説明

液晶表示装置

【課題】 完全なコントラスト補償が可能で、斜め方向から見た場合でも高コントラストが得られる垂直配向液晶表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 一軸光学異方性シートと二軸光学異方性シートを用いて光学補償を行う。一軸光学異方性シートのリタデーションは、液晶層のリタデーションと正負が逆で、絶対値が75%以上100%以下であることが望ましい。一軸光学異方性シートは偏光板に一体に設けられていてもよい。二軸光学異方性シートは、遅相軸がいずれかの偏光板の透過軸と平行であること、面内リタデーションが190nmから390nmであること、厚さ方向のリタデーションが0.28から0.67であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクティブマトリクス型液晶表示装置に関し、とくに、負の誘電率異方性を有する液晶分子を垂直方向に配向した液晶層に対して垂直方向の電界を印加して水平方向に配向させることにより光の透過・遮断を制御する、いわゆる垂直配向液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】液晶材料を用いる表示装置としては、従来よりネマチック液晶をツイスト配列させた液晶層を用い、電界を基板に対して垂直な方向にかける方式が広く用いられている。この方式においては、通常、液晶層の上下に偏光軸が直交するように2枚の偏光板を配置し、電界印加時には液晶分子が垂直方向に配向するため画像表示として黒が得られる。ところが、電界印加時に液晶分子が垂直に配向している状態で液晶層を斜めに透過する光は、液晶分子により複屈折を生じ偏光方向が回転してしまうので、表示装置を斜めから見た場合には完全な黒表示が得られず、コントラストが低下し、良好な画像表示を観察することのできる視野角が狭いという問題を生じていた。
【0003】また、かかる問題を解決するため、近年液晶に印加する電界の方向を基板に対して平行な方向とする、いわゆるインプレーンスイッチング(IPS)モードによる液晶表示装置が提案されている。IPSモードの場合、液晶分子は主に基板に対して平行な面内で回転するので、斜めから見た場合の電界印加時と非印加時における複屈折率の度合の相違が小さく、従って、視野角が広がることが知られている。しかし、IPSモード液晶表示装置においては、液晶層の両側に存在する基材のうちの一方の基材上にたとえば櫛形形状の不透明な電極を設けるため、開口率が低下するという問題点を有している。開口率の低いIPSモード液晶表示装置は、消費電力の観点からノートパソコンのようなポータブル用途には不利であり、現在は主として独立のモニターとして用いられる場合が多い。
【0004】以上のような問題点を解決して高視野角かつ高開口率の液晶表示装置を実現する有力な方法として、垂直配向モ−ドの液晶表示装置が提案されている。2枚の平行平板電極の間に負の誘電異方性を有する液晶分子からなる液晶層を設ける。液晶分子は、電極に対して電圧が印加されていない状態において電極に対して垂直に配向している。また、上下の偏光板は偏光軸が互いに垂直に配置されている。電圧オフ時には、入射光は液晶層を直進するので、一方の偏光板を通過して直線偏光となった光は他方の偏光板で完全に遮られて画像表示は黒色となる。電圧オン時には負の誘電異方性を有する液晶分子は電界方向に対して90度の方向、すなわち電極に対して平行に配向する。この場合、入射光はリタデ-ションを有する液晶層によって回転するので、一方の偏光板を通過して直線偏光となった光は他方の偏光板を通過して画像表示は白色となる。
【0005】垂直配向モ−ドにおいては、正面のコントラストは非常に良好であるが、上下左右方向の視角コントラストはIPSよりも悪くなる。このため光学補償シ−トを用いることが行われているが、シ−トの面内方向のリタデ−ションの方向とその大きさについてやシ−トの垂直方向のリタデ−ションの大きさについては詳細な検討がなされていない。SID'98においてChenらが二軸シ−トを2枚用いることで完全な補償ができることを発表している(SID'98 DIGEST 315頁)。これは面内方向にも50nm程度のリタデ−ションを持たせることで、偏光軸の回転の効果を狙ったものである。この方法により光学補償が可能であることが実験的に確かめられているが、その理由は完全に明らかにされているわけではない。また、上下に2枚の二軸光学異方性シ−トが必要とされている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】垂直配向モードは、原理的に視覚特性上の一つの欠点を有している。垂直配向モードでは、垂直方向にホモジニアスな配向をした液晶分子と、透過軸が画面正面に対して上下と左右の方向を指して直交するように配置した2枚の偏光板とを用いて黒表示がなされる。偏光板の透過軸に沿った方向から画面を斜めに見るときには、2枚の透過軸は直交して見える位置関係にありまたホモジニアス配向液晶層はツイステッドモード液晶層で生じるような複屈折も少ないことから、完全な黒表示が得られる。これに対して、偏光板の透過軸から45度ずれた方向から画面を斜めに見ると、2枚の偏光板の透過軸のなす角が90度からずれるように見える位置関係にあることからもわかるように、透過光が複屈折を生じて光が漏れるので十分な黒が得られず、コントラストが低下してしまう。垂直配向モ−ドでは、黒表示時における液晶層は、正面方向と斜め方向とでのリタデ−ションの変化がさほど大きくないことから、IPSモ−ド以上に45度の方向からのコントラストの低下が顕著である。
【0007】図1は、従来技術の垂直配向モードの液晶ディスプレイのコントラスト曲線の計算結果である。網点部分はコントラスト50以上の領域を示しており、偏光板の偏光軸に対して45度の角度におけるコントラストの低下が4方向(方位角0度、90度、180度、270度)において生じていることがわかる。また、4方向でコントラストの低下が生じる結果、黒から中間調の領域で輝度の反転も生じている。このような4方向でのコントラストの低下が、視覚特性の非常に良い垂直配向モードの欠点であった。本願発明は、360度全方位、極角0度から80度の領域で完全なコントラスト補償の可能な垂直配向モードの液晶ディスプレイを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願発明は、所定方向の透過軸を有する第1偏光板と、二軸光学異方性シートと、垂直配向した負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子からなる液晶層と、前記所定方向と垂直な透過軸を有する第2偏光板とをこの順序に有し、さらに、前記液晶層と前記二軸光学異方性シートとの間または前記液晶層と前記第2偏光板との間に一軸光学異方性シートを有する液晶表示装置に関する。
【0009】また、本願発明は、前記一軸光学異方性シートのリタデーションが、前記液晶層のリタデーションの75%以上100%以下である液晶表示装置に関する。
【0010】さらに、本願発明は、前記二軸光学異方性シ−トの面内リターデーションが、190nm〜390nmである液晶表示装置に関する。
【0011】さらに、本願発明は、前記二軸光学異方性シ−トの厚さ方向のリターデーションが0.28〜0.67である液晶表示装置に関する。
【0012】さらに、本願発明は、前記二軸光学異方性シ−トの面内リターデーションが205nm〜315nmで、厚さ方向のリターデーションが0.3〜0.65である液晶表示装置に関する。
【0013】さらに、本願発明は、前記二軸光学異方性シートの面内遅相軸が、前記第1偏光板または前記第2偏光板の透過軸と略平行である液晶表示装置に関する。
【0014】さらに、本願発明は、前記一軸光学異方性シ−トが、前記第2偏光板と一体化して設けられている液晶表示装置に関する。
【0015】さらに、本願発明は、前記一軸光学異方性シ−トが、トリアセチルセルロースである液晶表示装置に関する。
【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の内容を具体的に説明する。
【0017】液晶表示装置には種々の方式のものが存在するが、一般には、液晶層が光を最大限透過する明表示状態、すなわち白表示状態を実現する方が、光を最大限遮蔽する最大濃度表示状態、すなわち黒表示状態を実現するよりも容易である。したがって、表示コントラストを向上させるには、黒表示を高濃度にすることが極めて重要である。各種の液晶表示方式においては、いかにして十分な黒表示を達成するかということに対して様々な考慮が払われている。従来から広く用いられているツイスティッドネマチックモードの液晶表示装置では、無通電時または通電時においては液晶分子が回転状態または垂直配向状態となるが、回転状態で黒表示を実現するよりもホモジニアスな垂直配向状態で黒表示を実現する方が容易である。そのため、通電時の垂直配向状態において黒表示となるような構成を採用しているものが多い。これを実現するために、液晶層の上下に偏光板が、その偏光軸が直交するように設置される。この場合、無通電時においては一方の偏光板を透過して直線偏光となった光は液晶層で回転し、反対側の偏光板から出射して白表示になるので、このような構成をノーマリホワイトとよんでいる。これに対して、IPSモードや垂直配向モ−ドでは無通電時においてホモジニアスな配向となっているので、無通電時において黒表示となるような構成、すなわちノ−マリブラックの方が調整が容易である。したがって、IPSモードおよび垂直配向モードではノ−マリブラックの方が広く採用されている。
【0018】図2は、従来技術の垂直配向モードの構成を示している。二枚の電極(図示せず)の間に挿入された液晶層10の上下には偏光板12、14が2枚配置され、偏光板12の透過軸18と偏光板14の透過軸20とが直交している。偏光板の正面方向から入射した光は透過軸の方向に偏光面を有する直線偏光となり、偏光面と液晶遅相軸とは同一方向又は垂直方向にあるので直線偏光の偏光面は回転等せずに液晶層10を透過し、反対側の偏光板で遮断されることにより、黒表示が得られる。
【0019】ところが、偏光板から斜めに入射した光は反対側の偏光板で遮断されなくなる。本出願人はその原因を分析的に解析し、以下の考えに基づいて垂直配向モードにおける黒状態の補償を、理論上ほぼ完全に、かつ簡易に行う方法を確立した。すなわち、第1に、偏光板偏光軸に対しての45度方向(光が抜けてくる方向)の液晶層のリタデーションをゼロとするために、1軸光学異方性シートを用いて補償する。このようにすると、直線偏光は、液晶層および1軸光学異方性シートを通った後も直線偏光のままである。第2に、偏光板の透過軸に対して平行または垂直な方向の遅相軸を有するλ/2板に相当するような二軸光学異方性シートを追加する。このようにして、直線偏光の偏光軸を、出射側の偏光板で完全に遮られるような方向に回転させることができる。
【0020】図3および図4は、本願発明の液晶表示パネルの層構成を示している。基板24および基板26の表面にはそれぞれ電極28および電極30が設けられ、これらの一対の基板・電極の間には、垂直配向した負の誘電異方性を有するネマチック液晶分子23からなる液晶層22が挿入されている。最も外側には一対の偏光板32、34が設けられている。一軸光学異方性シート36が基板26または基板24に隣接する位置に設けられ、二軸光学異方性シート38が偏光板34に隣接する位置に設けられている。
【0021】1軸光学異方性シートによる第1の補償について説明する。極角をθとすると、液晶層のΔnは、次の式で表すことができる。
Δn={noe/(no2sin2θ+ne2cos2θ)1/2}−noここで、neは異常光における液晶の屈折率、noは常光における液晶層の屈折率である。したがって、斜めから見た場合の液晶層のリタデーションは、Δnd(LC)=Δn×d/cosθとなる。ここで、dは液晶層の厚みである。同様に、斜めから見たときの一軸光学異方性シートのリタデーションは、Δnd(Film)=ΔN×D/cosθここで、Dは一軸光学異方性シートの厚みであり、ΔN={Noe/(No2sin2θ+Ne2cos2θ)1/2}−Noである。液晶層の有するリタデーションが一軸光学異方性シートによって補償されるためには、Δnd(LC)+Δnd(Film)=0が成立することが必要となる。したがって、たとえば液晶層が正の屈折率異方性を有する、すなわちne>noの場合には、シートは、Ne<Ne、すなわち負の屈折率異方性を有することが必要となる。
【0022】次に、二軸光学異方性シートによる第2の補償について説明する。斜めから見た場合には上下の直交している偏光板の偏光軸が、見かけ上、直交からずれてくる。偏光板から斜めに入射した光は、反対側の偏光板の透過軸と平行な成分を有することから、反対側の偏光板で遮断されずに透過する光が生じ、従って十分な黒表示が得られずコントラストが低下してしまう。斜めから偏光板に入射した光が反対側の偏光板の透過軸と平行な成分を有することは、直交してエックス(X)の文字を形成する2本の矢印を、真上から見ると2本の矢印は直交してみえるが、斜めから見るとエックスの文字が歪み、2本の矢印のなす角度が90度からずれることからも直感的に理解できる。このような斜めから見たときに生じるコントラスト低下を改善するためには、液晶層と偏光板との間に以下のような特性を有する二軸光学異方性の光学補償シ−トを設ける。
【0023】本願発明の二軸性の光学補償シ−トは、直線偏光の偏光軸を回転させるために用いる。斜めの方位角方向から偏光板に入射して直線偏光となった光の偏光軸がそのまま直進したのでは、反対側の偏光板に到達する際には、直線偏光の偏光軸と反対側の偏光板の偏光軸とは直交しないことから、直線偏光を途中で回転させるのである。特に望ましい光学補償シ−トはλ/2板に近い特性を示すシ−トである。λ/2板は、リタデーションがΔnd=λ/2(λは光の波長)という値を有するものであり、λ/2板の遅相軸から偏光面がφずれた直線偏光が入射すると直線偏光を2φ回転させるという性質を有する。ここで、Δnd=(nx−ny)×dただし、nxはシ−ト面内の屈折率最大値最大方向(x軸)の屈折率nyはシ−ト面内にてx軸と直交する方向(y軸)の屈折率dはシ−トの厚みである。光学補償シ−トのリタデーションがλ/2に近いほど出射側の偏光板に到達した光が直線偏光に近くなる。本願発明の液晶表示装置に用いる光学補償シ−トとしては、そのリタデーション値が可視光の波長領域である約380nm〜約780nmの1/2倍、すなわち約190nm〜約390nmであれば有効に作用し、可視光について斜めから見た場合のコントラストを向上させ、視角特性を向上させることができる。
【0024】斜めから見るがゆえに直線偏光が出射側の偏光板の透過軸に垂直からずれた分を、このようなλ/2板に相当する二軸光学異方性シ−トにより直線偏光を直線偏光のまま回転させて元に戻すことで、より黒表示濃度を高めることが可能となる。このような二軸光学異方性シートは、正面方向からの光に対しては何ら光学的な影響を与えないが、斜め方向からの光に対してλ/2板としての効果を発揮することとなる。以下この点を、正面方向から見たときに二軸光学異方性シートの面内遅相軸がいずれかの偏光板の透過軸と平行になるように配置した場合を例にして、説明する。
【0025】図5は、斜め方向から見たときの、2枚の偏光板の透過軸52、54および二軸光学異方性シ−トの遅相軸58の位置関係を示している。二軸光学異方性シ−トには2つの固有の偏光軸とそれに対応する屈折率が存在し、そのうちの屈折率が大きいほうの軸を遅相軸という。上下の偏光板の吸収軸は45度の方位角方向からみると偏平なエックス(X)の文字となるが、偏光板の透過軸すなわち偏光軸は偏光板の吸収軸と直交するので、透過軸52、54は縦長のXとなる。二軸光学異方性シ−トの遅相軸58が透過軸52とずれているのは二軸光学異方性シ−トの厚み方向の屈折率が面内の屈折率と異なる、すなわち二軸性だからである。透過軸52と透過軸54は90度から角度ψだけずれている。方位角方向45度、極角方向θ0のときのψは幾何学的に求めることができ(P.Yeh,J.Opt.Soc.Am.,72,P.507(1982))、
【0026】
【数1】


【0027】で表される。遅相軸が遅相軸58の方向あるいは遅相軸58と垂直な方向である、λ/2板の特性を有する二軸光学異方性シートを用いると、入射側の偏光板を通過した光の偏光面(透過軸52と同一方向)と二軸光学異方性シ−トの遅相軸58のなす角度がψ/2あるいは(ψ/2+90度)であるので、直線偏光の偏光面は二軸光学異方性シートによって角度ψまたは(ψ+180度)だけ回転する。したがって、直線偏光の偏光面は、軸56(透過軸54と直交)と一致し、したがって、出射側の偏光板において光をほぼ完全に遮断することが可能となる。以上の考察に基づいて実験を行い、厚さ方向のリタデーションNzが0.5付近においてコントラストが最大となる(すなわち、二軸光学異方性シ−トがλ/2板に最も近い物性を有する)ことが判明した。ここでNzは、
【0028】Nz=(nx−nz)/(nx−ny
【0029】で表される。Nz=0.5である場合にはリタデーションの値が角度依存性を有しないことが報告されており(H.Mori,P.J.Bos:IDRC’97Digest M−88(1997))、斜め方向からであってもリタデーションの値がλ/2に近い値を示すので、このようなNzを有することは、より一層好ましいといえる。
【0030】以上のように、一軸光学異方性シ−トと二軸光学異方性シ−トを組み合わせることで、垂直配向モ−ドにおける完全な黒状態の補償を実現することができる。2枚の偏光板の間に一軸光学異方性シートと二軸光学異方性シートが存在すれば効果的な光学補償をおこなうことができるが、最大限の光学補償を実現するためには、さらに次のような点を考慮することが望ましい。まず、最適な条件の二軸光学異方性シ−トを用いると直線偏光を直線偏光のまま回転させることができるので、二軸光学異方性シ−トと偏光板の間に液晶層や1軸光学異方性シ−トがない構成のほうが、完全な黒補償を行うには有利である。次に、液晶層のリタデ−ションの影響を受けた光がさらに光学的な影響を受ける前に補償するためには、液晶層と一軸光学異方性シ−トが隣接した位置関係にあることが望ましい。したがって最も望ましい位置関係は、基板および電極を除いて考えると、偏光板34、二軸光学異方性シ−ト38、1軸光学異方性シ−ト36、液晶層22、偏光板32の順(図3)、または、偏光板、二軸光学異方性シ−ト、液晶層、一軸光学異方性シ−ト、偏光板の順(図4)である。
【0031】一軸光学異方性シ−トは偏光板に一体化して設けられていてもよい。一軸光学異方性シ−トは、偏光軸や液晶層の遅相軸とのアライメントを必要としないので、偏光板に一体化しても必要な機能を発現させることが容易である。とくに、偏光板が保護層としてトリアセチルセルロ−ス(TAC)を有する場合には、偏光板の液晶層側のTACの塗膜を通常の保護層の厚みよりも厚膜化することにより、一軸光学異方性シ−トを別途用意する必要がなくなる。典型的には保護層としてのTACはたとえば50nm前後のリタデ−ションを有しているのに対して、液晶層のリタデ−ションのキャンセルのために必要な一軸光学異方性シ−トはたとえば300nm前後のリタデ−ションを有している必要がある。したがって、これに相当するような厚膜のTAC塗膜を設けることで本発明に適合する一軸光学異方性シ−トとしての特性も偏光板に付与することができる。
【0032】
【実施例】以下に実施例を示して、本願発明の内容をさらに詳細に説明する。これらの実施例は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施例に限定されるものではない。実施例においては、ジョーンズマトリクスを用いた光学シミュレーションで計算し検討している。
【0033】液晶セルや電極・基板、偏光板等は垂直配向モ−ド用として従来から用いられているものがそのまま使用できる。液晶セルの配向は垂直配向であり、液晶は負の誘電率異方性を有しており、垂直配向モ−ド用に開発され市販されているものを用いることができる。液晶セルの物性は、液晶のΔn:0.081、Δe:−4.6、液晶層のセルギャップ:4.8μm、とした。このときの液晶のΔndは0.39μmである。液晶は左右に配向分割する。配向分割するための方式としては、突起を用いる方法がラビングも不必要であるので適している。上下の偏光板の偏光軸は上下の偏光板の偏光軸を直交させる。1軸光学異方性シ−トのz軸方向のΔnd=−0.35μm、二軸光学異方性シ−トのxy平面のΔnd=275nm、Nz=0.5、二軸光学異方性シートのxy面内の遅相軸は2つの偏光板のどちらかの偏光軸と平行とする。
【0034】このようにして、可視光の代表的な値である550nmの波長を用いて光学計算すると、黒状態、すなわち無電化状態で黒の視角の浮き上がりが全くなく、全方位で光学補償できる。図1がシートがない場合の計算結果であるのに対して、図6はシートがある場合のコントラストの視角特性の結果を示す。図1および図6R>6においては、極角が0−80度で全方位角の範囲についての結果を示しており、黒い部分がコントラスト50以上になる領域を表している。
【0035】今回の二軸光学異方性シートは、理想的には(nx−ny)×d=270nmで、Nz=0.5のときに最も効果を発揮する。図7は、(nx−ny)×d(横軸)とNz(縦軸)が変化したときのコントラストの値を示す。斜線部分は方位角90度、極角方向80度の場合の、コントラストが10以上になる部分を示している。(nx−ny)×d=270nmで、Nz=0.5のところを中心に、(nx−ny)×dが200nm〜320nm、Nzが0.25〜0.7のときに大きく効果を発揮していることがわかる。
【0036】二軸光学異方性シートは上下いずれか偏光板の偏光軸と極力平行であることが望ましいが、略平行、具体的には平行から±2度のずれの範囲内であれば十分に実用に耐えうるものとなる。図8は、偏光板の偏光軸とシートの遅相軸のなす角度Φと正面コントラストの関係を示している。±2度の範囲では正面コントラストが100以上の値が得られており、このΦの範囲で二軸光学異方性シートを用いることができる。
【0037】液晶層のΔndが異なっても一軸光学異方性シートのリタデーション値を変更することで黒レベルの補償が可能である。図9は、液晶層のΔndが390nmである場合の、一軸光学異方性シートのΔndとコントラストの関係を求めた結果である。コントラストは極角80度、方位角90度である。実際のシートのΔndは負の値であり、図9の横軸はシートのΔndの絶対値を示している。最適なシートのΔndは355nm程度であり、300nm〜390nmの範囲においてコントラスト5以上が得られている。このような望ましい一軸光学異方性シートのΔndは図10の斜線で示した範囲である。図10からわかるように、一軸光学異方性シートのΔndが液晶層のΔndの75〜100%である場合に、一軸光学異方性シートを用いる顕著な効果が得られている。
【0038】
【発明の効果】垂直配向モ−ドの液晶表示装置において、一軸光学異方性シ−トと二軸光学異方性シ−トを組み合わせることにより、二軸光学異方性シ−トを一枚のみ用いる構成であっても、正面方向の特性を何ら変更させることなく、斜め方向の視角特性を向上させることが可能となる。
【0039】二軸光学異方性シ−トが1枚であっても完全な補償が可能である点は以下に示すように極めて有利である。まず、二軸光学異方性シ−トは一軸光学異方性シ−トよりも一般に高価であるので、コストが低減される。また、アライメント調整が必要な二軸光学異方性シ−トが一枚ですむので、製造プロセスが簡素になる。さらに、液晶層のΔndが変更しても二軸光学異方性シートを変更する必要がなく、リタデ−ションの調整の容易な一軸光学異方性シ−トの変更で対応することができる。一軸光学異方性シ−トは偏光板と容易に一体化することもでき、その結果、全体としてシ−トを1枚省略することができるので、特に有利である。さらに、隣接する偏光板の偏光軸と二軸光学異方性シ−トとの位置関係が平行である場合だけでなく垂直である場合も構成として取りうるので、設計上の余裕度が向上する。
【0040】また、所定のリタデ−ションを有する二軸光学異方性シ−トを用いることにより、理論上完全な光学補償を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来技術における液晶表示装置のコントラスト曲線を示すグラフである。
【図2】従来技術における液晶表示装置の層構成を示す図である。
【図3】本願発明における液晶表示装置の層構成を示す図である。
【図4】本願発明における液晶表示装置の層構成を示す図である。
【図5】本願発明における積層体の軸の相互関係を示す図である。
【図6】本願発明における液晶表示装置の高コントラスト領域を示すグラフである。
【図7】本願発明における液晶表示装置のコントラスト曲線を示すグラフである。
【図8】本願発明における液晶表示装置のコントラスト曲線を示すグラフである。
【図9】一軸光学異方性シートのΔndとコントラストの関係を示すグラフである。
【図10】液晶層のΔndと一軸光学異方性シートのΔndとの組み合わせの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10、22 液晶層
23 ネマチック液晶分子
12、14、32、34 偏光板
18、20、52、54 透過軸
24、26 基板
28、30 電極
36 一軸光学異方性シート
38 二軸光学異方性シート
56 軸
58 遅相軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】所定方向の透過軸を有する第1偏光板と、二軸光学異方性シートと、垂直配向した負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子からなる液晶層と、前記所定方向と直交する透過軸を有する第2偏光板とをこの順序に有し、さらに、前記液晶層と前記二軸光学異方性シートとの間または前記液晶層と前記第2偏光板との間に一軸光学異方性シートを有する液晶表示装置。
【請求項2】前記一軸光学異方性シートのリタデーションと前記液晶層のリタデーションは正負が逆であり、かつ、前記一軸光学異方性シートのリタデーションの絶対値が、前記液晶層のリタデーションの絶対値の75%以上100%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】前記二軸光学異方性シ−トの面内リターデーションが、190nm〜390nmであることを特徴とする、請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】前記二軸光学異方性シ−トの厚さ方向のリターデーションが0.28〜0.67であることを特徴とする、請求項3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】前記二軸光学異方性シ−トの面内リターデーションが205nm〜315nmで、厚さ方向のリターデーションが0.3〜0.65であることを特徴とする、請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項6】前記二軸光学異方性シートの面内遅相軸が、前記第1偏光板または前記第2偏光板の透過軸と略平行であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項7】前記一軸光学異方性シ−トが、前記第2偏光板と一体化して設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項8】前記一軸光学異方性シ−トが、トリアセチルセルロースであることを特徴とする、請求項2に記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2000−39610(P2000−39610A)
【公開日】平成12年2月8日(2000.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−200906
【出願日】平成10年7月15日(1998.7.15)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレイション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】