説明

液化ハンドピース

【課題】一方のルーメンは吸引作用に使用され、他方のルーメンが白内障の水晶体を液化するために加熱された手術用流体を注入するのに使用される外科用ハンドピースを提供する。
【解決手段】外科用ハンドピース10が、本体に取り付けられた少なくとも二つのルーメン18、30を有する。少なくとも第一のルーメンは吸引に使用され、少なくとも第二のルーメン30は、白内障の水晶体を液化するために、加熱された手術用流体を注入するのに使用される。第二のルーメンの一部はポンプ室42を形成するよう拡大される。ポンプ室は少量の手術用流体を沸騰させることにより作動する。流体が沸騰すると、流体は迅速に膨張し、第二のルーメンからポンプ室の流体を下流へ押し出す。ポンプ室は一対の電極45を使用でき、一方の電極がざぐり穴を有しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して白内障手術の分野に関し、特に白内障除去の液化技術を実行するための液化ハンドピース用のポンプ室に関する。
【背景技術】
【0002】
簡単に言えば人間の目は、角膜と呼ばれる透明な外側部分を介して光を伝達することにより、および網膜上の水晶体により像の焦点を合わせることによって、視力を提供するよう機能する。焦点合わせされた像の質は、目の寸法、形状、および角膜や水晶体の透明度を含む多くの要因に依存する。
老化もしくは病気により水晶体の透明度が低下すると、網膜に伝達されることができる光が減少することが原因で視力は低下する。目の水晶体内のこの欠陥は、医学的には白内障として知られている。この状態に対する承認された治療は、水晶体を外科的に除去して人工水晶体(IOL)によって水晶体としての機能部を取り替えることである。
米国では、白内障にかかった水晶体の大部分が水晶体超音波吸引術と呼ばれる外科的技術で除去される。この処置の時に、水晶体超音波吸引術に用いられる薄い切断用先端部材が病気にかかった水晶体内に挿入されて超音波振動される。振動する切断用先端部材は水晶体を液化するかもしくは乳状化し、それにより水晶体が目から吸引されることができる。病気にかかった水晶体は一旦、除去されて、人工水晶体に取り替えられる。
目の治療に適した典型的な超音波手術用装置は、超音波駆動ハンドピースと、付属の切断用先端部材と、灌注用スリーブと、電子制御盤とから成る。ハンドピース組立体は、電気ケーブルと可撓性チューブとによって制御盤に取り付けられる。電気ケーブルを介して、制御盤は、取り付けられた切断用先端部材に対しハンドピースによって伝達される電力レベルを変更し、かつ可撓性チューブは灌注流体をハンドピース組立体を介して目に供給し、ハンドピース組立体を介して目から吸引流体を引き出す。
ハンドピースの作用部分は、中心に配置された中空の共振バーもしくは角状部材であり、このバーまたは角状部材は一組の圧電性結晶に直接的に取り付けられる。圧電性結晶は水晶体超音波吸引術時に、角状部材および取り付けられた切断用先端部材の両方を駆動するのに必要な要求される超音波振動を供給し、これら圧電性結晶は、制御盤により制御される。圧電性結晶/角状部材組立体は、ハンドピースの中空の本体もしくは胴の内部に可撓性の取付物により懸架される。ハンドピース本体は、本体の末端部において、直径が小さくなる部分もしくは円錐形ノーズとして終端する。円錐形ノーズは灌注用スリーブを受け入れるよう外側にネジ山を付けられる。同様に、切断用先端部材の外側ネジ山部を受容するよう角状部材のボアも末端部において内側にネジ山を付けられる。灌注用スリーブもまた内側にネジ山が付けられたボアを有し、この内側にネジ山が付けられたボアが円錐形ノーズの外側ネジ山部でネジ留めされる。切断用先端部材は切断用先端部材が灌注用スリーブの開放端から通り越した所定の量のみが突出するように調整される。超音波ハンドピースと切断用先端部材とは、米国特許第3589363号、同第4223676号、同第4246902号、同第4493694号、同第4515583号、同第4589415号、同第4609368号、同第4869715号、同第4922902号、同第4989583号、同第5154694号、および同第5359996号にさらに詳細に開示される。
使用時、切断用先端部材の端部と灌注用スリーブとが、角膜、強膜、もしくは他の位置内で所定の幅の小さい切開部に挿入される。切断用先端部材は灌注用スリーブ内で切断用先端部材の長手方向軸線沿いに圧電性結晶で駆動される超音波角状部材により超音波振動され、それによって、選択された組織をもとの位置で乳状化する。切断用先端部材の中空のボアは角状部材内のボアと連通し、角状部材内のボアは次には、ハンドピースから制御盤へつながる吸引用ラインと連通する。圧力が下げられた状態もしくは真空状態である、制御盤内の源は乳状化された組織を、切断用先端部材の開口端と、切断用先端部材および角状部材のボアと、吸引用ラインを介して目から引き出すかもしくは吸い出し、次いで収集装置内へ流入せしめる。乳状化された組織の吸引作用は、灌注用スリーブの内面と切断用先端部材との間の環状の狭い間隙を介して手術箇所に噴射される塩性洗浄溶液もしくは灌注剤によって助勢される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近では、白内障除去の新技術が発展してきており、この新技術は、水晶体の硬い神経核を液化もしくはゲル化するために高温(約45℃から105℃)の水もしくは塩性洗浄溶液の注入作用を含み、それによって液状化した水晶体を目から吸引することを可能とする。吸引作用は、加熱された溶液の注入作用と比較的低温の溶液の注入作用とを伴って行われるので加熱された溶液を迅速に冷却しかつ除去することができる。この技術は米国特許第5616120号(アンドリュー(Andrew)他)で詳細に説明されている。しかしながら米国特許第5616120号に開示される装置は外科用ハンドピースとは別個に溶液を加熱する。ハンドピースに流体を供給するためのチューブが典型的には2mの長さに達し、加熱された溶液がチューブの長さ方向に沿って下流へと移動する間にかなり冷える場合があるので、加熱された溶液の温度を制御することは困難である場合がある。
【0004】
それゆえ、液化技術を実施するのに用いられる溶液を内部で加熱できる外科で用いられるハンドピース用の制御システムの必要性が引き続き存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、本体に取り付けられた少なくとも二つのルーメンを有する外科用ハンドピースを提供することにより従来の技術を改良するものである。少なくとも一方のルーメンは吸引作用に使用され、少なくとも他方のルーメンが白内障の水晶体を液化するために加熱された手術用流体を注入するのに使用される。第二のルーメンの一部分はポンプ室を形成するために拡大される。ポンプ室は少量の手術用流体を沸騰させることにより作動する。手術用流体が沸騰すると、この手術用流体は迅速に膨張し、第二のルーメンからポンプ室の下流へ手術用流体を進ませる。ポンプ室は一対の電極を使用することができ、一方の電極はざぐり穴を含む。
それゆえ、本発明の一の目的は少なくとも二つのルーメンを有する外科用ハンドピースを提供することである。
本発明の他の目的は、少なくとも一方の電極がざぐり穴を含んでいる少なくとも二つの電極を備えたポンプ室を有する外科用ハンドピースを提供することである。
本発明の他の目的は計量されたパルスによりハンドピースを介して手術用流体を吐出する装置を有する外科用ハンドピースを提供することである。
本発明のこれら利点および目的ならびに他の利点および目的とは以下の詳細な説明と特許請求の範囲とから明らかになる。
液化ハンドピースが、
灌注用ルーメンを有する本体と、
灌注用ルーメンに取り付けられたポンプ室であって、一対の電極を有し、これら電極が、手術用流体がポンプ室内に含まれるときに電流がこれら電極間を流れるのを許容するポンプ室とを具備する。
液化ハンドピースが、
第一の灌注用ルーメンと、第二の灌注用ルーメンと、吸引用ルーメンとを有する本体と、
電流が流れる一対の電極を有するポンプ室であって、電極が第一の灌注用ルーメンに取り付けられるポンプ室とを具備する。
液化ハンドピースが、
中空の内部空間と、第一の灌注用ルーメンと、該中空の内部空間内に取り付けられた吸引用ルーメンとを有する本体と、
電流が流れる一対の電極を有するポンプ室であって、電極が第一の灌注用ルーメンに取り付けられるポンプ室とを具備する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のハンドピース10は概して、ハンドピース本体12と作用先端部材16とを有する。ハンドピース本体12は概して外部にある灌注用ルーメン18と吸引用付属器具20とを有する。ハンドピース本体12は水晶体超音波吸引術用ハンドピース技術分野で周知である構成に類似しており、プラスチック、チタンまたはステンレス鋼から形成されうる。図6に示すように作用先端部材16は先端部材/キャップ用スリーブ26と、ニードルもしくは針部28と、ルーメン30とを有する。スリーブ26は市場で入手可能である適切なあらゆる水晶体超音波吸引術用の先端部材/キャップ用スリーブであってもよく、またスリーブ26は複数の内腔を有するチューブとして他のチューブに組み入れられてもよい。ニードル28は水晶体超音波吸引術で用いられる市場で入手可能な中空の切断用先端部材、例えばテキサス州フォートワース( Fort Worth) のアルコンラボラトリーズ社 (Alcon Laboratories, Inc.)から入手可能なターボソニック先端部材(TURBOSONICS tip)でありうる。ルーメン30はニードル28内に取り付けるのに適切なサイズの、例えば29ゲージ(29 gauge)の皮下注射針チューブなどのあらゆるチューブでありうる。
【0007】
図5に示すようにルーメン30は遠方の端部では自由であり、基部に近い方の端部はポンプ室42に連結される。ルーメン30とポンプ室42とは比較的高い融点を有するあらゆる適切な手段、例えば銀はんだにより流体密に封止されうる。付属部品44は吸引用角状部材(horn)46の腔48内にルーメン30を保持する。腔48は付属器具20と連通し、一方、角状部材46を介して付属器具20から外側に延びる吸引用通路を形成するために、付属器具20は角状部材46内に軸支され、かつOリングシール50により封止される。角状部材46は、ポート54において灌注用ルーメン18と連通する灌注用ルーメン52を形成するためにOリングシール56により本体12内に保持される。
【0008】
図7に示すように本発明の第一の実施例のポンプ室42は比較的小さなポンプリザーバ43を有し、このポンプリザーバ43はその両側で電極45、47により封止される。これら電極45、47にはそれぞれ絶縁ワイヤ(図示しない)により電力が供給される。使用時、手術用流体(例えば塩性洗浄溶液)がルーメン34および逆止弁53を介してポンプリザーバ43に流入する。手術用流体の伝導特性により、電流(好ましくは高周波交流)が電極45、47に伝えられる。電流が手術用流体を介して流れると、手術用流体は沸騰する。手術用流体が沸騰すると、この手術用流体はルーメン30を介してポンプ室42外に迅速に膨張する(逆止弁53は膨張する流体がルーメン34内に流入するのを妨げる。)。膨張する気体泡がルーメン30内の手術用流体をポンプ室42の前方下流へと押し出す。その後の複数の電流パルスにより手術用流体をルーメン30に沿って移動させる気体泡が逐次的に形成される。ポンプ室42から得られる流体パルスの大きさおよび圧力は、電極45、47に送られる電気パルスの長さ、タイミングおよび/または電力を変えること並びに、ポンプリザーバ43の寸法を変えることで変わる。さらに、手術用流体をポンプ室42に流入させる前に予め加熱する。手術用流体を予め加熱しておくことでポンプ室42が必要とする電力が少なくなり、および/または圧力パルスが発生されうる速度が増大する。
電極45は小さな陥没部もしくはざぐり穴100を含むのが好ましく、この陥没部もしくはざぐり穴100の深さはあらゆる適切な深さでよいが、約0.003インチ(約0.076mm)であるのが好ましい。ポンプリザーバ43は外周部101において(0.1mmのオーダーで)最も狭く、結果としてポンプリザーバ43内の流体は外周部101で最初に沸騰し、次いで蒸気の波がルーメン30の中心軸線に向かってざぐり穴100の前方から下方に流れる。手術用流体は気体状態であるときよりも液体状態であるときのほうが電気を良好に導く。結果として、電流は、沸騰が最初に起こる外周部101において大きく減少する。
本発明のハンドピースのいくつかの実施態様が開示されるが、適切な圧力パルス力、立ち上がり時間、および周波数を生成するあらゆるハンドピースをも使用することができる。例えば、0.03グラムから3.0グラムまでの間の圧力パルス力、1グラム/秒から3000グラム/秒までの間の立ち上がり時間、および1ヘルツから200ヘルツまでの間の周波数、最も好ましくは10ヘルツから100ヘルツまでの周波数を生成するあらゆるハンドピースを用いることもできる。圧力パルス力と周波数とは、除去される物質の硬さに応じて変更されうる。例えば本願発明者は比較的硬い水晶体の核部の物質を小さくして除去するには周波数が比較的低くてパルス力が比較的大きいのが最も効率的であり、神経核以外の柔らかい物質および皮質物質を除去するには周波数が比較的高くてパルス力が比較的小さいのが有益であることを見つけた。注入圧、吸引流量および真空限界は現在の水晶体超音波吸引術と同様である。
図9に示したようにハンドピース310を作動する際に用いられる一つの実施例の制御システム300は制御モジュール347と、高周波増幅器312と、関数発生器314とを有する。高周波増幅器312には直流電源316により電力が供給され、この直流電源316は±200ボルトで作動する絶縁直流電源であるのが好ましい。制御モジュール347は適切なマイクロプロセッサでよく、オペレータ入力装置318からの入力信号を受信する。関数発生器314は電気波形を高周波増幅器312に提供し、一般的には腐食を最小にするのを助けるために450キロヘルツで作動するのが好ましい。
【0009】
使用時、制御モジュール347は外科用制御盤320からの入力信号を受信する。制御盤320は市場で入手可能な外科用制御盤、例えばテキサス州フォートワースのアルコンラボラトリーズ社から入手可能なLEGACY(登録商標)SERIES TWENTY THOUSAND(登録商標)手術システムである。また制御盤320は灌注用ライン322および吸引用ライン324を介してハンドピース310に接続され、これらライン322および324を通る流れは足で動かす足動スイッチ326を介してユーザーにより制御される。ハンドピース310内における灌注流量および吸引流量の情報はインターフェース328を介して制御盤320により制御モジュール347に提供され、このインターフェース328は制御盤320上の超音波ハンドピースの制御ポートまたはその他の出力ポートに接続される。制御モジュール347は制御盤320により提供される足動スイッチ326の情報と、入力装置318からのオペレータの入力情報とを用いて二つの制御信号330、332を発生する。制御信号332はピンチ弁334を作動するのに用いられ、ピンチ弁334は流体源336からハンドピース310へと流れる手術用流体を制御する。流体源336からの流体は後述するようにして加熱される。制御信号330は関数発生器314を制御するのに用いられる。関数発生器314は足動スイッチ326の位置により決まるオペレータが選択した周波数および振幅の波形を制御信号330に基づいて高周波増幅器312に提供し、この波形はパルス状の、加熱されかつ圧縮された手術用流体を生成するために電力波形をハンドピース310に送るために増幅せしめられる。
【0010】
図3、図4および図7に示すように、手術用流体はルーメン34を介してポンプ室43に供給されることができ、一方、図8に示すように、手術用流体は手術箇所に冷たい手術用流体を供給するメイン灌注用ルーメン235から分岐した灌注流体ルーメン234を介してポンプ室243に供給されることができる。図8に示すようなハンドピースでは、吸引用ルーメン237がハンドピース10内に含まれうる。
目に導入される熱の量を制限するために様々な方法を採用することができる。例えば目に導入される加熱された溶液の総量がパルスの周波数に応じて変わらないように加熱された溶液のパルス列のデュ−ティサイクルを変えることができる。変更可能な実施態様においては、パルスの周波数が増大した時にこれに比例して吸引流量が増大するように吸引流量をパルスの周波数の関数で変えてもよい。
【0011】
上述される説明は図示または説明のためのものである。したがって本発明の範囲または精神を逸脱しない範囲で上述した本発明に変更または修正を加えることが可能であることは当業者には明らかである。例えば性能を高めるために超音波切断用先端部材および/または回転切断用先端部材と本発明とを組み合わせることは当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のハンドピースを左正面上方から見た斜視図である。
【図2】本発明のハンドピースを右後面上方から見た斜視図である。
【図3】灌注用通路を通る平面に沿ってみた本発明のハンドピースの断面図である。
【図4】吸引用通路を通る平面に沿ってみた本発明のハンドピースの断面図である。
【図5】図4の円5を拡大した本発明のハンドピースの部分断面図である。
【図6】図3の円6を拡大した本発明のハンドピースの部分断面図である。
【図7】図3および図4の円7を拡大し、抵抗ボイラポンプを示した断面図である。
【図8】本発明のハンドピースの一実施形態の拡大部分断面図である。
【図9】本発明のハンドピースで用いられる制御システムのブロック線図である。
【符号の説明】
【0013】
10 外科用ハンドピース
30 灌注用ルーメン
42 ポンプ室
45 電極
47 電極
100 ざぐり穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ハンドピースが、
a)第一の灌注用ルーメンを有する本体と、
b)灌注用ルーメンに取り付けられたポンプ室とを具備し、
該ポンプ室は、0.03グラムから3.0グラムまでの間の圧力パルス力、1グラム/秒から3000グラム/秒までの間の立ち上がり時間、および1ヘルツから200ヘルツまでの間の周波数を生成することができる、液化ハンドピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−21054(P2006−21054A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238563(P2005−238563)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【分割の表示】特願平11−156448の分割
【原出願日】平成11年6月3日(1999.6.3)
【出願人】(594195498)アルコン ラボラトリーズ,インコーポレイティド (3)