説明

液体肥料及びその製造方法

【課題】 植物の成長を促進し、果実あるいは葉のうま味を向上する液体肥料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、アラニンの量を多く含む液体肥料の製造方法であって、焼酎廃液と廃糖蜜を混合する工程、前記工程で得られた混合液を発酵する工程、を含む、液体肥料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状の焼酎粕(以下、「焼酎廃液」という。)を利用した液体肥料及びその製造方法に係り、更に詳しくは、廃糖蜜に加える水の代わりに焼酎廃液を使用し、製造された液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、特にアラニンの量を多く含む液体肥料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎製造の最終工程である蒸留工程で発生する焼酎廃液は、従来、海洋投棄によって処理されていた。しかし、投棄による海洋汚染防止に関するロンドン条約が発効されたことに伴い、焼酎廃液の新たな処理方法が大きな課題となっている。
【0003】
焼酎廃液の処理方法としては、焼酎廃液を粉体乾燥物として、医薬、食材、食品添加物、健康補助食品、飼料、飼料添加物、動物医薬、動物健康補助食品等に、直接あるいは原末として利用できるようにする方法(特許文献1)、焼酎廃液の濃縮液を含有する水産養殖用飼料とする方法(特許文献2)、甘藷焼酎廃液及びクロレラ抽出液から得られる発酵生成物を化粧料及び床材とする方法(特許文献3)、焼酎廃液からアミノ酸含有液とする方法(特許文献4)、粕養豚向けの飼料として処理する方法(非特許文献1)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−213157号公報
【0005】
【特許文献2】特開2006−87348号公報
【0006】
【特許文献3】特開2007−291051号公報
【0007】
【特許文献4】特開2009−268408号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三井造船技報No.193(2008−2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、焼酎廃液の処理方法については、数々提案されているが、有効利用の量はまだ少量であり、多くは高額な費用を要する廃水処理に頼っている。
従って、焼酎の生産に伴い、日々発生する焼酎廃液の他の処理方法を見出すことは、喫緊の解決課題である。
【0010】
焼酎廃液にアミノ酸が含まれていることは既に知られている。例えば特許文献1では、明細書の段落〔0024〕表3に示されており、特許文献3では、明細書の段落〔0009〕に開示されており、特許文献4では、明細書の段落〔0031〕、〔0032〕に開示されている。
【0011】
また、植物の生育にアミノ酸が効果的であることは、知られている(例えば、http://tamagoya.ocnk.net/product/54)。具体的には、イソロイシンは、植物の成長を促し、成熟を早める働きをする。果実や葉の旨味向上に効果がある。
ロイシンは、花・葉・果実の色を鮮やかにし、果実や葉の旨味向上に効果がある。
リジンは、植物の成長にとって必要な栄養素で、果実や葉の旨味の向上に効果がある。
フェニルアラニンは、植物の成長を促進し、果実や葉の旨味向上に効果がある。
バリンは、植物の成長において、特に根の成長を促進し、果実や葉の旨味・甘みの向上に効果がある。
アラニンは、植物の成長において、特に根の成長を促進し、果実や葉の旨味・甘みの向上に効果がある。
アスパラギン酸は、果実や葉の旨味・酸味の向上に効果がある。
グルタミン酸は、植物の成長において、特に根と実の成長を促進し、植物の抗菌性・耐寒性の向上に寄与する。果実や葉の旨味・酸味の向上に効果がある。
グリシンは、植物の耐霜性が向上し、果実や葉の旨味・甘みの向上に効果がある。
【0012】
ところで、砂糖(粗糖)を精製する過程で出る副産物である廃糖蜜を利用して液体肥料を製造する方法が、特許第4116786号公報に開示されている。
この液体肥料を製造するに当たっては、廃糖蜜に水を加えて糖分を調整する糖分調整工程を必要とする。
【0013】
本発明者は、廃糖蜜に加える水の代わりに、焼酎廃液を利用すれば、焼酎廃液の有効利用と、焼酎廃液の処理分野の拡大に貢献でき、しかも、前記のように、焼酎廃液がアミノ酸を含有することから、植物の成長を促進し、果実あるいは葉のうま味を向上する液体肥料が得られるのではないかとの着想を得た。
【0014】
そこで、廃糖蜜に焼酎廃液を加えて液体肥料を製造し、その効果を確認するためにほうれん草の株に対して生育試験を試みた。
廃糖蜜に焼酎廃液を加えて製造した液体肥料を試験区とし、比較のために、特許第4116786号公報記載の製造方法によって製造されたと思われる液体肥料を散布した株を比較区とし、水だけを散布した株を対照区とした。
なお、前記比較区に使用した液体肥料は、酢糖2号という商品名でファームテック株式会社(大分県佐伯市弥生大字大坂本1674番地)から販売されており、購入することができる。
【0015】
その結果、廃糖蜜に焼酎廃液を加えて液体肥料を散布した試験区は、比較区及び対照区と比較してほうれん草の発育が良く、葉のうま味も優れることが分かった。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0016】
(発明の目的)
本発明の目的は、植物の成長を促進し、果実あるいは葉のうま味を向上する液体肥料及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、新たな焼酎廃液の有効利用と、焼酎廃液の処理分野の拡大を可能とすることにある。
本発明その他の目的は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
(1)本発明は、液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、アラニンの量を多く含む液体肥料であって、焼酎廃液と廃糖蜜を混合した混合液を発酵させて得られた発酵生成物を含む、液体肥料である。
【0018】
(2)本発明は、液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、アラニンの量を多く含む液体肥料の製造方法であって、焼酎廃液と廃糖蜜を混合する工程、前記工程で得られた混合液を発酵する工程、を含む、液体肥料の製造方法である。
【0019】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎廃液6から8容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部であるのが好ましい。
更に好ましいのは、焼酎廃液と廃糖蜜の混合割合は、焼酎廃液が7容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部である。
【0020】
特に好ましいのは、焼酎廃液が7容量部に対して、廃糖蜜が3容量部である。
【0021】
前記発酵生成物に、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、モリブデン、ホウ素、亜鉛から選ばれた一種又は二種以上を添加すると、肥料としての効能がより効果的に発揮できるので好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、植物の成長を促進し、果実あるいは葉のうま味の向上が期待できる液体肥料及びその製造方法を提供できる。
また、焼酎廃液の有効利用と、焼酎廃液の処理分野の拡大が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例における液体肥料の製造の流れを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明で使用する廃糖蜜としては、サトウキビ、甜菜から砂糖(粗糖)を精製する過程で出る副産物を好適に使用することができる。
【0025】
本発明で使用する焼酎廃液としては、麦、米又は芋を原料とする焼酎の製造過程で発生する焼酎廃液が使用できる。
【0026】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎廃液6から8容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部であるのが好ましい。
更に好ましいのは、焼酎廃液と廃糖蜜の混合割合は、焼酎廃液が7容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部である。
廃糖蜜が2容量部未満の場合は、植物生育促進の効果が弱くなるので好ましくない。また、廃糖蜜が4容量部を超える場合は、発酵菌の働きが十分ではなく、多くの発酵時間を必要とするので好ましくない。
【0027】
図1は、本発明の実施例における液体肥料の製造の流れを表したフローチャートである。
焼酎廃液は篩い分けまたは濾過により固液分離を行う。固液分離後に、焼酎廃液によっては、発酵菌の増殖を促すためにpH調整を行う。焼酎廃液は、固液分離を行った後に精糖廃液を加える場合と草木灰でpH調整を行う場合がある。
【0028】
pH調整には、例えば草木灰、石灰、水酸化物、炭酸塩等が好適に用いられる。pH調整後に、計量し、発酵槽に入れる。
一方、廃糖蜜は、計量し、発酵槽に入れ、焼酎廃液と混合する。
【0029】
この状態で数日間静置しておくと、焼酎廃液に含まれる酵母菌によるアルコール発酵が始まる。焼酎は、減圧蒸留によって製造されるために、酵母菌が死滅せず、種菌の添加は必ずしも必要はない。
【0030】
発酵工程では、発酵中の液体を適宜撹拌しながら炭酸ガスを抜く。アルコール発酵が進んでいくと、次は乳酸発酵へと進み、有機酸量が増えていく。発酵が終了すると液体肥料ができあがる。
【0031】
発酵が終わった液体肥料を静置しておくと、上層と下層に分離する。上層の液は、例えば葉面散布剤(液体肥料A)とし、下層の液は、例えば土壌灌注剤(液体肥料B)とする。
表1は本実施例で製造した液体肥料Aおよび液体肥料Bの分析結果を示したものである。
その後計量し、容器に充填して製品とする。
【0032】
【表1】

【実施例】
【0033】
実施例1
麦焼酎の製造過程で生成する焼酎廃液7容量部と、サトウキビから砂糖を精製する過程で出る廃糖蜜3容量部を発酵槽に入れて混合し、常温にて発酵させた。
焼酎廃液は前処理として焼酎廃液中の夾雑物(麦の蔕)を、取り除いた。これは発酵を促進するためである。
【0034】
本実施例で使用した焼酎廃液は、八鹿酒造株式会社(大分県玖珠郡九重町大字右田3364番地)のものを使用した。焼酎廃液はBX11.5、pH3.9である。
【0035】
また、本実施例で使用した廃糖蜜は、第一糖業株式会社(宮崎県日向市日知屋17371)のものを使用した。その成分を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
混合液は、10日に一度撹拌機によって撹拌し、発酵を継続した。発酵開始から3〜4ヶ月間後に、混合液から気泡の発生がないこと、及び混合液の糖度がBX25以下、pHが4.0〜4.5であること、を確認し、発酵工程を終了した。その後10μの濾過布で微細な夾雑物を取り除き、液体肥料を得た。この液体肥料に含まれる肥料成分の分析値を表3に、アミノ酸の分析値を表4に示す。
また、前記酢糖2号を比較例とした。
肥料成分の分析は、大分県産業科学技術センターで行い。アミノ酸の分析は、財団法人日本分析センターで行った。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
何れの測定も、BX測定器としては、ポケット糖度計PAL−1(株式会社アタゴ 東京都板橋区本町32−10)を、pH測定器としては、ニッソーPHメーター(株式会社マルカン ニッソー事業部 埼玉県さいたま市大宮区宮町3−11−4)を使用した。
【0041】
表4から分かるように、実施例1で得られた液体肥料に含まれるアミノ酸中のアラニンの量が、前記した特許文献1、特許文献3及び特許文献4で開示されている一般的な焼酎廃液に含まれるアミノ酸中のアラニンの量に対して特に多くなっている。また、酢糖2号のアラニン含有量と比較しても多いことは明らかである。
【0042】
この原因としては、原料物質の一つである廃糖蜜に含まれるアミノ酸の影響が考えられる。
廃糖蜜のうち、甘藷糖蜜における含有アミノ酸に関しては、Rf値で、イソロイシン0.65、アラニン0.39、グルタミン酸0.32、アスパラギン酸0.26という報告があり(甜菜副産物の飼料的利用に関する研究:第5報廃糖蜜のサイレージ添加物としての効果について―帯広畜産大学栄養学研究室―http://ci.nii.ac.jp/els/110006456640.pdf?id=ART0008472265&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1313655122&cp=)、アラニンの量が特に多いとはいえない。
【0043】
前記報告は、甘藷糖蜜に関するものであるが、サトウキビを原料とする廃糖蜜についても、大きくは異ならないものと考えられる。
【0044】
従って、実施例1で得られた液体肥料の場合は、発酵過程において原料物質に何らかの作用が働き、アミノ酸中のアラニンの量が多くなったものと考えられる。
この結果液体肥料を施した植物は、植物の成長を促進することが期待できる。
そこで下記の試験を行った。
【0045】
1.試験目的
実施例1で得られた液体肥料を菓面散布および土壌灌注することにより、ほうれん草の収量、他について比較検討する。
2.試験場所
大分市大字種具1092−1 株式会社ハヤミ産業試験圃場
3.試験概要
1) 品種名 アクティブ法蓮草
2) 播種日 平成23年3月8日
3) 収穫日(調査日) 平成23年4月18日
4) 試験区 水だけを散布した対照区、実施例1の液体肥料施用の試験区、
酢糖2号施用の比較区の三区を設定
4.試験方法
1) 元肥施用量(10aあたり)
バーク堆肥 250kg
元肥(ロング120;商品名)(窒素12%,リン酸12%,カリ11%,苦土1.5%)100kg
2) 実施例1の液体肥料、酢糖2号の散布日
平成23年3月19日(1回目)
平成23年3月29日(2回目)
3) 収穫日(調査日)
平成23年4月18日
4) 調査方法
各試験区より無作為に16株サンプリングし、大きい方より3株、小さい方より3株を除き、平均的な10株をそれぞれ調査し、その平均値を求め試験値とした。
5.試験結果及び考察
実施例1の500倍液、酢糖2号500倍液を2回葉面散布及び土壌灌注処理を行い4月18日に調査しその効果を検討した。
その結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
表5から分かるように、試験値からも対照区を100とした場合、重量で117、葉部長さも115と大きな差が認められた。
又、糖度をみてみると他の区と比べても高くなっている。これは成分である多く含まれているアミノ酸、特にアラニンの効果ではないかと考えられる。
これらの結果より、ほうれん草に対する実施例1で製造された液体肥料の効果は大きいことがわかる。
また、アラニンの量が多いことから果実あるいは葉のうま味を向上することが十分期待される。
【0048】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、アラニンの量を多く含む液体肥料であって、
液状の焼酎粕と廃糖蜜を混合した混合液を発酵させて得られた発酵生成物を含む液体肥料。
【請求項2】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎廃液6から8容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部である、請求項1記載の液体肥料。
【請求項3】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎粕が7容量部に対して、廃糖蜜が3容量部である、請求項2記載の液体肥料。
【請求項4】
請求項1で得られた発酵生成物に、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、モリブデン、ホウ素、亜鉛から選ばれた一種又は二種以上を添加することを特徴とする液体肥料。
【請求項5】
液体肥料中に含まれる含有アミノ酸のうち、アラニンの量を多く含む液体肥料の製造方法であって、
液状の焼酎粕と廃糖蜜を混合する工程、
前記工程で得られた混合液を発酵する工程、
を含む、
液体肥料の製造方法。
【請求項6】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎廃液6から8容量部に対して、廃糖蜜が2から4容量部である、請求項5記載の液体肥料の製造方法。
【請求項7】
液状の焼酎粕と廃糖蜜の混合割合は、液状の焼酎粕が7容量部に対して、廃糖蜜が3容量部である、請求項5記載の液体肥料の製造方法。
【請求項8】
請求項5の工程に、更に、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄、モリブデン、ホウ素、亜鉛から選ばれた一種又は二種以上を添加する工程を含む、
液体肥料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43800(P2013−43800A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182244(P2011−182244)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(511206478)
【Fターム(参考)】