説明

液体噴射量分布測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は噴射液体の噴射量の二次元的分布を測定するための液体噴射量分布測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】噴射液体の噴射量分布を知ることは、燃料噴射弁の噴射特性を確認する等の用途に有用である。例えば特開平10−90124号公報に示された噴霧パターン測定装置では、噴射弁からの噴霧を横切る測定面内に圧力センサを位置させ、この圧力センサを位置決め手段によって上記測定面内で二次元方向へ移動させつつ各部の噴霧圧を検出することによって、当該各部における噴射量を得ている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記公報に記載の装置では、測定面内の各部の噴霧圧を同時に測定することはできないから、二次元的な噴射量分布を得るためには圧力センサの位置を変えて噴射弁を何度も噴射作動させる必要があり、測定分解能を上げようとすると圧力センサの位置変更を細かく行う必要があるため測定に多大の手間を要するとともに、圧力センサの受圧面が一定の広がりを有していることから分解能の高い測定が困難であるという問題があった。
【0004】また、噴霧圧は噴霧粒子の運動量に比例するが、この運動量は噴霧粒子の質量と速度の積であることから、噴霧粒子の速度が測定面内の各部で異なっていると、噴射量への換算に誤差が生じるという問題もある。
【0005】そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、二次元的な噴射量分布を十分な分解能で簡易かつ正確に測定することができる液体噴射量分布測定装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明では、液体(L)の噴射方向を横切るように配設されて噴射された液体(L)を付着させる平板状部材(1)と、当該平板状部材(1)上の液体付着部(11)の形状を経時的に撮像する撮像器(2)と、撮像器(2)より得られた液体付着部(11)の形状の経時変化に基づいて平板状部材(1)上への液体(L)の噴射量分布を得る手段(4)とを具備している。
【0007】本発明において、平板状部材に付着した液体は時間の経過とともに蒸発するから、液体付着部の形状は次第に変化する。変化した液体付着部の形状の画像は撮像器で経時的に得られているから、各時刻の画像を着色して重ねる等によって液体付着部の噴射量分布を定性的に知ることができる。さらに、当該液体に特有の所定時間当たりの蒸発量とこの間の液体付着部の形状変化より、蒸発した液体付着部の膜厚を算出することができ、上記所定時間毎に算出された膜厚を重ねることによって、液体付着部の各部の液体付着量、すなわち各部への液体噴射量を定量的に算出して、二次元的な液体噴射量分布を正確に知ることができる。本発明によれば、従来のように圧力センサを移動させることなく、液体を一回噴射させるだけで二次元的な噴射量分布が得られるから測定の手間を要しないとともに、圧力センサの移動量や受圧面の大きさ等に制約されることなく十分高い測定分解能を得ることができる。また、噴霧粒子の速度変動に無関係に正確な噴射量が得られる。
【0008】本発明の他の構成では、上記噴射量分布を得る手段(4)は、撮像器(2)により撮像された液体付着部(11)の画像のうち、整数の自乗コマ目の画像のみを抽出して、これら画像における液体付着部(11)の形状の経時変化に基づいて平板状部材(1)上への液体(L)の噴射量分布を得るものである。
【0009】このような構成において、整数の自乗コマ目の画像は各画像間における蒸発膜厚が一定になるから、各画像を着色して重ねる等によって液体付着部の噴射量分布が等高線図的に得られ、二次元的な液体噴射量分布をより明確に知ることができる。また、この場合には各画像間の蒸発膜厚も容易に算出できるから、定量的な液体噴射量分布を得ることも容易である。
【0010】なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【0011】
【発明の実施の形態】図1には液体噴射量分布測定装置の全体構成を示す。図1において、燃料噴射弁5が噴射口を下にして設けられ、その下方には平板状部材たる吸湿性シート1が水平に配設されている。この吸湿性シート1は液体たる噴射燃料Lが付着していると燃料付着部11の色が変わるもので、例えば習字紙、ティッシュペーパー、吸取紙等が使用できる。平板状部材としては、濡れると透明になる、すりガラスのようなものも使用できるが、紙のような吸湿性のあるものの方が、表面での燃料の跳ね返りが少ないことから好ましい。また、噴射燃料Lとしては揮発性のある単一成分燃料が好ましく、揮発性が高いほど吸湿性シート1に付着した後の蒸発が早いため上記シート1内での燃料のにじみが少なくなって、よりシャープな結果が得られる。一方、あまりに揮発性が高いと、噴射量の少ない部分では吸湿性シート1に付着する前に噴射燃料が空中で蒸発してしまって測定ができなくなるという問題があり、発明者等の実験によれば、通常の自動車用燃料噴射弁5を使用し、当該噴射弁5から吸湿性シート1までの距離を80mm程度として、室温雰囲気で測定する場合には、噴射燃料Lとしてはヘキサンが最も適していた。なお、ヘキサン以外にもヘプタンやペンタン等を使用することができる。
【0012】図1において、燃料噴射弁5の斜め上方には撮像器としてのビデオカメラ2が設けられて、燃料付着部11を含む吸湿性シート1の所定領域の画像を得ている。燃料が噴射された直後から、蒸発による燃料付着部11の形状変化が1/30秒毎に1コマの割合で撮像されて、後段のビデオテープレコーダ(VTR)3に順次記録される。ビデオテープレコーダ3に記録された画像は再生されてパーソナルコンピュータ(パソコン、PC)4に全画像が取り込まれる。なお、ビデオカメラ2の画像を直接パソコン4に取り込む構成としても良い。パソコン4における処理は、取り込んだ画像のうち、噴射燃料が最初に付着した画像を0コマ目とし、この画像に対して整数n=1,2,3,4,…の自乗のコマ目、すなわち、1,4,9,16,…の各コマ目の画像を取り出す。本実施形態では既述のように各コマは1/30秒毎に得られているから、上記各コマ目の画像は、燃料付着後、それぞれ1/30秒、4/30秒、9/30秒、16/30秒後の画像である。このように整数の自乗コマ目の画像のみを取り出す理由を以下、図2を参照しつつ説明する。
【0013】図2において、吸湿性シート1には図の斜線で示すレンズ状断面をなして噴射燃料Lが染み込み、燃料付着部11となっている。半径r0に対して角度θは十分小さく燃料付着部11の膜厚は十分薄いものとする。本来の蒸発面Aに対して半径r0のレンズ面A0を計算上の蒸発面とする。燃料付着部11の膜厚は薄く、その体積に対する伝熱面積は十分大きいから、蒸発潜熱で奪われた熱は雰囲気から直ちに供給されて燃料付着部11に温度変化は生じないものとする。
【0014】燃料付着部11を囲む任意半径rのレンズ面Axを単位時間に流出する正味質量dm/dtは下式(1)で表される。
【0015】
【数1】


【0016】ここで、ωsは半径rにおける質量分率、Asはレンズ面Axの表面積、ρgは燃料蒸気の密度、Dは拡散係数である。なお、質量分率とは質量の全体に対する存在割合である。
【0017】さらに、上記表面積Asは下式(2)で表わされ、さらに、燃料付着部11の質量mは、液体燃料の密度をρf、燃料付着部11の体積をVとして下式(3)、(4)で表される。
【0018】
【数2】


【0019】上式(2)〜(4)を上式(1)に代入して積分し、r=r0でω=ω0、r=∞でω=ω∞の条件より、下式(5)が得られる。
【0020】
【数3】


【0021】燃料付着部11の燃料が蒸発する場合に、角度θは変化せず、半径rのみがr0から漸次0になるものとすると、上式(5)の右辺は定数となり、これを−C0とする。そして、t=0でr=r0の条件の下で上式(5)を積分すると、下式(6)が得られる。
【0022】
【数4】


【0023】燃料が全て蒸発して燃料付着部11が無くなるまでの時間tfは上式(6)でr=0とおいて、下式(7)のようになる。
【0024】
【数5】


【0025】燃料付着部11の膜厚hはh=r(1−cosθ)であるから、結局、蒸発時間は、付着した燃料の膜厚の自乗に正比例して長くなる。したがって、燃料の付着開始から、撮影コマ数を整数nの自乗で区切って画像処理を行えば各画像間の膜厚の変化量は上述のように一定になるのである。
【0026】さて、図3(A)〜(C)、および図4(A)〜(C)はこの順で第0コマ目、第4(2の自乗)コマ目、第16(4の自乗)コマ目、第36(6の自乗)コマ目、第64(8の自乗)コマ目、第100(10の自乗)コマ目の画像である。各画像より分かるように、燃料付着部11の外形は燃料が蒸発するにしたがって小さくなっており、第100コマ目では付着燃料が全て蒸発してしまって、燃料付着部は消滅している。パソコン4ではこれら各コマの画像を異なる色に着色した後、図5に示すように、コマ目の若い順に下から重ねてモニタ上に表示する。
【0027】このようにして表示された画像は、各色毎に同一膜厚の燃料膜が重なって等高線画像となっており、各部の燃料膜厚、すなわち燃料噴射量の二次元分布が一目で確認できるものとなっている。これを従来の圧力センサを使用した装置で得られた図6の二次元噴射量分布画像と比較すると、測定分解能が格段に向上していることがわかる。
【0028】なお、噴射された燃料総量が既知である場合には、全画像の着色された燃料膜の総面積で燃料総量を割ることによって燃料膜厚を算出し、着色された燃料膜の重なり数によって各部の燃料膜厚、すなわち燃料噴射量を定量的に示すことができる。
【0029】上記実施形態のように、整数の自乗コマ目の画像のみを使用して二次元噴射量分布を得る方が処理は容易であるが、必ずしもこれに限られるものではない。特に、所定時間当たりの燃料蒸発量が算出できる場合には、当該所定時間毎の画像を重ねることにより二次元噴射量分布を定量的に得ることができる。
【0030】
【発明の効果】以上のように、本発明の液体噴射量分布測定装置によれば、二次元的な噴射量分布を十分な分解能で簡易かつ正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】液体噴射量分布測定装置の概略全体構成を示す図である。
【図2】燃料付着部の数学モデルを示す図である。
【図3】燃料付着部を含む吸湿性シートの画像である。
【図4】燃料付着部を含む吸湿性シートの画像である。
【図5】本発明装置による噴射量分布画像である。
【図6】従来装置による噴射量分布画像である。
【符号の説明】
L…燃料、1…吸湿性シート、11…燃料付着部、2…ビデオカメラ、4…マイクロコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 液体の噴射方向を横切るように配設されて噴射された液体を付着させる平板状部材と、当該平板状部材上の前記液体の蒸発に伴う液体付着部の形状変化を経時的に撮像する撮像器と、撮像器より得られた液体付着部の形状の経時変化に基づいて平板状部材上への液体の噴射量分布を得る手段とを具備する液体噴射量分布測定装置。

【請求項2】 前記噴射量分布を得る手段は、前記撮像
器により撮像された液体付着部の画像のうち、整数の自乗コマ目の画像のみを抽出して、これら画像における液体付着部の形状の経時変化に基づいて平板状部材上への液体の噴射量分布を得るものである請求項1に記載の液体噴射量分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【特許番号】特許第3454166号(P3454166)
【登録日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【発行日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−270580
【出願日】平成10年9月7日(1998.9.7)
【公開番号】特開2000−81376(P2000−81376A)
【公開日】平成12年3月21日(2000.3.21)
【審査請求日】平成13年2月19日(2001.2.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【参考文献】
【文献】特開 平2−176542(JP,A)
【文献】特開 平8−128916(JP,A)
【文献】実開 昭61−118051(JP,U)