説明

温度推定装置及び温度推定方法

【課題】対象物の温度分布を推定する。
【解決手段】所定の輻射率範囲内の輻射率をもつ領域Aの温度情報を測定対象物10の熱画像から取り込むステップと、取り込まれた温度情報に基づいて、その輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を推定するステップと、取り込まれた温度情報と推定された温度情報とに基づいて、測定対象物10の温度分布を作成するステップと、を備える温度推定方法が提供される。また、この方法により測定対象物10の温度分布を推定する温度推定装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の温度を推定するための温度推定装置及び温度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サーモグラフィ及び気象データ計測機器の測定結果を用いて、温度計を埋設できない地盤表層領域の地中温度を求める地中温度測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−48054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にサーモグラフィは表面の比較的広い範囲で相対的に温度を比較することができる簡便で有用な方法である。しかし、表面の輻射率が不明である場合には絶対温度の精度は保証されない。特に表面が光沢をもつ場合には反射の影響により測定誤差が大きくなることが知られている。
【0005】
そこで、本発明は、対象物の温度分布を精度よく推定することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、対象物を表す解析モデルに温度分布を与えるための温度推定装置が提供される。この装置は、前記対象物の熱画像を撮像するサーモグラフィユニットを含む温度情報取得部と、前記解析モデルにおいて輻射率の既知領域に設定される測定点の位置と、前記熱画像を含む温度情報から得られる当該測定点の温度とを対応づける温度情報処理部と、前記解析モデルにおいて輻射率の未知領域に設定される評価点の温度を、当該評価点と前記測定点との位置関係及び前記測定点の温度に基づいて推定する温度推定部と、を備える。温度推定部は、前記測定点の温度を該測定点の位置における温度拘束境界条件として伝熱解析を実行することにより、前記解析モデルにおいて輻射率の未知領域に設定される評価点の温度を推定してもよい。
【0007】
本発明の別の態様は、解析装置である。この装置は、本発明の一実施形態に係る温度推定装置により作成された温度分布を用いて解析モデルに設定される評価範囲の熱変形を解析する。
【0008】
本発明のさらに別の態様は、対象物を表す解析モデルに温度分布を与えるための温度推定方法である。この方法は、前記対象物の熱画像を含む温度情報を取得するステップと、前記解析モデルにおいて輻射率の既知領域に設定される測定点の位置と、前記温度情報から得られる当該測定点の温度とを対応づけるステップと、前記解析モデルにおいて輻射率の未知領域に設定される評価点の温度を推定するステップと、を備える。推定ステップは、当該評価点と前記測定点との位置関係及び前記測定点の温度に基づいて評価点の温度を推定してもよい。推定ステップは、前記測定点の温度を該測定点の位置における温度拘束境界条件として伝熱解析を実行することにより評価点の温度を推定してもよい。
【0009】
本発明のさらに別の態様は、温度推定方法である。この方法は、所定の輻射率範囲内の輻射率をもつ領域の温度情報を対象物の熱画像から取り込むステップと、取り込まれた温度情報に基づいて、前記輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を推定するステップと、取り込まれた温度情報と推定された温度情報とに基づいて、前記対象物の温度分布を作成するステップと、を備える。
【0010】
本発明のさらに別の態様は、温度推定装置である。この装置は、物体表面の輻射率が既知である部位から放射される赤外線放射エネルギーを検出することにより当該部位の温度を測定する温度測定部と、前記物体において輻射率が未知である部位の温度を、輻射率が既知である部位との位置関係と測定温度とに基づいて推定することにより、前記物体の温度分布を作成する温度推定部と、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、データ構造、記録媒体等の間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物の温度分布を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る温度推定装置に好適な射出成型機の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る温度推定装置の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の他の一実施形態に係る温度推定装置の構成を模式的に示す図である。
【図4】本発明の他の一実施形態に係る温度推定装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る処理装置の構成を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る温度推定装置が処理する主な機能ブロックを図示したものである。
【図7】本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る解析モデルの一例を模式的に示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、サーモグラフィを用いて光沢のある面の温度分布を推定する方法が提供される。光沢面には黒体マークが形成され、そのマークにおける実測温度から光沢面の他の領域の温度分布が推定される。黒体マーク領域の温度情報は対象物の解析モデル上のマーク位置に対応づけられ、黒体マーク以外の領域の温度情報は排除される。黒体マーク領域の温度情報に基づく推定により、排除された領域の温度情報が新たに生成される。このようにして、限られた箇所の温度測定結果から比較的精度のよい温度分布を作成することができる。得られた温度分布を解析モデルに与えて、精度のよい解析結果を得ることも可能となる。
【0015】
本発明は光沢面の温度推定には限られず、以下に詳しく説明するように、輻射率の未知領域と既知領域とを有する対象物の温度推定にも適用可能である。ある領域の輻射率が所定の輻射率範囲にあるか否かを識別可能である対象物についても適用することができる。温度センサはサーモグラフィには限られず、他の非接触式の温度センサを用いてもよい。接触式の温度センサを用いることも可能である。また、得られた温度分布の用途は解析モデルへの付与には限られない。本発明は、対象物の表面または内部の温度分布を求める場合に広く適用することができる。
【0016】
よって、一実施形態に係る温度推定装置は、輻射率の既知領域と未知領域とを含む表面を有する物体の熱画像を取得してもよい。温度推定装置は、既知領域上に設定される測定点の位置と、熱画像から得られる当該測定点の温度とを対応づけてもよい。温度推定装置は、測定点の位置及び温度に基づいて、輻射率の未知領域上に設定される評価点の温度を推定してもよい。温度推定装置は、測定点の温度と評価点の温度とを組み合わせて物体の温度分布を作成してもよい。こうして、熱画像上の見かけの温度分布を実際の温度分布へと修正することができる。評価点が対象物内部に設定されている場合には、内部の温度分布を推定することもできる。
【0017】
この態様によると、絶対温度の精度が保証されない輻射率の未知領域の温度情報を、既知領域の温度情報に基づく推定値に置き換えることができる。こうして得られた温度分布は、当初得られた熱画像そのものよりも正確であると期待される。より正確な温度分布を解析モデルに与えることにより、精度の高い解析結果を得ることができる。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る温度推定装置に好適な射出成型機の正面図である。射出成形機340は、射出装置350及び型締装置370を含んで構成される。
【0019】
射出装置350は、加熱シリンダ351を備え、加熱シリンダ351に、樹脂を供給するホッパ352が配設される。また、加熱シリンダ351内に、スクリュー353が進退自在かつ回転自在に配設される。スクリュー353の後端は、支持部材354によって回転自在に支持される。支持部材354に、サーボモータ等の計量モータ355が駆動部として取り付けられている。計量モータ355の回転が、計量モータ355の出力軸361に取り付けられたタイミングベルト356を介して、被駆動部のスクリュー353に伝達される。計量モータ355の出力軸361の後端に、検出器362が直結している。検出器362は、計量モータ355の回転数または回転量を検出する。検出器362により検出された回転数または回転量に基づいて、スクリュー353の回転速度が求められる。
【0020】
射出装置350はさらに、スクリュー353と平行なねじ軸357を回転自在に備える。ねじ軸357の後端は、サーボモータ等の射出モータ359の出力軸363に取り付けられたタイミングベルト358を介して、射出モータ359に連結されている。従って、射出モータ359によってねじ軸357を回転させることができる。ねじ軸357の前端は支持部材354に固定されたナット360と螺合させられる。駆動部である射出モータ359を駆動し、タイミングベルト358を介して駆動伝達部であるねじ軸357を回転させると、支持部材354が前後進する。
【0021】
支持部材354に、荷重の検出器であるロードセル365が取り付けられている。支持部材354の前後進運動が、ロードセル365を介してスクリュー353に伝えられることにより、スクリュー353が前後進する。ロードセル365により検出された力に対応するデータが、制御装置310に送出される。射出モータ359の出力軸363の後端に、検出器364が直結している。検出器364は、射出モータ359の回転数または回転量を検出する。検出器364により検出された回転数及び回転量に基づいて、スクリュー353の前後進方向の移動速度または前後進方向の位置が求められる。
【0022】
型締装置370は、可動側の金型371が取り付けられた可動プラテン372と、固定側の金型373が取り付けられた固定プラテン374とを含む。可動プラテン372と固定プラテン374とは、タイバー375によって連結される。可動プラテン372はタイバー375に沿って摺動可能である。また、型締装置370は、トグル機構377を含む。トグル機構377は、一端が可動プラテン372と連結し、他端がトグルサポート376と連結する。トグルサポート376の中央において、ボールねじ軸379が回転自在に支持されている。トグル機構377に設けられたクロスヘッド380に固定されたナット381が、ボールねじ軸379に螺合させられている。また、ボールねじ軸379の後端にプーリ382が配設され、サーボモータ等の型締モータ378の出力軸383とプーリ382との間に、タイミングベルト384が架け渡されている。
【0023】
型締装置370において、駆動部である型締モータ378を駆動すると、型締モータ378の回転が、タイミングベルト384を介して、駆動伝達部であるボールねじ軸379に伝達される。そして、ボールねじ軸379及びナット381によって、運動方向が回転運動から直線運動に変換され、トグル機構377が作動させられる。トグル機構377の作動により、可動プラテン372がタイバー375に沿って摺動し、型閉じ、型締め及び型開きが行われる。
【0024】
型締モータ378の出力軸383の後端に、検出器385が直結している。検出器385は、型締モータ378の回転数または回転量を検出する。検出器385により検出された回転数または回転量に基づいて、ボールねじ軸379の回転に伴って進退するクロスヘッド380の位置、または、トグル機構377によってクロスヘッド380に連結された被駆動部である可動プラテン372の位置が求められる。制御装置310が、計量モータ355、射出モータ359、型締モータ378を制御する。
【0025】
図1において破線で示すように、可動側の金型371と固定側の金型373との間の金型内部に、キャビティcavが形成される。キャビティcavと加熱シリンダ351の内部とが連通している。
【0026】
射出成形機340には、可動側の金型371及び固定側の金型373を所定の温度に維持するために金型温調システム(図示せず)が付随して設けられている。また、金型温調システムとは別系統の温調システムが射出成形機340に付随して設けられていてもよい。この別系統の温調システムは射出成形機340の構成要素(例えばタイバー375、プラテン372、374)の温度を制御するよう構成されている。温調システムにおいては例えば、温度制御対象(例えば金型)内の各所に温調部位が設定され、該各温調部位に温調用の媒体を流すための媒体流路が形成されている。また、各媒体流路と温調制御器とが接続されている。温調システムは、温度制御対象の内部または表面を直接加熱または冷却するためのヒータまたは冷却源を備えてもよい。これらヒータまたは冷却源も温調制御器に接続され、対象を所定の温度に維持するために制御されてもよい。
【0027】
可動側の金型371及び固定側の金型373は通常、温調システムにより周囲の室温よりも高温に維持されている。また、周囲に配置されている各モータからの排熱や、キャビティcavに供給される溶融樹脂などからの熱流入が存在する。このため、金型371、373や、タイバー375及びプラテン372、374等の射出成形機340の各要素には温度分布が生じる。温度分布に起因する熱変形が射出成形品の形状精度に与える影響はなるべく小さいことが好ましい。よって、熱変形解析を考慮して金型及び射出成形機340が設計されることが好ましい。
【0028】
一実施例においては、金型及び射出成形機340の露出された金属表面に温度測定用マーク300が形成される。温度測定用マーク300は、例えば公知の黒体テープを金属光沢面に貼り付けることにより形成される。なお図においては黒色の四角でマーク300を表しているが、これは説明の便宜のためにすぎない。マーク300の外観(例えば形状、色)は適宜定めることができる。マーク300は、温度測定対象となる部品ごとに複数箇所に設けることが好ましく、図1に示される例においては金型371、373、タイバー375、及びプラテン372、374のそれぞれに複数の温度測定用マーク300が形成されている。後述するように、温度測定用マーク300を有する対象物の熱画像がサーモグラフィユニット(図2参照)により撮像される。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る温度推定装置100の構成を模式的に示す図である。温度推定装置100は測定対象物10の温度分布を推定するための装置であり、例えば、測定対象物10を表す解析モデルに温度分布を与えるための装置である。測定対象物10の表面には、輻射率が既知である測定マークAが予め形成されている。温度推定装置100は、複数のサーモグラフィユニット20、30と、処理装置40とを含んで構成される。図2において説明の便宜上、紙面の左右方向をX軸方向、上下方向をY軸方向、奥行き方向をZ軸方向とするXYZ直交座標系を定義する。測定マークAは斜線を付して示している。
【0030】
図示される一実施例においては、測定対象物10は直方体状の形状を有する物体である。また、測定対象物10は、例えば光沢面等の輻射率の小さい表面を有する。測定対象物10は例えば成形装置において使用される固定側または可動側の金型であってもよいし、射出成形機の固定側または可動側のプラテン及びその他の構成部品であってもよい。これらの場合、通常、測定対象物10は、金属材料が露出されている平面を表面に有する。図2において、測定対象物10の第1面31はXY面に平行(すなわちZ軸に垂直)であり、第2面32はYZ面に平行(X軸に垂直)であり、第3面33はXZ面に平行(Y軸に垂直)である。
【0031】
測定対象物10の表面に複数の測定マークAが予め設けられている。測定対象物10の使用時または動作時に観察可能である面に測定マークAが設けられていることが好ましい。測定対象物10の第1面31及び第2面32にそれぞれ複数の測定マークAが設けられており、第3面33には測定マークAは設けられていない。第1面31及び第2面32においては4隅に測定マークAが設けられている。一実施例においては、測定対象物10の第1面31及び第2面32はそれぞれ金型またはプラテンの側面及び上面であり、第3面33は金型のキャビティ面またはプラテンの金型取付面である。
【0032】
測定マークAは輻射率が既知の領域であり、例えば黒体領域である。一実施例においては測定マークAは擬似黒体領域であってもよい。擬似黒体領域は、輻射率εが1に十分に近い値を有し(例えば波長10μmの赤外線に対しε≧0.8)、その輻射率が既知である対象物表面上の領域である。擬似黒体領域は、公知の黒体テープを測定対象物10の表面の一部に貼り付けることにより、または公知の黒体塗料を表面の一部に塗布することにより形成されてもよい。
【0033】
測定対象物10において測定マークA以外の領域は一般に、輻射率が未知である。本発明に好適な一実施例において測定マークA以外の領域は測定マークAに比べて輻射率が有意に小さい領域であり、測定マークA以外の領域は例えば金属光沢面である。この場合、測定マークA以外の領域の輻射率は測定マークAよりも相当に小さく、例えば波長10μmの赤外線に対しε≦0.2である。
【0034】
温度推定装置100は、サーモグラフィユニット20、30を含む温度情報取得部を備える。図示される一実施例においては、温度情報取得部は、第1サーモグラフィユニット20及び第2サーモグラフィユニット30を含む。サーモグラフィユニット20、30は測定対象物10の熱画像を撮像するための装置であり、例えば公知のサーモグラフィ装置または赤外線カメラである。サーモグラフィユニット20、30は、熱画像データを処理装置40に出力するよう接続されている。
【0035】
サーモグラフィユニット20、30は、被写体の発する赤外線放射エネルギーを検出し、検出したエネルギー量を見かけの温度に変換して、被写体の相対温度分布を示す熱画像を生成する。すなわち、サーモグラフィユニット20、30は、対象の発する赤外線放射エネルギーを内蔵された赤外光学系を通じて赤外線センサの受像面で検出し、受像面上の各受光点での検出エネルギー量を表す信号を生成する。仮定された輻射率のもとで(例えば撮像対象が黒体であると仮定して)検出エネルギー量を温度に変換して各画素値に割り当てることにより、熱画像が得られる。
【0036】
一実施例においては、複数のサーモグラフィユニットが測定対象物10の複数の面をそれぞれ撮像するよう複数のサーモグラフィユニットが配置されていてもよい。例えば3つのサーモグラフィユニットを設け、X方向、Y方向、Z方向のそれぞれから測定対象物を撮像するようにしてもよい。このようにすれば、測定対象物表面の熱画像を3次元で得ることができる。また、測定対象物表面の2次元の熱画像を取得すれば十分である用途においては、1つのサーモグラフィユニットにより測定対象物10のその表面を撮像するようにしてもよい。
【0037】
図示される一実施例においては、第1サーモグラフィユニット20は測定対象物10の第1面31を撮像し、第2サーモグラフィユニット30は測定対象物10の第2面32を撮像する。第1サーモグラフィユニット20の光軸は第1面31に垂直であり(すなわちZ軸方向)、第2サーモグラフィユニット30の光軸は第2面32に垂直であるように(すなわちX軸方向)、各サーモグラフィユニット20、30は配置されている。なお、測定マークAを有する測定対象物10の複数の面が共通のサーモグラフィユニットで撮像されてもよい。
【0038】
図3は、本発明の他の一実施形態に係る温度推定装置100の構成を模式的に示す図である。図2に示す実施例と共通する構成については、冗長を避けるため同じ符号を付し説明を適宜省略する。測定対象物10に形成された測定マークAは、輻射率が既知である領域B上に位置特定用マークCが形成された構成を有する。つまり、輻射率既知領域Bを背景としてスポット状の位置特定用マークCが設けられている。輻射率既知領域Bは図2に示す測定マークAと同様でよく、例えば擬似黒体領域である。例えば、輻射率既知領域Bを白色の黒体テープまたは黒体塗料により形成し、位置特定用マークCを黒色に形成して、位置特定用マークCの視認性を高めるようにしてもよい。推定精度を高めるために、測定マークAは多数設けられている。また、測定マークAは、測定対象物10の表面の全体に分布している。図示されるように、測定マークAは例えば千鳥状に配列されていてもよい。
【0039】
温度推定装置100は、観測装置50、60を備える。観測装置50、60は、サーモグラフィユニット20、30と、位置特定用マークCを検出するための撮像装置41、42とを含んで構成される。撮像装置41、42は例えば公知のCCDカメラである。撮像装置41、42は、サーモグラフィユニット20、30と同様に撮像した画像データを処理装置40に出力するよう接続されている。
【0040】
図3に示される実施例においては、第1観測装置50は測定対象物10の第1面31を撮像し、第2観測装置60は測定対象物10の第2面32を撮像する。測定対象物10の他の面または部位を撮像するための更なる観測装置が設けられていてもよい。第1観測装置50の第1サーモグラフィユニット20及び第1撮像装置41の光軸は第1面31に垂直であり、第2サーモグラフィユニット30及び第2撮像装置42の光軸は第2面32に垂直であるように、各観測装置50、60は配置されている。各観測装置50、60におけるサーモグラフィユニット20、30に定義されたローカルの座標系と撮像装置41、42に定義されたローカルの座標系との関係は予め計測または調整され処理装置40に記憶され既知とされている。つまり、各観測装置50、60におけるサーモグラフィユニット20、30と撮像装置41、42との位置関係は予め較正されている。
【0041】
本実施例では、測定マークAに1からnまで通番を付したとき、第1面31の測定マークA〜Aが第1観測装置50で観測され、第2面32の測定マークAi+1〜Aが第2観測装置60で観測される。第1面31に垂直な光軸をもつ第1撮像装置41で第1面31の測定マークA〜Aを観測することにより、第1面31の測定マークA〜Aの面内方向(XY面)の変位を求めることができる。同様にして、第2撮像装置42の画像に基づいて第2面32の測定マークAi+1〜Aの面内方向(YZ面)の変位を求めることができる。
【0042】
他の実施例では、すべての測定マークA〜Aまたは一部の測定マークA〜Aj+mが複数の観測装置50、60で観測されるようにしてもよい。公知のステレオ計測法を用いて複数の観測装置50、60で共通の測定マークAを観測することにより、測定マークAの位置を3次元で測定するようにしてもよい。あるいは、1つの観測装置50、60ですべての測定マークA〜Aまたは一部の測定マークA〜Aj+mを観測するようにしてもよい。
【0043】
位置特定用マークCを有する測定マークAを用いることにより、測定対象物10のマーク位置における熱変形を直接測定することができる。また、測定対象物10に外力が作用したときのマーク位置における変位量を測定することができる。処理装置40は、後述する温度推定処理と同様の手法により(例えば補間関数を算出することにより)、測定された各マーク位置での変位量に基づいて測定対象物10の変位分布を推定する処理を実行してもよい。例えば図1に示す射出成形機340において型締めを行うと、可動側の金型371及び固定側の金型373に応力が印加される。また、温調等に起因する熱変形も生じる。このときの金型のわずかな変形を観測することは、射出成形品の形状精度を高める観点から好ましい。
【0044】
図4は、本発明の他の一実施形態に係る温度推定装置100の構成を模式的に示す図である。図2及び図3に示す実施例と共通する構成については、冗長を避けるため同じ符号を付し説明を適宜省略する。なお、図4に示す測定マークAは図2と同様の構成としているが、図3に示す位置測定用マーク付きの測定マークとしてもよい。
【0045】
温度推定装置100の温度情報取得部は、サーモグラフィユニット20、30に加えて、更なる他の温度センサ45、47を含む。温度センサ45、47は、サーモグラフィユニット20、30により撮像されない測定対象物10上の領域の温度測定を分担している。つまり、温度センサ45、47は、サーモグラフィユニット20、30の撮像可能領域外に設けられている。サーモグラフィユニット20、30の撮像領域には温度センサは設置されず、測定対象物10の表面(または測定マークA)が露出されている。なお、一実施例においては、サーモグラフィユニット20、30の撮像領域にも温度センサを設けてもよい。
【0046】
例えば第1温度センサ45は、サーモグラフィユニット20、30から見て測定対象物10の手前にある障害物70の背後に設けられている。障害物70もまた温度測定対象であってもよく、この場合、サーモグラフィユニット20、30により撮像可能な障害物70の表面に測定マークAが設けられていてもよい。測定対象物10が例えば金型である場合、障害物70は例えば射出成形機のタイバーである。第2温度センサ47は、サーモグラフィユニット20、30から見ることのできない第3面33に設けられている。これらの他の温度センサは、サーモグラフィユニット20、30と同様に、温度測定結果を処理装置40に出力するよう接続されている。
【0047】
温度センサ45、47は接触式の温度センサであってもよく、例えば公知の熱電対であってもよい。温度センサ45、47は、測定対象物10の表面に取り付けられていてもよいし、測定対象物10の内部に設けられていてもよい。一実施例においては、温度センサ45、47は、測定対象物10の温調システムに含まれる温度センサであってもよい。また、サーモグラフィユニット20、30が温度センサとして測定対象物10の温調システムに組み込まれていてもよい。
【0048】
また、温度センサ45、47は非接触式の温度センサであってもよい。例えば、赤外線放射エネルギーを検出することにより温度を測定する放射温度計であってもよい。この場合、非接触温度センサに対向する測定対象物10の表面には測定マークAが設けられていることが好ましい。なお、一実施例においては、温度推定装置100は、サーモグラフィユニット20、30を用いずに、他の非接触温度センサで測定対象物10上の測定点(例えば測定マーク)を順次測定することにより温度情報を取得してもよい。
【0049】
図5は、本発明の一実施形態に係る処理装置40の構成を模式的に示す図である。なお、図5のハードウェア構成は例示であり、これに限定されないのは当然である。図5に示すように、処理装置40は、制御部3、記憶装置5、メディア入出力部6、入力部7、表示部9、プリンタポート11、接続ポート14等がバス13を介して互いに接続されている。制御部3は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含んで構成され、例えば記憶手段としての記憶装置5に格納されたプログラムに従って、バス13を介して接続された各装置を駆動制御する。処理装置40は例えば公知のパソコンであってもよい。
【0050】
記憶装置5には、温度推定装置100の各構成部分を駆動制御するための制御プログラムや、本発明の一実施例を実施するための温度推定プログラム、伝熱解析プログラム、及び熱変形解析プログラム等が格納されている。メディア入出力部6は、フレキシブルディスク、CD、DVD等のメディアとの間で情報の入出力を行う装置である。入力部7は、制御部3で実行される処理に関係するユーザの入力を受けるためのキーボード、マウス等の入力装置であり、表示部9はディスプレイ等の表示機器である。プリンタポート11には出力装置としてのプリンタ12等が接続される。接続ポート14にはサーモグラフィユニット20、30等の観測装置が接続される。接続ポート14には、撮像装置41、42、あるいは他の温度センサ45、47等も同様に接続されてもよい。
【0051】
図6は、本発明の一実施形態に係る温度推定装置100が処理する主な機能ブロックを図示したものである。上述のように、温度推定装置100は、制御部3と温度情報取得部110とを含んで構成される。制御部3は、温度情報取得部110から入力される温度情報に基づいて、測定対象物10を表す解析モデルの温度分布推定処理、熱変形解析処理、伝熱解析処理、及び、得られた結果の表示処理を含む各種処理を実行する。
【0052】
温度情報取得部110は、第1サーモグラフィユニット20及び第2サーモグラフィユニット30を含んで構成される。温度情報取得部110は、第3のサーモグラフィユニットを更に含んでもよい。また、図4を参照して述べたように、接触式または非接触式の温度センサ45、47をさらに含んでもよい。温度情報取得部110は、取得された温度データを制御部3または記憶装置5に出力するよう構成されている。制御部3は、温度情報取得部110からの温度データの入力を受けて、または記憶装置5から温度データを読み出して、温度データを処理する。
【0053】
制御部3は、温度情報処理部120、温度推定部122、モデル生成部124、熱変形解析部126、伝熱解析部128、及び解析結果処理部130を含んで構成される。制御部3は、記憶装置5に格納されたプログラムを読み込み、当該プログラムに定められた演算を実行することにより、温度情報処理部120、温度推定部122、モデル生成部124、熱変形解析部126、伝熱解析部128、及び解析結果処理部130としての機能を果たすよう構成されている。
【0054】
温度情報処理部120は、測定対象物10上に設定されている測定点の位置と、取得された温度情報から得られる当該測定点の温度とを対応づける処理を実行する。温度推定部122は、温度を推定すべき位置と測定点との位置関係と測定点温度とに基づいて温度を推定する処理を実行する。モデル生成部124は、測定対象物10を表す解析モデルを生成する。熱変形解析部126は、与えられた温度分布のもとで解析モデルの熱変形を解析する処理を行う。熱変形解析とは一般に、ある温度分布をもつ解析対象に生じる熱ひずみまたは熱応力を考慮に入れて行われる応力解析である。伝熱解析部128は、解析モデルに対して伝熱解析を実行する。解析結果処理部130は例えば、得られた温度分布や熱変形解析結果、伝熱解析結果を表示または出力するための処理を実行する。
【0055】
なお、温度情報処理部120、温度推定部122、モデル生成部124、熱変形解析部126、伝熱解析部128、及び解析結果処理部130のうち少なくとも1つは、制御部3から物理的に独立している別の制御装置に設けられていてもよい。例えば、熱変形解析部126及び伝熱解析部128はそれぞれ、温度推定装置100から独立した熱変形解析装置及び伝熱解析装置として構成されていてもよい。この場合、熱変形解析装置及び伝熱解析装置はそれぞれ、温度推定装置100から出力された温度分布を用いて熱変形解析及び伝熱解析を実行する。
【0056】
以上の各機能ブロックは、各種演算処理を実行するCPU、データの格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAMなどのハードウェア、およびソフトウェアの連携によって実現される。したがって、これらの機能ブロックはハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって様々な形で実現することができる。
【0057】
図7は、本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、図1乃至図4を参照して説明した実施例に係る温度推定装置100及びこれらに付随して説明した各変形例に適用可能である。図示されるように、まず温度推定の前処理として、測定対象物10に輻射率が既知のマークが形成される(S10)。もちろん、既にマークが形成されている対象物の温度推定を行う場合にはこのマーク形成工程は省略することができる。この工程により、輻射率が未知である物体表面に輻射率が既知の部位が形成される。一実施例においては、測定対象物10の表面に擬似黒体領域を設けることによりマークが形成される。また、測定対象物10のある領域の輻射率を測定し、その領域を温度測定用マークとして設定してもよい。
【0058】
次に、更なる前処理として、測定対象物10の解析モデルが処理装置40上で作成される(S12)。測定対象物10の形状及び寸法、温度が実際に測定される測定位置である測定点、及び温度を推定すべき位置である評価点が少なくとも処理装置40に入力される。測定点は輻射率の既知領域に設定され、評価点は輻射率の未知領域に設定される。作成に必要な情報が処理装置40に入力されることにより、処理装置40は解析モデルを作成する。そのようにして、所定の座標系が定められている空間において、測定対象物10が占める領域、測定点の位置座標、評価点の位置座標が定義される。すなわち、解析モデルにおける測定点と評価点との位置関係が定義される。なお、既に解析モデルが作成済みである場合にはこの処理も省略可能である。
【0059】
ここで、所定の座標系は測定対象物10の形状により適宜定めることが可能であり、例えばXYZ直交座標系、円筒座標系、極座標系等の3次元座標系であってもよい。面内の温度分布を求める場合には2次元座標系であってもよい。なお、解析モデルは熱変形解析または伝熱解析のためのモデルであることが好ましいがこれに限られず、例えば温度分布推定専用の解析モデルであってもよい。
【0060】
図8は、本発明の一実施形態に係る解析モデルの一例を模式的に示す図である。XYZ直交座標系において測定対象物10は多数の有限要素に分割されている。図8は、測定対象物10が立方体の多数の要素に分割された例を示している。各要素の頂点に節点Dが画定される。各要素を、多角形の表面を持つ任意の立体形状としてもよい。この場合、多角形の表面の頂点が節点Dとなる。測定対象物10の表面に複数の測定点A及び評価点Eが定義されている。各節点Dを評価点Eとしてもよい。処理装置40は、測定点A、節点D、評価点Eの位置座標を記憶する。なお、解析モデルは有限要素法を前提とするモデルには限られず、例えば境界要素法などの他の数値解法に適するモデルであってもよい。
【0061】
次に、図7に示されるように、温度情報取得処理が行われる(S14)。一実施例においては、測定対象物10の熱画像がサーモグラフィユニット20、30により撮像される。物体から放射されている赤外線放射エネルギーを検出することにより温度データが作成される。他の温度センサが設けられている場合には、それらの温度センサにより温度が測定される。熱画像及び温度測定結果を含む温度データは処理装置40に入力され、記憶装置5に保存される。
【0062】
処理装置40は、温度推定処理を実行する(S16)。一実施例においては、温度推定処理は、所定の輻射率範囲内の輻射率をもつ領域の温度情報を対象物の熱画像から取り込むステップと、取り込まれた温度情報に基づいて、その輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を推定するステップと、取り込まれた温度情報と推定された温度情報とに基づいて、対象物の温度分布を作成するステップと、を備えてもよい。ここで、所定の輻射率範囲は好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.9以上であってもよい。
【0063】
他の一実施例においては、温度推定処理は、所定の輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を対象物の熱画像から排除するステップと、排除ステップにおいて残された輻射率範囲内の輻射率をもつ領域の温度情報に基づいて、その輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を推定するステップと、排除ステップにおいて残された温度情報と推定ステップにおいて推定された温度情報とに基づいて、対象物の温度分布を作成するステップと、を備えてもよい。
【0064】
処理装置40は、作成した温度分布を出力する(S18)。一実施例においては、処理装置40は温度分布を表示部9に表示する。処理装置40は、熱変形解析装置または伝熱解析装置に温度分布を出力してもよい。あるいは、処理装置40は、作成した温度分布を用いて熱変形解析または伝熱解析を実行してもよい。
【0065】
図9は、本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、輻射率の既知領域上に設定されている測定点の位置と、記憶されている温度データから得られる当該測定点の温度とを対応づけるステップと、輻射率の未知領域上に設定されている評価点の温度を、評価点と測定点との位置関係と測定点温度とに基づいて推定するステップと、を含む。測定点位置に温度データを対応づけるステップは、測定点の位置情報を入力するステップ(S20)と、温度データを取り込むステップ(S22)と、を含む。評価点の温度を推定するステップは、評価点の温度を算出するための補間関数を導出するステップ(S24)と、その補間関数により評価点温度を算出するステップ(S26)と、を含む。
【0066】
図9に示されるように、制御部3の温度情報処理部120は、測定点の位置を表す座標の入力を受ける(S20)。測定点位置座標は、解析モデル上に設定され記憶装置5に保存されている位置データを温度情報処理部120が読み込むことにより入力されてもよいし、ユーザが入力部7を通じて直接入力するようにしてもよい。
【0067】
温度情報処理部120は、記憶装置5に保存されている温度データを取り込む(S22)。一実施例においては、熱画像上の位置と解析モデル上での位置との関係が予め記憶装置5に記憶されている。また、接触式または非接触式の温度センサによる測定位置も予め記憶装置5に記憶されている。よって、温度情報処理部120は例えば、保存されている温度データを読み出した上で各測定点に対応する温度データを選択し、測定点とその温度とを対応づけて記憶装置5に再度保存するようにしてもよい。あるいは、温度情報処理部120は、各測定点に対応する温度データを選択的に抽出し、測定点とその温度とを対応づけてもよい。他の実施例においては、温度測定用のマークの位置が例えば観測装置50、60により実際に測定されてもよい。この場合、温度情報処理部120はマーク位置の測定結果に基づいて測定点の位置と測定温度とを対応づけてもよい。
【0068】
次に、温度推定部122は、評価点の温度を推定するための補間関数を求める(S24)。温度推定部122は、測定点近傍の評価点または各測定点間の領域にある評価点の温度を補間により推定するための補間関数fを求める。一実施例においては、温度推定部122は、輻射率未知領域での熱画像等の測定温度データに依存せずに、測定点の温度データに基づいて輻射率未知領域の温度分布を推定する。他の実施例においては、温度推定部122は、輻射率未知領域の温度データを反映させる補間関数を用いて対象物の温度分布を推定してもよい。
【0069】
一実施例においては、温度分布を求めるべき評価範囲が予め設定されてもよい。この評価範囲は、すべての測定点及び評価点を含むよう対象物の全体に設定されてもよいし、複数の測定点及び評価点を含むよう対象物の一部分に設定されてもよい。温度分布推定の後工程でその温度分布を用いる解析を行う場合には、解析領域を評価範囲として設定することが好ましい。評価範囲は例えば、ユーザが入力部7を通じて直接入力することにより温度推定部122に入力される。
【0070】
温度推定部122は、導出された補間関数により、対象物全体または評価範囲内の評価点の温度を求める(S26)。次に、解析結果処理部130は、測定点温度と評価点温度とから対象物の推定温度分布を作成し、表示部9に表示する(S28)。作成された温度分布は、測定点においてはその測定点の実測温度を有し、評価点においてはその評価点の推定温度を有する温度分布である。解析結果処理部130は例えば、解析モデル上で温度値に応じて異なる色を割り当てることにより、温度分布を表示する。
【0071】
補間関数fの一例を述べる。一実施例においては、温度推定部122は、位置を変数とする補間関数fを定義し、その補間関数fの係数aを測定点温度に基づいて定める。補間関数の係数は例えば最小二乗法で求められる。一例として、二次元平面で表される対象物表面の温度分布を推定するための補間関数を、測定点位置座標の二次関数とする場合、補間関数f(x,y)は次式で表される。
【0072】
【数1】

【0073】
このとき、N個の測定点がある場合には、補間関数の係数aは最小二乗法を用いて次のように求められる。
【0074】
【数2】

【0075】
ここで、行列A、Bは、N個の測定点の位置がそれぞれ、(x,y)、(x,y)、(x,y)、・・・、(x,y)で与えられ、各測定点の温度がT、T、T、・・・、Tである場合には、以下のとおりである。
【0076】
【数3】

【0077】
【数4】

【0078】
なお、例えば、各測定点の温度T、T、T、・・・、Tのうち、T乃至Tのn個の測定温度が熱画像から得られた温度であり、残りのTn+1乃至TのN−n個の測定温度が対象物に直接設けられた温度センサ(例えば熱電対)の測定値である。この場合、(x,y)乃至(x,y)が測定マークA乃至Aの位置を表し、(xn+1,yn+1)乃至(x,y)が温度センサの測定位置を表す。このように、温度推定装置100は、異なる温度測定手段による測定点の位置及び測定温度を共通の形式で管理している。
【0079】
こうして、温度推定部122は、導出された補間関数により評価点(x、y)の温度Tを次式により求めることができる。
【0080】
【数5】

【0081】
上記の実施例では補間関数が二次関数である例を示したが、これに限られない。計算量の低減を重視する場合には一次関数としてもよいし、推定精度を重視する場合には高次の関数としてもよい。また、温度分布を求める対象は二次元平面に限られず、一次元または三次元の対象物についても可能であることは当業者に明らかであろう。
【0082】
また、一実施例においては、温度推定部122は、区分線形補間により評価点の温度を推定してもよい。この場合、補間関数を導出する処理は、解析モデルを複数の補間エリアに分割する処理と、補間エリアごとに補間関数を求める処理とを含んでもよい。
【0083】
例えば、上述のように二次元平面での温度分布を求める場合には、各補間エリアに3つの測定点が含まれるように解析モデルを分割する。なるべく少ない測定点で区分線形補間を行うには、複数の補間エリアが測定点を共有することが好ましい。そのためには、各補間エリアの境界上に測定点がくるようにエリア分割をすることが好ましく、各補間エリアの頂点を測定点とすることがより好ましい。一実施例では、各補間エリアが3つの測定点を頂点とする三角形の形状を有してもよい。各補間エリアの頂点を測定点とするには、複数の測定点を測定対象表面に例えば千鳥状に配置することが好ましい。
【0084】
この場合、各補間エリアの補間関数は例えば次式のように定義することができる。
【0085】
【数6】

【0086】
補間エリアに含まれる3つの測定点の座標がそれぞれ(x,y)、(x,y)、(x,y)であり、各測定点の温度がT、T、Tである場合には、補間関数fの係数a、b、cは次の連立方程式を解くことにより求められる。
【0087】
【数7】

【0088】
その結果、その補間エリア内の評価点(x、y)の温度Tは次式により求められる。
【0089】
【数8】

【0090】
この場合においても、温度分布を求める対象は二次元平面に限られず、一次元または三次元の対象物についても同様に可能であることは当業者に明らかであろう。
【0091】
図10は、本発明の一実施形態に係る温度推定処理を説明するためのフローチャートである。本実施例は、補間関数の代わりに伝熱解析により温度分布を求める点で図9に示す実施例とは異なる。なお以下では、図9に示す実施例と同様の箇所については同じ符号を付し説明は適宜省略する。
【0092】
伝熱解析とは一般に、熱伝導方程式を数値的に解くことにより解析領域の温度分布を求める方法である。伝熱解析においては通常、解析領域の表面全域に境界条件を設定する必要がある。境界条件としては、熱流束を規定する場合と、温度を規定する場合とがある。熱流束を規定する場合には、単位時間当たり一定の発熱(加熱)または吸熱(冷却)があるとする発熱境界条件、熱の流出入がないとする断熱境界条件、及び、ある程度の熱の流出入を許容する熱伝達境界条件がある。発熱境界条件は、解析領域における熱源(ヒータ等)をモデル化するために用いられる。熱伝達境界条件の場合、解析領域と外部領域との熱伝達率と外部領域の温度とが設定される。
【0093】
このように、境界条件として熱流束を規定する場合、解析者が設定しなければならないパラメタは温度を規定する場合に比べて多くなる傾向がある。設定すべきパラメタが多数となるほど、パラメタの設定精度に解析精度が影響されるようになる。しかし、十分な解析精度となるようにすべてのパラメタを設定することは必ずしも容易ではない。
【0094】
図10に示されるように、まず、輻射率の既知領域上に設定されている測定点の位置と、記憶されている温度データから得られる当該測定点の温度とを対応づける処理が実行される。この処理は、測定点の位置情報を入力するステップ(S20)と、温度データを取り込むステップ(S22)と、を含む。次に、伝熱解析部128は、伝熱解析の境界条件を設定し(S30)、定常伝熱解析を実行する(S32)。例えば有限要素法を用いて伝熱解析を行う場合には上述のように要素の接点を評価点として設定することにより、評価点の温度を推定することができる。伝熱解析により得られた温度分布が表示部9に表示される(S28)。
【0095】
一実施例においては、伝熱解析部128は、測定点の実測温度をその測定点の位置における温度拘束境界条件として伝熱解析を実行する。ここで、温度拘束境界条件とは、温度を規定する境界条件をいう。伝熱解析部128は、測定温度が得られていない解析領域表面に対しては熱伝達境界条件または断熱境界条件として伝熱解析を実行してもよい。
【0096】
伝熱解析部128は、測定対象物10に存在する熱源または冷却源を解析モデルに反映させることなく(すなわち、発熱境界条件として設定することなく)、上述の温度拘束境界条件のもとで伝熱解析を実行してもよい。このようにすれば、解析者が熱源についてのパラメタを設定しなくてもよいので、解析の準備作業が容易となる。パラメタ設定による解析精度への影響も軽減される。また、熱源を考慮しなくても、比較的多数の測定点が得られる場合には、精度のよい解析結果が得られると期待できる。
【0097】
一方、伝熱解析部128は、上述の温度拘束境界条件に加えて、測定対象物10に存在する熱源または冷却源を発熱境界条件として設定したうえで、伝熱解析を実行してもよい。このようにすれば、測定点が比較的少数である場合にも解析対象の実態に即した解析結果が得られると期待できる。
【0098】
あるいは、一実施例においては、解析対象の表面温度分布を上述の補間関数を用いて作成してもよい。この場合、伝熱解析部128は、境界条件が設定されるべき表面全域について、補間関数に基づく推定温度分布を温度拘束境界条件として伝熱解析を実行するようにしてもよい。このようにすれば、測定対象物10の表面については補間により温度分布が得られ、測定対象物10の内部については伝熱解析により温度分布が得られる。また、伝熱解析の境界条件として熱流束を規定する必要がないので、パラメタ設定に起因する解析精度への影響も軽減される。
【0099】
本発明の一実施形態によれば、対象物の表面の少なくとも一部の輻射率を既知とすることにより、サーモグラフィを用いてその既知領域の温度を精度よく測定することができる。測定温度に基づいて輻射率の未知領域の温度を推定し、対象物の温度分布を得ることができる。よって、限られた測定点から温度分布を精度よく推定することができる。また、サーモグラフィにより得られた温度情報を解析モデル上の測定点に対応づけることにより、熱変形解析に必要な温度分布や伝熱解析のための温度拘束を生成することができる。
【符号の説明】
【0100】
10 測定対象物、 20 第1サーモグラフィユニット、 30 第2サーモグラフィユニット、 40 処理装置、 45 温度センサ、 50 第1観測装置、 60 第2観測装置、 70 障害物、 100 温度推定装置、 110 温度情報取得部、 120 温度情報処理部、 122 温度推定部、 124 モデル生成部、 126 熱変形解析部、 128 伝熱解析部、 130 解析結果処理部、 A 測定マーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を表す解析モデルに温度分布を与えるための温度推定装置であって、
前記対象物の熱画像を撮像するサーモグラフィユニットを含む温度情報取得部と、
前記解析モデルにおいて輻射率の既知領域に設定される測定点の位置と、前記熱画像を含む温度情報から得られる当該測定点の温度とを対応づける温度情報処理部と、
前記解析モデルにおいて輻射率の未知領域に設定される評価点の温度を、当該評価点と前記測定点との位置関係及び前記測定点の温度に基づいて推定する温度推定部と、を備えることを特徴とする温度推定装置。
【請求項2】
前記未知領域は光沢面であり、前記既知領域は該光沢面に形成された既知の輻射率を有するマークであることを特徴とする請求項1に記載の温度推定装置。
【請求項3】
前記温度情報取得部は、前記サーモグラフィユニットにより撮像されない前記対象物の部位の温度を測定する温度センサを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の温度推定装置。
【請求項4】
前記温度推定部は、前記解析モデルに設定される複数の測定点と複数の評価点とが含まれる評価範囲のすべての評価点について温度を推定し、該評価範囲の温度分布を作成することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の温度推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の温度推定装置により作成された温度分布を用いて前記評価範囲の熱変形を解析することを特徴とする解析装置。
【請求項6】
対象物を表す解析モデルに温度分布を与えるための温度推定装置であって、
前記対象物の熱画像を撮像するサーモグラフィユニットを含む温度情報取得部と、
前記解析モデルにおいて輻射率の既知領域に設定される測定点の位置と、前記熱画像を含む温度情報から得られる当該測定点の温度とを対応づける温度情報処理部と、
前記測定点の温度を該測定点の位置における温度拘束境界条件として伝熱解析を実行することにより、前記解析モデルにおいて輻射率の未知領域に設定される評価点の温度を推定する温度推定部と、を備えることを特徴とする温度推定装置。
【請求項7】
所定の輻射率範囲内の輻射率をもつ領域の温度情報を対象物の熱画像から取り込むステップと、
取り込まれた温度情報に基づいて、前記輻射率範囲外の輻射率をもつ領域の温度情報を推定するステップと、
取り込まれた温度情報と推定された温度情報とに基づいて、前記対象物の温度分布を作成するステップと、を備えることを特徴とする温度推定方法。
【請求項8】
物体表面の輻射率が既知である部位から放射される赤外線放射エネルギーを検出することにより当該部位の温度を測定する温度測定部と、
前記物体において輻射率が未知である部位の温度を、輻射率が既知である部位との位置関係と測定温度とに基づいて推定することにより、前記物体の温度分布を作成する温度推定部と、を備えることを特徴とする温度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−203193(P2011−203193A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72774(P2010−72774)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】