説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】着弾精度を向上させて高精細かつ高速処理を可能とする。
【解決手段】インクジェットヘッド1に、送風装置と、複数のノズル3が形成されたノズル面2におけるノズル領域4の前後左右に形成される噴出口6a〜6dと、送風装置から各噴出口6a〜6dに空気を送り出す供給路7a〜7dとを備えるエアカーテン機構5を設ける。そして、送風装置で発生した気流を各供給路7a〜7dから各噴出口6a〜6dに送り出し、各噴出口6a〜6dから空気を噴き出させることで、ノズル領域4と記録メディアMとの間の空間Aを覆うエアカーテンを形成する。これにより、空間Aの内外における空気の出入りが抑制されるため、インクジェットヘッド1を移動させても、空間A内を所定の均等圧力範囲に維持することができ、インク液滴の着弾精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッド、及び、この液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液滴吐出装置の一つであるインクジェットプリンタには、高精細、高い吐出周期、多ノズル化したインクジェットヘッドが搭載されており、構造体の精度を向上させてインクジェットヘッドと記録メディアとのギャップを狭くしてインク液滴の着弾精度を向上させ、高速軸駆動によりインクジェットヘッド又は記録メディアを高速搬送している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−051081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、インクジェットヘッドや記録メディアを高速搬送すると、気流がインク液滴の飛行軌跡に与える影響が大きくなるため、インク液滴の着弾精度が低下するという問題がある。この点、インクジェットヘッドと記録メディアとのギャップを小さくすることも考えられるが、構造体の精度向上が限界に来ている。そこで、従来のインクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドや記録メディアの搬送速度を落とし、インクジェットヘッドの印字幅やインクジェットヘッドの数を増やすことで、気流による影響を小さく押さえている。
【0005】
しかしながら、インクジェットヘッドや記録メディアの搬送速度を極端に落とすと、高速印刷ができなくなる。また、インクジェットヘッドや記録メディアの搬送速度を落としたとしても、気流の問題が根本的に解決したわけではないため、インク液滴の十分な着弾精度を得ることが難しい。
【0006】
ところで、特許文献1には、ノズルから吐出されたインク液滴に引きずられてノズル面近傍の空間が減圧空間になるとの問題に鑑み、ノズル列の両サイド(前後)に気流発生孔を形成し、ノズル面と記録メディアとの間の空間に、インク液滴の吐出方向に向けた一様な気流を発生させることが記載されている。しかしながら、この気流発生孔は、走査方向においてノズル列の前後方向に形成されているのみで、走査方向においてノズル列の左右方向には形成されていないため、気流発生孔から送り出された空気がノズル列の左右から周囲に排出される。その結果、周囲に排出される空気に気流によりインク液滴の飛行軌跡が変わるため、特許文献1に記載された技術であっても、インク液滴の着弾精度を十分に高めることができない。
【0007】
そこで、本発明は、着弾精度を向上させて高精細かつ高速処理が可能な液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、走査方向に移動可能に保持され、記録メディアに対向配置されるノズル面に液滴を吐出する複数のノズルが形成された液滴吐出ヘッドであって、複数のノズルが形成されるノズル領域の周囲から記録メディアに向けてガスを送風するエアカーテン機構を有する。
【0009】
本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、エアカーテン機構により、ノズル領域の周囲から記録メディアに向けてガスを送風することで、ノズル領域を覆うようにエアカーテンが形成される。このため、液滴吐出ヘッドと記録メディアとを相対的に移動させる際に、液滴吐出ヘッドの周囲からノズル面と記録メディアとの間に空気が入り込むのを抑制することができる。これにより、ノズル面と記録メディアとの間の圧力を所定の均等圧力範囲に維持することができるため、液滴の着弾精度を向上させて高精細かつ高速処理が可能となる。
【0010】
そして、エアカーテン機構は、ガスが噴き出される噴出口が、走査方向においてノズル領域の前後左右に形成されることが好ましい。このように、噴出口をノズル領域の前後左右に形成することで、簡易な構成でノズル領域を覆うようにエアカーテンを形成することができる。このため、例えば、エアカーテン機構を備えない液滴吐出ヘッドに対しても、エアカーテン機構を簡易的に取り付けることが可能となる。
【0011】
また、走査方向前後方向に形成される噴出口は、ノズル領域から離間した位置に形成されることが好ましい。このように、走査方向前後方向に形成される噴出口をノズル領域から離間させることで、液滴吐出ヘッドが移動方向前方から受ける風の影響を更に低減することができる。
【0012】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の何れかの液滴吐出ヘッドを搭載するものである。本発明に係る液滴吐出装置によれば、上述した作用を有する液滴吐出ヘッドを搭載するため、高精細かつ高速に液滴を吐出することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、着弾精度を向上させて高精細かつ高速処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るインクジェットヘッドの一部を拡大した概略斜視図である。
【図2】インクジェットヘッドを示す概略図であり、(a)は正面図、(b)底面図である。
【図3】エアカーテン機構を作動させた状態を示した図である。
【図4】インクジェットヘッド周りの気流を示した図である。
【図5】噴射口の形状例を示した図であり、(a)は環状の噴射孔、(b)は間欠環状の噴射孔を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係る液滴吐出装置を、液滴吐出装置であるインクジェットプリンタに適用し、本発明に係る液滴吐出ヘッドを、このインクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドに適用したものである。なお、同一又は相当部分には同一符号を付すこととする。
【0016】
図1は、実施形態に係るインクジェットヘッドの一部を拡大した概略斜視図である。図2は、インクジェットヘッドを示す概略図であり、(a)は正面図、(b)底面図である。図1及び図2に示すように、インクジェットプリンタ10には、走査方向Sにおいて前後方向に移動可能に保持されたインクジェットヘッド1が搭載されている。
【0017】
インクジェットヘッド1は、記録メディアMに対向配置されるノズル面2に、インク液滴を吐出する複数のノズル3が形成されている。この複数のノズル3は、走査方向Sに直交するフィード方向に沿って配列されたノズル列に形成されており、吐出するインク種類に応じて、走査方向Sに複数列配列されている。なお、ノズル面2における複数のノズル3が形成された領域をノズル領域4という。
【0018】
そして、このインクジェットヘッド1には、ノズル領域4の周囲から記録メディアに向けて空気を送風するエアカーテン機構5が設けられている。エアカーテン機構5は、インクジェットヘッド1の外部に設けられて気流を発生させる送風装置(不図示)と、ノズル面2におけるノズル領域4の四方に形成された4つの噴出口6と、送風装置から各噴出口6に空気を送り出す供給路7と、を備えている。なお、エアカーテン機構5は、インクジェットヘッド1に一体的に取り付けられていてもよく、脱着可能に取り付けられていてもよい。
【0019】
噴出口6は、細長い矩形状に形成されており、ノズル領域4の走査方向S前方に配置されてフィード方向に延びる噴出口6aと、ノズル領域4の走査方向S後方に配置されてフィード方向に延びる噴出口6bと、ノズル領域4の走査方向S左方に配置されて走査方向Sに延びる噴出口6cと、ノズル領域4の走査方向S右方に配置されて走査方向Sに延びる噴出口6dとで構成される。なお、走査方向S前方とは、図2(b)において左方を指し、走査方向S後方とは、図2(b)において右方を指し、走査方向S左方とは、図2(b)において上方を指し、走査方向S右方とは、図2(b)において下方を指す。
【0020】
具体的に説明すると、噴出口6a及び噴出口6bは、ノズル領域4から離間した位置に配置されて、ノズル領域4の幅と略同じ長さに形成されている。一方、噴出口6c及び噴出口6dは、ノズル領域4から離間した位置に配置されて、ノズル領域4に近接した位置に配置されて、ノズル領域4の長さよりも長く形成されている。なお、ノズル領域4の幅とは、図2(b)におけるノズル領域4の上下方向の寸法を指し、ノズル領域4の幅とは、図2(b)におけるノズル領域4の左右方向の寸法を指す。そして、噴出口6a及び噴出口6bとノズル領域4との離間距離L1は、噴出口6c及び噴出口6dとノズル領域4との離間距離L2よりも長くなっている。離間距離L1は、インクジェットヘッド1の設計の許す限り、できるだけ長くすることが好ましい。一方、離間距離L2は、噴出口6c及び噴出口6dから噴き出される空気がノズル3から吐出されるインク液滴の飛行軌跡に影響を与えない範囲で、できるだけ短くすることが望ましい。そして、隣接する噴出口6同士は、互いに接触させなくてもよいが、可能な範囲で近接させることが好ましい。
【0021】
供給路7は、送風装置で発生した気流を噴出口6aに送り出す供給路7aと、送風装置で発生した気流を噴出口6bに送り出す供給路7bと、送風装置で発生した気流を噴出口6cに送り出す供給路7cと、送風装置で発生した気流を噴出口6dに送り出す供給路7dとで構成される。なお、各供給路7に連通される送風装置は、インクジェットヘッド1の外部に設けられるが、振動等などの影響によりインクジェットヘッド1の吐出制御に問題が発生しなければ、インクジェットヘッド1内に設けてもよい。
【0022】
次に、図3及び図4を参照して、インクジェットヘッド1の動作について説明する。図3は、エアカーテン機構を作動させた状態を示した図であり、図4は、インクジェットヘッド周りの気流を示した図である。
【0023】
まず、インクジェットヘッド1を走査方向に移動させて印刷を行うに先立ち、エアカーテン機構5の送風装置を作動させて、送風装置で発生した気流を各供給路7から各噴出口6a〜6dに送り出す。
【0024】
すると、図3に示すように、各噴出口6a〜6dから記録メディアに向けて空気が噴き出され、ノズル領域4と記録メディアMとの間に形成される空間Aを覆うエアカーテンBが形成される。なお、隣接する噴出口6の間からは空気が噴き出されないが、各噴出口6から噴出した空気がこの間にも回り込むため、実質的に空間Aの全周囲を覆うエアカーテンBが形成される。
【0025】
各噴出口6から噴き出させる空気の流速は、空間Aの内外における空気の出入りが殆ど行われなくなる程度にエアカーテンBが形成される流速であることが好ましく、実際には、ノズル面2と記録メディアMとのギャップや、インクジェットヘッド1の移動速度などに応じて適宜設定される。ノズル面2と記録メディアMとのギャップは年々小さくなってきており、近年のインクジェットプリンタでは、ノズル面2と記録メディアMとのギャップが0.2〜0.5mm程度にまで小さくなっている。このように、ノズル面2と記録メディアMとのギャップが小さい場合は、各噴出口6から微量の空気を噴き出すだけで、空間Aの内外における空気の出入りが殆ど行われないエアカーテンBを形成することができる。
【0026】
このようにしてエアカーテンBが形成されると、次に、インクジェットヘッド1の走査方向Sへの移動を開始し、各ノズル3からインク液滴を吐出させる。
【0027】
インクジェットヘッド1を移動させると、図4に示すように、走査方向Sにおいてインクジェットヘッド1の前面1aで風を受ける。このため、この前面1a付近で大きな圧力変動が生じ、前面1aで受けた風が、前面1aと記録メディアMとの間から空間A内に入り込もうとする。しかしながら、ノズル領域4と記録メディアMとの間にはエアカーテンBが形成されているため、前面1aで受けた風は、エアカーテンBに阻まれて空間A内に入り込むことができずに、インクジェットヘッド1の左右側面1b側に回り込む。なお、ミクロ的に見ると、前面1aで受けた風の一部は空間A内に侵入するが、その量は微量であるため、実質的には空間A内に入り込まないものと同視できる。
【0028】
また、左右側面1bに回り込んだ風は、左右側面1bと記録媒体Mとの間から空間A内に入り込もうとする。特に前面1aと左右側面1bとのエッジ付近では、風の巻き込みなどにより乱流が発生するため、空間A内に入り込もうとする圧力が強くなる。しかしながら、上記同様、ノズル領域4と記録メディアMとの間にはエアカーテンBが形成されているため、左右側面1bに回り込んだ風は、エアカーテンBに阻まれて空間A内に入り込むことができずに、そのまま走査方向S後方に抜けていく。
【0029】
このように、インクジェットヘッド1の移動により、前面1a付近や前面1aと左右側面1bとのエッジ付近を中心としてインクジェットヘッド1周りに大きな圧力変動が生じるが、エアカーテン機構5が生成するエアカーテンBにより空間Aの内外における空気の出入りが極めて小さくなるため、空間A内では、圧力変動の小さい所定の均等圧力範囲に維持される。このため、各ノズル3から吐出されたインク液滴は、圧力変動のない(又は、圧力変動の小さい)環境下で飛行することができ、理想の飛行軌跡に近い状態で記録メディアMに着弾する。
【0030】
このように、本実施形態によれば、エアカーテン機構5により、ノズル領域4の周囲から記録メディアMに向けて空気を送風することで、ノズル領域4を覆うようにエアカーテンBが形成される。このため、インクジェットヘッド1を走査方向Sに移動させる際に、インクジェットヘッド1の周囲からノズル領域4と記録メディアMとの間の空間Aに空気が入り込むのを抑制することができる。これにより、空間A内の圧力を所定の均等圧力範囲に維持することができるため、インク液滴の着弾精度を向上させて高精細かつ高速処理が可能となる。
【0031】
そして、噴出口6をノズル領域4の前後左右に形成することで、簡易な構成でノズル領域4を覆うようにエアカーテンBを形成することができる。このため、インクジェットプリンタに、エアカーテン機構5を備えない既存のインクジェットヘッドが搭載されていたとしても、このインクジェットヘッドにエアカーテン機構を簡易的に取り付けることが可能となる。
【0032】
更に、走査方向S前後方向に形成される噴出口6a及び噴出口6bをノズル領域4から離間させることで、インクジェットヘッド1が移動方向前方から受ける風の影響を更に低減することができる。一方で、走査方向S左右方向に形成される噴出口6c及び噴出口6dを、噴出口6a及び噴出口6bよりもノズル領域4に近接させることで、インクジェットヘッド1の大型化を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、エアカーテン機構5の噴出口6が、ノズル領域4の前後左右において細長い矩形状に形成されるものとして説明したが、ノズル領域4を覆うようにエアカーテンを形成することができれば如何なる形状であってもよい。例えば、図5(a)に示すように、ノズル領域4を覆う環状に形成しても良く、図5(b)に示すように、ノズル領域4を覆う間欠環状に形成してもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、噴出口6aと噴出口6bの双方を、ノズル領域4から離間させるものとして説明したが、インクジェットヘッド1が走査方向Sに移動するときにのみ各ノズル3からインク液滴を吐出する場合は、走査方向S前方の噴出口6aのみノズル領域4から離間させるものとしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態においてエアカーテン機構は、送風装置、噴出口6及び供給路7で構成されるものとして説明したが、ノズル領域4を覆うようにエアカーテンを形成することができれば如何なる構成であってもよい。
【0036】
また、上記実施形態では、インクジェットヘッド1を走査方向Sに移動させるものとして説明したが、インクジェットヘッド1と記録メディアとが相対的に移動すればよく、例えば、インクジェットヘッド1を移動させずに記録メディアを走査方向Sの反対方向に移動させるものとしてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、本発明の一例としてインク液滴を吐出するインクジェットヘッド及びインクジェットプリンタについて説明したが、本発明を、食用オイルや接着剤などの高粘度液体を液滴として吐出する工業用液滴吐出ヘッド及び工業用液滴吐出装置などに適用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)、1a…前面、1b…左右側面、2…ノズル面、3…ノズル、4…ノズル領域、5…エアカーテン機構、6(6a〜6d)…噴出口、7(7a〜7d)…供給路、10…インクジェットプリンタ(液滴吐出装置)、A…ノズル領域と記録媒体との間に形成される空間、B…エアカーテン、M…記録メディア、S…走査方向。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査方向に移動可能に保持され、記録メディアに対向配置されるノズル面に液滴を吐出する複数のノズルが形成された液滴吐出ヘッドであって、
前記複数のノズルが形成されるノズル領域の周囲から前記記録メディアに向けてガスを送風するエアカーテン機構を有する、液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記エアカーテン機構は、ガスが噴き出される噴出口が、走査方向において前記ノズル領域の前後左右に形成される、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
走査方向前後方向に形成される前記噴出口は、前記ノズル領域から離間した位置に形成される、請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッドを搭載する、液滴吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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