説明

温度センサの較正方法

【課題】所定温度下での温度センサの出力を基準とする温度特性の較正を、高精度に、しかも短時間にて行わせることができる温度センサの較正方法を提供する。
【解決手段】基板2上の温度センサ1の周囲を導風管3の先端開口により被包し、この導風管3を介して熱風を吹き付ける際に、熱風の温度を基準温度計31により検出し、この検出結果に基づいて発熱素子33又は吸熱素子34を動作させ、熱風の温度を調節して温度センサ1に吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電動パワーステアリング装置の製造工程において、操舵補助用のモータの制御部及び駆動回路の温度検出のために装備されている温度センサの温度特性を個々に較正すべく実施される温度センサの較正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者による操舵部材(ステアリングホイール等)の操作に応じて操舵補助用のモータを駆動し、該モータの発生力を舵取機構に加えて操舵を補助する電動パワーステアリング装置においては、例えば、頻繁に操舵が繰り返される過酷な操舵条件下にて操舵補助用のモータの制御部及び駆動回路が過熱状態となり、動作不良、損傷等の不具合を生じる虞れがあり、このような不具合の発生を防止することを目的として過熱保護制御を実施している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この過熱保護制御は、前記制御部及び駆動回路の温度を、これらが実装された基板に取り付けた温度センサにより検出し、この温度センサによる温度検出値が予め定めた上限温度を超えたとき、過熱状態にある、又は過熱状態となる虞れがあると判定して、操舵補助用のモータの駆動電流を所定値以下に制限する制御動作である。この制御動作によりモータの電流が制限される結果、制御部及び駆動回路の発熱を抑制し、過熱状態の解消を図ることができる。
【特許文献1】特開2006−335263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の如き過熱保護制御に用いる温度センサとしては、耐久性に優れ、また安価であることからサーミスタが広く採用されているが、サーミスタは、製品間の温度特性の相違が大きいという問題がある。そこで従来においては、基板に温度センサを取り付けた後の検査工程において、所定の温度下にて得られる温度センサの出力を個々に調べ、夫々の制御部に基準出力として記憶させておく較正作業を行っている。
【0005】
このような温度センサの較正作業は、恒温槽の内部の所定温度(例えば、前述の上限温度)に保たれた空気を基板上に配した温度センサに導き、該温度センサに吹き付けて出力変化を調べ、この出力の平衡を待つ手順にて実施されているが、出力が平衡するまでに時間を要し、他の検査を含めた電動パワーステアリング装置の検査工程に多くの時間を要するという問題がある。
【0006】
また温度センサに吹き付ける熱風は、恒温槽の内部の所定温度に保たれた空気を、ダクト、ホースを用いて検査位置まで導いて使用しているが、この間の温度低下が避けられず、平衡した後の出力として与えられる温度センサの基準出力が、恒温槽内に維持された所定温度に正確に対応しない虞れがある。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、所定温度下での温度センサの出力を速やかに、また高精度に平衡させ、この出力を基準とする温度特性の較正に要する時間を短縮することが可能な温度センサの較正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1発明に係る温度センサの較正方法は、基板上に配した温度センサに熱風を吹き付け、このとき得られる出力に基づいて前記温度センサの温度特性を較正する温度センサの較正方法において、基準温度計、発熱手段及び吸熱手段を先端開口の近傍に有し、前記熱風を導風する導風管を用い、前記温度センサの配設位置を前記導風管の先端開口により被包し、前記基準温度計の検出温度に基づく前記発熱手段及び吸熱手段の動作により前記熱風の温度を調節して前記温度センサに吹き付けることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2発明に係る温度センサの較正方法は、前記導風管の先端開口にカバー筒を装着し、該カバー筒の端縁を前記基板に弾接させて前記温度センサの周囲を被包して前記熱風を吹き付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明に係る温度センサの較正方法においては、基準温度計、発熱手段及び吸熱手段を有する導風管により対象となる温度センサを被包し、基準温度計の検出温度に基づく発熱手段及び吸熱手段の動作により、導風管内部の熱風の温度を調節して温度センサに吹き付けるから、導風管の先端への到達までの間の温度変化を解消し、較正対象となる温度センサに所望の温度を保った熱風を吹き付けることができ、高精度の較正を速やかに実施することが可能となる。
【0011】
第2発明に係る温度センサの較正方法においては、温度センサの外側を周辺に弾接するカバー筒で被包するから、熱風の吹き付けを確実に行わせ、高精度の較正を実施することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る温度センサの較正方法(以下本発明方法という)の実施状態を示す模式図である。図中1は、温度センサ(サーミスタ)であり、マイクロプロセッサ2aにより構成された電動パワーステアリング装置の制御部2a、操舵補助用のモータの駆動回路を構成するFET2b,2b…等の発熱部品が実装された基板2に、マイクロプロセッサ2a及びFET2b,2b…の実装位置に近接して装着されている。なお本図には、2つのFET2b,2bが、基板2上に並ぶブロックとして略示してあるが、操舵補助用のモータの駆動回路においては、3相の夫々に各2つ、即ち、総計6つのFET2b,2b…が設けてある。
【0013】
以上の如く基板2上に配された温度センサ1を較正対象として実施される本発明方法においては、図1に示す如く、外管3a及び内管3bを有する2重管として構成された導風管3を使用する。
【0014】
外管3aは、温度センサ1の配設位置の外側を囲繞し得る直径を有しており、該外管3aの先端開口の周縁には、熱伝導ゲル等、熱伝導性に優れた弾性材料からなるカバー筒30が装着されている。また外管3aの内部には、先端開口近傍に基準温度計31が配してある。基準温度計31は、白金薄膜センサ等、高精度の温度検出が可能な温度センサであり、例えば、外管3aの開口の周縁から放射状に延びる支持棒32により支持し、図示のように、外管3aの先端開口の略中央に位置させてある。
【0015】
内管3bは、外管3aの内側に、これの内面との間に適宜の隙間を隔てて同軸をなして位置しており、該内管3bの先端開口は、基準温度計31の配設位置近傍に臨ませてある。また内管3bには、先端開口から適長離れた内面に臨ませて発熱素子33及び吸熱素子34が固設されている。発熱素子33は、外部からの給電により発熱する特性を有する素子であり、また吸熱装素子34は、外部からの給電により吸熱する特性を有する素子であって、これらはいずれもペルチェ素子を用いて構成することができる。
【0016】
発熱素子33及び吸熱素子34の給電は、温度制御部4から選択的に与えられる駆動指令に応じてなされる。温度制御部4には、外管3aの開口部に設けた基準温度計31による検出温度が与えられており、また、較正対象となる温度センサ1の出力が、基板2上の制御部2aを介して与えられている。
【0017】
導風管3の内管3b、及び外管3aと内管3bとの間の環状部は、図示しない恒温槽に、断熱ダクト、断熱ホースを介して接続されている。恒温槽の内部には、所定温度に維持された定量の空気が収納されており、この空気は、適宜の弁の開放に応じて、図中に矢符にて示すように内管3b内に供給され、また外管3aと内管3bとの間の環状部を経て恒温槽に還流するようになしてある。
【0018】
以上の如く構成された導風管3を使用して実施される本発明方法においては、まず図1に示す如く、外管3aの先端を温度センサ1に被せ、外管3aの先端開口に装着されたカバー筒30の先端を基板2に密着させて温度センサ1の外側を密に包囲し、この状態で恒温槽の内部空気を、前述の如く導風管3に導入する。
【0019】
導風管3に導入される空気(熱風)は、内管3bの先端開口から吹き出し、カバー筒30により包囲された温度センサ1に吹き付けられ、内管3bと外管3aとの間の環状部を経て恒温槽に還流する。これにより温度センサ1は、導風管3に導入される空気の温度下に曝されることとなる。温度センサ1は、この温度に対応する出力を発し、この出力は、前述の如く、基板2上の制御部2aを介して温度制御部4に与えられる。
【0020】
温度センサ1に吹き付けられる熱風の温度は、該温度センサ1に近接して位置する基準温度計31によっても検出され、温度制御部4に与えられる。図2は、温度制御部4の動作内容を示すフローチャートである。
【0021】
温度制御部4は、熱風の吹き付け開始後の所定のタイミングにて動作を開始し、基準温度計31の検出温度Tを所定のサンプリング周期にて取込み(ステップS1)、この検出温度Tを予め定めたしきい値温度Trefと比較する(ステップS2)。
【0022】
TとTrefとが等しくない場合(ステップS2:NO)、温度制御部4は、検出温度Tとしきい値温度Trefとの大小関係を調べる(ステップS3)。ステップS3において、TがTrefよりも小さいと判定された場合(ステップS3:YES)、発熱素子33に駆動指令を与え、該発熱素子33を発熱動作させ(ステップS4)、またTがTrefよりも大きいと判定された場合(ステップS3:NO)、吸熱素子34に駆動指令を与え、該吸熱素子34を吸熱動作させ(ステップS5)、いずれの場合にもステップS1に戻って前述した動作を繰り返す。
【0023】
一方、ステップS2において、TとTrefとが等しいと判定された場合(ステップS2:YES)、温度制御部4は、温度センサ1の出力を取込み(ステップS6)、この出力を基準出力として確定して一連の動作を終える。
【0024】
以上の動作により、基準温度計31の検出温度Tとしきい値温度Trefとが等しくなるまで発熱素子33又は吸熱素子34が選択的に駆動され、基準温度計31がしきい値温度Trefを検出した時点の温度センサ1の出力が基準出力として確定される。発熱素子33及び吸熱素子34は、温度センサ1に吹き付ける熱風の導入路となる内管2bの内側に面して取り付けられており、発熱素子33が駆動された場合、該発熱素子33の発熱により熱風の温度は上昇し、吸熱素子34が駆動された場合、該吸熱素子34の吸熱により熱風の温度は低下する。
【0025】
発熱素子33及び吸熱素子34は、導風管3の先端開口部の近傍、即ち、この先端開口部により被包される温度センサ1の近傍に位置しており、温度制御部4による発熱素子33又は吸熱素子34の駆動により温度センサ1に吹き付けられる熱風の温度を、速やかに、しかも高精度に制御することができ、このような制御下にて確定される温度センサ1の基準出力は、しきい値として設定された温度Trefに正しく対応する出力となる。
【0026】
この基準出力は、基板2上の制御部2aに与えられ、該制御部2aが備えるEEPROM等の書き換え可能な記憶手段に記憶させる。制御部2aは、前述した過熱保護制御動作において、記憶した基準出力を温度センサ1の出力の補正に用いる。制御部2aへの基準出力の書き込みは、温度制御部4から直接与えられる書き込み指令に従って行わせてもよく、また温度制御部4において確定された基準出力を別途読み出し、オペレータによる手動入力により制御部2aに書き込むことも可能である。
【0027】
温度センサ1の周囲は、導風管3の先端に装着したカバー筒30を端縁を基板2に弾接させて覆ってあるから、前述の如く温度制御された熱風を温度センサ1に確実に作用させることができ、しきい値温度Trefに正しく対応する基準出力を確定することができ、この基準出力に基づく温度センサ1の温度特性の較正を高精度に実施することができる。なお、しきい値温度Trefは、電動パワーステアリング装置の過熱保護制御において電流制限を実施するための上限温度(=125℃)とするのが望ましい。
【0028】
導風管3により導かれる熱風の温度は、前述の如く、恒温槽内にて所定温度に維持されているが、導風管3の先端に達するまでの間に変化する虞れがある。発熱素子33又は吸熱素子34による発熱及び吸熱は、このような温度変化分を補完するものであり、前述したペルチェ素子等、わずかな発熱及び吸熱が可能な手段であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法の実施状態を示すを示す模式図である。
【図2】温度制御部の動作内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 温度センサ、2 基板、3 導風管、30 カバー筒、31 基準温度計、33 発熱素子(発熱手段)、34 吸熱素子(吸熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配した温度センサに熱風を吹き付け、このとき得られる出力に基づいて前記温度センサの温度特性を較正する温度センサの較正方法において、
基準温度計、発熱手段及び吸熱手段を先端開口の近傍に有し、前記熱風を導風する導風管を用い、前記温度センサの配設位置を前記導風管の先端開口により被包し、前記基準温度計の検出温度に基づく前記発熱手段及び吸熱手段の動作により前記熱風の温度を調節して前記温度センサに吹き付けることを特徴とする温度センサの較正方法。
【請求項2】
前記導風管の先端開口にカバー筒を装着し、該カバー筒の端縁を前記基板に弾接させて前記温度センサの周囲を被包して前記熱風を吹き付ける請求項1記載の温度センサの較正方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74925(P2009−74925A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244172(P2007−244172)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】