるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液体加熱器。
【請求項8】
前記加熱用液体流路の熱放射方向の厚みが10mm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液体加熱器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−247096(P2012−247096A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117764(P2011−117764)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】