説明

液滴移動装置および液滴移動方法

【課題】壁面に予めマイクロヒーターや電極パターン等を埋め込む必要はなく、非接触で容易に、かつマイクロヒーター等に制限されることなく、任意の方向に液滴を移動させることができる液滴移動装置を提供する。
【解決手段】液滴移動装置100は、液滴Aが接触する固体表面と、液滴と固体表面のぬれ性を増大させる、液滴の一端にレーザー103を局所的に照射するレーザー照射手段とを備える。レ−ザーの照射端の接触角が加熱により減少する結果、液滴に作用する表面張力の合力が現れ、液滴はレーザー照射端の方向に移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面上の液滴を移動させる液滴移動装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学・光学機器や医薬関連の分野において、マイクロ流路における伝熱や反応、あるいはマイクロ流体素子など、微小スケールの液体運動を制御する必要性が高まっている。
例えば、DNA解析装置等の医療機器では、希少かつ高価な試薬を微量の液滴で反応・混合させる必要があり、平板状の液滴を移動させる技術の研究開発が進められている。
【0003】
このような問題では、表面張力やぬれ性といった界面現象の影響が重要となる。最近では、温度差、電場、光化学反応あるいはマランゴニ効果などを利用して、局所的に表面張力やぬれ性を変化させ、液滴の運動や分離、あるいは微小流路内の液柱の位置制御や分岐を行う手法について検討が行われている
【0004】
例えば下記非特許文献1には、平板上に電極を配置し、壁面のぬれ性を電気的に変化させて液滴を駆動させる手法が開示されている。また下記非特許文献2には、壁面にマイクロヒーターを埋め込み、熱による表面張力の変化を利用して駆動する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dahuber、 A. A. and Troian、S.M.、 Principlesof Microfluidic Actuation by Modulation of Surface Stresses、 Annual Review of FluidMechanics、 37(2005)、 425−455
【非特許文献2】Shukla、 R。and Kallam、 K.A. Effect of liquid transparency laser-inducedmotion of drops、 Transactions of ASME、 Journal of Fluids Engineering、 131(2009)、081301、 1-7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の非特許文献1、2に開示されている手法では、壁面に予め電極パターンなどの加工が必要であり、液滴の移動方向にもパターンに応じた運動しか得られないという制限を受けることなどの欠点がある。本発明は、壁面の加工を必要としない新たな液滴の移動方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液滴移動装置は、液滴が接触する固体表面と、液滴と固体表面のぬれ性を向上させる、液滴の一部を非接触で局所的に加熱する加熱手段を備える。本発明によれば、加熱手段により加熱された一端の接触角が減少する結果、液滴に作用する表面張力の合力が現れ、液滴は加熱された一端の方向に移動することとなる。
【0008】
これにより、従来のように壁面に予めマイクロヒーターや電極パターン等を埋め込む必要はなく、容易にかつ非接触に、液滴を移動させることが可能となる。またマイクロヒーター等に制限されることはないため、任意の方向に液滴を移動させることができる
【0009】
また本発明は、固体表面を振動、好ましくは超音波振動させる振動手段を備えるようにしてもよい。超音波振動を加えることで、液滴と固体表面との接触角履歴の大きさを低減することができ、液滴が移動するときの抵抗を小さくすることができる。
【0010】
さらに、本発明の固体表面を自己組織化単分子膜(Self Assembled Monolayers)で形成してもよい。この自己組織化単分子膜は表面の凹凸は非常に滑らかであることから、接触角履歴が小さくなり、液滴を移動させるのに必要な外力を小さくするこができる。
【0011】
また本発明は、別の態様として、液滴が所望の方向に移動するように、液滴の一部を非接触で加熱して、液滴と該液滴が接触する固体表面との接触角を局所的に減少させ、加熱した液滴の一部のぬれ性を増大させる液滴移動方法であってもよい。この方法において、上記固体表面を超音波振動させるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の液滴移動装置によれば、壁面に予めマイクロヒーターや電極パターンを埋め込む等の加工が不要であり、またマイクロヒーター等に制限されることなく任意の方向に液滴を移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る液滴移動装置の概略構成図
【図2】液滴が固体表面上を移動する際の概念図
【図3】固体面上の欠陥を通過する液滴の接触線の挙動を示す模式図
【図4】実験で用いた装置の模式図
【図5】振動振幅に対する接触角の変化を示す図
【図6】実験における接触角履歴を示す図
【図7】液滴の転落角度を振動振幅ごとに測定した結果を示す図
【図8】時間により変化する液滴の様子を撮影した写真
【図9】レーザー照射による接触角の変化を示す図
【図10】臨界条件において液滴が移動する瞬間の写真
【図11】液滴の移動速度の測定結果を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態における液滴移動装置を、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る液滴移動装置100の概略構成図である。本実施形態の液滴移動装置100は、液滴Aを設置する試料平板101と、上記試料平板101に超音波振動を与える超音波振動子102と、液滴Aにレーザー光線を照射するレーザー103を備えている。
【0015】
液滴Aが接触する試料平板101の表面は、自己組織化単分子膜101A(Self Assembled Monolayers、 以下SAMSと記す)によって覆われている。このSAMS膜101Aは、有機分子が自発的に集合して形成される、分子の配向性のそろった有機単分子膜である。既に市販の自己組織化単分子膜を用いることができ、本実施形態では、日本曹達(株)が開発した浸漬法によりSiウェハー表面に自己組織化単分子膜を施した試料平板を用いている。
【0016】
SAMS膜101Aは表面の凹凸が1nm程度と非常に滑らかであり、分子レベルで秩序的な配向を有するため、接触角履歴が数度と通常の表面よりもかなり小さい。ここで、接触角履歴とは、液滴の両端に現れる接触角(すなわち、前進接触角と後退接触角)の差をいう。
【0017】
SAMS膜101Aの種類は特に制限せず、表面が非常に滑らかであり、分子レベルで秩序的な配向を有するものであれば、どのような単分子膜を用いても良い。
【0018】
超音波振動子102は、SAMS膜101Aに高周波かつ微小振幅による振動を与えるものである。本実施形態では数10kHzで数マイクロメートルの振幅をもつ振動子を用いている。
【0019】
レーザー103は、超音波振動させた状態でレーザー光線を液滴端部に照射することによって、液滴を局所的に加熱する。本実施形態では、試料平板に対して約60度の角度から、液滴周端より内側にスポット径約0.1mmのレーザー光線を照射する。レーザー103の出力は、特に制限はしないが、例えば10mWから200mWの範囲で変化させることができる。
【0020】
液滴の接触角の温度依存性が顕著な場合、高温下でのぬれ性の変化により、表面張力差とは異なるメカニズムによる液滴移動が可能となる。
【0021】
以下、本実施形態の装置を用いた場合の液滴移動の原理について説明する。図2は、液滴が固体面上を移動する際の概念図である。
【0022】
まず、水平な固体面に付着した液滴が外力を受け、図2のx方向に移動する場合を考える。液滴が移動する瞬間における固気液3相の接触線(図2のC)のぬれ挙動の考察から、液体の表面張力σの液滴周囲に作用する合力Dは、下記式(1)により与えられる
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、θRおよびθAは、接触線上に現れる後退および前進接触角である。また、bは液滴付着面の最大幅である。式(1)は、任意の付着面形状の液滴について成立する。重力や遠心力などの外力が式(1)のDよりも大きくなると、液滴は移動を開始する。上式(1)より、接触角履歴 (θA−θR)を小さくすることにより、抵抗を低減できることがわかる。
【0025】
接触角履歴は、固体面上に存在するあらさや化学的な不均質部分などの欠陥の存在により現れるとされている。接触角履歴が現れるメカニズムについて、表面上の欠陥部を接触線が通過する際に必要な仕事量との関連が指摘されている
【0026】
図3は、巨視的な接触角θRをもち、固体面上の欠陥を通過する接触線の挙動を模式的に表わしたものである。局所的に存在する欠陥部に接触線の一部がトラップされる結果、その歪み形成に応じたエネルギーの分だけ抵抗が増加する。
【0027】
巨視的に観察される接触角は、そのエネルギー増加の影響を受け、いわゆる平衡接触角とは異なる角度が接触線の移動方向に依存して現れる。接触角履歴そのものを具体的に求める手法は未だ構築されていないが、図3のモデルにより、そのメカニズムは定性的に説明できると考えられる。
【0028】
固体面上に振動などの外乱を与えると、接触角はエネルギー最小条件を満足する平衡接触角に近づくことが知れている。図3のモデルに従えば、振動を付加すると、欠陥部を乗り越える際の抵抗が小さくなる。
【0029】
その結果、エネルギー増加量が抑制され、接触角履歴の低減が期待できる。本実施形態では、液滴が置かれる平板に垂直方向の微小振動を与え、式(1)の抵抗を低減する方法について検討している。図3のモデルより、接触角履歴に影響を与えるのは微小スケールの欠陥であり、振動としてはできる限り高周波のものが望まれる。
【0030】
【数2】

【0031】
例えば、表面張力に伴う液体振動周波数の代表値f(1/s)として、上記式(2)を考える。ρは密度を、lは長さスケールを示している。液滴のスケールとして、l〜1mmを考えてもf>100Hzとなる。欠陥部のスケールを考えた場合には、より高い周波数の振動が効果的と予想される。
【0032】
本発明は、上記固体表面振動とレーザー照射を組み合わせた手法により、固体面上の液滴を移動させるものである。レーザーによればスポット的な加熱が可能となるため、表面張力差を利用した移動方法とは異なるメカニズムによる液滴駆動も可能になる。
【0033】
すなわち、固液の接触角の温度依存性が顕著な場合、高温下でのぬれ性の変化により液滴が駆動される場合が考えられる。式(1)より、レーザー照射位置の接触角が常温の後退接触角よりも小さくなると、液滴は加熱端の方向に向かって運動する。
【0034】
なお、本実施形態では、SAMS膜を施した表面を用いているため、加熱の影響を受けやすくなっている。すなわち、SAMS膜は表面の凹凸が1nm程度と非常に滑らかであり、分子レベルで秩序的な配向を有するため、接触角履歴が数度と通常の表面よりもかなり小さい。
【0035】
このため、式(1)からわかるように、液滴を駆動するのに必要な外力を小さくすることが期待できる。また、表面が秩序的な構造をもつため、レーザー光によるランダムな熱振動の分子配列に与える影響が大きく、ぬれ性が顕著に変化することが期待できる。
【0036】
次に、本実施形態の液滴移動装置を用いて液滴を移動させた実験について説明する。図4に、本実験で用いた装置の模式図を示す。共振周波数28kHzの超音波振動子102(フジセラミック、FBL 28452HS)の振動面上に試料板101を載せ、所定の体積の軸対称液滴をマイクロシリンジで設置する。
【0037】
超音波振動子102の共振周波数に合わせながら電圧および電流を変化させ、数種類の振動振幅を設定した。振動させた状態で試料平板101を傾け、液滴Aが転落する瞬間での画像をデジタルカメラにより撮影し、液滴先端(後端)の前進(後退)接触角を測定した。
【0038】
上述の液滴画像をPCに取り込み、その壁面近傍での形状を多項式近似し、その勾配より接触角を求めた。接触角は、同じ実験条件下で6回以上測定し、その平均値を採用した。本実験における接触角の測定精度は、プラスマイナス1°程度である。
【0039】
式(1)の液滴移動に対する表面張力による抵抗の、超音波振動の付加による変化を見るため、転落が生じるときの傾き角度の測定も合わせて行った。転落角度の測定誤差はプラスマイナス0。3度である。
【0040】
壁面を超音波振動させた状態で、試料平板に対して約60°の角度から、液滴周端より内側にスポット径約0.1mmのレーザー光線(Mellesgriot、Model 85-GHS-305)を照射した。レーザーの出力Wを10mWから200mWの範囲で変化させ、接触角ならびに液滴運動の観察を行った
【0041】
試料平板として、日本曹達(株)が開発した浸漬法によりSiウェハー表面にSAMS膜を施した固体表面を用いた。供試液体として、ここではブチルカルビトールアセテート(以下BCA)、αメチルシランダイマー(以下αMSD)、およびグリセリンを用いた。
【0042】
本実験では、液滴にレーザーのエネルギーを効率的に吸収させるため、液滴の移動実験を行ったαMSDおよびBCAについては、染料としてズダンIIIを2500ppm加えた。なお、レーザーの波長を変えれば、無色の液体についても熱を吸収させることは可能である。基準温度(20℃)における各供試液体の物性値を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
ここで、密度はボーメの比重計、表面張力は電子天秤を用いたWilhelmyの吊り板法により測定した。表中には、温度Tによる表面張力の変化率(dσ/dT)の測定結果も示してある
【0045】
図5に、各供試液体のSAMs試料板に対する接触角の、振動振幅Aに対する変化を示す。液滴の体積は、1μL(≡1mm3)である。図5(a)〜(c)より、各供試液体とも、振動振幅の増加とともに前進接触角θAは減少し、後退接触角θRはわずかに減少する傾向を示した。その結果、両者の差である接触角履歴は、振動振幅とともに減少した。
【0046】
本実験よりも大振幅で低周波数の振動を与えた場合、前進接触角は減少し、後退接触角が増加して両者の差が小さくなる傾向が示されている。
【0047】
前進・後退接触角の差である接触角履歴の値を図6に示す。接触角履歴(θA−θR)は振幅とともに減少し、しだいに一定の値に漸近する傾向が認められた。超音波振動を与えることで、静止状態における3~4°の接触角履歴は1°程度にまで低減され、結果として式(1)の抵抗を小さくすることができる。
【0048】
表2は、振幅A=3.2μmにおいて、αMSDおよびBCAに対し、液滴体積Vlを変化させたときの接触角の測定結果を示している。体積によらず、ほぼ同程度の接触角履歴の低減効果が認められた。
【0049】
【表2】

【0050】
1μLの液滴の転落角度を振動振幅ごとに測定した結果を図7に示す。図中には、軸対称液滴を対象とした理論値が比較のため示されている。転落角度の理論値は、次式(3)より算出を行った。
【0051】
【数3】

【0052】
ここで、φは壁面の傾斜角度である。軸対称液滴を水平板上に設置後、板を傾けた場合、液滴幅は一定に保たれる。上式において、左辺の液滴幅bに、水平板上の液滴径の測定値を代入してφを算出した。
【0053】
図7より、測定結果は式(3)によりほぼ整理できることがわかる。接触角履歴が小さい結果、接触角の測定誤差に対して式(3)左辺の値が敏感に変化する。理論値と実験値の差は、主に接触角の測定誤差に起因する。
【0054】
図7より、転落角度φは、振動振幅の増加とともに減少する傾向を示す。本実験における最大の振幅を与えた場合、転落角度は静止状態から約15°低減した。本実験で用いた振動子により、1μLの液滴を移動させるのに要する力を約80%低減することができた
【0055】
振動を与えた状態で、レーザー光を液滴の一端に照射した。その結果、あるレーザーの出力以上で液滴はレーザー照射端の方向に移動することが観察された。
【0056】
図8は、時間t(s)により変化する液滴の様子を撮影した連続写真の一例である。レーザーは軸対称液滴の右端に照射されている。初期の図8(a)の状態で、液滴は図5中の各振幅に対する前進接触角θAで接している。図8(a)の照射開始から時間が経過すると、レーザー照射端の接触角が徐々に減少していく。これは、レーザーによる温度上昇により、固液の親和性が変化し、ぬれ性が向上したことによると考えられる。
【0057】
図8(d)の状態になると、照射端の接触角θ1が他端の接触角θ2よりもかなり小さくなり、表面張力の作用によって液滴は右方向へ移動を開始する。すなわち、高温側の表面張力は小さくなるが、接触角の減少が顕著なため、表面張力の壁面接線方向の合力が右方向に作用する結果、液滴は高温側に向かって移動すると考えられる。
【0058】
図8のように液滴が移動する条件において、レーザー照射後の接触角の時間変化を測定した。αMSDに対する測定例を図9に示す。図中の点線は、液滴が移動を開始した時刻を表す。図9(a)、(b)などの異なる条件下においても、接触角は類似な挙動を示した。
【0059】
すなわち、照射位置の接触角θ1は、レーザー照射後急激に減少する。その後、減少の度合いは緩やかになり、一定値に落ち着く傾向を示す。 1秒程度の時間が経過したのち、液滴は移動を開始する。レーザー出力の大きい図9(a)の方が、移動までに要する時間は短い。照射初期の接触線近傍の急加熱により、θ1は急激に減少する。
【0060】
液滴は、最初20℃における前進接触角θAで設置されているため、液滴がθ1の減少により右方向に引っ張られる結果、他端のθ2はθAより減少して、後退接触角θRに近づく。接触角がθRに達するまでの変形のため、液滴が移動を開始するまでに、やや時間を要すると考えられる。
【0061】
液滴が移動できる臨界条件について検討を行った。ここでは、レーザーを1分間照射して、液滴が0.05mm/minの速度以上で移動することが確認できたときを臨界条件と見なした。
【0062】
表3は、種々の振動振幅に対し、1μLの液滴が移動を開始する臨界のレーザー出力を測定した結果を示したものである。振幅の増加により臨界出力の値は減少し、一定値に落ち着く傾向を示した。これは接触角履歴(図6)や液滴が転落する平板の傾斜角度(図7)と同じ傾向であり、振動による移動抵抗の低減効果の結果と考えられる。
【0063】
【表3】

【0064】
図10は、臨界条件において、液滴が移動する瞬間での写真例である。このとき、両端に作用する表面張力は、近似的に次式を満足していると考えられる。
【0065】
【数4】

【0066】
ここで、σ1、σ2は、それぞれレーザー照射側ならびに他端の表面張力を示している。図10の移動開始時において、θ1=48.4°、θ2=52.6°である。式(4)が成立するときの表面張力を見積もると、液滴の両端で約40℃の温度差が存在すると見積もられる。
【0067】
今回の実験における最大振幅A=4.3μmの振動を与えたとき、各レーザー出力における液滴の移動速度を測定した結果を図11に示す。出力に対し、移動速度は直線的に増加する。本実験条件下では、最大で0.6mm/sの移動速度を得ることができた
【0068】
以上、超音波振動子により壁面に高周波(28kHz)の振動を与え、液滴と固体面との接触角履歴の大きさを低減した上で、液滴をレーザー照射により移動させる手法について実験を行った。
【0069】
本実験によれば、接触角履歴の小さいSAMs板に超音波振動を与えたところ、3種類の液体ともに接触角履歴が数°減少する効果が認められた。本実験における最大振幅4.3μmのとき、1μLの液滴の転落角度は約15°減少し、液滴が移動するときの抵抗を約80%低減できた。
【0070】
超音波振動を与えた状態でレーザーを照射したところ、照射端の接触角が加熱により顕著に減少する現象が認められた。その結果、液滴に作用する表面張力の合力が現れ、液滴はレーザー照射端の方向に移動することが観察された。本実験範囲では、液滴を最大0.6mm/sの速度で移動させることができた。
【符号の説明】
【0071】
100 液滴移動装置
101 試料平板
101A SAMS膜
102 超音波振動子
103 レーザー
A 液滴




【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体面上に付着濡れした液滴を移動させる液滴移動装置であって、
液滴が接触する固体表面と、
液滴と固体表面のぬれ性を向上させる、液滴の一部を非接触で局所的に加熱する加熱手段
を備える液滴移動装置。
【請求項2】
上記加熱手段が、固体表面の一部非接触で局所的に加熱する請求項1に記載の液滴移動装置。
【請求項3】
上記加熱手段が、レーザー光を照射するレーザー照射手段である請求項1乃至2に記載の液滴移動装置。
【請求項4】
上記固体表面を振動させる振動手段を備える請求項1から3の何れかに記載の液滴移動装置。
【請求項5】
上記振動手段が、固体表面を超音波振動させる請求項1から4の何れかに記載の液滴移動装置。
【請求項6】
上記固体表面が、自己組織化単分子膜で形成されている請求項1から5の何れかに記載の液滴移動装置。
【請求項7】
固体面上の液滴を移動させる液滴移動方法であって、
液滴が所望の方向に移動するように、液滴の一部を非接触で加熱して、液滴と該液滴が接触する固体表面との接触角を局所的に減少させ、加熱した液滴の一部のぬれ性を増大させる液滴移動方法。
【請求項8】
固体表面の一部を非接触で加熱して、液滴と該液滴が接触する固体表面との接触角を局所的に減少させ、固体表面と液滴のぬれ性を増大させる請求項7記載の液滴移動方法。
【請求項9】
上記固体表面を超音波振動させることを特徴とする請求項7乃至8記載の液滴移動方法



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図3】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−32258(P2012−32258A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171456(P2010−171456)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔研究集会名〕 日本混相流学会 年会講演会2010 〔主催者名〕 日本混相流学会 〔開催日〕 平成22年7月17日から19日
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)