説明

液塗布装置

【目的】 種々の特性を有する塗料に対して幅広く適用することができる液塗布装置を提供する。
【構成】 液供給源に連通する通路と、この液供給通路に連通し、液を分配するマニホールドと、ダイヘッド幅方向に延び、実質的に一様な液吐出口が形成されたリップと、を具備するリニア型ダイヘッドを有する液塗布装置において、マニホールド及びリップの間に幅方向に横断的に中空孔を形成し、この中空孔内に被塗布材の移動に同期して回転及び停止が制御される回転子を設け、この回転子を回転させるモータと、このモータの駆動を制御する手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、印刷インキを吐出するコーティングダイを備えた液塗布装置に関する。
【0002】
【従来の技術】塗工および印刷の分野において、種々の媒体を介して粘性流体材料を被塗工材上に薄いフィルム状に設ける際に、塗液を均一に供給することは良質の品質皮膜を得る上で重要なことである。
【0003】塗液の均一供給は、前計量方式および後計量方式の区別なく、塗布工程において重要な要素であり、とくに揮発溶剤を含む塗料を供給する場合は、供給システムのクローズド化が管理上の要請からも好ましい結果を生み出すので、極めて重要である。
【0004】従来、例えば凹版印刷等におけるインキ供給は、輪転方式では、版シリンダ下部に設けられたインキパン中にインキを満たし、版シリンダを浸漬する。しかしながら、輪転方式においては、板状の版をシリンダに巻き付けて印刷しようとした場合に、版端を保持したシリンダの切り落とし部にインキが充満し、ドクタリングすることが不可能になるという不都合を生じる。
【0005】また、円圧方式では、板状の版を用い、この版上に過剰のインキをヘラ等で供給し、スキージにて展色した後にドクタリングする。しかしながら、円圧方式おいては、スキージング及びドクタリングを繰り返すうちに、インキに含まれる溶剤が蒸発し、版上のインキ濃度が変化する。このため、インキ粘度が増大して、印刷適正が損なわれる。
【0006】また、版上のインキを1回ごとに拭き取る方式を採用することも考えられるが、これによれば上述の欠点は改善されるものの、ヘラ等を用いるインキ供給では作業が繁雑になり、実用的ではない。
【0007】ところで、従来から粘性塗料の供給装置として、マニホールド及びリップを有するコーティングダイが知られている。マニホールドは、塗料供給源から供給された塗料を均等に分配するものである。リップは、コーティングダイの幅方向に一様な吐出口として設けられ、マニホールドに連続している。例えば、ドライラミネーション用塗工機では、コーティングダイを介して複数基材間にホットメルト剤をフィルム状に供給し、積層化する。
【0008】また、このようなコーティングダイは、一般塗料を均一に被塗布材に供給するカーテンコータ及びスロットオリフィスコータの供給ヘッドとして用いられている。
【0009】いずれの方式においても被塗布材に対して均一なフィルムを積層するために、塗料の特性に合わせて、マニホールドの形状、大きさ、方向、材質及びリップの間隙、材質等が種々異なる各種ダイのなかから適当なものを選定する必要がある。また、必要に応じてリップ調整用治具等を付加する必要がある。
【0010】また、マニホールドに塗料を送り込む方式として、押出スクリュウとバレルとの組み合わせ構造を用いたり、さらに、圧縮空気等を利用する背圧付加により塗料の安定供給を図ることもなされている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のいずれの方式においても、マニホールド及びこれに続くリップを介して吐出される塗料の幅方向の流速を均一にコントロールすることは困難である。とくに、塗布されるべき塗料が、緻密で、粘性の高いものである場合は、塗液の幅方向の不均一性が増大する。このため、従来の液塗布装置では、使用可能な塗料が低密度で低粘性のもののみに限られるという不便がある。
【0012】また、従来の装置では、背圧を停止してインキ供給を停止した場合に、供給液の急速停止をすることができず、所謂ボタ落ちを生じやすい。さらに、既にリップより吐出してフィルム化した塗料が帯状に尾を引きやすく、周囲を汚染してしまうという欠点がある。この場合に、塗液を不連続すなわち間欠的に供給することも考えられるが、コーティングダイの構造が複雑化するので実用的でない。
【0013】特公平1−39354号公報および実開平1−97094号公報には、スクリュウ構造等の塗料押出手段を備えたノズルを有する塗料供給装置が記載されている。しかしながら、このような塗料供給装置では、塗料をフィルム状に安定して供給することができない。
【0014】本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、種々の特性を有する塗料に対して幅広く適用することができる液塗布装置を提供することを目的とする。とくに、液を不連続的、間欠的に供給する場合であっても、ヘッド部からの塗料のボタ落ちや糸引き等が無く、周囲を汚染することなく、均一なフィルム状塗料を被塗布材に供給することができる液塗布装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段および作用】供給通路を通じてマニホールド及びリップ間に均一かつ等量の液を送るためには、液の粘性や密度などの諸特性に応じて各部の形状および間隙量を最適な条件とする必要がある。発明者らは、ダイ中央部と両端部との間に液供給量の差を生じないようにするには、単にマニホールドからリップに対して液を分配するだけでは不十分であり、何等かの強制力を吐出液に付与することが効果的であるという知見を得た。
【0016】本発明に係る液塗布装置は、ダイヘッドが、液供給源に連通する通路と、この液供給通路に連通し、液を分配するマニホールドと、ダイヘッド幅方向に延び、実質的に一様な液吐出口が形成されたリップと、を具備し、さらに、前記マニホールド及び前記リップの間に幅方向に横断的に中空孔を形成し、この中空孔内に被塗布材の移動に同期して回転及び停止が制御される回転子を設け、この回転子を回転させるモータと、このモータの駆動を制御する手段と、を有することを特徴とする。
【0017】液は、供給通路およびマニホールドを経て中空孔内に流入し、回転子の回転により中空孔からリップに向かって強制的に押出される。強制的に押出されるので、吐出口の両端部における液吐出圧力も増大し、ダイ中央部と両端部とで液吐出量に差が生じなくなり、実質的に均一なフィルムとなって液は被塗布材に向かって吐出される。
【0018】
【実施例】以下、添付の図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【0019】図1に示すように、液塗布装置10のダイヘッド11は、その長手軸が実質的に水平になるような姿勢に設けられ、上部に液供給通路12を有し、下部にリップ16を有する。液供給通路12は、流量制御弁を備えた塗料供給源(図示せず)に連通している。塗料供給源のタンク内には溶媒濃度が所定範囲にコントロールされた塗料液が収容されている。なお、ダイヘッド11は、塗料に含まれる溶剤に対して耐食性を有する鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、プラスチック、セラミックでつくられることが望ましく、また、加圧液によりエロージョンなどの摩耗を受けるので、耐摩耗性鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、セラミックなどでつくられていることが好ましい。
【0020】液供給通路12は、ダイヘッド11の内部でマニホールド13に連通している。マニホールド13は、液供給通路12からの流入液を分流するための多数の分岐通路からなる。マニホールド13の下部は、ダイヘッド11の長手方向のほぼ端部から端部までの領域に広がりをもち、中空孔14に連通している。
【0021】図2および図3に示すように、中空孔14のなかには同径の1対の回転子15(ギヤ方式)が設けられている。1対の回転子15は、軸が水平かつ平行になるような姿勢で同レベルに設けられ、かつ相互間隙が一様になるように中空孔14内に保持されている。なお、1対の回転子15は、相互間隙を調整することができる構造が採用されている。
【0022】回転子15の軸にモータ17の回転軸が連結され、互いに回転子15が逆向きに回転されるようになっている。モータ17の電源は制御機構18の出力側に接続されている。さらに、制御機構18の入力側は、平板上の版等、被塗布材の移動機構19に接続されている。
【0023】制御機構18は、内部にCPUを有し、所定のソフトプログラムがストアされている。すなわち、モータ17は、移動機構19に合わせてあらかじめプログラムされた制御機構18からの信号に従って回転、停止制御される。このようなモータ17として無段変速モータを用いることが好ましい。また、リップ先端での吐出中の塗料のメニスカスを効果的に抑制する目的からリバーシブルモータをこれに採用してもよい。
【0024】なお、図4に示すように、回転押出部材として横断面が三角形状の特殊回転子35を中空孔14内に設けてもよい。
【0025】また、図5に示すように、回転押出部材として横断面が楕円形状の特殊回転子45を中空孔14内に設けてもよい。
【0026】さらに、図6に示すように、回転押出部材として横断面が鉄アレイ形状の1対の特殊回転子55(ルーツ方式)を中空孔14内に設けてもよい。
【0027】また、必要に応じてダイヘッド11の内部に加熱用または冷却用治具を付属品として取り付け、液の流動を制御してもよい。
【0028】リップ16がダイヘッド11の下部に設けられている。リップ16の上部通路は中空孔14の下部に連通し、回転押出部材15(35,45,55)により中空孔14から強制的に押出された液がリップ通路を通って吐出されるようになっている。
【0029】図2に示すように、リップ16を形成する部材24,25は、互いに長さが異なるようにすることも、均一で安定な塗液供給を行なうために極めて効果的である。すなわち、被塗布材26の移動方向の下流側のリップ部材24は、上流側のリップ部材25よりも長い。このような段差付きのリップ形状を採用する理由は、被塗布材26の移動速度と液吐出量とがアンバランスになったときに生じる供給液量の不足分を上流側で補い、液切れをおこさないようにするためである。
【0030】下流側リップ部材24は、少なくとも下端部がゴム状弾性体でつくられていることが不用な被塗布材への損傷を防ぐ目的から好ましい。このようにすることにより、被塗布材26との間のギャップ調整において、従来のダイヘッドとナイフコータとの相乗作用による塗布膜厚の制御を一挙に解消することができる。
【0031】なお、吐出口の幅を調整するための機構(図示せず)として、リップ16に外接して移動可能なように、しきい板(デックル)を取り付けてもよい。
【0032】図1に示すように、ボールスクリュウ22及びフィルムカッティング用治具23がリップ下部の吐出口に沿って延びている。フィルムカッティング用治具23はボールスクリュウ22に連結され、ボールスクリュウ22は第2モータ21の回転軸に連結されている。第2モータ21の電源は制御部20の出力側に接続され、制御部20の入力側には第1モータ17を介して制御機構18の出力側が接続されている。第2モータ21によりボールスクリュウ22が回転されると、フィルムカッティング用治具23がリップ下部吐出口を横断する方向に移動するようになっている。なお、第2モータ21は、制御部20に第1モータ17の停止信号が入ると、制御部20から動作開始信号が出され、回転駆動するようになっている。なお、フィルムカッティング用治具23の移動機構としてボールスクリュウの代わりにエアシリンダを用いてもよい。
【0033】治具23のフィルムカッティング部の形状および材質は、吐出液のフィルムが適正にカットできる範囲であればとくに制限され無いが、カッティング部に付着堆積した塗料による二次汚染を防ぐために、表面積の小さい針金のような線状のものを採用することが望ましい。
【0034】次に、本発明の実施例に係る液塗布装置の動作について説明する。なお、被塗布材26は平板状の版を含めたものである。
【0035】ダイヘッド11を昇降させ、リップ16下部の吐出口と被塗布材26との相互間ギャップを調整する。次いで、塗料液を流量調整しながらダイヘッド11に供給するとともに、被塗布材26を下流側へ移動させる。
【0036】塗料液は、供給通路12から流入し、マニホールド13により分散されて中空孔14に入る。中空孔14内では1対の回転子15を回転させ、液を強制的にリップ16通路に向かって押し出す。これにより液が吐出口の中央部および両端部に対して均一に供給され、一様な厚さの帯状フィルムが被塗布材26に向かって吐出される。
【0037】塗布終了時には、フィルムカッティング治具23によりリップ16の下部吐出口から帯状に延びる塗料液をカットする。
【0038】上記実施例の装置によれば、このため、ダイヘッド11の全幅にわたって被塗布材26の上に塗料液が均一な厚さに塗布される。
【0039】従来の連続供給用のダイにおいては、本発明装置のダイのように回転押出部材が無いので、供給通路を通じてマニホールド及びリップ間に均一かつ等量の液を送るようにするため、ダイ各部の形状やリップ通路間隙量を塗料流動特性に合わせて微妙に合わせ込むことが必要になる。とくに、ダイ中央部と両端部との間に差がないように液を供給するには、ダイ各部の形状やリップ通路間隙量を塗料流動特性に合わせて微妙に合わせ込むことが必要なばかりでなく、適用可能な塗料が所定の流動特性のものに限られる。
【0040】これに対して、上記実施例の装置によれば、リップに接して設けられた回転押出部材の回転トルクにより押出し量を均一に微妙に調整することができるばかりでなく、必要に応じて容易に吐出塗料を停止することができ、かつ、マニホールド形状等の設計上の自由度が増すとともに、広範囲の流動特性を有する塗料を選択することができる。
【0041】供給通路より流入する塗料は、エア等の巻き込みのみを防止すればよく、流動特性に合わせて圧縮空気やスクリュウ等による背圧を利用すると、さらに効果的である。
【0042】また、中空孔を含めてダイの両サイドが密閉構造であり、塗料流動特性および吐出必要量に合わせてリップ吐出口の間隙量を微調整することができるフレキシブルリップを採用することができる。フレキシブルリップとしては、例えば、リップ部材を相互に接近または離隔するための調整用ボルトを用いてもよい。
【0043】
【発明の効果】本発明の液塗布装置は、種々の特性を有する塗料に対して幅広く適用することができる。
【0044】とくに、本発明の液塗布装置によれば、液を不連続的、間欠的に供給する場合であっても、ヘッド部からの塗料のボタ落ちや糸引き等が無く、周囲を汚染することなく、均一なフィルム状塗料を被塗布材に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例に係る液塗布装置を示す機構ブロック図。
【図2】液塗布装置の主要部を液の通路に沿って切り欠いて示す断面図。
【図3】中空孔内の回転押出部材を示す横断面図。
【図4】他の中空孔内の回転押出部材を示す横断面図。
【図5】他の中空孔内の回転押出部材を示す横断面図。
【図6】他の中空孔内の回転押出部材を示す横断面図である。
【符号の説明】
11…ダイヘッド、12…液供給通路、13…マニホールド、14…中空孔、15,35,45,55…回転押出部材、16…リップ、17,21…モータ、18…制御機構、19…移動機構、20…制御部、22…ボールスクリュウ、23…液フィルムカッティング用治具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 液供給源に連通する通路と、この液供給通路に連通し、液を分配するマニホールドと、ダイヘッド幅方向に延び、実質的に一様な液吐出口が形成されたリップと、を具備するリニア型ダイヘッドを有する液塗布装置において、前記マニホールド及び前記リップの間に幅方向に横断的に中空孔を形成し、この中空孔内に被塗布材の移動に同期して回転及び停止が制御される回転子を設け、この回転子を回転させるモータと、このモータの駆動を制御する手段と、を有することを特徴とする液塗布装置。
【請求項2】 ダイヘッドの塗料吐出口の外側に近接して幅方向に移動可能な塗料フィルムカッティング用治具を備えたことを特徴とする請求項1記載の液塗布装置。
【請求項3】 被塗布材に面する塗料吐出用リップ部材の少なくとも一端部が弾性体でつくられ、かつ、段差を有していることを特徴とする請求項1記載の液塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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