説明

液体噴射装置

【課題】高粘度液体を噴射する場合に尾曳を抑えることが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル37は、ノズルプレート31における噴射側の面に一端が開口し且つ内径が一定な第1のストレート部37aと、ノズルプレートにおける圧力室側の面に他端が開口し且つ内径が第1のストレート部よりも大きく一定な第2のストレート部37bと、第1のストレート部及び第2のストレート部の間に形成され且つ内径が第1のストレート部の他端側から第2のストレート部の一端側に向けて拡大するテーパー部37cと、を有し、当該ノズルの噴射時の流路抵抗が、液体の粘度が10mPa・sのとき、3.0×1013〔Pa・s/m〕以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に関するものであり、特に、8mPa・s以上粘度の液体を噴射する際の尾曳等を抑制することが可能な液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから液体を噴射して着弾対象に着弾させる装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッドの一種。以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを噴射させて、記録紙や光ディスクの印刷面等の印刷媒体(着弾対象物の一種)に着弾させることで画像やテキスト等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造装置や電極形成装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置のインクジェット技術が応用されている。
【0003】
上記液体噴射装置は、噴射するときの粘度がいわゆる高粘度領域の液体、例えば、8mPa・s以上の液体(以下、高粘度液体)を噴射する用途にも用いられる場合がある(例えば、特許文献1参照)。このような高粘度の液体、たとえば、高粘度のインクは、たとえばフィルムなど被噴射媒体中に着弾した液体が浸透しにくいものに対して利用される。高粘度のインクは、粘度の低いインク(例えば、5mPa・s)と比較して被噴射媒体上で滲みに難いため被噴射画像の濃度にムラが生じ難く乾燥も早いという利点がある。上記液体噴射装置では、記録媒体の所定の範囲をインクで埋める所謂ベタ印刷や文字等のテキスト印刷をより高速化するべく大きいインク滴も噴射することが望まれる一方で、記録画像等の高精細化の要請に応じるべくできるだけ小さいインク滴を噴射することも望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−255513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液体噴射装置で上記の高粘度液体を噴射する場合、低粘度の液体を噴射する場合と比較して、噴射された液滴の進行方向後端部分が尾のように伸びる現象(以下、適宜、尾曳と言う。)が生じ易い傾向にある。特に、例えば数ng以下の微小液滴を噴射する場合に、上記の尾曳が生じやすい。即ち、上記特許文献1の構成のようにノズルの内径よりも微小な液滴を噴射しようとする場合、まず圧力室内の圧力を低下させてノズルにおけるメニスカスを圧力室側に一旦引き込んでから圧力室内の圧力を急激に増加させてメニスカスの中央部を噴射側に突出させることにより、中央部分だけをメニスカスから分断させる制御が行われる。高粘度液体で微小な液滴を噴射する場合においてはより強い力でメニスカスをノズル内で移動させる必要があるため、上記の尾曳が長くなりやすい。ノズル内でメニスカスが移動する際、ノズル内周面から離れたメニスカスの中央部は、圧力変化に追従して高速に移動する一方、ノズル内周面に近い部分(以下、この部分を境界層と呼ぶ)ほどその粘性が影響して圧力変化に追従し難いため移動速度が中央部よりも遅くなる。このメニスカスの中央部の移動する高速に移動する速度と境界層のメニスカスの移動する速度の差は、低粘度のインクよりも高粘度のインクの方が大きい。これにより、高粘度の液体(たとえば、インク)では、メニスカス中央部と境界層との間で剪断力が生じ、液体を噴射したときに尾曳が生じやすくなる。
【0006】
そして、このような尾曳が生じると、着弾対象物における着弾形状(ドット形状)が乱れる可能性がある。即ち、着弾形状は、画質上またはデバイスの性能上目標とする大きさの円形や楕円形であることが望ましいが、尾の部分が液滴本体の着弾部分に対して突出する状態で着弾すると、着弾形状が円形或いは楕円形ではなく歪になってしまう問題があった。また、尾の全体又は一部分が液滴本体から分離して飛翔した場合には、着弾対象物において液滴本体とは別の位置に着弾する可能性もある。このような着弾形状の乱れは、例えばプリンターで記録紙に画像を記録したときの画質の劣化の原因となる。なお、このような問題はインクジェット式記録装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。さらに、この課題は、高粘度の液体(特に、噴射時の前記ノズルにおける液体の粘度が8mPas以上の液体)にて顕著になることが経験則上分かっている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を噴射する場合に尾曳を抑えることが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルが開設されたノズル形成部材を有し、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を付与することにより前記ノズルから液滴を噴射可能な液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
前記ノズルは、前記ノズル形成部材における噴射側の面に一端が開口し且つ内径が一定な第1のストレート部と、前記ノズル形成部材における圧力室側の面に他端が開口し且つ内径が前記第1のストレート部よりも大きく一定な第2のストレート部と、前記第1のストレート部及び前記第2のストレート部の間に形成され且つ内径が前記第1のストレート部の他端側から前記第2のストレート部の一端側に向けて拡大する拡径部と、を有し、
当該ノズルの液体噴射時の流路抵抗が、当該ノズルの液体噴射時の液体の粘度が10mPa・sのとき、3.0×1013〔Pa・s/m〕以下であることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ノズルにおける流路抵抗が可及的に低減されてメニスカスが動きやすくなり、メニスカス中央部とノズル内壁側のメニスカス外周部(境界層)との間に生じる剪断力が抑制されるので、粘度が高粘度の液体をノズルから液滴として噴射する際に、噴射される液滴の量や飛翔速度が設計上の理想値から著しく低下することを抑制することができる。また、噴射された液滴の進行方向後端部分が尾のように伸びる尾曳を抑制することができる。その結果、着弾対象における液体の着弾形状をより理想的な状態に近づけることが可能となる。
【0010】
上記構成において、前記拡径部のノズル軸方向の寸法が、前記ノズル形成部材の厚みの1/3以上であることが望ましい。
【0011】
また、複数の圧力室に対して共通の液室である共通液室と、当該共通液室と各圧力室との間を連通する液体供給口と、を有し、
前記ノズルの流体インピーダンスZnと前記液体供給口の流体インピーダンスZsとの関係が、Zn<Zsであることが望ましい。
【0012】
また、上記構成において、前記拡径部においてノズル軸を間に挟んで対向する内壁同士の成す角度が、30°以上180°以下であることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】プリンターの電気的な構成を説明するブロック図である。
【図3】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図4】ノズルの構成を説明する要部断面図である。
【図5】噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図6】(a)〜(d)は、インク滴を噴射する際のメニスカスの動きを示す模式図である。
【図7】ノズルの寸法・形状を変えてインクを噴射したときの合否を示す表である。
【図8】ノズルの変形例の構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0015】
図1はプリンターの内部構成を説明する斜視図、図2はプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。例示したプリンターは、キャリッジ11に記録ヘッド10(液体噴射ヘッドの一種)を搭載すると共に、このキャリッジ11にインク(液体の一種)を貯留したインクカートリッジ11′(液体供給源の一種)が着脱可能に装着され、当該インクカートリッジ11′内のインクが記録ヘッド10に供給される。そして、記録ヘッド10の下方に送られてくる記録紙等の記録媒体21に対して、記録ヘッド10からインクを噴射して当該記録媒体21の記録面に文字や画像等を記録するように構成されている。また、このプリンターは、プリンターコントローラー1及びプリントエンジン2を有している。プリンターコントローラー1は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)3と、各種データ等を記憶するRAM4と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM5と、各部の制御を行う制御部6と、クロック信号を発生する発振回路7と、記録ヘッド10へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路8と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド10に出力するための内部インターフェース(内部I/F)9と、を備えている。
【0016】
制御部6は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F3を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F9を通じて記録ヘッド10側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成されている。また、制御部6は、発振回路7からのクロック信号に基づいて記録ヘッド10に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0017】
駆動信号発生回路8(駆動信号発生手段の一種)は、制御部6によって制御され、圧電振動子20を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路8は、ノズル37からインクをインク滴(液滴の一種)として噴射させて記録紙等の記録媒体21(着弾対象の一種)上にドットを形成させるための噴射駆動パルスや、ノズル37に露出したインクの自由表面、即ち、メニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0018】
次に、プリントエンジン2側の構成について説明する。プリントエンジン2は、記録ヘッド10と、キャリッジ用移動機構12と、紙送り機構13と、リニアエンコーダー14と、から概略構成されている。
キャリッジ用移動機構12は、駆動ベルトや駆動モーター等から成り、キャリッジ11を、記録媒体21の搬送方向に直交する方向に往復移動させるための機構である。紙送り機構13は、駆動モーターや紙送りローラー等により構成され、印刷動作時に記録ヘッド10とプラテンの間に記録媒体21を通過させ、画像等が印刷された記録紙を排出トレイ側に排出する機構である。リニアエンコーダー14は、キャリッジ11の移動に伴ってエンコーダーパルスを出力する。このリニアエンコーダー14から出力されたエンコーダーパルスは、制御部6に出力される。制御部6は、エンコーダーパルスに基づいてキャリッジ11(記録ヘッド10)の走査位置を認識できる。
【0019】
記録ヘッド10は、シフトレジスター(SR)15、ラッチ16、デコーダー17、レベルシフター(LS)18、スイッチ19、及び圧電振動子20を備えている。プリンターコントローラー1からのドットパターンデータSIは、発振回路7からのクロック信号CKに同期して、シフトレジスター15にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(噴射階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0020】
シフトレジスター15には、ラッチ16が電気的に接続されており、プリンターコントローラー1からのラッチ信号(LAT)がラッチ16に入力されると、シフトレジスター15のドットパターンデータをラッチする。このラッチ16にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー17に入力される。このデコーダー17は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子20に対する噴射駆動パルスの供給又は非供給が選択される。
【0021】
そして、デコーダー17は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター18に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター18に入力される。このレベルシフター18は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ19を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター18で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ19に供給される。このスイッチ19の入力側には、駆動信号発生回路8からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ19の出力側には、圧電振動子20が接続されている。
【0022】
そして、パルス選択データは、スイッチ19の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子20への供給を制御する。例えば、スイッチ19に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ19が接続状態になって、対応する噴射駆動パルスが圧電振動子20に供給され、この噴射駆動パルスの波形に倣って圧電振動子20の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター18からはスイッチ19を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ19は切断状態となり、圧電振動子20へは噴射駆動パルスが供給されない。
【0023】
このような動作を行うデコーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、制御部6、及び駆動信号発生回路8は、噴射制御手段として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から噴射駆動パルスを選択して圧電振動子20に印加(供給)する。その結果、噴射駆動パルスの電圧変化に応じて圧電振動子20が伸張又は収縮し、この圧電振動子20の伸縮に伴って圧力室35(図3参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを構成する階調情報に応じた量のインク滴がノズル37から噴射される。
【0024】
図3は、上記記録ヘッド10(液体噴射ヘッドの一種)の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド10は、ケース23、振動子ユニット24、及び流路ユニット25等を備えている。上記のケース23の内部には振動子ユニット24を収納するための収納空部26が形成されている。振動子ユニット24は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板28と、圧電振動子20に駆動信号を供給するためのフレキシブルケーブル29とを備えている。この圧電振動子20は、圧電体層と電極層とを交互に積層した圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製された積層型であって、積層方向(電界方向)に直交する方向に伸縮可能(電界横効果型)な縦振動モードの圧電振動子である。
【0025】
流路ユニット25は、流路形成基板30の一方の面にノズルプレート31を、流路形成基板30の他方の面に振動板32をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット25には、リザーバー33(共通液室の一種。マニホールドとも言う。)、インク供給口34(液体供給口の一種)、圧力室35、ノズル連通口36、及びノズル37が設けられている。そして、インク供給口34から圧力室35及びノズル連通口36を経てノズル37に至る一連のインク流路が、各ノズル37に対応して形成されている。
【0026】
上記ノズルプレート31(本発明におけるノズル形成部材の一種)は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル37が列状に開設された板状部材であり、本実施形態ではステンレス鋼により作製されている。このノズルプレート31には、ノズル37を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル37によって構成される。本発明に係るプリンターは、ノズル37の形状及び寸法に特徴を有している。この点については後述する。
【0027】
上記振動板32は、支持板38の表面に可撓性を有する弾性体膜39を積層した二重構造である。本実施形態では、ステンレス板を支持板38とし、この支持板38の表面に樹脂フィルムが弾性体膜39としてラミネートされた複合板材により振動板32が作製されている。この振動板32には、圧力室35の容積を変化させるダイヤフラム部40が設けられている。また、この振動板32には、リザーバー33の一部を封止するコンプライアンス部41が設けられている。
【0028】
上記のダイヤフラム部40は、エッチング加工等によって支持板38を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部40は、圧電振動子20の自由端部の先端面が接合される島部42と、この島部42を囲う薄肉弾性部43とから成る。上記のコンプライアンス部41は、リザーバー33の開口面に対向する領域の支持板38がエッチング加工等によって除去されることにより作製される。このコンプライアンス部41は、リザーバー33に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0029】
そして、上記の島部42には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部が伸縮することで圧力室35の容積が変動する。この容積変動に伴って圧力室35内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド10は、この圧力変動を利用してノズル37からインク滴を噴射させる。
【0030】
次に、上記プリンターにおいて、光硬化型インク等の高粘度のインク(高粘度液体の一種)を噴射するための構成について説明する。
上記プリンターで高粘度の液体を噴射する場合、比較的低粘度(例えば、5mPa・s)の液体を噴射する場合と比較して、噴射された液滴の後の部分が尾のように伸びる尾曳が生じ易い傾向にある。このような尾曳が生じると、記録紙等の着弾対象物における着弾形状(ドット形状)が乱れる可能性がある。このような着弾形状の乱れは、プリンターで記録紙に画像を記録したときには画質の劣化の原因となる。これに対し、本発明に係るプリンターでは、ノズル37の形状を工夫することによりノズル37における流路抵抗を低減し、これにより尾曳を抑制するようにしている。
【0031】
図4は、ノズル37の構成を説明するノズル軸方向の断面図である。なお、同図において、上側がインクが噴射される側(記録ヘッド10の外側)であり、下側が圧力室35側である。このノズル37は、第1のストレート部37aと、第2のストレート部37bと、テーパー部37c(本発明における拡径部の一種)と、から構成されている。第1のストレート部37aは、一端(噴射側。以下、同様。)がノズルプレート31における噴射側の面に開口し、他端(圧力室側。以下同様。)がテーパー部37cと連通した、内径がDaで一定な円筒状の空部である。第2のストレート部37bは、一端がテーパー部37cと連通し、他端がノズルプレート31における圧力室側の面に開口した、内径Dbが第1のストレート部37aの内径Daよりも大きく一定な円筒状の空部である。テーパー部37cは、第1のストレート部37a及び第2のストレート部37bの間に形成され、内径が第1のストレート部37aの他端側から第2のストレート部37bの一端側に向けて拡大する空部である。即ち、ノズル37は、噴射側と圧力室側にそれぞれストレート部を1つずつ合計2つのストレート部37a,37bを有し、これらをテーパー部37cで連続させている。
【0032】
第1のストレート部37aは、主に、ノズル37から噴射されるインク滴の量や飛翔方向の安定性に関与する部分である。この第1のストレート部37aの直径Da及びノズル軸方向(ノズルプレート31の厚み方向)の長さLaは、プリンターの仕様、具体的には噴射するインク滴の量(重量・体積)に基づいて設計される。本実施形態において、直径Daが30μmに設定され、長さLaが20μmに設定されている。テーパー部37cは、ノズル37全体の流路抵抗を低下させて、圧力室35内の圧力変動に応じたメニスカスの移動を円滑にするために重要な部分である。このテーパー部37cの一端側の直径は、第1のストレート部37aの直径Daに揃えられている一方、他端側の直径は、第2のストレート部37bの直径Dbに揃えられている。本実施形態におけるテーパー部37cの内径は、上述したように第1のストレート部37aの他端側から第2のストレート部37bの一端側に向けて一定の割合で拡径しているので、図4の断面において、ノズル軸を間に挟んで対向する内壁同士(テーパー内壁45a,45b)は、所定の角度(以下、テーパー角θ)を成している。このテーパー角θは、30°以上180°以下に設定される。また、このテーパー部37cのノズル軸方向の寸法Lcは、ノズルプレート31の厚さの1/3以上に設定される。本実施形態においては、ノズルプレート31の厚さ100μmに対して、40μm〜50μmに設定される。なお、Lcに関し、ノズル37が少なくとも第1のストレート部37a、テーパー部37c、及び第2のストレート部37bを有することを前提として設定される。
【0033】
第2のストレート部37bは、圧力室35側からノズル37内にインクが流入する際に当該インクを整流することで、インク滴の飛翔曲がりを抑制する作用を奏する。即ち、第2のストレート部37bを設けない構成(つまり、テーパー部37cの他端側がノズルプレート31の圧力室側の面に開口する構成)では、圧力室35側からノズル37内(テーパー部37c内)にインクが流入する際に、ノズルプレート31の圧力室側の面とテーパー部37cとの境界部でインクの流れに渦が生じ、この渦がテーパー部37cにおけるインクの流れを乱す虞があり、これによりノズル37から噴射されたインク滴の飛翔方向が安定しない可能性がある。これに対し、第2のストレート部37bを設ける構成では、ノズルプレート31の圧力室側の面と第2のストレート部37bとの境界部でインクの流れに渦が生じるものの、テーパー部37cに流入するまでの間にインクの流れが第2のストレート部37bの内周面に沿って全体的にノズル軸方向に整流されるので、上記の渦に起因する飛翔方向の不安定さが抑制される。
【0034】
また、第2のストレート部37bは、隣り合うノズル37同士が干渉する(ノズルプレート31の肉厚内で連通する)ことを抑制する。即ち、ノズル37の流路抵抗を低減する上では上記テーパー部37cのテーパー角θをできるだけ大きくすることが望ましいが、これを広げすぎると隣り合うノズル37同士が干渉してしまう虞がある。そこで、第2のストレート部37bを設けることで、ノズル37同士が干渉せずにテーパー角θを広げることができる範囲をより広く確保することができる。したがって、第2のストレート部37bの内径Dbは、第1のストレート部の内径Daよりも大きく且つ隣り合うノズル37同士が干渉しない程度の範囲内に設定される。また、第2のストレート部37bのノズル軸方向の寸法Lbは、ノズルプレート31の厚さに対し、第1のストレート部37aの寸法Laとテーパー部37cの寸法Lcが定められた上での残りの部分の厚さに対応する。上記の整流効果を発揮させる観点では、寸法Lbをできるだけ大きくすることが望ましい。
【0035】
ここで、ノズル37における流体インピーダンスZnと、インク供給口34における流体インピーダンスZsとの関係が、Zn<Zsとなるように、それぞれの寸法形状を定めることが望ましい。ここで、Zn及びZsは、それぞれ以下の式(1),(2)で表される。
Zn=√{Rn+(ωMn−1/ωCn)} …(1)
Zs=√{Rs+(ωMs−1/ωCs)} …(2)
なお、Mn〔kg/m〕はノズル37におけるイナータンス、Cn〔m/N〕はノズル37における音響容量(コンプライアンス)、Rn〔Ns/m〕はノズル37の流路抵抗である。同様に、Ms〔kg/m〕はインク供給口34におけるイナータンス、Cs〔m/N〕はインク供給口34における音響容量(コンプライアンス)、Rs〔Ns/m〕はインク供給口34の流路抵抗である。このようにノズル37における流体インピーダンスZnと、インク供給口34における流体インピーダンスZsとの関係が設定されることで、圧力室35に圧力変動を付与したときに、インクがノズル37側に流れやすくなる。
【0036】
以上のようにノズル37の形状及び寸法が定められることで、噴射する時点でのインクの粘度が10mPa・s、当該表面張力が25mN/mである場合にノズル37における流路抵抗が3.0×1013〔Pa・s/m〕以下に抑えられる。なお、この流路抵抗は、噴射する時点におけるインクの粘度の値に比して変化する。
記録ヘッド10の流路の中では最も流路抵抗の大きい部分であるノズル37における流路抵抗が低減されることで、圧力室35内部の圧力変動に応じてメニスカスが動きやすくなり、メニスカス中央部とノズル内壁側のメニスカス外周部の境界層との間に生じる剪断力が抑制される。これにより、粘度が8mPas以上の高粘度のインクをノズル37からインク滴として噴射する際に、噴射されるインク滴の量や飛翔速度が設計・仕様上の理想値から著しく低下することが抑制される。また、ノズル37から噴射されたインク滴の進行方向後端部分が尾のように伸びる尾曳を抑制することができる。その結果、記録媒体(着弾対象)におけるインクの着弾形状をより理想的な状態に近づけることが可能となる。
【0037】
次に、上記構成のプリンターにおいて、ノズル37からインクを噴射する制御について説明する。
図5は、駆動信号発生回路8が発生する駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成を説明する波形図である。例示した噴射駆動パルスDPは、圧力室35の膨張又は収縮の基準となる容積(基準容積)に対応する基準電位VBから最高電位VHまで比較的穏やかな勾配で電位を上昇させる第1充電要素PE1(膨張要素)と、最高電位VHを一定の時間維持する第1ホールド要素PE2(膨張維持要素)と、最高電位VHから最低電位VLまで、第1充電要素PE1の勾配よりも急峻な勾配で電位を降下させる放電要素PE3(収縮要素)と、最低電位VLを短い時間維持する第2ホールド要素PE4(収縮維持要素)と、最低電位VLから基準電位VBまで電位を復帰させる第2充電要素PE5(復帰要素)と、を順に接続して構成された電圧波形である。
【0038】
この噴射駆動パルスDPが圧電振動子20に印加されると、次のようにしてノズル37からインク滴が噴射される。即ち、第1充電要素PE1が供給されると、圧電振動子20が収縮して、基準電位VBに対応する基準容積から最高電位VHに対応する膨張容積まで圧力室35が膨張する(膨張工程)。これに伴って、図6(a)に示すように、ノズル37におけるメニスカスが圧力室35側に引き込まれる。なお、同図における矢印はメニスカスの移動方向を示し、その大きさ(長さ)は移動速度の大きさを概ね示している。ここで、ノズル内周面から比較的遠いメニスカスの中央部は、圧力変動に追従し易く比較的速い速度で圧力室35側に移動する一方、ノズル内周面に近い部分(境界層)はその粘性が影響して圧力変化に追従し難いため移動速度が中央部よりも遅くなる。しかしながら、図6(b)に示すように、メニスカス全体がテーパー部37cまで移動すると、テーパー部37cの流路抵抗が第1のストレート部37aにおける流路抵抗よりも低くなっているので、メニスカスの中央部と境界層との速度差が低減される。これにより、境界層を追従させながらメニスカス全体を大きく引き込むことができる。
【0039】
この圧力室35の膨張状態は、第1ホールド要素PE2が圧電振動子20に印加されることによって、ごく短い間(例えば、数μs)維持される(膨張維持工程)。その後、メニスカスが圧力室35側から噴射側に移動方向が変換されたタイミングで放電要素PE3が印加されて圧電振動子20が急激に伸長する。これに伴って、圧力室35の容積が、最低電位VLに対応する収縮容積まで収縮し、図6(c)に示すように、メニスカスが圧力室35とは反対側に向けて急激に加圧される(収縮工程)。これにより、図6(d)に示すように、ノズル37からは、数ng程度の液量のインク滴が噴射される。その後、第2ホールド要素PE4、及び、第2充電要素PE5が圧電振動子20に順次印加され、インク滴の吐出に伴うメニスカスの振動を短時間で収束させるべく、圧力室35が基準容積に復帰する(復帰工程)。ここで、テーパー部37cでは、メニスカスの中央部と境界層との速度差が低減されるので、ノズル37からインクが噴射される際のメニスカス中央部と境界層との間で生じる剪断力が抑制される。これにより、噴射されたインク滴の後端部の尾のように伸びる尾曳が抑制される。その結果、記録媒体におけるインク滴の着弾形状をより理想的な状態(設計・仕様上理想的なドット形状)に近づけることが可能となる。これにより、本発明に係るプリンターでは、記録媒体に記録された画像の低下を防止することができる。なお、膨張工程および収縮工程は、間に電位が一定な区間を入れて複数回に分けて行うようにしても良い。或いは、膨張工程および収縮工程の途中において変化速度を変えるようにすることも可能である。
【0040】
図7は、噴射時のノズル37におけるインクの表面張力が25mN/m、その粘度が10mPa・sを噴射することを前提として、ノズル37の寸法・形状(ノズルプレート31の厚さを含む。)を変えつつインクの噴射を行い、各場合でインクが良好に噴射されているか否かを示す表である。噴射性については、尾曳の有無或いはその長さ、及び記録媒体のインク着弾面における着弾形状(着弾面に対して垂直な方向から観たときのドットの形状)で判断される。この例では、ノズル37の寸法・形状を変更してそれに伴って流路抵抗をそれぞれ異ならせたA〜Fの6通りを検証した結果を示している。なお、第1のストレート部37aの内径Da(表におけるノズル内径)は30μmで一定である。また、表の下には、噴射良好性の可否を表す記号が表記されている。「◎」はインクを噴射したときの尾曳が殆ど生じず、着弾形状も真円に近く最も理想な形状であることを示す。したがって、記録画像の画質がこの中で最も高い状態である。「○」は尾曳が生じ、この尾曳により着弾形状も「◎」の場合よりも多少いびつになるが、記録画像の画質上問題無い形状であることを示す。「△」は「○」の場合よりも尾曳が長くなり、これにより着弾形状が画質に悪影響を及ぼす程度にいびつであることを示す。「×」は「△」の場合よりもさらに尾曳が長くなり、これにより記録画像の画質に著しく悪影響を及ぼすことを示す。これらの記号のうち、「◎」及び「○」の場合は合格とされ、「△」及び「×」の場合は不合格とされる。
【0041】
図7に示すA〜Fのうち、本発明における主たる条件である「ノズル37の流路抵抗が3.0×1013〔Pa・s/m〕以下」を満たしているのは、C〜Eの3つの場合である。これらのC〜Eについては、いずれも噴射良好性が「◎」若しくは「○」で合格となっている。これに対し、条件外となっているA,B,及びFの場合は、噴射良好性が「△」若しくは「×」で不合格となっている。即ち、これらのA,B,及びFの場合、本発明の他の条件である「ノズルプレート31の板厚に対するテーパー部37cの割合が1/3以上」及び「テーパー角θが30°以上180°以下」を満たしていないため、ノズル37全体の流路抵抗が3.0×1013〔Pa・s/m〕よりも高まってしまい、噴射安定性が確保できない結果となっている。
【0042】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
例えば、本発明は、上記実施形態で例示した高粘度インクには限らず、液晶や電極材などの高粘度液体を噴射する場合にも好適である。
【0043】
上記実施形態では、本発明における駆動信号の一例として、図5に示す噴射駆動パルスDPを含む駆動信号を挙げて説明したが、これには限られない。要は、少なくとも、圧力室を膨張させてノズルにおけるメニスカスを圧力室側に引き込む膨張要素と、当該膨張要素によって膨張された圧力室を収縮させてメニスカスを噴射側に押し出す収縮要素と、を含む構成の駆動パルスであれば、任意の波形のものを用いることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0045】
さらに、ノズルプレート31の材料に関し、上記実施形態では、ステンレス鋼を用いる構成を例示したが、これには限られない。例えば、シリコン単結晶基板を採用することも可能である。なお、ノズルにおける流路抵抗は、噴射する液体の粘度とノズルの寸法及び形状に主に影響されるものであり、ノズルプレート31の材料の違いによる表面粗さの違い等の影響は少ない。したがって、ノズルプレート31の材料が変更された場合においても、上記実施形態で例示した条件に従えば、高粘度液体を噴射する際の尾曳等を抑制することができる。
【0046】
また、ノズル37におけるテーパー部37cに関し、上記実施形態では、第1のストレート部37aの他端側から第2のストレート部37bの一端側に向けて一定の割合で拡径する構成を例示したが、これには限られない。例えば、図8に示す変形例のノズル37′のように、内径が変化する割合が一定でなくても良い。即ち、このノズル37′の場合、テーパー部37c′の内径が、第1のストレート部37aの他端側から第2のストレート部37bの一端側に向けて二次曲線的に変化することで、テーパー部37cの内壁が彎曲した構成となっている。この構成では、同断面図に示すように、ノズル軸を挟んで対向する、第1のストレート部37aの他端開口との境界点および第2のストレート部37bの一端開口との境界点とを結ぶ仮想線同士が、30°以上180°以下で交差するように設定されれば良い。なお、テーパー部37c以外の構成は、上記実施形態と同様である。
【0047】
そして、本発明は、液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等の他の機器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…プリンターコントローラー,2…プリントエンジン,6…制御部,8…駆動信号発生回路,10…記録ヘッド,20…圧電振動子,33…リザーバー,34…インク供給口,35…圧力室,37…ノズル,37a…第1のストレート部,37b…第2のストレート部,37c…テーパー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが開設されたノズル形成部材を有し、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を付与することにより前記ノズルから液滴を噴射可能な液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置であって、
前記ノズルは、前記ノズル形成部材における噴射側の面に一端が開口し且つ内径が一定な第1のストレート部と、前記ノズル形成部材における圧力室側の面に他端が開口し且つ内径が前記第1のストレート部よりも大きく一定な第2のストレート部と、前記第1のストレート部及び前記第2のストレート部の間に形成され且つ内径が前記第1のストレート部の他端側から前記第2のストレート部の一端側に向けて拡大する拡径部と、を有し、
当該ノズルの液体噴射時の流路抵抗が、当該ノズルの液体噴射時の液体の粘度が10mPa・sのとき、3.0×1013〔Pa・s/m〕以下であることを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記拡径部のノズル軸方向の寸法が、前記ノズル形成部材の厚みの1/3以上であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
複数の圧力室に対して共通の液室である共通液室と、当該共通液室と各圧力室との間を連通する液体供給口と、を有し、
前記ノズルの流体インピーダンスZnと前記液体供給口の流体インピーダンスZsとの関係が、Zn<Zsであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記拡径部においてノズル軸を間に挟んで対向する内壁同士の成す角度が、30°以上180°以下であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−194857(P2011−194857A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67343(P2010−67343)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】