説明

液晶/高分子複合体

【課題】低電圧駆動が可能で、ブルー相を発現する光学素子用液晶材料の提供。
【解決手段】液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有する液晶/高分子複合体。カイラル剤中に下式(2)で表される化合物を含み、カイラル剤全体に対する量が40〜100質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動電圧が低い液晶/高分子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
光情報処理技術は、信号伝達の高速性、伝送および処理の空間的並列性、広い周波数帯域等、光の有する特徴を利用できる有望な情報処理技術である。該技術の実用化には光の強度、偏光状態等を高速・高精度で制御する光学素子が不可欠であり、液晶を用いた小型で安価な光学素子が注目されている。
【0003】
一方、コレステリック液晶を昇温していくと、コレステリック相から等方相へ転移する直前に、液晶相の一つであるブルー相が発現することが知られている。ブルー相は、液晶が互いにねじれて配列した二重ねじれ構造と、等方相に近い状態の線状欠陥とが共存した状態と考えられており、数百nmオーダーの格子定数の体心立方格子(ブルー相I)や単純立方格子(ブルー相II)のような三次元周期構造を形成することが知られている。
【0004】
そのため、ブルー相の状態にある液晶は、立方晶としての性質とコレステリック液晶としての性質とを兼ね備えており、可視光に対して旋光性を示すほか、ブラッグ反射が観測される。また、電界や磁界等の外場環境を変化させることにより、入射光の回折角、偏光状態等をマイクロ秒オーダーの応答時間で変化させることができる。よって、ブルー相の状態にある液晶を用いた光学素子には、従来の光学素子を遥かに凌ぐ応答速度と多様な機能が期待できる。しかし、ブルー相は等方相直下の数℃(一般的には1〜3℃)の温度範囲(温度幅)でしか発現しないため、極めて精密な温度制御が必要であり、実用化が困難であった。この問題を解決しうる技術として、ブルー相を示す液晶と重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させることによって、ブルー相の発現温度範囲(温度幅)を改善することが報告されている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−327966号公報
【特許文献2】国際公開第2005/080529号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記特許文献1に記載された材料は駆動電圧が高い問題があった。この問題を解決するための材料として、本発明者らによって見出された材料が特許文献2に記載されているが、より一層低い電圧で駆動できる材料が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、低電圧駆動が可能で、実用に適した温度範囲にわたってブルー相を発現する液晶/高分子複合体を提供する。すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
【0008】
[1]液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする液晶/高分子複合体。ただし、前記液晶組成物は下記(A)〜(C)を満たす。
【0009】
(A)液晶性化合物とカイラル剤との合計量が液晶組成物に対して85〜95質量%。
(B)カイラル剤の量が液晶性化合物とカイラル剤との合計量に対して5〜50質量%。
(C)カイラル剤中に1種以上の下式(2)で表される化合物を含み、カイラル剤全体に対する該下式(2)で表される化合物の量が40〜100質量%。
【0010】
【化1】

【0011】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数1〜8のアルコキシ基。
:1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
Q:不斉炭素原子を有する2価の炭化水素基。
:−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。
【0012】
[2]少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することを特徴とする[1]に記載の液晶/高分子複合体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ブルー相の状態にある液晶で構成された光学素子の駆動電圧を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。また、式(Q)で表される基を基(Q)とも記す。他の化合物および基についても同様に記す。また、以下より、誘電率異方性をΔε、屈折率異方性をΔnと略記する。光源からの発振波長は、一点の値で記載されている場合でも、記載値±10nmの範囲を含むこととする。
【0015】
本発明における液晶性化合物とカイラル剤との組み合せとは、液晶性化合物およびカイラル剤のみからなる組み合せである。液晶性化合物とカイラル剤との組み合せの物性(ΔεやΔn)は、液晶性化合物とカイラル剤のみの混合物を調製した場合のその混合物の物性をいう。なお、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せを、以下単に「液晶」ともいう。また、本発明においては、後述する液晶性の重合性モノマーは、「液晶性化合物」とはみなさないものとする。
【0016】
本発明における液晶組成物とは、液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む組成物であり、カイラル剤中に下式(2)で表わされる化合物の1種以上を含む。そして、(A)液晶性化合物とカイラル剤との合計量が液晶組成物に対して85〜95質量%であり、(B)カイラル剤の量が液晶性化合物とカイラル剤との合計量に対して5〜50質量%であり、(C)カイラル剤中に1種以上の下式(2)で表される化合物を含み、カイラル剤全体に対する該下式(2)で表される化合物の量が40〜100質量%である。
【0017】
液晶組成物中に含まれる液晶性化合物とカイラル剤との合計量は85〜95質量%であり、90〜95質量%が好ましい。カイラル剤の量は、液晶性化合物とカイラル剤との合計量に対して5〜50質量%であり、15〜50質量%であることが好ましい。よって、液晶性化合物の量は、液晶性化合物とカイラル剤との合計量に対して50〜95質量%であり、35〜50質量%であることが好ましい。
【0018】
また、カイラル剤は少なくとも1種の化合物(2)を含み、カイラル剤全体に対する化合物(2)の割合が40〜100質量%(好ましくは、50〜80質量%)である。
【0019】
まず、化合物(2)について説明する。化合物(2)は下式で表される化合物である。
【0020】
【化2】

【0021】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数1〜8のアルコキシ基。
:1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
Q:不斉炭素原子を有する2価の炭化水素基。
:−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。
【0022】
が炭素数1〜8のアルキル基である場合、直鎖の基であることが好ましい。また、炭素数は3〜6が好ましい。炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、およびn−オクチル基等が挙げられ、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、おおびn−ヘキシル基が好ましい。Rが炭素数1〜8のアルコキシ基である場合、直鎖の基であることが好ましい。また、炭素数は3〜6が好ましい。炭素数1〜8のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、およびn−オクチルオキシ基等が挙げられ、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、およびn−ヘキシルオキシ基が好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
【0023】
は1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基である。これらの基は、非置換の基であってもよく、基中の炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子に置換されていてもよく、非置換の基であることが好ましい。Aとしては、非置換の1,4−フェニレン基が好ましい。
【0024】
Qは、不斉炭素原子を有する2価の炭化水素基である。Qは不斉炭素原子を有することから、分岐構造の基である。分岐鎖の数は1個または2個が好ましく、1個が特に好ましい。また、Qの炭素数は、分岐鎖部分の炭素数を含めて4〜6個であることが好ましく、3個であることが特に好ましい。Qとしては、以下に示す基が好ましい。
【0025】
【化3】

【0026】
は−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−であり、−COO−または単結合が好ましい。
、X、X、およびXはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。X〜Xとしては、XおよびXが水素原子であり、かつ、XおよびXがフッ素原子であることが好ましい。
【0027】
化合物(2)としては、下記化合物(2L)および化合物(2N)が好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
化合物(2)は単独で使用してもよく、化合物(2)から選ばれる2種以上を併用してもよい。さらに、化合物(2)の1種以上と化合物(2)以外のカイラル剤(以下、他のカイラル剤と記載する。)とを併用してもよい。
他のカイラル剤としては、特に制限されないが、化合物(2)との相溶性が良好であることから化合物(2)と類似構造を有していることが好ましい。他のカイラル剤としては、たとえば下記化合物(K)が好ましく使用できる。その他に、「ZLI−4572」(Merck社製、特許文献1参照)も使用できる。
【0030】
【化5】

【0031】
本発明におけるカイラル剤としては液晶性化合物であっても非液晶性化合物であってもよい。また、カイラル剤の構造中に存在する不斉炭素原子の立体配置はRまたはSのいずれであってもよく、カイラル剤を2種以上使用する場合は、誘起されるらせん方向が同一であるカイラル剤を組み合せて使用することが好ましい。さらに、カイラル剤は液晶性化合物と類似構造を有することが好ましい。これにより、液晶性化合物とカイラル剤との相溶性を改善でき、液晶/高分子複合体とした後にカイラル剤が析出する現象を防止でき、ブルー相をより安定化できる。
【0032】
つぎに、液晶性化合物について説明する。本発明において使用できる液晶性化合物としては、ネマチック性液晶性化合物、スメクチック性液晶性化合物、およびディスコチック性液晶性化合物等が挙げられ、ネマチック性液晶性化合物が好ましい。液晶性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合は、混合した後にネマチック液晶相を示すことが好ましい。
【0033】
液晶性化合物としては特に限定されないが、下式(1)で表される化合物が好ましい。
【0034】
【化6】

【0035】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、または炭素数1〜8のアルキコキシ基。
:1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
:−COO−、−OCO−、単結合、−CHCH−、または−C≡C−。
:−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
1、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。
n:0または1。
【0036】
が炭素数1〜8のアルキル基である場合、炭素数3〜6の直鎖アルキル基が好ましい。Rが炭素数2〜8のアルケニル基である場合、炭素数2〜6の直鎖アルケニル基が好ましい。なかでも、弾性定数比(K33/K11)が大きいことから、炭素数が偶数である場合はアルケニル鎖末端の炭素原子から環基へ向けて二重結合を有する基が好ましく、炭素数が奇数である場合は、アルケニル鎖末端から2番目の炭素原子から環基へ向けて二重結合を有する基が好ましく、CH−CH=CH−CH−CH−、CH=CH−CH−CH−、またはCH−CH=CH−が特に好ましい。
【0037】
がまたは炭素数1〜8のアルキコキシ基である場合、炭素数2〜6の直鎖アルコキシ基が好ましく、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、またはn−ペンチルオキシ基が特に好ましい。
【0038】
としては、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、またはCH−CH=CH−CH−CH−が好ましい。
【0039】
は1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基である。これらの基は、該基中の炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子に置換されていてもよく、非置換の基であることが好ましい。Aとしては、非置換のトランス−1,4−シクロヘキシレン基が好ましい。
【0040】
は、−COO−、−OCO−、単結合、−CHCH−、または−C≡C−であり、単結合が好ましい。Yは−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−であり、−COO−または単結合が好ましい。
【0041】
1、X、X、およびXは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。X〜Xとしては、Xがフッ素原子であり、かつX、X、およびXの全てが水素原子であることが好ましい。
【0042】
化合物(1)としては、下記化合物が好ましく、下記化合物(1A)、下記化合物(1B−2)〜(1B−4)、下記化合物(1C−2)〜(1C−4)が特に好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
その他に、フッ素系ネマチック混合液晶(チッソ社製、商品番号:「JC−1041XX」、特許文献1参照)、シアノビフェニル系ネマチック液晶(Aldrich社製、商品番号:「5CB」、特許文献1参照)等も好ましく用いられる。
【0045】
本発明における液晶性化合物とカイラル剤との組合せとしては、コレステリック液晶相(カイラルネマチック相)を示す組合せであることが好ましい。
【0046】
液晶性化合物とカイラル剤との組合せがブルー相を安定に発現するためには、コレステリック液晶相におけるらせんピッチが500nm以下であることが好ましい。らせんピッチが500nm超であると、ブルー相が発現しないか、または発現しても不安定となる。なお、ブルー相が発現することは、偏光顕微鏡による観察および反射スペクトルの測定により確認できる。すなわち、ブルー相が発現していると、ブルー相に特徴的なplatelets(小板状組織)が偏光顕微鏡によって観察される。また、反射スペクトルを測定すると、plateletsに対応する波長近傍にピークが認められる。
【0047】
本発明における液晶性化合物とカイラル剤との組合せ(液晶)は、誘電率異方性(Δε)の値および屈折率異方性(Δn)の値が大きいことが好ましい。Δε値が大きい液晶を使用することにより、光学素子とした場合の駆動電圧をより小さくできる。また、Δn値が大きい液晶を使用することによって、一定の位相差を得る場合の素子の厚さを小さくできる。
【0048】
液晶のΔε値としては、30〜80が好ましく、30〜70が特に好ましい。また、液晶のΔn値としては、0.15〜0.4が好ましく、0.15〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.2がとりわけ好ましい。
【0049】
本発明の液晶組成物は、前記液晶性化合物、前記カイラル剤以外に、単官能性重合性モノマーおよび後述する多官能性重合性モノマーを含む。単官能性重合性モノマーを多官能性重合性モノマーとともに液晶組成物中に含ませて重合反応を行うことにより、液晶がブルー相を示す温度範囲を改善できる。
【0050】
本発明における単官能性重合性モノマーとは、1個の重合性官能基を有する非液晶性または液晶性の化合物である。重合性官能基としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。単官能性重合性モノマーとしては、アクリル酸エステル類またはメタクリル酸エステル類が好ましく、アクリル酸エステル類が特に好ましい。
【0051】
アクリル酸エステル類としては、アクリル酸の直鎖アルキルエステル、アクリル酸の分岐鎖アクリルエステルが好ましい。これらのアクリル酸アルキルエステルにおいて、アルキル基部分の炭素数は6〜30であることが好ましく、8〜24であることが特に好ましい。
【0052】
また、単官能性重合性モノマーとしては、下式(4)で表わされる化合物も好ましい。
CH=CH−COO−[(CHCHO)・(CHCHCHCHO)−(CH−H・・・(4)
ただし、p、q、r、およびsは、それぞれ下記の意味を示し、かつ[((2p+4q)×r)+s]の値が6〜30の整数となる。
【0053】
pは−(CHCHO)−単位の数を示し、0〜15の整数であり、0〜5の整数が好ましい。qは−(CHCHCHCHO)−単位の数を示し、0〜7の整数であり、0〜5の整数が好ましい。rは−[(CHCHO)・(CHCHCHCHO)]−単位の数を示し、0または1であり、0が好ましい。sは−(CH)−単位の数を示し、0〜30の整数である。rが0である場合のsは12〜24の整数が好ましく、12〜20の整数が特に好ましい。rが1である場合のp、q、およびsの値は、[((2p+4q)×r)+s]の値が6〜30の整数となる範囲において、適宜変更されうる。なお、p、q、r、およびsがそれぞれ0である場合は、対応する単位が存在しないことを意味する。
【0054】
また、式(4)における「−(CHCHO)・(CHCHCHCHO)−」部分の表記は、−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1単位以上存在する場合、2つの単位の並び方が限定されないことを意味する。すなわち、−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1つずつ存在する場合には、CH=CH−COO−に結合する単位は、−(CHCHO)−単位であっても−(CHCHCHCHO)−単位であってもよい。−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1単位以上存在し、かつ、少なくとも一方の単位が2単位以上存在する場合には、2つの単位の並び方はブロック状であってもランダム状であってもよく、ブロック状であることが好ましい。
【0055】
化合物(4)としては、下記化合物(4a)〜(4p)等が挙げられ、液晶との相溶性の観点から、下記化合物(4a)〜(4e)、下記化合物(4h)〜(4j)、および下記化合物(4m)が好ましい。
CH=CH−COO−(CH12H (4a)、
CH=CH−COO−(CH13H (4b)、
CH=CH−COO−(CH16H (4c)、
CH=CH−COO−(CH18H (4d)、
CH=CH−COO−(CH22H (4e)、
CH=CH−COO−(CHCHO)H (4f)、
CH=CH−COO−(CHCHO)10H (4g)、
CH=CH−COO−(CHCHO)CH (4h)、
CH=CH−COO−(CHCHO)CH (4i)、
CH=CH−COO−(CHCHO)12CH (4j)、
CH=CH−COO−(CHCHCHCHO)H (4k)、
CH=CH−COO−(CHCHCHCHO)CH (4m)、
CH=CH−COO−(CHCHO)−(CH12H (4n)、
CH=CH−COO−(CHCHO)・(CHCHCHCHO)H (4p)。
【0056】
単官能性重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、およびステアリルアクリレートが好ましい。
【0057】
液晶組成物中に含まれる単官能性重合性モノマーの割合は、ブルー相の安定化効果に優れることから、液晶組成物に対して1〜4質量%が好ましく、1.5〜3.5質量%が特に好ましく、2〜3質量%がとりわけ好ましい。単官能性重合性モノマーの量が液晶組成物に対して1質量%よりも少ないと、後述する重合反応を行って液晶/高分子複合体とした場合にブルー相の安定化効果が乏しく、4質量%よりも多いとブルー相が発現しないか、または発現したとしても重合時に三次元周期構造の規則性が乱れ、散乱等の現象が起きるおそれがある。
【0058】
本発明における多官能性重合性モノマーとは、単官能性重合性モノマーの分子間を結合して網目状構造を形成し得る化合物であり、2個以上、好ましくは2個の重合性官能基を有する化合物である。重合性官能基としては、前記単官能性重合性モノマーにおける重合性官能基と同様の基が例示できる。多官能性重合性モノマーは液晶性化合物または非液晶性化合物のいずれであってもよい。また、多官能性重合性モノマーは液晶性化合物または非液晶性化合物のいずれであってもよく、液晶との相溶性が良好である必要があることから、メソゲン構造を有することが好ましい。
【0059】
多官能性重合性モノマーとしては、ジアクリレート、ジメタクリレート等が挙げられ、単官能性重合性モノマーの構造、液晶/高分子複合体に要求される強度、特性等に応じ選択することが好ましい。また、両者における重合性官能基は同一であることが好ましい。
多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号::RM−257)等が挙げられる。
【0060】
液晶/高分子複合体においてブルー相の発現温度幅を広くするためには、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとが重合した高分子部分の架橋密度が重要である。架橋密度が小さいと、ブルー相が発現しないか、または、ブルー相が発現しても発現温度範囲が狭くなる。よって、連続性の高い網目構造が形成されるようにすることが必要である。
【0061】
そのため、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの合計量は、液晶組成物に対して5〜15質量%であることが好ましく、5〜8質量%であることが特に好ましい。単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの混合比は、各々の構造や、液晶性化合物、カイラル剤の構造等によって適宜調整されうるが、通常の場合、単官能性重合性モノマー/多官能性重合性モノマー(質量比)で、1/1〜1/4であることが好ましい。
【0062】
また、液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体とした際の、該複合体中の液晶のブルー相が消失する上限温度は、液晶組成物のネマチック相−等方相転移温度(Tc)とほぼ同じであるため、液晶組成物のTcを、光学素子として使用する温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、10℃以上高くすることが特に好ましい。また、ブルー相が消失する下限温度の目安は(Tc−60)℃であり、この温度が光学素子の使用下限温度よりも10℃以上低くなるように液晶組成物のTcを設定することが好ましい。さらに、液晶組成物において低温保存時に結晶の析出が起こると、光学素子とした場合に素子の特性が劣化するおそれがあるので、低温時の保存安定性に優れていることが好ましい。
【0063】
本発明においては、前記液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体を得る。重合反応は、前記液晶組成物をセルに注入し、前記液晶組成物中に含まれる液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を保持した状態において行うことが好ましい。このことによって、液晶/高分子複合体中の液晶がブルー相を有することができる。なお、本発明において「ブルー相を有する」とは、液晶/高分子複合体中の液晶性化合物とカイラル剤との組合せが、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲で、好ましくは−10℃〜液晶組成物のTcをカバーする温度範囲で、ブルー相を安定に発現することを意味する。
【0064】
重合反応としては、光重合反応が好ましく、紫外線による光重合反応が特に好ましい。熱重合反応を採用した場合、ブルー相が保持される温度と重合温度(加熱温度)とが必ずしも一致しないため、ブルー相を保持した状態で重合反応を行うことが困難になるおそれがある。また、加熱によって液晶/高分子複合体の構造が変化するおそれもある。
光重合反応においては光重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等から適宜選択して用いることができる。光重合開始剤の量は液晶組成物に対して0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。
【0065】
セルは、透明電極および配向膜を備えた一対の積層体を用いて作製することが好ましい。積層体は、たとえば以下に示す方法によって作製できる。透明ガラス製または透明樹脂製の基板にITO等の透明導電膜を積層し、必要に応じてパターニングして電極を作製する。さらに、電極が形成されている側の面に配向膜を積層する。配向膜としてポリイミド配向膜を用いる場合は、該配向膜をラビング処理することが好ましい。
【0066】
このようにして作製された一対の積層体の、少なくとも一方の積層体の、配向膜が形成されている側の面の周縁部にエポキシ樹脂等のシール剤を環状に塗布する。シール剤には、所望のセルギャップを得るためのスペーサ、電圧印加のための導電経路となる導電性微粒子等をあらかじめ混ぜることができる。ついで、配向膜の面が対向する形で、所望の間隔(セルギャップ)で一対の積層体を配置し、シール剤を硬化して空セルを形成する。セルギャップは1〜10μmが好ましい。シール剤の環状の塗布部分には、少なくとも一部、液晶組成物を注入するための注入口となる不連続部分が設けられており、該注入口から液晶組成物を注入したのち、重合反応を行う。
【0067】
本発明の液晶/高分子複合体は、上述した液晶組成物を用いて作製されることにより、BPIIを安定に発現できる。BPIIはBPIに比較して、液晶の配向の面内分布が少なく、位相差が大きい。また、配向欠陥が少ないため、散乱を抑えられる。さらに、電圧を印加しなくてもモノドメイン化することが容易である。よって、本発明における液晶組成物は、光学素子(特に大型の光学素子)を作る際に有利である。
【0068】
また、BPIIを発現する液晶組成物のカイラルピッチとBPIを発現する液晶組成物のカイラルピッチとを比較すると、同じ選択反射波長を得ようとする場合、BPIIを発現する液晶組成物のカイラルピッチのほうが長くなる(理論的には、BPI系に対して約140%)。よって、液晶組成物に含ませるカイラル剤の量が少なくて済む(理論的には、BPI系に対して約70%)ことが特徴である。カイラルピッチと駆動電圧とは反比例するため、同じ選択反射波長を有する素子を作った場合、BPII系の駆動電圧がBPI系の駆動電圧より小さくできる。さらに、カイラル剤のΔnは一般に液晶性化合物のΔnよりも小さいことから、カイラル剤の含有量が少ないと、液晶性組成物のΔnの低下を抑えることができる。よって、BPIIを発現する液晶組成物を用いると、BPIを発現する液晶組成物を用いた場合に比較し、大きな位相差の得ることが可能である。
【0069】
また、本発明の液晶/高分子複合体は、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲(実用に適した温度範囲)でブルー相を発現する。また、低い電圧で駆動することができる。さらに、使用波長の光(特に波長400〜420nmの光)の透過率が高いという利点も有する。よって、光学素子用に有用である。光学素子としては、回折素子、位相板、液晶レンズ等が挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。ただし、例1、5は比較例であり、例2〜4は実施例である。なお、表中ではブルー相をBPと略記する。
【0071】
[1]混合物の調製
[1−1]混合物の調製
液晶性化合物とカイラル剤とを表1に示す割合で混合し、例1〜5の混合物を得た。液晶性化合物としては、下記化合物(1A)、下記化合物(1C−4)、フッ素系ネマチック混合液晶(チッソ社製、商品番号:「JC−1041XX」、特許文献1参照)、シアノビフェニル系ネマチック液晶(Aldrich社製、商品番号:「5CB」、特許文献1参照)を用いた。
【0072】
【化8】

【0073】
カイラル剤としては、下記化合物(K)、下記化合物(2L)、下記化合物(2N)、および「ZLI−4572」(Merck社製、特許文献1参照)を用いた。なお、化合物(K)および「ZLI−4572」は、化合物(2)以外のカイラル剤である。
【0074】
【化9】

【0075】
[1−2]混合物の物性評価
以下に示す手順によって混合物のΔεの値を求めた。
【0076】
<Δεの測定手順>
ネマチック液晶(Merck社製、商品番号:「ZLI−1565」)に混合物を1、2、4質量%添加した組成物を、ITO電極および配向膜付きのセル(セルギャップ4μm)に注入した。25℃において、周波数1kHzの交流電源を用いて電圧を印加し、LCRメーター(ヒューレットパッカード社製、商品番号:「4262A」)を用いて(ε‖)および(ε⊥)の値を測定し、それぞれの値から下式(C)によってΔεを算出し、外挿によりΔεを求めた(ただし、(ε‖)は分子軸(長軸)方向の誘電率を表し、(ε⊥)は分子軸に垂直方向の誘電率を表す。)。
なお、(ε‖)値の測定時には、垂直配向処理を施したセルを用い、(ε⊥)値の測定には平行配向処理を施したセルを用いた。
【0077】
(Δε)=(ε‖)−(ε⊥)・・・(C)。
【0078】
表1に例1〜5の混合物の組成比、Δεの値、およびBPを示す温度範囲を併せて示す。表1において混合物を構成する各々の成分の割合は、混合物全体に対する質量%で表す。なお、カッコ内にモル%の値を併記する。また、「BP−Iso」はブルー相から等方相への転移温度を表す。
表1に示した結果から、混合物2〜4においては、BPIIの発現温度幅はBPIの発現温度幅より広いことがわかる。
【0079】
【表1】

【0080】
[2]液晶組成物の調製
前記の液晶性化合物、カイラル剤、単官能性重合性モノマー、多官能性重合性モノマー、および重合開始剤とを、表2に示す割合で混合し、例1〜5の液晶組成物を調製した。単官能性重合性モノマーとしては、2−エチルヘキシルアクリレート(Aldrich社製)(以下、2EHAと略記する)を用いた。多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号:「RM257」、特許文献1参照)を用いた。重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(Aldrich社製)(以下、DMPAPと略記する)を用いた。
【0081】
表2に、液晶組成物の組成比およびブルー相の発現温度範囲を併せて示す。なお、表2において液晶組成物を構成する各々の成分の割合は、液晶組成物全体に対する質量%で表す。
【0082】
例1〜5の液晶組成物を、該組成物が等方相を示す温度から降温させながら偏光顕微鏡によって観察すると、ブルー相の発現に伴うplateletsが観察された。
【0083】
【表2】

【0084】
[3]液晶/高分子複合体の作製
[2]で得た例1〜3の液晶組成物を、電極および配向膜付き、セルギャップ10μmのサンドイッチ型セルに等方相の状態で大気圧下で注入した。つぎに、セルをクロスニコル下の偏光顕微鏡で観察し、ブルー相が保持された状態であることを確認しながら、メタルハライドランプ(浜松ホトニクス社製、商品名:「LIGHTNINGCURE LC6」)を用いて照射強度1.5mW・cm−2の紫外光を1時間照射して光重合反応を行い、例1〜3の液晶/高分子複合体を得た。これらの液晶/高分子複合体を、該複合体中の混合物が等方相を示す温度から降温させながら偏光顕微鏡によって観察すると、ブルー相の発現に伴うplateletsが観察された。
【0085】
なお、例1ではBPIIの発現温度範囲が狭いため、BPIIを安定に発現した状態で重合することが難しく、BPIを発現させた状態で重合することとなった。また、例2と例3については(カイラル剤全体に対する化合物(2)の割合は両者で同じである)、比較のため、例2についてはBPIを発現させた状態で、例3についてはBPIIを発現させた状態で、重合を行った。
【0086】
例1〜3の液晶/高分子複合体において、反射スペクトルを測定した。反射スペクトルの測定は、光源(キセノンランプおよびハロゲンランプ)と小型マルチチャンネル分光システム(オーシャンオプティクス社製、商品番号:「HR−2000」)とを備えた偏光顕微鏡を用いて行った。測定の結果、ブルー相の発現に起因する選択反射ピークが20℃(装置の測定温度下限)〜Tcの範囲で観測され、コレステリック相(カイラルネマチック相)のピッチ長に対応するピークは観測されなかった。したがって、ブルー相の分子配列構造が安定化されたことが明らかとなった。
【0087】
表3に、液晶/高分子複合体中における液晶の相転移温度、ブルー相の発現温度範囲、および選択反射波長を併せて示す。表3に示すように、例1〜3の液晶組成物は、液晶/高分子複合体とすることにより、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することが確認された。
【0088】
【表3】

【0089】
−BP:コレステリック相(カイラルネマチック相)からブルー相への転移温度、
BP−Iso:ブルー相から等方相への転移温度。
【0090】
[4]液晶/高分子複合体の評価
[3]で得た例1〜3の液晶/高分子複合体複合体について、25℃において、正弦波、周波数1kHzの交流電源を用いて電圧を印加し、ブルー相からホメオトロピック状態に転移するために必要な駆動電圧を測定した。測定結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
例1の液晶/高分子複合体中の液晶はBPIを発現しているので、駆動電圧が高くなっている。
【0093】
例2と例3とを比較すると、BPIIを発現させた状態で重合して得られた例3の液晶/高分子複合体の駆動電圧のほうが小さくなっている。カイラル剤全体に対する化合物(2)の割合は、例2と例3とで同じであるが、相状態が異なることによって駆動電圧に差が出ていることがわかる。なお、本実施例では、比較のために例2においてBPIを発現させた状態で重合したが、BPIIを発現させて重合すれば、例3と同等の低い電圧で駆動できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の液晶/高分子複合体は、素子に応用した際に駆動電圧を小さくできる。また、光の透過率が良好であり、ブルー相を安定に保持できる。よって、透過光や反射光の波面状態、偏光状態を制御する光学素子、反射波長を制御する光学素子等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする液晶/高分子複合体。ただし、前記液晶組成物は下記(A)〜(C)を満たす。
(A)液晶性化合物とカイラル剤との合計量が液晶組成物に対して85〜95質量%。
(B)カイラル剤の量が液晶性化合物とカイラル剤との合計量に対して5〜50質量%。
(C)カイラル剤中に1種以上の下式(2)で表される化合物を含み、カイラル剤全体に対する該下式(2)で表される化合物の量が40〜100質量%。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:水素原子、フッ素原子、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数1〜8のアルコキシ基。
:1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
Q:不斉炭素原子を有する2価の炭化水素基。
:−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XまたはXの少なくとも1つはフッ素原子である。
【請求項2】
少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することを特徴とする請求項1に記載の液晶/高分子複合体。

【公開番号】特開2007−308534(P2007−308534A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136625(P2006−136625)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】