説明

混合冷媒とそれを用いた冷凍サイクル装置

【課題】地球温暖化を抑制するため、GWPを低く抑えつつR410A、R404Aを使用した空調、冷凍冷蔵設備同等の耐圧強度を有した機器に使用可能なテトラフルオロプロパンとHFC冷媒からなる混合冷媒で汎用性の優れた特性を持った代替冷媒、およびこの混合冷媒で課題となる吐出温度の低下による吐出ガスを用いたデフロスト(除霜)の熱源確保をできる冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】HFO−1234yfとR32とからなり、R32の占める質量割合が20質量%以上含む混合冷媒とし、この混合冷媒を用いたことを特徴とする冷凍サイクル装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロプロパン(HFO−1234yf)とジフルオロメタン(R32)からなる混合冷媒と、それを用いた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に冷凍サイクル装置は圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器、必要に応じて四方弁や気液分離器等を配管接続して冷凍サイクルを構成し、その内部に冷媒を循環させることにより、冷却または加熱作用を行っている。これらの冷凍サイクル装置における冷媒としては、フロン類(以下便宜上米国ASHRAE34規格に基づきRを付した記号の次に2桁R○○または3桁R○○○の数字をもって記す)と呼ばれるメタンまたはエタンから誘導されたハロゲン化炭化水素が知られている。
【0003】
冷凍サイクル装置用の冷媒としては分子式がCHで沸点が−53.2℃のジフルオロメタン(以下このジフルオロメタンをR32と言う)と分子式がCHFCFで沸点が−48.5℃のペンタフルオロエタン(以下このペンタフルオロエタンをR125と言う)との混合冷媒(以下この混合冷媒をR410Aと言う)や分子式がCHCFで沸点が−47.8℃の1,1,1−トリフルオロエタン(以下この1,1,1−トリフルオロエタンをR143aと言う)と分子式がCHFCFで沸点が−26.2℃の1,1,1,2−テトラフルオロエタン(以下この1,1,1,2−テトラフルオロエタンをR134aと言う)と上記のR125との混合冷媒(以下この混合冷媒をR404Aと言う)などが用いられている。
【0004】
このR410AやR404Aは分子構造中に塩素を含まず水素を含むフッ化炭化水素類(以下この冷媒をHFC冷媒と言う)の混合冷媒であり、分子構造中に塩素を含むフッ化炭化水素類(以下この冷媒をHCFC冷媒と言う)、例えばR22などが成層圏のオゾン層破壊する能力があるため既にモントリオール議定書によって使用量と生産量が規制されているHCFC冷媒の代替冷媒として使用されている。
【0005】
地球環境問題の課題のひとつである地球温暖化に対する影響を示す地球温暖化係数(以下この地球温暖化係数をGWPと言う)があるが、HFC冷媒はGWPが従来のHCFC冷媒のR22と同程度以上に高いという課題が残る。
【0006】
GWPの低い冷媒として、自然冷媒である二酸化炭素(分子式 C0)やアンモニア(分子式 NH3)があるが、二酸化炭素は圧力、吐出温度が高く冷凍サイクル部品の耐圧強化や圧縮機油の信頼性確保、また空調や冷凍冷蔵設備の既存配管流用不可などの課題がある。
【0007】
HFC冷媒の中でも、GWPがHCFC冷媒のR22の半分以下のR32、R152aもあるが、R32単一冷媒はR410AやR404Aよりも圧力、吐出温度が高いうえに弱燃性である。R152a単一冷媒は圧力が低く空調や冷凍冷蔵設備では冷凍能力を確保できないことや弱燃性という課題があるため、これらを混合冷媒として用いた冷凍サイクル装置が考案されている。(例えば特開2005−15634号公報)
【特許文献1】特開2005−15634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、地球温暖化を抑制するため、GWPを低く抑えるため、テトラフルオロプロパン(HFO−1234yf、分子式はCFCF=CH2、以下このテトラフルオロプロパンをHFO−1234yfと言う)とHFC冷媒との混合冷媒の使用環境を選定し、R410A、R404Aなど、他の混合冷媒で使用されている空調、冷凍冷蔵設備同等の耐圧強度を有する機器での代替を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため本発明は、HFO−1234yfとHFC冷媒であるR32との混合冷媒といい、R32の占める質量割合が20質量%以上とするとともに、その冷媒をもちいた冷凍サイクル装置は、混合冷媒の課題となる吐出温度の低下による吐出ガスを用い、デフロスト(除霜)の熱源確保ができるものとしている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の混合冷媒はHFC冷媒の中でもGWPの低いR32を含み、さらにGWPが小さく自然冷媒の係数に近いHFO−1234yfとの混合冷媒であるため、GWPはR410AやR404Aに比べて大幅に低減できるので、成層圏のオゾン層を破壊することなく、地球温暖化に対する影響も低減する。
【0011】
また、本発明の混合冷媒は、R410A、R404Aと同等以下の圧力をもつため、R410AやR404Aの代替冷媒となるものであり、R410AやR404Aの既存設備の配管流用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を図を用いて説明する。
図1は、R410AとHFO−1234yfとR32及びHFO−1234yfとR32との混合冷媒の温度65℃における気液平衡特性を示すものであり、図1からHFO−1234yfとR32とは非共沸混合冷媒を構成することがわかる。
【0013】
R410Aを空調などに使用する場合の一般的な設計圧力(65℃の飽和圧力)である4.2MPaと比較するとR32の濃度が約90質量%以下で同等の飽和圧力となり、R404Aを冷蔵冷凍設備などに使用する場合の一般的な設計圧力(65℃の飽和圧力)である3.2MPaと比較するとR32の濃度が約50質量%以下で同等の飽和圧力となることがわかる。
【0014】
図2からR404Aを冷蔵設備などに使用する場合の一般的な設計蒸発温度である−10℃での低圧では単一冷媒、混合冷媒の比率に関わらず大気圧(101kPa)以上のため問題ないが、R404Aを冷凍設備などに使用する場合の一般的な設計蒸発温度である−40℃での低圧はHFO−1234yf単一冷媒で大気圧(101kPa)以下となり、HFO−1234yfとR32との混合冷媒ではR32の濃度が約40質量%以上で同等の大気圧(101kPa)となることがわかる。R410Aを空調などに使用する場合の一般的な設計蒸発温度は冷房、暖房ともR404Aを冷凍設備などに使用する場合の−40℃よりも高いため、この条件で大気圧(101kPa)以上であれば問題ない。大気圧以下では外気が冷凍サイクル内に混入し、冷媒と反応して分解したり非凝縮ガスとなり、装置としての働きを阻害し効率を低下させる原因となる。
【0015】
図2から本発明の混合冷媒は成層圏のオゾン層破壊がないばかりではなく、HFC冷媒の中でもGWPが650と低いR32を含み、さらにGWPが4と小さく自然冷媒の係数に近いHFO−1234yfから構成されるため、これらを混合した冷媒も地球温暖化に対する影響はR410AやR404Aなどの空調や冷蔵冷凍設備に使用している冷媒に比べて低減できる。低GWPという点ではR32の占める質量割合が小さいほど優位であり、R410Aの約1/4、R404Aの約1/8であるGWPを400以下とした場合、R32の濃度が約60質量%以下で同等のGWPとなることがわかる。
【0016】
冷凍サイクルは連続運転していくと熱交換によって蒸発器に着霜が生じ、熱交換の効率が低下していくため一定周期または不定期で蒸発器の着霜を取り除くためにデフロスト(除霜)を行う。一般的な方式として外気を利用するオフサイクル方式、シーズヒータなど熱源を用いたヒータ方式、圧縮機から出た吐出ガスを利用したホットガス方式などがある。ホットガス方式は圧縮機から出た吐出ガスを利用するがHFO−1234yf単一冷媒
では必要な吐出ガス温度が得られない。また、吐出ガス温度は高すぎると冷凍機油などの劣化にもつながるため、吐出ガス温度が一般に高いと言われるR410Aの温度以下に抑える必要がある。
【0017】
図2から吐出ガス温度の下限値は一般的に温度の低いと言われるR404A同等の60℃とし、上限値は一般的に温度の高いと言われるR410A同等の137℃とすると、HFO−1234yfとR32との混合冷媒ではR32の濃度が約20質量%から約55質量%の範囲となることがわかる。
【0018】
図3は本発明の実施形態である冷凍サイクル装置の概略構成を示したものであり、サーモバンク方式のホットガスデフロストの一例である。同図において11は圧縮機、12は凝縮器、13は減圧器、14は蒸発器、15は気液分離器、16から21は開閉弁、22と23は減圧弁であり、これらを配管接続することにより閉回路を形成し、図中矢印の方向に冷媒が循環する冷凍サイクルを構成し、冷媒としてHFO−1234yfとR32とからなる混合冷媒が封入されている。24はサーモバンク(蓄熱そう)である。実線は通常の冷却運転であり、開閉弁16、17、18は開き、開閉弁19、20、21は閉じている。逆にデフロスト時は開閉弁16、17、18は閉じ、開閉弁19、20、21は開き、破線を冷媒が流れる。
【0019】
気液分離器15では混合冷媒の気相冷媒と液相冷媒を分離し、気相冷媒は圧縮機11の吸入部に流入するように配管を圧縮機11吸入部に接続し、液相冷媒はサーモバンク24を経由して圧縮機11の吸入部に流用するように配管を圧縮機11吸入部に接続する。液相冷媒の戻り量は開閉弁25で調整できる構成となっている。
【0020】
ここで気液分離器15に液相冷媒が戻るように運転した場合、HFO−1234yfとR32の冷媒は非共沸性であるため、気液分離器15で分離された気相冷媒は本来の混合質量割合に対して低沸点成分のR32の濃度の高い冷媒となり、液相冷媒では高沸点成分のHFO−1234yfの濃度の高い冷媒となる。開閉弁25を設けることで本来の混合質量割合と異なる循環冷媒に調整しやすくなる。
【0021】
前記のとおり、圧縮機から出た吐出ガスを利用したホットガス方式において、HFO−1234yf単一冷媒では必要な吐出ガス温度が得られないためR32との混合冷媒とするが、R32はHFC冷媒の中ではGWPが低いものの自然冷媒やHFO−1234yfなどと比べると大幅に高いためGWPを低くするにはR32の濃度を抑える必要がある。吐出ガス温度が高すぎると冷凍機油などの劣化や大型の凝縮器が必要となる。そこで通常運転時は吐出温度を抑え、デフロスト(除霜)時のみ一時的に吐出温度を上げるためにデフロスト前に減圧器13を制御し気液分離器15に冷媒を溜めてからデフロストを開始する。
【0022】
開閉弁25で気液分離器15の液相冷媒の戻り量を調整することで循環冷媒の混合質量割合を変化させ、吐出温度を調整することができる。吐出温度を上げたい場合には、気液分離器15に冷媒を溜めることで気液分離器15内の液相冷媒は高沸点成分のHFO−1234yfの濃度の高い冷媒となり、循環冷媒は本来の混合質量割合よりも低沸点成分のR32の濃度が高くなる。逆に吐出温度が高くなりすぎて下げたい場合は気液分離器15に溜めた高沸点成分のHFO−1234yfの濃度の高い冷媒を開閉弁25を開けて戻してやれば循環冷媒は本来の混合質量割合に近づいていく。
【0023】
本発明の実施の形態ではHFO−1234yfとR32とからなる混合冷媒において、デフロスト(除霜)時の吐出温度を一時的に上げることができ、R32の本来の混合質量割合を小さくできるため、GWPも低くできる。
【0024】
以上の説明から明らかなように、本発明は、冷媒をHFO−1234yfとR32からなり、20質量%以上のR32を含む混合冷媒とすることにより、成層圏のオゾン層に及ぼす影響がなく、地球温暖化に対する影響を低減し、R410Aを用いた空調用の部品を流用することができる。
【0025】
また、R404Aを用いた冷蔵冷凍設備用の部品を流用するためには20質量%以上で50質量%以下のR32を含む混合冷媒とすることで可能となる。
【0026】
さらに、ホットガスデフロストに必要な吐出温度を通常運転時は温度を抑え、デフロスト(除霜)時のみ一時的に温度を上げることができ、R32の混合質量割合を小さくできるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明で使用される冷媒HFO−1234yfとR32及びHFO−1234yfとR32との混合冷媒の気液平衡特性図である。
【図2】一般的な冷媒の特性を示す一覧表である。
【図3】本発明で実施される冷凍サイクル装置の概略構図である。
【符号の説明】
【0028】
11 圧縮機、12 凝縮器、13 減圧器、14 蒸発器、15 気液分離器、
16 開閉弁、17〜22 開閉弁、23 減圧弁、24 サーモバンク(蓄熱そう)、25 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロプロパン(HFO−1234yf)とジフルオロメタン(R32)を混合した冷媒であって、R32の混合冷媒全体に占める質量割合が20質量%から55質量%の範囲としたことを特徴とする混合冷媒。
【請求項2】
テトラフルオロプロパン(HFO−1234yf)とジフルオロメタン(R32)を混合した冷媒であって、R32の混合冷媒全体に占める質量割合が40質量%から55質量%の範囲としたことを特徴とする混合冷媒。
【請求項3】
冷凍設備に使用する場合の設計蒸発温度である−40℃での低圧が、大気圧(101kPa)以上となることを特徴とする請求項1又は2に記載の混合冷媒。
【請求項4】
少なくとも圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を備える冷凍サイクル装置に、請求項1〜3のいずれかに記載の混合冷媒を用いたことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251767(P2012−251767A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167949(P2012−167949)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2008−159353(P2008−159353)の分割
【原出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000004422)日本建鐵株式会社 (152)