説明

液化物質を用いた固体含有水分の除去方法およびシステム

【課題】 圧縮機や脱水装置の能力が向上する運転条件を独立に設定可能とする。
【解決手段】 水分除去システム1は、25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、作動物質の気体を液化させる液化手段2と、液化した作動物質を貯留する貯留槽3と、貯留槽3から水分を含む作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって作動物質の気体と水分を分離する水分離手段4とが直列に接続され、かつ水分離手段4と液化手段2とが接続されて水分離手段4で気化された作動物質が液化手段2により再び液化される第1の循環路C1が形成され、貯留槽3と、貯留槽3から液化した作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段5とが直列に接続され、かつ脱水手段5と貯留槽3とが接続されて脱水手段5から排出される水分を含む作動物質が貯留槽3に戻される第2の循環路C2が形成され、第1および第2の循環路C1,C2の系6,7が同時に又は別々に動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化物質を用いた固体含有水分の除去方法およびシステムに関する。さらに詳述すると、本発明は、外気温度に近い操作温度で水分含有固体の脱水操作を行う方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジメチルエーテルなどの常温常圧下で気体となる物質Dを用いて、石炭などの処理対象固体に含まれる水分を除去するための方法およびシステムが開示されている。この特許文献1のシステムは、図7に示すように、ジメチルエーテル蒸気を加圧するための圧縮機101,101’と、加圧されたジメチルエーテル蒸気を液化するための凝縮器102と、液化されたジメチルエーテルを処理対象固体である石炭と接触させ、石炭中の水分を液化ジメチルエーテル中に溶解することによって石炭に含まれる水分を除去する脱水器103と、上記脱水により水分を含有した液化ジメチルエーテルからジメチルエーテルだけを選択的に蒸発させる蒸発器104と、ジメチルエーテル蒸気と水とを分離する分離器106と、分離器106で水と分離されたジメチルエーテル蒸気を断熱膨張する膨張機107とが、上記の順序で配管により直列に連結され、さらに膨張機107が第1圧縮機101に連結されて、1つの循環路(閉回路)が形成されている。この循環路を、ジメチルエーテルが、気体、液体の状態変化をしながら循環することで、脱水と水との分離を繰り返すようにしている。
【0003】
なお、凝縮器102と蒸発器104は熱交換器105で接続されている。また、蒸発器104により液化ジメチルエーテルを気化させる際の温度および圧力の調整は、冷却器104’と減圧弁104”により行われる。また、分離器106には、ジメチルエーテル蒸気と分離された水に溶存するジメチルエーテルを脱気する脱気塔108が連結されている。この脱気塔108では、保圧弁108’で脱気塔内部の圧力を下げ、ジメチルエーテルを気化させ回収するようにしている。脱気塔108は、図示していない配管により前記の循環路に連結されており、回収されたジメチルエーテルは再び循環路に戻される。膨張機107においては、ここで外界に行う仕事を回収してこの仕事をジメチルエーテルを加圧する第1圧縮機101の動力の一部として利用している。外部からの仕事の投入は、電動機109により第2圧縮機101’に対してのみ行われる。冷却器110は、膨張機107から出た気体温度を第1圧縮機101の入口の最適温度に調整するものである。
【0004】
【特許文献1】PCT/JP03/06989(国際公開番号 WO 03/101579)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された脱水方法およびシステムでは、物質D(例えばジメチルエーテル)がただ1つの循環路を循環するので、この循環路を物質Dが流れる際に、熱交換器105や脱水器103の内部で圧力損失によって物質Dの流量が減少することがある。さらに、種々の外的要因により、圧縮機101,101’の処理速度、圧縮機101,101’の出口における圧力や温度が変化することが考えられるが、当該変化が生じた場合、熱交換器105、脱水器103、分離器106、膨張機107における物質Dの流量、圧力、温度も連鎖的に変化する。物質Dは循環路により再び圧縮機101,101’に戻るので、圧縮機101,101’の入口における物質Dの流量、圧力、温度も変化することとなる。このため、物質Dの流量、圧力、温度の変化が、物質Dが循環路を一巡するごとに増幅される危険性がある。この危険性を回避し、システムを安定して運転するためには、循環路内の多くの箇所において物質Dの流量・圧力・温度を測定し、これらの物性値を一定に制御する仕組みが必要となる。こうした仕組みは、システムを複雑化し、コスト増加を招いてしまう。
【0006】
また、特許文献1に開示された脱水方法およびシステムでは、圧縮機101’の出口における物質Dの流量と、脱水器103の入口における物質Dの流量とを整合させる必要がある。この調整は、既存の圧縮機の出力は既定であることが多く、一般に困難である。また、圧縮機101’が物質Dの蒸気を処理対象とするのに対し、脱水器103の処理対象は物質Dの液体であり、物質Dの気体と液体の体積比は通常数百にもなることから、圧縮機101’と脱水器103との間で物質Dの処理量の整合をとることは極めて困難である。さらに、機械的に所要動力が最も低くなる運転条件での圧縮機101’の出口における物質Dの流量と、化学的に最も脱水に適した脱水器103に対する物質Dの流量が異なる場合、圧縮機101’と脱水器103の双方の効率を最適にすることは不可能であり、いずれか一方の効率を犠牲にせざるを得ない。このため、特許文献1の技術において、システム全体の最適化を図ることは不可能である。
【0007】
そこで本発明は、脱水に用いる作動物質の流量制御を簡便とし、圧縮機や脱水器等のシステム構成要素の能力が向上する運転条件を独立に設定することができる液化物質を用いた固体含有水分の除去方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムは、25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、前記作動物質の気体を加圧、あるいは冷却、あるいは加圧と冷却の併用によって液化させる液化手段と、液化した前記作動物質を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から水分を含む前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって前記作動物質の気体と水分を分離する水分離手段とが直列に接続され、かつ前記水分離手段と前記液化手段とが接続されて前記水分離手段で気化された前記作動物質が前記液化手段により再び液化される第1の循環路が形成され、前記貯留槽と、前記貯留槽から液化した前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段とが直列に接続され、かつ前記脱水手段と前記貯留槽とが接続されて前記脱水手段から排出される水分を含む前記作動物質が前記貯留槽に戻される第2の循環路が形成され、前記第1および第2の循環路の系が同時に又は別々に動作可能であるようにしている。
【0009】
また、請求項9記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去方法は、25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、前記作動物質の気体を加圧、あるいは冷却、あるいは加圧と冷却の併用によって液化させる液化手段と、液化した前記作動物質を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から水分を含む前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって前記作動物質の気体と水分を分離する水分離手段とを直列に接続し、かつ前記水分離手段と前記液化手段とを接続して前記水分離手段で気化した前記作動物質を前記液化手段により再び液化する第1の循環路を形成し、前記貯留槽と、前記貯留槽から液化した前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段とを直列に接続し、かつ前記脱水手段と前記貯留槽とを接続して前記脱水手段から排出する水分を含む前記作動物質を前記貯留槽に戻す第2の循環路を形成し、前記作動物質を前記第1の循環路にて循環させることにより前記貯留槽の内容物から水を除去し、前記作動物質を前記第2の循環路にて循環させることにより水分含有固体から水を除去し、前記第1および第2の循環路の系を同時に又は別々に動作させるようにしている。
【0010】
したがって、第1の循環路の系と第2の循環路の系とがそれぞれ独立しており、各々の系を別々に運転することが可能であるので、第1の循環路の系に属する液化手段と、第2の循環路の系に属する脱水手段の処理量を一致させる必要はなく、液化手段と脱水手段とがそれぞれ最高の効率や性能を発揮できる最適な運転条件をそれぞれ系において独立に設定することが可能となる。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記作動物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒドから選ばれる1つの物質またはこれらの2種以上の混合物であるものとしている。これらの物質は、25℃、1気圧で気体であり、本発明に係る作動物質として利用可能である。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記脱水手段は、前記作動物質の液化物と前記水分含有固体とを向流接触させるものとしている。この場合、少量のジメチルエーテルを用いて高効率に脱水を行える。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記脱水手段は、ケーシングと、前記ケーシングの軸心に配置された回転軸と、前記回転軸を介して前記ケーシング内で回転する複数の回転セル部を有するロータと、前記ロータを前記回転軸によって回転駆動させる回転駆動機構とを備え、前記回転セル部内に前記水分含有固体を投入するとともに前記作動物質を供給し、前記回転駆動機構により前記ロータを回転させる間に前記回転セル部内で前記作動物質と前記水分含有固体とを接触させ、かつ当該接触後の作動物質を前記回転セル部の回転方向とは逆方向の他の回転セル部に再供給する脱水装置と、前記貯留槽から前記作動物質を前記脱水装置に送る送液ポンプとを有するようにしている。この場合、水分含有固体が投入された回転セル部の回転方向とは反対方向に、液状作動物質が移動するので、水分含有固体と作動物質とを向流接触させることができる。
【0014】
また、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記貯留槽の内部空間を、前記液化手段から送られる前記作動物質の液化物が流入し、かつ当該液化物が前記脱水手段に向かって流出する脱水用液室と、前記脱水手段から送られる水分を含む前記作動物質の液化物が流入し、かつ当該液化物が前記水分離手段に向かって流出する再生用液室とに隔てる隔壁を有するようにしている。この場合、液化手段から送られる高純度の作動物質の液化物と、脱水手段から送られる多くの水分を含む作動物質の液化物とが、容易に混合しないように構成できる。
【0015】
また、請求項6記載の発明は、請求項5記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記隔壁は、前記脱水用液室と前記再生用液室との間で前記作動物質の液化物が移動可能に構成されるようにしている。この場合、上記第1の循環路の系と、上記第2の循環路の系の処理速度が大きく異なる場合やこれらの系を別々に作動させる場合でも、再生用液室または脱水用液室が空になる事態を回避できる。
【0016】
また、請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記水分離手段には、該水分離手段で分離された水分に含まれる前記作動物質を脱気するための脱気塔が接続され、前記脱気塔が前記第1の循環路に接続されて、脱気された前記作動物質が回収されて前記第1の循環路に戻されるものとしている。この場合、作動物質が溶存した水を排出することを防いで環境への負荷を最小限にするとともに、作動物質の損失量を最小限にすることができる。
【0017】
また、請求項8記載の発明は、請求項1から7のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムにおいて、前記脱水手段と前記水分離手段とを接続する流路を有し、当該流路を介して前記脱水手段に残存している前記作動物質が前記水分離手段側に抜き出されるようにしている。この場合、脱水操作が終了した固体を脱水手段から取り出す際に、脱水手段に残存している作動物質が大気圧下で急激に膨張することを回避できる。
【発明の効果】
【0018】
しかして請求項1記載の水分除去システムおよび請求項9記載の水分除去方法によれば、第1の循環路の系と第2の循環路の系とがそれぞれ独立しており、各々の系を別々に運転することが可能であるので、第1の循環路の系に属する液化手段と、第2の循環路の系に属する脱水手段の処理量を一致させる必要はなく、液化手段と脱水手段とがそれぞれ最高の効率や性能を発揮できる最適な運転条件をそれぞれ系において独立に設定することが可能となる。
【0019】
また、最適な運転条件をそれぞれ系において独立に設定することを可能とすることにより、循環路内の多くの箇所において、循環路内の物質の流量、圧力、温度を測定しこれらの物性値を一定に制御する仕組みを必要とせず、水分除去システムの複雑化を防ぎ、設備コストを低減できる。
【0020】
さらに、請求項2記載に列挙した物質は、25℃、1気圧で気体であり、本発明に係る作動物質として利用可能である。
【0021】
さらに、請求項3,4記載の水分除去システムによれば、作動物質の液化物と水分含有固体とを向流接触させることにより、少量のジメチルエーテルを用いて高効率に脱水を行える。
【0022】
さらに、請求項5記載の水分除去システムによれば、貯留槽の内部空間を仕切る隔壁を設けるとにより、液化手段から送られる高純度の作動物質の液化物と、脱水手段から送られる多くの水分を含む作動物質の液化物とが、容易に混合しないように構成できる。これにより、脱水手段は水分を殆ど含まない作動物質を用いて効率的に脱水処理を行うことができ、水分離手段は水分を多く含む作動物質に対して効果的に気液分離を行うことができる。
【0023】
さらに、請求項6記載の水分除去システムによれば、脱水用液室と再生用液室との間で作動物質の液化物が移動可能であるように隔壁を構成するので、第1の循環路の系と、第2の循環路の系の処理速度が大きく異なる場合やこれらの系を別々に作動させる場合でも、再生用液室または脱水用液室が空になる事態を回避できる。
【0024】
さらに、請求項7記載の水分除去システムによれば、水分離手段で分離された水分に含まれる作動物質を脱気する脱気塔を備えるので、作動物質が溶存した水を排出することを防いで環境への負荷を最小限にするとともに、作動物質の損失量を最小限にすることができる。
【0025】
さらに、請求項8記載の水分除去システムによれば、脱水操作が終了した固体を脱水手段から取り出す際に、脱水手段に残存している作動物質が大気圧下で急激に膨張することを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1から図5に本発明の液化物質を用いた固体含有水分の除去方法およびシステムの実施の一形態を示す。この水分除去システム1は、25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、作動物質の気体を加圧、あるいは冷却、あるいは加圧と冷却の併用によって液化させる液化手段2と、液化した作動物質を貯留する貯留槽3と、貯留槽3から水分を含む作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって作動物質の気体と水分を分離する水分離手段4とが直列に接続され、かつ水分離手段4と液化手段2とが接続されて水分離手段4で気化された作動物質が液化手段2により再び液化される第1の循環路C1が形成され、貯留槽3と、貯留槽3から液化した作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段5とが直列に接続され、かつ脱水手段5と貯留槽3とが接続されて脱水手段5から排出される水分を含む作動物質が貯留槽3に戻される第2の循環路C2が形成され、第1および第2の循環路C1,C2の系6,7が同時に又は別々に動作可能であるようにしている。
【0028】
本発明では、水分含有固体から水分を除去するための作動物質として、常温付近かつ大気圧下において(具体的には25℃、1気圧において)、気体である物質を液化したものを用いる。本発明では、作動物質の気液相転移現象を利用して、水の溶解度を著しく変化させるようにしている。液化された作動物質に水分含有固体中の水分を溶解させた後、温度と圧力を僅かに変化させることで、作動物質だけを選択的に蒸発させ、水と作動物質の気体が容易に分離される。したがって、本発明に使用される作動物質としては、水との相互溶解性が高く、液化された状態で水との相互溶解度が高い物質が望ましい。また、作動物質の沸点が常温より高いと、水と分離する際に作動物質を蒸発するために高温のエネルギー源が必要となり、脱水に要するエネルギーが増大することが予想されるので、好ましくない。少ない所要エネルギーでの脱水を可能にするには、溶剤の沸点が常温付近もしくはそれ以下が好ましい。そこで、本発明では、25℃、1気圧で気体である物質を液化して用いる。更に好ましいのは、0℃、1気圧で気体である物質である。25℃、1気圧で気体である物質としては、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒドなどが挙げられる。これらは1種で用いても、または2種以上混合して用いてもよい。中でも好ましいのは毒性もなく扱い易いジメチルエーテルである。また、25℃、1気圧で気体である物質として、ブタン及びプロパンも挙げられる。これらは単独では水を溶解する能力はないが、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒドなどから選ばれる1種または2種以上の混合物と混合させることができる。ブタン及びプロパンは、天然ガスなどの成分であることから、容易に入手可能であるし、液化ジメチルエーテルと沸点が近く容易に液化できる。しかも、液化ジメチルエーテルなどと混合して用いても、若干、脱水性能が落ちるだけで、既存方法と比べて十分に優位な性能を得られることから、液化ジメチルエーテルなどの使用量を減らすことができる。
【0029】
例えば本実施形態では、作動物質としてジメチルエーテル(DMEとも表記される。)を用いた例について説明する。ただし、本発明に係る作動物質がこれに限定されるものではない。ジメチルエーテルは、1気圧における沸点がおよそ−25℃であり、0℃〜50℃の大気圧において気体状態である。このように、室温付近、大気圧下において、気体状態であるため、液体状態のジメチルエーテルを得るためには加圧下での操作が必要である。また、高効率なジメチルエーテルの製造方法、製造装置は、例えば特開平11-130714号、特開平10-195009号、特開平10-195008号、特開平10-182535号から特開平10-182527号、特開平09-309852号から特開平09-309850号、特開平09-286754号、特開平09-173863号、特開平09-173848号、特開平09-173845号などに開示されており、容易に得ることができる。
【0030】
また、例えば本実施形態では、水分含有固体として石炭を脱水する場合について説明する。本発明によれば、褐炭や亜瀝青炭から石炭表面の官能基と強く結合している石炭中の水分を低動力で除去して、瀝青炭並の含有水分に脱水可能である。褐炭や亜瀝青炭は、低灰分・低硫黄分の炭種でありながら、含有水分が多いため、輸送コストや燃焼性が悪くなり山元以外では利用されてこなかったが、本発明に係る脱水法を用いることで、高品位炭並の燃焼性能と輸送コストを実現することが可能となる。このことは、石炭の採掘から発電後の処理までを総合的に判断すると、発電コストの低減に極めて効果的である。勿論、本発明は、石炭以外のどのような固体の水分除去にも応用することができる。
【0031】
本実施形態の液化手段2は、例えば作動物質の気体(ジメチルエーテルガス)を圧縮する圧縮機である。以下、圧縮機2と表記する。この圧縮機2は、例えば電動機8により駆動される。ジメチルエーテルガスは圧縮機2で加圧されて過熱ガスになった後、貯留槽3の内部で凝縮し、液化物となる。なお、貯留槽3の内部で凝縮可能であるのは、貯留槽3に流入するジメチルエーテルの過熱ガスの量に対して、貯留槽3の内部に既に存在している液化ジメチルエーテル量を充分に多くすることで、ジメチルエーテルが放出する蒸発潜熱を、貯留槽3内部の温度上昇で吸収することができるからである。ただし、図6に示すように、圧縮機2bと貯留槽3との間に冷却器9を配置し、この冷却器9により貯留槽3の直前でジメチルエーテルの過熱ガスを確実に凝縮し、液化するようにしても良い。また、同図に示すように圧縮機を多段構成としても良い。図6の場合は、圧縮機2a,2bと冷却器9とにより液化手段2が構成される。
【0032】
本実施形態の水分離手段4は、貯留槽3の内部から水分を含む液化ジメチルエーテルを抜き出す減圧弁10と、水分が溶解しているジメチルエーテルの液化物からジメチルエーテルを気化させる蒸発器11と、ジメチルエーテル蒸気と水とを分離する分離器12とを含むものである。このような構成をとることによって、例えば外乱によって分離器12による物質Dと水の分離性能(分離器12出口の物質Dの症状)が変化した場合でも、分離器12には液化手段2と貯留槽3と蒸発器11だけが連結するので、分離性能の変化がそれ以外の装置に及ぼす影響を極めて小さくすることが可能となる。さらに、貯留槽3には十分な物質Dが存在するので、分離器12に流入する物質Dの性状の変化を極めて小さくすることが可能となる。このため、蒸発器11の出力を変え、分離器12に投入する熱量を変えることにより分離性能を所定の値に戻すことが可能となる。なお、蒸発器11に供給された液化ジメチルエーテルは、蒸発器11でジメチルエーテル成分だけが選択的に蒸発するとともに、ジメチルエーテルに溶存していた水分は蒸発せずに液状のまま残る。ジメチルエーテルガスと水分は、分離器12で気液分離される。
【0033】
ここで、分離器12で分離されたジメチルエーテルガスには、水の飛沫が混入している可能性があるので、さらに本実施形態では、上記ジメチルエーテルガスに混入した水の飛沫を除去するために分離器12の後段に水トラップ13を設けるようにしている。例えば重ねた網目に蒸気を通して蒸気中の水分を取り除くデミスタをこの水トラップ13として利用できる。水トラップ13で回収された水は、分離器12に戻される。分離器12で分離した水は、バルブ50を開とすることで排出される。ここで、分離器12の内部の圧力が大気圧よりも高い場合、分離器12で分離した水にはジメチルエーテルガスが溶存する。この水をそのまま排出すると環境への負荷が大きく、さらにジメチルエーテルの損失量を大きくする。そこで、環境への負荷並びにジメチルエーテルの損失量を最小限にするため、図6に示すように、排水中に溶存しているジメチルエーテルを回収する脱気塔14を分離器12に接続するようにしても良い。この脱気塔14は、その入口に保圧弁15を設け、脱気塔14の内部の圧力を下げることで、ジメチルエーテルを回収するように構成されている。さらに、脱気塔14の下部に設けた加熱缶14aで水を加熱することでジメチルエーテルの回収率を向上することもできる。脱気塔14により排水と分離されたジメチルエーテル蒸気は、図示を省略する配管を介して再び水分除去システム1の第1の循環路C1に戻され、使用される。
【0034】
本実施形態の脱水手段5は、脱水装置16と、この脱水装置16に貯留槽3から作動物質を送る送液ポンプ17とを含むものである。このような構成をとることによって、例えば、外乱によって脱水装置16における脱水性能(脱水装置16出口の物質D(例えばジメチルエーテル)の性状)が変化した場合でも、脱水装置16には送液ポンプ17と貯留槽3だけが連結するので、脱水性能の変化がそれ以外の装置に及ぼす影響を極めて小さくすることが可能となる。さらに、貯留槽3には十分な物質Dが存在するので、送液ポンプ17に流入する物質Dの性状の変化を極めて小さくすることが可能となる。このため、送液ポンプ17の出力を変え、物質Dの脱水装置16への流入量を変えることにより脱水性能を所定の値に戻すことが可能となる。
【0035】
脱水装置16は、水分含有固体としての石炭と、作動物質としてのジメチルエーテルの液化物とを接触させる構成を備えるものであれば、その構成が特に限定されるものではないが、少量のジメチルエーテルを用いて高効率に脱水を行う観点から向流接触させる形式のものが好ましい。かかる向流接触式の脱水装置16として、例えば特公昭57−15922号や特開2004−255248号に開示されるロートセル抽出機の利用が望ましい。
【0036】
ロートセル抽出機の原理を利用した脱水装置16の構成例を図2〜図4に示す。この脱水装置16は、ケーシング18と、ケーシング18の軸心に配置された回転軸19と、回転軸19を介してケーシング18内で回転する複数の回転セル部20を有するロータ21と、ロータ21を回転軸19によって回転駆動させる回転駆動機構22とを備え、回転セル部20内に水分含有固体を投入するとともに作動物質を供給し、回転駆動機構22によりロータ21を回転させる間に回転セル部20内で作動物質と水分含有固体とを接触させ、かつ当該接触後の作動物質を回転セル部20の回転方向とは逆方向の他の回転セル部20に再供給するようにしている。水分を含んだ作動物質と、水分が除去された脱水対象固体(本実施形態では石炭)とは、別々に回収される。
【0037】
ケーシング18は、円筒状の側壁18Aと、この側壁18Aの上面を封止する上板18Bと、この上板18Bと対向し且つ円筒状の側壁18Aの中央部から側壁18Aに向かって下降傾斜する底板18Cとを備え、密封構造になっている。また、ロータ21は、回転軸19を囲み且つ上下の連結部材21Aによって回転軸19と連結された内筒21Bと、この内筒21Bを囲み且つ側壁18Aより小径に形成された円筒状の内壁21Cと、この内壁21Cと内筒21Bとの間に形成されたリング状の空間を複数の回転セル部20に区画し且つ放射状に配置された複数の壁部21Dとを有し、回転軸19を介して円筒状ケーシング18の底板18Cに沿って回転する。
【0038】
上板18Bには脱水対象投入部23が設けられ、この脱水対象投入部23から水分含有固体が回転セル部20内に投入される。また、ロータ21の上端と円筒状ケーシング18の上板18Bとの間には隙間が形成され、この隙間には作動物質供給部24が側壁18Aの上端部から径方向に沿って挿入され、この作動物質供給部24から作動物質が回転セル部20内に供給される。この作動物質供給部24は、例えば先端が封止され且つ複数の孔またはノズルを有するパイプによって形成されている。
【0039】
また、内壁21Cの下端部には、液状作動物質の流出部25が各回転セル部20に対応させて形成されている。これらの流出部25には金網やパンチングメタル等の多数の孔を有する部材がそれぞれ取り付けられている。これらの流出部25を介して、各回転セル部20内で水分含有固体と接触した液状作動物質が、側壁18Aと内壁21Cと間に形成されたリング状の受液部26へと流出する。このリング状の受液部26は、放射状に配置した図示を省略する仕切り板によって複数の受液室27に仕切られている。各受液室27は例えば複数の回転セル部20に渡って形成されている。各受液室27の底面にはそれぞれ孔が形成され、この中の1つの孔が脱水処理後の水分を含んだ液状作動物質を排出する排出孔28として機能し、残りの孔は流出孔29として機能する。流出孔29は、図4に示すように、ポンプ30を備えた配管31を介して、隣の受液室27の上方に挿入された作動物質再供給部32にそれぞれ連結される。これらのポンプ30,配管31,作動物質再供給部32によって、受液室27に溜まった液状作動物質が一つ上流側の受液室27を通過する回転セル部20内に供給される。尚、作動物質再供給部32は作動物質供給部24と同様に構成されている。
【0040】
次に、脱水装置16の動作について説明する。脱水装置16が始動して回転駆動機構22が駆動すると、回転軸19を介してロータ21が図4における時計回りに回転する。水分含有固体としての石炭は、例えばコンベア33によって搬送されて、脱水対象投入部23から、例えば最上流の回転セル部20内に投入される。作動物質としての液化ジメチルエーテルは、作動物質供給部24から、例えば最下流の回転セル部20内に供給される。回転セル部20の上方より供給される液状作動物質は、当該回転セル部20内の水分含有固体と接触しながら重力と遠心力により流出部25に向かって移動する。流出部25より流出した液状作動物質は、ポンプ30の働きにより回転セル部20の回転方向とは逆向きに移動し、回転セル部20の回転方向とは逆方向の他の回転セル部20に再供給される。このように、水分含有固体が投入された回転セル部20はロータ21の回転により時計回りに移動するのに対して、液状作動物質はポンプ30の働きにより反時計回りに移動するので、水分含有固体と作動物質とは向流接触することとなる。この向流接触により脱水効率を高めることができる。また、最も含水量が低下した脱水対象(石炭)を保持する回転セル部20である最下流の受液室27に達した回転セル部20に対して、作動物質供給部24から新たな液状作動物質を供給するようにすることで、脱水対象(石炭)の残存水分を効率良く除去することができる。液状作動物質は、下流側の受液室27から上流側の受液室27に向かって流れ、各受液室27に達した回転セル部20内でそれぞれの脱水対象(石炭)と向流接触して、含有水分の濃度を段階的に高めながら、排出孔28に到達する。排出孔28から排出される水分を含んだ液状作動物質は、配管40Gを介して貯留槽3へと送られる。一方、脱水処理を終えた回転セル部20内の石炭は、例えば作動物質供給部24の下流側に位置する底板18Cに開閉可能に設けられた排出口36を介して、外部へ排出され、回収される(図4に示す白抜きの矢印参照)。
【0041】
ここで、従来ある既存のロートセル抽出機は、通常、常温常圧下で、液体状態の抽剤を用いて固体中に含まれるアロマ成分などを抽出することに用いられる。このようなロートセル抽出機を脱水装置16として利用する場合、以下のような点を考慮する必要がある。即ち、ジメチルエーテルの液化物を脱水剤として用いるために、常温常圧下において気体となるジメチルエーテルの蒸発を防いで液状に保つ必要がある。このために脱水装置16内部を加圧状態とし、かつその加圧状態を維持する密封構造とする、あるいは脱水装置16内部をジメチルエーテルの飽和蒸気で満たして密封構造とする必要がある。しかし、ロートセル抽出機は、ロータ21が回転する構造を有するため、回転軸19の周辺部分の気密を保持することが極めて難しい。そこで、図2に示すように、脱水装置16の全体を、例えば作動物質(ジメチルエーテル)の飽和蒸気で満たした密閉容器34内に収納することが望ましい。この場合、ロータ21と共に回転する部分ではない作動物質の供給用配管40F・排出用配管40Gおよび脱水対象投入部23と接続された水分含有固体の供給用配管35、排出口36と接続された脱水済み水分含有固体の回収管(図示省略)などは、密閉容器34の気密を保持したまま、密閉容器34の外に抜き出し、水分除去システム1を構成する他の要素との連結を容易にすることが可能である。
【0042】
本実施形態の水分除去システム1では、図1に示すように、圧縮機2の出口と貯留槽3とは第1配管40Aを介して接続され、貯留槽3と蒸発器11の入口とは減圧弁10を備えた第2配管40Bを介して接続され、蒸発器11の出口と分離器12の入口とは第3配管40Cを介して接続され、分離器12の出口と水トラップ13の入口とは第4配管40Dを介して接続され、水トラップ13の出口と圧縮機2の入口とは第5配管40Eを介して接続され、これら配管40A〜40Eにより第1の循環路C1が形成される。この第1の循環路C1を、ジメチルエーテルが、気体、液体の状態変化をしながら循環することで、貯留槽3の内容物から水が除去される。即ち、貯留槽3内の液化ジメチルエーテルに溶存している水分が除去される。
【0043】
また、この水分除去システム1では、貯留槽3と脱水装置16の作動物質供給部24とは、送液ポンプ17を備えた第6配管40Fを介して接続され、脱水装置16の作動物質排出孔28と貯留槽3とは、第7配管40Gを介して接続され、これら配管40F,40Gにより第2の循環路C2が形成される。この第2の循環路C2を、ジメチルエーテルが循環することで、脱水装置16内の水分含有固体から水分が除去され、除去された水分が液化ジメチルエーテルに溶存した形で貯留槽3内に持ち込まれる。
【0044】
なお、上記第1の循環路C1の系6と、上記第2の循環路C2の系7とは、必ずしも同時に動作している必要はなく、どちらか一方だけが動作してもよい。上記第1,第2の循環路C1,C2の切り離しは、例えば圧縮機2や脱水装置16などの起動・停止や配管40A〜40Gに設けたバルブ41,43,49等の開閉、図示を省略する逆止弁などによって実現される。
【0045】
貯留槽3には、例えば脱水装置16に投入される水分含有固体に含まれる水分量よりも多くの水分量を溶解できるだけの量の作動物質が、バルブ37を備えた配管38により予め供給されている。これにより、仮に第2の循環路C2の系だけを作動させた場合でも、水分含有固体に対する脱水を行える。
【0046】
さらに本実施形態では、貯留槽3の内部空間を脱水用液室3Aと再生用液室3Bとに隔てる隔壁3Cを設けるようにしている。脱水用液室3Aでは、圧縮機2から送られる作動物質の液化物が流入し、また当該液化物が脱水装置16に向かって流出する。再生用液室3Bでは、脱水装置16から排出される水分を含む作動物質の液化物が流入し、また当該液化物が水分離手段4に向かって流出する。つまり、再生用液室3Bには水分を含まないか水分濃度が極低い作動物質の液化物が貯留され、再生用液室3Bには水分が多く溶解している作動物質の液化物が貯留される。これにより、脱水装置16は水分を殆ど含まない作動物質を用いて効率的に脱水処理を行うことができ、水分離手段4は水分を多く含む作動物質に対して効果的に気液分離を行うことができる。
【0047】
ここで、脱水用液室3Aと再生用液室3Bとを完全に隔ててしまうと、上記第1の循環路C1の系6と、上記第2の循環路C2の系7の処理速度が大きく異なる場合やこれらの系6,7を別々に作動させる場合に、再生用液室3Bまたは脱水用液室3Aが空になる事態が生じ、故障等を誘発する虞がある。そこで、例えば本実施形態では、隔壁3Cを、脱水用液室3Aと再生用液室3Bとの間での液化作動物質の移動を許容するように構成している。具体的には、貯留槽3内部の鉛直上方の空間が脱水用液室3Aと再生用液室3Bとの間で連続するように隔壁3Cの高さを設定して、脱水用液室3A内の圧力と再生用液室3B内の圧力とを等しくすると共に、隔壁3Cに流通孔3Dを設けるようにしている。これにより、脱水用液室3Aと再生用液室3Bとの液面高さが等しくなるように、流通孔3Dを介して液化作動物質が脱水用液室3Aと再生用液室3Bの間を移動する。このように構成することによって、圧縮機2から送られる水分を含まない作動物質の液化物と、脱水装置16から排出される水分を多く含む作動物質の液化物とが混ざり難い構成としつつ、上記第1の循環路C1の系6と第2の循環路C2の系7の処理速度が大きく異なる場合やこれらの系6,7を別々に作動させる場合の不都合を回避することができる。なお、脱水用液室3Aと再生用液室3Bとの間での液化作動物質の移動を許容する構成としては、上記のように流通孔3Dを設けるものには必ずしも限定されず、例えば液化作動物質が隔壁3Cからオーバフローすることで、脱水用液室3Aと再生用液室3Bとの間での移動を許容するように構成しても良い。
【0048】
また、脱水操作が終了した固体(石炭)を脱水装置16から取り出す際に、脱水装置16内に液化したジメチルエーテルが残っていると、脱水装置16に残存している当該ジメチルエーテルが大気圧下で急激に膨張する虞があり、危険である。このため、脱水操作が終了した固体(石炭)を脱水装置16から取り出す前に、脱水装置16内に残存する液化ジメチルエーテルを抜き出す必要がある。そこで例えば本実施形態では、脱水手段5と水分離手段4とを接続する流路39を設け、当該流路39を介して脱水手段5に残存している作動物質を水分離手段4側に抜き出すようにしている。より具体的には、第1バルブ41と減圧弁42とを備えた第8配管39を介して、脱水装置16と蒸発器11とを接続するようにしている。第2の循環路C2の系7が作動しているときには第1バルブ41は閉となっている。脱水装置16内に残存する液化ジメチルエーテルを抜き出す際には、第2の循環路C2の系7を停止し、脱水装置16と貯留槽3とを接続する第7配管40Gに設けた第2バルブ43を閉とし、第1バルブ41を開として、減圧弁42により脱水装置16内部に残存する液化ジメチルエーテルを圧力差によって蒸発器11へと抜き出して、蒸発器11により蒸発する。
【0049】
作動物質であるジメチルエーテルは、例えば0℃〜50℃位の温度範囲で本発明のシステム1に係る一連の操作を行うことが好ましい。また、ジメチルエーテルを液体状態に保つために、第1の循環路C1における圧縮機2の出口から減圧弁10までの間(貯留槽3内部を含む)、第2の循環路C2(脱水装置16内部を含む)、脱水装置16から減圧弁42までの間は加圧された状態となっている。また、貯留槽3には第1,第2の循環路C1,C2内の空気が集まるとともに、貯留槽3の内部空間の上部に溜まる。この溜まった空気は、例えば貯留槽3の上部にある弁44から廃棄される。
【0050】
本システム1には、水分含有固体としての石炭、水、作動物資としてのジメチルエーテルの3つが関与する。以下に、これらの各物質に着目した本システム1のフローについて説明する。なお、図1,図6中の実線で示す矢印が高純度ジメチルエーテルの流れを示し、破線で示す矢印が水の流れを示し、2点鎖線で示す矢印が水が溶解したジメチルエーテルの流れを示す。水分含有固体としての石炭は、脱水装置16に投入され、液化ジメチルエーテルによって脱水された後に、脱水装置16から取り出される。
【0051】
水は、水分含有固体中の水分として脱水装置16からシステム1に供給される。まず、脱水装置16で液化ジメチルエーテル中に溶出した後、貯留槽3の再生用液室3B内に貯留され、液化ジメチルエーテル中に溶存する形態で蒸発器11に到達する。蒸発器11で大部分の液化ジメチルエーテルが気化し、液化ジメチルエーテル中に溶存していた水が分離される。
【0052】
ジメチルエーテルガスは圧縮機2で加圧されて過熱ガスになった後、凝縮して、液化ジメチルエーテルとなって、貯留槽3の脱水用液室3Aに貯留される。貯留槽3の液化ジメチルエーテルは、脱水装置16と蒸発器11にそれぞれ供給される。脱水装置16に供給された液化ジメチルエーテルは、水分含有固体の水分を溶解し、水分を含む液化ジメチルエーテルは再び貯留槽3へと戻る。一方、蒸発器11に供給された液化ジメチルエーテルは、蒸発器11でジメチルエーテル成分だけが選択的に蒸発するとともに、ジメチルエーテルに溶存していた水分は蒸発せずに液状のまま残る。ジメチルエーテルガスと水分は、分離器12で気液分離され、分離されたジメチルエーテルガスは、水トラップ13を通過して再び圧縮機2に戻る。
【0053】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。本発明の水分除去システム1は図1の構成に限定されるものではなく、例えば図6に示す構成とすることも可能である。
【0054】
図6に示す構成例では、圧縮機2bと貯留槽3との間に冷却器9を配置し、この冷却器9により貯留槽3の直前でジメチルエーテルの過熱ガスを凝縮し、液化するようにしている。この場合、同図に示すように、冷却器9と蒸発器11を熱交換器45で接続して、液化ジメチルエーテルの蒸発潜熱を回収して有効利用するようにしても良い。また、分離器12で分離されたジメチルエーテル蒸気を膨張機46により断熱膨張して、外界に仕事を行うようにしても良い。図6の例では、圧縮機を2段とし、第1圧縮機2aと膨張機46を連結して膨張機46で行われた仕事を回収し第1圧縮機2aの動力とし使用している。なお、冷却器47は、膨張機46から出た気体温度を第1圧縮機2aの入口の最適温度に調整するものである。また、蒸発器11により液化ジメチルエーテルを気化させる際の温度の調整は、冷却器48により行われる。
【実施例1】
【0055】
以下に、作動物質としてジメチルエーテルを用いる場合のシステム1内の圧力、温度、処理量の設定例を示す。なお、圧力と温度の設計を簡便化するため、脱気塔14を省略し、分離器12で水とジメチルエーテルとが完全に分離できると仮定した。また、脱水装置16で処理された水分含有固体はジメチルエーテルを含まないと仮定した。まず、圧縮機2の入口を起点として、第1の循環路C1における温度・圧力条件を設定した。
【0056】
圧縮機2の入口でのジメチルエーテルについて、温度が25℃で、飽和温度が15℃の場合、圧力は0.44MPaとなる。圧縮機2の入口における飽和温度が高いほど、圧縮機2の入口での圧力が上がるので、圧縮機2の動力が減少する。また、ジメチルエーテルの熱容量比は1.11と小さいので、断熱圧縮時の温度上昇が少ない。例えば、断熱圧縮を仮定すると、圧縮機2の出口の圧力が0.78MPaの場合、圧縮機2の出口の温度は43℃、飽和温度が35℃となる。このように、圧縮機2出口における過熱度は、圧縮機2入口の過熱度よりも小さくなる。
【0057】
貯留槽3内の液化ジメチルエーテルの温度は、外気温度とほぼ同じであるので、圧縮機2の出口温度よりも低い。また、圧縮されるジメチルエーテルガス量より、貯留槽3内部の液化ジメチルエーテルの量が多いので、圧縮機2から出たジメチルエーテルガスは、貯留槽3内部の液化ジメチルエーテルで冷やされて凝縮される。この際に放出される蒸発潜熱は、システム1からの放熱として外界に逃げる。
【0058】
貯留槽3内では、圧縮機2から流入する高純度の液化ジメチルエーテルと、脱水装置16から流入する水分含有液化ジメチルエーテルが部分的に混合する。貯留槽3から蒸発器11に流れる液化ジメチルエーテルは減圧弁10によって、圧縮機2の入口の圧力に等しい0.44MPaに減圧される。0.44MPaにおけるジメチルエーテルの飽和温度は15℃であるので、室温の液化ジメチルエーテルは蒸発器11で蒸発して膨張する。膨張したジメチルエーテルガスの温度は飽和温度である15℃まで低下する。これは、もともとの圧縮機2の入口温度である25℃よりも低く、このまま循環利用すると第1の循環路C1内の温度が低下する可能性があるので、蒸発器11において25℃まで加熱する。
【0059】
また、第2の循環路C2における温度・圧力の条件は、貯留槽3内の液化ジメチルエーテルの温度・圧力とほぼ同じであるが、脱水装置16に液化ジメチルエーテルを供給するために貯留槽3における第6配管40F側入口と、第7配管40G側出口に差圧が生じる。この差圧分の昇圧は送液ポンプ17によって賄われるので、送液ポンプ17から、貯留槽3における第7配管40G側出口まで、第2の循環路C2における他の部位よりも圧力が高くなる。その値は概ね0.1MPaから数MPa程度である。
【0060】
例えば、脱水装置16に水分50%の水分含有固体を5リットル(≒5kg)充填し、脱水する場合を考える。この場合、脱水装置16内の初期水分量は2.5kgとなる。液化ジメチルエーテルの水分の溶解度は、室温において6.7質量%であるので、2.5kgの水分を溶解するのに必要な最低限の液化ジメチルエーテルは、2.5÷0.067=37.3kgである。また、液化ジメチルエーテルの室温における密度は、0.67kg/リットルであるので、37.3kgの液化ジメチルエーテルの体積は55.7リットルである。これに対して、貯留槽3には200リットルの液化ジメチルエーテルが充填されているものとする。
【0061】
第1の循環路C1の系6は動作させず、第2の循環路C2の系7を1時間動作させて、その間に水分含有固体をほぼ完全に脱水するとの運転条件を設定する。脱水が進行するにつれて、貯留槽3内の液化ジメチルエーテル内の水分濃度が上昇するが、貯留槽3内には隔壁3Cが設けられているので、貯留槽3内の液化ジメチルエーテルは均一に混合するわけではない。
【0062】
最も好ましくない場合として、水分含有固体の水分がすべて脱水され、この水分が貯留槽3内の液化ジメチルエーテルと完全に混合したと仮定する。この場合でも、貯留槽3内の液化ジメチルエーテル内の水分濃度は、55.7/200*6.7%=1.87%にしか上昇しない。これは飽和濃度6.7%よりも著しく低く、脱水性能を損なうものでない。さらに、実際には、貯留槽3内に隔壁3Cを設けることにより、水分が貯留槽3内の液化ジメチルエーテルと完全に混合するわけではないので、脱水装置16に供給される液化ジメチルエーテル中の水分濃度は上記値(1.87%)よりも低く、脱水に要する液化ジメチルエーテルの量が著しく増えることはない。
【0063】
脱水装置16への液化ジメチルエーテルの供給速度を200リットル/hと設定すると、17分で脱水操作が完了する。一方、第1の循環路C1の系における圧縮機2によるジメチルエーテルガスの処理量を20Nm/hと設定する。ジメチルエーテルガスの密度は2.06kg/m、液化ジメチルエーテルの密度は670kg/mであるので、圧縮機2の処理速度を液化状態のジメチルエーテルの体積に換算すると61.5リットル/hである。
【0064】
また、貯留槽3内において水と液化ジメチルエーテルが完全に混合していると仮定すると、貯留槽3内には、水分濃度1.87%の液化ジメチルエーテルが200リットル存在することになる。第1の循環路C1の系6により液化ジメチルエーテル中の水分が分離され、圧縮機2から貯留槽3内に流入する純粋な液化ジメチルエーテルが貯留槽3内の液化ジメチルエーテルと瞬時に完全混合すると仮定すると、貯留槽3内の液化ジメチルエーテル中の水分濃度の変化は以下の数式1で計算できる。
【数1】

【0065】
ここで、数式1中のVは貯留槽3中の液化ジメチルエーテルの体積であり、Cは液化ジメチルエーテル中の水分濃度である。vは圧縮機2の液化状態のジメチルエーテルの体積換算の処理速度である。tは時間である。上記の数式1において、t=0,C=1.87%;t=t,C=Cの境界条件が成り立つので、次の数式2が成り立つ。
【数2】

【0066】
従って、第1の循環路C1の系6の運転に伴う貯留層内の液化ジメチルエーテル中の水分濃度の経時変化は、次の数式3および図5に示すグラフで表される。なお、Cの単位は%、tの単位は1時間である。
【数3】

【0067】
図5に示すように、例えば第1の循環路C1の系6を3時間運転すると、貯留槽3内の液化ジメチルエーテル中の水分濃度は0.74%に減少し、ほぼ純粋な液化ジメチルエーテルと同等になる。また、第1の循環路C1の系6を10時間運転すると、貯留槽3内の液化ジメチルエーテル中の水分濃度は0.047%、さらに24時間運転すると当該水分濃度は0.0012%にまで減少する。
【0068】
以上の試算は、圧縮機2から貯留槽3内に流入する純粋な液化ジメチルエーテルが貯留槽3内の液化ジメチルエーテルと瞬時に完全混合するとの仮定に基づくものであり、実際には、隔壁3Cの存在によって圧縮機2から貯留槽3内に流入する純粋な液化ジメチルエーテルと貯留槽3内の液化ジメチルエーテルとは混合し難いので、更に短い時間で貯留槽3内の液化ジメチルエーテルから水分を分離できる。このように、本システム1によって、例えば第2の循環路C2の系7を17分、第1の循環路C1の系6を3時間運転する、とのように第1,第2の循環路C1,C2の系6,7の運転条件をそれぞれ最適な条件にすることによって、容易かつ効率的に水分含有固体の脱水を行える。
【0069】
以上のように本発明によれば、第1の循環路C1の系6と第2の循環路C2の系7とがそれぞれ独立しており、各々の系6,7を別々に運転することが可能であるので、第1の循環路C1の系6に属する圧縮機2と、第2の循環路C2の系7に属する脱水装置16の処理量を一致させる必要はなく、圧縮機2と脱水装置16とがそれぞれ最高の効率や性能を発揮できる最適な運転条件をそれぞれ系6,7において独立に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムの構成の一例を示す構成図である。
【図2】脱水装置の構造の一例を示し、一部を切り欠いて示す。
【図3】図2の脱水装置の側面から見た断面図である。
【図4】図2の脱水装置における作動物質のフローを示す概念図である。
【図5】貯留槽内の液化ジメチルエーテル中の水分濃度と、第1の循環路の系の運転時間との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムの他の構成例を示す構成図である。
【図7】従来の液化物質を用いた固体含有水分の除去システムを示す構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1 水分除去システム
2 圧縮機(液化手段)
3 貯留槽
3A 脱水用液室
3B 再生用液室
3C 隔壁
4 水分離手段
5 脱水手段
C1 第1の循環路
C2 第2の循環路
6 第1の循環路の系
7 第2の循環路の系
14 脱気塔
16 脱水装置
17 送液ポンプ
18 ケーシング
19 回転軸
20 回転セル部
21 ロータ
22 回転駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、前記作動物質の気体を加圧、あるいは冷却、あるいは加圧と冷却の併用によって液化させる液化手段と、液化した前記作動物質を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から水分を含む前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって前記作動物質の気体と水分を分離する水分離手段とが直列に接続され、かつ前記水分離手段と前記液化手段とが接続されて前記水分離手段で気化された前記作動物質が前記液化手段により再び液化される第1の循環路が形成され、前記貯留槽と、前記貯留槽から液化した前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段とが直列に接続され、かつ前記脱水手段と前記貯留槽とが接続されて前記脱水手段から排出される水分を含む前記作動物質が前記貯留槽に戻される第2の循環路が形成され、前記第1および第2の循環路の系が同時に又は別々に動作可能であることを特徴とする液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項2】
前記作動物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒドから選ばれる1つの物質またはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項3】
前記脱水手段は、前記作動物質の液化物と前記水分含有固体とを向流接触させるものであることを特徴とする請求項1または2記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項4】
前記脱水手段は、ケーシングと、前記ケーシングの軸心に配置された回転軸と、前記回転軸を介して前記ケーシング内で回転する複数の回転セル部を有するロータと、前記ロータを前記回転軸によって回転駆動させる回転駆動機構とを備え、前記回転セル部内に前記水分含有固体を投入するとともに前記作動物質を供給し、前記回転駆動機構により前記ロータを回転させる間に前記回転セル部内で前記作動物質と前記水分含有固体とを接触させ、かつ当該接触後の作動物質を前記回転セル部の回転方向とは逆方向の他の回転セル部に再供給する脱水装置と、前記貯留槽から前記作動物質を前記脱水装置に送る送液ポンプとを有することを特徴とする請求項3記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項5】
前記貯留槽の内部空間を、前記液化手段から送られる前記作動物質の液化物が流入し、かつ当該液化物が前記脱水手段に向かって流出する脱水用液室と、前記脱水手段から送られる水分を含む前記作動物質の液化物が流入し、かつ当該液化物が前記水分離手段に向かって流出する再生用液室とに隔てる隔壁を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項6】
前記隔壁は、前記脱水用液室と前記再生用液室との間で前記作動物質の液化物が移動可能に構成されることを特徴とする請求項5記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項7】
前記水分離手段には、該水分離手段で分離された水分に含まれる前記作動物質を脱気するための脱気塔が接続され、前記脱気塔が前記第1の循環路に接続されて、脱気された前記作動物質が回収されて前記第1の循環路に戻されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項8】
前記脱水手段と前記水分離手段とを接続する流路を有し、当該流路を介して前記脱水手段に残存している前記作動物質が前記水分離手段側に抜き出されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1つに記載の液化物質を用いた固体含有水分の除去システム。
【請求項9】
25℃、1気圧で気体である物質を作動物質として、前記作動物質の気体を加圧、あるいは冷却、あるいは加圧と冷却の併用によって液化させる液化手段と、液化した前記作動物質を貯留する貯留槽と、前記貯留槽から水分を含む前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を気化することによって前記作動物質の気体と水分を分離する水分離手段とを直列に接続し、かつ前記水分離手段と前記液化手段とを接続して前記水分離手段で気化した前記作動物質を前記液化手段により再び液化する第1の循環路を形成し、前記貯留槽と、前記貯留槽から液化した前記作動物質を取り出すとともに当該作動物質を水分含有固体と接触させて水分を溶解して脱水を行う脱水手段とを直列に接続し、かつ前記脱水手段と前記貯留槽とを接続して前記脱水手段から排出する水分を含む前記作動物質を前記貯留槽に戻す第2の循環路を形成し、前記作動物質を前記第1の循環路にて循環させることにより前記貯留槽の内容物から水を除去し、前記作動物質を前記第2の循環路にて循環させることにより水分含有固体から水を除去し、前記第1および第2の循環路の系を同時に又は別々に動作させることを特徴とする液化物質を用いた固体含有水分の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−130421(P2006−130421A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322970(P2004−322970)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】