説明

液体試料測定方法および装置

【課題】温度による測定精度への影響を考慮し、測定誤差を低減化することができる液体試料測定方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 種類の異なる、複数のバイオセンサ30のいずれか一つを装着し、前記バイオセンサ30に点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定装置21において、バイオセンサ30を装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間を計測する時間計測手段122と、時間計測手段122により計測された時間に基づいて、バイオセンサ30に点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果の測定値を補正する測定結果補正手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサを用いて液体試料中の特定成分を定量する液体試料測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは、微生物、酵素、抗体等の生物材料の分子認識能力を利用し、生物材料を分子識別素子として応用したセンサである。すなわち、固定化された生物材料が、目的の特定成分を認識したときに起こる反応、微生物の呼吸による酸素の消費、酵素反応、発光などを利用したものである。特に、酵素反応を利用したバイオセンサの実用化は進んでおり、医療分野や食品分野に利用されている。
【0003】
以下、酵素反応を利用したバイオセンサ測定システムの一例について図13を用いて説明する。
【0004】
バイオセンサ測定システム20は、その先端に試料点着部30aを有するバイオセンサ30と、試料点着部30aに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する測定装置21とを備えている。
【0005】
測定装置21は、測定結果を表示する表示部22と、バイオセンサ30を装着する支持部23とを備えている。
【0006】
上記バイオセンサ30は、例えば、図14に示すように、カバー31と、スペーサ33と、試薬層35と、絶縁性基板36とを積層してなるものである。上記カバー31は、その中央部に空気孔32を有している。上記スペーサ33は、略長方形状の試料供給路34を有している。上記試薬層35は、液体試料中の特定成分と酵素反応する試薬を担持している。上記絶縁性基板36は、ポリエチレンテレフタレート等からなり、その表面には電極層が形成されている。該電極層は、レーザ等によって分割され、作用極37,検知極38,および対極39が形成されている。
【0007】
次に、バイオセンサ測定システム20の液体試料測定方法について説明する。ここでは、血液中のグルコース濃度を測定する場合について説明する。
【0008】
バイオセンサ30を、測定装置21の支持部23に挿入すると、作用極37と対極39間に一定電圧が印加される。
【0009】
血液をバイオセンサ30の試料点着部30aに点着すると、血液は毛細管現象によって試料供給路34に沿って浸透し、試薬層35に到達すると、血液中のグルコースと試薬層35に担持されている試薬とが酵素反応を起こす。このとき生じる、作用極37と対極39間の電流変化値を検知する。そして、検知した電流変化値に基づいて、血液中のグルコース濃度を算出し、算出結果を測定装置21の表示部22に表示させる。
【0010】
ところで、酵素反応は温度依存性が大きいため、測定時の温度変化等により測定精度が悪くなる。
【0011】
そこで、測定精度を向上させるべく、予め準備されたグルコース濃度と温度補正量との関係を示す温度補正テーブルを用いて測定時の環境温度に応じて測定結果を補正する温度補正アルゴリズムを測定装置に搭載したバイオセンサ測定システムが提案されている(特許文献1)。
【0012】
さらに測定精度を改善するものとして、バイオセンサ30の絶縁性基板36上に熱伝導層を設けてバイオセンサ自体の温度を測定し、該バイオセンサ自体の温度に基づいて測定結果に補正を施すバイオセンサ測定システム(特許文献2、3)や、測定装置21の支持部23に温度検出部を設け、支持部23に装着されたバイオセンサ30を温度検出部に接触させることにより、バイオセンサ30自体の温度を測定し、該バイオセンサ自体の温度に基づいて測定結果に補正を施すバイオセンサ測定システム(特許文献4)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表平8―503304号公報
【特許文献2】特開2001―235444号公報
【特許文献3】特開2003―42995号公報
【特許文献4】国際公開第2003/062812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1で開示されるような、従来のバイオセンサ測定システムに搭載されている温度補正アルゴリズムは、実際のサンプル温度を測定するのではなく、測定装置周辺の環境温度を測定し、この値をサンプルの温度とみなして測定を行なっている。しかし、現在一般的に利用されているバイオセンサは、使用者が素手で取り扱うものが多く、使用者の指先熱がバイオセンサに伝導して局所的に温度が変化し、実際のサンプル温度と周辺温度が異なることがある。特に、糖尿病患者向けの自己血糖測定システムにおいて、使用者は、センサを直接手で測定装置へ挿入する。近年、このような自己血糖測定用センサは小型化が進み、その殆どが、センサを測定装置へ挿入する際に、試薬反応部周辺に手が触れる構造となっている。このような状態で検体の測定を開始すると、測定装置のサーミスタにより読み取った周辺の環境温度とサンプル温度が異なるため、適正な補正処理を施すことができず、大きく真値から剥離した値を示してしまう、という問題が生じる。特に、バイオセンサを測定装置に装着後すぐに検体測定を行なう場合、例えば、看護士やオペレータが患者の検体を測定する場合や、糖尿病の子供を持つ親が測定を補助する場合に、このような問題が頻発することが考えられ、より測定精度の改善が大きな課題の一つであった。
【0015】
また、特許文献2,3で提案されているバイオセンサ測定システムは、バイオセンサ自体の温度を把握することができるが、バイオセンサ自体にサーミスタを設ける必要があるため、バイオセンサが高価なものとなり、使い捨てのバイオセンサの場合には実用的ではない。さらに、熱伝導層による温度測定に依存するため、再現性に乏しく、長時間の測定時間を要する。
【0016】
また、特許文献4で提案されているバイオセンサ測定システムは、測定装置に温度検出部を設ける必要があり、コストがかかると同時に特に短時間測定時には測定精度が悪くなる恐れがある。
【0017】
さらに、近年のバイオセンサ測定システムは、測定時間が短縮される傾向にある。例えば、血糖値測定では、血液をセンサに点着後、約5秒で測定を終了している。そのため、周辺環境温度だけでなく、実際の反応部の温度が測定結果に与える影響が大きくなり、より測定精度の高いバイオセンサ測定システムが望まれている。
【0018】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、簡単な構成で、温度による測定精度への影響を考慮し、測定誤差を低減化することができる液体試料測定方法および装置を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1にかかる液体試料測定方法は、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを測定装置に装着し次に、前記バイオセンサの試料点着部に液体試料を点着することで、この液体試料が試料供給路を介して試薬層に供給された状態において、試薬層の作用極と対極間の電流変化値により、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、前記バイオセンサを上記測定装置に装着した状態をスイッチにより判別し、このスイッチによるバイオセンサの装着検出時から、前記作用極と対極間の電流変化を電流/電圧変換回路によって検出することで、前記試薬層への液体試料の到達を検出し、前記バイオセンサの装着検出時から、前記試薬層への液体試料の検出までの時間を計測し、この計測時間と、測定の環境の温度とを計測し、前記バイオセンサを前記測定装置に装着してから前記試薬層への液体試料の検出までの計測時間に基づいて、前記計測した環境温度を補正し、前記補正した環境温度に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液体試料測定方法によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを測定装置に装着し、該センサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、上記バイオセンサを上記測定装置に装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測し、上記計測した時間に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行うようにしたので、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合に高精度の測定結果を得ることができる。
【0021】
また、本発明の液体試料測定方法によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを測定装置に装着し、該センサに点着された液体試料中の複数の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、上記バイオセンサを上記測定装置に装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測し、上記計測した時間に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の複数の特定成分の濃度の測定結果に対し、それぞれ測定値の補正を行うようにしたので、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合に高精度の測定結果を得ることができる。
【0022】
また、本発明の液体試料測定方法によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサをそれぞれ測定装置に装着し、該センサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、上記バイオセンサを上記測定装置に装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測し、上記計測した時間および上記バイオセンサの種類に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行うようにしたので、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合に高精度の測定結果を得ることができる。
【0023】
また、本発明の液体試料測定方法によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを測定装置に装着し、該センサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、上記バイオセンサを上記測定装置に装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間と、環境温度とを計測し、上記バイオセンサを上記測定装置に装着してから試薬層への液体試料の検出までの計測時間に基づいて、上記環境温度を補正し、上記補正後の環境温度に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、その測定値の補正を行うようにしたので、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合に高精度の測定結果を得ることができる。
【0024】
また、本発明の液体試料測定装置によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを装着し、該センサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定装置において、上記バイオセンサを装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測する時間計測手段と、上記時間計測手段により計測された時間に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果を補正する測定結果補正手段と、を備えたことより、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合にも測定精度を向上させることのできる装置を実現可能である。
【0025】
また、本発明の液体試料測定装置によれば、種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを装着し、該センサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定装置において、上記バイオセンサを装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測する時間計測手段と、測定の環境の温度を測定する温度センサーと、上記時間計測手段によって計測した時間に基づいて、上記温度センサーにより計測した上記環境温度を補正する温度補正手段と、上記補正した環境温度に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行う測定結果補正手段と、を備えた、ことより、液体試料中の特定成分の濃度を測定する際に、周辺温度およびセンサ自体の温度が測定結果に影響を及ぼすのを防止し、測定時間が短時間である場合にも測定精度を向上させることのできる装置を実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1によるバイオセンサ測定システムの構成例を示す図である。
【図2】図2は、上記実施の形態1のバイオセンサ測定システムによる、液体試料測定方法を示す図である。
【図3】図3(a)は、従来のバイオセンサ測定システムを用いた場合のセンサ応答値を示すグラフであり、図3(b)は、上記実施の形態1のバイオセンサ測定システムを用いた場合のセンサ応答値を示すグラフである。
【図4】図4は、上記実施の形態1のバイオセンサ測定システムにおいて、バイオセンサに点着された検体中の特定成分の濃度の測定結果に対し補正を行う際に用いる補正テーブルの一例を示す図である。
【図5】図5は、上記実施の形態1のバイオセンサ測定システムにおいて、バイオセンサに点着される検体が血液である場合に、該血液中の特定成分の濃度の測定結果に対し補正を行う際に用いる補正テーブルの一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2のバイオセンサ測定システムによる液体試料測定方法を示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3によるバイオセンサ測定システムの構成例を示す図である。
【図8】図8は、上記実施の形態3のバイオセンサ測定システムにおける、バイオセンサの構成の一例を示す分解斜視図である。
【図9】図9は、上記実施の形態3のバイオセンサ測定システムによる、液体試料測定方法を示す図である。
【図10】図10は、上記実施の形態3のバイオセンサ測定システムにおいて、バイオセンサに点着された検体中の乳酸濃度の測定結果に対し補正を行う際に用いる補正テーブルの一例を示す図である。
【図11】図11(a)は、従来のバイオセンサ測定システムを用いた場合のグルコース応答値を示すグラフであり、図11(b)は、従来のバイオセンサ測定システムを用いた場合の乳酸応答値を示すグラフである。
【図12】図12(a)は、上記実施の形態3のバイオセンサ測定システムを用いた場合のグルコース応答値を示すグラフであり、図12(b)は、上記実施の形態3のバイオセンサ測定システムを用いた場合の乳酸応答値を示すグラフである。
【図13】図13は、従来のバイオセンサ測定システムの一例を示す図である。
【図14】図14は、バイオセンサの構成の一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(実施の形態1)
以下に、本発明の実施の形態1によるバイオセンサ測定システムについて説明する。ここでは、検体として血液を用いた。
【0028】
図1は、本実施の形態1のバイオセンサ測定システムの構成を示す図である。
【0029】
本実施の形態1のバイオセンサ測定システム100aは、バイオセンサ30と測定装置110aとを備えている。このバイオセンサ測定システム100aの外観は、図13に示す従来のものと同じであり、測定装置110aには、測定結果を表示する表示部と、バイオセンサを装着する支持部とが設けられている。
【0030】
バイオセンサ30は、図14に示すように、カバー31と、スペーサ33と、試薬層35と、絶縁性基板36とを積層してなるものである。上記カバー31は、その中央部に空気孔32を有している。上記スペーサ33は、略長方形状の試料供給路34を有している。上記試薬層35は、液体試料中の特定成分と酵素反応する試薬を担持している。上記絶縁性基板36は、ポリエチレンテレフタレート等からなり、その表面には電極層が形成されている。該電極層は、レーザ等によって分割され、作用極37,検知極38,および対極39が形成されている。
【0031】
測定装置110aは、表示部111と、コネクタ112,113,114と、切替回路115と、電流/電圧変換回路116と、A/D変換回路117と、CPU118と、基準電圧源119と、温度センサー120と、RAM121と、時間計測手段(タイマー)122とを備えている。
【0032】
コネクタ112,113,114はそれぞれ、バイオセンサ30の作用極37,検知極38,対極39と接触する。切替回路115は、コネクタ112〜114と基準電圧源119間の接続、コネクタ112〜114と電源/電圧変換回路116間の接続を切り替える。電流/電圧変換回路116は、作用極37とその他の電極38,39間に流れる電流を電圧に変換する。A/D変換回路117は、電流/電圧変換回路116からの出力値をパルスに変換する。CPU118は、A/D変換回路117からのパルスに基づいて液体試料中の特定成分の濃度を算出する。基準電圧源119は、コネクタ112〜114間に電圧を印加する。温度センサー120は、測定の環境の温度を測定する。タイマー122は、測定装置110aの支持部にバイオセンサ30を装着してから該センサ30に液体試料が点着されるまでの時間を計測する。RAM121は、環境温度に基づいてバイオセンサ30に点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対する補正量を決定するための温度補正テーブル(図示せず)と、バイオセンサ30を測定装置110aにセットしてから検体導入検知までの時間に基づいて上記バイオセンサ30に点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対する補正の補正量を決定するための補正テーブル(図3,図4参照)とを格納している。なお、この補正テーブルを格納するためにROMを用いても良い。
【0033】
以下に、本実施の形態1のバイオセンサ測定システム100aの特長を、従来のものと比較して述べる。
【0034】
従来のバイオセンサ測定システム20は、グルコース濃度と環境温度とに基づいた補正量を示す温度補正テーブルを測定装置21に予め格納させておき、バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に、上記温度補正テーブルを用いた温度補正を行なっているが、測定開始までの時間に応じて以下のような問題が生じていた。
【0035】
図3(a)に、従来のバイオセンサ測定システム20による測定結果を示す。横軸は、バイオセンサ30を測定装置21に装着してから該センサ30に血液が点着されるまでの時間T(秒)を示し、縦軸は、真値からの乖離度(%)を示している。ここでは、環境温度は25℃、グルコース濃度100mg/dl(ヘマトクリット値40%)に調製された検体を用いて測定を行なった。このとき、指先温度の異なる6人のドナーを用いてバイオセンサ30を測定装置21に装着し、該センサ30の装着後、検体が点着されるまでの時間Tを0.01〜30秒の間で測定した。
【0036】
図3(a)から分かるように、時間Tが短時間であるほど、真値からの乖離度が大きい。つまり、指先熱が測定結果に影響を及ぼしていると考えられる。
【0037】
これに対し、本実施の形態1のバイオセンサ測定システム100aは、バイオセンサ30を測定装置110aに装着してから該センサ30に血液が点着されるまでの時間Tに基づいて、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果(この測定結果は、温度補正後の値である)に対し、補正を行う。
【0038】
血液中のグルコース濃度の測定結果に対する補正の補正量については、真値からの乖離度に基づいて決定する。例えば、時間Tが1.0秒のとき、図3(a)を見ると、真値からの乖離度が+14%であるため、温度25℃でグルコース濃度が100mg/dlの場合の補正量を−12%と決定し、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対して補正を行う。また、時間Tが5.0秒のときは補正量を−9%として、時間Tが15.0秒のときは補正量を−2%とし、上記測定結果に対して補正を行う。
【0039】
このように、時間Tに基づいて、バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対し、その補正を行うことで、図3(b)に示すように、時間Tが20秒以内であっても、真値からの乖離度をできるだけ抑え、測定精度を向上させることができる。
【0040】
また、本実施の形態1のバイオセンサ測定システム100aでは、測定精度を飛躍的に向上させるため、図4に示したように、時間Tだけでなく、グルコース濃度、環境温度も補正パラメータとして追加している。指先熱による測定結果への影響は、グルコース濃度、環境温度に応じて異なるためである。
【0041】
図4(a)は、時間Tが1.0秒のときの補正量(%)を示す補正テーブル、図4(b)は、時間Tが5.0秒のときの補正量(%)を示す補正テーブル、図4(c)は、時間Tが15.0秒のときの補正量(%)を示す補正テーブルである。縦軸は、グルコース濃度を示し、横軸は、温度を示している。なお、図4に示すテーブル数値は一例であって、補正量はこれに限定されない。また、テーブル数もここで示すものに限られず、テーブル数の数が多いほど、測定精度を向上させることができる。
【0042】
次に、図4に示す補正テーブル用いた場合の補正量の算出方法について説明する。
【0043】
例えば、環境温度が25℃、最終応答値が100mg/dl、時間Tが1.0秒であった場合、図4(a)より、補正量は−12%であることが分かる。また、時間Tが5.0秒であるときは、図4(b)より補正量は−9%、時間Tが15.0秒のときは、図4(c)より補正量は−2%であることが分かる。
【0044】
また、時間Tが3.0秒であった場合、T=1.0秒のときの該当補正量(−12%)と、T=5.0秒のときの該当補正量(−9%)を直線回帰させることで、T=3.0秒のときの補正量を−10.5%と算出する。
【0045】
また、液体試料が血液である場合、該血液のヘマトクリット値により指先熱の影響が変化する。そこで、図5に示すように、ヘマトクリット値を新たに補正パラメータとして追加した補正テーブルを、上述の図4に示す補正テーブルと組み合わせて補正処理に用いることで、測定精度を改善することができる。図5は、ヘマトクリット値とグルコース濃度との関係から補正率を決定するための補正テーブルを示している。なお、図5に示すテーブル数値は一例であって、補正量はこれに限定されない。また、グルコース濃度、ヘマトクリット値もここで示すものに限定されない。
【0046】
なお、本実施の形態1では、グルコース濃度を測定する場合に、ヘマトクリット値を第2の特定成分として用いた場合について説明したが、アスコルビン酸、尿酸、アセトアミノフェン等の昜酸化性の物質群を第2の特性成分として用いても良く、さらには、指先熱の影響度に変化を与えるその他の素因を第2の特定成分として用いても良い。
【0047】
次に、本実施の形態1のバイオセンサ測定システム100aにおける、液体試料測定方法について説明する。
【0048】
バイオセンサ30を測定装置110aの支持部にセットすると、支持部内のスイッチによってバイオセンサ30が装着されたか否かが判別される。バイオセンサ30が装着されたことを検知すると、測定装置110aの電源が自動的にONとなる(ステップS201)。そして、温度センサー120で環境温度を測定し(ステップS202)、測定装置110aは、検体導入待機状態となる(ステップS203)。検体導入待機状態とは、基準電圧源119からコネクタ112〜114へ電圧印加を開始、電流/電圧変換回路116により電流測定を開始、および、タイマー122により、バイオセンサ30を装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間の計測を開始した後の状態のことをいう。
【0049】
本実施の形態1では、バイオセンサ30の装着により測定装置110aの電源が自動的にONとなる場合について述べたが、測定装置110aの電源を手動でONとした場合にも、同様にしてバイオセンサ30が装着されたか否かが判別され、検体導入待機状態となる。そして、タイマー122により、バイオセンサ30を装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間の計測を開始すれば、同様の効果が得られる。
【0050】
検体である血液がバイオセンサ30に点着されると、電流/電圧変換回路116により電流値の変化を読み取ることで、該センサ30に検体が導入(点着)されたことを検知する(ステップS204)。検体導入の検知により、タイマー122によるカウントを終了し(ステップS205)、バイオセンサ30が測定装置110aに装着されてから試薬層35への液体試料の検出までの時間Tを算出する(ステップS206)。
【0051】
そして、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度を算出する(ステップS207)。このとき、ステップS202で測定した環境温度に基づいて、RAM121に格納されている温度補正テーブルから補正量を求め、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に補正を行う。
【0052】
その後、ステップS206で算出した時間Tに基づいて、ステップS207で算出したグルコース濃度値に補正を施すかどうかを判断する(ステップS208)。
【0053】
この判断は、例えば、各パラメータが以下に示す範囲内にある場合に補正を施すよう予め設定しておく。
【0054】
時間Tは、0.01〜60秒の範囲で補正するよう設定する。好ましくは0.01〜30秒、より好ましくは0.01〜20秒の範囲で補正すると良い。なお、時間Tの読み取り間隔は、1秒毎に測定するようにする。好ましくは0.1秒毎、より好ましくは0.01秒毎に測定すると良い。
【0055】
グルコース濃度は、10〜800mg/dlの範囲で補正するよう設定する。好ましくは10〜400mg/dl、より好ましくは10〜250mg/dlの範囲で補正するのが良い。
【0056】
環境温度は、5〜45℃の範囲で補正するよう設定する。好ましくは10〜40℃、より好ましくは15〜35℃の範囲で補正すると良い。
【0057】
検体が血液である場合、ヘマトクリット値が0〜70%の範囲で補正するよう設定する。好ましくは15〜70%、より好ましくは30〜70%の範囲で補正すると良い。ヘマトクリット値の算出は、グルコース濃度の算出(ステップS207)以前に実施されることが好ましく、より好ましくは算出されたヘマトクリット値に基づいて、グルコース濃度を補正することである。また、ヘマトクリット値はバイオセンサで測定されることに限らず、例えば、予め大型測定装置によりヘマトクリット値を算出し、算出された値を測定器へ入力するようにしても良い。
【0058】
ステップS208において、測定値の補正を施すと判断した場合は、図4に示す補正テーブルから、バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対する補正量を求め、該測定結果を補正する(ステップS209)。該補正された値は、検体である血液中に含まれるグルコース濃度として測定装置110aの表示部に表示される(ステップS210)。ここで、時間Tにより測定結果の信頼性が乏しいと判断される場合、測定結果を表示せずエラー表示を行うようにしてもよいし、測定結果の信頼性が低い旨を表示するようにしてもよい。
【0059】
一方、ステップS208において、測定値の補正を施す必要がないと判断した場合は、ステップS210に進み、ステップS207で算出された値をそのまま表示する。なお、本実施の形態1では、時間Tが20秒を越える場合には、補正を行う必要がないと判断する。
【0060】
以上のような操作を行うことによって、より信頼性の高い補正を行うことが可能となる。
【0061】
このように、本実施の形態1による液体試料測定方法および装置では、バイオセンサ30を測定装置110aに装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間Tを計測し、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対し、上記計測した時間Tに基づいて、測定値の補正を行うようにしたので、指先熱による測定結果への影響を防止し、測定時間が短時間である場合でも高精度の測定結果を得ることができる。また、バイオセンサ30自体の温度を測定するための温度センサーを新たに設けることなく、高精度の測定装置を低コストで実現可能である。
【0062】
また、本実施の形態1では、バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対する測定値の補正量を決定するための補正パラメータとして、計測時間Tだけでなく、グルコース濃度、ヘマトクリット値、環境温度などを追加することにより、測定精度を飛躍的に向上させることができる。
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2によるバイオセンサ測定システムについて説明する。
【0063】
本実施の形態2のバイオセンサ測定システムは、バイオセンサを測定装置に装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間Tに基づき環境温度を補正し、該補正した環境温度に基づいて上記バイオセンサに点着された検体中の特定成分の濃度の測定結果に対し、補正を行うようにしたものである。
【0064】
なお、本実施の形態2のバイオセンサ測定システムの構成は、図1に示す上記実施の形態1と同じである。
【0065】
以下に、本実施の形態2のバイオセンサ測定システムにおける、液体試料測定方法について図6を用いて説明する。
【0066】
バイオセンサ30を測定装置110aの支持部にセットすると、支持部内のスイッチによってバイオセンサ30が装着されたか否かが判別される。バイオセンサ30が装着されたことを検知すると、測定装置110aの電源が自動的にONとなる(ステップS601)。そして、温度センサー120で環境温度を測定し(ステップS602)、測定装置110aは、検体導入待機状態となる(ステップS603)。検体導入待機状態とは、基準電圧源119からコネクタ112〜114へ電圧印加を開始、電流/電圧変換回路116により電流測定を開始、および、タイマー122により、バイオセンサ30を装着してから該センサ30に検体が点着されるまでの時間の計測を開始した後の状態のことをいう。
【0067】
検体である血液がバイオセンサ30に点着されると、電流/電圧変換回路116により電流値の変化を読み取ることで、試薬層35への液体試料の検出されたことを検知する(ステップS604)。検体導入の検知により、タイマー122によるカウントを終了し(ステップS605)、バイオセンサ30が測定装置110aに装着されてから検体導入待機状態から検体導入検知までの時間Tを算出する(ステップS606)。
【0068】
そして、ステップS606にて算出した時間Tに基づいて、ステップS602で測定した温度に対し、補正を行うか否かを判断する(ステップS607)。ステップS607において、補正を施すと判断した場合はステップS608に進み、ステップS602において測定した温度を補正し、該補正後の温度を環境温度とし、ステップS609に進む。一方、ステップS607において、補正を施す必要がないと判断した場合、ステップS602において測定した温度を環境温度とし、ステップS609に進む。
【0069】
ここで、ステップS607の判断は、例えば、時間Tが0.01〜60秒の範囲で補正するよう設定する。好ましくは0.01〜30秒、より好ましくは0.01〜20秒の範囲で補正すると良い。なお、時間Tの読み取り間隔は、1秒毎に測定するようにする。好ましくは0.1秒毎、より好ましくは0.01秒毎に測定すると良い。
【0070】
例えば、環境温度25℃で測定を行った場合、時間T=1.0(秒)のとき、測定温度の補正量を+4℃とし、環境温度を29℃とし、時間T=5.0(秒)のとき、測定温度の補正量を+3℃とし、環境温度を28℃とし、時間T=15.0(秒)のとき、測定温度の補正量を+1℃とし、環境温度を26℃とする。一方、時間T=20.0(秒)のとき、指先熱による測定結果への影響は極めて小さいため、補正を行う必要は無いと判断とし、ステップS602の測定温度を環境温度とする。
【0071】
そして、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度を算出する(ステップS609)。このとき、ステップS607で補正すると判断した場合はステップS608で補正処理された温度に基づいて、あるいは、ステップS607で補正する必要がないと判断した場合はステップS602で測定した温度に基づいて、RAM121に格納されている温度補正テーブルから補正量を求め、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に補正を行う。
【0072】
ステップS609で算出されたグルコース濃度は、検体である血液中に含まれるグルコース濃度として測定装置110aの表示部に表示される(ステップS610)。
【0073】
このように、本実施の形態2の液体試料測定方法および装置では、バイオセンサ30を測定装置110aに装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間Tを測定するのに加え、さらに環境温度を測定し、この環境温度を、上記時間Tに基づいて補正し、該補正後の環境温度に基づいて、上記バイオセンサ30に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行うようにしたので、上記実施の形態1と同様に、指先熱による測定結果への影響を防止し、測定時間が短時間である場合にも高精度の測定結果を得ることができる。また、バイオセンサ30自体の温度を測定するための温度センサーを新たに設けることなく、高精度の測定装置を低コストで実現可能である。
【0074】
なお、上記実施の形態1,2では、バイオセンサ30は電極式センサである場合について説明したが、光学式センサであっても良い。
【0075】
また、上記実施の形態1,2では、測定対象物質として血糖について説明したが、これに限定されず、コレステロール、トリグリセリド、乳酸、尿酸、ビリルビン、アルコールなどの生体内サンプルや環境サンプル、食品サンプル等であっても同様の効果が得られる。
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3によるバイオセンサ測定システムについて説明する。ここでは、検体として血液を用い血液中の特定成分としてグルコース濃度と乳酸濃度を一つのセンサ中で同時に測定を行う場合について述べる。
【0076】
本実施の形態3のバイオセンサ測定システムは、バイオセンサを測定装置に装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間Tに基づいて上記バイオセンサに点着された検体中の特定成分の濃度の測定結果に対し、それぞれの特定成分に最適な補正を行うようにしたものである。
【0077】
図7は、本実施の形態3によるバイオセンサ測定システムの構成を示す図である。図7において、図1と同一構成要素については同一符号を付している。
【0078】
本実施の形態3のバイオセンサ測定システム100bは、バイオセンサ700と、測定装置110bとを備えている。このバイオセンサ測定システム100bの外観は、図13に示す従来のものと同じであり、測定装置110bには、測定結果を表示する表示部と、バイオセンサを装着する支持部とが設けられている。
【0079】
測定装置110bは、表示部111と、コネクタ123,124,125,126,127と、切替回路115と、電流/電圧変換回路116と、A/D変換回路117と、CPU118と、基準電圧源119と、温度センサー120と、RAM121と、タイマー122とを備えている。
【0080】
コネクタ123,124,125,126,127はそれぞれ、バイオセンサ700の乳酸測定用作用極707、グルコース測定用作用極708、検知極709、グルコース測定用対極710、乳酸測定用対極711と接触する。
【0081】
バイオセンサ700は、図8に示すように、その中央部に空気孔702を有するカバー701と、試料点着部700aに点着された液体試料を導入する、略長方形状の試料供給路704を有するスペーサ703と、試薬層705および706と、絶縁性基板712とを積層してなる。
【0082】
試薬層705は、液体試料中の乳酸と酵素反応する試薬を担持している。試薬層706は、液体試料中のグルコースと酵素反応する試薬を担持している。絶縁性基板712は、その表面に、乳酸測定用作用極707、グルコース測定用作用極708、検知極709、グルコース測定用対極710、及び乳酸測定用対極711よりなる電極層が形成されている。
【0083】
このバイオセンサ700がバイオセンサ30と異なる点は、乳酸測定用の試薬層705と、グルコース測定用の試薬層706の2種類が配置されている点、乳酸測定用作用極707と乳酸測定用対極711で乳酸測定を行い、グルコース測定用作用極708とグルコース測定用対極710でグルコース測定を行い、それぞれの測定における検体検知は検体検知極709を併用して行うようにした点である。
【0084】
以下に、本実施の形態3のバイオセンサ測定システム100bにおける、液体試料測定方法について図9を用いて説明する。
【0085】
バイオセンサ700を測定装置110bの支持部にセットすると、支持部内のスイッチによってバイオセンサ700が装着されたか否かが判別される。バイオセンサ700が装着されたことを検知すると、測定装置110bの電源が自動的にONとなる(ステップS801)。そして、温度センサー20で環境温度を測定し(ステップS802)、測定装置110bは、検体導入待機状態となる(ステップS803)。検体導入待機状態とは、基準電圧源119からコネクタ123〜127へ電圧印加を開始、電流/電圧変換回路116により電流測定を開始、および、タイマー122により、バイオセンサ700を装着してから該センサ700に検体が点着されるまでの時間の計測を開始した後の状態のことをいう。
【0086】
検体である血液がバイオセンサ700に点着されると、電流/電圧変換回路116により電流値の変化を読み取ることで、該センサ700に検体が導入(点着)されたことを検知する(ステップS804)。検体導入の検知により、タイマー122によるカウントを終了し(ステップS805)、バイオセンサ700が測定装置110bに装着されてから検体導入待機状態から検体導入検知までの時間Tを算出する(ステップS806)。
【0087】
そして、上記バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度(ステップS807)と乳酸濃度を算出する(ステップS808)。このとき、ステップS802で測定した環境温度に基づいて、RAM121に格納されている温度補正テーブルから補正量を求め、上記バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度と乳酸濃度の測定結果に補正を行う。この時、グルコース濃度補正用の温度補正テーブルと、乳酸濃度補正用の温度補正テーブルにより補正を行うことが好ましい。測定対象物質によって、それぞれ環境温度の影響は異なるからである。
【0088】
その後、ステップS806で算出した時間Tに基づいて、ステップS807で算出したグルコース濃度値と、ステップS808で算出した乳酸濃度値に補正を施すかどうかをそれぞれに対して判断する(ステップS809、ステップS810)。この判断は、グルコース濃度測定と乳酸濃度測定のそれぞれに対して判断基準を設けておくことが好ましく、例えば、グルコース濃度測定に対しては上記実施の形態1と同様の範囲内に予め設定しておき、乳酸濃度測定に対しては、各パラメータが以下に示す範囲内にある場合に補正を施すよう予め設定しておく。
【0089】
時間Tは、0.01〜60秒の範囲で補正するよう設定する。好ましくは0.01〜30秒、より好ましくは0.01〜20秒の範囲で補正すると良い。なお、時間Tの読み取り間隔は、1秒毎に測定するようにする。好ましくは0.1秒毎、より好ましくは0.01秒毎に測定すると良い。
【0090】
乳酸濃度は、5〜300mg/dlの範囲で補正するよう設定する。好ましくは5〜200mg/dl、より好ましくは5〜100mg/dlの範囲で補正するのが良い。
【0091】
環境温度は、5〜45℃の範囲で補正するよう設定する。好ましくは10〜40℃、より好ましくは15〜35℃の範囲で補正すると良い。
【0092】
検体が血液である場合、ヘマトクリット値が0〜70%の範囲で補正するよう設定する。好ましくは15〜70%、より好ましくは30〜70%の範囲で補正すると良い。ヘマトクリット値の算出は、グルコース濃度の算出(ステップS807の処理)、乳酸濃度の算出(ステップS808の処理)以前に実施されることが好ましく、より好ましくは算出されたヘマトクリット値に基づいて、グルコース濃度および乳酸濃度を補正することである。この場合も温度補正テーブルと同様に、グルコース濃度と乳酸濃度補正用にそれぞれの補正検量線により補正を行うことが好ましい。グルコース濃度測定と乳酸濃度測定におけるヘマトクリット値の影響度はそれぞれ異なるためである。また、ヘマトクリット値はバイオセンサ700で測定されることに限らず、例えば、あらかじめ大型測定装置によりヘマトクリット値を算出し、算出された値を測定器へ入力するようにしても良い。
【0093】
ステップS809において、補正を施すと判断した場合は、上記実施の形態1と同様に図4に示す補正テーブルから、バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果に対する補正量を求め、該測定結果を補正する(ステップS811)。またステップS810において、補正を施すと判断した場合は、図10に示す補正テーブルから、血液中の乳酸濃度の測定結果に対する補正量を求め、該測定結果を補正する(ステップS812)。補正量の算出方法は、補正テーブルが異なる以外は上記実施の形態1と同様の方法により算出する。このように、グルコース濃度測定と乳酸濃度測定のそれぞれに対して予め準備されたそれぞれの補正テーブルを用いることで最適な補正を行うことができる。グルコース濃度測定と乳酸濃度測定における指先熱の影響度合いは異なるからである。
【0094】
該補正された値は、検体である血液中に含まれるグルコース濃度と乳酸濃度として測定装置110bの表示部に表示される(ステップS813、ステップS814)。ここで、時間Tにより測定結果の信頼性が乏しいと判断される場合、測定結果を表示せずエラー表示を行うようにしてもよいし、測定結果の信頼性が低い旨を表示するようにしてもよい。
【0095】
一方、ステップS809において、補正を施す必要がないと判断した場合は、ステップS813に進み、ステップS807で算出されたグルコース濃度をそのまま表示する。また、ステップS810において、補正を施す必要がないと判断した場合は、ステップS814に進み、ステップS808で算出された乳酸濃度をそのまま表示する。なお、本実施の形態では、時間Tが20秒を超える場合には、補正を行う必要がないと判断する。
【0096】
以上のような操作を行うことによって、より信頼性の高い補正を行うことが可能となる。
【0097】
図11(a)に、従来のバイオセンサ測定システム20によるグルコース濃度の測定結果を図11(b)に、乳酸濃度の測定結果を示す。横軸は、バイオセンサ30を測定装置21に装着してから試薬層35への液体試料の検出までの時間T(秒)を示し、縦軸は、真値からの乖離度(%)を示している。ここでは、環境温度は25℃、グルコース濃度85mg/dl、乳酸濃度50mg/dl(ヘマトクリット値45%)に調製された検体を用いて測定を行なった。このとき、指先温度の異なる6人のドナーを用いてバイオセンサ30を測定装置21に装着し、該センサ30の装着後、試薬層35への液体試料の検出までの時間Tを0.01〜40秒の間で測定した。
【0098】
図11(a)および(b)から分かるように、時間Tが短時間であるほど、真値からの乖離度が大きく、測定対象物質により影響度は異なる。つまり、指先熱が測定結果に影響を及ぼしており、さらには測定対象物質により熱の影響が異なるためである。
【0099】
これに対し、本実施の形態3のバイオセンサ測定システム100bは、バイオセンサ700を測定装置110bに装着してから該センサ700に血液が試薬層35で検出されるまでの時間Tに基づいて、上記バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果と乳酸濃度の測定結果(この測定結果は、温度補正後の値である)それぞれに対して最適な検量線により補正を行う。
【0100】
このように、時間Tに基づいて、バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度の測定結果と乳酸濃度の測定結果に対し、それぞれの補正を行うことで、図12(a)と図12(b)に示すように、時間Tが20秒以内であっても、真値からの乖離度をできるだけ抑え、測定精度を向上させることができる。
【0101】
なお、図10に示す補正テーブルの数値は一例であって、補正量はこれに限定されない。また、テーブル数もここで示すものに限られず、テーブル数の数が多いほど、測定精度を向上させることができる。
【0102】
このように、本実施の形態3による液体試料測定方法および装置では、バイオセンサ700を測定装置110bに装着してから該センサ700に血液が試薬層35で検出されるまでの時間Tを計測し、上記バイオセンサ700に点着された血液中のグルコース濃度と乳酸濃度の測定結果に対し、上記計測した時間Tに基づいて、グルコース濃度と乳酸濃度それぞれに最適な補正テーブルにより補正を行うようにしたので、指先熱による測定結果への影響を防止し、測定時間が短時間である場合でも高精度の測定結果を得ることができる。また、バイオセンサ700自体の温度を測定するための温度センサを新たに設けることなく、高精度の測定装置を低コストで実現可能である。
【0103】
なお、本実施の形態3では、バイオセンサ700は電極式センサである場合について説明したが、指先熱により測定結果に影響を与える測定方法であれば如何なる測定方法であっても同様に適用することができ、例えば、光学式センサであっても良く、電極式と光学式を組み合わせたものでもよい。
【0104】
また、本実施の形態3では、1つのセンサ中で複数の測定対象物質を測定する場合としてグルコース濃度と乳酸濃度について説明したが、測定対象物質としては、これに限定されず、例えばグルコースとコレステロール、グルコースとトリグリセリド、グルコースとヘモグロビンA1c、グルコースとケトン体、グルコースとヘマトクリット、乳酸と尿酸、尿酸とビリルビン、など様々な組み合わせが考えられ、生体内サンプルや環境サンプル、食品サンプル等であっても同様の効果が得られる。また、測定対象項目数は2項目に限定されず、それ以上の多項目であっても良い。
【0105】
さらには、本実施の形態3では、1つのバイオセンサ中で複数の測定対象物質を測定する場合について述べたが、ひとつの測定装置に対して、複数の種類のバイオセンサを挿入して使用する場合、例えば、バイオセンサの電極パターンや手動ボタンにより、測定装置にバイオセンサの種類を認識させ、それぞれの種類のバイオセンサに最適な補正テーブルを使用することで、それぞれのバイオセンサの種類に応じた測定項目に対して最適な補正を施すことができ、実施の形態1〜3と同様に、高精度な測定結果を得ることができる。
【0106】
なお、本発明は、バイオセンサと測定装置とからなるバイオセンサ測定システムであり、バイオセンサは使用者が直接手で持ち、測定装置に装着して測定を行なうものに限り、カートリッジタイプは対象外である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明によれば、低コストで測定精度の良好な液体試料測定装置として、利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
20 バイオセンサ測定システム
21 測定装置
22 表示部
23 支持部
30 バイオセンサ
30a 試料点着部
31 カバー
32 空気孔
33 スペーサ
34 試料供給路
35 試薬層
36 絶縁性基板
37 作用極
38 検知極
39 対極
100a,100b バイオセンサ測定システム
110a,110b 測定装置
112,113,114,123,124,125,126,127 コネクタ
115 切替回路
116 電流/電圧変換回路
117 A/D変換回路
118 CPU
119 基準電圧源
120 温度センサー
121 RAM
122 タイマー
700 バイオセンサ
700a 試料点着部
701 カバー
702 空気孔
703 スペーサ
704 試料供給路
705 乳酸測定用試薬層
706 グルコース測定用試薬層
707 乳酸測定用作用極
708 グルコース測定用作用極
709 検知極
710 グルコース測定用対極
711 乳酸測定用対極
712 絶縁性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを測定装置に装着し次に、前記バイオセンサの試料点着部に液体試料を点着することで、この液体試料が試料供給路を介して試薬層に供給された状態において、試薬層の作用極と対極間の電流変化値により、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定方法において、
前記バイオセンサを上記測定装置に装着した状態をスイッチにより判別し、このスイッチによるバイオセンサの装着検出時から、前記作用極と対極間の電流変化を電流/電圧変換回路によって検出することで、前記試薬層への液体試料の到達を検出し、前記バイオセンサの装着検出時から、前記試薬層への液体試料の検出までの時間を計測し、この計測時間と、測定の環境の温度とを計測し、
前記バイオセンサを前記測定装置に装着してから前記試薬層への液体試料の検出までの計測時間に基づいて、前記計測した環境温度を補正し、
前記補正した環境温度に基づいて、上記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行う、ことを特徴とする液体試料測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体試料測定方法において、
前記バイオセンサに点着された液体試料の種類に応じて、前記測定結果に対する測定値の補正の補正量を決定する、ことを特徴とする液体試料測定方法。
【請求項3】
種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを装着し、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する
液体試料測定装置において、
前記バイオセンサを装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測する時間計測手段と、
前記時間計測手段により計測された時間に基づいて、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果の測定値を補正する測定結果補正手段と、を備えた、ことを特徴とする液体試料測定装置。
【請求項4】
種類の異なる、複数のバイオセンサのいずれか一つを装着し、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度を測定する液体試料測定装置において、
前記バイオセンサを装着してから試薬層への液体試料の検出までの時間を計測する時間計測手段と、
測定の環境の温度を測定する温度センサーと、
前記時間計測手段によって計測した時間に基づいて、前記温度センサーにより計測した前記環境温度を補正する温度補正手段と、
前記補正した環境温度に基づいて、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対し、測定値の補正を行う測定結果補正手段と、を備えた、ことを特徴とする液体試料測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の液体試料測定装置において、
前記測定結果補正手段は、前記時間計測手段により計測された時間に応じて、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に対する測定値の補正の補正量を変化させる、ことを特徴とする液体試料測定装置。
【請求項6】
請求項4に記載の液体試料測定装置において、
前記測定結果補正手段は、前記バイオセンサに点着された液体試料中の特定成分の濃度の測定結果に応じて、前記測定結果に対する測定値の補正の補正量を決定する、ことを特徴とする液体試料測定装置。
【請求項7】
請求項4に記載の液体試料測定装置において、
前記種類の異なるバイオセンサは、グルコース濃度と乳酸値濃度、グルコースとコレステロール、グルコースとトリグリセリド、グルコースとヘモグロビンA1c、グルコースとケトン体、グルコースとヘマトクリット、乳酸と尿酸、尿酸とビリルビン、のいずれか一つの組合わせを測定することを特徴とする液体試料測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−159519(P2012−159519A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−121531(P2012−121531)
【出願日】平成24年5月29日(2012.5.29)
【分割の表示】特願2008−523699(P2008−523699)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)