説明

混合ガス生成装置

【課題】本発明は、混合ガス生成装置に関し、COを含んだ電解液の電気分解によってFT反応の原料となる混合ガスを大量生成する場合において、その装置の大型化に伴う生成効率の低下を抑制可能な混合ガス生成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】実施の形態3においては、混合槽20内の電解液中のHO濃度を低めに設定した上で、アノード34b等で必要となるHOを適宜添加している。図9に示すように、アノード34aとアノード34bとの間からHOを添加すれば、アノード34bの上流側において、一時的にHO濃度が上昇する。このように、アノード34bの上流側から必要量のHOを添加すれば、カソード32b等における混合ガスの生成量を確保しつつ、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、混合ガス生成装置に関する。より詳細には、COとHOとをそれぞれ電解還元してCOとHとを含む混合ガスを生成する混合ガス生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油、石炭、天然ガスといった化石燃料は、熱、電気の生成の原料や、運輸燃料として使用され、現代のエネルギー消費社会を支えている。しかし、このような化石燃料は使い切り燃料であり、その埋蔵量には限りがある。そのため、化石燃料が枯渇した場合の備えが必要であることは言うまでもない。また、化石燃料の燃焼によるCOの大気中への放出は、地球温暖化の一要因となることが知られている。そのため、COの排出量を低減することが、近年の課題となっている。
【0003】
これらの課題を解決する一つの手段として、COを原料とした代替燃料が検討されており、その製造装置や製法に関し各種の提案がなされているところである。例えば、特許文献1には、COの電気分解によって上記代替燃料を生成するCO電解装置が開示されている。このCO電解装置は、具体的に、電解液を蓄えるカソード室の隣に、カソード電極としてのCNT膜と透過室とをこの順に配置し、カソード室の電解液にCOガスをバブリングして吸収(溶解)させながら電気分解するものである。このCO電解装置によれば、CNT膜でガス状の電解生成物(COガスやHガス)や、液体状の電解生成物(エタノールなど)を生成し、尚且つ、CNT膜の機能によって液体状の電解生成を透過室側に分離できる。ガス状の電解生成物は、カソード室の上方から系外に排出される。
【0004】
また、特許文献3には、電気化学的セルを用いた電気分解によって、COガスと水蒸気とからCOガスとHガスとを生成し、これらの生成ガスを副生成物と分離した上でフィッシャー・トロプシュ反応(FT反応)して上記代替燃料としての炭化水素系燃料(HC)を合成するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−255018号公報
【特許文献2】特開2003−089892号公報
【特許文献3】特表2009−506213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のCO電解装置や、特許文献3の電気化学的セルの大型化は、FT反応を利用したHCの合成において、その原料となる混合ガス(つまり、COガスとHガス)の大量生産を図るための方策のひとつであるといえる。しかしながら、これら特許文献1のCO電解装置や特許文献3の電気化学的セルは、何れも、カソード室とアノード室とを仕切るためにイオン交換膜を用いている。そのため、その大型化には、このイオン交換膜の大型化が不可欠であり、故にコスト増加に繋がり兼ねない。
【0007】
仮に、イオン交換膜を用いずに特許文献1のCO電解装置を構成すれば、上述したコストの問題を解消できる。しかしながら、このCO電解装置は、COガスを吸収させた電解液を用いている。そのため、イオン交換膜を用いない場合であっても、その装置の大型化は、電気分解中のCOガスの揮散を助長し、混合ガスの生成効率の低下や新たなコスト増加を招来し兼ねない。
【0008】
この発明は、上述のような課題の少なくとも一つを解決するためになされたものである。即ち、COを含んだ電解液の電気分解によってFT反応の原料となる混合ガスを大量生成する場合において、その装置の大型化に伴うコストの増加や、生成効率の低下を抑制可能な混合ガス生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、COとHOとをそれぞれ電解還元してCOとHとを含む混合ガスを生成する混合ガス生成装置であって、
COとHOとを含む電解液が流れる電解液流路と、
電解液の流れ方向に沿って前記電解液流路を複数の電解領域に分割するように配置された複数の電極対と、
前記複数の電極対のそれぞれに電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記複数の電解領域のうち、前記電解液流路の上流側の電解領域においてはCOを優先的に生成し、前記電解液流路の下流側の電解領域においてはHを優先的に生成するように前記電圧印加手段を制御する印加電圧制御手段を更に備えることを特徴とする。
【0011】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
電解液中のCO濃度を前記上流側の電解領域毎に取得するCO濃度取得手段と、
CO生成に必要なHOを前記上流側の電解領域毎に供給するCO用HO供給手段と、
CO濃度を取得した電解領域に対して前記CO用HO供給手段から供給するHO量を、その電解領域の電解液中のCO濃度に応じて制御するCO用HO量制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れか1つにおいて、
前記上流側の電解領域におけるCOガス生成量を取得するCOガス生成量取得手段と、 H生成に必要なHOを前記下流側の電解領域に供給するH用HO供給手段と、
前記COガス生成量を用いて、前記H用HO供給手段から供給するHO量を制御するH用HO量制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、第5の発明は、第4の発明において、
前記H用HO供給手段から供給するHO量は、前記COガス生成量から求められるHO要求量と、前記上流側の電解領域における電解液中のHO量の履歴とを用いて算出されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、電解液流路を複数の電解領域に分割するように複数の電極対を配置し、電圧印加手段によりこれら複数の電極対のそれぞれに電圧を印加することができる。そのため、電解液を電解液流路に流しながらCOとHOとをそれぞれ電解還元してCOとHとを含む混合ガスを生成できる。そのため、例えば電解液流路を長く設計して多数の電極対を配置すれば、混合ガスを大量生成することが可能となる。また、電解液流路の設計や多数の電極対の配置は、上記特許文献1や3のイオン交換膜の大型化に比して低コストで実現できる。従って、混合ガスの大量生成を低コストで実現できる。
【0015】
第2の発明によれば、印加電圧制御手段によって、電解液流路の上流側の電解領域においてはCOを優先的に生成し、電解液流路の下流側の電解領域においてはHを優先的に生成するように電圧印加手段を制御できる。そのため、電解液中のCO濃度が高い上流側において、優先的にCOを生成できる。従って、CO濃度の低下に伴う混合ガスの生成効率の低下を未然に防止できる。
【0016】
CO吸収特性を有する有機溶媒やイオン液体を電解液として用いる場合、電解液とHOとが相互作用することでCOが電解液から脱離し、電解液中のCO濃度が低下するという問題がある。この点、第3の発明によれば、CO用HO制御手段によって、CO濃度を取得した電解領域に対してCO用HO供給手段から供給するHO量を、その電解領域の電解液中のCO濃度に応じて制御できる。つまり、CO用HO制御手段によって、CO生成に必要なHOをその電解領域毎に供給することができる。従って、各電解領域における混合ガスの生成量を確保しつつ、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。
【0017】
第4の発明によれば、H用HO量制御手段によって、上流側の電解領域におけるCOガス生成量を用いて、H用HO供給手段から供給するHO量を制御できる。従って、下流側の電解領域において生成させるHガスの生成量を制御でき、混合ガス中のCOガスとHガスの比率を制御できる。また、第5の発明によれば、上記H用HO供給手段から供給するHO量を、COガス生成量から求められるHO要求量と、上流側の電解領域における電解液中のHO量の履歴とを用いて算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の各実施の形態の混合ガス生成装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の電解器10の平面図である。
【図3】図2のA−A´断面図である。
【図4】カソードとアノードの間の印加電圧を変えた場合に、カソードで一定時間内に生成するCO、Hの割合(物質量比)の変化を示した図である。
【図5】電解器10における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。
【図6】実施の形態2の電解器50の平面図である。
【図7】電解器50における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。
【図8】実施の形態3の電解器70の平面図である。
【図9】電解器70における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。
【図10】実施の形態4の電解器80の平面図である。
【図11】電解器80における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
[混合ガス生成装置の説明]
先ず、図1乃至図4を参照しながら、本発明の実施の形態1について説明する。本実施形態の混合ガス生成装置は、FT反応に必要なHとCOとを含む混合ガスを生成する装置であり、図1はその概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態の混合ガス生成装置は、電解器10を備えている。電解器10は、Hガス、COガスおよびOガスを同時に生成する電気分解装置であり、その装置内温度を所定範囲内に制御する温度制御装置(図示しない)を備えている。電解器10の詳細な構成は、図2および3の説明の際に説明する。
【0020】
電解器10の上流側には、CO吸収特性を有する有機溶媒を内部に貯留する電解液貯留槽12が設けられている。この有機溶媒は、本実施形態において電解液として機能するものであり、以下の説明においては電解液ともいうものとする。また、電解器10の上流側には、純水を内部に貯留する純水槽14が設けられている。電解液貯留槽12および純水槽14は、送液ポンプ16,18を介して混合槽20と接続されている。電解液貯留槽12内の電解液は送液ポンプ16によって混合槽20に送られる。純水槽14内の純水は送液ポンプ18によって混合槽20に送られ、混合槽20内の電解液に混合される。
【0021】
混合槽20は、内部にCOを貯留するCOボンベ22とCO導入経路24を介して接続されている。COボンベ22内のCOは、CO導入経路24を経由して常時混合槽20に導入され、これにより、混合槽20内の電解液のCO濃度は設定濃度(例えば、CO飽和濃度)に保たれている。一方、電解器10の下流側には、電解液を貯留するための電解液貯留槽28が設けられている。本実施形態の混合ガス生成装置は、混合槽20から電解液貯留槽28に向かって電解液を送液しながら電気分解を行うフロー系の電解システムであり、電解液貯留槽28には、電気分解後の使用済み電解液が貯留される。なお、電解液貯留槽28の下流側に電解液貯留槽12や純水槽14を接続して、本電解システム内に電解液を循環させることも可能である。
【0022】
[電解器の説明]
次に、図2および図3を参照しながら、電解器10の詳細な構成について説明する。図2は、図1の電解器10の平面図である。図2に示すように、電解器10は、電解液が流通可能に構成された電解槽30を備えている。電解槽30は、カソード32a〜32cと、アノード34a〜34cと、ガス取り出し口36a〜36cおよび38a〜38cと、仕切り板40とを備えている。
【0023】
カソード32aとアノード34aとは一対の電極を構成する。同様に、カソード32b,32cは、それぞれアノード34b,34cと一対の電極を構成する。このように3つの電極対を設けることで、電解液の流れ方向に沿って電解槽30を3つの電解領域に分割することができる。なお、図2においては電極対を3つ示しているが、この電極対の数は2つ以上であればよく、電極対の数に応じて上記電解領域の数を変更できるものとする。また、以下の説明においては、カソード32a〜32cやアノード34a〜34cをカソード32やアノード34と総称する場合があるものとする。
【0024】
カソード32は、電気分解時にCOを選択的にCOに還元するCO還元触媒と、電極本体とから構成されている。電極本体は、電気分解時にCO還元触媒での反応を阻害しない金属から構成される。CO還元触媒は、電極本体の表面の少なくとも一部にコーティングされている。CO還元触媒のコーティングは、例えばCO還元触媒が金属系触媒であればめっき法により、CO還元触媒が高分子系触媒であれば電極本体の表面に塗布したモノマーを重合することにより行われる。アノード34は、電気分解時に電解液に溶解しない金属(例えばPt)から構成されている。
【0025】
カソード32とアノード34との間に電圧を印加すると、各電極において下記式(1)〜(3)の電気化学反応が起こる。
カソード32:CO+2H+2e→CO+HO ・・・(1)
2H+2e→H ・・・(2)
アノード34:2HO→O+4H+4e ・・・(3)
【0026】
上記式(1)の反応は、カソード32上のCO還元触媒が電解液に接する箇所において起こる。また、上記式(2)の反応は、カソード32の本体部分が電解液に接する箇所において起こる。また、上記式(3)の反応は、アノード34が純水に接する箇所において起こる。
【0027】
ガス取り出し口36aは、カソード32aにおいて生成したCOおよびHを回収するためのものであり、電解槽30の上面に設けられている。同様に、ガス取り出し口36b,36cは、それぞれカソード32b,32cにおいて生成したCOおよびHを回収するために設けられている。ガス取り出し口36a〜36cは、混合ガス貯留タンク(図示しない)接続されている。また、ガス取り出し口36a〜36c付近には、CO濃度を検出するCO濃度センサ42a〜42cがそれぞれ取り付けられている。
【0028】
ガス取り出し口38aは、アノード34aにおいて生成したOを回収するためのものであり、電解槽30の上面に設けられている。同様に、ガス取り出し口38b,38cは、それぞれアノード34b,34cにおいて生成したOを回収するために設けられている。なお、以下の説明においては、ガス取り出し口36a〜36c、38a〜38cやCO濃度センサ42a〜42cをガス取り出し口36、38やCO濃度センサ42と総称する場合があるものとする。
【0029】
仕切り板40は、電解槽30の上面から下面に向けて垂直に設けられている。図3は、図2のA−A´断面図である。図3に示すように、仕切り板40は、電解槽30の上面から下面に向けて垂直に形成され、その上部空間を2分割している。このような仕切り板40を設けることで、カソード32とアノード34との間での電解液の移動性を確保しつつ、カソード32において生成したCOガスおよびHガスが、アノード34において生成したOガスと混合するのを防止している。
【0030】
[実施の形態1の特徴]
ところで、HとCOのモル比率をH:CO=2:1(以下、この比率を「最適比率」と称す。)に設定してFT反応させると、反応時のエネルギー効率が向上することが知られている。本実施形態においては、この点を考慮して、電解器10で生成するHガスとCOガスの比率が最適比率となるように、カソード32とアノード34の間の印加電圧Vを制御している。
【0031】
印加電圧Vの制御に際しては、カソード32とアノード34の間の印加電圧Vを適切に設定する必要がある。この理由は、COおよびHの生成がカソード32上で競合的に起こるからであり、印加電圧Vの値によっては、HとCOの生成比率が最適比率から大きく外れ、例えばHガスばかりが生成してしまい、COガスが少量しか得られないことがあるためである。
【0032】
ここで、図4は、カソードとアノードの間の印加電圧を変えた場合に、カソードで一定時間内に生成するCOとHの生成比率(物質量比)の変化を示した図である。なお、図4は、一対の電極を有する電解器に、CO濃度一定の電解液を供給しながら、カソードとアノードの間の印加電圧毎に、カソードで生成したCOガスおよびHガスの生成量を測定することにより作成したものである。
【0033】
図4において、横軸はカソードとアノードの間の印加電圧を、縦軸はCO/Hをそれぞれ示す。図4に示すように、印加電圧が低い場合にはCO/Hが低い。この理由は、Hの発生電位の方がCOの発生電位よりも低いので、相対的にCOの生成量が少なくなるからである。一方、印加電圧を高くすればCOの生成量が増加しCO/Hが上昇する。なお、図示を省略するが、印加電圧を十分に高くすれば、CO/Hは一定になる。
【0034】
また、印加電圧Vの制御に際しては、フロー系の電解システムの特徴を考慮する必要がある。この特徴について、図5を参照しながら説明する。図5は、電解器10における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。フロー系の電解システムの場合、カソード32とアノード34の間に電圧V(V〜V:nは2以上の整数)を印加すると、それぞれの電極において上記(1)〜(3)の反応が進行し、反応物質であるCOやHOが消費される。そのため、図5に示すように、電解液中のCO濃度やHO濃度が電解液流入口からの距離に応じて低下する。加えて、電解液中に吸収させたCOが電解槽30内を流れている間に電解液表面から上部空間に揮散する。そのため、電解液中のCOの濃度は、CO生成反応の進行とは別に、電解液流入口からの距離に応じて低下する。
【0035】
そこで、本実施形態においては、CO濃度センサ42で検出したCO濃度に基づいて、カソード32とアノード34の間の印加電圧Vを制御している。検出したCO濃度は、その検出に係るCO濃度センサ42の上流側のカソード32(例えば、CO濃度センサ42aであれば、カソード32a)で生成したCOの量と相関がある。また、CO生成量は、そのカソード32が設けられている電解領域のCO濃度と相関があり、CO濃度が高いほどCO生成量が多くなる関係を示す。従って、CO濃度センサ42でCO濃度が検出できれば、その検出に係るCO濃度センサ42の上流側の電解領域におけるCO濃度を推定できる。
【0036】
また、図4から分かるように、CO濃度が一定であれば、一定時間内に生成するCOとHの生成比率を、カソードとアノードの間の印加電圧と関連付けることができる。従って、図4に示した関係を電解液中のCO濃度毎に予め求めておけば、推定したCO濃度と、この関係とから、その推定に係る電解領域のカソード32で生成するCOとHの比率が最適比率となる印加電圧を導出できる。
【0037】
以上、本実施形態によれば、CO濃度センサ42によって電解領域毎に検出したCO濃度に基づいて最適な印加電圧を設定できる。そのため、カソード32a〜32cのそれぞれにおいて、最適比率でHとCOを生成できる。従って、電解器10全体で生成するHとCOの比率を最適比率に制御できる。HとCOの比率を最適比率で生成できれば、FT反応に必要な原料生成と、その比率調整とを同時進行できるのでHCを効率良く製造できることに繋がる。
【0038】
なお、本実施形態においては、CO吸収特性を有する有機溶媒を電解液として用いたが、有機溶媒の代わりに、CO吸収特性を有する水溶液を用いてもよく、CO吸収特性を有し、カチオン部位とアニオン部位の分子組成から形成され、常温でも結晶化せずに溶融している有機塩(いわゆるイオン液体)を用いてもよい。本変形例については、後述する実施の形態2においても同様に適用が可能である。
【0039】
実施の形態2.
次に、図6乃至図7を参照しながら、本発明の実施の形態2について説明する。本実施形態の混合ガス生成装置は、電解器のカソード構成が異なる点を除けば基本的に上記実施の形態1と同一である。そのため、全体的な装置構成の説明については省略する。
【0040】
[電解器の説明]
図6は、本実施形態の電解器50の平面図である。図6に示すように、電解器50は、電解液が流通可能に構成された電解槽52を備えている。電解槽52は、カソード54a,56aと、アノード58a,58bと、ガス取り出し口60a,62a,64a,64bと、仕切り板66と、を備えている。
【0041】
カソード54aとアノード58aとは一対の電極を構成する。同様に、カソード56aとアノード58bとは一対の電極を構成する。このように2つの電極対を設けることで、電解液の流れ方向に沿って電解槽30を2つの電解領域に分割することができる。なお、図6においては電極対が2つの場合を示しているが、この電極対の数を3つ以上で構成してもよく(詳細は実施の形態4を参照)、電極対の数に応じて上記電解領域の数を変更できるものとする。
【0042】
カソード54aは、カソード32同様、CO還元触媒と電極本体とから構成されている。電極本体は、電気分解時にCO還元触媒での反応を阻害しない金属から構成される。CO還元触媒は、電極本体の表面全体にコーティングされている。カソード56aは、COを還元しにくい金属(例えばPt)から構成されている。アノード58a,58bは、電気分解時に電解液に溶解しない金属(例えばPt)から構成されている。そのため、カソード54aとアノード58aの間に電圧を印加すれば、カソード54a上で上記(1)の電気化学反応が起こり、カソード56aとアノード58bの間に電圧を印加すれば、カソード56a上で上記(2)の電気化学反応が起こる。つまり、本実施形態においては、カソード54aをCO生成用電極とし、カソード56aをH生成用電極としてCOとHとを分担生成している。このように2種類の電極で分担生成すれば、1種類の電極で混合ガスを同時生成する場合に比べて電極選択の幅が広がるので、効率の良い混合ガス生成が可能となる。
【0043】
[実施の形態2の特徴]
上記実施の形態1同様、本実施形態においては、電解器50で生成するHガスとCOガスの比率が最適比率となるようにカソード54aとアノード58aの間の印加電圧や、カソード56aとアノード58bの間の印加電圧を制御している。既述のとおり、上記実施の形態1によれば、電解領域毎に検出したCO濃度に基づいて最適な印加電圧を設定できるので、それぞれのカソードにおいて最適比率でHとCOを生成できる。しかしながら、電解液表面からのCOの揮散は、電解槽の大型化に伴い顕著になる。そのため、例えば電解液排出口付近の電解領域においてはCOの生成が殆ど見込めなくなる。そのような電解領域の電極対の間に、最適比率となる電圧を印加するのは必ずしも効率的ではない。
【0044】
図7は、電解器50における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。図7に示すように、COの揮散は電解器50への流入直後から始まるので、電解液中のCO濃度は、カソード54aよりも上流側において既に低下している。一方、HOはCOの様な揮散の問題は生じず、アノード58bで消費されるまでは一定に保たれる。
【0045】
そこで、本実施形態においては、カソード56aよりも上流側のカソード54aをCO生成用の電極としている。これにより、電解液中のCO濃度が高い上流側において、優先的にCOを生成できる。よって、CO濃度の低下に伴う混合ガス生成の効率低下を未然に防止できる。また、図7に示すように、カソード54aにおいてはCOの他にHOが副生成する。そのため、副生成したHOを下流側のカソード56aでのH生成に活用することも可能となる。
【0046】
また、本実施形態においては、印加電圧の制御に関し、CO生成に適した電圧をカソード54aとアノード58aの間に印加し、H生成に適した電圧をカソード56aとアノード58bの間に印加している。従って、上流側で生成したCO生成量に応じて、下流側のH生成量の調整を行い、結果として電解器10全体で生成するHとCOの比率を最適比率に制御することが可能となる。
【0047】
本実施形態における印加電圧の具体的な制御は、次のとおりである。先ず、カソード54aとアノード58aの間に適当な電圧(但し、CO比が高くなるような電圧)を印加しつつ、CO濃度センサ68aでCO濃度を検出してカソード54aからのCO生成量を求める。そして、このCO生成量に基づいて、電解器10で生成するHガスとCOガスの比率が最適比率となるようにカソード56aとアノード58bの間に適当な電圧(Hのみが生成するような電圧)を印加する。
【0048】
以上、本実施形態によれば、電解液中のCO濃度が高い上流側において、優先的にCOを生成できる。従って、CO濃度の低下に伴う混合ガス生成の効率低下を未然に防止できる。また、上流側のカソードで副生したHOを下流側のカソードで無駄なく利用できる。また、上流側で生成したCO生成量に応じて、下流側のH生成量の調整を行い、結果として電解器10全体で生成するHとCOの比率を最適比率に制御できる。
【0049】
実施の形態3.
次に、図8乃至図9を参照しながら、本発明の実施の形態3について説明する。本実施形態の混合ガス生成装置は、上記実施の形態1の電解器10にHOを添加するHO添加装置を設ける点を除けば上記実施の形態1と同一である。そのため、全体的な装置構成については省略するほか、電解器についても上記実施の形態1と同一の構成要素に同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0050】
[電解器の説明]
図8は、本実施形態の電解器70の平面図である。図8に示すように、電解器70は、電解槽30の他、アノード34aとアノード34bとの間にHOを添加するHO添加装置72bと、アノード34bとアノード34cとの間にHOを添加するHO添加装置72cと、を備えている。HO添加装置72b,72cは、例えばインジェクタが挙げられる。HO添加装置72b,72cの取り付け位置は、図8に示す電解槽30の側面に限られない。但し、それぞれアノード34b,34cの近傍であることが望ましい。なお、以下の説明においては、HO添加装置72b,72cをHO添加装置72と総称する場合があるものとする。
【0051】
[実施の形態3の特徴]
上記実施の形態1同様、本実施形態においては、カソード32において最適比率でHとCOを生成するようにカソード32とアノード34の間の印加電圧Vを制御している。ところで、CO吸収特性を有する有機溶媒を電解液に用いる場合、有機溶媒とHOとが相互作用することでCOが有機溶媒から脱離し、有機溶媒中のCO濃度が低下するという問題がある。そのため、CO濃度の観点から見れば、電解器70へ導入する際の電解液中のHO量は、カソード32aでの最適比率生成に最低限必要な量(つまり、アノード34aでのプロトン生成に最低限必要な量)であることが望ましい。その一方で、フロー系の電解システムは、それ自体が混合ガスの大量生産を図るシステムであり、カソード32aでHOの全てを消費してしまっては本来の目的を果たすことができない。
【0052】
そこで、本実施形態においては、混合槽20内の電解液中のHO濃度を低めに設定した上で、アノード34b,34cで必要となるHOをHO添加装置72b,72cから適宜添加している。図9は、電解器70における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。図9に示すように、アノード34aとアノード34bとの間からHOを添加すれば、アノード34bの上流側において、一時的にHO濃度が上昇する。同様に、アノード34bとアノード34c(図9中では不図示)との間からHOを添加すれば、アノード34cの上流側において、一時的にHO濃度が上昇する。このように、アノード34b,34cの上流側から必要量のHOを添加すれば、カソード32b,32cにおける混合ガスの生成量を確保しつつ、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。従って、上記実施の形態1に比してより効率的な混合ガスの生成が可能となる。
【0053】
O添加装置72b,72cからのHO添加量は、CO濃度センサ42b,42cで検出したCO濃度に基づいて、次のとおり導出される。上記実施の形態1で述べたように、CO濃度センサ42で検出したCO濃度は、その検出に係るCO濃度センサ42の上流側のカソード32(例えば、CO濃度センサ42bであれば、カソード32b)で生成したCOの量と相関がある。また、本実施形態においては、カソード32とアノード34の間の印加電圧は、カソード32で生成するHガスとCOガスの比率が最適比率となるように制御されているので、カソード32で生成したCO生成量が求められれば、そのCOの生成時にアノード34で必要となるHO量も求められる。
【0054】
そして、アノード34で必要となるHO量と、このアノード34の上流側の電解液中のHO量との差分を求めれば、HO添加量を導出できる。ここで、アノード34の上流側の電解液中のHO量は、アノード34aよりも上流側の電解液中のHO量(つまり、初期HO量)から、添加量算出対象のアノード34よりも上流側のアノード34(例えば、添加量算出対象がアノード34bの場合、アノード34a)においてそれぞれ消費されたHO量を差し引くことで算出できる。
【0055】
以上、本実施形態によれば、アノード34b,34cで必要となるHOをHO添加装置72b,72cから添加するので、カソード32b,32cにおける混合ガスの生成量を確保しつつ、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。従って、上記実施の形態1に比してより効率的な混合ガスの生成が可能となる。
【0056】
なお、本実施形態においては、電解液としてCO吸収特性を有する有機溶媒を用いたが、有機溶媒の代わりに、CO吸収特性を有し、カチオン部位とアニオン部位の分子組成から形成され、常温でも結晶化せずに溶融している有機塩(いわゆるイオン液体)を用いてもよい。また、本変形例については、後述する実施形態4においても同様に適用が可能である。
【0057】
実施の形態4.
次に、図10乃至図11を参照しながら、本発明の実施の形態4について説明する。本実施形態の混合ガス生成装置は、全体構成については上記実施の形態1と同一であり、また、電解器については、上記実施の形態2の電解槽52において電極対の数を増加させた点、および、HOを添加するHO添加装置を設ける点を除けば上記実施の形態2と同一である。そのため、全体的な装置構成については省略するほか、電解槽についても上記実施の形態2と同一の構成要素に同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0058】
[電解器の説明]
図10は、本実施形態の電解器80の平面図である。図10に示すように、電解器80は電解槽52を備え、電解槽52は、カソード54a,54b,56a,56bと、アノード58a〜58dと、ガス取り出し口60a,60b,62a,62b,64a〜64dと、仕切り板66と、を備えている。なお、以下の説明においては、カソード54a,54b,カソード56a,56bやアノード58a〜58dを、カソード54、カソード56やアノード58と総称する場合があるものとする。
【0059】
カソード54は、カソード32同様、CO還元触媒と電極本体とから構成されている。電極本体は、電気分解時にCO還元触媒での反応を阻害しない金属から構成される。CO還元触媒は、電極本体の表面全体にコーティングされている。カソード56は、COを還元しにくい金属(例えばPt)から構成されている。アノード58は、電気分解時に電解液に溶解しない金属(例えばPt)から構成されている。つまり、本実施形態においては、上記実施の形態2同様、カソード54をCO生成用電極とし、カソード56をH生成用電極としてCOとHとを分担生成している。従って、上記実施の形態2同様、電極選択の自由度が高く、また、効率の良い混合ガス生成が可能となる。
【0060】
また、電解器80は、アノード58bとアノード58cとの間にHOを添加するHO添加装置82cと、アノード58cとアノード58dとの間にHOを添加するHO添加装置82dと、を備えている。HO添加装置82c、82dの取り付け位置は、図10に示す電解槽52の側面に限られない。但し、それぞれアノード58c,58dの近傍であることが望ましい。なお、以下の説明においては、HO添加装置82c,82dをHO添加装置82と総称する場合があるものとする。
【0061】
[実施の形態4の特徴]
上記実施の形態2で述べたように、電解液表面からのCOの揮散は、電解槽の大型化に伴い顕著になる。図11は、電解器80における反応物質の濃度変化の一例を示した図である。フロー系の電解システムの場合、カソード54とアノード58の間に電圧V(V〜V:mは2以上の整数)を印加し、カソード56とアノード58の間に電圧V(Vm+1〜Vm+n)を印加すると、それぞれの電極において上記(1)〜(3)の反応が進行し、反応物質であるCOやHOが消費される。
【0062】
ここで、図11に示すように、COの揮散は電解器80への流入直後から始まるので、電解液中のCO濃度は、カソード54aよりも上流側において既に低下している。一方、HOはCOの様な揮散の問題は生じず、アノード58cで消費されるまでは一定に保たれる。そこで、本実施形態においては、カソード56a,56bよりも上流側のカソード54a,54bをCO生成用の電極としている。これにより、電解液中のCO濃度が高い上流側において、優先的にCOを生成できる。よって、CO濃度の低下に伴う混合ガス生成の効率低下を未然に防止できる。また、図11に示すように、カソード54aにおいてはCOの他にHOが副生成する。そのため、このHOを下流側のカソード54bでのCO生成(アノード58bでのプロトン生成)に活用することも可能となる。
【0063】
印加電圧の制御に関し、本実施形態においては、CO生成に適した電圧をカソード54とアノード58の間に印加し、H生成に適した電圧をカソード56とアノード58の間に印加している。従って、上流側で生成したCO生成量に応じて、下流側のH生成量の調整を行い、結果として電解器10全体で生成するHとCOの比率を最適比率に制御することが可能となる。なお、上流側で生成したCO生成量は、CO濃度センサ68で検出したCO濃度に基づいて算出することができる。
【0064】
具体的には、先ず、カソード54とアノード58の間に適当な電圧(但し、CO比が高くなるような電圧)を印加しつつ、CO濃度センサ68でCO濃度を検出してカソード54からのCO生成量を求める。そして、このCO生成量に基づいて、電解器80で生成するHガスとCOガスの比率が最適比率となるようにカソード56とアノード58の間に適当な電圧(Hのみが生成するような電圧)を印加する。
【0065】
また、上記実施の形態3で述べたように、CO吸収特性を有する有機溶媒を電解液に用いる場合、有機溶媒とHOとが相互作用することでCOが有機溶媒から脱離し、有機溶媒中のCO濃度が低下するという問題がある。そこで、本実施形態においては、混合槽20内の電解液中のHO濃度を低めに設定した上で、アノード58c,58dで必要となるHOをHO添加装置82b,82cから適宜添加している。図11に示すように、アノード58bとアノード58cとの間からHOを添加すると、アノード58cの上流側において、一時的にHO濃度が上昇する。このように、アノード58c,58d(図11中では不図示)の上流側から必要量のHOを添加すれば、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。
【0066】
O添加装置82b,82cからのHO添加量は、カソード56a,56bとアノード58c,58dの間に印加する電圧に応じて決定される。上述したように、カソード54a,54bで生成したCO生成量が求められれば、電解器80で生成するHガスとCOガスの比率を最適比率とするためにカソード56a,56bで生成すべきHの量が求められる。Hはカソード56a,56bで分担生成すればよいので(例えば、カソード56a,56bで均等量を生成する)、この分担生成量を用いることでアノード58c,58dで必要となるHO量が求められる。
【0067】
以上、本実施形態によれば、電解液中のCO濃度が高い上流側において、優先的にCOを生成できる。従って、CO濃度の低下に伴う混合ガス生成の効率低下を未然に防止できる。また、上流側のカソードで副生したHOを下流側のカソードで無駄なく利用できる。また、上流側で生成したCO生成量に応じて、下流側のH生成量の調整を行い、結果として電解器10全体で生成するHとCOの比率を最適比率に制御できる。
【0068】
また、本実施形態によれば、アノード58c,58dで必要となるHOをHO添加装置82c,82dから添加するので、HOによる電解液中のCO濃度の低下を抑制できる。従って、上記実施の形態1に比してより効率的な混合ガスの生成が可能となる。
【符号の説明】
【0069】
10,50,70,80 電解器
12 電解液貯留槽
14 純水槽
16,18 送液ポンプ
20 混合槽
22 COボンベ
24 CO導入経路
28 電解液貯留槽
30,52 電解槽
32,54,56 カソード
34,58 アノード
36,38,60,62,64 ガス取り出し口
40,66 仕切り板
42,68 CO濃度センサ
72,82 HO添加装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COとHOとをそれぞれ電解還元してCOとHとを含む混合ガスを所定混合比で生成する混合ガス生成装置であって、
COとHOとを含む電解液が流れる電解液流路と、
電解液の流れ方向に沿って前記電解液流路を複数の電解領域に分割するように配置された複数の電極対と、
前記複数の電極対のそれぞれに電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする混合ガス生成装置。
【請求項2】
前記複数の電解領域のうち、前記電解液流路の上流側の電解領域においてはCOを優先的に生成し、前記電解液流路の下流側の電解領域においてはHを優先的に生成するように前記電圧印加手段を制御する印加電圧制御手段を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の混合ガス生成装置。
【請求項3】
電解液中のCO濃度を前記上流側の電解領域毎に取得するCO濃度取得手段と、
CO生成に必要なHOを前記上流側の電解領域毎に供給するCO用HO供給手段と、
CO濃度を取得した電解領域に対して前記CO用HO供給手段から供給するHO量を、その電解領域の電解液中のCO濃度に応じて制御するCO用HO量制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の混合ガス生成装置。
【請求項4】
前記上流側の電解領域におけるCOガス生成量を取得するCOガス生成量取得手段と、 H生成に必要なHOを前記下流側の電解領域に供給するH用HO供給手段と、
前記COガス生成量を用いて、前記H用HO供給手段から供給するHO量を制御するH用HO量制御手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の混合ガス生成装置。
【請求項5】
前記H用HO供給手段から供給するHO量は、前記COガス生成量から求められるHO要求量と、前記上流側の電解領域における電解液中のHO量の履歴とを用いて算出されることを特徴とする請求項4に記載の混合ガス生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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