説明

液体噴射装置

【課題】液体噴射装置の液体室内に気泡が滞留し難くすることによって、安定した液体の噴射を可能とする。
【解決手段】液体噴射装置10は、流入口110aと流出口110bとを有するチューブ120を、流入口110aと流出口110bとの間で渦巻き形状に巻回あるいは折り畳むことで液体室110を形成する。そして、圧電素子112を駆動することによって、チューブ120を押圧して液体室110の容積を減少させる。こうすれば、液体室110の容積っを減少させることによって液体室110内の液体が加圧されるので、液体室110の流出口110bと連通するノズル102から加圧液体をパルス状に噴射することができる。そして、液体室110に液体を充填する際には、液体室110内の液体の流れがチューブ120に沿って規制されるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することを抑制して、液体室110内の気泡を速やかに排出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水や生理食塩水などの液体を加圧して、断面積が細く絞られたノズルから生体組織に向けて噴射することによって、生体組織を切開あるいは切除する液体噴射装置が開発されている。このような液体噴射装置を用いた手術では、神経や血管等を傷つけることなく臓器などの組織だけを選択的に切開あるいは切除することが可能であり、周囲の組織に与える損傷が少ないので、患者の負担を小さくすることが可能である。
【0003】
さらに、単にノズルから連続的に液体を噴射するのではなく、パルス状に液体を噴射することで、少ない噴射量で生体組織の切開や切除を可能にした液体噴射装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この液体噴射装置は、液体室に液体を充填した状態で、液体室の容積を急速に減少させることで液体室内の圧力を急速に上昇させ、その圧力によって、液体室に接続されたノズルからパルス状に液体を噴射する。続いて、液体室の容積を元に戻して再び液体を充填する。こうした動作を繰り返すことで、パルス状の噴流を周期的に発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−082202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このように液体をパルス状に噴射する液体噴射装置では、液体中に存在している気泡や、液体中に溶解していた気体が条件によって気泡化して発生した気泡が液体室内に滞留することで、切開や切除の能力が低下するという問題があった。すなわち、上述したように、パルス状の噴流は、液体室の容積を減少させて液体室内の液体を加圧することで発生させているので、液体室内に気泡があると、液体室の容積を減少させても気泡が圧縮されることによって液体を十分に加圧できない。このため、ノズルからパルス状に液体を噴射することができなくなり、切開や切除する能力が低下してしまうという課題を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る液体噴射装置は、ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、前記液体が供給される流入口と、前記ノズルに連通する流出口と、を有するチューブが、前記流入口と前記流出口との間で、渦巻き形状に巻回または折り畳まれることのいずれかによって形成され、所与の容積を有する液体室と、前記チューブを押圧することによって、前記液体室の容積を前記所与の容積よりも減少させる容積変更部と、前記容積変更部を駆動することによって、前記ノズルから液体をパルス状に噴射させる噴射制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本適用例によれば、流入口と流出口とを有するチューブを渦巻き形状に巻回あるいは折り畳むことで液体室が形成されており、容積変更部を駆動すると、チューブが押圧され、液体室の容積が減少するので、液体室内の液体が急速に加圧される。その結果、液体室の流出口と連通するノズルから加圧液体をパルス状に噴射することができる。
【0009】
そして、液体噴射装置は、液体室に液体を充填する際には、流入口から供給される液体がチューブに沿って流出口へと流れるので、液体室内に気泡が滞留し難くすることできる。
例えば、液体室内の液体の流れが不規則で流れの速い箇所と遅い箇所とがあると、流れの遅い箇所に気泡が滞留し易く、こうした気泡の存在によって液体が十分に加圧されなくなるため、液体を適切に噴射できなくなってしまう。そこで、流入口と流出口とを有するチューブで液体室を形成しておけば、液体室内の液体の流れがチューブに沿ってほぼ一定に規制されるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することを抑制し、液体室内の気泡の流出口からの排出が容易となる。結果として、気泡の影響を受けること無く、安定した液体の噴射を維持することが可能となる。
【0010】
また、流入口と流出口とを有するチューブで液体室を形成する構成では、巻回あるいは折り畳まれたチューブを押圧可能であれば、流入口および流出口の配置や、チューブの取り回しは特に限定されない。そのため、液体室の設計の自由度が増し、液体噴射装置の構造の簡略化や小型化を図ることが可能となる。
【0011】
[適用例2]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記容積変更部は圧電素子を有し、前記圧電素子を伸張させることによって前記液体室の容積を減少させ、且つ、前記圧電素子は、前記圧電素子を伸張させない状態において、前記チューブを押圧するよう配設されていること、が好ましい。
【0012】
このような構成によれば、伸張することで液体室の容積を減少させる圧電素子は、外部からの圧縮力に対しては強いが引張力に対しては弱いという特性を有しているので、圧電素子に引張力が作用すると破損の原因となる。そこで、圧電素子を伸張させない状態においても、液体室を形成するチューブを押圧する状態で圧電素子を設けておけば、その押圧の反力として、圧電素子に対して圧縮方向の力を予め作用させておくことができる。これにより、圧電素子に引張方向の力がかかる際には、その引張方向の力が軽減されるので、引張力の作用による圧電素子の破損の発生を低減することが可能となる。
【0013】
さらに、圧電素子を伸張させない状態においても、液体室を形成するチューブを押圧する状態で圧電素子を設けておけば、圧電素子が伸張し始めたときに直ちにチューブ押圧を開始する。よって、圧電素子の伸張とチューブの押圧との間にストロークロスがなく、効率よく液体噴射が行えるという効果もある。
【0014】
[適用例3]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記流入口の断面積が前記流出口の断面積より小さく、且つ前記流入口がキャピラリであること、が好ましい。
【0015】
このようにすれば、液体室の容積を縮小する際、流入口からの逆流を抑えて液体室内の圧力を高め、断面積の大きい流出口からの流出をし易くすることができる。
【0016】
[適用例4]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記容積変更部は、前記圧電素子の駆動に連動し、前記チューブを押圧する補強板をさらに有し、前記補強板が、前記チューブの前記流入口と前記流出口との間の大部分を押圧すること、が好ましい。
【0017】
このような構成によれば、チューブの流入口と流出口との間の大部分を押圧することによって、圧電素子の伸張量が一定であれば、1回の伸張による液体室の容積縮小量をたかめることができる。
【0018】
[適用例5]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記流入口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの外周端部に配置され、前記流出口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの中央端部に配置されていること、が好ましい。
【0019】
このような構成では、液体噴射装置を手で持って操作するような場合、液体噴射装置のほぼ中央に流出口を配置できるので、操作しやすいという利点がある。
【0020】
[適用例6]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記流入口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの中央端部に配置され、前記流出口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの外周端部に配置されていること、が好ましい。
【0021】
圧電素子(または補強板)によるチューブを押圧する場合、中央部の押圧量の方が外周部の押圧量よりも大きくなる傾向がある。従って、中央部に流入口を配置すればし、流出口をチューブの外周端部に配置することにより、流入口付近の圧力が高まる。この際、流入口がキャピラリの場合には、液体室から流入口への逆流が抑制されることから、液体室の圧力を高めることができ、強い液体噴射を得ることができる。
【0022】
[適用例7]上記適用例に係る液体噴射装置において、前記チューブは、巻回毎、または折り畳まれる毎に隙間が設けられていること、が好ましい。
ここで、巻回毎とは、例えば1巻き目と2巻目の隙間のことであって、折り畳まれる毎とは、例えば、チューブを折り畳むように配置する際の隣り合う部分の隙間をさす。
【0023】
チューブは、容積変更部によって押圧されて容積が変更される。この際、変形される分の隙間を設けることによって、隣り合うチューブが接触することによる負荷の上昇を排除し、所望の押圧量を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1に係る液体噴射装置の主要構成を示した説明図。
【図2】実施形態1に係る脈動発生部の断面を示す分解組立図。
【図3】実施形態1に係る液体室の構成の1例を示す説明図。
【図4】実施形態1に係る脈動発生部が液体を噴射する様子を示した説明図(圧電素子を駆動していない状態)。
【図5】実施形態1に係る脈動発生部が液体を噴射する様子を示した説明図(圧電素子を駆動した状態)。
【図6】実施形態2に係る脈動発生部の一部断面を示す分解組立図。
【図7】実施形態2に係る液体室の構成の1例を示す説明図。
【図8】実施形態2に係るチューブを押圧した状態を模式的に表す断面説明図。
【図9】変形例に係る液体室の形状を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の説明で参照する図は、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0026】
まず、実施形態1に係る液体噴射装置10の構成について説明する。
図1は、本実施形態の液体噴射装置の主要構成を示した説明図である。本実施形態の液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体をパルス状に噴射する脈動発生部100と、液体を脈動発生部100に供給する液体供給手段300と、噴射する液体を収容する液体容器306と、脈動発生部100及び液体供給手段300の動作を制御する制御部200と、を有して構成されている。
【0027】
脈動発生部100は、第2ケース106と第1ケース108とを重ねてネジ止めしたような構造となっており、第2ケース106の前面(第1ケース108と合わさる面とは反対側の面)には円管形状の液体噴射管104が接続され、液体噴射管104の先端にはノズル102が設けられている。
【0028】
第2ケース106と第1ケース108との合わせ面には、液体が充填される液体室110が設けられており、この液体室110は、液体噴射管104を介してノズル102に接続されている。また、第1ケース108の内部には、積層型の圧電素子112が設けられており、駆動電圧波形を印加して圧電素子112を駆動する(伸縮させる)ことにより、液体室110の容積を変動させて、液体室110内の液体をノズル102からパルス状に噴射することが可能となっている。尚、脈動発生部100の詳細な構成については、図2を参照して後述する。
【0029】
液体供給手段300は、第1接続チューブ302を介して液体容器306と接続されており、液体容器306から吸い上げた液体を、第2接続チューブ304を介して脈動発生部100の液体室110に供給する。本実施形態の液体供給手段300は、図示は省略するが、2つのピストンがシリンダ内で摺動する構成となっており、双方のピストンの移動速度を適切に制御することで、脈動発生部100に向かって液体を安定して圧送することが可能である。
【0030】
制御部200は、脈動発生部100に内蔵された圧電素子112の動作や、液体供給手段300の動作を制御している。本実施形態の液体噴射装置10では、液体供給手段300から供給する液体の流量や、圧電素子112に印加する駆動電圧の波形、最大電圧値および周波数を変更することによって、ノズル102からの液体の噴射態様を変化させることが可能となっている。
【0031】
続いて、脈動発生部100の構成を図面を参照して説明する。
図2は、本実施形態に係る脈動発生部の断面を示す分解組立図である。脈動発生部100は、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めして構成されている(図示は省略)。第1ケース108には、第2ケース106と合わさる面の中央位置に、第1ケース108を貫通する円形断面の貫通穴108hが形成されている。この貫通穴108hには、圧電素子112が収納され、更に、貫通穴108hの第2ケース106と合わさる面とは反対側の開口部は第3ケース118によって塞がれている。圧電素子112は、多数の圧電素子を重ねて柱状にした積層型の圧電素子で構成されており、圧電素子112の一端は第3ケース118に固定されている。また、圧電素子112の他端には、金属板などで形成された円形の補強板116が固着されている。
【0032】
一方、第2ケース106には、第1ケース108と合わさる面に、円形の浅い凹部106cが形成されている。凹部106cの周縁の位置には、第2ケース106に接続された第2接続チューブ304と連通する入口流路106aが開口されている。また、凹部106cのほぼ中央位置には、液体噴射管104に連通する出口流路106bが開口されている。
【0033】
更に、凹部106cには、円形断面のチューブ120で形成された液体室110が設置されている。尚、本実施形態の脈動発生部100では、液体室110を金属製のチューブで形成しているが、チューブ120の材料は金属に限定されるわけではなく、樹脂製のチューブであってもよい。また、チューブ120の断面形状は、円形に限られるわけではなく、角形や楕円であってもよい。
【0034】
続いて、液体室110の構成を図面を参照して説明する。
図3は、本実施形態に係る液体室の構成の1例を示す説明図である。なお、図3では、液体室110を第1ケース108側から見た状態を示している。図示するように、液体室110は、チューブ120を渦巻き形状に巻回して略円形に形成されており、多重に巻回されたチューブ120の巻回毎の互いの間には、所定の隙間が設けられている。
【0035】
また、この渦巻き形状のチューブ120の最外周の径は、円形の補強板116の外径よりも小さく設定されている。更に、チューブ120の両端(外周端部及び中央端部))は、第2ケース106(図3では図面の奥側)に向けて折り曲げられている(図2参照)。尚、本実施形態では、液体室110を形成する渦巻き形状のチューブ120の外周端部の開口部を「流入口110a」と呼び、中央端部の開口部を「流出口110b」と呼ぶものとする。
【0036】
このように構成される液体室110は、流入口110aを入口流路106aに接続し、かつ、流出口110bを出口流路106bに接続した状態で、第2ケース106の凹部106cに設置される。そして、図2に示すように、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めすると、チューブ120の一方の側面が第2ケース106の凹部底面106dに接し、チューブ120の他方の側面が補強板116に接して、凹部底面106dと補強板116との間にチューブ120(液体室110)が挟まれた状態となる。
【0037】
なお、チューブ120(液体室110)は、一方の側面が第2ケース106の凹部底面106dに当接されており、他方の側面が補強板116と当接されている。詳しくは後述するが、本実施形態の脈動発生部100では、圧電素子112が伸張していない状態(収縮した状態)でも、補強板116を介して圧電素子112がチューブ120の側面を押圧した状態となるように、補強板116の厚さ等が設定されていることが好ましい。
【0038】
また、第2ケース106の前面(第1ケース108と合わさる面とは反対側の面)には、液体噴射管104が接続されており、この液体噴射管104の内径は、出口流路106bの内径に比べて大きく設定されている。また、液体噴射管104の先端には、出口流路106bよりも内径が小さく設定された液体噴射開口部を有するノズル102が挿着されている。従って、液体室110内で加圧された液体が噴射されるまでの流路は、出口流路106bを通って液体噴射管104に到ると断面積が広くなり、液体噴射管104の先端のノズル102の部分で再び断面積が狭くなるようになっている。
【0039】
以上のように構成された脈動発生部100では、圧電素子112に駆動電圧波形を印加して圧電素子112を駆動する(伸縮させる)ことによって、ノズル102から液体をパルス状に噴射することが可能となっている。以下では、脈動発生部100が液体を噴射する動作について説明する。
【0040】
図4及び図5は、脈動発生部100が液体を噴射する様子を示した説明図である。図4には、圧電素子112を駆動していない状態(圧電素子112に駆動電圧波形を印加する前の状態)が示されている。この状態では、図4(a)に示すように、液体供給手段300から第2接続チューブ304を介して脈動発生部100に供給される液体が入口流路106aを通って液体室110へと流入することにより、液体室110内が液体で満たされる。尚、図4(b)に示す破線の矢印は、液体の流れを模式的に表している。
【0041】
前述したように液体室110は、チューブ120を渦巻き形状に巻回して略円形に形成されており、図4(b)に示すように、入口流路106aと接続された周縁部の流入口110aから流入した液体は、チューブ120に沿って旋回しながら、出口流路106bと接続された中央の流出口110bへと導かれる。このように渦巻き形状のチューブ120に沿って液体を流すことによって、液体室110内の液体の流れが規制されるので、流入口110aから流出口110bまでほぼ均一な流速で液体を流すことができる。
【0042】
尚、前述したように、液体供給手段300からは液体が安定して供給されるので、液体室110内が液体で満たされると、圧電素子112が駆動していなくても、液体室110内の液体が流出口110bから出口流路106bを通って液体噴射管104に向けて押し出されることになる。
【0043】
このように液体室110が液体で満たされた状態で、圧電素子112に駆動電圧波形が印加されると、図5(a)に示すように、圧電素子112が駆動電圧の増加によって伸張し、補強板116を介して液体室110(チューブ120)の側面を第2ケース106の凹部底面106dに向けて押圧する。このため、チューブ120の断面が円形から楕円に変形して液体室110の容積が減少し、その結果、液体室110内の液体が加圧される。
【0044】
なお、前述したように、液体室110を形成するチューブ120の最外周の径は、補強板116の外径よりも小さく設定されているので、チューブ120の全体が押圧された状態になる。また、チューブ120は、所定の隙間を空けて巻かれているが、押圧によって変形すると、互いに密着した状態、または隙間が縮小された状態となる。こうして液体室110内で加圧された液体は、図5(a)中に破線の矢印で示したように、流出口110bに接続された出口流路106b、および液体噴射管104を介して、ノズル102からパルス状に噴射される。
【0045】
なお、液体室110には、流入口110aに接続される入口流路106a、および流出口110bに接続される出口流路106bの2つの流路が接続されている。従って、液体室110内で加圧された液体は、出口流路106bだけでなく、入口流路106aにも流出すると考えられる。しかし、流路における液体の流れ易さは、流路の断面積や流路の長さ等によって定まる。例えば、流出口110bの直径を1mm程度、流入口110aの直径を0.3mm程度のキャピラリとすると、流量の単位時間当たりの変化は断面積に比例し、長さに反比例するので、大半の流体を出口流路106bへ流出させることが可能である。
【0046】
さらに、入口流路106aには、液体供給手段300から圧送される液体が液体室110内に流入しようとすることから液体室110内の液体の逆流を妨げる。出口流路106bには、液体室110内の液体の流出を妨げる抵抗となる要素や慣性を増加させる要素は少ない。そのため、液体室110内で加圧された液体は、もっぱら出口流路106bに流出して、液体噴射管104を介して先端のノズル102から噴射される。
【0047】
また、前述したように、液体室110は、チューブ120を渦巻き形状に巻回して形成されており、液体室110内で加圧された液体は、渦巻き形状のチューブ120に沿って中央の流出口110bへと移動する。このとき、図5(b)に示すように、多重に巻回されたチューブ120のうち、中央の流出口110bから離れた最外周の部分では、移動する液体はわずかであるものの、流出口110bに近づくにつれて流量が増加して、流出口110bに近い部分では、液体室110(チューブ120)の容積減少分に相当する液体が一気に移動して流出口110bから押し出される。その結果、出口流路106bおよび液体噴射管104を介して、ノズル102から液体がパルス状に噴射される。
【0048】
続いて、駆動電圧を減少させると圧電素子112が収縮して元の長さに戻る。すると、液体室110を形成するチューブ120は、圧電素子112による押圧が弱まるので、チューブ120の復元力によって断面が楕円から略円形に戻って、液体室110の容積が元の容積に復元する。そして、液体供給手段300から供給される液体がチューブ120に沿って流れて液体室110内を満たすことで、図4に示した圧電素子112が駆動する前の状態に復帰する。
【0049】
その後、再び駆動電圧の増加により圧電素子112が伸張すると、図5に示したように液体室110内で加圧された液体がノズル102からパルス状に噴射される。こうした動作を繰り返すことによって、本実施形態の脈動発生部100では、パルス状の噴流を周期的に発生させることが可能となっている。尚、液体室110の容積を減少させる本実施例の圧電素子112及び補強板116は、「容積変更部」に相当している。また、圧電素子112の駆動を制御している制御部200は、「噴射制御手段」に相当している。
【0050】
ここで、前述したように、脈動発生部100は、圧電素子112が伸張していない状態(収縮した状態)でも、液体室110を形成するチューブ120の側面に押圧がかかるようになっていることが好ましい。これは、次のような理由によるものである。
【0051】
積層型の圧電素子で構成される圧電素子112は、外部からの圧縮力に対しては強いが引張力に対しては弱いという特性がある。そして、圧電素子112が収縮する際には、素子自体の質量等に起因する慣性力により、圧電素子112に引張方向の力がかかり易いことから、圧電素子112に破損(積層型の圧電素子の層間剥離など)が生じるおそれがある。そこで、圧電素子112が収縮した状態でも、チューブ120で形成された液体室110の側面に押圧がかかるようにしておけば、その反力として、圧電素子112にはチューブ120の復元力による圧縮方向の力が常に作用することになるので、圧電素子112にかかる引張方向の力を軽減することができる。その結果、引張力の作用による圧電素子112の破損の発生を低減することが可能となる。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態の液体噴射装置10では、液体室110がチューブ120を渦巻き形状に巻回して形成されており、液体が充填されたチューブ120の側面を圧電素子112の伸張で押圧して液体室110の容積を急速に減少させることによって、液体室110内で加圧された液体をノズル102からパルス状に噴射することができる。そして、液体供給手段300から供給されて流入口110aを通って液体室110に流入した液体は、チューブ120に沿って流出口110bへと流れる。従って、液体室110に気泡が滞留し難くすることが可能である。
【0053】
液体室110内の気泡は液体の流れに乗って流出口110bに排出されるが、液体室110内に液体の流れが速い箇所と遅い箇所とがあると、流れの遅い箇所に気泡が滞留し易い。そして、液体室110内に気泡が存在すると、液体室110の容積を減少させても気泡が圧縮されて液体の圧力が十分に上昇しないので、液体を適切に噴射できなくなってしまう。そこで、液体室110を渦巻き形状のチューブ120で形成しておけば、液体室110内の液体の流れをチューブ120に沿って一定の流れに規制することができるので、流れの遅い箇所に気泡が滞留することが無く、液体室110内の気泡の排出が容易となる。結果として、安定した液体の噴射を維持することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態の液体噴射装置10は、圧電素子112が伸張していない状態でも、液体室110を形成するチューブ120の側面に押圧がかかるように圧電素子112を設けておくことによって、その反力(チューブ120の復元力)で、圧電素子112に対して圧縮方向の力(プリロード)を作用させている。これにより、圧電素子112にかかる引張方向の力が軽減されるので、引張力の作用による圧電素子112の破損の発生を低減することが可能となる。結果として、積層型の圧電素子を圧電素子112として搭載した液体噴射装置10の耐久性を向上させることができる。
【0055】
さらに、本実施形態の液体噴射装置10は、液体室110が渦巻き形状のチューブ120で形成されていることから、次のような効果を得ることができる。すなわち、従来の液体室は、凹部106cの開口面を変形可能なダイアフラムで塞ぐことによって形成されるのが一般的であり、ダイアフラムの取り付けには、液体が漏れることのないように高い精度や部材間の強力な接合が要求される。これに対して、チューブ120で形成した液体室110では、ダイアフラムが不要であり、液体が漏れない液体室110を簡単に構成することができる。
【0056】
また、チューブ120を直接押圧する補強板116が、チューブ120の流入口110aと流出口110bとの間の大部分を押圧していることによって、圧電素子112の伸張量が一定であれば、1回の伸張による液体室110の容積縮小量を高めることができる。
【0057】
さらに、流入口110aを渦巻き形状に巻回されたチューブ120の外周端部に配置し、流出口110bを中央端部に配置すれば、液体噴射装置10を手で持って操作するような場合、液体噴射装置10のほぼ中央に液体噴射管104を配置できるので、操作しやすいという利点がある。
(実施形態2)
【0058】
続いて、実施形態2について図面を参照して説明する。前述した実施形態1では、流入口110aが、チューブ120の外周端部に配置され、流出口110bが、チューブ120の中央端部に配置されていることに対して、実施形態2では、流入口110aと流出口110bの配置を入れ替えていることに特徴を有している。よって、実施形態1との相違箇所を中心に、同じ符号を付して説明する。
【0059】
図6は、実施形態2に係る脈動発生部の一部断面を示す分解組立図である。本実施形態における第1ケース108、圧電素子112、補強板116の構成は、実施形態1と同じ構成である。
一方、第2ケース106の凹部106cの中央位置には、第2ケース106に接続された第2接続チューブ304と連通する入口流路106aが開口され、液体室110の流入口110aが接続されている。また、凹部106cの周縁位置には、液体噴射管104に連通する出口流路106bが開口され、流出口110bが接続されている。
【0060】
さらに、凹部106cには、円形断面のチューブ120で形成された液体室110が設置されている。なお、配置位置が異なるものの液体噴射管104及びノズル102の構成も、実施形態1(図2、参照)と同じであるため、詳しい説明は省略する。
【0061】
次に、本実施形態に係る液体室110の構成を図面を参照して説明する。
図7は、実施形態2に係る液体室の構成の1例を示す説明図である。なお、図7では、液体室110を第1ケース108側から見た状態を示している。図示するように、液体室110は、チューブ120を渦巻き形状に巻回して略円形に形成されており、多重に巻回されたチューブ120の巻回毎の互いの間には、所定の隙間が設けられている。
【0062】
また、この渦巻き形状のチューブ120の最外周の径は、円形の補強板116の外径よりも小さく設定されている。更に、チューブ120の両端(外周端部及び中央端部))は、第2ケース106(図7では図面の奥側)に向けて折り曲げられている(図6、参照)。なお、本実施形態では、液体室110を形成する渦巻き形状のチューブ120の中央端部の開口部を「流入口110a」と呼び、外周端部の開口部を「流出口110b」と呼ぶものとする。
【0063】
このように構成される液体室110は、流入口110aを入口流路106aに接続し、且つ、流出口110bを出口流路106bに接続した状態で、第2ケース106の凹部106c内に設置される。そして、図6に示すように、第2ケース106と第1ケース108とを合わせてネジ止めすると、チューブ120の一方の側面が第2ケース106の凹部底面106dに接し、チューブ120の他方の側面が補強板116に接して、凹部底面106dと補強板116との間にチューブ120(液体室110)が挟まれた状態となる。
【0064】
液体室110が液体で満たされた状態で、圧電素子112に駆動電圧波形が印加されると、図5(a)に示すように、圧電素子112が駆動電圧の増加によって伸張し、補強板116を介して液体室110(チューブ120)の側面を第2ケース106の凹部底面106dに向けて押圧する。このため、チューブ120の断面が円形から楕円に変形して液体室110の容積が減少し、その結果、液体室110内の液体が加圧される。
【0065】
なお、前述したように、液体室110を形成するチューブ120の最外周の径は、補強板116の外径よりも小さく設定されているので、チューブ120の全体が押圧された状態になる。また、チューブ120は、所定の隙間を空けて巻かれているが、押圧によって変形すると、互いに密着した状態となる。こうして液体室110内で加圧された液体は、図7に破線の矢印で示したように、流出口110bに接続された出口流路106b、および液体噴射管104を介して、ノズル102からパルス状に噴射される。
【0066】
脈動発生部100による液体噴射動作も前述した実施形態1(図4及び図5、参照)と同様に説明できるが、流入口110aと流出口110bの配置が異なるので、このことについて図8を参照して説明する。
図8は、本実施形態のチューブを押圧した状態を模式的に表す断面説明図である。圧電素子112の伸張に伴い、補強板116がチューブ120を押圧する。この際、補強板116は、チューブ120の巻回された外周径と同じか大きい外径を有し、圧電素子112は図示するように、補強板116の外径よりも小さい。
【0067】
チューブ120と補強板116と圧電素子112とがこのような関係にある場合、チューブ120を押圧すると、図8に示すように、流入口110aが配設される中央部を中心にして外周縁が反るため、中央部付近では液体室110の押圧量が大きく、容積の変化が大きい。外周方向では押圧量が小さく、容積の変化が小さい。つまり、液体室110内の圧力は、中央部が高く、外周部は低くなるものと考えられる。従って、液体室110内の液体は、中央部から外周部へ強く押し出されることになる。
【0068】
この際、中央部にある流入口110a付近の圧力は大きくなり、流入口110aに液体の戻し圧力が高くなる。しかし、流入口110aの直径がキャピラリと想定できるほど小さいため、液体室110から流入口110aへの逆流が抑制されることから、液体室110の圧力を高めることができ、強い液体噴射を得ることができる。
(圧力室の変形例)
【0069】
以上に説明した実施形態1及び実施形態2では、液体室110がチューブ120を渦巻き形状に巻回して略円形に形成されている。しかし、チューブ120で形成される液体室110の形状は、圧電素子112の伸張によってチューブ120の全体を押圧可能な形状であれば、これに限られるわけではない。以下では、上述した実施形態とは異なる形状の液体室110を採用した変形例について説明する。なお、変形例の説明にあたっては、前述した実施形態と同様の構成部分については、先に説明した実施形態と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0070】
図9は、変形例に係る液体室の形状を示した説明図である。図示されているように、変形例の液体室110は、円形断面のチューブ120がつづら折りに幾重にも折り畳まれて略四角形に形成されており、折り返す部分では、チューブ120が閉塞すること無く、断面積を保持して折り曲げられている。また、四角形に折り畳まれたチューブ120の両端を成す流入口110a及び流出口110bは、それぞれ四角形の対角に位置している。
【0071】
このような液体室110の形状に対応して、補強板116は四角形に形成され、かつ、補強板116の大きさは、角形に折り畳まれたチューブ120の外縁よりも大きく設定されており、液体室110の全体を押圧可能となっている。また、図示は省略するが、変形例の第2ケース106には、第1ケース108と合わさる面に、四角形の浅い凹部106cが形成されており、凹部106cの一角には入口流路106aが開口し、その対角には出口流路106bが開口されている。
【0072】
このような変形例の液体噴射装置10においても、前述した実施形態と同様に、圧電素子112が伸張すると、補強板116を介して、液体室110を形成するチューブ120の側面が押圧される。このとき、チューブ120の断面形状が変形することで液体室110の容積が減少する。その結果、液体室110内で加圧された液体をノズル102からパルス状に噴射することができる。また、流入口110aから液体室110に流入した液体は、折り畳まれたチューブ120に沿って流出口110bへと流れることから、液体室110内の液体の流れは一定の流れに規制される。そのため、流れの遅い箇所に気泡が滞留することが無く、液体室110内の気泡を速やかに排出することができる。
【0073】
また、以上から明らかなように、液体室110を形成するチューブ120は、圧電素子112の伸張によって押圧可能であれば、その形状は特に限定されず、流入口110a及び流出口110bの配置も、第2ケース106に設けられる入口流路106aおよび出口流路106bに合わせて設定することが可能である。このように、流入口110a及び流出口110b(ひいては入口流路106aおよび出口流路106b)の配置の自由度が増すことから、脈動発生部100の構造の簡略化や小型化を図ることができる。
【0074】
以上、本発明の液体噴射装置10について各種の実施形態を説明したが、本発明は上記全ての実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0075】
例えば、前述した実施形態1及び実施形態2と変形例とを組み合わせて、流入口110aと流出口110bとの間で、チューブ120が巻回される箇所と折り畳まれる箇所とを形成してもよい。この場合も、前述した実施形態や変形例と同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、前述した実施形態1及び実施形態2では、チューブ120で形成される液体室110の流入口110a及び流出口110bを、第2ケース106の凹部106cに開口する入口流路106a及び出口流路106bとそれぞれ接続していた。しかし、液体室110の流入口110a側の端部を入口流路106aとチューブ120で一体に構成してもよい。
【0077】
また、チューブ120の流出口110b側の端部を延設して、出口流路106bおよび液体噴射管104を一体に形成し、更に、その液体噴射管104の先端を細くしぼってノズル102を形成してもよい。このようにすれば、入口流路106aからノズル102までをチューブ120で一体に構成することができるので、脈動発生部100における液体の漏れを防止することができる。なお、このような構成では、チューブ120は金属製であることが望ましい。
【0078】
また、実施形態1、実施形態2及び変形例では、図示するように、流入口110aの付近のチューブ120は、その断面積を徐々に広げている。これは、流入口110aがキャピラリに相当するほどに断面積が小さく、チューブ120の本体部分との断面積差を徐々に小さくしていくことで液体の円滑な流動を促している。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明した液体噴射装置10は、水や生理食塩水などの液体を生体組織に向けて噴射することで、生体組織を切開あるいは切除する手術具として、あるいは傷口等への薬液塗布、あるいは洗浄等の医療用の他に、液体としてインクなどを用いた描画、精密部品の洗浄、電子機器の冷却装置など、少量の液体を高速で噴射させることを利用するものとして活用可能である。
【符号の説明】
【0080】
10…液体噴射装置、102…ノズル、110…液体室、110a…流入口、110b…流出口、112…圧電素子(容積変更手段)、120…チューブ、200…制御部(噴射制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体が供給される流入口と、前記ノズルに連通する流出口と、を有するチューブが、前記流入口と前記流出口との間で、渦巻き形状に巻回または折り畳まれることのいずれかによって形成され、所与の容積を有する液体室と、
前記チューブを押圧することによって、前記液体室の容積を前記所与の容積よりも減少させる容積変更部と、
前記容積変更部を駆動することによって、前記ノズルから液体をパルス状に噴射させる噴射制御手段と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
前記容積変更部は圧電素子を有し、
前記圧電素子を伸張させることによって前記液体室の容積を減少させ、且つ、
前記圧電素子は、前記圧電素子を伸張させない状態において、前記チューブを押圧するよう配設されていること、
を特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記流入口の断面積が前記流出口の断面積より小さく、且つ前記流入口がキャピラリであること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記容積変更部は、前記圧電素子の駆動に連動し、前記チューブを押圧する補強板をさらに有し、
前記補強板が、前記チューブの前記流入口と前記流出口との間の大部分を押圧すること、
を特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記流入口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの外周端部に配置され、
前記流出口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの中央端部に配置されていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記流入口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの中央端部に配置され、
前記流出口が、前記渦巻き形状に巻回されたチューブの外周端部に配置されていること、
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記チューブは、巻回毎、または折り畳まれる毎に隙間が設けられていること、
を特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−56014(P2013−56014A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195742(P2011−195742)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】