説明

液晶表示素子

【課題】選択反射特性を利用した液晶表示素子において、利用者の視認方向の反射率を高めて、実効的な明るさを向上する。
【解決手段】対向して配置される2枚の基板11,13と、2枚の基板間に封入された所定の波長の光を選択的に反射する液晶12と、を備え、2枚の基板の一方は、液晶との界面に設けられた液晶の配向を制御する配向膜16,17を備える、液晶表示素子であって、配向膜は、当該液晶表示素子の使用時に水平方向となる方向に一軸性の処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、液晶表示素子に関し、特にコレステリック液晶のような入射光を透過する状態と所定の波長の光を選択的に反射する状態を取り得る液晶を利用した液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各企業および大学などにおいて、電子ペーパーの開発が盛んに進められている。電子ペーパーの利用が期待されている応用分野として、電子書籍を筆頭に、モバイル端末機器のサブディスプレイやICカードの表示部など、多様な応用形態が提案されている。電子ペーパーに使用される表示素子には、一般的に、薄型であること、光源を使用しないことなどが要求される。電子ペーパーの有力な方式の1つに、入射する所定の波長の光を選択的に反射する液晶を利用する方式がある。この液晶は、例えばコレステリック液晶である。コレステリック液晶は、それ自体がコレステリック相を示す液晶や、ネマティック液晶にカイラル材を添加して得られるカイラルネマティック液晶を含む。カライラルネマティック液晶は、ネマティック液晶にキラル性の添加剤(カイラル材)を比較的多く(数十%)添加することにより、ネマティック液晶の分子が螺旋状のコレステリック相を形成する液晶である。
【0003】
コレステリック液晶は、液晶分子同士が螺旋構造を形成するという特徴を有しており、一対の基板間に挟持された上で、電界、磁界、温度などの外部刺激が液晶に印加されるとプレーナ状態、フォーカルコニック状態、ホメオトロピック状態と呼ばれる3つの状態を示す。これら3つの状態はそれぞれ光透過性および反射性が異なるため、コレステリック液晶を使用する液晶表示素子では、3つの状態と外部刺激印加方法を適宜選択することにより、表示を行うことができる。その表示例としては、ホメオトロピック状態とフォーカルコニック状態とを使用するコレステリック−ネマティック相転移モードの表示や、プレーナ状態とフォーカルコニック状態とを使用する双安定モードの表示などがある。この中で、双安定モードの表示は、プレーナ状態とフォーカルコニック状態が外部刺激無印加状態でも安定であるという特徴、すなわち外部刺激無印加時(例えば電圧無印加時)においても表示状態が維持されるという双安定性(メモリ性)を有している。このことから、コレステリック液晶を使用した液晶表示素子は、電子ペーパーに使用する場合には、メモリ性を有するプレーナ状態とフォーカルコニック状態の双安定モードを利用するのが一般的である。
【0004】
特に、プレーナ状態において可視域に選択反射特性を有するコレステリック液晶を使用した反射型液晶表示素子は、メモリ性を有し、且つ明るい反射状態が得られることから、言い換えれば偏光板、カラーフィルタを用いることなく明るい表示が可能であることから、低消費電力化に非常に有効な表示素子として、携帯情報機器の表示素子などの省電力表示素子への応用が期待されている。
【0005】
ここで、双安定性とは、コレステリック液晶の螺旋軸が基板面に対し略垂直状態となり選択反射状態を示すプレーナ配列の状態(プレーナ状態)と、その液晶螺旋軸が基板面に対し略平行状態となり可視光を透過するフォーカルコニック配列の状態(フォーカルコニック状態)の2状態で安定であることをいう。
【0006】
図1は、コレステリック液晶の2安定状態を説明する図である。図1の(A)および(B)に示すように、コレステリック液晶を利用した表示素子10は、上側帯状電極層14が設けられた上側基板11と、下側帯状電極層15が設けられた下側基板13と、上側帯状電極層14と下側帯状電極層15が所定の間隔で対向するように貼り合わされた空間に充填されたコレステリック液晶を含む液晶層12と、有する。なお、図1は、後述するように、上側帯状電極層14および下側帯状電極層15の上に、さらに配向膜16、17を設けた例を示している。
【0007】
図1の(A)は入射光を反射するプレーナ状態を、図1の(B)は入射光を透過するフォーカルコニック状態を、示す。これらの状態は、無電界下でも安定してその状態が保持される。
【0008】
プレーナ状態の時には、液晶分子の螺旋ピッチに応じた波長の光を反射する。反射が最大となる波長λは、液晶の平均屈折率n、らせんピッチpから次の式で表される。
【0009】
λ=n・p
一方、反射帯域Δλは、液晶の屈折率異方性Δnにより大きく異なる。
【0010】
プレーナ状態の時には、入射光が反射するので「明」状態、すなわち白を表示することができる。一方、フォーカルコニック状態の時には、下側基板13の下に光吸収層を設けることにより、液晶層を透過した光が吸収されるので「暗」状態、すなわち黒を表示することができる。
【0011】
コレステリック液晶を利用した表示素子の駆動方法は各種提案されており、例えば、特許文献1などに記載されているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0012】
コレステリック液晶のような選択反射特性を利用する液晶表示素子は、表示素子に入射した光が液晶層で反射する特性を利用して画像を表示させるため、より明るく画像を表示させるためには入射光に対する反射光の反射率を高める必要がある。
【0013】
特許文献2は、脂環式カルボン酸無水物と芳香族シアミン化合物からなるポリイミドを主成分とする配向(安定)膜を、少なくとも一方の基板の電極層上の設けることにより、反射率が向上することを記載している。配向膜を設けることにより反射率が向上するが、図2において破線の矢印で示すように、反射率はすべての方向で平均的に向上する。また、特許文献2は、配向(安定)膜をラビング処理することにより反射率は一層向上するが視野角依存性が大きくなり、フォーカルコニック状態でのメモリ性が低下することを記載している。
【0014】
特許文献3も、コレステリック液晶表示素子の反射率を向上するため、配向(安定)膜を設けることを記載しており、特に配向膜の厚さと接触角について記載している。
【0015】
特許文献4は、コレステリック液晶表示素子の反射率を向上するため、配向膜を設けることを記載しており、さらに配向膜をラビング処理することを記載している。
【0016】
特許文献5は、円偏光板と反射板を有するコレステリック液晶表示素子を記載している。特許文献5に記載された液晶表示素子は、液晶の選択反射特性を利用する本願の液晶表示素子とは基本構成が異なるが、配向膜を設けてラビング処理することを記載している。
【0017】
【特許文献1】国際公開WO2007/110949A1
【特許文献2】特開2002−287136号公報
【特許文献3】特開2002−214648号公報
【特許文献4】特開2002−116461号公報
【特許文献5】特開2005−300936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記のように、コレステリック液晶を使用した液晶表示装置において、配向膜を設けてラビング処理することにより反射率を向上することが知られている。しかし、従来のラビングなどによる配向処理では、液晶表示素子の視認側正面に対して反射光を集光させて明るさを高めることのみが意識されていた。言い換えれば、図2に示すように、表示素子の利用者が視認しない方向に対しても視認側と同等に平均的に光の反射率を高めることが意識されていた。しかし、表示素子の実際の利用形態においては、表示素子の利用者の視認方向に対する反射率を向上させることが重要である。
【0019】
反射光の全体量が一定とした場合、全方向に対して平均的に反射されるようにした場合、利用者の視認方向の反射率を高めて明るさを向上させるには限界がある。
【0020】
開示の技術は、選択反射特性を利用した液晶表示素子において、利用者の視認方向の反射率を高めて、実効的な明るさを向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を実現するため、開示の液晶表示素子は、対向する基板の一方に配向膜を備える液晶表示素子において、配向膜に、この液晶表示素子の使用時に水平方向となる方向に一軸性の処理を施す。これにより、利用者の視認方向である画面の垂直方向の明るさを向上することができる。
【0022】
他方の基板に配向膜を設け、それに一軸性の配向処理を行ってもよい。その場合の一軸性の配向処理は、一方の基板の配向膜と同じ方向の場合と、直行する方向の場合があり得る。一軸性の配向処理の方向を直交させれば、垂直方向以外の方向に対しても一定レベルの反射率が得られ、いずれの角度からの視認でもある程度の明るさが得られる。
【0023】
一方の基板が液晶表示素子の視認側であるように配置することが望ましい。
【0024】
配向膜の一軸性の処理は、ラビング処理でも、紫外線照射処理などのほかの処理でもよい。
【0025】
ラビング処理の場合、その密度は、2.5以下であることが望ましい。
【0026】
液晶は、選択反射特性を有する液晶であればよいが、代表的にはコレステリック液晶である。
【0027】
液晶の選択反射特性を利用した液晶表示素子を3枚積層してカラー液晶表示素子を構成することが知られており、そのうちの少なくとも1枚に開示の液晶表示素子を使用すると、明るさが向上したカラー液晶表示素子を実現できる。その場合、視認側から、反射波長が青、緑、赤の順に液晶表示素子を配置し、反射率が相対的に低い液晶表示素子に開示の構成を適用して反射率を調整するとカラーバランスが向上する。
【発明の効果】
【0028】
開示の技術によれば、利用者の視認方向の反射率を高めて、実効的な明るさを向上した液晶表示素子が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図3は、第1実施形態で使用する表示素子10の構成を示す図である。図14に示すように、この表示素子10は、見る側から順番に、青(ブルー)用パネル10B、緑(グリーン)用パネル10G、および赤(レッド)用パネル10Rの3枚のパネルが積層されており、レッド用パネル10Rの下側には光吸収層19が設けられている。パネル10B、10Gおよび10Rは、同じ構成を有するが、パネル10Bは反射の中心波長が青色(約480nm)、パネル10Gは反射の中心波長が緑色(約550nm)、パネル10Rは反射の中心波長が緑色(約630nm)になるように、液晶材料およびカイラル材が選択され、カイラル材の含有率が決定されている。パネル10B、10Gおよび10Rは、青層用制御回路20B、緑層用制御回路20Gおよび赤層用制御回路20Rで、それぞれ駆動される。
【0030】
図4は、パネル10R、10G、10Bに共通する構成を有する1枚の表示素子(パネル)10Aを示す図である。パネル10R、10G、10Bの構成を、図4を参照して説明する。
【0031】
図4に示すように、表示素子10Aは、上側基板11と、上側基板11の表面に設けられた上側電極層14と、上側電極層14の上に設けられた上側配向膜16と、下側基板13と、下側基板13の表面に設けられた下側電極層15と、下側電極層15の上に設けられた下側配向膜17と、シール剤18と、光吸収層19と、上側配向膜16と下側配向膜17の間隔を規制するスペーサ(図示せず)と、上側配向膜16と下側配向膜17の間に充填されたコレステリック液晶の層12と、駆動回路20と、を有する。
【0032】
上側基板11と下側基板13は、1.1mm厚のガラス製基板である。上側電極層14と下側電極層15の電極は、互いに平行な複数の透明な帯状電極で、上側電極層14の帯状電極と下側電極層15の帯状電極が互いに直交するように配置され、パッシブ駆動される。透明電極の材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO: Indium Tin Oxide)が代表的であるが、その他インジウム亜鉛酸化物(IZO: Indium Zic Oxide)などの透明導電膜を使用することが可能である。透明電極の形成方法については広く知られているので説明は省略する。
【0033】
上側配向膜16と下側配向膜17は、ポリイミド樹脂配向膜で、スピンナで形成した。上側配向膜16と下側配向膜17の液晶分子のプレチルト角は5〜6°である。その後、半径60mmのラビングローラを有するラビング装置で、ラビング密度0.8(ラビング回数が1回、ローラ押し込み量が0.2mm、ラビングローラの回転数が100rpm、基板移動速度が200mm/s)の条件で2枚の基板をラビング処理した。なお、一般的に、ラビング密度Lは、ラビング回数をN、ローラ押し込み量をp、ラビングローラの半径をr、ラビングローラの回転数をm、基板移動速度をvとした時に、次の式で表される。
【0034】
L=Np(1+2πrm/60v
なお、第1実施形態では、上側配向膜16と下側配向膜17のラビング処理の方向は、組み立てられた液晶表示素子において、水平方向になるので、一方の基板では帯状電極に平行な方向で、他方の基板では帯状電極に垂直な方向である。また、上側電極層14の帯状電極が水平方向に伸び、下側電極層15の帯状電極が垂直方向に伸びる場合でも、逆に上側電極層14の帯状電極が水平方向に伸び、下側電極層15の帯状電極が垂直方向に伸びる場合でも、特性にほとんど差を生じない。
【0035】
次に、基板間ギャップを均一に保持するためのスペーサを一方の基板上に散布する。スペーサは、樹脂製または無機酸化物製の球体である。さらに、一方の基板に基板端部に液晶注入用の開口部を設けることができるようにシール材18を塗布し、2倍の基板を貼り合わせ、加圧・加熱することで接着する。上記のように、上側電極層14の帯状電極と下側電極層15の帯状電極が互いに直交するように且つ上側配向膜16と下側配向膜17のラビング処理の方向が液晶表示装置の使用時に水平方向となるように、貼り合わされる。
【0036】
以上のようにして準備した空セル(上側配向膜16と下側配向膜17の間の空間)を真空状態とし、セル端部をコレステリック液晶に浸漬させ、大気開放することで、空セルに液晶を注入する。その後、注入用の開口を封止する。
【0037】
注入する液晶組成物は、ネマティック液晶混合物にカイラル材を10〜40重量%(wt%)添加したコレステリック液晶である。ここで、カイラル材の添加量は、ネマティック液晶成分とカイラル材の合計量を100wt%とした時の値である。
【0038】
ネマティック液晶としては、従来から公知の各種のものを使用可能であるが、誘電率異方性(Δε)が15〜35の範囲の液晶材料であることが望ましい。誘電率異方性が15以上であれば、駆動電圧が比較的低くなり、この範囲より大きいと駆動電圧自体は低下するが比抵抗が小さくなり、特に高温時の消費電力が増大する。
【0039】
また、屈折率異方性(Δn)は、0.18〜0.24であることが望ましい。屈折率異方性が、この範囲より小さいと、プレーナ状態の反射率が低くなり、この範囲より大きいと、フォーカルコニック状態での散乱反射が大きくなるのに加えて、粘度も高くなり、応答速度が低下する。
【0040】
上記の液晶表示素子を駆動する回路については、特許文献1などに記載され、広く知られているので、説明は省略する。
【0041】
以上のようにして作製した液晶表示素子10Aは、図5の(A)に示すように、液晶表示素子10Aの使用時に、一点鎖線で示すラビング方向が水平方向になる。これにより、入射光を利用者の視認方向である上下方向に強く反射するので、実効的な明るさが向上する。
【0042】
ここで、第1実施形態で作製した緑色(G)液晶表示素子10Gについての視野角特性の測定方法を説明する。液晶表示素子10Gに電圧を印加して全画素をプレーナ状態にした後、図6に示すように、液晶表示素子10Gの正面に垂直に入射光が入射するように設定し(入射角が0度)、液晶表示素子10Gに垂直な垂直平面内で、受光角αを15度から80度まで5度ピッチで変化させながら光センサ21で明るさを測定した。さらに、この測定を、液晶表示素子10Gを垂直平面内で、角度βを0度から180度まで45度ピッチで回転させて行った。なお、βが90度の時が、ラビング処理の方向が水平方向の時である。
【0043】
その結果を図7に示す。図7において、横軸が角度αで、縦軸が光センサ21が検出した明度(明るさ)で、βがパラメータである。ここで、標準白色板をリファレンスとして使用した。この結果から、受光角15度では、基板回転角度βが90度(ラビング処理の方向が水平方向)でもっとも明度が高くなり、もっとも低いβが135度の時に比べて7.4倍の明るさになる。また、配向(制御)膜が無い場合に比べて約4.5倍の明るさになる。このように、視認方向である上下方向の明度が向上する。
【0044】
次に、作製した緑色(G)液晶表示素子10Gについてのラビング密度と明度(明るさ)の関係を測定した結果を説明する。第1実施形態で、ラビングローラ回転数を400、200、100、50、20rpmとして、ラビング密度が2.7、1.5、0.8、0.5、0.3の5種類の緑色(G)液晶表示素子10Gを作製した。また、上下基板とも配向膜の無い液晶表示素子10Gも作製した。ほかの条件はすべて同じである。
【0045】
図6の測定条件で、受光角αを15度、基板回転角βを90度(ラビング処理の方向が水平方向)で、明度を測定した結果を図8に示す。この結果から、ラビング密度が2.5以下の場合に、配向膜の無い場合より明度が高くなることが分かる。これから、ラビング密度は2.5以下であることが望ましいといえる。
【0046】
図9の(A)は、第2実施形態における、上側基板11上の配向膜16のラビング処理の方向と下側基板13上の配向膜17のラビング処理の方向を示す図である。図9の(A)に示すように、液晶表示素子の使用状態では、上側基板11上の配向膜16のラビング処理の方向は水平方向で、下側基板13上の配向膜17のラビング処理の方向は垂直方向である。従って、図9の(B)に示すように、第2実施形態は、ラビング処理の方向が直交するように配置されることが第1実施形態と異なる。さらに、ラビングロールの半径が60mm、ラビング回数が1回、ローラ押し込み量が0.2mm、ラビングローラの回転数が20rpm、基板移動速度が65mm/sで、ラビング密度は1.5である。また、上下基板上の帯状電極の伸びる方向はどちらでもよい。言い換えれば、上側基板11上の帯状電極が水平方向に伸びても、垂直方向にのびてもよい。下側基板13上の帯状電極は直交する方向に伸びる。第2実施形態のほかの条件は第1実施形態と同じである。
【0047】
第2実施形態で作製した緑色(G)液晶表示素子10Gについて、第1実施形態と同様に図6の測定条件で測定した視野角特性の測定結果を図10に示す。受光角αが15度で比較すると、第1実施形態と同様に、基板回転角βが90度((ラビング処理の方向が水平方向)でもっとも明度が高くなり、βが135度で最も明度が低くなるが、βが135度の時の明度はβが90度の時の明度の49%であり、第1実施形態に比べて低下量が小さい。従って、上下方向以外でも比較的高い明度が得られる。
【0048】
さらに、第2実施形態で、ラビングローラ回転数を変化させてラビング密度を変化させた複数種類の液晶表示素子10Gを作製し、ラビング密度と明度(明るさ)の関係を、受光角αを30度として測定した。なお、ここでは、第1実施例と同様にプレチルト角が5〜6°の配向膜Aとプレチルト角が7〜8°の配向膜Bの2種類の配向膜の液晶表示素子10Gを作製し、配向膜による違いも測定した。その結果を図11に示す。いずれの配向膜でも、ラビング密度が2.5以下であれば、配向膜無しの場合に比べて明度が向上する。これから、ラビング密度が2.5以下であることが望ましい。ただし、配向膜Aと配向膜Bでは、ラビング密度に対する明度の変化具合は異なり、配向膜Aでは明度はあまり変化しないが、配向膜Bでは明度はラビング密度が2付近にピークを有する。
【0049】
さらに、第2実施形態で、配向膜Aを使用し、ラビング密度を0.9として緑色(G)液晶表示素子10Gを作製し、受光角αを30度として、基板回転角βを0度から180度まで短ピッチで変化させて明度の変化を測定した結果を図12に示す。この結果から、基板回転角βが±10度の範囲で、配向膜無しの状態より明度が高くなることが分かる。基板回転角βが0度および180度近くで明度は若干高くなるが、配向膜無しの状態より明度が高くなることはない。これは、上側基板11上の上側配向膜16のラビング処理の方が、下側基板13上の下側配向膜17のラビング処理より明度に対する影響が大きいことが分かる。この原因は、液晶層での入射光の散乱により、下側配向膜17のラビング処理に対する入射角が変化するためであると考えられる。
【0050】
以上、第1および第2実施形態における緑色(G)液晶表示素子10Gについての各種特性を説明したが、青色(B)液晶表示素子10Bおよび赤色(R)液晶表示素子10Rについても同様の結果が得られた。
【0051】
さらに、上下基板11、13を100μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルム基板として、第1実施形態の青色(B)、緑色(G)および赤色(R)の液晶表示素子を作製したが、同様の結果が得られた。例えば、図3に示した3層の液晶表示素子のうちの1枚を、第1実施形態の上記のポリエチレンテレフタレート製フィルム基板の液晶表示素子とし、ほかの液晶表示素子は配向膜無しのものとすると、配向膜を設けて水平方向にラビング処理した液晶表示素子の明るさが相対的に向上する。例えば、図3に示すようにカラー表示パネルは、視認側から青色、緑色、赤色の順に積層されるが、最下層の赤色は散乱などの関係で明度がほかの色より低下する。赤色(R)液晶表示素子に配向膜を設けて水平方向にラビング処理すると、赤色の明度が向上し適切な表示色が得られ、カラーバランスが向上する。また、カラー表示素子の明るさは主として緑色の明るさで表される。そのため、緑色(G)液晶表示素子に配向膜を設けて水平方向にラビング処理すると、緑色の明度が向上し、カラー表示素子の明るさが向上する。同様に、照明光では青色成分が少ないのが一般的であり、青色(B)液晶表示素子に配向膜を設けて水平方向にラビング処理すると、青色の明度が向上し、使用(照明)条件に適合したカラーバランスが得られる。いずれにしろ、カラー液晶表示素子の仕様や使用条件に応じて、配向膜を設けて水平方向にラビング処理する表示素子を選択することが望ましい。なお、2つの表示素子に配向膜を設けて水平方向にラビング処理してもよい。さらに、3つの表示素子すべてに配向膜を設けて水平方向にラビング処理すれば、全体の明度が向上する。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は記載した実施形態に限定されるものでないことはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、コレステリック液晶の双安定状態(プレーナ状態とフォーカルコニック状態)を説明する図である。
【図2】図2は、従来例における配向膜による反射方向を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態のカラー表示装置のコレステリック液晶素子の積層構造を示す図である。
【図4】図4は、実施形態のカラー表示装置の1枚のコレステリック液晶素子の構造を示す図である。
【図5】図5は、第1実施形態のコレステリック液晶素子の配向膜のラビング処理方向および配向膜による反射方向を示す図である。
【図6】図6は、第1実施形態のコレステリック液晶素子の視野角特性の測定方法を説明する図である。
【図7】図7は、第1実施形態のコレステリック液晶素子の視野角特性を示す図である。
【図8】図8は、第1実施形態のコレステリック液晶素子のラビング密度と明度との関係を示す図である。
【図9】図9は、第2実施形態のコレステリック液晶素子の配向膜のラビング処理方向を示す図である。
【図10】図10は、第2実施形態のコレステリック液晶素子の視野角特性の測定方法を説明する図である。
【図11】図11は、第2実施形態のコレステリック液晶素子のラビング密度と明度との関係を示す図である。
【図12】図12は、第2実施形態のコレステリック液晶素子のラビング処理方向に対する明度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 表示素子
11 上側基板
12 液晶層
13 下側基板
14 上側電極層
15 下側電極層
16 上側配向膜
17 下側配向膜
19 吸光層
20 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配置される2枚の基板と、
前記2枚の基板間に封入された所定の波長の光を選択的に反射する液晶と、を備え、
前記2枚の基板の一方は、前記液晶との界面に設けられた前記液晶の配向を制御する配向膜を備える、液晶表示素子であって、
前記配向膜は、所定の方向に一軸性の処理が施されていることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項2】
前記2枚の基板の他方は、前記液晶との界面に設けられた前記液晶の配向を制御する配向膜を備え、
前記2枚の基板の他方の前記配向膜は、前記所定の方向に一軸性の処理が施されている請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記2枚の基板の他方は、前記液晶との界面に設けられた前記液晶の配向を制御する配向膜を備え、
前記2枚の基板の他方の前記配向膜は、前記所定の方向に交わる方向に一軸性の処理が施されている請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記2枚の基板の一方が、当該液晶表示素子の視認側である請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項5】
前記配向膜の一軸性の処理は、ラビング処理である請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶表示素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−288547(P2009−288547A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141365(P2008−141365)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】