説明

混合溶剤組成物、シリコーン化合物塗布液、およびシリコーン化合物の塗布方法

【課題】乾燥性を向上させた混合溶剤組成物および該混合溶剤組成物を用いたシリコーン化合物塗布液の塗布方法の提供。
【解決手段】(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とからなる混合溶剤組成物、および、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン77〜79質量%とノルマルヘキサン21〜23質量%とからなる共沸様溶剤組成物、ならびに、シリコーン化合物と混合溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布液であって、該混合溶剤組成物が、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とを含有する溶剤組成物であることを特徴とするシリコーン化合物塗布液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合溶剤組成物、該混合溶剤組成物を含有するシリコーン化合物塗布液、および物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させるシリコーン化合物の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、注射針に、シリコーン化合物と溶媒とからなるシリコーン溶液を塗布して注射針の表面にシリコーンの被膜を形成し、注射針の滑り性を向上させる方法が知られている。上記シリコーン化合物は、通常、濃度が30〜50質量%のものが販売されており、使用にあたっては、該シリコーン化合物の濃度が2〜5質量%程度になるよう、有機溶媒で希釈するのが一般的である。
【0003】
前記希釈用有機溶媒としては、ハイドロクロロフルオロカーボン(特許文献1参照)などのフロン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素含有炭化水素、ヘキサン、トルエン等の炭化水素、メタノール、エタノールなどのアルコール類等が挙げられる。特にフロン系溶剤が好ましく、得られるシリコーン化合物の皮膜が良好な状態で形成され、優れた滑り性を発現する。
【0004】
しかし、上記フロン系溶剤は環境への悪影響が大きく、特にハイドロクロロフルオロカーボンはオゾン破壊係数を有するため、先進国においては2020年に生産が全廃されることが決まっている。よって、本用途においても、フロン系溶剤から他の有機溶媒への転換が求められている。
【0005】
そこで、環境への影響を配慮したハイドロフルオロエーテル、具体的には(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを用いることが知られている。さらに、ハイドロフルオロエーテルに低級アルコール類、炭化水素類、ケトン類などの有機溶媒を10質量%以下程度混合する方法も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−190654号公報
【特許文献2】特開2005−306902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記ハイドロフルオロエーテルはシリコーン化合物の溶解性が小さく、上記有機溶媒を10質量%程度混合しても、溶解性は顕著に大きくならない。さらに、必ずしも充分な乾燥性は得られなかった。
【0007】
本発明は、環境に悪影響がなく、かつ、シリコーン化合物に対して十分な溶解性を有し、優れた乾燥性を発現できる混合溶剤組成物、該混合溶剤組成物を含有するシリコーン化合物塗布液、およびシリコーン化合物の塗布方法の提供をする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] (2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とを含有することを特徴とする混合溶剤組成物。
[2] (2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン77〜79質量%とノルマルヘキサン21〜23質量%とを含有することを特徴とする混合溶剤組成物。
[3] シリコーン化合物と混合溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布液であって、該混合溶剤組成物が、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とを含有する溶剤組成物であることを特徴とするシリコーン化合物塗布液。
[4] 物品表面に[3]に記載のシリコーン化合物塗布液を塗布し、上記溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させるシリコーン化合物の塗布方法。
[5] 物品が注射針の針管部である[4]に記載のシリコーン化合物の塗布方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境への悪影響がなく、シリコーン化合物に対して十分な溶解性を有する混合溶剤組成物および、該混合溶剤組成物を含有するシリコーン化合物塗布液を使用することにより、シリコーン化合物塗布液の乾燥性が改良される結果、膜厚が均一で乾きムラやハジキ現象のない硬質シリコーン被膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の混合溶剤組成物およびシリコーン化合物塗布液においては、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンおよびノルマルヘキサンを混合させる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<混合溶剤組成物>
本発明の混合溶剤組成物は、全量に対して(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%、および、ノルマルヘキサン15〜60質量%を含有する。
【0012】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの濃度が40質量%未満の場合は、乾燥性が低下し、均一なシリコーン被膜が形成できない。また85質量%を越える場合は、シリコーン化合物の溶解性が小さく、均一なコーティング用シリコーン溶液が形成されず、二層に分離する。また、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの濃度は50〜80質量%であればより好ましく、60〜80質量%がさらに好ましい。
【0013】
さらに、上記混合溶剤組成物は、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン77〜79質量%およびノルマルヘキサン21〜23質量%含有することが好ましく、該組成では共沸様溶剤組成物となる。
【0014】
本発明の共沸様溶剤組成物とは、蒸発、凝縮を繰り返した場合の組成の変動が小さい組成物であり、共沸溶剤組成物とほぼ同等に取り扱え、共沸溶剤組成物と同等の安定した乾燥性や溶解性等が得られる利点がある。
上記混合溶剤組成物の組成範囲が、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン77〜79質量%、ノルマルヘキサン21〜23質量%である場合は、上記組成変動が小さく、実質上、共沸溶剤組成物として取扱うことができるので好ましい。
【0015】
また、本発明の混合溶剤組成物において、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンの酸分は1ppm以下であることが好ましい。酸分が1ppmを超える場合、シリコーン溶液を塗布した注射針等の金属部品を長期間保存すると、塗布部分に錆が発生する要因となり得るため好ましくない。
【0016】
上記混合溶剤組成物は、環境への悪影響がなく、各種有機物に対する溶解性に優れ、適度な沸点であり、乾燥が早い、安定性が高い、注射針等の物品を浸漬させて使用した後に容易に再生し、繰り返し利用できる点で特に好ましい。
また、上記共沸様溶剤組成物を用いる場合は、使用後のコーティング溶液を蒸留再生して使用する場合に、組成の調整をする必要がない点で好ましい。
【0017】
<シリコーン化合物塗布液>
本発明のシリコーン化合物塗布液は、シリコーン化合物と、上述した混合溶剤組成物を含有する。
【0018】
(シリコーン化合物)
本発明に使用されるシリコーン化合物としては、表面コーティング用に市販されている各種のシリコーンを使用できる。具体的には、特公昭46−3627号公報に記載のアミノアルキルシロキサンとジメチルシロキサンとの共重合体を主成分とするもの、特公昭61−35870号公報または特公昭62−52796号公報に記載のアミノ基含有シランとエポキシ基含有シランの反応生成物と、シラノール基を含有するポリジオルガノシロキサンとの反応生成物を主成分とするもの、特開平7−178159号公報に記載の側鎖および/または末端にアミノ基を含有するシリコーンとポリジオルガノシロキサンからなるシリコーン混合物、特開平10−309316号公報に記載のアミノ基含有アルコキシシランとエポキシ基含有アルコキシシランおよび両末端にシラノール基を有するシリコーンを反応させて得られたシリコーンと非反応性シリコーンとの混合物等が挙げられる。
【0019】
本発明のシリコーン化合物塗布液におけるシリコーン化合物の含有割合は、0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。シリコーン化合物の含有割合が上記範囲である場合は、均一な膜厚のコーティング被膜が得られやすく、かつ、乾燥しやすい。
【0020】
(その他の有機溶媒)
本発明のシリコーン化合物塗布液に用いる溶剤組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲で、アルコール類、炭化水素類、炭化水素系のケトン類または炭化水素系のエーテル類からなる有機溶媒を含有していてもよい。溶剤組成物における上記有機溶媒の含有割合は、通常、20質量%以下とし、特には10質量%以下とするのが好ましい。
【0021】
<塗布方法>
本発明の方法においては、物品表面にシリコーン化合物塗布液を塗布し、シリコーン化合物塗布液中の溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の皮膜を形成する。本発明の方法を適用できる物品としては、金属部品、樹脂部品、セラミックス部品、ガラス部品などの各種材質に適用でき、具体的にはカテーテル等のチューブ類のコネクタ、注射器のシリンジ部分、注射針の針管部等が挙げられる。特に注射針の針管部に適用することが好ましい。
【0022】
シリコーン化合物塗布液を注射針の針管部に塗布する方法としては、注射針の針管部分をシリコーン化合物塗布液に浸漬する方法が一般的であるが、シリコーン化合物塗布液を含浸させた媒体と針管の外表面とを接触させる方法によっても可能である。すなわち、シリコーン化合物塗布液を針管の外表面に塗布した後、室温あるいは加温下に放置して混合溶剤組成物を蒸発させ、シリコーン化合物の被膜を形成させる。
シリコーン化合物の被膜処理が施された注射針は、包装した後に滅菌を行う。滅菌方法としては各種の方法が知られているが、EO(エチレンオキサイド)滅菌法を採用すると、滑り性の低下もなく効率的に滅菌できる点で好ましい。
【0023】
本発明の混合溶剤組成物は(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタンとノルマルヘキサンを混合させることにより、乾燥性が改善され、結果、膜厚が均一で乾きムラやハジキ現象のない硬質シリコーン被膜を形成することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
【0025】
<実施例1;1−1〜1−4>
(溶解試験)
以下の方法に従い、混合溶剤組成物を用いてシリコーン化合物の溶解試験を行った。
表1に示す混合溶剤組成物100gをガラス製試料瓶に入れ、シリコーン化合物として、表1に示す量のシリコーンオイル(信越化学社製、品名:KF−96、濃度:100質量%)を各々加え、10秒間程度振り混ぜた。その後静置して、溶解性を目視確認し、表1に表記した。なお、フッ素系溶剤は(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン、ヘキサンはノルマルヘキサンの略である。
【0026】
(塗布試験)
以下の方法に従い、混合溶剤組成物を用いてシリコーン化合物の塗布試験を行った。
表1に示す混合溶剤組成物とシリコーンオイルとの混合液を各々ステンレス製の金属板に塗布し、乾燥する時間を計測して、乾燥性を評価した。また、乾燥後の塗膜の仕上がり、塗布ムラの発生を目視確認した。乾燥性および塗布性を表1に表記した。
【0027】
【表1】

【0028】
<実施例2;2−1〜2−4>
(溶解試験および塗布試験)
シリコーン化合物として、表2に示す量のシリコーン溶液(ポリジメチルシロキサン40質量%、ノルマルヘキサン30質量%、イソプロピルアルコール20質量%、ドデカン10質量%の混合物)を用いた以外は、実施例1と同様にして、溶解試験および塗布試験を行った。結果を表2に表記した。
【0029】
【表2】

【0030】
表1および2より、各組成の混合溶剤組成物に対するシリコーン化合物の溶解性は良好なものであった。また、混合溶剤組成物の乾燥性が良好であることより、シリコーン化合物の塗布性も良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のシリコーン化合物塗布液は、乾燥性が向上したことにより、膜厚が均一で乾きムラやハジキ現象のない硬質シリコーン皮膜を形成できることから、カテーテル等のチューブ類のコネクタ、注射器のシリンジ部分、注射針の針管部等の表面へのシリコーン化合物の皮膜の形成に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とを含有することを特徴とする混合溶剤組成物。
【請求項2】
(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン77〜79質量%とノルマルヘキサン21〜23質量%とを含有することを特徴とする混合溶剤組成物。
【請求項3】
シリコーン化合物と混合溶剤組成物とを含有するシリコーン化合物塗布液であって、該混合溶剤組成物が、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)−1,1,2,2−テトラフルオロエタン40〜85質量%とノルマルヘキサン15〜60質量%とを含有する溶剤組成物であることを特徴とするシリコーン化合物塗布液。
【請求項4】
物品表面に請求項3に記載のシリコーン化合物塗布液を塗布し、上記溶剤組成物を蒸発除去することにより、物品表面にシリコーン化合物の被膜を形成させるシリコーン化合物の塗布方法。
【請求項5】
物品が注射針の針管部である請求項4に記載のシリコーン化合物の塗布方法。


【公開番号】特開2007−332301(P2007−332301A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167243(P2006−167243)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】