説明

温度応答性高分子使用した水性二相抽出により、海水中の塩分を抽出除去することを基本にした、海水淡水化プロセス

【課題】RO膜淡水化法よりコンパクトな装置で、しかもより大量の海水を淡水にすることを可能にするプロセスを提供する。
【解決手段】海水淡水化プロセスにおいて、温度応答性高分子を海水に加えて、海水を二液相にして塩分を抽出し、当該高分子を含む水溶液から逆浸透膜法により水分を分離した後に、当該高分子を循環再使用するというプロセスを適用することにより、現行のプロセスより小型で、かつ高性能の淡水化プロセスが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水に温度応答性高分子を加えると、ある温度範囲で水相が二液相を形成することを利用して、海水中の塩分を抽出分離することを、特徴とする。
本発明は、「高分子」物質と水を逆浸透膜により分離し、「高分子」物質を循環再使用することを、特徴とする。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化の法には、蒸発法と逆浸透膜法があるが、より省エネルギーであるので後者の方が多く、実用化されている。現在使用されている逆浸透膜(RO膜、Reverse Osmosis Membrance)による海水淡水化法は、親水性の膜を用いて食塩と水を分離する方法である。RO膜法では、膜の材質の選択が重要で、親水性で水をより多く透過し、食塩(Naイオン、Clイオン)を透過しない膜が良い膜とされている。現在RO膜として、主として芳香族ポリアミド系高分子の複合膜が用いられている。しかしながら、現行の方法では、食塩と水の分子の大きさが余り違わないので、孔径の小さな膜(通常1nm前後)を使用せざるを得ない。したがって水の膜透過速度が小さくなり、その分膜面積を大きく取らざるを得ない。よって、淡水化装置が大きくなるのを避けられない。
今回提案する方法は、塩分は溶剤抽出により海水から除去し、「高分子」物質は水溶液からRO膜で回収する方法である。
ある種の温度応答性高分子を水に入れると低温では水が一相であったのが、ある温度以上になると二液相を形成するようになる。なお水が二液相を形成する一番低い温度を下部臨界溶液温度(LCST,Lower Critical Solution Temperature)と云う。温度応答を示す高分子として、ポリ−N−置換(メタ)アクリルアミド系、ポリ(アルコキシ(メタ)アクリレート)、およびポリビニルエーテル系の「高分子」が知られている。
この例として、図1に「高分子」であるポリ−N−ビニルカプロラクタム(PVCL,Poly−N−Vinylcaprolactam)の水中での相転移温度を示した。この図で、横軸は水中のPVCLの濃度(質量分率)であり、縦軸は温度である。このPVCLのLCSTは32.5℃(=305.7K)付近である。この温度より高い温度では、親水性のPVCL相と疎水性のPVCL相に分離する。PVCL水溶液に食塩を食えると、LCSTが次第に低くなり、NaCl濃度が0.050〜0.065(質量分率)では、LCSTは25.0℃(298.15K)になることが分かる。
○印のPVCLの平均分子量は13、000で、●印のPVCLの平均分子は1、150である。分子量はかなり違うが、塩濃度が高くなるにつれてLCSTが低くなる傾向は変わらない。さらにLCSTは塩濃度が濃くなるほど、PVCLの質量分率が小さい方向に移動することがわかる。図1では、LCST点の組成はPVCL質量分率0.075から0.013へ移動している。さらに同じ「高分子」では、分子量が大きい方が、LCSTは高くなることが知られている。
図2に予想される水−食塩−PVCL(平均分子量:1,150)系の相平衡を示した。現在実験データとしては、前述のForoutan and Zarrabi(2008)2)の狭い範囲での溶解度テータ(Binodal curve)しか知られていないので、図2の溶解度曲線ならびにタイライン(Tie line)は想定したものである。この図は、海水濃度の塩分(NaCl=0.035[−])の海水F(=E)をPVCL水溶液(PVCL=0.05[−])Pで抽出した場合の想定図である。この図から一回抽出後、大量の低塩分の抽出液Eと、少量の高塩分の抽残液Rが得られることが分かる。すなわち、液量はE>Rとなる。
【0003】
【非特許文献1】図1中の引用文献 1)Maeda,Y.,Nakamura,T.,Ikeda,I.,Hydration and Phase Behavior of Poly(N−vinylcaprolactam) and Poly(N−vinylpyroolidone)in Water,Macromolecules 2002,35,217−222.
【0004】
【非特許文献2】

【0005】
【非特許文献3】図3の引用文献 吉田 亮著 “ 高分子先端材料One Point 2 高分子ゲル”,共立出版,東京p.19,(2004)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0002]で述べたように、現在使用されているRO膜による海水淡水化法は、親水性の膜を用いて食塩と水を分離する方法である。この方法では、食塩と水の分子の大きさが余り違わないので、膜の孔径を小さくせざるを得ない。従ってRO膜間にかける圧力を上げても、膜中を水が透過する速度には限度がある。それに対して今回提案する方法は、液液抽出により海水中の塩分を分離し、疎水性状態の「高分子」と水を親水性RO膜により分離する方法である。「高分子」物質と水の分子サイズの大きな違いにより、食塩と水の時より遥かに孔径が大きい膜が使用できるので、水が高速で膜を透過することができるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、以下のような海水淡水化プロセスを考案した。
1)海水に濃度一定の「高分子」水溶液を加えて二液相を形成させ、塩分濃度が低い海水相と高い海水相に分離させる。ついで、2)それぞれ両相から、RO膜法で「高分子」物質を回収する(濃縮させる)。そして、3)濃縮された「高分子」溶液を1)に戻し、再使用する。さらに、4)必要に応じて、より一層低濃度塩の淡水を得るために、1)−3)の操作を数回繰り返すプロセスを追加する。
さらに「高分子」は、図3に示したように、親水性領域では紐状で存在しているが、疎水性領域では縮んで丸まった状態で存在している。したがって、出来るだけ高分子の疎水性領域で、「高分子」と水の分離を行うようにした方が良い。
【発明の効果】
【0008】
本淡水化プロセスは、従来のRO膜淡水化法よりコンパクトな装置で、しかもより大量の海水を淡水にすることを可能にするプロセスである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態は、図4および5に示した。
以下では図4の淡水化プロセスの説明を▲1▼、▲2▼および▲3▼に分けて行う。
▲1▼ NaClの抽出操作:3.4%の食塩NaClを含む海水と5%のPVCL水溶液を混合器(mixer)に入れ、良く撹拌した後、この混合物を静置槽(Settler)に入れて、相分離を行わせる。この図では、Mixer−Settler型装置で考えたが、密度差小さく相分離に時間が掛かるときには、遠心式の連続抽出装置を使用する。
▲2▼ PVCLの膜分離I: 抽出相Eを膜分離により、PVCLを含む水相PEM1とPVCLを含まない水相EM1に分ける。前者のPEM1は、▲1▼の混合器に戻し、後者のEM1を低濃度NaCl水溶液としてこのプロセスから取り出す。
▲3▼ PVCLの膜分離II:抽残相Rを膜分離により、PVCLを含む水相PRM1とPVCLを含まない水相RM1に分ける。そして前者を混合器に戻し、後者を廃棄する。
ついで図5の淡水化プロセスの説明を行う。
図4の▲2▼から取り出した水相EM1の塩分濃度が依然高過ぎて、飲料水レベルに達していないときには、(a)または(b)の操作を行う。(a)の操作は図4の操作と同じであるが、抽出液PのPVCL濃度は10%にしてある。飲料水はEM2として取り出す。(b)の操作は、従来の方法で、RO膜によりNaClと水を分離する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】水中のPVCL濃度と温度との関係図。この図は、文献1)および2)からの想定により、作られたものである。塩の濃度が大きくなにつれて、LCST温度は低くなり、PVCL濃度も小さくなることが分かる。
【図2】横軸にPVCLの質量分率を、縦軸に食塩濃度をとった相平衡図。データ(○印)は文献2)の溶解度データ(Binodal data)のみである。したがって、広範囲の溶解度曲線ならびに、EとRのタイライン(Tieline)は、想定図である。
【図3】温度応答高分子の構造変化の概念図。この「高分子」の形状は、水中で温度が高くなるにつれて、(親水性の)紐状からから(疎水性の)丸まった状態になることが知られている。この図は、吉田 亮の著書より作成した。
【図4】今回提案された淡水化プロセスの図。このプロセスでは、NaClは抽出により水から分離し、PVCLは膜分離により水から分離する。さらにPVCLはリサイクルして再使用する。
【図5】提案された追加プロセスの図。この図は、図4のプロセスでNaClの除去が十分でないときの、追加プロセスである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は、温度応答性高分子水溶液(注1)を海水に加え、海水を二液相にして、海水中の塩分(注2)を抽出除去することを基本にした、海水淡水化プロセスであることを特徴とする。
(注1)以後、温度応答性高分子を「高分子」と云う。
(注2)塩分には、塩化ナトリウムだけでなく、マグネシウム、カルシウム、カリウムの塩類(塩酸塩や硫酸塩)やホウ酸塩だけでなく、ホウ酸も含まれる。
本プロセスには以下の特徴がある。
(1)本プロセスでは、海水中の塩分は液液抽出により除去する。
(2)本プロセスでは、海水中の「高分子」は、出来るだけ疎水性領域で、逆浸透膜法で濃縮(分離)する。
(3)本プロセスでは、濃縮された「高分子」は循環して再使用する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274252(P2010−274252A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144693(P2009−144693)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(505319234)
【Fターム(参考)】