説明

液状化時の地盤流動対策を考慮した改良地盤構造

【課題】地盤の流動化に対してより合理的な構造を有する改良地盤の提供。
【解決手段】地盤の予想される流動方向に対向すべき壁体の左右部に平面断面で見て90度を越える角度の傾斜を配して改良地盤を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震による液状化現象の起き易い地盤を改良するための改良地盤構造に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には砂質系地盤においては地震の際、地盤の液状化現象が生ずることがよく知られている。そしてこのような地盤が臨海部の水際線付近や緩やかな斜面にあった場合には、このような液状化に伴う地盤の流動化が発生することも知られている。
【0003】
例えば地盤の液状化時には、図6に示すように斜面においては(a)で示すような流動が、側方開放面においては(b)で示すような変位(それぞれ樹木の移動で示している)が生じる。
【0004】
実際、兵庫県南部地震では、地盤の流動化に伴って橋脚基礎などに残留変位が生じており、各種指針では、この現象に対する対策が必要であるとされている。例として、日本道路協会による道路橋示方書V耐震設計編H14.3では、水際線から一定の範囲にある基礎構造物については、図7のような流動によって発生する外力を考慮した設計をすることを義務づけている。
【非特許文献1】道路橋示方書V耐震設計編 日本道路協会 平成14年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地盤の液状化に対処するための改良地盤は、従来より種々提案されている。1例として本出願人らによる改良地盤工法(TOFT工法)を挙げると(特開昭59−96320号公報:特許第2568115号参照)、図8の5に示すように平面断面を格子状となした壁体において、格子の幅を壁体の高さの0.5〜0.8倍としたものを改良地盤となし、これによって地震時の液状化地盤のせん断変形を拘束し過剰間隙水圧の発生を防止すること、及びその結果、構造物を保護し、大変形を防止し、同時に構造物の荷重を改良体を介して下部の非液状化地盤に伝達し、安定的に支持するようにしている。
【特許文献1】特開昭59−96320号公報
【0006】
このような改良地盤では、液状化の対処のみならず、前述のような液状化地盤の流動時にも対処するためには、平面断面で見て図9に示すような大きさに設計される。図9において、1は構造物(の基礎)、2は液状化に対処する範囲、3は地盤の流動をフルに考慮した改良構図である。すなわち、左側の矢印で示される流動力の作用を、平面断面格子状の構造物の一側壁で受け、それを底面の摩擦力(底部の非液状化層への載置、または根入れ等による)で対抗させるために、流動力の作用方向に特に長く設計されている。
【0007】
この理由は、流動対策を設計する場合に想定する外力として、主働土圧、受働土圧、静水圧、残留水圧、地震時慣性力などの固体力学的要素に加えて、地盤が液状化によって流体として挙動することを考慮して動水圧が考慮されるからである(例えば、「液状化対策工法設計・施工マニュアル(案)」参照)。
従って、TOFT工法によって地盤流動対策を実施する場合、改良体に作用する外力のうち、完全に液状化した地盤の状態を流体とみなしており、その流動による動水圧成分が付加されるため、一般的にはそれに抵抗するため、底面の摩擦抵抗等を確保するために改良体の幅が大きくなり不経済な断面となる。
これは、改良体の壁面に作用する動水圧を100%作用させる現行設計法に基づくものであり、作用する動水圧を計測した事例や実験データもないことによって、このような安全側の設計にならざるを得ないためである。
しかしながら、動水圧は流体力学的な挙動によって生じる圧力であり、これまでの構造物の設計で考慮されてきた固体力学に基づく外力とは異なる種類の圧力であるが、従来はこの点が考慮されていない。
【非特許文献2】液状化対策工法設計・施工マニュアル(案)
【0008】
また、地盤が完全液状化状態にあり、流体として振る舞う時間は有限であり、地震後の数十分間に間隙水圧の消散によって地盤は段階的に固体の状態に戻り、動水圧から土水圧へと漸減していくが、現行設計ではこれらの挙動については全く考慮されていない。
これまでの研究によれば、液状化層厚5m、地盤密度を示す初期の間隙比が0.75の地盤が完全に液状化した場合の流体的挙動の継続時間は約60秒であり、その時間内に液状化層下端から直線的に流動挙動が終息して固体に戻る(すなわち、液状化層下端では地震直後に固体に戻り、固体化する層厚は地表面に向けて時間にほぼ比例して増えることになる)。
現行設計ではこの現象についても全く考慮されておらず、液状化層厚全てに対して100%の動水圧を作用させている。
液状化に伴う地盤流動化に対する他の対策工法も、上記のようなTOFT工法と同様、多かれ少なかれ不経済な仕様となっている。
【0009】
本発明は以上の従来例の問題点に鑑み、地盤流動対策として合理的で経済的な地盤改良仕様とその設計法を示すことを目的とする。このためには、流体として作用する動水圧を100%作用させることによる不合理性を解決し、流体特性を考慮した形状により動水圧を緩和させ、合理的な設計が可能となる形状を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、地盤の予想される流動方向に対向すべき壁体の左右部に平面断面で見て90度を越える角度の傾斜を配したことを特徴とする底部の滑動抵抗で地盤の流動力に対抗する改良地盤が提供される。
これによって、改良地盤は合理的な平面断面を持って地盤の流動に対抗できることになる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、前記の角度は135度以下であることを特徴とする改良地盤が提供される。
これによって、改良地盤は液状化に対処すべき断面積が損なわれることがない。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、過剰間隙水圧の時間的挙動に対応すべく、高さ方向に前記傾斜する部分の長さを大きくすることを特徴とする改良地盤が提供される。
これによって、改良地盤は高さ方向には過剰間隙水圧の時間的挙動に整合した構造となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
動水圧の低減についての検討
静止している固体壁に及ぼす動水圧は、次の式で示される(「水理学」、コロナ社発行 第286頁)
【数1】

ここにP:動水圧
ρ:流体の密度
Q:流量
υ:流速
θ:動作水圧(線)の上流方向と固体壁がなす角度
ここで、今までは図9に示したように動水を直角(θ=90度)な壁部で対抗させる設計がなされているが、この式から固体壁の角度を90度を越えて180度の範囲とすると、このような固体壁に作用する動水圧は、直角な固体壁に作用する動水圧に比べて低減されていくことが明らかである。
したがって、例えば図1に示すように、改良地盤の動水圧側の壁を平面視で135度(動水圧の仮想の延長線からすると45度)とすると、仮に流動化した土砂の流れを完全に流体であるとすると、動水圧の低減は、従来のように直角の壁によって対抗する場合に比べて動水圧は約3割低減され、改良地盤構造は材料の無駄の少ない構造となることが明らかである。
【非特許文献3】永井壮七郎著「水理学」コロナ社発行
【0014】
先述のように、平面断面での動水圧側の傾斜角度は90度を越え180度に近づく程動水圧を低減できるが、一方では液状化を防止する領域の平面的範囲の確保の点からは、平面的傾斜角度はできるだけ小さい方がよい。したがって、90度を越え135度以下の範囲が合理的範囲であると考えられる。
また、想定する流動方向が複数ある場合は、図2に示すように平面断面での傾斜部を複数設置することで動水圧の軽減を図ることも可能である。
【0015】
また、図3に示すように、構造物に必要な改良範囲が動水圧に対する改良範囲より大きい場合も考えられるが(構造物1に必要な改良範囲を点線2で示している)、この場合、従来、平面視矩形とされていた改良地盤の動水圧側の両側コーナー部のみに、例えば135度の角度を与えることにより、動水圧的にもまた改良範囲から見ても合理的で材料に無駄のない構造が得られることになる。
【0016】
過剰間隙水圧の時間的経緯の考慮
液状化した地盤は、過剰間隙水圧の消散に伴って、流体から漸次固体へと変体していくが、この過程は液状化層下端から進行するため、流体的挙動を示す層は漸次表層方向に向けて薄くなるため、上記のような平面断面における傾斜部は改良深さ全域に亘って一様とする必然性はないと考えられる。例えば、流動的な挙動をする時間が短い、液状化層下部では動水圧の作用時間も短いことを考えると、平面断面における傾斜部は大きくなくてもよいであろう。
これらから、前述の改良地盤の平面視で動水圧に対処するための傾斜の切り欠きは、図4または図5に示すように流体的挙動をする時間が長い液状化層上面に向けて段階的に大きくしていく設計としたり、あるいは傾斜角度そのものを液状化層上面に向けて大きくすることも考えられる。
いずれにしろこのような考え方は、深い部分のおいては滑動抵抗を大きくするため接地面が大きいことが望ましいTOFT工法に対してより合理的であって、安全性に問題のない構造を与えるものと考えられる。
【非特許文献4】第26回地震工学研究発表講演論文集「液状化した地盤内の粒子挙動」(2001年8月)
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による改良地盤の一実施例の平面断面である。
【図2】本発明による改良地盤の別の実施例の平面断面である。
【図3】本発明による改良地盤の別の実施例の平面断面である。
【図4】本発明による改良地盤の別の実施例の斜視図である。
【図5】本発明による改良地盤の別の実施例の斜視図である。
【図6】液状化による地盤の流動を示す図である。
【図7】液状化層の流動に対処すべきことを示す図である。
【図8】TOFT工法における改良地盤である。
【図9】従来例の改良地盤の設計を示す平面断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の予想される流動方向に対向すべき壁体の左右部に平面断面で見て90度を越える角度の傾斜を配したことを特徴とする底部の滑動抵抗で地盤の流動力に対抗する改良地盤。
【請求項2】
角度は135度以下であることを特徴とする請求項1記載の改良地盤。
【請求項3】
過剰間隙水圧の時間的挙動に対応すべく、高さ方向に前記傾斜する部分の長さを大きくすることを特徴とする請求項1記載の改良地盤。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−255113(P2007−255113A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82657(P2006−82657)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)