説明

温度分布測定装置

【課題】 全てのサーモパイル素子の出力を飽和しないで取り込める為、測定可能温度範囲を広くでき、また、ゲインをさらに上げることができる温度分布測定装置を提供すること。
【解決手段】 赤外線を分布状に検出する複数のサーモパイル素子121と、検出範囲から集光するレンズ11と、検出信号の増幅を行う第1増幅部14、差動増幅部17と、を備える温度分布測定装置において、第1増幅部14は、検出信号とレンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違を補正するDA変換信号出力部23のDA変換信号を加算した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を複数素子で検出して、温度を分布で測定する温度分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術においては、受光素子の出力電圧を第1の増幅部で増幅し、基準温度素子の出力電圧を第2の増幅部で増幅し、2つの増幅信号を差動増幅部へ入力して差動増幅している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−92177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来では、第1の増幅部において、レンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違によりセンサ出力が脈打つ。具体的には、中心部は出力が大きく、周辺部は出力が小さい。この為、全てのサーモパイル素子の出力を飽和しないで取り込める温度範囲が狭まるという問題点がある。
【0004】
本発明は、上記問題点に着目してなされたもので、その目的とするところは、全てのサーモパイル素子の出力を飽和しないで取り込める為、測定可能温度範囲を広くでき、また、ゲインをさらに上げることができる温度分布測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明では、赤外線を分布状に検出する複数の素子と、検出範囲から集光するレンズと、検出信号の増幅を行う増幅部と、を備える温度分布測定装置において、前記増幅部は、前記検出信号とレンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違を補正するDA変換信号を加算した、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明では全てのサーモパイル素子の出力を飽和しないで取り込める為、測定可能温度範囲を広くでき、また、ゲインをさらに上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の温度分布測定装置を実現する実施の形態を、実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
まず構造を説明する。
【0009】
図1は実施例1の温度分布測定装置のブロック図である。図2は実施例1の温度測定装置のサーモパイルユニットの第1増幅部の回路構成図である。
【0010】
実施例1は、自動車の車内の温度分布を測定するのに用いられる例である。
実施例1の温度分布測定装置は、サーモパイルモジュール1とマイコン2を主な構成とする。
サーモパイルモジュール1は、レンズ11、サーモパイルユニット12、スキャン部13、第1増幅部14、基準温度素子15、第2増幅部16、差動増幅部17を主な構成とする。
レンズ11は、サーモパイルユニット12の前方に配置され、検出エリア3から放射される赤外線をサーモパイルユニット12に集光する。
サーモパイルユニット12は、赤外線を検出するサーモパイル素子(素子に相当する)121を、マトリクス状に配置したものである。
スキャン部13は、サーモパイル素子121からの出力信号をアドレス信号によって選択する。
【0011】
第1増幅部14は、図2に示すように、オペアンプOP1、マイナス入力部141、プラス入力部142、DA入力部143、負帰還部144からなる。
マイナス入力部141は、サーモパイルユニット12からの入力信号を抵抗R1が介し、オペアンプOP1のマイナス端子に入力する。
プラス入力部142は、基準温度素子15から得る基準電圧をオペアンプOP1のプラス端子に入力する。
DA入力部143は、マイコン2のDA変換信号出力部23からの信号を抵抗R1とオペアンプOP1のマイナス端子の間に入力する。
負帰還部144は、オペアンプOP1の出力を抵抗R2が介し、抵抗R1とオペアンプOP1のマイナス端子の間に接続する。
【0012】
基準温度素子15は、周囲温度を示す出力である基準電圧を出力する。
なお、基準温度素子15は、サーモパイル素子121により、一定温度の物を測定するようにしてもよく、一定の温度を示す電圧が出力されるようにしてもよい。
第2増幅部16は、基準温度素子15からの出力電圧を所定レベルまで増幅する。
差動増幅部17は、第1増幅部14からの出力と第2増幅部16からの出力の差動増幅を行う。
マイコン2は、サーモパイルユニット12の制御、出力信号の処理、演算を行い、自動車の機器、通信ラインにデータ出力や制御出力を行う。
マイコン2には、信号出力部21、マルチプレクサ22を備えている。
【0013】
信号出力部21は、所定のタイミングでスキャン部13にサーモパイル素子121のマトリクスの配列のアドレス信号を出力する。
マルチプレクサ22は、増幅部14からの出力信号を受け取り、サーモパイル素子121のマトリクス状の選択・切替を行う。
DA変換信号出力部23は、図3(b)に示すように、検出信号とレンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違を補正するDA変換信号を出力する。
【0014】
次に作用を説明する。
[中心と周辺部の出力を補正する作用]
実施例1の温度分布測定装置は、マイコン2の信号出力部21からのアドレス信号により、スキャン部13で選択されたサーモパイル素子121の出力信号が、図2の第1増幅部14における入力信号となる(図3(a)参照)。
【0015】
この入力信号は、抵抗R1を介し、オペアンプOP1のマイナス入力となる。
さらに、DA変換信号出力部23からの、補正信号であるDA変換信号(図3(b)参照)が、DA入力部143として、抵抗R3を介し、入力信号に加算されてオペアンプのOP1のマイナス入力となる。
オペアンプOP1は、抵抗R2を介する負帰還部144を設けて、差動反転増幅を行う。つまり、図3(a)の波形に、図3(b)のDA入力を補正加算したものが増幅される(図3(c)参照)。
【0016】
基準温度素子は、周囲温度を検出し、第2増幅部16で増幅されオペアンプOP1で差動増幅されるため、周囲温度が変化しても検出エリア3の温度を電圧値として正確に検出することができる。
【0017】
図3に示すように、DA入力により、レンズ中央と周辺の検出レベルの差を補正することにより、全体を均一なゲインで検出した状態となる。つまり、中心と周辺部の出力の相違によるセンサ出力の脈打ちがなくなる。すると、以降の信号処理部において、測定位置に起因する出力飽和を起こさない。
そのため、ゲインをより上げて、精度を向上させた温度分布測定を行う。
【0018】
さらに、本作用について、言い換えて説明する。
オペアンプの出力電圧をVo、基準電圧をVref、DA入力電圧をVda、各抵抗R1〜R3の値をR1〜R3とし、iを変数とし、記号の連続は乗算を意味するものとする。
任意の黒体炉温度について、各素子の出力に対して反対の特性のDA変換出力を加算すると、オペアンプOP1の出力は一定の出力になる。
オペアンプOP1の出力は、下式で示される。
【0019】
【数1】

【0020】
よって、Vda=-R3Vi/R1とする出力の補正が行える。
Vdaの設定方法は、温度変換の係数等設定時において、任意の黒体炉温度に設定し、素子毎にViとVrefを測定し、以下に示す式Bを満たすVdaを素子毎に求めて設定するものとする。
【0021】
【数2】

【0022】
調整した黒体炉温度以外では、上記式Aにより出力される。
【0023】
次に効果を説明する。
本実施の形態の温度分布測定装置にあっては、次に列挙する効果を得ることができる。
(1)赤外線を分布状に検出する複数のサーモパイル素子121と、検出範囲から集光するレンズ11と、検出信号の増幅を行う第1増幅部14、差動増幅部17と、を備える温度分布測定装置において、第1増幅部14は、検出信号とレンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違を補正するDA変換信号出力部23のDA変換信号を加算したため、全てのサーモパイル素子の出力を飽和しないで取り込める為、測定可能温度範囲を広くでき、また、ゲインをさらに上げることができる。
【0024】
(2)温度変換の校正の際に前記検出信号からDA変換信号を生成するため、校正される温度変換に合わせた、DA変換が成されることで、中心と周辺部の出力の相違が確実に精度よく補正できる。
【0025】
本実施例1の作用効果について、さらに説明する。
実施例1では、サーモパイル素子をマトリクス状に配置し、切り替えて測定することにより、温度分布を測定するものである。車室内のように比較的大きいものを測定する場合、その一部の測定であっても、検出したい面積と同等のサーモパイル素子配列面を設けることは、コスト上、スペース上から困難である。
そのため、レンズを用いて検出エリアを大きくしているのである。しかしながら、レンズを用いると口径触、コサイン四乗則のように中心と周辺部で図3(a)に示すような出力差異を生じるという特有の課題が生じる。これを実施例1では、DA変換しつつ補正を行っているのである。さらに、この補正は増幅前に行うことにより、その中心と周辺部とに起因する出力差異が増幅されないようにできるのである。
【0026】
(その他の実施の形態)
以上、本発明の実施の形態を実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0027】
増幅部の回路構成は、別のものであってもよく、実施例1中に示す数式を用いてソフト上で行うものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の温度分布測定装置のブロック図である。
【図2】実施例1の温度測定装置の第1増幅部の回路構成図である。
【図3】実施例1の温度測定装置の波形処理例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 サーモパイルモジュール
11 レンズ
12 サーモパイルユニット
121 サーモパイル素子
13 スキャン部
14 第1増幅部
141 マイナス入力部
142 プラス入力部
143 DA入力部
144 負帰還部
15 基準温度素子
16 第2増幅部
17 差動増幅部
2 マイコン
21 信号出力部
22 マルチプレクサ
23 DA変換信号出力部
3 検出エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を分布状に検出する複数の素子と、
検出範囲から集光するレンズと、
検出信号の増幅を行う増幅部と、
を備える温度分布測定装置において、
前記増幅部は、
前記検出信号とレンズの口径触又はコサイン四乗則による中心と周辺部の出力の相違を補正するDA変換信号を加算した、
ことを特徴とする温度分布測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温度分布測定装置において、
温度変換の校正の際に前記検出信号からDA変換信号を生成する、
ことを特徴とする温度分布測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−292552(P2006−292552A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114042(P2005−114042)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】