説明

液滴吐出ヘッド

【課題】常温で高粘度液体を高い駆動周波数で吐出可能な液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】吐出後の通電によって尾引き3の飛翔方向後端の最も細い部分では発熱、溶媒の蒸発により尾引き3が分断され、液滴2とノズル16とは分離される。次いで図4(C)に示すように、媒体Pの搬送に伴い液滴2は完全にノズル16内の液4と分離すると共に、ノズル16側の液4は流路13内に引き戻る。これにより図4(D)に示すようにノズル16の液面(メニスカス)の静定が早まり、ノズル16近傍におけるリフィル(再充填)も遅れることなく、高い周波数での吐出を可能とする。また図4(E)に示すように、媒体Pが搬送されている状態でも、液滴2の着弾直後に尾引き3が切断されるので、着弾形状5は正円に近い良好なものとなる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴吐出ヘッドに関し、特に高粘度のインクを液滴として吐出する液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置として知られている現在市販されている水性インクジェットプリンターは、概ね粘度5cps前後、高々10cpsオーダの染料インクや顔料インクを採用している。媒体に着弾した際のインク滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制/短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、インク粘度を増加することによってプリント性能は向上できることが知られている。
【0003】
反面、高粘度液を吐出するには、高出力な圧力発生機構が必要であり、コストやヘッドサイズ増加等の弊害を招く。従来からイジェクターにヒーターを別途設け、吐出時のインク粘度を強制的に下げる技術は公知である(例えば、特許文献1参照)が、インクを加熱する上記の方法はインク劣化や流路のダメージを早める根本課題があり、また使用できるインクも熱による劣化のないものに制限される。
【0004】
このほか、インク吐出する際の逆方向へのインク流を梁状の弁によって抑制し、より高粘度なインクを吐出する技術(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
【0005】
大変形が得られる座屈曲がりを利用し、圧力発生機構自体をパワーアップする方法として、発熱体層との熱膨張差で変形するダイヤフラム状アクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献3参照)、また、同様の構成で片持ち梁状のアクチュエータを使用した技術(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の従来技術でも、粘度10cpsを大きく上回る50〜100cpsのような高粘度液を、常温において安定吐出することは極めて困難である。
【0007】
本願発明者らは、梁に圧縮と回転運動を与え、座屈曲げ方向が反転する際の急峻な上下運動を利用して、ノズルから高粘度液滴を所望の方向に慣性離脱させる液滴吐出ヘッドを先に出願した(特許文献5〜8参照)。
【0008】
しかしながら、吐出される液の粘度が高いために、吐出される液滴は例えば1mm超の長さの尾引きを伴う。これは場合によっては吐出ヘッドのスローディスタンスより長くなり、ヘッドと媒体の間を短絡する様な尾引きともなる。これにより液滴の着弾形状は心対称な円状にならず、おたまじゃくし状の形状となる。また液滴が媒体に着弾した後も尾が残り、ノズル面のメニスカス静定化が遅れるため、結果としてリフィルが遅れることとなり、高周波吐出の妨げになりうるという課題があった。
【0009】
本願発明者が上記の尾引きの課題について検討した結果、高粘度液体を吐出するヘッドにおいてはヘッドと媒体の間に電圧・電位差を付与して尾引き部に通電し、液滴の尾を加熱させて積極的・選択的に切断する方法が有効であることを見出した。
【0010】
本発明は、先願の発展技術であり、常温で高粘度の液滴を、より高い駆動周波数かつより高い形状精度で吐出可能な液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【特許文献1】特開2003−220702号公報
【特許文献2】特開平9−327918号公報
【特許文献3】特開2003−118114号公報
【特許文献4】特開2003−34710号公報
【特許文献5】特願2004−322341号公報
【特許文献6】特願2004−322342号公報
【特許文献7】特願2004−322343号公報
【特許文献8】特願2004−322344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事実を考慮し、常温で高粘度の液滴を高い駆動周波数かつ高い形状精度で吐出可能な液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の液滴吐出ヘッドは、対向する媒体との間に電位差を付与したヘッドから前記媒体に向けて導電性の液を液滴として吐出し、前記液滴の尾引きを通じて前記ヘッドと前記媒体との間で通電することを特徴とする。
【0013】
上記構成の発明では、ヘッドから媒体へ向けて吐出される液滴に生じる尾引きに通電することによって、ヘッドと媒体との間で付与された電位差に応じて電流が流れる。このため液滴の尾は通電による発熱、粘性低下、蒸発など種々の影響を受け切断される。
【0014】
請求項2に記載の液滴吐出ヘッドは、請求項1に記載の構成において、液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、前記座屈反転変形の慣性力によって前記液滴を吐出するノズルと、を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成の発明では、梁部材の座屈反転変形による慣性力で媒体に向けて液滴を飛ばすため、本構成を採用していない場合と比較して、液滴となる液の粘度範囲が高粘度方向に広く対応する。
【0016】
請求項3に記載の液滴吐出ヘッドは、請求項1または請求項2の何れか1項に記載の構成において、前記液の粘度は20cps以上であることを特徴とする。
【0017】
上記構成の発明では、液の粘度が20cps以上あるため液滴が通電のための尾を十分な長さで引くため、ヘッドと媒体の間に電圧を印加しても通電しない事態を回避できる。
【0018】
請求項4に記載の液滴吐出ヘッドは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の構成において、前記ヘッドに前記液を供給する液流路内に露出し、前記液と接触する導電性部材を備え、全ての前記液流路内の前記液を前記導電性部材と導通することで等電位とすることを特徴とする。
【0019】
上記構成の発明では、液流路内で液と接触する導電性部材が、すべての液流路(チャンネル)内の液を等電位に保つことで、液流路内の金属部品等の通電による電気腐食を抑制する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成としたので、常温で高粘度の液滴を高い駆動周波数かつ高い形状精度で吐出可能な液滴吐出ヘッドとすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<基本構成>
図1、図2には、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドが示されている。
【0022】
図1(A)〜(B)に示すように、液滴吐出ヘッド10はSUS材など耐食性のある部材で形成された梁部材14の、長さ方向両端を保持部材18が支持し、保持部材18は回転エンコーダ20に固定され、回転エンコーダ20の回動に伴って長さ方向両端側から押圧され、あるいは曲げ方向に力が加えられ液滴吐出方向(図中上)あるいは逆方向に梁部材14を撓ませる構造となっている。
【0023】
梁部材14には内部に流路13が設けられた中空パイプ状の流路部材12が、吐出面側(図中上)の一端から長さ方向略半分まで一体的に設けられ、梁部材14の長さ方向略中央には流路部材12の端面に設けられた流路13の吐出口となるノズル16が、液滴の吐出対象である媒体Pに対向して設けられている。
【0024】
また、梁部材14には、薄膜状のピエゾ素子30が接合され、さらにピエゾ素子30には個別電極32が形成され梁部材14、ピエゾ素子30、個別電極32でアクチュエータ36を構成している。梁部材14はピエゾ素子30の共通電極を兼ねており、梁部材14と個別電極32とでピエゾ素子30を挟む構造となっている。共通電極を兼ねる梁部材14は流路部材12内において流路13内を流れる液4と接触し、常に導通可能な状態とされている。
【0025】
このとき、図1(B)に示すように梁部材14は複数配列された液滴吐出ヘッド10全部において流路13と接触し、全部の流路13について一括で等電位を与える構造とされている。
【0026】
液滴吐出ヘッド10は媒体Pの表面と平行かつ梁部材14の長さ方向と略直交する方向に複数配列され、略直線上に配列されたノズル16から、対向する媒体Pの表面に吐出/非吐出される液滴の列で媒体Pの表面にドットの線を形成し、媒体Pを搬送方向Rに移動させることで媒体Pの、ノズル16に対向する表面全体に液滴からなるドットのマトリクスを形成する。
【0027】
図2(A)に示すように本発明においては、梁部材14と、液の吐出・着弾対象となる媒体Pとの間には所定の電圧が印加されている。すなわち支持部材40の上に保持部材42で保持された媒体Pに対して、梁部材14と保持部材42との間に所定の電圧を印加する電源44が接続されている。また、媒体Pは導電性の表面を備えている。
【0028】
前述のように梁部材14と液4とは導通状態にあるため、媒体Pと液4との間に上記の電圧が印加される。媒体はそれ自体が導電性の素材で形成されたもの、導電性の金属材や樹脂材などで表面をメッシュや薄膜などでコート処理されたもの、あるいは導電性の液体を表面に塗布したもの等が用いられる。例えば図2(B)に示されるように表面をアルミのメッシュでコート処理した紙などが用いられる。
【0029】
個別電極32の一方の端には電極パッド33が設けられ、配線にて図示しないスイッチングICと接続されている。このスイッチングICからの信号によりピエゾ素子30は駆動され、梁部材14を撓ませる/撓ませないの制御が行われる。
【0030】
梁部材14は液滴吐出方向および逆方向に撓み可能であり、保持部材18の内部に設けられたプール24から供給され、プール24に連通した流路13を伝ってノズル16まで達した液4を慣性によって吐出方向に液滴として吐出される。
【0031】
ここで用いられる吐出液は媒体に着弾した際の滲み防止や、光学的な色濃度アップ、含水量低減による媒体の膨潤抑制や短時間乾燥、あるいは、そうした高品質インクをトータル設計するに当たり自由度が大きくとれる等の理由から、液粘度の極めて高い、具体的には粘度20cpsを大きく上回るような、例えば50〜100cpsの高粘度液である。
【0032】
<吐出原理>
図3には、本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作が示されている。
【0033】
まずアクチュエータ36を駆動せず、液滴2を吐出しない場合は、図3(A−1)のように例えば梁部材14が予め液滴吐出方向(図中上)に撓みを持たせた状態であり、吐出を指示する信号がスイッチングICより送られないためアクチュエータ36が駆動されない。
【0034】
図3(A−2)のように回転エンコーダ20を矢印方向に回動させると、まず吐出方向(図中上)に撓みが発生し、そのまま図3(A−3〜4)のように梁部材14は液滴吐出方向に撓むのみであって、撓み量が最大となる図3(A−4)に至るまで梁部材14は常に液滴吐出方向に凸であり続ける。
【0035】
すなわち図3(A−1〜4)まで梁部材14が変位するまでの間に梁部材14内部の液4に吐出方向(図中上)への十分な加速度が加わらないため、液滴2としてノズル16から吐出されることはない(図3(A−5))。
【0036】
さらに図3(A−4)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して梁部材14を平坦にすることで梁部材14は初期位置図3(A−1)へ復帰する。
【0037】
一方、アクチュエータ36を駆動し、液滴2を吐出する場合は吐出を指示する信号がスイッチングICより送られ、図3(B−2)に示すようにアクチュエータ36が駆動されることによって梁部材14が液滴2吐出方向に対して凹(図中下)に撓みを持たせるようにされた状態であり、図3(B−2〜4)のように回転エンコーダ20を正転(図中矢印方向)させると梁部材14は回転エンコーダ20に近い方、すなわち両端から次第に吐出方向(図中上)に凸へと撓み方向が変化する。
【0038】
この撓み方向変化が両端から中央に近付くと、梁部材14はある点で急峻な座屈反転を起こし、液滴2吐出方向(図中上)へと急激に変形する(図3(B−3〜4)に中央部の変形を強調して記載)。
【0039】
梁部材14の長さ方向略中央には流路部材12の端部に開口したノズル16が設けられているため、ノズル16まで達している液4はこの座屈反転による梁部材14の吐出方向へ(図面上方へ)の変形に伴い、ノズル16から液滴2として吐出される(拡大図3(B−5))。
【0040】
さらに図3(B−4)で撓み量が最大となり回転エンコーダ20が停止したのち、逆回転して梁部材14を平坦にすることで梁部材14は初期位置へ復帰する。
【0041】
なお、上記の実施形態では、アクチュエータ36を駆動した時に梁部材14が吐出方向に対して凹(図中下)に撓み、座屈反転が起こって液滴2が吐出する構成としたが、アクチュエータ36を駆動しない時に梁部材14が予め吐出方向に対して凹に撓んだ形状とし、アクチュエータ36を駆動した時には梁部材14が吐出方向に対して凸(図中上)に撓むよう構成しても、同様に信号の有無によって液滴2を吐出/非吐出を制御することができる。
【0042】
上記の座屈反転による変形は通常のアクチュエータなどによる変位と比較すれば非常に大きなものであり、本発明に採用した高粘度インクであっても十分にインク滴2として吐出することが可能である。
【0043】
<作用効果>
図4には本発明の第1実施形態に係る液滴吐出ヘッドにおける液滴の尾引きと媒体の移動、着弾形状の関係が示されている。
【0044】
図4(A)に示すように、液滴吐出ヘッド10のノズル16から高粘度の液滴2が吐出され、対向する媒体Pに向けて飛翔する。このとき液滴2の粘度が高いため、ノズル16の液面との間に尾引き3が形成されることがわかっている。
【0045】
このとき図7に示すような従来の吐出ヘッドにおいては以下の問題が発生する。すなわち、図7(B)に示すノズル116と媒体Pとの距離であるTD(スローディスタンス)が1mmだったとき、吐出される液滴の飛翔速度が5m/秒ならば、着弾するまでの200μ秒にわたって媒体Pとノズル116との間に尾引き3が形成される。しかし、その後も尾引き3は切れないため、ノズル116から媒体P方向へ尾引き3が残り続ける。
【0046】
これにより吐出から200μ秒を過ぎてもノズル116から媒体P方向へ尾引き3が伸びているため、吐出終了からノズル116における液面(メニスカス)の静定が遅れる。これによりノズル116近傍におけるリフィル(再充填)も遅れることとなり、高い周波数での吐出を困難なものとする虞がある。
【0047】
また、図7(B)に矢印Rで示す方向に媒体Pを搬送することにより上記の尾引き3が着弾形状に影響を与える。すなわち図7(D)に示すように媒体Pが静止状態であれば、着弾形状5は正円に近い形状となるが、液滴2の着弾時に媒体Pが搬送されていれば図7(E)のように着弾形状5は搬送方向後方に尾5Aを引いたおたまじゃくし形状の着弾形状となり、画質に影響を与える虞がある。
【0048】
そこで本願発明では、図4(A)に示すように共通電極14と媒体Pとの間に、電源44により所定の電圧を印加し、媒体Pに着弾した液滴2とノズル16内の液4との間で通電させる構成とされている。媒体Pは導電性付与のためアルミ金属コートあるいは樹脂コートされた薄フィルム等が考えられる。また、導電性の液体を事前に塗布してもよい。
【0049】
液4の粘度が100cpsのとき、尾引き3は約1mm前後、瞬間的には1mmを超えるものが多発することがわかっており、ノズル16と媒体Pとの距離であるTDが1mmであれば、先頭着弾と同時に通電することで尾引き3はノズル16と媒体Pとを短絡することが可能となる。ただし一方でノズル16と媒体Pとの間隙にゴミ等が存在した際の異常短絡を防止するため、TDは数百μm以上必要となる。
【0050】
図4(B)に示すように、通電によって尾引き3の飛翔方向後端の最も細い部分では発熱、溶媒の蒸発により尾引き3が分断され、液滴2とノズル16とは分離される。次いで図4(C)に示すように、媒体Pの搬送に伴い液滴2は完全にノズル16内の液4と分離すると共に、ノズル16側の液4は流路13内に引き戻る。これにより図4(D)に示すようにノズル16の液面(メニスカス)の静定が早まり、ノズル16近傍におけるリフィル(再充填)も遅れることなく、高い周波数での吐出を可能とする。
【0051】
また図4(E)に示すように、媒体Pが搬送されている状態でも、液滴2の着弾直後に尾引き3が切断されるので、着弾形状5は正円に近い良好なものとなる。
【0052】
なお液4には水系インクを使用し、通常用いられる水性インクベースに色材を2%、塩化ナトリウムNaClを0.0数〜0.数%の範囲で添加して電気抵抗を調整したものを用いた。本実施形態では塩化ナトリウム約0.5%添加して電気抵抗を10の2乗Ωcmに調整したインクを用いている。
【0053】
また粘度調整のため、例えば水1に対してグリセリン2を混合して20cpsに調整したもの、グリセリン3を混合して50cpsに調整したもの、グリセリン4を混合して100cpsに調整したもの、さらにグリセリンの混合比を上げて200cpsに調整して高粘度インクとした。また、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリマーを、水1に対し、ポリマー2〜4程度の範囲で混合して20、50、100、200cpsの高粘度インクとしても同様の結果が得られる。 なお、粘度や抵抗率、表面張力が同等であれば油性インクでもよい。例えば主溶媒はウレタンアクリレートをポロエチレングリコールジアクリレートで希釈し、粘度を20〜100cps超としたインクに、トリエタノールアミンやモノエタノールアミンを添加して電気抵抗を調整したもの等を用いることができる。
【0054】
図5には上記液の粘度と尾引き長の関係が示されている。すなわち、液4中に含有されるグリセリンの量によって液4の粘度が変化した際、液滴2の吐出時に発生する尾引き3の長さが粘度ごとに示されている。
【0055】
ここでは梁部材14の長さは10mm、座屈反転でノズル16が移動する距離は3mmとして、液4の粘度を20〜200cpsまで変化させた際の尾引き3の長さを高速度撮影により測定した。
【0056】
図5に示すように、粘度20cpsでは尾引き長は0.1〜0.3mm前後だが、粘度50cpsでは0.3〜0.5mm前後となり、粘度100cpsでは尾引き長は0.5〜1mmとなり、瞬間的には1mmを越える長さとなる。さらに粘度200cpsでは尾引き長は1〜2mmとなり、瞬間的には2mmを越える長さとなる。
【0057】
この状態では前述のように、吐出終了からノズル16における液面(メニスカス)の静定の遅れによりノズル16近傍におけるリフィル(再充填)も遅れ、高い周波数での吐出を妨げ、また着弾形状5は搬送方向後方に尾を引いたおたまじゃくし形状の着弾形状となり、画質に影響を与える虞がある。
【0058】
<電圧印加と着弾形状>
図6には、本願発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドにおいて、印加電圧を変動させた際の着弾形状の変化が示されている。
【0059】
ここでは液4の粘度100cps、TD1mm、梁部材14の長さは10mm、ノズル16の移動距離は3mm、吐出周波数は20Hzとして、印加電圧を0〜200Vまで変化させた際の着弾形状5を比較した。
【0060】
図6(A)に示すように、電源44によって梁部材14と媒体Pとの間に電圧が印加される。吐出された液滴2の、媒体P上での着弾形状5は、理想的には図6(A)に示されるように略正円形状である。
【0061】
上記電圧を変動させた際の、媒体Pに着弾した液滴2の着弾形状の変化を図6(B)に示す。印加電圧が30V未満のとき(例えば15V)は、電圧を印加しない場合(0V、着弾形状はおたまじゃくし状)に比較して効果は認められるが、着弾形状5が不安定となる。
【0062】
印加電圧30V〜45V程度で明確な尾5Aの短縮効果が認められ、以後60V〜200Vと、電圧を高くするに従って尾5Aの短縮効果、および着弾形状5の整形効果の向上が認められる。これは液滴を静電気で媒体に吸引する、いわゆる静電吸引方式で使用される数百V〜数千Vの電圧と比較して極めて低い数値であり、IEC 60950 (J60950) において定められたSELV(安全特別低電圧)で定義されている安全な電圧値(交流42.4V)であっても効果が認められる。
【0063】
また梁部材14は流路13の全部について液4と接触し、全部の流路13について一括で等電位を与える構造とされているので、電位差に起因する電気腐食を防止することができる。このとき梁部材14はSUSなど耐食性のある部材で形成されることが望ましいが、貴金属コートされた素材などを用いれば、更に電位差による電気腐食を防ぐことができる。
【0064】
<その他>
尚、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0065】
例えば、上記実施の形態ではノズル16は流路部材12の端面に形成された断面に設けられているが、梁部材14の全長にわたって流路部材12を設け、その長さ方向中央近傍にノズル16を設けてもよい。
【0066】
あるいは流路部材12を設けず、親液処理が施された梁部材14/アクチュエータ36の反吐出面をノズル16まで毛管現象で液4が滲み伝わることで、梁部材14/アクチュエータ36を吐出方向に貫通するノズル16に液4を補充する構成であってもよい。
【0067】
またアクチュエータはピエゾ素子30と梁部材14とからなっているが、ピエゾ素子30のかわりに発熱抵抗体を利用し、熱膨張差で撓み変形するアクチュエータであっても良いし、静電力や磁力を利用したものであっても良い。或いは、その他の形態のアクチュエータであっても良い。
【0068】
さらに、本明細書における液滴吐出ヘッドは必ずしもインク等を用いた記録紙上への文字や画像の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また吐出される液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、液状の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成したりするなど、工業用的に用いられる液滴噴射装置全般に対して本発明を利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドを示す図である。
【図2】図1に示す液滴吐出ヘッドの一部を拡大した拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの動作を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドの尾引き抑制・着弾形状改善作用を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドより吐出される液の粘度と尾引き長さの関係を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る液滴吐出ヘッドにおいて、印加される電圧と液滴着弾形状の関係を示す図である。
【図7】従来の液滴吐出ヘッドと液滴着弾形状の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
2 液滴
3 尾
4 液
10 液滴吐出ヘッド
12 流路部材
13 流路
14 梁部材
16 ノズル
18 保持部材
20 回転エンコーダ
24 プール
30 ピエゾ素子
32 個別電極
36 アクチュエータ
40 支持部材
42 保持部材
44 電源
46 金属メッシュ
P 媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する媒体との間に電位差を付与したヘッドから前記媒体に向けて導電性の液を液滴として吐出し、前記液滴の尾引きを通じて前記ヘッドと前記媒体との間で通電することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
液滴吐出面に凹となるように座屈反転変形した後、前記液滴吐出面に凸となるよう座屈反転変形する梁部材と、
前記座屈反転変形の慣性力によって前記液滴を吐出するノズルと、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液の粘度は20cps以上であることを特徴とする請求項1または請求項2の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ヘッドに前記液を供給する液流路内に露出し、前記液と接触する導電性部材を備え、全ての前記液流路内の前記液を前記導電性部材と導通することで等電位とすることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の液滴吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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