説明

液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物

式(1)で表されるtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物および、該無水物を含有する常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物とその製造方法を提供する。この常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および/または1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を180〜300℃で加熱溶融することにより得られ、常温で液状であることから、取り扱いが容易であり、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材用樹脂、硬化剤、ポリイミド樹脂などの原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等の用途に工業的に有利に用いることができる。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構造の化合物を含有する常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物に関するものである。該液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物は、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材用樹脂、硬化剤、ポリイミド樹脂などの原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、高輝度の青色LEDや白色LEDが開発され、掲示板、フルカラーディスプレーや携帯電話のバックライト等にその用途を広げている。従来、LED等の光電変換素子の封止材料には、無色透明性に優れることからエポキシ基含有化合物と酸無水物硬化剤からなる熱硬化性樹脂組成物が使用されている。かかる光電変換素子に用いられるエポキシ基含有化合物の硬化剤として、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式酸無水物が一般的に使用されており、中でも常温で液状であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が取り扱いの容易さから主に使用されている。
【0003】
従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法としては、トリメリット酸を極性溶媒中、表面積940m2/g以上の活性炭に担持したロジウム触媒を用いて分子状水素によって水素化した後、テトラヒドロフランおよび/またはアセトニトリルを溶媒として用いて再結晶して得たcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水酢酸等の無水化試薬を用いて無水化する方法(特許文献1)および、トリメリット酸アルキルエステルを貴金属系水素化触媒および脂肪族アルコール存在下に加熱して核水素化して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸アルキルエステルをスルホランおよび/またはジメチルスルホキシド溶媒中で加水分解して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を脱水閉環する方法(特許文献2)が開示されているが、何れも得られたシクロヘキサントリカルボン酸無水物は固体状である。
【0004】
従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、このように固体状であるため取り扱い難く、溶媒に溶解して用いられることが多いが、操作が煩雑であり、乾燥工程が必要となり、そのために環境にも悪影響を及ぼすことがある。
シクロヘキサントリカルボン酸無水物は無色透明性などに優れることから光半導体の封止材用樹脂などの各種用途へ使用が期待されるが、従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は固体状であるために取り扱い難く、その用途が限定されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5412108号明細書
【特許文献2】特開平8−325196号公報
【発明の開示】
【0006】
本発明の目的は、取り扱いが容易な液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シクロヘキサントリカルボン酸および/またはシクロヘキサントリカルボン酸無水物を加熱溶融することにより、新規な構造を有するシクロヘキサントリカルボン酸無水物を含有する常温で液状の無水物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の新規な構造を有するシクロヘキサントリカルボン酸無水物、および常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物とその製造方法を提供するものである。
(1) 式(1)で表されることを特徴とするtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物。
【0008】
【化1】

【0009】
(2) (1)のtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有することを特徴とする常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物。
(3) 色価(ハーゼン)が100以下である(2)の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物。
(4) 1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および/または1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を180〜300℃で加熱溶融する工程を有することにより(2)のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を製造することを特徴とする常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法。
(5) 加熱溶融工程の後に、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を蒸留精製する工程を有する(4)の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の原料としては、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および/または固体状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が用いられる。
1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の製造方法としては、ベンゼントリカルボン酸を直接水素化する方法、ベンゼントリカルボン酸エステルを水素化する方法、ベンゼントリカルボン酸アルカリ金属塩を水素化する方法等があるが、何れの方法で得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸でも本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の原料として使用することができる。
【0011】
また、本発明において原料となる固体状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を、無水酢酸等の無水化剤を使用して無水化する方法で製造される。
なお、無水酢酸等の無水化試薬を用いて製造される1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、特許文献1に記載されているように、次式(2)で表される融点(mp)154〜156℃の固体状のcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物である。
【0012】
【化2】

【0013】
本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、前記原料、例えば1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を加熱溶融させる工程を含む製造方法により製造することができる。前記原料を加熱溶融することにより、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を原料とした場合には無水化および異性化が起こり、また、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を原料とした場合には異性化が進行し、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の異性体混合物が得られる。
【0014】
加熱溶融時の圧力は大気圧、減圧、加圧のいずれの条件でもよいが、無水化により生じる生成水の除去の容易さから大気圧または減圧が好ましい。また、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で加熱溶融することが好ましく、生成水除去の容易さの観点から不活性ガスを流通させることが好ましい。
加熱溶融時の温度は、原料のシクロヘキサントリカルボン酸および/またはシクロヘキサントリカルボン酸無水物が溶融する温度であればよいが、低温では無水化反応および異性化反応の速度が小さく、高温では脱炭酸反応等の副反応が生成しやすくなることから、180℃から300℃で加熱溶融が行われ、好ましくは190℃から280℃である。
加熱溶融時間は温度により異なるが、生産効率の面から24時間以内が好ましく、0.1〜10時間が更に好ましい。
加熱溶融方法は、回分式、連続式の何れでもよい。加熱溶融時の温度や加熱溶融時間を変えることにより、任意の粘度を有する常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を製造することができる。
【0015】
また、本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を製造する際に、前述の加熱溶融工程以降に、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を蒸留精製する工程を設けることにより、より色価が良好な、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を得ることができる。この時の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の色価(ハーゼン)は100以下、好ましくは50以下である。この色価(ハーゼン)は、分光色彩計などにより測定することができる。
蒸留方式は回分式、連続式のいずれでも良いが、目的物の分解および高沸成分の生成を抑制する為、熱履歴が少ない方法が好ましい。また、単蒸留で良いが、段数を付けても構わない。
蒸留圧力は15mmHg(2kPa)以下が好ましく、10mmHg(1.3kPa)以下が更に好ましい。前記圧力とすることにより目的物の分解および高沸成分の生成を抑制することができる。
【0016】
前記のように加熱溶融することによりシクロヘキサントリカルボン酸無水物の異性体混合物が得られ、この異性体混合物は、本発明の前記(1)式で表されるtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物と、特許文献1に記載された前記(2)式で表されるcis, cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物との混合物とからなるものである。
本発明のtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、後述の実施例に示すように、HPLCにより分取することができ、NMR解析により立体構造を同定することができる。
【0017】
本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物中のtrans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の割合は、1〜100質量%、好ましくは5〜95質量%である。
尚、trans, trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、上記混合物からカラム吸着、蒸留、抽出等の精製法により分離することができる。
【0018】
本発明のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、常温で液状であることから、各種用途に工業的に有利に用いることができる。また、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を硬化剤として使用すると硬化促進剤を使用しなくてもエポキシ樹脂の硬化が可能であり、工業的に有用である。また、本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、蒸留により色価が良好なものに精製可能であり、光学用途として有用である。
すなわち、本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、LED、半導体レーザー等の発光素子、光導電素子、ホトダイオード、太陽電池、ホトトランジスタ、ホトサイリスタ等の受光素子、ホトカプラー、ホトインタラプター等の光結合素子で代表される光電変換素子の絶縁封止材料、液晶等の接着剤、光造形用の樹脂、更にプラスティック、ガラス、金属等の表面コーティング剤、装飾材料等の透明性を要求される用途にも用いることができる。
【0019】
さらに本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)装置等を構成するカラーフィルターの保護膜用塗工液等に好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物の硬化剤としても用いることができる。
【0020】
本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を用いた熱硬化性樹脂組成物は、ポッティング、注型、フィラメントワインディング、積層等の従来公知の方法で2mm以上の厚みの絶縁封止や成型物にも適用可能である。具体的には、モールド変圧器、モールド変成器(変流器(CT)、零層変流器(ZCT)、計器用変圧器(PT)、設置型計器用変成器(ZPT))、ガス開閉部品(絶縁スペーサ、支持碍子、操作ロッド、密閉端子、ブッシング、絶縁柱等)、固体絶縁開閉器部品、架空配電線自動化機器部品(回転碍子、電圧検出要素、総合コンデンサ等)、地中配電線機器部品(モールドジスコン、電源変圧器等)、電力用コンデンサ、樹脂碍子、リニアモーターカー用コイル等の重電関係の絶縁封止材、各種回転機器用コイルの含浸ワニス(発電器、モーター等)等にも用いることができる。また、フライバックトランス、イグニッションコイル、ACコンデンサ等のポッティング樹脂、LED、ディテクター、エミッター、ホトカプラー等の透明封止樹脂、フィルムコンデンサー、各種コイルの含浸樹脂等の弱電分野で使用される絶縁封止樹脂にも用いることができる。
【0021】
本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、その他、積層板や絶縁性が必ずしも必要でない用途として、各種FRP成型品、各種コーティング材料、接着剤、装飾材料等に使用される熱硬化性樹脂組成物の硬化剤、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等の原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等に用いることができる。
【0022】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
尚、本実施例等ではHPLCおよびNMRを使用して生成物の分析、分取および同定を行った。測定条件は以下の通りである。
【0023】
(1)HPLC分析
装置 :agilent製 HP1100(B)
カラム :YMC−Pack CN 120Å S−5μm
4.6mm×150mm
移動相:ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=90/10
カラム温度:40℃
流量 :1.0ml/min
試料溶液 :約7000ppmアセトニトリル溶液
注入量 :5μl
【0024】
(2)HPLC分取
装置 :島津製 LC−6A
カラム :CAPCELL PAK CN 120Å 5μm
20mm×250mm
移動相 :ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=95/5
カラム温度:室温
流量 :10ml/min
試料溶液 :8mg/mlアセトニトリル溶液
注入量 :1ml
分取領域 :カット1:Rt=17分〜19分
カット2:Rt=19分30秒〜24分
(Rtはリテンションタイムを示す)
【0025】
(3)NMR測定
2次元NMR解析により平面構造を決定し、デカップリング法(「有機化合物のスペクトルによる同定法 R.M.silverstein B.C.Bassler 東京化学同人」参照)でプロトン間の結合定数(J値)を決定することによって、アクシャルとエクアトリアルプロトンを決定し立体構造を推定した。
装置 :日本電子製 JNM−ALPHA−400 (400MHz)
溶媒 :カット1:重アセトン、重DMSO(デカップリング1H−NMR)
カット2:重アセトン
プローブ :TH5 (5mmφ)
手法:1次元NMR:1H−NMR、13C−NMR、DEPT135、デカップリング1H−NMR
2次元NMR:HHCOSY、HMQC、HMBC、NOESY
【0026】
〔実施例1〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸100部を仕込み、窒素ガス流通下250℃で3時間加熱溶融を行い、淡黄色透明液状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を得た。原料の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸基準の無水化率は95%、得られた液状1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の60℃における粘度は14.6Pa・sであった。
得られた液状無水物についてHPLC分析を行ったところ、2つのピーク(Rt=7.5分、及び8.7分)が検出された。次いで、該液状無水物についてHPLC分取を行い、前記2つのピークに相当するカット1とカット2を得た。それぞれについてNMR測定を行った結果、カット1は式(3)に示される平面構造を有し、次式(1)に示されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であると同定され(表1、2参照)、カット2は式(4)に示される平面構造を有し、次式(2)に示されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であると同定された(表3、4参照)。
尚、前記液状無水物中のtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は63.2質量%、cis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は36.8質量%であった。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
〔実施例2〕
実施例1で得られた淡黄色透明液状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物100部を10mmHg(1.3kPa)で減圧蒸留し、無水化率99.8%の無色透明液状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物89部を得た。得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の色価(ハーゼン)を分光色彩計JUKI JP−7100Fにより測定したところ、45であった。
【0036】
〔比較例1〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸100部、無水酢酸67部、氷酢酸333部を仕込み、窒素ガス流通下120℃で1時間加熱攪拌して無水化した。25℃まで冷却後、析出した結晶を濾別し、窒素ガス流通下乾燥して白色固体の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が得られた。
得られた固体状無水物についてHPLC分析を行ったところ、1つのピーク(Rt=8.7分)が検出された。次いで、該固体状無水物についてNMR測定を行った結果、上記の式(2)に示されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であると同定された。尚、上記の式(1)に示されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は検出されなかった。
【0037】
〔実施例3〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、比較例1で得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物(白色固体)100部を仕込み、窒素ガス流通下250℃で3時間加熱溶融を行い、淡黄色透明液状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を得た。原料のシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸基準の無水化率は99.7%、得られた液状1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の60℃における粘度は14.9Pa・sであった。得られた液状無水物の組成は式(1)に示されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が62.5質量%、式(2)に示されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が37.5質量%であった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の方法により、従来のシクロヘキサントリカルボン酸又はその無水物から、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を容易に製造することができ、液状で取り扱いが容易なことから、該液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物は種々の用途に工業的に有利に用いることができる。
【0039】
すなわち、本発明の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材用樹脂、あるいは液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)装置等を構成するカラーフィルターの保護膜用塗工液等に好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物の硬化剤、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等の原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されることを特徴とするtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載のtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有することを特徴とする常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物。
【請求項3】
色価(ハーゼン)が100以下である請求項2に記載の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物。
【請求項4】
1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸および/または1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を180〜300℃で加熱溶融する工程を有することにより請求項2に記載のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を製造することを特徴とする常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法。
【請求項5】
加熱溶融工程の後に、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を蒸留精製する工程を有する請求項4に記載の常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法。


【国際公開番号】WO2005/049597
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515651(P2005−515651)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017231
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】