説明

液体濾過装置およびバラスト水処理装置

【課題】 簡便な構造により濾過に必要な密閉性と、連続濾過運転に必要な円筒状フィルターの回転を両立する濾過装置を提供する。
【解決手段】 円筒状の濾過面を有するフィルター10と、フィルターを内部に収容するように設けられた円筒形状の内筒60と、前記内筒を内部に収容するように設けられた外筒部21を有するケースとを備え、ケースは、外筒21と内筒60とが形成する空間に被濾過液を流入するための被濾過液口41を備え、前記内筒60は、その円筒中心軸を回転軸61として回転可能に取り付けられ、円筒側面に被濾過液を濾過面に向けて噴出する被濾過液開口63を備え、その円筒底面には排出液を前記ケースの外部へ排出する排出口30を備え、フィルターは、濾過液をケースの外部へ導出する濾過液流路31を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に液体を濾過する液体濾過装置に関するものであり、特に、船舶に貯留されるバラスト水の処理に利用可能な液体濾過装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体から混入物としての固体を分離除去する目的では多種多様なフィルターが用いられており、特許文献1には、工作機械の切削液からスラッジを除去するためのフィルター装置として円筒形状に形成されたプリーツフィルターを用いた例が示されている。この装置では、円筒形状フィルターを回転させながら、フィルター外面に向かって液体を噴出させることで、フィルターの洗浄効果の高いフィルター装置を提供できるとされている。
【0003】
一方、近年、船舶に積載するバラスト水の処理が問題となっている。バラスト水は空荷状態でも安全に航行するために船舶に積載される海水であり、バラスト水を浄化処理して微生物を除去あるいは死滅、不活性化する方法が種々検討されている。比較的大きな微生物の除去の目的で濾過を用いる方法も検討されており、たとえば特許文献2には濾過膜を用いたバラスト水の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93783号公報
【特許文献2】特開2006−728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
海水淡水化やバラスト水などの汽水・海水利用、あるいは下水、生活排水、工業排水など水処理に際しては、水中の異物やゴミ、微生物を除去処理する前濾過処理が必要となる。このような濾過装置においては大量の処理液をできるだけ短時間で濾過する必要があるが、大規模・高流量の運転は概して早期の目詰まりによる処理量や濾過機能の低下を招きやすいことが技術的な問題となっている。特許文献1では、円筒状のフィルターユニットを筒状のケーシングに内蔵し、フィルターユニットの外側から内部に流入する液体を濾過液として回収している。濾過対象液を筒状容器の側面に設けたノズルからフィルター濾過面の一部に噴出することでフィルター表面に堆積した濾過物を洗浄している。
【0006】
本願発明者らは、バラスト水処理を主な目的とした処理装置を開発している。図8および図9にその装置構成を示す。図8は、装置縦断面を模式的に示している。また、図9は図8におけるA−A横断面を示す図である。円筒形状のフィルター10は回転中心となる軸線Cを囲むように配置されており、中心に配置された中心配管32(配管は回転しない)の周囲を自在に回転できるよう取り付けられている。フィルター10として円筒の半径方向に山谷を繰り返すように折り目が付けられたプリーツフィルターを示しており、フィルターの上下面は水密に塞がれている。フィルター全体を覆うようにケースが設けられる。ケースは外筒部21、蓋部22、底部23で構成され、底部23には排出流路130が設けられている。ケース内に被処理水としての海水を導入するために、被処理水配管141と被処理水ノズル140が設けられている。被処理水ノズル140は、そのノズル口をケース内に備えるように被処理水配管141から延設され、被処理水がノズル口から流出し、フィルター外部領域に流入するように構成されている。被処理水の一部はフィルターによって濾過され、濾過水がフィルターの円筒内部に透過する。濾過されない被処理水および、ケース内に沈殿した濁質分は、ケース底部の排出流路130から順次排出される。一方、フィルター10により濾過された濾過水はフィルター内部にて中心配管32に設けられた取水穴である濾過液開口33を通して濾過水流路131に導かれ、ケース外部に流出される。
【0007】
ここで回転するフィルターと回転しない中心配管の間には摺動部12が設けられる。この摺動部は気密性と低摩擦性の相反する性質を両立しなければならない。すなわち、回転摺動部の締め付けが強いと回転摩擦力が高くなって回転が難しくなり、一方、この締め付けが緩いと本来はフィルターによって分離されるべき濾過物が隙間から漏れて濾過機能を損なうことになる。特に円筒型フィルターの場合、その内側と外側には濾過によって濾過差圧がかかるため、密閉と摺動の両立が困難であった。
【0008】
そこで、本発明では、簡便な構造により濾過に必要な密閉性と、連続濾過運転に必要な円筒状フィルターの回転を両立する濾過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、フィルターの密閉性を維持するためにはフィルターを回転させずに固定し、濾過対象液の噴出を受けるフィルター部位を連続的かつ周期的に変える方法を検討して、本願発明に至った。
【0010】
本願発明は、円筒状に配置された濾過面を有するフィルターと、前記フィルターを内部に収容するように設けられた円筒形状の内筒と、前記内筒を内部に収容するように設けられた外筒部を有するケースとを備える液体濾過装置であって、前記ケースは、前記外筒部と前記内筒とが形成する空間に被濾過液を流入するための被濾過液口を備え、前記内筒は、その円筒中心軸を回転軸として回転可能に取り付けられており、その円筒側面に被濾過液を前記濾過面に向けて噴出するための被濾過液開口を備え、その円筒底面には排出液を前記ケースの外部へ排出する排出口を備え、前記フィルターは、前記濾過面を透過した濾過液を前記フィルターの内部から前記ケースの外部へ導出する濾過液流路を備えることを特徴とする液体濾過装置である。
【0011】
フィルターを固定した上でフィルター全周の洗浄を実現するために、フィルターとケース外筒部との間に内筒を備え、その内筒を回転することで被濾過液のフィルターへの噴出箇所をフィルター全周に連続的に移動させることができる。かかる構成とすることにより、フィルターに密閉性を備えた摺動部を設ける必要がなくなり、被濾過液の濾過液への混入を排除でき、かつ局所的な洗浄の位置を連続的かつ周期的に移動させることが可能となる。内筒には摺動部が必要となるが、内筒の内部と外部は同じ被濾過液で満たされるため、密閉を完全にする必要が無くなり、摺動部が簡易な構造で実現できる。
【0012】
フィルターは、その濾過面が円筒半径方向に折り曲げられた山部と谷部が複数連続したプリーツ形状を成すプリーツフィルターであることが好ましい。プリーツ形状とすることにより、膜の面積を有効に増やすことが可能となり、特に設置場所の制約が大きい船上で用いる装置などでは装置全体の設置面積縮小のために好ましい。
【0013】
内筒の回転手段として、モーターを備えると好ましい。所望の回転数で安定して連続的な回転が可能となる。
【0014】
また、モーターを用いない回転手段として、内筒はその外側面に突起構造体を有し、被濾過液口から流入される被濾過液の流れが突起構造体を押す力によって内筒が回転するように構成されていても良い。回転のためのモーター機構や電力が不要にできる。
【0015】
上述の液体濾過装置は、大型化が可能であり、限られた場所で大量の濾過処理を行うバラスト水処理装置に用いられると効果的である。
【発明の効果】
【0016】
以上の発明によれば、簡便な構造により濾過に必要な密閉性と、連続濾過運転に必要な円筒状フィルターの回転を両立する濾過装置およびそれを用いたバラスト水処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術としての液体濾過装置の構成例を示す断面模式図である。
【図2】図1のA−A横断面を示す模式図である。
【図3】本発明の液体濾過装置の動作原理を説明するための斜視模式図である。
【図4】本発明に用いられるフィルターとしてのプリーツフィルターを示す図である。
【図5】本発明の液体濾過装置の別な構成例を示す断面模式図である。
【図6】図5のA−A横断面を示す模式図である。
【図7】本発明の液体濾過装置のさらに別な構成例を説明する横断面模式図である。
【図8】従来技術としての液体濾過装置の構成例を示す断面模式図である。
【図9】図8のA−A横断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかる液体濾過装置の構成を図面を参照して説明する。なお、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一または相応する要素を示すものとする。本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
図1は、本発明による液体濾過装置の一例を示す図であり、装置縦断面を模式的に示している。また、図2は図1におけるA−A横断面を示す図である。円筒形状のフィルター10は軸線Cを囲むように配置されており、軸線上に配置された中心配管32に固定されている。フィルター10は上面、底面、側面により密閉構造をなしており、中心配管との固定部も液体が漏れないように密閉されている。
【0020】
図1を含め以下の例ではフィルター10としてその側面が円筒半径方向に山谷を繰り返すように折り目が付けられたプリーツフィルターを示している。図4は、本発明に好適に用いられるプリーツフィルターの代表的構成を説明する斜視模式図である。このフィルターは帯状の平面基材を山谷交互に折りたたむことで、いわゆるプリーツ形状とし、さらに円筒状につなぎ合わせて構成されたものである。図4においてフィルター10の円筒外側から濾過対象となる被濾過液が供給され、フィルター10によって濾過された濾過液が円筒内側に得られる。
【0021】
フィルターの基材には多孔質樹脂シートが用いられる。材質として例えば、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等からなる延伸多孔質体、相分離多孔体、不織布等の多孔質構造物が利用される。バラスト水処理などの高流量処理を行う目的においては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる不織布が特に好適に用いられる。
【0022】
フィルター10を覆い囲むように軸線を共通とした円筒状側面を持つ内筒60が設けられる。内筒は、その中心軸を軸として回転自在なように、内筒回転軸61を備え、モーター50によって回転可能に取り付けられている。また内筒60は、上面、底面、側面により密閉構造をなしており、排出液配管30との間には液体を密閉しつつ回転可能とするための摺動部62が設けられている。
【0023】
これらフィルター10および内筒60を収納するようにケースが設けられる。ケースは蓋部22、外筒部21および底部23により構成される。外筒部にはその外部から被濾過液を内部に供給する被濾過液配管40と被濾過液口41が設けられている。底部23の中心には排出液配管30が設けられ、その内部を経て濾過液配管31が外部に通じるように構成される。
【0024】
図2は、図1のA−A断面を説明する図である。図2を参照して、ケース外筒部21の中には内筒60、フィルター10が納められ、その円筒中心には濾過液開口33を備えた中心配管32がある。外筒部21を貫通して被濾過液を内部に導入する被濾過液配管40が設けられている。ここで内筒60にはスリット状の被濾過液開口63が設けられている。
【0025】
以上の構成における濾過の流れを図3を参照して説明する。図3は本発明の液体濾過装置の動作原理を説明するための斜視模式図である。被濾過液1は被濾過液配管40を通して外筒部21の内部へ流入する。外筒部21と内筒60とによって形成される空間に流入した被濾過液は、内筒60に設けられた被濾過液開口63から内筒内部へ噴出し、フィルター10の外周面に衝突する。内筒内部に流入した被濾過液はフィルター10により濾過され、濾過液はフィルター内部から中心配管、濾過液配管31を経て濾過液2として外部に取り出される。一方濾過されずに余分に残った被濾過液は内筒内部から排出液配管30を経て排出液3として排出される。ここで、内筒60は回転されることから、被濾過液開口63はフィルター10の周囲を連続的に周回する。よって、噴出した被濾過液によるフィルターの洗浄がフィルター全周に亘って周期的に行われる。
【0026】
以上の構成において、フィルター10がモーター50によって回転するように構成されていることでフィルター面が順次洗浄水により洗浄されつつ、フィルター外周面全体で濾過を継続することができ、かつ回転速度を任意に設定、変更できるメリットがある。モーター50は駆動制御部(図示せず)からの電力により駆動される。モーターの回転数は一定でも良いし、人為的に任意に定めることも可能であるが、濾過の状態に応じて制御するとより好ましい。濾過水の状態や流量などを検出する検出部設け、検出情報に応じて回転数を変化させるように制御を行うと良い。濾過水の検出部としては、具体的には、濾過水流量検出部、濾過水圧力検出部や、濁度検出部等が挙げられる。
【0027】
ここで、以上の構成を本願発明者らが別途開発している図8に示される構成と比較すると、図8の構成では摺動部が被濾過液と濾過液とを区切る役割をも担うために高度な密閉が要求されるのに対して、本発明の図1の構成では、摺動部はその内外いずれもが被濾過液であるため、その意味での密閉は要求されない。このため、摺動部の設計、製造、保守にかかるコストを大きく低減することが可能となる。
【0028】
次に、図5に本発明の液体濾過装置の別な構成例を示す断面模式図を示す。また、図6は図5のA−A横断面を示す模式図である。図1の構成とは、被濾過液配管の配置構成が変わっているのみで、後は同じ構成である。図5の例では、被濾過液配管40をケース蓋部22に設けており、その被濾過液口41をケース上下方向に向けている。従来例の図8では被濾過液口から噴出する被濾過液がフィルター洗浄を行うために、ケース側面方向からの噴出とする必要があった。本発明の装置ではその必要は無く、配管を蓋部に設けることによって装置全体の設計自由度が上がり、製造が容易になる。
【0029】
本発明において、内筒の回転は必ずしもモーターによる必要はない。被濾過液を利用して内筒を回転する構成例を図7に示す。図7は、図2の変形例を示す横断面模式図である。内筒60には1つまたは複数の羽突起64を突起構造体として設けている。被濾過液配管40から流入した被濾過液の流れに羽突起64が押されることで内筒が回転する。このような構成とすることで、モーターを用いることなく、より簡易な構造によって、かつ回転のための電力を要せず、回転による連続的な洗浄が可能とできる。なお、回転力を得るための突起構造体はこのような羽突起に限るものではなく、流れの方向に応じて回転力を生み出すものであればよい。
【0030】
以上の液体濾過装置は、船舶に用いられるバラスト水の処理装置として好適に用いることができる。バラスト水の処理装置は濾過装置部分と紫外線等の手段による殺菌部とから構成されるものが多く、本発明は濾過装置部として適用できる。バラスト水の処理は大量の海水を出来るだけ短時間で処理するという要求から、フィルターの大型化、連続的な洗浄などが求められるところ、本発明の装置によれば比較的簡便な構造により実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の濾過装置は回転洗浄による安定した高透過流量の連続運転が可能であるため、海水淡水化やバラスト水などの汽水・海水利用、あるいは下水、生活排水、工業排水など処理量の大きな水処理に際して、水中の異物やゴミ、微生物を除去処理する前濾過処理に好適に利用できる。また、高濁質・高SS(Suspanded Solid)の水処理や濃縮処理にも優れているため、食品分野などの有価物回収分野にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 被濾過液
2 濾過液
3 排出液
10 フィルター
21 外筒部
22 蓋部
23 底部
30 排出液配管
31 濾過液配管
32 中心配管
33 濾過液開口
40 被濾過液配管
41 被濾過液口
50 モーター
60 内筒
61 内筒回転軸
62 摺動部
63 被濾過液開口
64 羽突起
130 排出流路
131 濾過水流路
140 被処理水ノズル
141 被処理水配管
142 被処理水ノズル口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に配置された濾過面を有するフィルターと、前記フィルターを内部に収容するように設けられた円筒形状の内筒と、前記内筒を内部に収容するように設けられた外筒部を有するケースと、を備える液体濾過装置であって、前記ケースは、前記外筒部と前記内筒とが形成する空間に被濾過液を流入するための被濾過液口を備え、前記内筒は、その円筒中心軸を回転軸として回転可能に取り付けられており、その円筒側面に被濾過液を前記濾過面に向けて噴出するための被濾過液開口を備え、その円筒底面には排出液を前記ケースの外部へ排出する排出口を備え、前記フィルターは、前記濾過面を透過した濾過液を前記フィルターの内部から前記ケースの外部へ導出する濾過液流路を備えることを特徴とする液体濾過装置。
【請求項2】
前記フィルターは、その濾過面が円筒半径方向に折り曲げられた山部と谷部が複数連続したプリーツ形状を成すプリーツフィルターであることを特徴とする請求項1に記載の液体濾過装置。
【請求項3】
前記内筒を回転させるモーターを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の液体濾過装置。
【請求項4】
前記内筒はその外側面に突起構造体を有し、前記被濾過液口から流入される被濾過液の流れと前記突起構造体によって前記内筒が前記回転軸を軸として回転するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体濾過装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体濾過装置を海水の濾過装置として用いるバラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−91017(P2013−91017A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233657(P2011−233657)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】