説明

液晶滴下工法用シール剤

【課題】ガラス基板に対する安定した密着性を有し,液晶に対する汚染性が低い液晶滴下工法用シール剤を提供する。
【解決手段】(A)液晶滴下工法用シール剤成分としてジグリシジルオキシベンゾフェノンを含み、実質的に1分子中にエポキシ基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含まない、熱硬化および光硬化する液晶滴下工法用シール剤(B)分子中にイソシアヌル骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む液晶滴下工法用シール剤(C)分子中にビスフェノールA骨格および/またはビスフェノールF骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む液晶滴下工法用シール剤

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた塗布性、保存性を有すると共に、相転移温度、比抵抗の変化が少ないことから低液晶汚染性である液晶滴下工法用シール剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶セルの組み立てにおいて、従来はメインシール剤とエンドシール剤という2種類のシール剤を使用していた。シール剤の組成物としては、硬化性エポキシ樹脂や硬化性(メタ)アクリル樹脂が汎用的に使用されていた。従来の製造方法では、メインシール剤は硬化後に液晶と触れるために液晶を汚染する事が少ないが、未硬化の状態で液晶に触れるエンドシール剤においては表示ムラなど様々な問題点を抱えることが多かった。1997年に発表された非特許文献1と非特許文献2において、それぞれエンドシール剤の問題点とシール剤の問題点について触れている。非特許文献1では、ビスフェノールAが検出されていることからエポキシ樹脂由来のコンタミネーションによる表示ムラとの因果関係が示唆されていた。
【0003】
従来の組み立て方法では作業効率を向上させることができず、近年ではいわゆる液晶滴下工法と言われる方法が主流になっている。つまり、シール剤が液晶に触れた状態で貼り合わせてシール剤を硬化する手法である。液晶滴下工法に使用されるシール剤は、エポキシ樹脂による熱硬化性および(メタ)アクリル樹脂による光硬化性を合わせ持つシール剤が汎用的に使用される。熱硬化性のみでは、液晶と触れる時間が長すぎて液晶汚染は避けられない。一方、光硬化性のみでは、基剤を貼り合わせた時に光が当たらない部分が発生し、その部分は硬化不良を起こして成分が溶出する危険性がある。液晶表示パネルの大型化に伴い、工程時間がかかるために液晶汚染性の問題がある。
【0004】
これらの背景にして、特許文献1にも見られる様に、エポキシ樹脂をシール剤に封じ込める目的で、液晶滴下工法用シール剤にエポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を必須成分とするシール剤が主流になっている。エポキシ樹脂と(メタ)アクリル樹脂を混合したシール剤は、完全硬化した後に液晶を注入する過去の製造工程では問題にならなかったが、液晶滴下工法には適しておらず、特有の液晶汚染性の対策として各社がエポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を使用している。しかしながら、前記エポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を合成するにしても、合成における化学的処理に時間と費用がかかりシール剤のコストアップに繋がると共に、シール剤に含まれる原料の種類が増えるため一旦液晶汚染性が拡大すると原因の特定が困難になる。
【0005】
また、液晶表示素子ではガラスが汎用されているが、表面の平面性が高いために基本的にシール剤がガラスに接着し難い傾向が見られる。その状態で、液晶表示パネルの信頼性向上のため、プレッシャークッカー試験(温度120℃、湿度100%RH、2気圧にて24時間放置)などの信頼性試験が実施されると、ガラスに対する密着力の持久性(耐久性)が低下する。近年は、シール剤の塗布幅が細くなり、シール剤に対する接着力の向上が求められると共に、その耐久性も求められる。密着性を向上させる手法として、極性が高い化合物または酸性が強い化合物を添加する手法が知られているが、これらの材料は液晶汚染性が有り液晶滴下工法用シール剤に使用することは適していない。
【0006】
特許文献1はイソシアヌル環を有する(メタ)アクリル樹脂であり、側鎖エステル基に特徴がある。また、市販されているイソシアヌル環を有する(メタ)アクリル樹脂とは異なる特性を有すると記述がある。しかしながら、従来のイソシアヌル環を有する(メタ)アクリル樹脂を同じ精製工程で精製した時の検証をしておらず、精製度合いによって液晶汚染性に影響がでるのか明確になっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3795459号公報
【特許文献2】特許2009−58933号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】第23回日本液晶学会討論会講演予稿集2PA06「LCDセルの注入クロマト現象の解明(分析的アプローチ)−実セルでの注入口部表示不良の原因解析−」
【非特許文献2】第23回日本液晶学会討論会講演予稿集2PA07「LCDの表示不良に与えるシール剤の影響」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の液晶滴下工法用シール剤では、エポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を必須成分としなければならず、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル樹脂の混合したシール剤では、液晶に対する汚染性が高かった。また、ガラスに対する密着性を安定化させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、特定のエポキシ樹脂および(メタ)アクリル樹脂を用いることで、エポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を使用せずに液晶汚染性が低く、ガラスに対する密着性とその耐久性を維持することができる本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施形態は、(A)成分としてジグリシジルオキシベンゾフェノンを含み、実質的に1分子中にエポキシ基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含まない、熱硬化および光硬化する液晶滴下工法用シール剤である。
【0012】
本発明の第二の実施形態は、(B)成分として、分子中にイソシアヌル骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む実施形態一に記載の液晶滴下工法用シール剤である。
【0013】
本発明の第三の実施形態は、(C)成分として、分子中にビスフェノールA骨格および/またはビスフェノールF骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む実施形態一または二のいずれかに記載の液晶滴下工法用シール剤である。
【0014】
本発明の第四の実施形態は、実施形態一〜四のいずれかに記載の液晶滴下工法用シール剤を用いた液晶表示素子である。
【発明の効果】
【0015】
エポキシ基と(メタ)アクリル基を1分子中に有する化合物を使用せずに液晶汚染性が低く、ガラスに対する密着性とその耐久性を維持することができる。

【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、ジグリシジルオキシベンゾフェノンであれば限定はない。基本骨格がジグリシジルオキシベンゾフェノンであれば良く、例えば4,4’−ジグリシジルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジグリシジルオキシベンゾフェノン、2,4−ジグリシジルオキシベンゾフェノンなどが使用でき、複数の骨格が結合した多量体が含まれていても良い。本発明で使用することのできる(A)成分としてのジグリシジルオキシベンゾフェノンは、対応するジヒドロキシベンゾフェノンを公知の方法で、例えばアルカリ触媒下でエピクロルヒドリンと反応させる等の方法によりジグリシジル化すれば得ることができる。
【0017】
コスト面や供給面を考慮すれば汎用的にはビスフェノールA型やF型のエポキシ樹脂を使用するが、これらのエポキシ樹脂は液晶を汚染するため使用できない。また、エポキシ樹脂成分の添加量が少ないと接着力が低下する傾向が見られるため、傾向として(メタ)アクリル樹脂のみからなるシール剤は接着力が低い。前記の傾向にもかかわらず、本発明の(A)成分は液晶汚染性が低く、全体に占める割合が低くても接着力が充分な接着力が発現する。
【0018】
エポキシ基を有する化合物および(メタ)アクリル基を有する化合物の合計質量部が100質量部の場合、(A)成分の添加量としては5〜50質量部が好ましい。5質量部より少ないと接着力が低下し、50質量部より大きいと光硬化成分が少なすぎて光硬化性がわるくなる。
【0019】
本発明で使用することができる(B)成分としては、イソシアヌル骨格を有する(メタ)アクリル樹脂であれば限定はない。(以下、アクリル基とメタクリル基を合わせて(メタ)アクリル基と呼ぶ。また、アクリル樹脂とメタクリル樹脂を合わせて(メタ)アクリル樹脂と呼ぶ。)好ましくは、1分子中に3の(メタ)アクリル基を有する化1の様な構造で有り、さらに好ましくは、商業的に入手しやすい一般式3のnが5でmが1の化合物か、mが0の化合物である。また、本発明の特性を損なわない範囲において、1分子中に2の(メタ)アクリル基を有するイソシアヌル骨格の(メタ)アクリル樹脂を使用することもできる。
【化1】

(Rはそれぞれ独立して水素またはメチル基を示し、nは0〜5を、mは0〜2をそれぞれ独立して示す。)
【0020】
通常、(メタ)アクリル樹脂には極性の高い官能基を含むことが多く、その硬化物は吸湿し易い傾向がある。原因が解明された訳ではないが、(B)成分を添加することでプレッシャークッカー試験においても吸湿しにくく接着力が維持できていると推測される。
【0021】
(B)成分の具体例としては、東亞合成株式会社製アロニックスシリーズの中でイソシアヌル骨格を有するM−215、M−313、M−315、M−327等、新中村化学工業株式会社製のイソシアヌル骨格を有するA−9300、A−9300−1CL等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明には、1分子中にエポキシ基を1以上とアクリル基および/またはメタアクリル基を1以上を有する化合物を含まないことが好ましい。(以下、1分子中にエポキシ基と(メタ)アクリル基を両方有する化合物を、部分アクリル化エポキシ化合物と呼ぶ。)部分アクリル化エポキシ化合物は、式2の様な反応により製造される。1分子中にエポキシ基を2以上有する多価エポキシ化合物を用いる。多価エポキシ化合物のエポキシ基に対して、アクリル酸またはメタアクリル酸などにより開環重合させて(メタ)アクリル基を導入する。この際、全てのエポキシ基を開環重合せず、一部分のエポキシ基のみを開環重合する。(以下、開環重合を単にエステル化と呼ぶ。)典型的な部分アクリル化エポキシ化合物としては、1分子中にエポキシ基と(メタ)アクリル基をもつ化合物が挙げられる。エポキシ基を2有する化合物と(メタ)アクリル酸とを化学量論(エポキシ基1当量に対しカルボキシル基0.5当量)で反応させて、2のエポキシ基のうちの1だけをエステル化した生成物に相当する。エステル化は常法に従って行うことができる。典型的には、両成分を塩基性触媒の存在下で加熱混合することにより容易且つ定量的に反応させることができる。また、部分アクリル化エポキシ化合物は工業用の材料として入手することも可能である。具体的には、ダイセルサイテック株式会社製 UVACURE1561等が挙げられ、UVACURE1561はビスフェノールA型エポキシ樹脂をエステル化した商品として挙げられる。原因は分かっていないが、本発明の(A)成分と(B)成分の組合せについては、部分アクリル化エポキシ化合物を添加することは適しておらず、添加することでシール剤特性が低下する傾向が見られる。しかしながら、部分アクリル化エポキシ化合物を添加しても、その効果が発現しないレベルまで極少量添加することは、本発明において「実質的に含まれない」ことに該当する。
【化2】

【0023】
本発明に使用することができる(C)成分としては、分子中にビスフェノールA骨格および/またはビスフェノールF骨格を有する(メタ)アクリル樹脂である。ビスフェノール型エポキシ樹脂を完全にエステル化した、いわゆるエポキシ変性(メタ)アクリル樹脂や、ビスフェノールをエチレンオキサイド変性またはプロピレンオキサイド変性した(メタ)アクリル樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特に好ましくは、エポキシ変性(メタ)アクリル樹脂である。ビスフェノールA骨格および/F骨格の(メタ)アクリル樹脂は価格的にも安価で、安定供給されるからである。
【0024】
具体的にはダイセルサイテック株式会社製のEBECRYLシリーズ、新中村化学工業株式会社製のNKエステル BPEシリーズ、共栄社化学株式会社製のライトエステルBPシリーズ、ライトアクリレートBPシリーズが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
エポキシ基を有する化合物および(メタ)アクリル基を有する化合物の合計質量部が100質量部の場合、(B)成分および(C)成分の添加量としては50〜95質量部が好ましい。50質量部より少ないと光硬化性が低下し、95質量部より多いと接着力が低下する。
【0026】
本発明に使用することができる熱硬化剤としては、通常エポキシ樹脂に使用する硬化剤を使用することができる。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等に代表されるエポキシ樹脂と三級アミン化合物が途中段階まで反応したエポキシアダクト化合物が一般的に知られている。前記エポキシアダクト化合物を微粉砕した粉体が、潜在性を有する硬化剤として使用できる。熱硬化剤の具体例としては、味の素ファインテクノ株式会社製のアミキュアシリーズや、富士化成工業株式会社製のフジキュアシリーズや旭化成ケミカルズ株式会社製のノバキュアシリーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール等のアルキルイミダゾール化合物、フェニルイミダゾール、ナフチルイミダゾール等のアリールイミダゾール化合物、2−アミノエチルイミダゾール、2−アミノプロピルイミダゾール等のアミノアルキルイミダゾール化合物、アジピン酸ジヒドラジド、エイコサン2酸ジヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン等のヒドラジド化合物、アミンイミド、ポリアミン、ジシアンジアミド、第三ホスフィン類、第四アンモニウム塩、第四ホスホニウム塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、2種類以上組み合わせて使用することもできる。本発明においては、ジヒドラジド誘導体が好ましい。
【0027】
本発明の液晶シール剤に関して、熱風乾燥炉等により加熱により反応が進む硬化性を熱硬化と呼ぶ。本発明では、液晶パネルにダメージを加わらない程度の温度で加熱する必要があるため、80〜140℃で熱硬化する事が好ましい。
【0028】
(A)成分などのエポキシ樹脂成分の合計100質量部に対して、熱硬化剤が1〜50質量部添加されることが好ましい。上記添加量より少なすぎても多すぎても硬化性が悪くなる傾向がある。
【0029】
本発明で使用することができる光開始剤としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等のエネルギー線によりラジカル種を発生するラジカル系光開始剤とブレンステッド酸やルイス酸などのカチオン種を発生するカチオン系光開始剤が知られている。発生したラジカル種および/またはカチオン種により、(メタ)アクリル基を有する化合物を架橋する目的に添加する。本発明の液晶シール剤に関して、前記エネルギー線で硬化する硬化性を光硬化と呼ぶ。
【0030】
前記ラジカル系光開始剤の具体的としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
前記カチオン系光開始剤の具体例としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられるが、具体的にはベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロフォスフェート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロボーレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロフォスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロボーレート、4,4‘−ビス[ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)スルフォニオ]フェニルスルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルフォニウムヘキサフルオロフォスフェート等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
(B)成分や(C)成分などの(メタ)アクリル樹脂からなる(メタ)アクリル樹脂成分の合計100質量部に対して、光開始剤が0.1〜5.0質量部であることが好ましい。光開始剤が0.1質量部より少ないと光硬化性が低下して、液晶接触時に液晶汚染を引き起こす。また、5.0質量部より大きいとアウトガスが発生する。
【0033】
保存安定性を保つために重合禁止剤を使用することができるが、重合禁止剤は添加量が多すぎると保存安定性が良くなる一方で、反応性が遅くなるため0.001〜0.1質量%にすることが好ましい。具体例としては、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール等のキノン系重合禁止剤;2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール等のアルキルフェノール系重合禁止剤;アルキル化ジフェニルアミン、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1,4−ジヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−ヒドロキシ−4−ベンゾイリオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のアミン系重合禁止剤;2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル系重合禁止剤などが上げられるが、これに限定されるものではない。
【0034】
有機充填剤および無機充填剤等の粉体成分を除いた全ての成分の組成物を基本組成物とする。この場合、粉体状の熱硬化剤及び光開始剤は基本組成物に含むものとする。明確な理由は確認されていないが、基本組成物の粘度は塗布特性に影響を与える。塗布特性を維持するためには基本組成物の粘度が、25℃において100〜170Pa・sであることが好ましい。100Pa・sより低い粘度の場合、充填剤で粘度調整を高くするとビード切れが発生する。一方、170Pa・sより高い粘度の場合、少量の充填剤を添加しただけでも塗布作業時に糸引きが発生する。
【0035】
本発明の液晶滴下工法用シール剤には、特性が損なわれない範囲内において(A)成分以外のエポキシ樹脂、(B)成分および(C)成分以外の(メタ)アクリル樹脂を含んでも良い。前記エポキシ樹脂や前記(メタ)アクリル樹脂には、1分子当たりに反応基が1含む、反応性希釈剤やモノマーも含まれる。
【0036】
本発明の液晶滴下工法用シール剤には、本発明の特性を損なわない範囲において反応性希釈剤(低分子量エポキシ樹脂)、(メタ)アクリルモノマー(単官能(メタ)アクリル樹脂)、反応抑制剤、顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アモルファスシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、コアシェル型充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1〜12、比較例1〜7>
液晶滴下工法用シール剤を調製するために下記成分を準備した。(以下、液晶滴下工法用シール剤をシール剤と呼ぶ。)
【0039】
[(A)成分の製造例1]
還流装置、攪拌装置、減圧装置、滴下装置を備えたフラスコ中に、4,4’−ジヒドロキ
シベンゾフェノン214重量部(1.0mol)およびエピクロルヒドリン1110重量
部(12.0mol)を仕込み、滴下装置中に水酸化ナトリウム166.6重量部(2.
0mol)を48重量%水溶液として入れておく。水酸化ナトリウム水溶液を、内部温度
60〜80℃で100〜150Torrの還流下で2時間かけて滴下し、同時に、共沸蒸
留により水を除去した。その後さらに2時間反応させた後、脱エピクロルヒドリン、水洗
、脱溶剤およびろ過をして4,4’−ジグリシジルオキシベンゾフェノンを得た。これをエポキシ樹脂1とする。
[(A)成分の製造例2]
(A)成分の製造例1で使用した4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノンに換えた他は(A)成分の製造例1と同様にして2,2’−ジグリシジルオキシベンゾフェノンを得た。これをエポキシ樹脂2とする。
[(A)成分の製造例3]
(A)成分の製造例1で使用した4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンを2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンに換えた他は(A)成分の製造例1と同様にして2,4−ジグリシジルオキシベンゾフェノンを得た。これをエポキシ樹脂3とする。
【0040】
(A)成分:ジグリジジルオキシベンゾフェノン
・上記エポキシ樹脂1
・上記エポキシ樹脂2
・上記エポキシ樹脂3
(A’)成分:(A)成分以外のエポキシ樹脂
・部分エステル化ビスフェノールA型エポキシ樹脂:「UVACURE1561 ダイセルサイテック株式会社製」
・トリアジン骨格を有する3官能エポキシ樹脂:「TEPIC−S 日産化学工業株式会社製」
・ジアミノジフェニルメタンテトラグリシジルエーテル:「jER604 三菱化学株式会社製」
・芳香族アミン型液状エポキシ樹脂:「jER630 三菱化学株式会社製」
・ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂:「jER828 三菱化学株式会社製」
(B)成分:イソシアヌル骨格を有する(メタ)アクリル樹脂
・イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ及びトリアクリレート:「アロニックスM−313 東亞合成株式会社製」
・ε?カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート:「アロニックスM−327 東亞合成株式会社製」
(C)成分:ビスフェノールA骨格および/またはビスフェノールF骨格を有する(メタ)アクリル樹脂
・ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート:「EBECRYL3700 ダイセルサイテック株式会社製」
光開始剤
・2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン:「IRGACURE651 チバスペシャリティーケミカルズ製」
熱硬化剤
・アジピン酸ジヒドラジド:「ADH 大塚化学株式会社製」
有機充填剤
・コアシェル型充填剤:「ゼフィアックF351 ガンツ化成株式会社製」
無機充填剤
・球状シリカ粉:「SO−C1 株式会社アドマテックス製」
【0041】
(A)成分、(B)成分、(C)成分を撹拌機にて30分間撹拌した。その後、その他成分を添加してさらに30分間撹拌した。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。
【表1】

【0042】
実施例1〜12、比較例1〜7のシール剤について粘度測定、保存性試験、比抵抗測定、剥離強度試験、保存性試験、塗布製試験を実施した。その結果を表2にまとめた。
【0043】
[粘度測定]
1ccのシール剤を採取して、測定用カップに吐出する。以下の条件で、EHD型粘度計(東機産業株式会社製)にて粘度測定を行った。その結果を「初期の粘度(Pa・s)」とする。作業性の観点から、300〜400Pa・sの粘度が好ましく、最も好ましくは300〜380Pa・sである。
測定条件
コーンローター:3°×R14
回転速度:1.0rpm
測定時間:5分
測定温度:25℃(恒温槽により温度制御する)
【0044】
[保存性試験]
樹脂配合後1時間を経過した後、EHD型粘度計(東機産業株式会社製)にて25℃における粘度を測定し、「初期の粘度(Pa・s)」とする。25℃で120時間経過した後、初期粘度と同じ方法で粘度を測定をして「試験後の粘度(Pa・s)」とする。(JISK5600−2−3に準ずる。)数1に従い、「試験後の粘度(Pa・s)」と「初期の粘度(Pa・s)」から「粘度変化率(%)」を計算し保存性の目安とする。シール剤の長期保存や連絡使用の観点から、粘度変化率が低いシール剤が好ましく、粘度変化率が0〜30%が好ましい。
【数1】

【0045】
[接着強度試験]
一方の無アルカリガラス板(50mm×25mm×0.7mm)にシール剤を塗布し、他方の無アルカリガラス板と十字形に貼り合わせて、貼り合わせ面にシール剤が充分広がる状態で固定する。ランプ高さ15cmの高圧水銀灯で照度100mWで30秒照射した後、120℃×1時間加熱してテストピースを作成する。室温に戻った後、テストピースの各ガラス板の両端をチャックで固定し、引張速度50mm/minにてはく離方向に引っ張り、試験片が破壊するまでの最大荷重を測定して「初期の剥離強度(N/m)」とした。前記のテストピースを複数個作成し、試験片をプレッシャークッカー試験で120℃で2atmの雰囲気下に24時間放置したテストピースについて、同様の測定を行った。この時の剥離強度を「試験後の剥離強度(N/m)」とする。「初期の剥離強度(N/m)」とプレッシャークッカーによる「試験後の剥離強度(N/m)」より、数2から「剥離強度保持率(%)」を計算し、高圧高湿に対する耐性の目安とする。液晶パネルの耐久性に係わる試験項目であり、剥離が発生することは液晶漏洩に繋がる。そのため、過酷な耐久試験であるプレッシャークッカー試験において剥離強度保持率が90〜100%のシール剤が好ましい。通常は、プレッシャークッカー試験後に強度が低下する傾向があるが、剥離強度保持率が100%より数値が大きくなる場合は、シール剤の硬化が充分に進んでおらず、プレッシャークッカー試験中に硬化が進んだと考えられ初期の硬化状態が不安定と推測される。
【数2】

【0046】
[相転移温度測定]
相転移温度測定は、液晶に対する汚染性の評価方法の一つであり、汚染した液晶が本来の相転移温度とどれだけ違いが出ているかを確認しており、相転移温度差が大きければそれだけ汚染されていると考える。サンプル瓶に液晶シール剤を0.15g入れた後、TN液晶(メルク株式会社製 ZLI−4792)1.5gを加える。前記サンプル瓶を100℃の熱風乾燥炉に10時間投入した後、取り出して室温にて1時間放置する。サンプル瓶から上澄み液(液晶)を取り出し、示差走査熱量測定器DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)にて測定した時の相転移温度(吸熱ピーク温度)を測定する。一方、液晶シール剤を接触させないで同様の処理をした液晶の相転移温度を事前に測定しておく。前記二つの温度差を「相転移温度差(℃)」とする。前記液晶に代えてVA液晶(メルク株式会社製 MLC−7026−100)に関しても試験を行った。相転移温度差の絶対値が0.0〜1.0℃が好ましく、1.0℃より大きく変化すると液晶汚染により液晶パネルにて表示の不具合が発生する可能性がある。
【0047】
[比抵抗測定]
比抵抗測定は、液晶に対する汚染性の評価方法の一つであり、汚染した液晶が本来の比抵抗とどれだけ違いが出るかを確認しており、比抵抗の変化が大きいほど液晶が汚染されていると考える。サンプル瓶に液晶シール剤を0.15g入れた後、TN液晶(メルク株式会社製 ZLI−4792)1.5gを加える。前記サンプル瓶を100℃の熱風乾燥炉に10時間投入した後、取り出して室温にて1時間放置する。サンプル瓶から上澄み液(液晶)を取り出し、液体電極LE21(安藤電気株式会社製)に入れて、液晶比抵抗測定システム(株式会社東陽テクニカ製)およびエレクトロメーターModel6517A(KEITHLEY製)により測定電圧10Vで5秒後の液晶の比抵抗(Ω・m)を測定する。前記液晶に代えて、VA液晶(メルク株式会社製 MLC−7026−100)に関しても同様の試験を行った。一方、液晶シール剤を接触させないで同様の処理をした液晶の比抵抗を事前に測定しておく。その結果、TN液晶の比抵抗は1.8×1013Ω・mで、VAの比抵抗は1.3×1012Ω・mあった。数3より計算した値を「比抵抗比率(単位無し)」とする。比抵抗比率は相転移温度測定と同様に、液晶汚染の目安とする。傾向としては、液晶汚染が進めばそれだけ比抵抗(Ω・m)が小さくなっていくため、比抵抗比率は0.1以上が好ましい。
【数3】

【0048】
[ガラス転移点]
シール剤を10mm×50mm×0.2mmの短冊状の薄片状に塗布し、これに積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射して光硬化させた。 更に、120℃雰囲気で60分間の加熱を行い、熱硬化させて試験片を得た。動的粘弾性測定装置 DMS6100(セイコーインスツル株式会社製)にて以下の測定条件により測定を行い、損失弾性率(E”)の極大値よりシール剤硬化物の「ガラス転移温度(℃)」とする。液晶パネルの使用環境を考慮すると、シール剤の物理特性が発現するのが100℃であれば、使用環境でシール剤の役割を維持できるのでガラス転移点は100℃以上が好ましい。
測定条件
昇温速度:3℃/min
周波数:1Hz
温度範囲:−20℃〜200℃
【表2】

【0049】
実施例1〜12と比較例1〜7を比較すると判るとおり、実施例は初期の剥離強度が高いと共に、剥離強度保持率も高く安定した剥離強度を有している。一方、部分エステル化エポキシ樹脂のみを使用している比較例1と2では相転移温度差が低いものの、部分エステル化エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂を混合した比較例3、4、6、7では相転移温度が高くなる傾向が見られる。また、部分エステル化エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂を混合した系はガラス転移点が低くなる傾向が見られ、それに伴ってプレッシャークッカー試験による剥離保持率の数値が低い。特に、比較例4はガラス転移点が100℃であるものの硬化状態が不安定であり、プレッシャークッカー試験の熱で反応が進む様な不安定な硬化物であることがわかる。そのため、本発明の(A)成分、(B)成分の液晶滴下工法用シール剤において、部分エステル化エポキシ樹脂を混合しないことで物理特性の向上および液晶汚染性の低下が両立されている。
【産業上の利用可能性】
【0050】
大型の液晶表示パネルでは液晶滴下工法による製造が主流になっている。本発明の液晶シール剤は液晶滴下工法に対応するために必要な、剥離強度およびその耐久性、相転移温度、比抵抗に関して液晶滴下工法に適した特性を有していると共に、保存性などの取り扱い面においても安定した特性を発現する。これら発明の特徴から、ラインタクトのかかる大型の表示素子に対応できるため、小型の表示素子にも本発明は充分に対応可能であり、様々なサイズのパネルを組み立てることに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分としてジグリシジルオキシベンゾフェノンを含み、実質的に1分子中にエポキシ基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含まない、熱硬化および光硬化する液晶滴下工法用シール剤。
【請求項2】
(B)成分として、分子中にイソシアヌル骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む請求項1に記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項3】
(C)成分として、分子中にビスフェノールA骨格および/またはビスフェノールF骨格を有する(メタ)アクリル樹脂を含む請求項1または2のいずれかに記載の液晶滴下工法用シール剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液晶滴下工法用シール剤を用いた液晶表示素子。

【公開番号】特開2012−198427(P2012−198427A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63089(P2011−63089)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【Fターム(参考)】