説明

液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品

【課題】従来のナイロン6を用いた成形部品と比較して、液体又は気体バリア性に優れ、そして低吸水性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、さらにジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂成形部品よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量で強靭なポリアミド樹脂成形部品を提供すること。
【解決手段】ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を用いて作製された、液体又は気体バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品に関する。詳しくは、特定のポリアミド樹脂を用いて作製された、液体又は蒸気バリア性に優れるポリアミド樹脂成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックのみならず、自動車や電気製品等の分野において、成形部品として用いられている。
【0003】
自動車や電気製品等の分野では、成形部品には、寸法安定性、耐薬品性等に加え、水分、アルコール、フルオロカーボン、例えば、ハイドロフルオロカーボン、燃料、例えば、ガソリン等の液体又は蒸気に対するバリア性が求められる。しかし、例えば、ナイロン6には、水分、アルコール、フルオロカーボン、ガソリン等を透過する性質があるため、成形部品に液体又は蒸気バリア性を付与するために、液体又は蒸気バリア性に優れる層状珪酸塩を併用することが必須である(例えば、特許文献1)。
【0004】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献2)、吸水による物性変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0005】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。しかしながら、例えば、ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを用いたポリオキサミド樹脂は融点(約320℃)が熱分解温度(窒素中の1%重量減少温度;約310℃)より高いため(非特許文献1)、溶融重合、溶融成形が困難であり実用に耐えうるものではなかった。
【0006】
ジアミン成分が1,9−ノナンジアミンであるポリオキサミド樹脂(以後、PA92と略称する)については、L. Francoらが蓚酸源として蓚酸ジエチルを用いた場合の製造法とその結晶構造を開示している(非特許文献2)。ここで得られるPA92は固有粘度が0.97dL/g、融点が246℃のポリマーであるが、強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていない。また、特表平5−506466号公報には、ジカルボン酸エステルとして蓚酸ジブチルを用いた場合について、固有粘度が0.99dL/g、融点が248℃のPA92を製造したことが示されている(特許文献3)。この場合も強靭な成形体が成形出来ない程度の低分子量体しか得られていないという問題点がある。
先行文献においてはジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンの2種のジアミンを特定の比率で用いたポリオキサミド樹脂の具体的な開示はなかった。
【0007】
当技術分野では、液体又は蒸気に対するバリア性が高いポリアミド樹脂を開発し、当該ポリアミド樹脂を用いて液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品を製造することが望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開平2−69562
【特許文献2】特開2006−57033
【特許文献3】特表平5−506466
【非特許文献1】S. W. Shalaby., J. Polym. Sci., 11, 1(1973)
【非特許文献2】L. Franco et al., Macromolecules., 31, 3912(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、本発明は、従来のナイロン6を用いた成形部品と比較して、液体又は蒸気バリア性に優れ、そして低吸水性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、さらにジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂系成形部品よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量で強靭なポリアミド樹脂成形部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蓚酸源としての蓚酸ジエステルと、ジアミン成分としての1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成るポリアミド樹脂を成形部品に用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明は以下の態様に関する。
[態様1]
ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を用いて作製された、液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【0012】
[態様2]
上記ポリアミド樹脂の、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が、1.8〜6.0である、態様1に記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
[態様3]
上記ポリアミド樹脂の、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が、50℃以上である、態様1又は2に記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【0013】
[態様4]
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、態様1〜3のいずれか一つに記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、従来のナイロン6を用いた成形部品と比較して、液体又は蒸気バリア性に優れ、そして低吸水性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、さらにジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂成形部品よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量で強靭なポリアミド樹脂成形部品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に関して、詳細に説明する。
[ポリアミド樹脂]
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1である。
【0016】
本発明に用いられるポリアミド樹脂のジカルボン酸源としての蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(又はi−)プロピル、蓚酸ジn−(又はi−、又はt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0017】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0018】
本発明に用いられるポリアミド樹脂には、ジカルボン酸源として蓚酸を用いるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他のジカルボン酸成分を配合することができる。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0019】
上記他のジカルボン酸の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、一般的には、ジカルボン酸の総量に対して、5モル%以下であることが好ましい。
【0020】
ジアミン成分としては1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンが用いられる。1,9−ノナンジアミン成分と2−メチル−1,8−オクタンジアミン成分とのモル比は、1:99〜99:1であり、好ましくは5:95〜95:5である。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを特定量共重合することにより、液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂が得られる。
【0021】
さらに、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比は、例えば、5:95〜40:60又は60:40〜95:5であることが好ましく、そして5:95〜30:70又は70:30〜90:10であることが特に好ましい。
当該モル比が5:95〜40:60、特に5:95〜30:70である場合、結晶性に優れるため、低吸水性及び力学的特性が得に優れるとともに、液体及び/又は蒸気(例えば、アルコール)の透過性も低いという利点があり、さらに1,9−ノナンジアミンのモル含有率が2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル含有率よりも高い場合と比べて、より吸水性が低いという利点がある。一方、モル比が60:40〜95:5、特に70:30〜90:10である場合には、低吸水性及び力学特性がより優れるとともに、優れた透明性が付与されるという利点がある。
【0022】
また、本発明に用いられるポリアミド樹脂には、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを用いるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を配合することができる。1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミン以外の他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン等の脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミン等を単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0023】
上記他のジアミン成分の配合量としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、ジアミン成分の総量に対して、5モル%以下であることが好ましい。
【0024】
[ポリアミド樹脂の製造方法]
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法により製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより、上記ポリアミド樹脂を重合することが好ましい。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0025】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノール等を用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0026】
上述の原料を仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0027】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0028】
次に、本発明に用いられるポリアミド樹脂の製造方法の具体例について説明する。まず原料の蓚酸ジエステルを容器内に仕込む。容器は、後に行う重縮合反応の温度および圧力に耐え得るものであれば、特に制限されない。その後、容器を原料のジアミンと混合する温度まで昇温させ、次いでジアミンを注入し重縮合反応を開始させる。原料を混合する温度は、原料の蓚酸ジエステルおよびジアミンの融点以上、沸点未満の温度であり、かつシュウ酸ジエステルとジアミンの重縮合反応によって生じるポリオキサミドが熱分解しない温度であれば特に制限されない。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンの混合物からなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が1:99〜99:1であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、上記混合温度は15℃から240℃が好ましい。また、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比は、5:95〜90:10の場合、常温で液状か又は40℃程度に加温するだけで液化するので取り扱いやすいためより好ましい。混合温度が縮合反応によって生成するアルコールの沸点以上の場合、アルコールを留去、凝縮する装置を備えた容器を用いるのが望ましい。また、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合には、耐圧容器を用いる。シュウ酸ジエステルとジアミンの仕込み比は、シュウ酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.2(モル比)、好ましくは0.91〜1.09(モル比)、更に好ましくは0.98〜1.02(モル比)である。
【0029】
続いて、容器内をポリオキサミド樹脂の融点以上かつ熱分解しない温度以下に昇温する。例えば、1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンからなり、かつ1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15であるジアミンとシュウ酸ジブチルを原料とするポリオキサミド樹脂の場合、融点は235℃であることから240℃から280℃に昇温するのが好ましい(圧力は、2MPa〜4MPa)。生成したアルコールを留去しながら、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。耐圧容器内で原料を混合し、縮合反応によって生成するアルコール存在下で加圧重合する場合は、まず生成したアルコールを留去しながら放圧する。その後、必要に応じて常圧窒素気流下もしくは減圧下において継続して重縮合反応を行う。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は760〜0.1Torrである。温度は、240〜280℃が好ましい。また、アルコールは水冷コンデンサで冷却して液化し、回収する。
【0030】
[ポリアミド樹脂の特性]
本発明に用いられるポリアミド樹脂の分子量に特別の制限はないが、1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0、より好ましくは2.0〜5.5、特に好ましくは2.5〜4.5の範囲にあるような分子量である。分子量が低くなるとポリアミド樹脂成形部品が脆くなり物性が低下する傾向がある。一方、分子量が高くなると溶融粘度が高くなり、溶融成形性が悪くなる傾向がある。
【0031】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを共重合することで、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンとからなるポリアミドと比べて拡大し、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明に用いられるポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは280℃以上、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0032】
[液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品]
本明細書において、用語「液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品」は、液体又は蒸気に対するバリア性を有する、ポリアミド樹脂を用いて成形された部品、特に射出成形された部品を意味し、フィルムやチューブは当該範囲から除かれる。液体としては、高極性液体、例えば、水、アルコール等、低極性液体、例えば、燃料、例えば、ガソリン、軽油、フルオロカーボン等が挙げられる。蒸気としては、上記液体の蒸気が上げられる。
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、上記ポリアミド樹脂から作製されるが、当該ポリアミド樹脂成形部品は、上記ポリアミド樹脂以外に、任意成分として、さらに以下の成分を含むことができる。
【0033】
(1)他のポリマー
本発明に用いられるジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、その一部を他のポリマー成分で置換されうる。他のポリマー成分としては、例えば、他のポリアミド類、例えば、ポリオキサミド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド等、並びにポリアミド以外のポリマー、例えば、熱可塑性ポリマー、エラストマーが挙げられる。
【0034】
上記他のポリマーによる置換割合としては、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは30質量%以下である。
なお、以下単に、「ポリアミド」、又は「ポリアミド樹脂」と称する場合には、ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂のことを指すものとする。
【0035】
(2)添加剤
また、本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の添加剤を含むことができる。他の添加剤として、例えば、顔料、染料、着色剤、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、銅化合物等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、ガラス繊維、潤滑剤、フィラー、補強繊維、補強粒子、発泡剤等を挙げることができる。
【0036】
上記他のポリマー及び添加剤の添加方法は、それぞれを上記ポリアミド樹脂に分散させることができる方法であれば、特に制限されるものではなく、その効果を損なわない任意の時点において、上記ポリアミド樹脂に添加することができる。例えば、上記他のポリマー及び添加剤を、上記ポリアミド樹脂の後重縮合工程の直後に添加することができる。
【0037】
(3)層状珪酸塩
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、上記ポリアミド樹脂を用いることにより高い液体又は蒸気バリア性を有しているが、当該ポリアミド樹脂成形部品に層状珪酸塩をさらに含ませて、本発明のポリアミド樹脂成形部品の液体又は蒸気バリア性をさらに向上させることができる。
【0038】
上記層状珪酸塩は、一辺の長さが0.002〜1μmで、厚さが6〜20Åである平板状のものであることが好ましい。また、上記層状珪酸塩は、上記ポリアミド樹脂中で、各層が約20Å以上の層間距離を保ち、均一に分散されるものであることが好ましい。
【0039】
ここで、「層間距離」とは、平板状をなす層状珪酸塩の各重心の間の距離をいい、「均一に分散する」とは、各層が主にランダムな状態で存在し、層状珪酸塩の50質量%以上、好ましくは70質量%以上が、複層物を形成することなく単層に分散していることをいう。
【0040】
上記層状珪酸塩の量は、当該層状珪酸塩の効果が発揮される量であれば、特に制限されるものではないが、上記ポリアミド樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.05〜8質量部、特に好ましくは0.05〜5質量部である。層状珪酸塩の割合が低くなると、層状珪酸塩の効果が発揮されず、上記割合が高くなると、溶融粘度が極端に高くなり成形性が悪化したり、耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0041】
上記層状珪酸塩の原料としては、珪酸マグネシウム又は珪酸アルミニウムの層から構成される層状フィロ珪酸鉱物、すなわち、珪酸アルミニウム質フィロ珪酸塩又は珪酸マグネシウム質フィロ珪酸塩を例示することができる。具体的には、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト等を例示することができ、これらは天然のものであっても、合成されたものであってもよい。
【0042】
また、上記層状珪酸塩をポリアミド樹脂に分散させるために、通常、膨潤化剤が用いられる。当該膨潤化剤は、粘土鉱物の層間を拡げる役割と、粘土鉱物に層間ポリマーを取り込む力を与える役割とを有するものである。上記膨潤化剤としては、本発明の場合には、1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを用いることが好ましい。
【0043】
なお、上記層状珪酸塩は、ミキサー、ボールミル、振動ミル、ピンミル、ジェットミル、叩解機等を用いて粉砕し、予め所望の形状及びサイズのものとしておくことが好ましい。
【0044】
上記層状珪酸塩を添加する方法は、上記層状珪酸塩がポリアミド樹脂に均一に分散し得る方法である限り、特に制限はない。例えば、層状珪酸塩の原料が多層状粘土鉱物である場合には、特開昭62−74957号に開示されるように、層状珪酸塩を塩酸等によりイオン化し、ここに膨潤化剤、例えば、1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンを添加して、あらかじめ層状珪酸塩の各層の間隔を広げる。次いで、当該層の間にポリアミド原料を導入し、さらに当該層の間で上記原料を重合させることができる。
【0045】
また、膨潤化剤として有機化合物を用いて層間を約100Å以上に予め広げ、これをポリアミド樹脂と溶融混合して、各層をポリアミド樹脂に分散させてもよい。
【0046】
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、例えば、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、射出成形等により成形されうる。
【0047】
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、液体又は蒸気のバリア性を必要とする各種用途に適用することができる。
適用可能な用途としては、例えば、ガソリンタンク、アルコールタンク、フユーエルチューブ、フユーエルストレーナー、ブレーキオイルタンク、クラッチオイルタンク、パワーステアリングオイルタンク、クーラー用フルオロカーボンチューブ、フルオロカーボンタンク、キャニスター、エアークリーナー、吸気系部品、タイヤインナーライナー、タンクバルブ、フューエルデリバリーパイプ、クイックコネクター、EGR部品、オイルストレーナー等を例示することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[物性測定、成形、評価方法]
特性値を、以下の方法により測定した。
(1)相対粘度(ηr)
ηrは、ポリアミドの96%硫酸溶液(濃度:1.0g/dl)を用いて、オストワルド型粘度計により25℃で測定した。
【0050】
(2)融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)
Tm及びTcは、PerkinELmer社製PYRIS Diamond DSC用いて窒素雰囲気下で測定した。30℃から270℃まで10℃/分の速度で昇温し(昇温ファーストランと呼ぶ)、270℃で3分保持したのち、−100℃まで10℃/分の速度で降温し(降温ファーストランと呼ぶ)、次に270℃まで10℃/分の速度で昇温した(昇温セカンドランと呼ぶ)。得られたDSCチャートから降温ファーストランの発熱ピーク温度をTc、昇温セカンドランの吸熱ピーク温度をTmとした。
【0051】
(3)1%重量減少温度(Td)
Tdは島津製作所社製THERMOGRAVIMETRIC ANALYZER TGA−50を用い、熱重量分析(TGA)により測定した。20ml/分の窒素気流下室温から500℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、Tdを測定した。
(4)溶融粘度
溶融粘度はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製溶融粘弾性測定装置ARESに25mmのコーン・プレートを装着して、窒素中、250℃、せん断速度0.1s-1の条件で測定した。
【0052】
(5)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、ペレットからフィルムを成形した。500〜700Paの減圧雰囲気下において260℃(PA66では樹脂温度290℃、PA12では樹脂温度230℃)で5分間加熱溶融させた後、5MPaで1分間プレスを行いフィルム成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却結晶化させてフィルムを得た。
【0053】
(6)飽和吸水率
上記(5)の条件で成形したフィルム(寸法:20mm×10mm、厚さ0.25mm;質量約0.05g)を23℃のイオン交換水に浸漬し、所定時間ごとにフィルムを取り出し、フィルムの質量を測定した。フィルム質量の増加率が0.2%の範囲内で3回続いた場合にポリアミド樹脂フィルムへの水分の吸収が飽和に達したと判断して、水に浸漬する前のフィルムの質量(Xg)と飽和に達した時のフィルムの質量(Yg)から次の式(1)により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率(%)=100×(Y−X)/X (1)
【0054】
(7)耐薬品性
本発明によって得られるポリアミドの熱プレスフィルムを以下に列挙する薬品中に7日間、23℃で浸漬した後に、フィルムの質量残存率(%)及び外観の変化を観測した。濃塩酸、64%硫酸、氷酢酸について試験を行った。
【0055】
(8)耐加水分解性
本発明のポリアミド樹脂成形部品の材料で熱プレスフィルムを作成し、当該熱プレスフィルムを、オートクレーブに入れ、水(pH=7)、0.5mol/l硫酸(pH=1)又は1mol/l水酸化ナトリウム水溶液(pH=14)内で、121℃、60分間処理した後の重量残存率(%)及び外観変化を調べた。
【0056】
(9)機械的物性
以下に示す〔1〕〜〔4〕の測定は、下記の試験片を樹脂温度260℃(PA66では樹脂温度290℃、PA12では樹脂温度230℃)、金型温度80℃の射出成形により成形し、これを用いて行った。成形後に未調湿、23℃で測定したデータをdry、成形後に湿度65%RHで調湿し、23℃で測定したデータをwetとして表中に記載した。
〔1〕引張降伏点強度又は引張強度:ASTM D638に記載のTypeIの試験片を用いてASTM D638に準拠して測定した。成形後に未調湿、23℃で測定したデータをdry、成形後に湿度65%RHで調湿し、23℃で測定したデータをwetとして表中に記載した。
〔2〕曲げ弾性率:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D790に準拠し測定した。
〔3〕アイゾット衝撃強度:試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D256に準拠し、23℃で測定した。
〔4〕荷重たわみ温度(熱変形温度):試験片寸法3.2mm×12.7mm×127mmの試験片を用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPaで測定した。
【0057】
(10)吸水率
23℃及び湿度65%RHの条件下に置いた以外は、(6)飽和吸水率の測定方法に従って、吸水率(%)を算出した。
【0058】
(11)エタノール蒸気透過係数
ステンレス製の容器にエタノールを50ml入れ、(5)の条件で成形したフィルムを用いて、PTFE製のガスケットをかませた容器に蓋をし、ねじ圧力にて締め付けた。カップを60℃恒温槽に入れ、槽内は窒素を50ml/minで流した。重量の経時変化を測定し、時間当たりの重量変化率が安定した時点で、エタノール蒸気透過係数を次式から計算した。試料の透過面積は78.5cm2である。
エタノール蒸気透過係数(g・mm/m2・day)=[透過重量(g)×フィルム厚さ(mm)]/[透過面積(mm2)×日数(day)×圧力(atom)]
【0059】
(12)E10燃料透過係数
JIS Z0208に従い、射出成形で成形したφ75mm、厚み1mmの試験片を用いて測定雰囲気温度60℃でのE10燃料透過試験を行った。燃料にはイソオクタンとトルエンを体積比で1:1としたFuelCにエタノールを10%混合して用いた。また、燃料透過測定試料面には常に燃料が接触するように透過面を下向きにして設置した。
E10燃料透過係数(g・mm/m2・day)=[透過重量(g)×フィルム厚さ(mm)]/[透過面積(mm2)×日数(day)×圧力(atom)]
【0060】
(13)透湿度
(株)日本製鋼所製のスクリュー径30mmの押出機(シリンダー温度230〜260℃)を用いて、外径1/2インチ、厚み1mmのチューブを調製した。このチューブを300mmの長さに切断し、その中に水分吸収剤である塩化カルシウムを充満するまで充填し、密封した。次に、このチューブを40℃で相対湿度90%の雰囲気中に10日以上放置し、1日の平均的な単位面積当たりの透湿度を測定した。
【0061】
(14)耐塩化カルシウム性
(5)の条件で成形したフィルムを、23℃の飽和塩化カルシウム水溶液に浸漬した。一日後、フィルムの外観を目視で観察し、クラックの有無を評価した。
【0062】
[実施例1:PA92−1の製造]
攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、ダイアフラムポンプを直結した原料投入口、窒素ガス導入口、放圧口、圧力調節装置及びポリマー抜出し口を備えた内容積が150リットルの圧力容器にシュウ酸ジブチル28.40kg(140.4モル)を仕込み、圧力容器の内部を純度が99.9999%の窒素ガスで0.5MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返し、窒素置換を行った後、封圧下、攪拌しながら系内を昇温した。約30分間かけてシュウ酸ジブチルの温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン18.89kg(119.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン3.34kg(21.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)をダイアフラムフポンプにより流速1.49リットル/分で約17分間かけて反応容器内に供給すると同時に昇温した。供給直後の圧力容器内の内圧は、重縮合反応により生成したブタノールによって0.35MPaまで上昇し、重縮合物の温度は約170℃まで上昇した。その後、1時間かけて温度を235℃まで昇温した。その間、生成したブタノールを放圧口より抜き出しながら、内圧を0.5MPaに調節した。重縮合物の温度が235℃に達した直後から放圧口よりブタノールを約20分間かけて抜き出し、内圧を常圧にした。常圧にしたところから、1.5リットル/分で窒素ガスを流しながら昇温を開始し、約1時間かけて重縮合物の温度を260℃にし、260℃において4.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で1MPaに加圧して約10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重縮合物を圧力容器下部抜出口より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の樹脂はペレタイザーによってペレット化した。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.20であった。
【0063】
[実施例2:PA92−2の製造]
1,9−ノナンジアミン17.62kg(111.3モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン4.45kg(28.1モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が80:20)を仕込んだほかは、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.10であった。
【0064】
[実施例3:PA92−3の製造]
1,9−ノナンジアミン11.11kg(70.2モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン11.11kg(70.2モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)を仕込んだ以外は、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.35であった。
【0065】
[実施例4:PA92−4の製造]
1,9−ノナンジアミン6.67kg(42.1モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン15.56kg(98.3モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.55であった。
【0066】
[実施例5:PA92−5の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込んだほかは、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=3.53であった。
【0067】
[実施例6:PA92−6の製造]
1,9−ノナンジアミン1.33kg(8.4モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン20.88kg(131.9モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を仕込み、ブタノールの抜出による内圧を0.25MPaに保持した以外は、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は白色の強靭なポリマーであり、ηr=4.00であった。
【0068】
[比較例1:PA−92−0の製造]
ジアミン原料として1,9−ノナンジアミン22.25kg(140.4モル)だけを用いて、実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られた重合物は黄白色のポリマーであり、ηr=2.78であった。
実施例1〜6で調製したPA92−1〜PA92−6及び比較例1で調製したPA92−0の特性データを表1に示す。
【0069】
[比較例2〜4]
市販品のPA6(宇部興産製、UBEナイロン1015B)、PA66(宇部興産製、UBEナイロン2020B)及びPA12(宇部興産製、UBESTA3020U)の特性データを、それぞれ、比較例2〜4として表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から、本発明のポリアミド樹脂成形部品は、ナイロン6、ナイロン66及びナイロン12と比較して低吸水であり、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、wet条件下での機械的物性に優れ、そしてジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂(PA92−0)よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量で強靭な成形体であることが分かる。
【0072】
実施例1〜6で調製したPA92−1〜PA92−6、並びに比較例2のPA6及び比較例4のPA12の液体又は蒸気バリア性を、表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
[実施例7:ポリアミド樹脂成形部品の製造]
実施例1〜6で調製したPA92−1〜PA92−6、並びに上述のPA6、PA66及びPA12を用いて、射出成形によりガソリンタンク及びフユーエルチューブを製造した。PA92−1〜PA92−6は、PA6、PA66及びPA12と同等以上の成形性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品は、従来のナイロン6を用いた成形部品と比較して、液体又は蒸気バリア性に優れ、そして低吸水性、耐薬品性及び耐加水分解性等に優れ、さらにジアミン成分として1,9−ノナンジアミン単体を用いたポリアミド樹脂成形部品よりも成形可能温度幅が広く溶融成形性に優れ、さらに高分子量で強靭な成形体であり、チューブ、タンク、ストレーナー、各種カバー等の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品として広範に使用することができるので、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分が蓚酸から成り、ジアミン成分が1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンから成り、そして1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が1:99〜99:1であるポリアミド樹脂を用いて作製された、液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂の、96%硫酸を溶媒とし、濃度が1.0g/dlのポリアミド樹脂溶液を用いて25℃で測定した相対粘度(ηr)が、1.8〜6.0である、請求項1に記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂の、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した熱重量分析における1%重量減少温度と、窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で測定した示差走査熱量法により測定した融点との温度差が、50℃以上である、請求項1又は2に記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。
【請求項4】
1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンとのモル比が5:95〜95:5である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体又は蒸気バリア性を有するポリアミド樹脂成形部品。

【公開番号】特開2009−298860(P2009−298860A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152314(P2008−152314)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】