説明

液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】気流や乱流等に起因する飛翔液滴の着弾位置のずれを有効に防止し得る液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体が充填された圧力発生室11に発生する圧力によりノズルプレート14に設けられたノズル開口13を介し、相対的に移動する記録シートSに対して液滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド10であって、ノズルプレート14は前記液滴の吐出と連動して形状が変形されるように構成するとともに、ノズルプレート14で一方の開口部が閉塞されるとともに蓋部材52で他方の開口部が閉塞されて空気が充填される空間を形成している空気室51と、前記液滴の吐出方向に関するノズル開口13の中心軸Lと同心の位置で前記蓋部材52に形成されたノズル開口13よりも大径のエアノズル開口53とを有し、ノズルプレート13の変形に連動して空気室51の空気をエアノズル開口53を介して前記液滴とともに吐出させるように構成した空気噴射機構50とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関し、特に液滴を所定の経路に沿うように飛翔させる場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば圧電素子の変位による圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドが知られており、このインクジェット式記録ヘッドを搭載したインクジェットプリンターも液体噴射装置の一つとして知られている。
【0003】
この種の液体噴射装置においては、記録物のより一層の高品位・高精細化が求められており、このためには液体噴射ヘッドの各ノズル開口から吐出される液滴の着弾精度の向上を図ることが肝要である。液滴の着弾精度の向上のためには、飛翔曲がりの抑制がしばしば課題となるが、飛翔曲りの要因の一つとして考えられるのは飛翔液滴が受ける気流の影響である。具体的には、液体噴射ヘッドあるいは記録媒体の移動により生じる空気流及び飛翔液滴の運動が近傍の空気を巻込むことで生じる空気流であり、それらが飛翔液滴の進行方向に対して直角方向の力をランダムに及ぼすような場合が考えられる。
【0004】
そうした飛翔液滴への気流の影響を抑制する手段としては、ノズル開口毎の液滴のガイド気流を生成するものが提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。ここで、特許文献1は、液滴軌道に沿って位置する気流チャネルを有し、逸れ出た液滴を制御する技術を開示するものである。特許文献2は、不均一の空気流パターンによって印刷時の液滴配置エラー(着弾曲がり・ズレ)を補償する技術を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−191474号公報
【特許文献2】特開2009−35013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提案されているような気流チャネルを設ける場合、その気流源および開閉弁の制御機構が必要であり、また複数ノズルに対して気流チャネルを形成することで構造が複雑化する。この結果、コストの高騰を招来するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、気流や乱流等に起因する飛翔液滴の着弾位置のずれを有効に防止し得る液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の態様は、液体が充填された圧力発生室に発生する圧力によりノズルプレートに設けられたノズル開口を介し、相対的に移動する被噴射媒体に対して液滴を吐出する液体噴射ヘッドであって、前記ノズルプレートは前記液滴の吐出と連動して形状が変形されるように構成するとともに、前記ノズルプレートで一方の開口部が閉塞されるとともに蓋部材で他方の開口部が閉塞されて空気が充填される空間を形成している空気室と、前記液滴の吐出方向に関する前記ノズル開口の中心軸と同心の位置で前記蓋部材に形成された前記ノズル開口よりも大径のエアノズル開口とを有し、前記ノズルプレートの変形に連動して前記空気室の空気を前記エアノズル開口を介して前記液滴とともに吐出させるように構成した空気噴射機構とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
本態様によれば、ノズル開口からは液滴が吐出され、ノズル開口と同軸で且つ大径のエアノズル開口からは空気流が同時に吐出される。ここで、エアノズル開口から噴出される空気流は内径が液滴よりも大きなドーナツ状の渦輪となる。この結果、液滴は渦輪の内側を渦輪と同期して飛翔する。したがって、渦輪内の液滴はその飛翔中、渦輪に周囲を取り囲まれて外部の気流や乱流等から防護される。この結果、液滴は飛翔曲りを生起することなく所定の経路を正確に飛翔して所定位置に高精度で着弾する。かくして、高品位且つ高精細化が求められる用途の印刷に良好に適用することができる。
【0009】
ここで、前記空気噴射機構の空気室には、変形したノズルプレートの変形を規制する規制部を形成するのが望ましい。この場合にはノズルプレートの変形が規制された状態で、圧力発生室内の液体に発生した圧力を良好に作用させることができるからである。特に、前記規制部は、前記エアノズル開口が底となるような擂り鉢形状の部材であることが望ましい。ノズルプレートの変形形状とほぼ等しい形状の規制部となり、最も効果的にノズルプレートの変形の規制を行うことができるからである。また、前記ノズル開口の周囲は剛体で形成されているのが望ましい。ノズルプレートが変形してもノズル開口及びその周囲は変形せず、所定の姿勢を維持することにより、規定された方向への液滴の吐出をより安定させて正確に行わせることができるからである。
【0010】
本発明の他の態様は、上述の如き液体噴射ヘッドを2個以上備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
【0011】
本発明の他の態様は、前記空気噴射機構が、前記圧力発生室及び前記ノズルプレートを備えたヘッド本体に位置合わせ治具を介して着脱可能に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
本態様によれば、空気噴射機構をヘッド本体から取り外すことができるので、取り外した状態でヘッド本体のクリーニング等を良好に行うことができる。
【0012】
本発明の他の態様は、上述の如き液体噴射ヘッドユニットを有することを特徴とする液体噴射装置にある。
本態様によれば、液滴の飛翔曲りを簡易且つ高精度に抑制して高品位且つ高精細化が求められる用途の印刷に資することができる。
【0013】
本発明の他の態様は、上記液体噴射ヘッドユニットの各ヘッド本体から前記被噴射媒体に向けて前記液滴を吐出して所定の印刷を行う印刷エリアと、該印刷エリアから待避された前記液体噴射ヘッドユニットから前記空気噴射機構を取り外すとともに、前記空気噴射機構を取り外した前記ヘッド本体を前記ノズル開口を介して吸引するメンテナンスエリアとを有することを特徴とする液体噴射装置にある。
本態様によれば、印刷エリアで所定の印刷を行った後、液体噴射ヘッドユニットをメンテナンスエリアに待避させることができ、しかもメンテナンスエリアではヘッド本体から空気噴射機構を取り外すことができるので、取り外した状態でヘッド本体のクリーニング等を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係る記録ヘッドの断面図である。
【図2】図1(b)のA部分を抽出・拡大してその一例を示す拡大断面図である。
【図3】図1(b)のA部分を抽出・拡大してその他の例を示す拡大断面図である。
【図4】ヘッド本体と空気噴射機構との着脱時の態様を概念的に示す説明図である。
【図5】実施形態に係るインクジェット式記録装置を概念的に示す説明図である。
【図6】実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、インクジェット式記録ヘッドの一例を示す断面図である。図示するように、インクジェット式記録ヘッド10は、複数の圧力発生室11を有する流路形成基板12と、各圧力発生室11に連通する複数のノズル開口13が穿設されたノズルプレート14と、流路形成基板12のノズルプレート14とは反対側の面に設けられる振動板15とを具備する流路ユニット16を有する。さらに、振動板15上の各圧力発生室11に対応する領域に設けられる圧電素子17を有する圧電素子ユニット18と、振動板15上に固定されて圧電素子ユニット18が収容される収容部19を有するケースヘッド20を有する。
【0016】
流路形成基板12には、その一方面側の表層部分に、圧力発生室11が隔壁21によって区画されてその幅方向で複数並設されている。例えば、本実施形態では、流路形成基板12には、複数の圧力発生室11が並設され、各圧力発生室11の列の外側には、各圧力発生室11にインクを供給するためのリザーバー22が、流路形成基板12を厚さ方向に貫通して設けられている。そして、各圧力発生室11とリザーバー22とは、インク供給路23を介して連通している。インク供給路23は、本実施形態では、圧力発生室11よりも狭い幅で形成されており、リザーバー22から圧力発生室11に流入するインクの流路抵抗を一定に保持する役割を果たしている。さらに、圧力発生室11のリザーバー22とは反対の端部側には、流路形成基板12を貫通するノズル連通孔24が形成されている。このような流路形成基板12は、本実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、流路形成基板12に設けられる上記圧力発生室11等は、流路形成基板12をエッチングすることによって形成されている。
【0017】
この流路形成基板12の一方面側にはノズル開口13が穿設されたノズルプレート14が接着剤や熱溶着フィルムを介して接着され、各ノズル開口13は、流路形成基板12に設けられたノズル連通孔24を介して各圧力発生室11と連通している。また、流路形成基板12の他方面側、すなわち、圧力発生室11の開口面側には振動板15が接合されて、各圧力発生室11はこの振動板15によって封止されている。
【0018】
この振動板15は、例えば、樹脂フィルム等の弾性部材からなる弾性膜25と、この弾性膜25を支持する、例えば、金属材料等からなる支持板26との複合板で形成されており、弾性膜25側が流路形成基板12に接合されている。例えば、本実施形態では、弾性膜25は、厚さが数μm程度のPPS(ポリフェニレンサルファイド)フィルムからなり、支持板26は、厚さが数十μm程度のステンレス鋼板(SUS)からなる。また、振動板15の各圧力発生室11に対向する領域内には、圧電素子17の先端部が当接する島部27が設けられている。すなわち、振動板15の各圧力発生室11の周縁部に対向する領域に他の領域よりも厚さの薄い薄肉部28が形成されて、この薄肉部28の内側にそれぞれ島部27が設けられている。また、本実施形態では、振動板15のリザーバー22に対向する領域に、薄肉部28と同様に、支持板26がエッチングにより除去されて実質的に弾性膜のみで構成されるコンプライアンス部29が設けられている。なお、このコンプライアンス部29は、リザーバー22内の圧力変化が生じた時に、このコンプライアンス部29の弾性膜25が変形することによって圧力変化を吸収し、リザーバー22内の圧力を常に一定に保持する役割を果たす。
【0019】
そして、圧電素子ユニット18を構成する各圧電素子17は、その活性領域の先端が振動板15の島部27に当接されている。実際には、各圧電素子17の先端面が接着剤30によって島部27に接合されている。
【0020】
ここで、圧力発生室11内にインク滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段である圧電素子17は、本実施形態では、一つの圧電素子ユニット18において一体的に形成されている。すなわち、圧電材料31と電極形成材料32,33とを縦に交互にサンドイッチ状に挟んで積層した圧電素子形成部材34を形成し、この圧電素子形成部材34を各圧力発生室11に対応して櫛歯状に切り分けることによって各圧電素子17が形成されている。すなわち、本実施形態では、複数の圧電素子17が一体的に形成されている。そして、この圧電素子17(圧電素子形成部材34)の振動に寄与しない不活性領域、すなわち、圧電素子17の基端部側が固定基板35に固着されている。そして、圧電素子17の基端部近傍には、固定基板35とは反対側の面に、各圧電素子17を駆動するための信号を供給する配線36を有する回路基板37が接続され、本実施形態では、これら圧電素子17(圧電素子形成部材34)と固定基板35と回路基板37とで圧電素子ユニット18が構成されている。
【0021】
このような圧電素子ユニット18は、圧電素子17の先端部が上述したように振動板15の島部27に当接された状態で固定されている。例えば、本実施形態では、上述したように振動板15上にケースヘッド20が固定されており、圧電素子ユニット18は、このケースヘッド20の収容部19内に収容されて、圧電素子17が固定された固定基板35が、圧電素子17とは反対面側でケースヘッド20に固定されている。具体的には、ケースヘッド20の収容部19内には、段差部38が設けられており、固定基板35は、このケースヘッド20の段差部38に接着剤39によって接合されている。
【0022】
さらにケースヘッド20上には、回路基板37の各配線36がそれぞれ接続される複数の導電パッド40が設けられた配線基板41が固定されており、ケースヘッド20の収容部19は、この配線基板41によって実質的に塞がれている。配線基板41には、ケースヘッド20の収容部19に対向する領域にスリット状の開口部42が形成されており、回路基板37はこの配線基板41の開口部42から収容部19の外側に引き出されている。
【0023】
また、圧電素子ユニット18を構成する回路基板37は、例えば、本実施形態では、圧電素子17を駆動するための駆動IC(図示なし)が搭載されたチップオンフィルム(COF)からなる。そして、回路基板37の各配線36は、その基端部側では、例えば、半田、異方性導電材等によって圧電素子17を構成する電極形成材料32,33に接続されている。一方、先端部側では、各配線36は配線基板41の各導電パッド40に接合されている。具体的には、配線基板41の開口部42から収容部19の外側に引き出された回路基板37の先端部が配線基板41の表面に沿って折り曲げられた状態で、各配線36は配線基板41の各導電パッド40に接合されている。
【0024】
本実施形態におけるノズルプレート14はノズル開口13を介してのインク滴の吐出に際し、その吐出に連動してノズル連通孔24に作用する吐出圧により図1の下方に突出するよう変形される。これはノズルプレート14をSUS、Ni等の可撓性を有する金属材料を用いることで好適に形成することができる。ここで、ノズルプレート14が変形してもノズル開口13及びその周囲は変形せず、所定の姿勢を維持する(図1における水平方向を維持する)ことができるよう、ノズル開口13の周囲は剛体で形成されているのが望ましい。一方、圧力発生室11が形成されている流路形成基板12は圧電素子17の変位及びノズルプレート14の撓み変形に対しては変形しない充分な剛性を有する部材からなる。
【0025】
かかるノズルプレート14の外側の面(圧力発生室11とは反対側の面)には空気噴射機構50が固着してある。空気噴射機構50は空気室51、エアノズル開口53が穿設された蓋部材52を有している。空気室51は各圧力発生室11及びノズル開口13に対応させてそれぞれ一個ずつ設けてあり、ノズルプレート14で一方の開口部が閉塞されるとともに蓋部材52で他方の開口部が閉塞されて空気が充填される空間を形成している。エアノズル開口53はノズルプレート14の変形に連動して空気室51の空気をインク滴とともに吐出させるためのものである。ここで、空気室51の構造部材及び蓋部材52はノズルプレート14の撓み変形に対して空気室51内の空気に作用する圧力に対しては変形しない充分な剛性を有する部材からなる。
【0026】
図2は図1(b)のA部分を抽出・拡大して示す拡大断面図である。同図(a)に示すように、エアノズル開口53はノズル開口13からのインク滴の吐出方向に関するノズル開口13の中心軸Lと同心の位置で蓋部材52に形成されており、ノズル開口13の開口径Φ1よりも大径の開口径Φ2となっている。
【0027】
ここで、図2(b)に示すように、圧電素子17の変形により圧力発生室11に発生させた圧力によりノズル開口13を介してインク滴55を吐出させた場合、これに連動してノズルプレート14も変形する結果、このノズルプレート14の変形に連動して空気室51の空気による空気流54が生起される。この空気流54はエアノズル開口53を介して吐出されドーナツ状の渦輪54Aを形成する。ここで、エアノズル開口53から噴出される空気流54は内径がインク滴55よりも大きなドーナツ状の渦輪54Aとなるように開口径Φ1、Φ2の関係が調整してある。この結果、図2(b)のB部分を抽出・拡大した図2(c)に示すように、インク滴55は渦輪54Aの内側を渦輪54Aと同期して飛翔する。
【0028】
かかるインクジェット式記録ヘッド10では、インク滴55を吐出する際に、圧電素子17及び振動板15の変形によって各圧力発生室11の容積を変化させて所定のノズル開口13からインク滴55を吐出させる。具体的には、図示しないインクカートリッジからリザーバー22にインクが供給されると、インク供給路23を介して各圧力発生室11にインクが分配される。実際には、圧電素子17に電圧を印加することにより圧電素子17を収縮させる。これにより、振動板15が圧電素子17と共に変形されて圧力発生室11の容積が広げられ、圧力発生室11内にインクが引き込まれる。ノズル開口13に至るまで内部にインクが満たされた後、配線基板41を介して供給される記録信号に従い、圧電素子17の電極形成材料32,33に印加していた電圧を解除する。これにより、圧電素子17が伸張されて元の状態に戻ると共に振動板15も変位して元の状態に戻る。結果として圧力発生室11の容積が収縮して圧力発生室11内の圧力が高まりノズル開口13からインク滴55が吐出される。
【0029】
同時に本実施形態では、ノズル開口13と同軸で且つ大径のエアノズル開口53から空気流54が吐出される。ここで、エアノズル開口53から吐出される空気流54は吐出後、内径がインク滴55よりも大きなドーナツ状の渦輪54Aとなってインク滴55が渦輪54Aの内側を渦輪54Aと同期して飛翔する。したがって、渦輪54A内のインク滴55はその飛翔中、渦輪54Aに周囲を取り囲まれて外部の気流や乱流等から防護される。この結果、インク滴55は飛翔曲りを生起することなく所定の経路を正確に飛翔して所定位置に高精度で着弾する。
【0030】
図3は図1(b)のA部分を抽出・拡大してその他の例を示す拡大断面図である。同図に示すように、本例の空気噴射機構60の空気室61には、変形したノズルプレート14の変形を規制する規制部66が形成してある。かくして、図3(a)に示す通常時の状態から圧電素子17の変形により圧力発生室11に発生させた圧力によりノズル開口13を介してインク滴55を吐出させた場合、これに連動してノズルプレート14も変形するが、本例の場合には、図3(b)に示すように、変形したノズルプレート14が規制部66に当接することによりそれ以上の変形が規制される。
【0031】
この結果、ノズルプレート14の変形が規制された状態で、圧力発生室11内に発生した圧力を良好にインクに作用させることができる。ここで、ノズルプレート14の変形形状とほぼ等しい形状となるように規制部66の形状は、図3(b)に示すように、エアノズル開口53が底となるような擂り鉢形状とするのが望ましい。
【0032】
上記実施形態において、インクジェット式記録ヘッド10を2個以上備えたインクジェット式記録ヘッドユニットを形成することも勿論可能である。さらに、空気噴射機構50,60が、圧力発生室11及びノズルプレート14を備えたヘッド本体に位置合わせ治具を介して着脱可能となるように形成することもできる。かかる分離構造とした場合には、空気噴射機構50,60をヘッド本体から取り外した状態でヘッド本体のクリーニング等を良好に行うことができる。
【0033】
ヘッド本体に対する空気噴射機構50,60の着脱は、例えば図4に示すような態様で好適に実現し得る。すなわち、図4(a)に示すように、上面の端部にアライメントピン71が突設された空気噴射機構50,60を下方からヘッド本体101の下面に当接させる。ここで、ヘッド本体101の端部にはアライメントピン71に位置的に対応させてこのアライメントピン71を挿入するための位置合わせ用のアライメント孔72が形成されている。そこで、アライメントピン71がアライメント孔72に挿入されるように位置を調整しつつ空気噴射機構50,60がヘッド本体101に当接されるように空気噴射機構50,60を上昇させることにより両者を一体化させる。このようにヘッド本体101と空気噴射機構50,60を一体化させた後、図4(b)に示すように、断面コ字状の固定治具73をヘッド本体101と空気噴射機構50,60との両端部から嵌め込む。図4(c)に示すように、固定治具73を最後まで嵌め込んでインクジェット式記録ヘッドユニット100として一体化を完成する。かかる状態で所定の印刷に供する。
【0034】
図5は上述の如きインクジェット式記録ヘッドユニット100を有するインクジェット式記録装置を概念的に示す説明図である。同図に示ように、当該インクジェット式記録装置は、印刷エリア102とメンテナンスエリア103との二つの領域を有している。印刷エリア102ではインクジェット式記録ヘッドユニット100を図中に矢印で示す左右方向に移動させながら被噴射媒体である記録シートSに向けてインク滴を吐出することにより所定の印刷を行う。ここで、記録シートSは図中に矢印で示す左下に斜めに搬送しつつ所定の印刷が行われる。すなわち、記録シートSはインクジェット式記録ヘッドユニット100に対して相対的に移動するようになっており、かかる移動に伴いインクジェット式記録ヘッドユニット100の下面と記録シートSとの間の空間には気流や乱流が発生する状況となっている。
【0035】
一方、メンテナンスエリア103では印刷エリア102から待避されたインクジェット式記録ヘッドユニット100から空気噴射機構50,60を取り外すとともに、空気噴射機構50,60を取り外したヘッド本体101をノズル開口を介して吸引等を行う。すなわち、メンテナンスエリア103は印刷エリア102に隣接する着脱エリア103Aと吸引エリア103Bとを有している。着脱エリア103Aでは、印刷エリア102から搬入されたインクジェット式記録ヘッドユニット100のヘッド本体101から図示しない着脱装置で空気噴射機構50,60を取り外すとともに、吸引エリア103Bにおいて所定の吸引清掃が終了したヘッド本体101に空気噴射機構50,60を装着する。一方、吸引エリア103Bではキャップ104を下方からヘッド本体101の下面に押し当て、かかる状態でキャップ104を介してヘッド本体101の内部に負圧を作用させることによりヘッド本体101の流路内等のインクに溶け込んでいる気泡を吸引排除するとともにノズル開口13(図1参照)の目詰りを除去する。
【0036】
このように、本実施形態によれば、印刷エリア102で所定の印刷を行った後、インクジェット式記録ヘッドユニット100をメンテナンスエリア103に待避させることができ、しかもメンテナンスエリア103ではヘッド本体101から空気噴射機構50,60を取り外すことができるので、取り外した状態でヘッド本体101のクリーニング等を良好に行うことができる。
【0037】
図6は上述の如き印刷エリア102とメンテナンスエリア103とを有するインクジェット式記録装置の概略斜視図である。同図に示すように、本実施形態に係るインクジェット式記録装置Iのインクジェット式記録ヘッド10を有するインクジェット式記録ヘッドユニット100A及び100Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット100A及び100Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。このインクジェット式記録ヘッドユニット100A及び100Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0038】
そして、印刷エリア102では、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット100A及び100Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の被噴射媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0039】
また、キャリッジ3とともに搬入される記録ヘッドユニット100A,100Bの所定のメンテナンスを行うメンテナンスエリア103には着脱エリア103Aと吸引エリア103Bとが設けられている。
【0040】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0041】
また、上記実施形態では圧電素子を用いてインク滴液滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド10について説明したが、かかる圧力発生手段を圧電素子に限定する必要もない。例えば、バブルジェット方式でも構わない。
【符号の説明】
【0042】
10 インクジェット式記録ヘッド、 11 圧力発生室、 12 流路形成基板、 13 ノズル開口、 14 ノズルプレート、 15 振動板、 16 流路ユニット、 17 圧電素子、 18 圧電素子ユニット、 22 リザーバー、 23 インク供給路、 24 ノズル連通孔、 50,60 空気噴射機構、 51,61 空気室、 52 蓋部材、 53 エアノズル開口、 54 空気流、 55 インク滴、 66 規制部、 71 アライメントピン、 72 アライメント孔、 100 インクジェット式記録ヘッドユニット、 101 ヘッド本体、 102 印刷エリア、103 メンテナンスエリア、 S 記録シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が充填された圧力発生室に発生する圧力によりノズルプレートに設けられたノズル開口を介し、相対的に移動する被噴射媒体に対して液滴を吐出する液体噴射ヘッドであって、
前記ノズルプレートは前記液滴の吐出と連動して形状が変形されるように構成するとともに、
前記ノズルプレートで一方の開口部が閉塞されるとともに蓋部材で他方の開口部が閉塞されて空気が充填される空間を形成している空気室と、前記液滴の吐出方向に関する前記ノズル開口の中心軸と同心の位置で前記蓋部材に形成された前記ノズル開口よりも大径のエアノズル開口とを有し、前記ノズルプレートの変形に連動して前記空気室の空気を前記エアノズル開口を介して前記液滴とともに吐出させるように構成した空気噴射機構とを有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記空気噴射機構の空気室には、変形したノズルプレートの変形を規制する規制部を有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記規制部は、前記エアノズル開口が底となるような擂り鉢形状の部材であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記ノズル開口の周囲は剛体で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する液体噴射ヘッドを2個以上備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項6】
請求項5に記載する液体噴射ヘッドユニットにおいて、
前記空気噴射機構が、前記圧力発生室及び前記ノズルプレートを備えたヘッド本体に位置合わせ治具を介して着脱可能に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載する液体噴射ヘッドユニットを有することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項8】
請求項6に記載する液体噴射ヘッドユニットの各ヘッド本体から前記被噴射媒体に向けて前記液滴を吐出して所定の印刷を行う印刷エリアと、
該印刷エリアから待避された前記液体噴射ヘッドユニットから前記空気噴射機構を取り外すとともに、前記空気噴射機構を取り外した前記ヘッド本体を前記ノズル開口を介して吸引するメンテナンスエリアとを有することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−201090(P2011−201090A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69003(P2010−69003)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】