説明

液体現像剤

【課題】正帯電の帯電特性、定着特性に優れた液体現像剤を提供すること。
【解決手段】本発明の液体現像剤は、絶縁性液体中にトナー粒子が分散した正帯電性の液体現像剤であって、前記トナー粒子は、主としてポリエステル樹脂で構成されたトナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した正帯電性の高分子分散剤とで構成されたものであることを特徴とする。高分子分散剤は、分子内にアミノ基を有するものであるのが好ましい。高分子分散剤は、分子内にエステル構造を有するものであるのが好ましい。ポリエステル樹脂は、その分子内に、−SO基を有するものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潜像担持体上に形成した静電潜像を現像するために用いられる現像剤として、顔料等の着色剤および結着樹脂を含む材料で構成されるトナーを電気絶縁性の担体液(絶縁性液体)に分散した液体現像剤が知られている。
このような液体現像剤を構成するトナー粒子に用いられる結着樹脂としては、一般に、ポリエステル樹脂が広く用いられている。ポリエステル樹脂は、透明性が高く、結着樹脂として用いた場合、得られる画像の発色性が良く、また、高い定着特性が得られるという特徴を有している。
【0003】
ところで、液体現像剤としては、負帯電性の液体現像剤と正帯電性の液体現像剤とが挙げられるが、負帯電性の液体現像剤を用いた場合、画像形成する際に、画像形成装置内部でオゾンが発生し、環境問題や画像形成装置内の周辺部品への悪影響を来す等の問題があった。
そこで、近年、オゾン等の放電生成物の生成量を少なくして画像形成を行い得ることから、正帯電性の液体現像剤を用いて画像を形成する方法の開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、ポリエステル樹脂は、通常、それ自体が負帯電性のものであるため、正帯電性のトナー粒子(液体現像剤)に適用するのが困難であった。また、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いたトナー粒子に、帯電制御剤を添加して正帯電させることも考えられるが、十分な帯電量を得るのが困難であった。
【0004】
【特許文献1】特開2002−214849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、正帯電の帯電特性、定着特性に優れた液体現像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液体現像剤は、絶縁性液体中にトナー粒子が分散した正帯電性の液体現像剤であって、
前記トナー粒子は、主としてポリエステル樹脂で構成されたトナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した正帯電性の高分子分散剤とで構成されたものであることを特徴とする。
これにより、正帯電の帯電特性、定着特性に優れた液体現像剤を提供することができる。
【0007】
本発明の液体現像剤では、前記高分子分散剤は、分子内にアミノ基を有するものであることが好ましい。
アミノ基を有する高分子分散剤は、高い正帯電性を示すため、トナー粒子(液体現像剤)の正帯電の帯電特性をさらに向上させることができる。
本発明の液体現像剤では、前記高分子分散剤は、分子内にエステル構造を有するものであることが好ましい。
これにより、トナー母粒子を構成するポリエステル樹脂との親和性が向上し、高分子分散剤をより強固にトナー母粒子表面に付着させることができる。
【0008】
本発明の液体現像剤では、前記高分子分散剤の含有量は、前記ポリエステル樹脂100重量部に対して、1〜20重量部であることが好ましい。
これにより、ポリエステル樹脂に由来するトナー母粒子の負帯電性を、より確実に打ち消すことができ、トナー粒子の正帯電の帯電特性をより高いものとすることができる。
本発明の液体現像剤では、前記高分子分散剤の密度は、0.80〜1.00g/cmであることが好ましい。
これにより、ポリエステル樹脂との親和性がより高いものとなり、トナー母粒子の表面により強固に付着させることができる。また、トナー粒子の分散性をより高いものとすることができる。
【0009】
本発明の液体現像剤では、前記ポリエステル樹脂は、その分子内に、−SO基を有するものであることが好ましい。
これにより、高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により確実に保持することができる。
本発明の液体現像剤では、前記ポリエステル樹脂に含有されている前記−SO基のmol数が前記ポリエステル樹脂100gに対して0.001〜0.050molであることが好ましい。
これにより、高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により確実に保持することができる。
【0010】
本発明の液体現像剤では、前記ポリエステル樹脂の酸価は、5〜20KOHmg/gであることが好ましい。
これにより、高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により確実に保持することができる。
本発明の液体現像剤では、前記絶縁性液体は、主として植物油で構成されたものであることが好ましい。
これにより、トナー粒子の分散性が向上するとともに、トナー母粒子の表面に付着した高分子分散剤の不本意な脱落を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《液体現像剤》
本発明の液体現像剤は、絶縁性液体中にトナー粒子が分散したものである。
また、トナー粒子は、その表面に、正帯電性の高分子分散剤が付着したものである。
<トナー粒子>
まず、トナー粒子について説明する。
トナー粒子は、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した正帯電性の高分子分散剤とで構成されている。
【0012】
[トナー母粒子]
(トナー母粒子の構成材料)
トナー母粒子は、少なくとも、結着樹脂(樹脂材料)と着色剤とを含むものである。
1.樹脂材料(結着樹脂)
トナー母粒子は、主成分としての樹脂材料を含む材料で構成されている。
【0013】
本発明においては、樹脂材料は、主として、ポリエステル樹脂で構成されたものである。ポリエステル樹脂は、透明性が高く、結着樹脂として用いた場合、得られる画像の発色性が良く、また、高い定着特性が得られるという特徴を有している。なお、樹脂中におけるポリエステル樹脂の含有量は、50wt%以上であるのが好ましく、80wt%以上であるのがより好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂は、その分子内に、アニオン性基を有しているのが好ましい。これにより、後述する高分子分散剤を、トナー母粒子の表面に好適に保持することができる。
また、アニオン性基を有するポリエステル樹脂は、水系液体に対する分散性が特に優れているため、例えば、後述するような方法により液体現像剤を製造する場合において、界面活性剤を用いることなく、または、極めて少量の界面活性剤を用いるだけで、後述するような水系分散液(水系乳化液、水系懸濁液)を好適に調製することができる。
【0015】
アニオン性基としては、例えば、−COO基、−SO、−CO基、−OH基、−OSO基、−COO−基、−SO−、−OSO−基、−PO、−PO基、および第4級アンモニウムならびにそれらの塩等が挙げられる。
また、前述した基の中でも、特に、−SO基が好ましい。これにより、後述する高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により確実に保持することができる。また、このような基を有するポリエステル樹脂は、水系液体に対する分散性が特に優れており、また、製造が比較的容易で、比較的安価に入手でき、その結果、液体現像剤の製造の更なる低コスト化を図ることができる。
【0016】
上記のような基は、ポリエステル樹脂を構成する高分子の側鎖に存在するものであるのが好ましい。これにより、後述する高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により好適に保持することができる。また、例えば、後述するような方法により液体現像剤を製造する場合において、水系液体に対する親和性を特に優れたものとすることができ、水系分散液(水系乳化液、水系懸濁液)中における、自己分散型樹脂で構成された分散質の分散性を特に優れたものとすることができる。また、極性有機溶媒を用いることなく環境に優しい方法で、液体現像剤を好適に製造することができる。
【0017】
上記のようなアニオン性基を有するポリエステル樹脂は、例えば、ポリエステル樹脂またはそのモノマー(単量体)、ダイマー(2量体)、オリゴマー等に、前述したような官能基を有する材料を結合させることにより製造することができる。
例えば、−SO基を有するポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂に不飽和スルホン酸類をグラフト共重合またはブロック共重合させること、付加重合性ポリエステル樹脂を構成する不飽和単量体と不飽和スルホン酸類を含有する単量体とをランダム共重合させること、または、重縮合系熱可塑性樹脂を構成する単量体と不飽和スルホン酸類を含有する単量体とを重縮合させることにより、製造することができる。
【0018】
不飽和スルホン酸類としては、例えば、スチレンスルホン酸類、スルホアルキル(メタ)アクリレート類、またはこれらの金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。また、スルホン酸類を含有する単量体としては、スルホイソフタル酸類、スルホテレフタル酸類、スルホフタル酸類、スルホコハク酸類、スルホ安息香酸類、スルホサリチル酸類、またはこれらの金属塩、アンモニウム塩等を用いることができる。
【0019】
また、上記のようなアニオン性基を有するポリエステル樹脂は、例えば、前述したような官能基を有する前駆体(例えば、対応するモノマー(単量体)、ダイマー(2量体)、オリゴマー等)を重合させること等によっても製造することができる。
ポリエステル樹脂に含有されているアニオン性基の数は、ポリエステル樹脂100gに対して0.001〜0.050molであるのが好ましく、0.005〜0.030molであるのがより好ましい。これにより、後述する高分子分散剤を、トナー母粒子の表面により確実に保持することができる。
【0020】
上述したようなポリエステル樹脂の酸価は、5〜10KOHmg/gであるのが好ましく、5〜20KOHmg/gであるのがより好ましい。これにより、後述する高分子分散剤を、より効果的にトナー母粒子表面に保持することができる。
ポリエステル樹脂の軟化温度は、特に限定されないが、50〜130℃であるのが好ましく、50〜120℃であるのがより好ましく、60〜115℃であるのがさらに好ましい。なお、本明細書で、軟化温度とは、高化式フローテスター(島津製作所製)における測定条件:昇温速度:5℃/min、ダイ穴径1.0mmで規定される軟化開始温度のことを指す。
なお、トナー母粒子は、上述したようなポリエステル樹脂以外の樹脂材料を含むものであってもよい。
【0021】
2.着色剤
また、トナー母粒子は、着色剤を含んでいる。着色剤としては、例えば、顔料、染料等を使用することができる。このような顔料、染料としては、例えば、カーボンブラック、スピリットブラック、ランプブラック(C.I.No.77266)、マグネタイト、チタンブラック、黄鉛、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、パーマネントイエローNCG、クロムイエロー、ベンジジンイエロー、キノリンイエロー、タートラジンレーキ、赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、ベンジジンオレンジG、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、ウオッチングレッドカルシウム塩、エオシンレーキ、ブリリアントカーミン3B、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBC、群青、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、カルコオイルブルー、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、フタロシアニングリーン、ファイナルイエローグリーンG、ローダミン6G、キナクリドン、ローズベンガル(C.I.No.45432)、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド4、C.I.アシッドレッド1、C.I.ベーシックレッド1、C.I.モーダントレッド30、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド184、C.I.ダイレクトブルー1、C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー15、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー5、C.I.モーダントブルー7、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー5:1、C.I.ダイレクトグリーン6、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックグリーン6、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー162、ニグロシン染料(C.I.No.50415B)、金属錯塩染料、シリカ、酸化アルミニウム、マグネタイト、マグヘマイト、各種フェライト類、酸化第二銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、Fe、Co、Niのような磁性金属を含む磁性材料等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
また、着色剤としては、前述したような顔料等と高分子材料とが結合した顔料誘導体を用いることができる。このような顔料誘導体は、前述したようなポリエステル樹脂との相溶性が高いため、ポリエステル樹脂中に均一に分散させることができる。その結果、液体現像剤は、発色性に優れたものとなる。
また、このような顔料誘導体は、正帯電性のものを用いるのが好ましい。これにより、ポリエステル樹脂の負帯電性を緩和することができ、後に詳述するような高分子分散剤をトナー母粒子の表面に付着させることによる効果をより顕著なものとすることができる。
このような正帯電用の顔料誘導体としては、ソルスパース5000、ソルスパース22000等が挙げられる。
【0023】
3.その他の成分
また、トナー母粒子は、上記以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、ワックス、帯電制御剤、磁性粉末等が挙げられる。
ワックスとしては、例えば、オゾケライト、セルシン、パラフィンワックス、マイクロワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム、フィッシャー・トロプシュワックス等の炭化水素系ワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、キャンデリラワックス、綿ロウ、木ロウ、ミツロウ、ラノリン、モンタンワックス、脂肪酸エステル等のエステル系ワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化型ポリエチレンワックス、酸化型ポリプロピレンワックス等のオレフィン系ワックス、12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ステアリン酸アミド、無水フタル酸イミド等のアミド系ワックス、ラウロン、ステアロン等のケトン系ワックス、エーテル系ワックス等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
帯電制御剤としては、例えば、安息香酸の金属塩、サリチル酸の金属塩、アルキルサリチル酸の金属塩、カテコールの金属塩、含金属ビスアゾ染料、ニグロシン染料、テトラフェニルボレート誘導体、第四級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩素化ポリエステル、ニトロフニン酸等が挙げられる。
磁性粉末としては、例えば、マグネタイト、マグヘマイト、各種フェライト類、酸化第二銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、Fe、Co、Niのような磁性金属を含む磁性材料で構成されたもの等が挙げられる。
また、トナー母粒子の構成材料(成分)としては、上記のような材料のほかに、例えば、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化セリウム、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、脂肪酸、脂肪酸金属塩等を用いてもよい。
【0025】
(トナー母粒子の形状)
上記のような材料で構成されたトナー母粒子の平均粒径は、0.1〜5μmであるのが好ましく、0.1〜4μmであるのがより好ましく、0.5〜3μmであるのがさらに好ましい。トナー母粒子の平均粒径が前記範囲内の値であると、各トナー母粒子間での特性のばらつきを特に小さいものとし、液体現像剤全体としての信頼性を特に高いものとしつつ、液体現像剤(トナー)により形成される画像の解像度を十分に高いものとすることができる。
【0026】
また、液体現像剤を構成するトナー母粒子間での粒径の標準偏差は、1.0μm以下であるのが好ましく、0.1〜1.0μmであるのがより好ましく、0.1〜0.8μmであるのがさらに好ましい。これにより、各トナー母粒子間での特性のばらつきが特に小さくなり、液体現像剤全体としての信頼性がさらに向上する。
また、液体現像剤を構成するトナー母粒子についての下記式(I)で表される円形度Rの平均値(平均円形度)は、0.85以上であるのが好ましく、0.90〜0.99であるのがより好ましく、0.92〜0.99であるのがさらに好ましい。
【0027】
R=L/L・・・(I)
(ただし、式中、L[μm]は、測定対象のトナー母粒子の投影像の周囲長、L[μm]は、測定対象のトナー母粒子の投影像の面積に等しい面積の真円の周囲長を表す。)
これにより、トナー母粒子の粒径を十分に小さいものとしつつ、トナー母粒子の転写効率、機械的強度を特に優れたものとすることができる。
【0028】
また、液体現像剤を構成するトナー母粒子間での平均円形度の標準偏差は、0.15以下であるのが好ましく、0.001〜0.10であるのがより好ましく、0.001〜0.05であるのがさらに好ましい。これにより、各トナー母粒子間での帯電特性、定着特性等の特性のばらつきが特に小さくなり、液体現像剤全体としての信頼性がさらに向上する。
【0029】
[高分子分散剤]
トナー粒子は、前述したようなトナー母粒子の表面に、高分子分散剤が付着したものである。
高分子分散剤は、正帯電する特性(正帯電性)を有するものである。
ところで、ポリエステル樹脂は、通常、それ自体が負帯電性のものであるため、正帯電性のトナー粒子(液体現像剤)に適用するのが困難であった。また、結着樹脂としてポリエステル樹脂を用いたトナー粒子に、帯電制御剤を添加して正帯電させることも考えられるが、十分な帯電量を得るのが困難であった。
【0030】
これに対して、本発明では、トナー粒子は、ポリエステル樹脂で構成されたトナー母粒子の表面に、正帯電性の高分子分散剤が付着したものである。これにより、以下のような効果が得られる。
すなわち、トナー母粒子はポリエステル樹脂で構成されているため、負帯電性であるが、正帯電性の高分子分散剤を付着させることにより、トナー母粒子の負帯電性を打ち消し、トナー粒子を確実に正帯電させることができる。また、高分子分散剤は高分子であるため、ポリエステル樹脂との親和性が高く、さらに、正帯電性を有することから、負帯電性のトナー母粒子との密着性が高い。その結果、高分子分散剤の不本意な剥がれ等を防止することができ、トナー粒子(液体現像剤)は、安定した正帯電の帯電特性を有するものとなるとともに、優れた耐久性を有するものとなる。また、高分子分散剤がトナー母粒子の表面に付着していることにより、トナー粒子の凝集等を防止しつつ、トナー粒子の分散性も向上する。また、トナー母粒子が主としてポリエステル樹脂で構成されたものであるから、液体現像剤は、得られる画像の発色性が良好で、また、優れた定着特性を有するものとなる。
【0031】
特に、ポリエステル樹脂が前述したようなアニオン性基(特に、−SO基)を有するものであると、高分子分散剤をトナー母粒子の表面により強固に付着させることができ、液体現像剤はより安定した正帯電の帯電特性を発揮する。
また、液体現像剤中に帯電制御剤を添加した場合、帯電制御剤が高分子分散剤によってトナー粒子の表面付近に存在させることができるため、さらに帯電特性を向上させることができる。
【0032】
このような高分子分散剤の密度は、0.8〜1.0g/cmであるのが好ましく、0.8〜0.85g/cmであるのがより好ましい。高分子分散剤の重量平均分子量がこのような範囲のものであると、ポリエステル樹脂との親和性がより高いものとなり、トナー母粒子の表面により強固に付着させることができる。また、トナー粒子の分散性をより高いものとすることができる。
【0033】
高分子分散剤は、正帯電性のものであれば、特に限定されないが、その分子内に、アミノ基を有するものであるのが好ましい。アミノ基を有する高分子分散剤は、高い正帯電性を示すため、トナー粒子(液体現像剤)の正帯電の帯電特性をさらに向上させることができる。
また、高分子分散剤は、分子内にエステル構造を有するものであるのが好ましい。このように分子内にエステル構造を有していると、トナー母粒子を構成するポリエステル樹脂との親和性が向上し、高分子分散剤をより強固にトナー母粒子表面に付着させることができる。
【0034】
上記のような高分子分散剤としては、例えば、ポリアミン化合物とヒドロキシ脂肪族自己縮合物との反応物(市販品として、ソルスパース11200、ソルスパース13940、ソルスパース17000、ソルスパース18000(ソルスパースは日本ルーブリゾール社製の商品名))、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸およびその塩、ポリアクリル酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリメタクリル酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリマレイン酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、アクリル酸−マレイン酸共重合体金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、ポリスチレンスルホン酸金属塩(例えば、ナトリウム塩等)、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
上述した中でも特に、ポリアミン化合物とヒドロキシ脂肪族自己縮合物との反応物を用いた場合、高分子分散剤をより強固にトナー母粒子表面に付着させることができるとともに、トナー粒子の正帯電の帯電特性をさらに向上させることができる。
ポリアミン化合物とヒドロキシ脂肪族自己縮合物との反応物としては、例えば、ポリアリルアミン化合物と1,2−ヒドロキシステアリン酸自己縮合物との反応物、ポリエチレンアミン化合物と1,2−ヒドロキシステアリン酸自己縮合物との反応物、ジアルキルアミノアルキルアミンと1,2−ヒドロキシステアリン酸自己縮合物との反応物等が挙げられる。
【0036】
液体現像剤中における、前述したような高分子分散剤の含有量は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、1〜20重量部であるのが好ましく、3〜10重量部であるのがより好ましい。高分子分散剤の含有量がこのような範囲のものであると、ポリエステル樹脂に由来するトナー母粒子の負帯電性を、より確実に打ち消すことができ、トナー粒子の正帯電の帯電特性をより高いものとすることができる。
【0037】
<絶縁性液体>
次に、絶縁性液体について説明する。
本発明で用いる絶縁性液体は、十分に絶縁性の高い液体であればよいが、具体的には、室温(20℃)での電気抵抗が10Ωcm以上のものであるのが好ましく、1011Ωcm以上のものであるのがより好ましく、1013Ωcm以上のものであるのがさらに好ましい。
【0038】
また、絶縁性液体の比誘電率は、3.5以下であるのが好ましい。
このような条件を満足する絶縁性液体としては、例えば、オクタン、イソオクタン、デカン、イソデカン、デカリン、ノナン、ドデカン、イソドデカン、シクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、各種シリコーンオイル、アマニ油、大豆油等の植物油、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL(アイソパー;エクソン社の商品名)、シエルゾール70、シエルゾール71(シエルゾール;シエルオイル社の商品名)、アムスコOMS、アムスコ460溶剤(アムスコ;スピリッツ社の商品名)流動パラフィン(和光純薬工業)等が挙げられる。
上述した中でも、植物油は、ポリエステル樹脂との親和性と、高分子分散剤との親和性とのバランスが良いことから、トナー粒子の分散性が向上するとともに、トナー母粒子の表面に付着した高分子分散剤の不本意な脱落を効果的に防止することができる。
【0039】
《液体現像剤の製造方法》
次に本発明の液体現像剤の製造方法の一例について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、水系乳化液の調製に用いる混練物を製造するための混練機、冷却機の構成の一例を模式的に示す縦断面図、図2は、本発明の液体現像剤の製造に用いられるトナー母粒子製造装置の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図、図3は、図2に示すトナー母粒子製造装置のヘッド部付近の拡大断面図である。以下、図1中、左側を「基端」、右側を「先端」として説明する。
【0040】
本発明の液体現像剤は、いかなる方法を用いて製造されたものであってもよいが、本実施形態に係る液体現像剤の製造方法は、分散媒中に前述したようなトナー材料で構成された分散質が分散した分散液を得る分散液調製工程と、分散媒を除去して、トナー母粒子を得る分散媒除去工程と、トナー母粒子の表面に高分子分散剤を付着させつつ、絶縁性液体中に分散させる分散工程とを有する。
【0041】
本実施形態では、分散液として、水系液体で構成された水系分散媒に分散質が分散した水系分散液を用いた場合について説明する。水系分散液を用いることにより、環境に優しい方法で液体現像剤を提供することができる。
水系分散液は、いかなる方法で調製されたものであってもよいが、本実施形態では、着色剤と樹脂材料とを含む混練物を用いて調製したものを用いる。
なお、混練物の構成材料(成分)としては、前述したようなトナーを構成する材料の他に、例えば、無機溶媒、有機溶媒等の溶媒として用いられるような材料を用いてもよい。これにより、例えば、混練の効率を向上させることができ、各成分がより均一に混ざり合った混練物を容易に得ることができる。
【0042】
<混練物>
次に、上記のようなトナー材料を含む原料K5を混練して、混練物K7を得る方法の一例について説明する。
混練物K7は、例えば、図1に示すような装置を用いて製造することができる。
[混練工程]
混練に供される原料K5は、前述したようなトナー母粒子の構成材料を含むものである。特に、原料K5が着色剤を含むことにより、本工程で原料K5中に含まれる空気(特に着色剤が抱き込んだ空気)を効率よく除去することができ、トナー粒子の内部に気泡が混入(残存)するのを効果的に防止することができる。混練に供される原料K5は、これらの各成分が予め混合されたものであるのが好ましい。
【0043】
本実施形態では、混練機として、2軸混練押出機を用いる構成について説明する。
混練機K1は、原料K5を搬送しつつ混練するプロセス部K2と、混練された原料(混練物K7)を所定の断面形状に形成して押し出すヘッド部K3と、プロセス部K2内に原料K5を供給するフィーダーK4とを有している。
プロセス部K2は、バレルK21と、バレルK21内に挿入されたスクリューK22、スクリューK23と、バレルK21の先端にヘッド部K3を固定するための固定部材K24とを有している。
【0044】
プロセス部K2では、スクリューK22、スクリューK23が、回転することにより、フィーダーK4から供給された原料K5に剪断力が加えられ、均一な混練物K7が得られる。
プロセス部K2の全長は、50〜300cmであるのが好ましく、100〜250cmであるのがより好ましい。プロセス部K2の全長が前記下限値未満であると、原料K5中の各成分を十分均一に混ぜ合わせることが困難となる可能性がある。一方、プロセス部K2の全長が前記上限値を超えると、プロセス部K2内の温度、スクリューK22、スクリューK23の回転数等によっては、熱による原料K5の変性が起こり易くなり、最終的に得られる液体現像剤(トナー)の物性を十分に制御するのが困難になる可能性がある。
【0045】
また、混練時の原料温度は、原料K5の組成等により異なるが、80〜260℃であるのが好ましく、90〜230℃であるのがより好ましい。なお、プロセス部K2内での原料温度は、均一であっても、部位により異なるものであってもよい。例えば、プロセス部K2は、設定温度の比較的低い第1の領域と、該第1の領域より基端側に設けられ、かつ、その設定温度が第1の領域より高い第2の領域とを有するようなものであってもよい。
【0046】
また、原料K5のプロセス部K2での滞留時間(通過に要する時間)は、0.5〜12分であるのが好ましく、1〜7分であるのがより好ましい。プロセス部K2での滞留時間が、前記下限値未満であると、原料K5中の各成分を十分均一に混ぜ合わせることが困難となる可能性がある。一方、プロセス部K2での滞留時間が、前記上限値を超えると、生産効率が低下し、また、プロセス部K2内の温度、スクリューK22、スクリューK23の回転数等によっては、熱による原料K5の変性が起こり易くなり、最終的に得られる液体現像剤(トナー)の物性を十分に制御するのが困難になる可能性がある。
【0047】
スクリューK22、スクリューK23の回転数は、バインダー樹脂の組成等により異なるが、50〜600rpmであるのが好ましい。スクリューK22、スクリューK23の回転数が、前記下限値未満であると、原料K5中の各成分を十分均一に混ぜ合わせることが困難となる可能性がある。一方、スクリューK22、スクリューK23の回転数が、前記上限値を超えると、剪断により、樹脂の分子鎖が切断され、樹脂の特性が劣化する場合がある。
【0048】
また、本実施形態で用いる混練機K1では、プロセス部K2の内部は、脱気口K25を介して、ポンプPに接続されている。これにより、プロセス部K2の内部を脱気することができ、原料K5(混練物K7)が加熱されたり、発熱すること等によるプロセス部K2内の圧力の上昇を防止することができる。その結果、混練工程を安全かつ効率よく行うことができる。また、プロセス部K2の内部が脱気口K25を介してポンプPに接続されていることにより、得られる混練物K7中に気泡(特に、比較的大きな気泡)が含まれるのを効果的に防止することができ、最終的に得られる液体現像剤(トナー)の特性をより優れたものとすることができる。
【0049】
[押出工程]
プロセス部K2で混練された混練物K7は、スクリューK22とスクリューK23との回転により、ヘッド部K3を介して、混練機K1の外部に押し出される。
ヘッド部K3は、プロセス部K2から混練物K7が送り込まれる内部空間K31と、混練物K7が押し出される押出口K32とを有している。
【0050】
内部空間K31内での混練物K7の温度(少なくとも押出口K32付近での温度)は、特に限定されないが、原料K5中に含まれる樹脂材料の軟化温度以上の温度であるのが好ましい。これにより、トナー粒子を各構成成分がより均一に混ざり合ったものとして得ることができ、各トナー粒子間での特性(帯電特性、定着性等)のばらつきを特に小さくすることができる。
【0051】
内部空間K31内での混練物K7の具体的な温度(少なくとも押出口K32付近での温度)は、特に限定されないが、80〜150℃であるのが好ましく、90〜140℃であるのがより好ましい。内部空間K31内での混練物K7の温度が上記範囲内の値であると、混練物K7が内部空間K31で固化せず、押出口K32から押し出しやすくなる。
図示の構成では、内部空間K31は、押出口K32の方向に向って、その横断面積が漸減する横断面積漸減部K33を有している。このような横断面積漸減部K33を有することにより、押出口K32から押し出される混練物K7の押出量が安定し、また、後述する冷却工程における混練物K7の冷却速度が安定する。その結果、これを用いて製造されるトナーは、各トナー粒子間での特性のばらつきが小さいものとなり、全体としての特性に優れたものになる。
【0052】
[冷却工程]
ヘッド部K3の押出口K32から押し出された軟化した状態の混練物K7は、冷却機K6により冷却され、固化する。
冷却機K6は、ロールK61、K62、K63、K64と、ベルトK65、K66とを有している。
【0053】
ベルトK65は、ロールK61とロールK62とに巻掛けられている。同様に、ベルトK66は、ロールK63とロールK64とに巻掛けられている。
ロールK61、K62、K63、K64は、それぞれ、回転軸K611、K621、K631、K641を中心として、図中e、f、g、hで示す方向に回転する。これにより、混練機K1の押出口K32から押し出された混練物K7は、ベルトK65−ベルトK66間に導入される。ベルトK65−ベルトK66間に導入された混練物K7は、ほぼ均一な厚さの板状となるように成形されつつ、冷却される。冷却された混練物K7は、排出部K67から排出される。ベルトK65、K66は、例えば、水冷、空冷等の方法により、冷却されている。冷却機として、このようなベルト式のものを用いると、混練機から押し出された混練物と、冷却体(ベルト)との接触時間を長くすることができ、混練物の冷却の効率を特に優れたものとすることができる。
【0054】
ところで、混練工程では、原料K5に剪断力が加わっているため、相分離(特に、マクロ相分離)等が十分防止されているが、混練工程を終えた混練物K7は、剪断力が加わらなくなるので、混練物の構成材料によっては、長期間放置しておくと再び相分離(マクロ相分離)等を起こしてしまう可能性がある。従って、上記のようにして得られた混練物K7は、できるだけ早く冷却するのが好ましい。具体的には、混練物K7の冷却速度(例えば、混練物K7が60℃程度まで冷却される際の冷却速度)は、3℃/秒以上であるが好ましく、5〜100℃/秒であるのがより好ましい。また、混練工程の終了時(剪断力が加わらなくなった時点)から冷却工程が完了するまでに要する時間(例えば、混練物K7の温度を60℃以下に冷却するのに要する時間)は、20秒以下であるのが好ましく、3〜12秒であるのがより好ましい。
【0055】
本実施形態では、混練機として、連続式の2軸混練押出機を用いる構成について説明したが、原料の混練に用いる混練機はこれに限定されない。原料の混練には、例えば、ニーダーやバッチ式の三軸ロール、連続2軸ロール、ホイールミキサー、ブレード型ミキサー等の各種混練機を用いることができる。
また、図示の構成では、スクリューを2本有する構成の混練機について説明したが、スクリューは1本であってもよいし、3本以上であってもよい。また、混練装置にディスク(ニーディングディスク)部があってもよい。
【0056】
また、本実施形態では、1つの混練機を用いる構成について説明したが、2つの混練機を用いて混練してもよい。この場合、一方の混練機と、他方の混練機とで、原料の加熱温度、スクリューの回転速度等が異なっていてもよい。
また、本実施形態では、冷却機として、ベルト式のものを用いた構成について説明したが、例えば、ロール式(冷却ロール式)の冷却機を用いてもよい。また、混練機の押出口K32から押し出された混練物の冷却は、前記のような冷却機を用いたものに限定されず、例えば、空冷等により行うものであってもよい。
【0057】
[粉砕工程]
次に、上述したような冷却工程を経た混練物K7を粉砕する。このように、混練物K7を粉砕することにより、後述する水系乳化液を、比較的容易に、より微小な分散質が分散したものとして得ることができる。その結果、最終的に得られる液体現像剤においても、トナー粒子の大きさをより小さなものとすることができ、高解像度の画像形成に好適に用いることができる。
【0058】
粉砕の方法は、特に限定されず、例えばボールミル、振動ミル、ジェットミル、ピンミル等の各種粉砕装置、破砕装置を用いて行うことができる。
粉砕の工程は、複数回(例えば、粗粉砕工程と微粉砕工程との2段階)に分けて行ってもよい。また、このような粉砕工程の後、必要に応じて、分級処理等の処理を行ってもよい。分級処理には、例えば、ふるい、気流式分級機等を用いることができる。
【0059】
原料K5に対して上記のような混練を施すことにより、原料K5中に含まれる空気を効果的に除去することができる。言い換えると、上記のような混練により得られる混練物K7は、その内部に空気(気泡)をほとんど含まない。これにより、後述する水系分散媒除去工程において、異形粒子(中空粒子、欠落粒子、融合粒子等)が発生するのを効果的に防止することができる。その結果、最終的に得られる液体現像剤においては、異形トナー粒子による転写性、クリーニング性等の低下等の問題が発生するのを効果的に防止することができる。
【0060】
本実施形態では、上記のような混練物を用いて、水系乳化液を調製する。
水系乳化液の調製に混練物K7を用いることにより、以下のような効果が得られる。すなわち、トナーの構成材料中に、互いに分散または相溶し難い成分を含む場合であっても、混練を施すことにより、得られる混練物中においては、各成分が十分に相溶、微分散した状態とすることができる。特に、顔料(着色剤)は、通常、後述するような溶媒として用いられる液体に対する分散性が低いが、溶媒に分散する前に予め混練が施されることにより、顔料粒子の周囲を樹脂成分等が効果的にコーティングすることとなり、これにより、溶媒への顔料の分散性が向上し(特に溶媒への微分散が可能となり)、最終的に得られるトナーの発色性も良好となる。このようなことから、トナーの構成材料中に、後述する水系乳化液の分散媒(水系分散媒)に対する分散性に劣る成分(以下、「難分散性成分」とも言う。)や水系乳化液の分散媒に含まれる溶媒に対する溶解性に劣る成分(以下、「難溶性成分」とも言う。)が含まれる場合であっても、水系乳化液における分散質の分散性を特に優れたものとすることができ、また、この水系乳化液を用いて調製される水系懸濁液3(液滴9)においても、分散質31の分散性が優れたものとなる。その結果、最終的に得られる液体現像剤においても、各トナー粒子間での組成、特性のばらつきが小さくなり、全体としての特性が特に優れたものとなる。
【0061】
これに対し、水系乳化液の調製に、混練を施していない原料を用いると、難分散性成分や難溶性成分が凝集して、水系乳化液中や後述する水系懸濁液中で沈降したり、主として難分散性成分や難溶性成分で構成され、他の成分と十分に混ざり合っていない粒径の比較的大きい分散質が水系乳化液(および後述する水系懸濁液)中に存在することとなり(主として難分散性成分および/または難溶性成分で構成された大粒径の分散質と、主として難分散性成分、難溶性成分以外の成分で構成された分散質とが混在することとなり)、後に詳述する水系分散媒除去工程で得られるトナー母粒子は、各粒子間での組成、大きさ、形状等のばらつきが大きくなる。その結果、トナー全体(液体現像剤全体)としての特性が低下する。
【0062】
また、上記のようにして得られる混練物の粉砕物を、後述するような水系乳化液の調製に用いることなく、直接、トナー母粒子とする場合、トナー中における構成成分の均一性(分散性)を高めるには限界があった。また、このような方法では、一般に比較的強固な凝集体である(強固な凝集体となり易い)顔料の分散(微分散)は、特に困難となる。
これに対し、上記のような混練物を水系乳化液の調製に用いることにより、最終的に得られるトナー母粒子は、各成分が十分均一に相溶、分散(微分散)したものとなる。
【0063】
また、本実施形態で用いるような水系乳化液においては、分散質が液状である(流動性を有し、比較的容易に変形可能である)ため、分散質はその表面張力により、円形度(真球度)の大きい形状になる傾向を示す。したがって、当該水系乳化液を用いて調製される懸濁液(水系懸濁液)も、分散質の形状が比較的円形度(真球度)の大きいものとなり、結果として、最終的に得られるトナー母粒子も比較的円形度(真球度)の大きいものとなる。また、分散質が液状である(流動性を有し、比較的容易に変形可能である)乳化液では、乳化液を攪拌すること等により、比較的容易に分散質の大きさの均一性を十分に高いものとすることができる。これに対して、後述するトナー母粒子の製造に用いられる懸濁液として、水系乳化液を経由することなく調製されたものを用いた場合、懸濁液中に含まれる分散質は、円形度の小さいものとなり、特に、各粒子間での形状、粒子径のばらつきが大きいものとなる。また、このような形状のばらつきを抑制するために、後述するようなトナー母粒子の形成時またはトナー母粒子の形成後に、熱球形化処理を施すことも考えられるが、このような場合(特に、トナー母粒子の形成時に熱球形化を行う場合)、熱球形化処理の条件を比較的過酷なものとしなければ、得られるトナー母粒子の形状のばらつきを十分に小さくするのが困難であり、トナー母粒子の構成材料の劣化や、トナー母粒子中での各構成成分の相溶化状態、微分散状態の破壊を招き易く、最終的に得られる液体現像剤において、十分な特性を発揮させるのが困難となる。
【0064】
<水系乳化液調製工程>
次に、上記のような混練物K7を用いて、水系液体で構成された水系分散媒中に、トナー母粒子の構成材料で構成された分散質が分散した水系乳化液を調製する(水系乳化液調製工程)。特に、混練物K7がポリエステル樹脂としてアニオン性基を有するものを含むものである場合、本工程で得られる水系乳化液は、分散質の分散状態が良好なものとなる。また、分散媒として、水系液体を用いるので、環境にも優しい方法で液体現像剤を製造することができる。
【0065】
水系乳化液の調製方法は、特に限定されないが、本実施形態では、混練物K7の少なくとも一部が溶解した混練物K7の溶液を得、当該溶液を水系液体に分散させることにより水系乳化液を調製する。なお、本明細書中において、「乳化液(エマルション、乳濁液、乳状液)」とは、液状の分散媒中に、液状の分散質(分散粒子)が分散した分散液のことを指し、「懸濁液(サスペンション)」とは、液状の分散媒中に、固体状(固形)の分散質(懸濁粒子)が分散した分散液(懸濁コロイドを含む)のことを指す。また、分散液中に、液状の分散質と、固体状の分散質とが併存する場合には、分散液中において、液状の分散質の総体積が、固体状の分散質の総体積よりも大きいものを乳化液とし、分散液中において、固体の分散質の総体積が、液状の分散質の総体積よりも大きいものを懸濁液とする。
【0066】
以下、水系乳化液の調製方法について詳細に説明する。
[混練物溶液(混練物の溶液)の調製]
本実施形態では、まず、混練物の少なくとも一部が溶解した混練物の溶液を得る。
溶液は、混練物と、混練物の少なくとも一部を溶解し得る溶媒とを混合することにより調製することができる。
溶液の調製に用いる溶媒は、混練物の少なくとも一部を溶解しうるものであればいかなるものであってもよいが、通常、後述する水系液体(水系乳化液の調製の用いる水系液体)との相溶性の低いもの(例えば、25℃における水系液体100gに対する溶解度が10g以下の液体)が用いられる。
【0067】
このような溶媒としては、例えば、二硫化炭素、四塩化炭素等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、2−ヘプタノン等のケトン系溶媒、ペンタノール、n−ヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン、オクタン、イソプレン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素系溶媒、フラン、チオフェン等の芳香族複素環化合物系溶媒、クロロホルム等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソブチル、アクリル酸エチル等のエステル系溶媒、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ系溶媒等の有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
【0068】
溶液中における溶媒の含有率は、特に限定されないが、5〜75wt%であるのが好ましく、10〜70wt%であるのがより好ましく、15〜65wt%であるのがさらに好ましい。溶媒の含有率が前記下限値未満であると、溶媒に対する混練物の溶解性(溶解度)によっては、混練物を十分に溶解するのが困難になる可能性がある。一方、溶媒の含有率が前記上限値を超えると、後の処理で溶媒を除去するのに要する時間が長くなり、液体現像剤の生産性が低下する。また、溶媒の含有率が高すぎると、前述した混練工程で、十分均一に混ざり合った各成分が相分離してしまう可能性があり、これにより、最終的に得られる液体現像剤における各トナー粒子の特性のばらつきを十分に小さくするのが困難になる可能性がある。
なお、溶液中においては、混練物を構成する成分の少なくとも一部が溶解(膨潤を含む)していればよく、溶液中に、溶解していない不溶分が存在していてもよい。
【0069】
[水系乳化液の調製]
次に、上記のような溶液を水系液体と混合することにより、水系乳化液を得る。この水系乳化液においては、通常、前述した溶媒と混練物の構成材料とを含む分散質が、水系液体で構成された水系分散媒中に分散している。
本明細書中において、「水系液体」とは、少なくとも水(HO)を含む液体のことを指し、好ましくは、主として水で構成されたものである。水系液体中に占める水の含有率は、50wt%以上であるのが好ましく、80wt%以上であるのがより好ましく、90wt%以上であるのがさらに好ましい。なお、水系液体は、水以外の成分を含むものであってもよい。例えば、水系液体は、水との相溶性に優れる成分(例えば、25℃における水100gに対する溶解度が30g以上の物質)を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、ピリジン、ピラジン、ピロール等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、アセトアルデヒド等のアルデヒド系溶媒等が挙げられる。
また、水系乳化液の調製には、例えば、分散質の分散性を向上させる目的で、界面活性剤等を用いてもよい。
【0070】
溶液と水系液体との混合は、少なくとも一方の液体を攪拌しつつ行うのが好ましい。これにより、大きさ、形状のばらつきの小さい分散質が均一に分散した乳化液(水系乳化液)を、容易かつ確実に得ることができる。
溶液と水系液体との混合の具体的な方法としては、例えば、容器内の水系液体中に溶液を加える方法(例えば、滴下する方法)、容器内の溶液中に水系液体を加える方法(例えば、滴下する方法)等が挙げられる。これらの場合、少なくとも、攪拌した状態の液体中に、他方の液体を加えるのが好ましい。これにより、上述した効果は更に顕著に発揮される。
【0071】
水系乳化液中における分散質の含有率は、特に限定されないが、5〜55wt%であるのが好ましく、10〜50wt%であるのがより好ましい。これにより、水系乳化液中における分散質同士の結合(凝集)をより確実に防止しつつ、トナー粒子(液体現像剤)の生産性を特に優れたものとすることができる。
水系乳化液中における分散質の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmであるのが好ましく、0.1〜3μmであるのがより好ましい。これにより、水系乳化液中における分散質同士の結合(凝集)をより確実に防止することができるとともに、最終的に得られるトナー粒子の大きさを最適なものとすることができる。なお、本明細書では、「平均粒径」とは、体積基準の平均粒径のことを指すものとする。
【0072】
なお、上記の説明では、水系乳化液中において、混練物中の成分が分散質に含まれるものとして説明したが、混練物の構成成分の一部が分散媒中に含まれていてもよい。
また、水系乳化液中には、上記以外の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、帯電制御剤、磁性粉末等が挙げられる。
前記帯電制御剤としては、例えば、安息香酸の金属塩、サリチル酸の金属塩、アルキルサリチル酸の金属塩、カテコールの金属塩、含金属ビスアゾ染料、ニグロシン染料、テトラフェニルボレート誘導体、第四級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、塩素化ポリエステル、ニトロフミン酸等が挙げられる。
【0073】
前記磁性粉末としては、例えば、マグネタイト、マグヘマイト、各種フェライト類、酸化第二銅、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物や、Fe、Co、Niのような磁性金属を含む磁性材料で構成されたもの等が挙げられる。
また、水系乳化液中には、上記のような材料のほかに、例えば、ステアリン酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化セリウム等が添加されていてもよい。
【0074】
<水系懸濁液調製工程>
上記のようにして得られた水系乳化液は、そのまま、後述する水系分散媒除去工程に供するものであってもよいが、本実施形態においては、(液状の分散質が水系分散媒中に分散した)水系乳化液から、固形状の分散質31が分散媒(水系分散媒)32中に分散した水系懸濁液3を得、当該水系懸濁液3を水系分散媒除去工程に供する。これにより、水系分散媒除去工程等における粒子の不本意な凝集を、より効果的に防止することができ、結果として、トナー粒子の形状、大きさの均一性を特に優れたものとすることができる。特に、上述したように水系乳化液の分散質が、水系液体との親和性に優れたアニオン性基を有するポリエステル樹脂を含む材料で構成されたものである場合、本工程で得られる水系懸濁液においても、分散質の良好な分散性を保持することができる。
【0075】
以下、水系懸濁液3の調製方法について詳細に説明する。
水系懸濁液3の調製は、水系乳化液から分散質を構成する溶媒を除去することにより行うことができる。
溶媒の除去は、例えば、水系乳化液を加熱(加温)したり、減圧雰囲気下に置くことにより行うことができるが、水系乳化液を減圧下で加熱することにより行うものであるのが好ましい。これにより、分散質31の大きさ、形状のばらつきが特に小さい水系懸濁液3を、比較的容易に得ることができる。また、上記のように溶媒を除去することにより、溶媒の除去とともに、脱気処理を施すことができる。これにより、水系懸濁液3中の気体の溶存量を低減させることができ、トナー母粒子製造装置M1の分散媒除去部M3において、水系懸濁液3の液滴9から分散媒32を除去する際に、当該水系懸濁液3中に気泡等が発生するのを効果的に防止することができる。その結果、最終的に得られる液体現像剤中に異形状のトナー粒子(中空粒子、欠落粒子等)が混入するのをより効果的に防止することができる。
【0076】
水系乳化液を加熱(加温)する場合、加熱温度は、30〜110℃であるのが好ましく、40〜100℃であるのがより好ましい。加熱温度が前記範囲内の値であると、異形状の分散質31の発生を十分に防止しつつ(水系乳化液の分散質の内部から溶媒が急激に気化(沸騰)するのを確実に防止しつつ)、溶媒を速やかに除去することができる。
また、水系乳化液を減圧雰囲気下に置く場合、水系乳化液が置かれる雰囲気の圧力は、0.1〜50kPaであるのが好ましく、0.5〜5kPaであるのがより好ましい。水系乳化液が置かれる雰囲気の圧力が前記範囲内の値であると、異形状の分散質31の発生を十分に防止しつつ(水系乳化液の分散質の内部から溶媒が急激に気化(沸騰)するのを確実に防止しつつ)、溶媒を速やかに除去することができる。
【0077】
なお、溶媒の除去は、少なくとも分散質が固形状となる程度に行われるものであればよく、水系乳化液中に含まれる実質的に全ての溶媒を除去するものでなくてもよい。
水系懸濁液3中における分散質31の平均粒径は、特に限定されないが、0.01〜5μmであるのが好ましく、0.1〜3μmであるのがより好ましい。これにより、分散質同士の結合(凝集)をより確実に防止することができるとともに、最終的に得られるトナー粒子の大きさを最適なものとすることができる。
【0078】
<水系分散媒除去工程>
次に、水系分散液(水系懸濁液3)から水系分散媒を除去することにより、水系分散液(水系懸濁液3)の分散質に対応するトナー母粒子を得る(水系分散媒除去工程)。
水系分散媒の除去は、いかなる方法で行ってもよいが、水系分散媒中に分散質が分散した分散液(水系分散液)の液滴を間欠的に吐出することにより行うのが好ましい。これにより、分散質の凝集等を効果的に防止しつつ、水系分散媒の除去をより効率良く行うことができ、液体現像剤の生産性が向上する。また、水系分散液の液滴を間欠的に吐出して水系分散媒の除去を行うことにより、前述した水系懸濁液の調製において、溶媒の一部が残存している場合であっても、この残存している溶媒を水系分散媒とともに効率良く除去することができる。
特に、本実施形態では、図2、図3に示すようなトナー母粒子製造装置を用いて、水系分散媒の除去を行う。
【0079】
[トナー母粒子製造装置]
図2に示すように、トナー母粒子製造装置M1は、上述したような水系懸濁液(水系分散液)3を、液滴9として間欠的に吐出するヘッド部M2と、ヘッド部M2に水系懸濁液3を供給する水系懸濁液供給部(水系分散液供給部)M4と、ヘッド部M2から吐出された液滴状(微粒子状)の水系懸濁液3(液滴9)を搬送しつつ分散媒32を除去し、トナー母粒子4とする分散媒除去部M3と、製造されたトナー母粒子4を回収する回収部M5とを有している。
【0080】
水系懸濁液供給部M4は、ヘッド部M2に水系懸濁液3を供給する機能を有するものであればよいが、図示のように、水系懸濁液3を攪拌する攪拌手段M41を有するものであってもよい。これにより、例えば、分散質31が分散媒(水系分散媒)32中に分散しにくいものであっても、分散質31が十分均一に分散した状態の水系懸濁液3を、ヘッド部M2に供給することができる。
【0081】
ヘッド部M2は、水系懸濁液3を微細な液滴(微粒子)9として、吐出する機能を有するものである。
ヘッド部M2は、分散液貯留部M21と、圧電素子M22と、吐出部M23とを有している。
分散液貯留部M21には、水系懸濁液3が貯留されている。
分散液貯留部M21に貯留された水系懸濁液3は、圧電素子M22の圧力パルス(圧電パルス)により、吐出部M23から、液滴9として分散媒除去部M3に吐出される。
【0082】
吐出部M23の形状は、特に限定されないが、略円形状であるのが好ましい。これにより、吐出される水系懸濁液3や、分散媒除去部M3内において形成されるトナー母粒子4の真球度を高めることができる。
吐出部M23が略円形状のものである場合、その直径(ノズル径)は、例えば、5〜500μmであるのが好ましく、10〜200μmであるのがより好ましい。吐出部M23の直径が前記下限値未満であると、目詰まりが発生し易くなり、吐出される液滴9の大きさのばらつきが大きくなる場合がある。一方、吐出部M23の直径が前記上限値を超えると、分散液貯留部M21の負圧と、ノズルの表面張力との力関係によっては、吐出される水系懸濁液3(液滴9)が気泡を抱き込んでしまう可能性がある。
【0083】
また、ヘッド部M2の吐出部M23付近(特に、吐出部M23の開口内面や、ヘッド部M2の吐出部M23が設けられている側の面(図中の下側の面))は、水系懸濁液3に対し撥液性(撥水性)を有するのが好ましい。これにより、水系懸濁液3が吐出部付近に付着するのを効果的に防止することができる。その結果、いわゆる、液切れの悪い状態になったり、水系懸濁液3の吐出不良が発生するのを効果的に防止することができる。また、吐出部付近への水系懸濁液3の付着が効果的に防止されることにより、吐出される液滴の形状の安定性が向上し(各液滴間での形状、大きさのばらつきが小さくなり)、最終的に得られるトナー粒子の形状、大きさのばらつきも小さくなる。
このような撥液性を有する材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂や、シリコーン系材料等が挙げられる。
【0084】
図3に示すように、圧電素子M22は、下部電極(第1の電極)M221、圧電体M222および上部電極(第2の電極)M223が、この順で積層されて構成されている。換言すれば、圧電素子M22は、上部電極M223と下部電極M221との間に、圧電体M222が介挿された構成とされている。
この圧電素子M22は、振動源として機能するものであり、振動板M24は、圧電素子(振動源)M22の振動により振動し、分散液貯留部M21の内部圧力を瞬間的に高める機能を有するものである。
【0085】
ヘッド部M2は、圧電素子駆動回路(図示せず)から所定の吐出信号が入力されていない状態、すなわち、圧電素子M22の下部電極M221と上部電極M223との間に電圧が印加されていない状態では、圧電体M222に変形が生じない。このため、振動板M24にも変形が生じず、分散液貯留部M21には容積変化が生じない。したがって、吐出部M23から水系懸濁液3は吐出されない。
【0086】
一方、圧電素子駆動回路から所定の吐出信号が入力された状態、すなわち、圧電素子M22の下部電極M221と上部電極M223との間に所定の電圧が印加された状態では、圧電体M222に変形が生じる。これにより、振動板M24が大きくたわみ(図3中下方にたわみ)、分散液貯留部M21の容積の減少(変化)が生じる。このとき、分散液貯留部M21内の圧力が瞬間的に高まり、吐出部M23から粒状の水系懸濁液3が吐出される。
【0087】
1回の水系懸濁液3の吐出が終了すると、圧電素子駆動回路は、下部電極M221と上部電極M223との間への電圧の印加を停止する。これにより、圧電素子M22は、ほぼ元の形状に戻り、分散液貯留部M21の容積が増大する。なお、このとき、水系懸濁液3には、水系懸濁液供給部M4から吐出部M23へ向かう圧力(正方向への圧力)が作用している。このため、空気が吐出部M23から分散液貯留部M21へ入り込むことが防止され、水系懸濁液3の吐出量に見合った量の水系懸濁液3が水系懸濁液供給部M4から分散液貯留部M21へ供給される。
【0088】
上記のような電圧の印加を所定の周期で行うことにより、圧電素子M22が振動し、粒状の水系懸濁液3が繰り返し吐出される。
このように、水系懸濁液3の吐出(噴射)を、圧電体M222の振動による圧力パルスで行うことにより、水系懸濁液3を一滴ずつ間欠的に吐出することができ、また、吐出される水系懸濁液3の液滴9の形状が安定する。その結果、各トナー粒子間での形状、大きさのばらつきを特に小さいものとすることができるとともに、製造されるトナー母粒子を真球度の高いもの(幾何学的に完全な球形に近い形状)にすることが比較的容易にできる。
また、分散液の吐出に圧電体の振動を用いることにより、より確実に分散液を所定間隔で吐出することができる。このため、吐出される液滴9同士が、衝突、凝集するのを効果的に防止することができ、異形状のトナー母粒子4の形成をより効果的に防止することができる。
【0089】
ヘッド部M2から分散媒除去部M3に吐出される水系懸濁液3(液滴9)の初速度は、例えば、0.1〜10m/秒であるのが好ましく、2〜8m/秒であるのがより好ましい。水系懸濁液3の初速度が前記下限値未満であると、トナーの生産性が低下する。一方、水系懸濁液3の初速度が前記上限値を超えると、最終的に得られるトナー母粒子の真球度が低下する傾向を示す。
【0090】
また、ヘッド部M2から吐出される水系懸濁液3の粘度は、特に限定されないが、例えば、0.5〜200[mPa・s]であるのが好ましく、1〜25[mPa・s]であるのがより好ましい。水系懸濁液3の粘度が前記下限値未満であると、吐出される水系懸濁液3の大きさを十分に制御するのが困難となり、得られるトナー母粒子の大きさのばらつきが大きくなる場合がある。一方、水系懸濁液3の粘度が前記上限値を超えると、形成される粒子の径が大きくなり、水系懸濁液3の吐出速度が遅くなるとともに、水系懸濁液3の吐出に要するエネルギー量も大きくなる傾向を示す。また、水系懸濁液3の粘度が特に大きい場合には、水系懸濁液3を液滴として吐出できなくなる。
【0091】
また、ヘッド部M2から吐出される水系懸濁液3は、予め冷却されたものであってもよい。このように水系懸濁液3を冷却することにより、例えば、吐出部M23付近における水系懸濁液3からの分散媒32の不本意な蒸発(揮発)を効果的に防止することができる。その結果、吐出部の開口面積が経時的に小さくなることによる水系懸濁液3の吐出量変化等を効果的に防止することができ、各粒子間での大きさ、形状のばらつきが特に小さいトナーを得ることができる。
【0092】
また、水系懸濁液3の一滴分の吐出量は、水系懸濁液3中に占める分散質31の含有率等により若干異なるが、0.05〜500plであるのが好ましく、0.5〜50plであるのがより好ましい。水系懸濁液3の一滴分の吐出量をこのような範囲の値にすることにより、形成されるトナー母粒子4を適度な粒径のものにすることができる。
また、ヘッド部M2から吐出される液滴9の平均粒径は、水系懸濁液3中に占める分散質31の含有率等により若干異なるが、1.0〜100μmであるのが好ましく、5〜50μmであるのがより好ましい。液滴9の平均粒径をこのような範囲の値にすることにより、形成されるトナー母粒子4を適度な粒径のものにすることができる。
【0093】
圧電素子M22の振動数(圧電パルスの周波数)は、特に限定されないが、1kHz〜500MHzであるのが好ましく、5kHz〜200MHzであるのがより好ましい。圧電素子M22の振動数が前記下限値未満であると、トナーの生産性が低下する。一方、圧電素子M22の振動数が前記上限値を超えると、粒状の水系懸濁液3の吐出が追随できなくなり、水系懸濁液3一滴分の大きさのばらつきが大きくなり、結果として、形成されるトナー母粒子4の大きさのばらつきが大きくなる可能性がある。
【0094】
図示の構成のトナー母粒子製造装置M1は、ヘッド部M2を複数個有している。そして、これらのヘッド部M2から、それぞれ、粒状の水系懸濁液3(液滴9)が分散媒除去部M3に吐出される。
各ヘッド部M2は、ほぼ同時に水系懸濁液3(液滴9)を吐出するものであってもよいが、少なくとも隣り合う2つのヘッド部で、水系懸濁液3(液滴9)の吐出タイミングが異なるように制御されたものであるのが好ましい。これにより、隣接するヘッド部M2から吐出された液滴9からトナー母粒子4が形成される前に、液滴9同士が衝突し、不本意な凝集が発生するのをより効果的に防止することができる。
【0095】
また、図2に示すように、トナー母粒子製造装置M1は、ガス流供給手段M10を有しており、このガス流供給手段M10から供給されたガスが、ダクトM101を介して、ヘッド部M2−ヘッド部M2間に設けられた各ガス噴射口M7から、ほぼ均一の圧力で噴射される構成となっている。これにより、吐出部M23から間欠的に吐出された液滴9の間隔を保ち、液滴9同士が衝突するのを効果的に防止しつつ、トナー母粒子4を形成することができる。その結果、形成されるトナー母粒子4の大きさ、形状のばらつきをより小さくすることができる。
【0096】
また、ガス流供給手段M10から供給されたガスをガス噴射口M7から噴射することにより、分散媒除去部M3において、ほぼ一方向(図中、下方向)に流れるガス流を形成することができる。このようなガス流が形成されると、分散媒除去部M3内で形成されたトナー母粒子4をより効率良く搬送することができる。これにより、トナー母粒子4の回収効率が向上し、液体現像剤の生産性が向上する。
【0097】
また、ガス噴射口M7からガスが噴射されることにより、各ヘッド部M2から吐出される液滴9の間に気流カーテンが形成され、例えば、隣り合うヘッド部から吐出された各液滴間での衝突、凝集をより効果的に防止することが可能となる。
【0098】
また、ガス流供給手段M10には、熱交換器M11が取り付けられている。これにより、ガス噴射口M7から噴射されるガスの温度を好ましい値に設定することができ、分散媒除去部M3に吐出された粒状の水系懸濁液3から分散媒32を効率良く除去することができる。
また、このようなガス流供給手段M10を有すると、ガス流の供給量を調整すること等により、吐出部M23から吐出された水系懸濁液3からの分散媒32の除去速度等を容易にコントロールすることも可能となる。
【0099】
ガス噴射口M7から噴射されるガスの温度は、水系懸濁液3中に含まれる分散質31、分散媒32の組成等により異なるが、通常、0〜70℃であるのが好ましく、15〜60℃であるのがより好ましい。ガス噴射口M7から噴射されるガスの温度がこのような範囲の値であると、得られるトナー母粒子4の形状の均一性、安定性を十分に高いものとしつつ、液滴9中に含まれる分散媒32を効率良く除去することができる。
【0100】
また、ガス噴射口M7から噴射されるガスの湿度は、例えば、50%RH以下であるのが好ましく、30%RH以下であるのがより好ましい。ガス噴射口M7から噴射されるガスの湿度が50%RH以下であると、後述する分散媒除去部M3において、水系懸濁液3に含まれる分散媒32を効率良く除去することが可能となり、トナー母粒子4の生産性がさらに向上する。
【0101】
分散媒除去部M3は、筒状のハウジングM31で構成されている。分散媒除去部M3内の温度を所定の範囲に保つ目的で、例えば、ハウジングM31の内側または外側に熱源、冷却源を設置したり、ハウジングM31を、熱媒体または冷却媒体の流路が形成されたジャケットとしてもよい。
また、図示の構成では、ハウジングM31内の圧力は、圧力調整手段M12により調整される構成となっている。このように、ハウジングM31内の圧力を調整することにより、より効率良くトナー母粒子4を形成することができ、結果として、液体現像剤の生産性が向上する。なお、図示の構成では、圧力調整手段M12は、接続管M121でハウジングM31に接続されている。また、接続管M121のハウジングM31と接続する端部付近には、その内径が拡大した拡径部M122が形成されており、さらに、トナー母粒子4等の吸い込みを防止するためのフィルターM123が設けられている。
【0102】
ハウジングM31内の圧力は、特に限定されないが、150kPa以下であるのが好ましく、100〜120kPaであるのがより好ましく、100〜110kPaであるのがさらに好ましい。ハウジングM31内の圧力が前記範囲内の値であると、例えば、液滴9からの急激な分散媒32の除去(沸騰現象)等を効果的に防止することができ、異形状のトナー母粒子4の発生等を十分に防止しつつ、より効率良くトナー母粒子4を製造することができる。なお、ハウジングM31内の圧力は、各部位でほぼ一定であってもよいし、各部位で異なるものであってもよい。
【0103】
また、ハウジングM31には、電圧を印加するための電圧印加手段M8が接続されている。電圧印加手段M8で、ハウジングM31の内面側に、トナー母粒子4(液滴9)と同じ極性の電圧を印加することにより、これにより、以下のような効果が得られる。
通常、トナー母粒子4等は、正または負に帯電している。このため、トナー母粒子4と異なる極性に帯電した帯電物があると、トナー母粒子4は、当該帯電物に、静電的に引き付けられ付着するという現象が起こる。一方、トナー母粒子4と同じ極性に帯電した帯電物があると、当該帯電物とトナー母粒子4とは、互いに反発しあい、前記帯電物表面にトナー母粒子4が付着するという現象を効果的に防止することができる。したがって、ハウジングM31の内面側に、粒状のトナー母粒子4と同じ極性の電圧を印加することにより、ハウジングM31の内面にトナー母粒子4が付着するのを効果的に防止することができる。これにより、異形状のトナー母粒子4の発生をより効果的に防止することができるとともに、トナー母粒子4の回収効率も向上する。
【0104】
また、ハウジングM31は、回収部M5付近に、図2中の下方向に向けて、その内径が小さくなる縮径部M311を有している。このような縮径部M311が形成されることにより、トナー母粒子4を効率良く回収することができる。
そして、上記のようにして形成されたトナー母粒子4は、回収部M5に回収される。
上記のようにして得られるトナー母粒子4は、通常、各分散質31に対応する大きさ、形状を有するものである。これにより、最終的に得られる液体現像剤は、比較的小粒径で、円形度(球形度)が高く、各粒子間での形状、大きさのばらつきの小さいトナー粒子を含むものとなる。
【0105】
また、上記のようにして得られるトナー母粒子4は、水系懸濁液3の分散媒32が除去されることにより得られる粒状物であればよく、例えば、その内部に分散媒の一部が残存していてもよい。
得られたトナー母粒子4は、そのまま、後述する分散工程に供してもよいし、熱処理等の各種処理を施してもよい。これにより、トナー母粒子の機械的強度(形状の安定性)をさらに優れたものとしたり、トナー母粒子中の含水量を低下させることができる。また、得られたトナー母粒子4に対してエアレーション等の処理を施したり、トナー母粒子4を減圧雰囲気下に放置すること等によっても、上記と同様に、含水量を低下させることができる。
また、上記のようなトナー母粒子4に対しては、必要に応じて、分級処理、外添処理等の各種処理を施してもよい。
【0106】
<分散工程>
次に、上記のようにして得られたトナー母粒子4の表面に、前述したような高分子分散剤を付着させつつ、絶縁性液体中に分散させる(分散工程)。これにより、トナー粒子が、絶縁性液体(担持液)中に分散した液体現像剤が得られる。
トナー母粒子4の表面に高分子分散剤を付着させる方法は、行うものであってもよいが、攪拌した状態の絶縁性液体中に、トナー母粒子4と高分子分散剤を加えることにより行うのが好ましい。これにより、液体現像剤の調整時におけるトナー母粒子4の不本意な凝集を防止しつつ、トナー母粒子の表面に確実に高分子分散剤を付着させることができ、また、得られた液体現像剤においては、トナー粒子の良好な分散状態を長期間にわたって安定的に保持することができる。
撹拌の方法は、特に限定されず、例えば、ホモミキサー、超音波分散機、パルペライザー、遊星ミル等を用いて行うことができる。
【0107】
<液体現像剤>
上記のようにして得られる液体現像剤は、トナー粒子の形状、大きさのばらつきが小さい。したがって、このような液体現像剤は、トナー粒子が絶縁性液体中(液体現像剤中)で泳動し易く、高速現像にも有利である。また、トナー粒子の形状、大きさのばらつきが小さく、さらに、前述したような絶縁性液体を用いているため、トナー粒子の分散性に優れており、液体現像剤中でのトナー粒子の沈降や浮遊等が効果的に防止される。したがって、このような液体現像剤は、保存性に特に優れたものとなる。
【0108】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の液体現像剤は、前述したような方法により製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、絶縁性液体中で、前述したような粉砕物を湿式粉砕することにより製造されたものであってもよい。
【0109】
また、トナー母粒子製造装置を構成する各部は、同様の機能を発揮する任意のものと置換、または、その他の構成を追加することもできる。
また、前述した実施形態では、水系分散媒除去工程で得られたトナー母粒子を一旦回収した後、分散工程に供するものとして説明したが、トナー母粒子を粉体として回収することなく、直接、分散工程に供してもよい。例えば、図示のようなトナー母粒子製造装置は、絶縁性液体を貯留し、かつ、製造されたトナー母粒子が供給される分散部を有するものであってもよい。これにより、液体現像剤をより効率良く製造することができるとともに、トナー母粒子間での不本意な凝集等をより効果的に防止することができる。
【0110】
また、図4に示すように、ヘッド部M2に、音響レンズ(凹面レンズ)M25が設置されていてもよい。このような音響レンズM25が設置されることにより、例えば、圧電素子M22が発生した圧力パルス(振動エネルギー)を、吐出部M23付近の圧力パルス収束部M26で収束させることができる。その結果、圧電素子M22が発生した振動エネルギーを、水系懸濁液3を吐出させるためのエネルギーとして、効率よく利用することができる。したがって、分散液貯留部M21に貯留された水系懸濁液3が比較的高粘度のものであっても、確実に吐出部M23から吐出させることができる。また、分散液貯留部M21に貯留された水系懸濁液3が凝集力(表面張力)の比較的大きいものであっても、微細な液滴として吐出することが可能となるため、容易かつ確実に、液滴9の粒径を比較的小さい値にコントロールすることができる。
このように、図示のような構成とすることにより、水系懸濁液3として、より粘度の高い材料や、凝集力の大きい材料を用いた場合であっても、トナー母粒子4を所望の形状、大きさにコントロールすることができるので、材料選択の幅が特に広くなり、所望の特性を有するトナーをさらに容易に得ることができる。
【0111】
また、図示のような構成とした場合、収束した圧力パルスにより水系懸濁液3を吐出させるため、吐出部M23の面積(開口面積)が比較的大きい場合であっても、吐出する水系懸濁液3の大きさを比較的小さいものにすることができる。すなわち、トナー母粒子4の粒径を比較的小さくしたい場合であっても、吐出部M23の面積を大きくすることができる。これにより、水系懸濁液3が比較的高粘度のものであっても、吐出部M23における目詰まりの発生等をより効果的に防止することができる。
【0112】
音響レンズとしては、凹面レンズに限定されず、例えば、フレネルレンズ、電子走査レンズ等を用いてもよい。
さらに、図5〜図7に示すように、音響レンズM25と吐出部M23との間に、吐出部M23に向けて、収斂する形状を有する絞り部材M13等を配置してもよい。これにより、圧電素子M22が発生した圧力パルス(振動エネルギー)の収束を補助することができ、圧電素子M22が発生した圧力パルスをさらに効率よく利用することができる。
【0113】
また、前述した実施形態では、トナーの構成成分が固形成分として、分散質中に含まれるものとして説明したが、トナーの構成成分の少なくとも一部は、分散媒中に含まれていてもよい。
また、前述した実施形態では圧電パルスによりヘッド部から分散液(水系懸濁液)を間欠的に吐出するものとして説明したが、分散液の吐出方法(噴射方法)としては、他の方法を用いることもできる。例えば、分散液を吐出(噴射)する方法としては、スプレードライ法や、いわゆるバブルジェット(「バブルジェット」は登録商標)法等の方法のほか、「分散液を、ガス流で平滑面に押し付けて薄く引き伸ばして薄層流とし、当該薄層流を前記平滑面から離して微小な液滴として噴射するようなノズルを用いて、分散液を液滴状に噴射する方法(特願2002−321889号明細書に記載されたような方法)」等を用いてもよい。スプレードライ法は、高圧のガスを用いて、液体(分散液)を噴射(噴霧)させることにより、液滴を得る方法である。また、いわゆるバブルジェット(「バブルジェット」は登録商標)法を適用した方法としては、特願2002−169348号明細書に記載された方法等が挙げられる。すなわち、分散液を吐出(噴射)する方法として、「気体の体積変化によりヘッド部から分散液を間欠的に吐出する方法」を適用することができる。
【0114】
また、トナー母粒子の形成は、分散液(水系懸濁液)の吐出により行うものでなくてもよい。例えば、水系懸濁液をろ過することにより、分散質に相当する微粒子を濾別し、これをトナー母粒子としてもよい。
また、前述した実施形態では、水系懸濁液中の各分散質に対応する大きさ、形状のトナー母粒子を得るものとして説明したが、トナー母粒子は、例えば、水系懸濁液の複数個の分散質に対応する微粒子が凝集(接合)してなる凝集体であってもよい。
【0115】
また、前述した実施形態では、混練物の粉砕物を用いて水系乳化液の調製を行うものとして説明したが、混練物の粉砕工程等は省略してもよい。
また、水系乳化液、水系懸濁液の調製方法は、前述したような方法に限定されない。例えば、固体状態の分散質が分散した分散液を加熱することにより、分散質を一旦液状として水系乳化液を得、当該水系乳化液を冷却することにより水系懸濁液を得てもよい。
【0116】
また、前述した実施形態では、水系乳化液を用いて一旦水系懸濁液を得た後、当該水系懸濁液を用いてトナー母粒子を製造するものとして説明したが、水系懸濁液を介することなく、水系乳化液から直接トナー母粒子を得る構成であってもよい。例えば、水系乳化液を液滴状に吐出し、当該液滴から分散媒中の溶媒とともに分散媒を除去することによりトナー母粒子を得てもよい。
また、前述した実施形態では、高分子分散剤全体がトナー母粒子に付着しているものとして説明したが、これに限定されず、高分子分散剤の一部がトナー母粒子に付着していればよい。これにより、トナー粒子の凝集をより効果的に防止することができる。
【実施例】
【0117】
[1]液体現像剤の製造
(実施例1)
[トナー母粒子の作製]
まず、結着樹脂としての、側鎖に−SO基(スルホン酸Na基)を有するポリエステル樹脂(軟化温度:124℃):80重量部と、着色剤としてのシアン系顔料(大日精化社製、ピグメントブルー15:3):20重量部とを用意した。
これらの各成分を20L型のヘンシェルミキサーを用いて混合し、トナー製造用の原料を得た。
【0118】
次に、この原料(混合物)を、図1に示すような2軸混練押出機を用いて、混練した。
2軸混練押出機のプロセス部の全長は160cmとした。
また、プロセス部における原料の温度が105〜115℃となるように設定した。
また、スクリューの回転速度は120rpmとし、原料の投入速度は20kg/時間とした。
【0119】
このような条件から求められる、原料がプロセス部を通過するのに要する時間は約4分間である。
なお、上記のような混練は、脱気口を介してプロセス部に接続された真空ポンプを稼動させることにより、プロセス部内を脱気しつつ行った。
プロセス部で混練された原料(混練物)は、ヘッド部を介して2軸混練押出機の外部に押し出した。ヘッド部内における混練物の温度は、130℃となるように調節した。
【0120】
このようにして2軸混練押出機の押出口から押し出された混練物を、図1中に示すような冷却機を用いて、冷却した。冷却工程直後の混練物の温度は、約45℃であった。
混練物の冷却速度は、9℃/秒であった。また、混練工程の終了時から冷却工程が終了するのに要した時間は、10秒であった。
上記のようにして冷却された混練物を粗粉砕し、平均粒径:1.5mmの粉末とした。混練物の粗粉砕にはハンマーミルを用いた。
【0121】
次に、混練物の粗粉砕物:100重量部をトルエン:250重量部に添加し、超音波ホモジナイザー(出力:400μA)を用いて、1時間処理することにより、混練物のポリエステル樹脂が溶解した溶液を得た。なお、このよう溶液中において、顔料は均一に微分散していた。
一方、界面活性剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:1重量部と、イオン交換水:700重量部とを均一に混合した水系液体を用意した。
【0122】
前記水系液体をホモミキサー(特殊機化工業社製)で攪拌回転数を調整した。
このような攪拌状態の水系液体中に、上記溶液(混練物のトルエン溶液)を滴下した。これにより、平均粒径が3μmの分散質が均一に分散した水系乳化液が得られた。
その後、温度:100℃、雰囲気圧力:80kPaの条件下で、水系乳化液中のトルエンを除去し、さらに、室温まで冷却した後、所定量の水を加えて濃度調整することにより、固形微粒子が分散した水系懸濁液を得た。得られた水系懸濁液中には、実質的にトルエンは残存していなかった。得られた水系懸濁液の固形分(分散質)濃度は28.8wt%であった。また、懸濁液中に分散している分散質(固形微粒子)の平均粒径は1.2μmであった。なお、分散質の平均粒径の測定は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA−920)を用いて行った。
【0123】
上記のようにして得られた懸濁液を、図2、図3に示す構成のトナー母粒子製造装置の水系懸濁液供給部内に投入した。水系懸濁液供給部内の水系懸濁液を攪拌手段で攪拌しつつ、定量ポンプによりヘッド部に供給し、吐出部から分散媒除去部に吐出(噴射)させた。吐出部は、直径:25μmの円形状をなすものとした。また、ヘッド部としては、吐出部付近に、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)コートによる疎水化処理が施されたものを用いた。なお、水系懸濁液供給部内における水系懸濁液の温度は、25℃になるように調節した。
【0124】
水系懸濁液の吐出は、ヘッド部内における分散液温度を25℃、圧電体の振動数を10kHz、吐出部から吐出される分散液の初速度を3m/秒、ヘッド部から吐出される水系懸濁液の一滴分の吐出量を4pl(粒径:20.8μm)に調整した状態で行った。また、水系懸濁液の吐出は、複数個のヘッド部のうち少なくとも隣接しあうヘッド部で、水系懸濁液の吐出タイミングがずれるようにして行った。
【0125】
また、水系懸濁液の吐出時には、ガス噴射口から温度:25℃、湿度:27%RH、流速:3m/秒の空気を鉛直下方に噴射した。また、ハウジング内の温度(雰囲気温度)は、45℃となるように設定した。また、ハウジング内の圧力は、約1.5kPaであった。分散媒除去部の長さ(搬送方向の長さ)は1.0mであった。
また、分散媒除去部のハウジングには、その内表面側の電位が−200Vとなるように電圧を印加し、内壁に水系懸濁液(トナー母粒子)が付着するのを防止するようにした。
分散媒除去部内において、吐出した水系懸濁液から分散媒が除去され、各分散質に対応する形状、大きさの多数のトナー母粒子が形成された。
分散媒除去部で形成されたトナー母粒子をサイクロンにて回収し、トナー母粒子を得た。
【0126】
[トナー母粒子および高分子分散剤の分散]
絶縁性液体としての大豆油(関東化学社製、商品名「大豆油」):505重量部と、高分子分散剤としてのポリアミン脂肪酸縮重合体(日本ルーブリゾール社製、商品名「ソルスパース11200」、密度:0.79g/cm):1重量部と、上記トナー母粒子:75重量部とを、ホモミキサー(特殊機化工業製)で5分間撹拌・混合することにより、液体現像剤を得た。なお、大豆油の室温(20℃)での電気抵抗は1.4×1014Ωcm、室温(20℃)での粘度は56mPa・sであった。
【0127】
(実施例2)
着色剤として、シアン系顔料誘導体(日本ルーブリゾール社製、商品名「ソルスパース22000」)を用い、高分子分散剤として、ポリアミン脂肪酸縮重合体(日本ルーブリゾール社製、商品名「ソルスパース13940」)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体現像剤を製造した。
【0128】
(実施例3)
絶縁性液体として、流動パラフィン(和光純薬工業社製、粘度(20℃):171mPa・s)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体現像剤を製造した。
(実施例4)
絶縁性液体として、流動パラフィン(和光純薬工業社製、粘度(20℃):171mPa・s)を用いた以外は、前記実施例2と同様にして液体現像剤を製造した。
【0129】
(実施例5)
ポリエステル樹脂として、−SO基(スルホン酸Na基)を有さないものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして液体現像剤を製造した。
(比較例)
高分子分散剤を用いなかった以外は、前記実施例5と同様にして液体現像剤を製造した。
以上の各実施例および比較例について、液体現像剤の条件を表1に示した。
【0130】
【表1】

【0131】
[2]評価
上記のようにして得られた各液体現像剤について、分散安定性、定着強度、保存安定性、帯電特性の評価を行った。
[2.1]分散安定性試験
各実施例および比較例で得られた液体現像剤10mLを遠沈管に入れ、1000G、10分間の条件で遠心分離機にかけた後、上澄みの200μLを分集し、キャリア溶媒(アイソパーH)で100倍に希釈し、サンプルとした。
【0132】
各サンプルを紫外可視分光光度計(日本分光社製、V−570)を用いて吸収波長を測定した。
シアン系顔料の吸収域(685nm)の吸光度の値より、以下の4段階の基準に従って評価した。
◎:吸光度が1.50以上(沈降が全く見られない)。
○:吸光度が1.00以上1.50未満(沈降がほとんど見られない)。
△:吸光度が0.50以上1.00未満(沈降が確認される)。
×:吸光度が0.50未満(沈降が顕著で自然放置でも沈降が始まる)。
【0133】
[2.2]定着強度
従来技術で挙げた特開2002−214849号公報に記載の画像形成装置を用いて、前記各実施例および前記比較例で得られた液体現像剤による所定パターンの画像を記録紙(セイコーエプソン社製、上質紙 LPCPPA4)上に形成した。その後、記録紙上に形成された画像について、オーブンによる熱定着を行った。この熱定着は、120℃×30分間という条件で行った。
【0134】
その後、非オフセット領域を確認した後、記録紙上の定着像を消しゴム(ライオン事務機社製、砂字消し「LION 261−11」)を押圧荷重kgfで2回擦り、画像濃度の残存率をX−Rite Inc社製「X−Rite model 404」により測定し、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:画像濃度残存率が90%以上。
○:画像濃度残存率が80%以上90%未満。
△:画像濃度残存率が70%以上80%未満。
×:画像濃度残存率が70%未満。
【0135】
[2.3]保存安定性
前記各実施例および前記各比較例で得られた液体現像剤を、温度:15〜20℃の環境下に、6ヵ月間静置した。その後、液体現像剤中のトナーの様子を目視にて確認し、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:トナー粒子の凝集沈降がまったく認められない。
○:トナー粒子の凝集沈降がほとんど認められない。
△:トナー粒子の凝集沈降がわずかに認められる。
×:トナー粒子の凝集沈降がはっきりと認められる。
【0136】
[2.4]正帯電の帯電特性
帯電特性の評価は、大塚電子社製の「レーザーゼータ電位計」ELS−6000を用い、以下の4段階の基準に従い評価した。
◎:電位差が+50mV以上。
○:電位差が+45mV以上+50mV未満。
△:電位差が+30mV以上+45mV未満。
×:電位差が+30mV未満。
これらの結果を、トナー母粒子の体積基準の平均粒径、粒径標準偏差、平均円形度R、円形度標準偏差とともに表2に示す。
【0137】
【表2】

【0138】
表2から明らかなように、本発明の液体現像剤は、分散安定性、定着強度、保存安定性、および、帯電特性に優れていた。これに対し、比較例の液体現像剤では、満足な結果が得られなかった。
また、比較例の液体現像剤では、画像を形成することができなかった。これは、液体現像剤中のトナー粒子が十分に正帯電しなかったためであると考えられる。
【0139】
また、着色剤として、シアン系顔料の代わりに、ピグメントレッド122、ピグメントイエロー180、カーボンブラック(デグサ社製、Printex L)を用いた以外は、上記と同様に液体現像剤の製造、評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。
また、トナー母粒子製造装置のヘッド部付近の構造を、図3に示すような構成のものから、図4〜図7に示すような構成のものに変更して、上記と同様に液体現像剤の製造、評価を行ったところ、上記と同様の結果が得られた。また、図4〜図7に示すようなヘッド部を備えたトナー母粒子製造装置では、吐出部の径を小さくし、水系懸濁液の濃度を比較的高くした場合であっても、好適に吐出することができ、上記と同様に結果が得られた。また、高濃度の水系懸濁液を用いたことから、乾燥にかかる時間を短縮することができ、生産性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】水系乳化液の調製に用いる混練物を製造するための混練機、冷却機の構成の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】本発明の液体現像剤の製造に用いられるトナー母粒子製造装置(トナー粒子製造装置)の好適な実施形態を模式的に示す縦断面図である。
【図3】図2に示すトナー母粒子製造装置のヘッド部付近の拡大断面図である。
【図4】トナー母粒子製造装置のヘッド部付近の構造の他例を模式的に示す図である。
【図5】トナー母粒子製造装置のヘッド部付近の構造の他例を模式的に示す図である。
【図6】トナー母粒子製造装置のヘッド部付近の構造の他例を模式的に示す図である。
【図7】トナー母粒子製造装置のヘッド部付近の構造の他例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0141】
K1…混練機 K2…プロセス部 K21…バレル K22、K23…スクリュー K24…固定部材 K25…脱気口 K3…ヘッド部 K31…内部空間 K32…押出口 K33…横断面積漸減部 K4…フィーダー K5…原料 K6…冷却機 K61、K62、K63、K64…ロール K611、K621、K631、K641…回転軸 K65、K66…ベルト K67…排出部 K7…混練物 M1…トナー母粒子製造装置(トナー粒子製造装置) M2…ヘッド部 M21…分散液貯留部 M22…圧電素子 M221…下部電極 M222…圧電体 M223…上部電極 M23…吐出部 M24…振動板 M25…音響レンズ M26…圧力パルス収束部 M3…分散媒除去部 M31…ハウジング M311…縮径部 M4…水系懸濁液供給部(水系分散液供給部) M41…攪拌手段 M5…回収部 M7…ガス噴射口 M8…電圧印加手段 M10…ガス流供給手段 M101…ダクト M11…熱交換器 M12…圧力調整手段 M121…接続管 M122…拡径部 M123…フィルター M13…絞り部材 P…ポンプ 3…水系懸濁液(水系分散液) 31…分散質 32…分散媒(水系分散媒) 4…トナー母粒子 9…液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性液体中にトナー粒子が分散した正帯電性の液体現像剤であって、
前記トナー粒子は、主としてポリエステル樹脂で構成されたトナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した正帯電性の高分子分散剤とで構成されたものであることを特徴とする液体現像剤。
【請求項2】
前記高分子分散剤は、分子内にアミノ基を有するものである請求項1に記載の液体現像剤。
【請求項3】
前記高分子分散剤は、分子内にエステル構造を有するものである請求項1または2に記載の液体現像剤。
【請求項4】
前記高分子分散剤の含有量は、前記ポリエステル樹脂100重量部に対して、1〜20重量部である請求項1ないし3のいずれかに記載の液体現像剤。
【請求項5】
前記高分子分散剤の密度は、0.80〜1.00g/cmである請求項1ないし4のいずれかに記載の液体現像剤。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂は、その分子内に、−SO基を有するものである請求項1ないし5のいずれかに記載の液体現像剤。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂に含有されている前記−SO基のmol数が前記ポリエステル樹脂100gに対して0.001〜0.050molである請求項6に記載の液体現像剤。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂の酸価は、5〜20KOHmg/gである請求項1ないし7のいずれかに記載の液体現像剤。
【請求項9】
前記絶縁性液体は、主として植物油で構成されたものである請求項1ないし8のいずれかに記載の液体現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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