説明

液体調味料の製造法

【課題】にんにくを配合し、辛味などの刺激が低下し、良好な風味を有する酸性調味料を提供する。
【解決手段】生にんにくを配合した後、[60℃以上となる加熱温度と60℃との温度差(℃)]と[加熱時間(分)]との積で表される加熱積算値が200〜900℃・分になるように加熱する液体調味料の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドレッシング類等の液体調味料の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシング類等の液体調味料には、しそ風味、胡麻風味等の種々の風味を有するものが知られている。このうち、にんにくは、特有の風味を有することから、液体調味料に広く使用されている。
【0003】
にんにく中には種々の有機イオウ化合物(以下「含硫化合物」と記載する)が含まれており、これら含硫化合物が多様な化合物に変化することで、にんにくに特徴的な香気を生成することが知られている。
にんにくの特徴成分である含硫化合物は、にんにく中で生合成されたシステイン類が、にんにく中に存在する酵素によりアリイン類やγ−グルタミルペプチド類に変換され、すりおろす等により破砕すると、さらに酵素の作用によりアリシン類その他の物質に変換される。そして、アリシンから生成する多様な化合物が、にんにく独特の香気を与えることが知られている(非特許文献1)。
アリシン類の前駆体であるγ-グルタミルペプチド類、アリイン類自体の風味に関しては、「水中では風味がないがグルタミン酸、核酸等の旨味成分の存在下でこくみが上昇する」との報告があるが(特許文献1及び非特許文献2)、一方でアリイン類は無臭とされる報告も見られる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−91958号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「にんにくの科学」、齋藤洋監修、朝倉書店、93〜99頁(2000)
【非特許文献2】Y. Ueda et. al., Agric. Biol. Chem., 54, 163(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、にんにくを配合したドレッシングが、生にんにくの良好な風味を発現することが難しいものであることを見出した。すなわち、生にんにくの風味を発現させようとすると、風味由来の成分が辛味等の刺激性を有するため、良好な風味とすることが困難であるという課題を見出した。
従って、本発明の課題は、にんにくを配合し、辛味などの刺激が低下し、良好な風味を有する液体調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、にんにくを配合した液体調味料を製造し、にんにく特有の辛味と良好な風味の発現とその消長について種々検討したところ、にんにくの良好な風味を得るにはにんにくを生の状態で配合することが必要であることが判明した。しかし、生のにんにくを配合した液体調味料は、辛味や痛みが強く、にんにく特有の刺激がある。そこで、この刺激を消失させ、かつ良好な風味を保持させる手段について種々検討したところ、液体調味料原料に生にんにくを配合した後、一定の条件で加熱処理することにより、最初高濃度で存在したアリシンの濃度が低下し、それに伴ない刺激が消失し、かつ風味は保持された液体調味料が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、生にんにくを配合した後、[60℃以上となる加熱温度と60℃との温度差(℃)]と[加熱時間(分)]との積で表される加熱積算値が200〜900℃・分になるように加熱処理する液体調味料の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、生にんにくの風味が良好であり、かつ辛みなどの刺激がない液体調味料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法により製造する液体調味料には生にんにくを配合する。ここで、生にんにくには、生のもの及び生の状態で冷蔵又は冷凍したものが含まれる。生にんにくの形態は、特に限定されず、切断、破砕(すりおろしを含む)したものが挙げられるが、液体調味料に製造後初期(以下、単に「初期」とも記載する)から良好なにんにく風味を付与する点から、破砕処理したものが好ましい。当該破砕処理により、にんにく中のアリインがアリシンに変化し、配合時であって加熱処理前にアリシンの含有量を高く設定することで、液体調味料に良好な風味を付与できる。このような観点から、にんにくは、細かく破砕するのが好ましく、特にすりおろしたもの(ペースト状になったもの)を用いるのが好ましい。なお、ここで「初期」とは、製造後、室温保存の場合は14日まで、好ましくは3日までの期間をいう。
【0011】
用いるにんにくとしては、初期の風味の点から、生にんにくを破砕した状態におけるアリシンの含有量が高いものを用いるのが好ましく、破砕した後のアリシン含有量がにんにくの湿重量に対して1〜7mg/g、さらに2〜6mg/g、特に2〜4mg/gのにんにくを用いるのが好ましい。なお、風味に寄与するアリシン類としては、ジアリルチオスルフィネート及びその類縁体も含まれるが、破砕したにんにくに含まれるアリシン類中およそ70%を占めるアリシンの含有量をもって、アリシン類の含有量とした。
また、アリシンの含有量は、既知のいずれかの方法(液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー等)により測定することができる。
【0012】
生にんにくの配合量は、初期の風味の点から、液体調味料の水相中に湿質量として5〜11質量%(以下、単に「%」と記載する)、さらに6〜10%、特に7〜9%とするのが好ましい。この生にんにくの配合量の調整によって、初期のアリシン含有量を高く調整できる。ここで、水相中の配合量及び含有量とは、液体調味料が水相だけの場合には、液体調味料全量中の配合量及び含有量を意味し、液体調味料が油相と水相を含む場合は、水相中の配合量及び含有量を意味する。
【0013】
本発明の方法において、生にんにくの配合は、加熱処理前に行うのが好ましいが、生にんにく添加後の加熱処理が本発明の条件を満たす限り、加熱処理の途中で行ってもよい。
【0014】
本発明の方法においては、生にんにくを配合した後、[60℃以上となる加熱温度と60℃との温度差(℃)]と[加熱時間(分)]との積で表される加熱積算値が200〜900℃・分になるように加熱処理する。ここで、加熱積算値は、60℃以上となる加熱温度曲線の面積であり、例えば、60℃から90℃まで2℃/分で昇温、90℃に10分間保持、90℃から60℃まで1℃/分で冷却した場合には以下のようになる。
昇温時の加熱積算値:(90−60)×15/2=225℃・分
保持中の加熱積算値:(90−60)×10=300℃・分
冷却時の加熱積算値:(90−60)×30/2=450℃・分
トータルの加熱積算値:225+300+450=975℃・分
【0015】
本発明においては、当該加熱積算値が200〜900℃・分の範囲になるように加熱処理すれば、液体調味料の生にんにくの風味を維持し、さらに生にんにく特有の辛味や痛みと刺激をほとんど感じさせなくすることができる。好ましい加熱積算値は300〜800℃・分であり、特に好ましくは450〜750℃・分である。
【0016】
また、加熱処理における到達温度は、風味の維持と刺激低下の点から、75〜90℃、さらに80〜90℃、特に80〜85℃とすることが好ましい。加熱処理時の到達温度での保持時間は、前記加熱積算値の範囲内となることを前提に0〜15分間、更に2〜13分間、特に5〜12分間行うのが、風味・殺菌性の点から好ましい。
【0017】
本発明の方法においては、加熱処理前の水相中のアリシン含有量は0.05〜0.8mg/gであることが好ましく、さらに0.1〜0.7mg/g、特に0.1〜0.5mg/g、殊更0.16〜0.32mg/gであることが、初期の風味が良好で、辛味等の刺激がない点から好ましい。
【0018】
本発明の方法においては、前記のような条件の加熱処理により、生にんにく添加後の水相中のアリシン含有量が顕著に低下する。加熱処理後の水相中のアリシン含有量は0〜0.1mg/g、さらに0.001〜0.07mg/g、特に0.005〜0.05mg/gであるのが、刺激低下作用の点、製造後初期の風味が良好で、辛味等の刺激がない点から好ましい。また、加熱処理により水相中のアリシン含有量は50%以上、さらに70%以上、特に85%以上低下させるのが好ましい。なお、ここでいう「製造後初期」とは、製造後、室温保存で24時間まで、5℃保存で3日以内のことをいう。
【0019】
本発明の方法における液体調味料は、特に制限されないが、酸性液体調味料が好ましく、特にドレッシング類(サラダ用の液体調味料)が好ましい。また、液体調味料は、容器詰液体調味料の形態が好ましい。
【0020】
本発明の方法における液体調味料は、油相及び水相を含む酸性液体調味料であるのが、にんにくの風味を生かす点で特に好ましい。
【0021】
本発明の方法において、液体調味料が油相を含む場合、例えば、水相として水を主成分として用い、油相を上層、水相を下層とした分離型、水中油型の乳化物からなる乳化型、又は水中油型の乳化物に油相を積層した分離型が挙げられるが、嗜好性の点から分離型が好ましい。
本発明の方法において、液体調味料中の油相は5%以上、さらに20%以上、特に30〜50%含有するのが好ましい。
【0022】
本発明の方法において、液体調味料に用いることのできる油相は、食用油脂が主成分であり、動物性、植物性のいずれでも良く、例えば、動物油としては牛脂、豚脂、魚油等、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油、胡麻油等が挙げられるが、風味、実用性の点から、大豆油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、胡麻油等の植物油を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の方法において、液体調味料に用いることのできる水相は、水が主成分であり、その他の成分として食酢、塩、醤油、味噌、香辛料、糖、蛋白質素材、有機酸、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、動植物エキス、発酵調味料、酒類、澱粉、増粘剤、安定剤、乳化剤、着色料等の各種添加剤等を適宜含有させることが好ましい。特に、乳化物を安定化させるためには、増粘剤、安定剤、乳化剤を含有させることが好ましい。増粘剤の具体例としては、キサンタンガム、カラギーナン、グアガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、モナトウガム、アラビアガム、アルギン酸塩類、トラガントガム、ポリデキストロース、セルロース類、プルラン、カードラン、ペクチン、ゼラチン、寒天、大豆多糖類等の天然物や加工澱粉類、並びにカルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等の化学合成品のガム類等が挙げられる。安定剤の具体例としては、ラクトアルブミン等の乳蛋白、澱粉類等が挙げられる。乳化剤の具体例としては、卵黄液、カゼイン、ゼラチンの他、モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等、一般に食品に使用可能な乳化剤が挙げられる。
【0024】
また、水相のpHは5.5以下であることが保存性の点から好ましく、さらに4.7〜3、特に4.5〜3.5、殊更4.2〜3.7の範囲が好ましい。この範囲にpHを低下させるためには、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、リン酸等の無機酸、レモン果汁等の酸味料を使用することができるが、保存性を良くする点、加工直後の具材の風味成分を維持する点から食酢を用いることが好ましい。食酢は穀物酢、りんご酢、ビネガー類など様々な種類を用いることができ、その配合量は、液体調味料中に、3〜20%、さらに5〜15%、特に6〜10%が好ましい。
【0025】
本発明の方法において、液体調味料には抗酸化剤を添加することが好ましい。抗酸化剤は、通常、食品に使用されるものであればいずれでもよいが、天然抗酸化剤、トコフェロール、カテキン、リン脂質、アスコルビン酸脂肪酸エステル、BHT、BHA、TBHQから選ばれる1種以上が好ましく、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルから選ばれる1種以上がより好ましい。抗酸化剤は、油脂の風味劣化を抑制する点から油相へ添加することが好ましい。特に好ましい抗酸化剤の含有量は、油相中50〜5000ppm、さらに200〜2000ppmである。さらに、ジアシルグリセロールを含む油脂と水相を含有する液体調味料において、保存により異味(金属味)が生じるのを防止する点から、L−アスコルビン酸脂肪酸エステルを実質的に含まず、δ−トコフェロールを200ppm以上含有させることが好ましい。
【実施例】
【0026】
試験例1〜7
〔液体調味料の調製1〕
水、醸造酢、しょう油、にんにく、たまねぎ、砂糖、食塩、チキンエキス、キサンタンガムを表1に示した量配合し、撹拌混合して溶解した。次に、常温から加熱して表2の条件にて加熱処理することにより加熱処理(殺菌処理)を行った。その後、冷却し、常温とした後に容器に充填することにより試験例1〜7の液体調味料をそれぞれ調製した。液体調味料を調製した翌日(調製後は室温に保存)に、各液体調味料のアリシンの含有量を測定し、結果を表2に示した。また、調製した液体調味料について、次に示す官能評価を行った。
【0027】
〔官能評価〕
市販レタスを20〜30mmの大きさに切断した。試食直前に液体調味料をよく攪拌し、速やかにレタス約100g当たり液体調味料15gを均一に分散するようにかけ、試食することにより評価を行った。
評価は、液体調味料を調製した翌日(調製後は室温に保存)に「生のにんにくの風味」及び「刺激味」についての評価を行った。
各評価は5段階評価とし、専門パネル5名により行い、平均を求めた。各液体調味料の評価は次に示す基準に従って行った。
結果を表2に示す。
【0028】
なお、ここでいう「生のにんにくの風味」とは、生のにんにくを摺り下ろした時の良好な香り(味ではない)をいう。
〔生のにんにくの風味の評価基準〕
5:生のにんにくの良好な風味を強く感じる
4:生のにんにくの良好な風味を感じる
3:生のにんにくの良好な風味をやや感じる
2:生のにんにくの良好な風味をあまり感じない
1:生のにんにくの良好な風味を感じない
【0029】
なお、本発明でいう「刺激味」とは、生の摺り下ろしにんにくに感じる辛味、及び/又は、痛みを伴う刺激的な味である。
〔刺激味の評価基準〕
5:感じない
4:僅かに感じる
3:やや感じる
2:感じる
1:強く感じる
【0030】
液体調味料の水相部中のアリシンの含有量を、次の条件によりHPLC(Agirent社、1100series)を用いて測定した。
液体調味料の水相部約5gを精秤し、90%メタノール(0.01N塩酸)にて25mlにメスアップし、室温にて10分静置後、0.45μmのフィルターにてろ過し、HPLC分析に供した。
・カラム:ODS−4(GLサイエンス、250×4.6mm)
・流量:1.0mL/分
・検出:210nm
・溶離液:A:50mMリン酸バッファー(pH2.6)B:メタノール
・グラジエント:0〜5分 B27%、5〜12分 B27%→45%、12〜18分 B45%、18〜22分 B45→27%
アリシンは、標品とリテンションタイムが一致すること、及び該当ピークの分子量をLC−MSにて確認することにより同定した。また、標品(LKT Laboratories)を用い、外部検量線にて定量した。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表2から明らかなように加熱積算値が200℃・分未満の試験例1は、刺激味が強かった。また加熱積算値が900℃・分を超える試験例5及び7は刺激味は低下したが、生にんにくの食味も低下してしまった。これに対し、加熱積算値が200〜900℃・分の条件で加熱処理すると、刺激味が低下し、かつ生にんにくの風味も良好であった。
【0034】
試験例8及び9
〔液体調味料の調製2〕
表3に示した量で、前記試験例4の液体調味料を水相部として容器に充填し、次いで菜種油(日清オイリオ(株))を充填することにより分離液状の液体調味料(分離液状ドレッシング)を調製した。
前記「生のにんにくの風味の評価基準」及び「刺激味の評価基準」に従い、前記「官能評価」に従って評価を行ったところ、試験例4と同等の結果であり、初期の生のにんにく風味を充分に感じることができた。
【0035】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生にんにくを配合した後、[60℃以上となる加熱温度と60℃との温度差(℃)]と[加熱時間(分)]との積で表される加熱積算値が200〜900℃・分になるように加熱処理する液体調味料の製造法。
【請求項2】
加熱温度が75〜90℃である請求項1記載の液体調味料の製造法。
【請求項3】
加熱処理後の水相中のアリシン含有量が0〜0.1mg/gである請求項1又は2記載の液体調味料の製造法。
【請求項4】
加熱処理により水相中のアリシン含有量が50質量%以上低下する請求項1〜3のいずれか1項記載の液体調味料の製造法。