説明

混合物、熱媒体、並びに熱媒体を用いたヒートポンプ、及び熱利用装置

【課題】 高温側でも、比較的低い圧力下でクラスレート水和物を生成、分解して熱交換が可能な混合物及び熱媒体、並びにこれを用いたヒートポンプ及び熱利用装置を提供する。
【解決手段】 ヒートポンプの熱媒体として下記A成分及びB成分とを含有し、クラスレート水和物を生成可能である混合物を用いる。
A成分:Kr、Xe、Ar、及びCHから選択される1以上の化合物
B成分:シクロペンタン及び/又はシクロペンテン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合物、熱媒体、並びに熱媒体を用いたヒートポンプ、及び熱利用装置に関する。さらに詳しくは、クラスレート水和物を生成可能な混合物及び熱媒体、並びにこの熱媒体を用いたヒートポンプ、及び熱利用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラスレート水和物は、水をホスト物質、水以外の物質をゲスト物質とする包接化合物である。包接化合物とは、ホスト物質が結合して生じた三次元構造の内部に空孔があり、その空孔にゲスト物質が一定の組成比で入り込み、特定の結晶構造を形成している物質である。すなわち、クラスレート水和物は、水分子の包接格子の中にガス分子等が包接された氷状(あるいはシャーベット状)の化合物である。
水とクラスレート水和物を生成する物質としては、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレンなどの炭化水素系ガスや、HFC(R−134a、R−407C、R−410Aなど)、HCFC(R−22、R−123、R−124、R−141b、R−142b、R−225など)などのフルオロカーボン類の他に、炭酸ガス(CO2 )、窒素、空気、キセノン(Xe)などが知られている。
【0003】
クラスレート水和物は、生成過程(水とガスからクラスレート水和物が生成される過程)で熱を発生し、分解過程(クラスレート水和物から水とガスに分離される過程)で熱を吸収する。クラスレート水和物は、この生成、分解過程における分解・生成熱が大きく、しかもクラスレート水和物とその分解物との平衡圧が温度と共に大きく変化するという特徴を有している。
このようなクラスレート水和物の特徴に着目して、特許文献1のように、メタンガス等をクラスレート水和物の状態で保存することが検討されている。特許文献1には、保存安定性を高めるために、メタンガスの他にシクロペンタノン等の安定剤を添加することが記載されている。
また、クラスレート水和物を生成する混合物を熱媒体とすることが検討されている。例えば特許文献2には、クラスレート水和物の分解・生成熱を利用して、低温の物体から熱を汲み上げ、高温の物体に熱を与えるヒートポンプが記載されている。
【特許文献1】特開2004−331747号公報
【特許文献2】特開2004−101140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱媒体として使用する場合、熱交換の可能な温度範囲、特に高温側に限界があるという問題があった。限界をもたらす原因は、温度に対するクラスレート水和物とその分解物との平衡圧の曲線(相平衡線)がゲスト物質の飽和蒸気圧線を越えてしまうことによる。例えば、ゲスト物質が硫化水素の場合は30℃程度、HFC−32の場合は20.9℃で、相平衡線がゲスト物質の飽和蒸気圧線を越えてしまう。この飽和蒸気圧線を越えた状態、すなわち、水和物/水/ゲスト物質(気体)/ゲスト物質(液体)の四重点を越えると、平衡温度の圧力依存性が極めて小さくなる。したがって、飽和蒸気圧を超えると圧縮動力を加えても、それに見合った平衡温度の上昇が期待できないということになる。
また、ヒートポンプの場合、高温側の平衡圧が大きすぎると、安全性やコスト面等で問題が生じ、実質的に熱交換が困難となる。例えばゲスト物質がメタンの場合、25℃でクラスレート水和物を生成させるために、44MPaもの圧力が必要となってしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高温側でも、比較的低い圧力下でクラスレート水和物を生成して熱交換が可能な混合物及び熱媒体、並びにこれを用いたヒートポンプ及び熱利用装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0007】
[1]クラスレート水和物を生成可能な混合物であって、下記A成分とB成分とを含有することを特徴とする混合物。
A成分:Kr、Xe、Ar、及びCHから選択される1以上の物質
B成分:シクロペンタン及び/又はシクロペンテン
[2]クラスレート水和物を生成可能な混合物であって、下記A成分とB成分とを含有することを特徴とする混合物。
A成分:Kr又はCH
B成分:シクロペンタン又はシクロペンテン
[3][1]又は[2]に記載の混合物からなる熱媒体。
[4]熱媒体がクラスレート水和物の分解過程と生成過程とを繰り返し、前記分解過程で低温物体から熱を汲み上げ、前記生成過程で高温物体に熱を与えるヒートポンプにおいて、
前記熱媒体が[3]に記載の熱媒体であることを特徴とするヒートポンプ。
[5]前記クラスレート水和物の分解過程を行う分解手段と、前記クラスレート水和物の生成過程を行う生成手段とを備えることを特徴とする[4]に記載のヒートポンプ。
[6]前記分解手段が、前記熱媒体を減圧する減圧手段と、前記低温物体と熱媒体とを熱交換させる分解器とを有することを特徴とする[5]に記載のヒートポンプ。
[7]前記生成手段が、前記熱媒体を昇圧する昇圧手段と、前記高温物体と熱媒体とを熱交換させる生成器とを有することを特徴とする[5]又は[6]に記載のヒートポンプ。
[8]前記分解器から前記生成器への前記熱媒体の第1経路、及び前記生成器から前記分解器への前記熱媒体の第2経路の内少なくとも一方に、前記熱媒体を移動させる輸送手段を備えることを特徴とする[5]〜[7]の何れかに記載のヒートポンプ。
[9]前記輸送手段が、前記第1経路に配置された昇圧装置であることを特徴とする[8]に記載のヒートポンプ。
[10]前記輸送手段が、前記第2経路に配置された減圧装置であることを特徴とする[8]に記載のヒートポンプ。
[11]前記第1経路が、前記分解器で分解された前記クラスレート水和物の分解物を気体と液体とに分けて前記生成器に送る気体流路及び液体流路を有することを特徴とする[8]〜[10]の何れかに記載のヒートポンプ。
[12][4]〜[11]の何れかに記載のヒートポンプを備えることを特徴とする熱利用装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温側でも、比較的低い圧力下でクラスレート水和物を生成、分解して熱交換が可能な混合物及び熱媒体、並びにこれを用いたヒートポンプ及び熱利用装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(混合物)
本発明の混合物は、ホスト物質である水の他に、下記A成分及びB成分とを含有する。
A成分:Kr、Xe、Ar、及びCH(以下「HFC−32」という。)から選択される1以上の物質
B成分:シクロペンタン及び/又はシクロペンテン
A成分は、Kr又はHFC−32であることが好ましい。また、B成分はシクロペンタン又はシクロペンテンであることが好ましく、シクロペンタンであることがより好ましい。特に好ましいのは、これら好ましいA成分とB成分とを組み合わせである。
【0010】
本発明の混合物は、温度及び/又は圧力の変化に伴い、クラスレート水和物の状態と、各々の成分に分離した状態(以下「分解状態」という。)との異なる状態をとり得る混合物である。
クラスレート水和物状態では、水分子をホスト物質、A成分とB成分をゲスト物質とする包接化合物を形成する。A成分は、包接化合物において、五角形の12面体に、B成分は五角形12面と六角形4面とからなる16面体に入ることが知られている。このことから、本発明の混合物から生成するクラスレート水和物は、五角形の12面体と、五角形12面と6角形4面とからなる16面体と、の組み合わせからなる構造IIと呼ばれる結晶構造を有しているものと推定される。
分解状態では、主として気相にA成分が、液相に水とB成分が別個の液相として存在する構成となる。
【0011】
本発明の混合物から生成するクラスレート水和物において、各成分のモル比は、構造IIをとると推定されることから、水:A成分:B成分が、136:16:8であると考えられる。
クラスレート水和物状態においては、クラスレート水和物自体が流体としての性質を持たないため、水を加えてスラリー状とする必要がある。そのため、本発明の混合物における水のモル混合比は、上記比率よりも多めであることが好ましい。
【0012】
後述の実施例に示すように、A成分がKr又はHFC−32、B成分がシクロペンタン又はシクロペンテンの場合、温度に対するクラスレート水和物とその分解物との平衡圧の曲線(相平衡線)が、高温側まで存在し、通常の環境温度をカバーすることができる。しかも、高温側でも、比較的低い圧力でクラスレート水和物を生成し得る。
本発明者らは、A成分として、Xe、Arを選択した場合のデータを未取得であるが、以下の理由により、XeやArを選択した場合にも、Kr又はHFC−32と同等の結果が得られることを推定した。
すなわち、Journal of Structural Chemistry,Vol.43,No.6,pp985-989,2002には、Xe、Kr、Arが、テトラヒドロフラン(THF)と構造IIのクラスレート水和物を生成する旨が記載されている。このように、クラスレート水和物生成に際して、XeとArは、Krと同様の挙動を示すものである。したがって、THFに代えて、シクロペンタンやシクロペンテンを用いた場合にも、XeとArが、Krと同様の挙動を示すことを予測することができたものである。
【0013】
(ヒートポンプ)
図1は、本発明の実施形態に係るヒートポンプ1の概略構成図である。ヒートポンプ1は、分解器10と、生成器20と、分解器10から生成器20へ熱媒体を移動させる第1経路30と、生成器20から分解器10へ熱媒体を移動させる第2経路40とからなる循環流路を備えており、この循環流路内を、本発明の熱媒体が循環するようになっている。
【0014】
分解器10は、分解容器11と分解容器11内に貫設された加熱管12とを備えており、分解容器11内に導入される熱媒体と加熱管12内を流通する低温物体との間で熱交換できるようになっている。
生成器20は、生成容器21と生成容器21内に貫設された冷却管22とを備えており、生成容器21内に導入される熱媒体と冷却管22内を流通する高温物体との間で熱交換できるようになっている。
【0015】
第1経路30は、熱媒体の内、液体成分(主として水とB成分)が流通する液体経路31と気体成分(主としてA成分)が流通する気体経路32とに分かれて構成されている。そして、液体流路31には液体ポンプ33が、気体流路32にはガス圧縮機34が、各々介装されており、熱媒体の液体成分と気体成分とを別々に搬送すると共に、気体成分を昇圧できるようになっている。
第2経路40には、スラリーポンプ41が介装されており、クラスレート水和物状態の熱媒体を、減圧しつつ搬送できるようになっている。なお、必要に応じてスラリーポンプ41の後段に圧力調整弁を設けてもよい。
【0016】
加熱管12内を流通する低温物体や冷却管22内を流通する高温物体としては、室内空気、室外空気、水道水、工業用水、排水、他のヒートポンプ等に利用される熱媒体等の流体を、ヒートポンプ1の使用目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、低温物体と高温物体の一方を室内空気、他方を室外空気とすれば、ヒートポンプ1を空調装置に使用することができる。また、低温物体と高温物体の一方を室内空気、他方を水道水とすれば、給湯器や冷水器に使用することができる。
ヒートポンプ1は、クラスレート水和物の分解・生成熱を利用して、クラスレート水和物の分解過程で低温物体から熱を汲み上げ、そのクラスレート水和物の生成過程で高温物体に熱を与える。かかるヒートポンプ1の作用について、室内空気を冷却する場合を例にとり、図1及び図2を参照しつつ説明する。
【0017】
図2は、本発明の熱媒体に与えられる作用と熱媒体の状態との関係を、模式的に示した状態図である。図2において、ラインEは本発明の熱媒体の相平衡線である。相平衡線Eの右下の領域は、液体と気体とに分離した分解状態である。一方、相平衡線Eの左上の領域は、安定または準安定したクラスレート水和物状態である。
すなわち、図中のポイントAは分解状態(低圧側)、ポイントBは分解状態(高圧側)、ポイントCはクラスレート水和物状態(高圧側)、ポイントDではクラスレート水和物状態(低圧側)を各々示している。
【0018】
図1における分解器10の出口側の熱媒体はポイントAの状態である。この分解状態(低圧側)にある熱媒体は、まず、第1経路30で昇圧される。昇圧は、具体的には第1経路30の気体流路32に設けられたガス圧縮機34によって気体成分(主としてA成分)を圧縮することにより行われる。その結果、生成器20の入口側では、熱媒体(気体成分及び液体成分)は、ポイントBの分解状態(高圧側)となる。
次に、この分解状態(高圧側)にある熱媒体は、生成器20で冷却される。冷却は、具体的には、生成容器21内に導入される熱媒体と冷却管22内を流通する室外空気との間で熱交換をすることにより行われる。すなわち、熱媒体から生成熱に相当する熱が室外空気に対して放出される。この放熱の結果、熱媒体の状態は、相平衡線を横切り、生成器20の出口側ではポイントCのクラスレート水和物状態(高圧側)となる。
【0019】
次に、このクラスレート水和物状態(高圧側)にある熱媒体は、第2経路40で減圧される。その結果、分解器10の入口側では、熱媒体は、ポイントDのクラスレート水和物状態(低圧側)となる。
次に、このクラスレート水和物状態(低圧)にある熱媒体は、分解器10で加熱される。加熱は、具体的には、分解容器11内に導入される熱媒体と加熱管12内を流通する室内空気との間で熱交換をすることにより行われる。すなわち、熱媒体が、分解熱に相当する熱を室内空気から吸収する。この吸熱の結果、熱媒体の状態は、相平衡線を横切り、分解器10の出口側ではポイントAの分解状態(低圧側)となる。
以上の工程が繰り返されることにより、ヒートポンプ1は、室内空気の熱を室外空気に対して放出する働きをする。すなわち、室内空気を冷却する空調装置に使用することができる。
【0020】
ヒートポンプ1が正常に機能するためには、ポイントBとポイントDの温度が重要である。
まず、上記生成器20において冷却が行われるためには、室外空気がポイントBにおける熱媒体の温度よりも低温であることが必要である。室外空気がポイントBにおける熱媒体の温度以上であると、室外空気は高温物体として機能できない。そのため、ガス圧縮機34による昇圧の程度は、このポイントBにおける温度が、室外空気よりも高くなるように設定される。
本発明の熱媒体の場合、比較的高温側でもクラスレート水和物を生成できるので、室外空気が多少高温であっても、それよりも高温のポイントBを設定可能である。例えば、A成分としてKr、B成分としてシクロペンタンを使用した場合、後述の実施例に示すように、305.6Kでクラスレート水和物の生成が可能である。そのため、室外空気が30℃を越えても、ヒートポンプ1を、室内空気を冷却する空調装置に使用することが可能である。
これに対して、本発明の熱媒体に代えて、例えばHFC−32のクラスレート水和物を利用した熱媒体を用いると20.9℃程度で飽和蒸気圧線を越えてしまう。そのため、室外空気が21℃を越えると、室外空気よりも高いポイントBの温度を設定することが不可能となり、結局室内空気を冷却する空調装置に使用することができなくなってしまう。
【0021】
また、上記分解器10において加熱が行われるためには、室内空気がポイントDにおける熱媒体の温度よりも高温であることが必要である。室内空気がポイントDにおける熱媒体の温度以下であると、室内空気は低温物体として機能できない。
また、このポイントDにおける温度が、水の氷点である0℃よりも高くなることが必要である。0℃以下であると、熱媒体中の水が凍結し、熱媒体の流動性を確保することが困難となる
したがって、スラリーポンプ41による減圧の程度は、このポイントDにおける温度が、室内空気よりも低くなるように、かつこのポイントDにおける温度が、水の氷点である0℃よりも高くなるように設定される。
【0022】
なお、本実施形態において、液体経路31と気体経路32とを別々としたが、ガス圧縮機34の下流側では、液体経路31と気体経路32とが合流していてもよい。
その他、ヒートポンプの成績係数(COP)を挙げるために、公知の種々の手段を採用することができる。
【0023】
(熱利用装置)
本発明のヒートポンプを備える熱利用装置としては、例えば、冷房、暖房、除湿、及び加湿の少なくとも1つの機能を有する空気調和装置に適用することができる。この他に、冷却装置(ヒートシンクなど)、暖房装置(床暖房装置など)、給湯装置、冷凍装置、脱水装置、蓄熱装置、融雪装置、乾燥装置など、熱源との間で熱の授受を行い、加熱又は冷却を行う様々な熱利用装置(プラントやシステムを含む)に適用可能である。これらの熱利用装置では、本発明のヒートポンプを用いることにより、高温側でも、比較的低い圧力下で熱交換を可能とすることができる。
【0024】
(その他の用途)
本発明の熱媒体のヒートポンプ以外の用途としては、蓄冷・蓄熱システム等における蓄冷剤や蓄熱剤、他のヒートポンプの熱媒体と熱交換をする二次媒体としての使用等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
A成分がKr又はHFC−32、B成分がシクロペンタン又はシクロペンテンの場合について、本発明の混合物の各温度におけるクラスレート水和物とその分解物との平衡圧を、Ohmuraらが用いている定容積法(Ohmura, R., Uchida, T., Takeya S., Nagao, J., Minagawa, H., Ebinuma, T. and Narita, H., "Phase Equilibrium for Structure-H Hydrates Formed with Methane and each of Pinacolone (3,3-dimethyl-2-butanone) and Pinacolyl alcohol (3,3-dimethyl-2-butanol)", J. Chem. Eng. Data, 48, 2003, 1337-1340.)により調べた。
【0026】
まず、水20cmに、液状ゲスト物質(シクロペンタンもしくはシクロペンテン)を水とのモル比が1:17になるように加え、恒温水槽に入れた試験容器に導入する。これは水と液状ゲスト物質の水和物中の組成と生成系全体での組成とを一致させることで、水和物の生成に伴う水と液状ゲスト物質の消費により一方が不足することを避けるためである。
恒温水槽を所定の温度に設定し、真空ポンプで試験容器内から空気を排出した後、HFC−32又はKrガスを所定の圧力まで試験容器に導入する。圧力が安定化した後、ガスボンベと試験容器の間のバルブを閉め、実験操作中に容器内のガスの分子数が一定であるようにする。
温度T、圧力pが安定した後、1〜2KずつTを低下させ、それぞれの温度で一定時間保持する。急激な圧力低下により水和物生成が確認されたら、その温度を5〜6時間保持する。その後は0.1KずつTを上昇させ、容器内圧力pが安定化するまでそれぞれの温度を5〜6時間保持し、安定化したときのp−T条件を記録する。
水和物が容器内に存在している場合には温度の上昇に伴い水和物が分解し、ガスの放出による圧力上昇が見られるが、水和物が全て分解した後には顕著な圧力上昇は見られなくなる。水和物がほぼ分解したかわずかに存在しているときのp−T条件を,水和物平衡条件として最も信頼性の高いデータとして記録する。
以上の操作を、初期圧力条件を変化させて繰り返すことで図3に示すような広い温度範囲での平衡条件を測定した.
【0027】
上記実験の結果、ゲスト物質がKrとシクロペンタンの場合は温度305.6Kにおいて、4.689MPaでクラスレート水和物を生成できることが確認できた。また、ゲスト物質がKrとシクロペンテンの場合は温度297.1Kにおいて、2.043MPaでクラスレート水和物を生成できることが確認できた。また、ゲスト物質がHFC−32とシクロペンタンの場合は温度299.75Kにおいて、1.544MPaでクラスレート水和物を生成できることが確認できた。また、ゲスト物質がHFC−32とシクロペンテンの場合は温度295.0Kにおいて、1.241MPaでクラスレート水和物を生成できることが確認できた。
すなわち、本発明の混合物の相平衡線は、高温側まで存在し、通常の環境温度の範囲をカバーすることができた。しかも、高温側でも、比較的低い圧力でクラスレート水和物を生成し得る相平衡線であった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、高温側でも、比較的低い圧力下でクラスレート水和物を生成して熱交換が可能な混合物及び熱媒体、並びにこれを用いたヒートポンプ及び熱利用装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るヒートポンプ1の概略構成図である。
【図2】本発明の熱媒体に与えられる作用と熱媒体の状態との関係を、模式的に示した状態図である。
【図3】本発明の混合物の相平衡線を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1…ヒートポンプ、10…分解器、20…生成器、34…ガス圧縮機、41…スラリーポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスレート水和物を生成可能な混合物であって、下記A成分とB成分とを含有することを特徴とする混合物。
A成分:Kr、Xe、Ar、及びCHから選択される1以上の物質
B成分:シクロペンタン及び/又はシクロペンテン
【請求項2】
クラスレート水和物を生成可能な混合物であって、下記A成分とB成分とを含有することを特徴とする混合物。
A成分:Kr又はCH
B成分:シクロペンタン又はシクロペンテン
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の混合物からなることを特徴とする熱媒体。
【請求項4】
熱媒体がクラスレート水和物の分解過程と生成過程とを繰り返し、前記分解過程で低温物体から熱を汲み上げ、前記生成過程で高温物体に熱を与えるヒートポンプにおいて、
前記熱媒体が請求項3に記載の熱媒体であることを特徴とするヒートポンプ。
【請求項5】
前記クラスレート水和物の分解過程を行う分解手段と、前記クラスレート水和物の生成過程を行う生成手段とを備えることを特徴とする請求項4に記載のヒートポンプ。
【請求項6】
前記分解手段が、前記熱媒体を減圧する減圧手段と、前記低温物体と熱媒体とを熱交換させる分解器とを有することを特徴とする請求項5に記載のヒートポンプ。
【請求項7】
前記生成手段が、前記熱媒体を昇圧する昇圧手段と、前記高温物体と熱媒体とを熱交換させる生成器とを有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のヒートポンプ。
【請求項8】
前記分解器から前記生成器への前記熱媒体の第1経路、及び前記生成器から前記分解器への前記熱媒体の第2経路の内少なくとも一方に、前記熱媒体を移動させる輸送手段を備えることを特徴とする請求項5〜請求項7の何れかに記載のヒートポンプ。
【請求項9】
前記輸送手段が、前記第1経路に配置された昇圧装置であることを特徴とする請求項8に記載のヒートポンプ。
【請求項10】
前記輸送手段が、前記第2経路に配置された減圧装置であることを特徴とする請求項8に記載のヒートポンプ。
【請求項11】
前記第1経路が、前記分解器で分解された前記クラスレート水和物の分解物を気体と液体とに分けて前記生成器に送る気体流路及び液体流路を有することを特徴とする請求項8〜請求項10の何れかに記載のヒートポンプ。
【請求項12】
請求項4〜11の何れかに記載のヒートポンプを備えることを特徴とする熱利用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−290990(P2006−290990A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111923(P2005−111923)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)