説明

液晶組成物の製造方法

【課題】 液晶組成物の比抵抗を低下させることなく、アクティブマトリックス用の組成物においては特に電圧保持率(VHR)も又低下させることなく、製造する方法を提供する。
【解決手段】 2種以上の液晶化合物を炭化水素系溶媒に溶解し、孔径10μmから0.001μmのフィルターで濾過した後、溶媒を留去することを特徴とする液晶組成物の製造方法。本願発明の製造方法により製造された液晶組成物は高い比抵抗及びアクティブマトリックス用液晶組成物においては高い電圧保持率を有しており、信頼性を求められる液晶組成物の製造において非常に有用なものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物を高品質で製造することに関する新規製造方法と、それにより製造された液晶性組成物を用いた液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、時計、電卓をはじめとして、各種測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンター、コンピューター、テレビ等に用いられるようになっている。液晶表示方式としては、その代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型あるいは高速応答が可能なFLC(強誘電性液晶)等を挙げることができる。また駆動方式としても従来のスタティック駆動からマルチプレックス駆動が一般的になり、さらに単純マトリックス方式、最近ではアクティブマトリックス方式が実用化されている。
【0003】
これらに用いられる液晶組成物は、通常2種類以上の化合物を混合して作られており、液晶組成物の物性(ネマチック相温度範囲、屈折率異方性(Δn)、誘電率異方性(Δε)、粘度、弾性定数等)や電気光学的特性(応答時間、閾値電圧、V−T曲線の急峻性等)を目的とする液晶素子の表示方式や駆動方式に応じて、種々の値に合わせるため混合比が決められているが、ほとんどの場合について熱、光、水分等に対する信頼性が高いことが必要である。
【0004】
液晶組成物の信頼性の指標として比抵抗の値が良く用いられる。信頼性の低い液晶組成物は、加熱や紫外線の照射、単純に経時的に比抵抗が上昇し、表示品位に様々な悪影響を及ぼす。また、特にアクティブマトリックス駆動方式の場合にはそれに加えて、電圧保持率(VHR)が充分に高いことが重要である。

比抵抗を高めるためには、組成物を構成する個々の液晶化合物のそれぞれについて高い比抵抗が達成されている必要がある。しかしながら、比抵抗の高い液晶化合物を使用しても、それらの混合物である液晶組成物を製造するときに品質を劣化させてしまうことがある。液晶組成物の製造方法としては、アセトン、クロロホルム、メタノール等の有機溶媒に溶解させて混合した後有機溶媒を除去する方法が提案されている(特許文献1及び2参照)。しかしながら、提案されている極性の有機溶剤に溶解させる方法では、有機溶剤の不純物やドーパントにより液晶組成物の比抵抗が著しく低下する問題がある。さらに極性の有機溶剤が除去しきれず残留することが多く、液晶組成物の比抵抗を低下させる原因になる。
【0005】
一方、一般に広く用いられている加熱による溶解混合では、加熱時に酸素により液晶化合物が酸化分解してしまい液晶組成物の比抵抗を著しく低下させてしまう。更には液晶上限転移温度を低下させ、液晶組成物の物性や電気光学特性を変化させてしまうことがある。加熱混合による欠点から逃れるために、組成物の液晶相上限温度から50℃の範囲の比較的低い温度で溶解する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では組成物の濾過精製に時間を有することから、より効率的で比抵抗を向上させることが可能な液晶組成物の製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−105876号公報
【特許文献2】特表平9−503237号公報
【特許文献3】特開2002−194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、液晶組成物の比抵抗を低下させることなく、アクティブマトリックス用の組成物においては特に電圧保持率(VHR)も又低下させることなく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記の手段を見いだした。
【0009】
2種以上の液晶化合物を炭化水素系溶媒に溶解し、孔径10μmから0.001μmのフィルターで濾過した後、溶媒を留去することを特徴とする液晶組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の製造方法により製造された液晶組成物は高い比抵抗及びアクティブマトリックス用液晶組成物においては高い電圧保持率を有しており、信頼性を求められる液晶組成物の製造において非常に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電流値測定回路
【図2】電流値測定回路における観測波形
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願発明の製造方法は炭化水素系溶媒に溶解した液晶化合物をフィルターで濾過する工程を要するが、フィルターの孔径としては、0.01μm超 10μm以下が好ましく、0.01μm超 1μm以下がより好ましく、0.01μm超0.1μm以下が特に好ましい。
【0013】
フィルタの材質は紙、布、不織布、セルロース、ニトロセルロース、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、親水性PTFE、フッ化ポリビニリデン、ポリエーテルスルフォン(PES)、ガラス繊維等が挙げられるが、PTFE又はフッ化ポリビニリデンが好ましい。
【0014】
使用する溶剤としては炭化水素系溶剤で脂肪族炭化水素系溶剤が好ましく、直鎖状でも環状でも良いペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンがより好ましく、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンが特に好ましい。
【0015】
炭化水素系溶剤の純度としては高沸点不純物含有量が5ppm以下であることが好ましく、1ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下が特に好ましい。又、溶媒の精製方法としては蒸留によって精製することが好ましく、蒸留を2回以上繰り返すことも好ましい。
【0016】
溶媒の留去は室温(20℃〜25℃)よりも高い温度で行うことが好ましいが、液晶組成物のネマチック相−等方性液体転移温度以下で行うことが特に好ましい。
【0017】
溶媒留去時の真空度としては留去の効率の点では、低い圧力で行うことが望ましいが、あまり低いと組成物の組成が変化するため、大気圧(101KPa)よりも低い圧力〜1Paの範囲が好ましく、80KPa〜10Paの範囲がより好ましく、50KPa〜100Paの範囲が特に好ましい。
【0018】
本願発明の製造方法は溶媒に溶解した液晶組成物を濾過する際に濾過塔に吸着剤を充填して行うことも好ましい。吸着剤を使用する場合の濾過塔に充填する吸着剤の量は、製造する液晶組成物の20質量%から0.1質量%が好ましく、10質量%から1質量%がより好ましく、5質量%から3質量%が特に好ましい。
【0019】
吸着剤としてはアルミナ、シリカゲル、フロリジル、ケイ藻土、ゼオライト、活性炭等があげられるがアルミナ又はシリカゲルが好ましい。これらの吸着剤を使用前にさらに精製処理を行ってから使用しても良い。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
【0021】
炭化水素系溶剤は純度99.0%以上のヘプタンを0.05Mpaで3回蒸留し、溶媒として用いた。
比抵抗(Ω・cm)の測定は川口電気(株)製エレクトロメーターMMAII-17Aにて、セルギャップ1mmの液体電極LP-05型を用いて1VDCを印加して行った。
(パネル中での信頼性評価)
液晶組成物をTN用液晶セル(セルギャップ8.3μm)に真空注入し、UV硬化性樹脂(スリーボンド社製、Three Bond 3026)で封止し、液晶セルを作製した。
【0022】
液晶セル作成後、すぐに電流値を測定したサンプルを初期サンプル(以下初期と略す)とした。
【0023】
液晶セルをオーブンを用い80℃で720時間加熱したサンプルを加熱サンプル(以下加熱と略す)とした。
【0024】
電流値の測定は、図1に示す回路を用いて、作製した液晶セルに矩形波(Vap=2.5V)を印加し回路中の50KΩの抵抗の両端に掛かる電圧波形を観測することにより行った。観測された電圧波形(図2)よりVr(mV)を測定し、Vrと液晶セルの電極面積:W(cm2)より以下の式
【0025】
【数1】

【0026】
により電流値を算出した。この際、それぞれの条件において3枚の液晶セルを作製しその電流値を測定し、3枚のセルから得られた電流値の値を平均し電流値とし、パネル中での信頼性の指標とした。
(実施例1)
転移温度94.7℃のSTN用液晶組成物STN1の作製について記載する。STN用液晶組成物STN1の組成を下記に示す。
【0027】
【化1】

【0028】
なす型フラスコに上記の組成に従い各液晶化合物を秤量し化合物の合計が20gとなるよう計量し、n-ヘプタンを加え、溶解した。濾過搭に試料溶液を注ぎ、0.1μmミリポアフィルターで吸引濾過した。得られた濾液を40℃で溶剤を減圧留去した。さらに80℃のオイルバスに切り替えた後、20KPaの減圧下で1時間乾燥し、溶剤を完全に除去したのち、水浴で室温まで冷却した後、窒素ガスにより大気圧まで戻した。
【0029】
得られた液晶組成物の比抵抗及び電流値の測定結果は以下の通りであった。
【0030】
【表1】

【0031】
(比較例1)
実施例1に記載した組成と同様のSTN用液晶組成物STN1を特開2002-194356号公報に記載している方法に従い作製した。
【0032】
なす型フラスコに前述の組成に従い各液晶化合物を秤量し化合物の合計が20gとなるよう計量した。110℃に設定したオイルバスで、窒素雰囲気下で2KPaの減圧にした後、15分間加熱溶解し、水浴で室温まで冷却した後、窒素ガスにより大気圧まで戻した。1μmミリポアフィルター(PTFE)で液晶組成物を吸引濾過し、15分間脱気した。
【0033】
得られた液晶組成物の比抵抗及び電流値の測定結果は以下の通りであった。
【0034】
【表2】

【0035】
本発明の製造方法による実施例1で得られた液晶組成物STN1と、公知の方法で製造して得られた比較例1の液晶組成物STN1の結果を比較する。実施例1において、比抵抗は2倍、加熱後の電流値は22%低減されていることがわかる。
(実施例2)
転移温度94.0℃のSTN用液晶組成物STN2を20g作製した。STN用液晶組成物STN2の組成を下記に示す。
【0036】
【化2】

【0037】
なす型フラスコに上記の組成に従い各液晶化合物を秤量し化合物の合計が20gとなるよう計量し、n-ヘプタンを加え溶解した。0.1μmミリポアフィルター(PTFE)を備えた濾過塔に吸着剤としてシリカゲル0.60gをn-ヘプタンでスラリー状とし充填し、この濾過搭に試料溶液を注ぎ吸引濾過した。得られた濾液を40℃で溶剤を減圧留去した。さらに80℃のオイルバスに切り替えた後、2KPaの減圧下で1時間乾燥し、溶剤を完全に除去したのち、水浴で室温まで冷却した後、窒素ガスにより大気圧まで戻した。
【0038】
得られた液晶組成物の比抵抗及び電流値の測定結果は以下の通りであった。
【0039】
【表3】

【0040】
(比較例2)
実施例2に記載した組成と同様のSTN用液晶組成物STN2を特開2002-194356号公報に記載している方法に従い作製した。
【0041】
なす型フラスコに前述の組成に従い各液晶化合物を秤量し化合物の合計が20gとなるよう計量した。110℃に設定したオイルバスで、窒素雰囲気下で2KPaの減圧にした後、15分間加熱溶解し、水浴で室温まで冷却した後、窒素ガスにより大気圧まで戻した。吸着剤としてシリカゲル0.06gを加え、2時間撹拌した。1μmミリポアフィルター(PTFE)で液晶組成物を吸引濾過し、15分間脱気した。
【0042】
得られた液晶組成物の比抵抗及び電流値の測定結果は以下の通りであった。
【0043】
【表4】

【0044】
本発明の製造方法による実施例2で得られた液晶組成物STN2と、公知の方法で製造して得られた比較例2の液晶組成物STN2の結果を比較する。実施例2において、比抵抗は3.5倍以上、加熱後の電流値は約43%低減されていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の液晶化合物を炭化水素系溶媒に溶解し、孔径10μmから0.001μmのフィルターで濾過した後、溶媒を留去することを特徴とする液晶組成物の製造方法。
【請求項2】
濾過時に、製造する液晶組成物の20質量%から0.1質量%の吸着剤を濾過塔に充填して行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
吸着剤がシリカゲル又はアルミナである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
炭化水素系溶剤が脂肪族炭化水素系溶剤である請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
炭化水素系溶剤の高沸点不純物が5ppm以下である請求項1、2、3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
溶媒の留去を、液晶組成物のネマチック相−等方性液体転移温度以下で行う請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
減圧下に吸引濾過する請求項1から6の何れかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−77308(P2012−77308A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253872(P2011−253872)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【分割の表示】特願2005−88456(P2005−88456)の分割
【原出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】