説明

温度誘導型ポリヌクレオチドおよびその使用

本発明は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を37℃より低い温度で培養すると、ハムスター乳腺腫瘍7(HMT 7)およびハムスターライリン両方の遺伝子の転写活性が増大するという知見に基づく。本発明は、HMT 7の新規なゲノム配列、cDNA配列およびタンパク質配列、ならびにハムスターライリンに関する新規なゲノム配列を提供する。これらのゲノム配列には、それぞれについて新規な温度誘導型プロモーター配列が含まれる;2つのプロモーター配列がHMT 7について提供され、1つのプロモーター配列がライリンについて提供される。本発明はさらに、HMT 7の核酸分子に対するアンチセンス分子およびsiRNA分子を提供する。本発明は、本発明の新規な温度誘導型プロモーターを含む、遺伝子工学的に作製した発現ベクターをも提供する;これらは特に、哺乳動物の温度誘導性発現系の一部として有用である。本発明は、本発明の新規な核酸分子を含む宿主細胞および/またはトランスジェニック動物をも提供する。本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチドを、たとえば温度誘導型トランスジーン発現のために使用する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度誘導型ポリヌクレオチド配列、および、たとえば誘導性の哺乳動物発現系の一部としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の生物学研究のにおいて基本的なことは、細胞系を最適状態で培養および維持できることである。特に重要なことは、遺伝子工学的に作製した原核細胞系または真核細胞系を用いて大量の組換えタンパク質を産生させることである。組換えタンパク質は、たとえば生物学研究において、または特定の疾病もしくは疾患を処置するための療法用化合物として使用できる。
【0003】
生物薬剤用途のための組換えタンパク質の製造は、一般に多数の細胞、ならびに/あるいは細胞の増殖および/または発現に影響を与える特定の細胞培養条件を必要とする。組換えタンパク質の製造は、誘導性発現系、すなわち特定の培養条件(たとえば、細胞培養温度、外因性作用物(たとえば、テトラサイクリン、エックダイソン(eckdysone)、クメート(cumate)、エストロゲン)の存在など)下でトランスジーン発現を誘導できる系、の使用が有益である。現在、誘導性の哺乳動物発現系はほとんどなく、市販の系は大部分が外因性作用物の添加を必要とする;温度を利用して遺伝子発現を誘導する唯一の系は細菌細胞についての使用に限定される(Qing et al. (2004) Nat. Biotechnol. 22: 877-82; Carrao et al. (2003) Mol. Microbiol. 50: 1349-60)。
【0004】
本発明は、1)哺乳動物細胞に使用でき、かつ2)一定の培養条件下で、特に細胞を誘導温度で培養した場合に、細胞によるトランスジーンの発現を誘導できる、誘導性発現系を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Qing et al. (2004) Nat. Biotechnol. 22: 877-82
【非特許文献2】Carrao et al. (2003) Mol. Microbiol. 50: 1349-60
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ技術を利用して、特定の培養条件、特に遺伝子工学的に作製した細胞または遺伝子工学的に作製した細胞系によるトランスフェクションした遺伝子(トランスジーン)の(結果的に組換えタンパク質の)最適発現をもたらす条件に応答して調節される遺伝子および関連配列を同定する。特に、本発明はハムスターオリゴヌクレオチドアレイ(参照:U.S.Patent Application No.11/128,049および11/128,061)を利用して、特定の培養温度(単数または複数)下で誘導される遺伝子、たとえば細胞の生理的温度より低い温度(たとえば、37℃より低い温度、たとえば25℃から34℃までの範囲の温度)で細胞を培養した場合に、より高いレベルで細胞が発現する遺伝子を同定する。
【0007】
本発明のそのような遺伝子のひとつは、ハムスター乳腺腫瘍−7、HMT−7である。したがって本発明は、HMT−7のアミノ酸配列(SEQ ID NO:5に示す)およびSEQ ID NO:5の活性フラグメントのアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチドを提供する。本発明は、HMT−7の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子をも提供する;たとえば、その際、核酸分子は、HMT−7 cDNAのポリヌクレオチド配列(SEQ ID NO:4に示す)、SEQ ID NO:4の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:4のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:4のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する。本発明の1態様において、HMT−7の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子は、少なくとも1つの発現制御配列に作動可能な状態で結合しており、本発明の宿主細胞を形質転換もしくはトランスフェクションするために、および/または本発明のヒト以外のトランスジェニック動物を作製するために使用することもできる。本発明は、HMT−7の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子(単数または複数)に高度にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする、単離された核酸分子(単数または複数)をも提供する。
【0008】
本発明は、HMT−7の発現を変更できる阻害性ポリヌクレオチドをも提供する;たとえば、HMT−7の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子に対応するmRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、少なくとも1つのRNA鎖を含むsiRNAであってその1つの鎖がHMT−7の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された核酸分子に対応するmRNAに相補的なポリヌクレオチド配列を有するものなど。
【0009】
本発明は、HMT−7をコードする単離された遺伝子、たとえばHMT−7遺伝子の単離された対立遺伝子、たとえばSEQ ID NO:1のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:1の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:1のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:1のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する単離された対立遺伝子にも関する。
【0010】
本発明の他の遺伝子はハムスターライリン(layilin)である。本発明は、ハムスターライリンをコードするポリヌクレオチド配列を有する単離された遺伝子、たとえばライリン遺伝子の単離された対立遺伝子、たとえばSEQ ID NO:6のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:6の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:6のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:6のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する、ライリン遺伝子の単離された対立遺伝子をも提供する。
【0011】
他の態様において、本発明は、HMT−7またライリンのプロモーターをコードする新規な単離されたポリヌクレオチドに関する。したがって、本発明は、HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する単離された温度誘導型プロモーター、たとえば下記からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する単離された温度誘導型プロモーターを提供する:HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列(たとえば、SEQ ID NO:2に示すP1−HMT−7のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:3に示すP2−HMT−7のポリヌクレオチド配列など)、ライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列(たとえば、SEQ ID NO:7に示すP−ライリンのポリヌクレオチド配列)、P2−HMT−7を含む(HMT−7遺伝子の)スモールドメインのポリヌクレオチド配列(たとえば、SEQ ID NO:16に示すポリヌクレオチド配列)、およびP2−HMT−7を含む(HMT−7遺伝子の)ラージドメインのポリヌクレオチド配列(たとえば、SEQ ID NO: 17に示すポリヌクレオチド配列)。他の態様において、本発明は、本発明の単離された温度誘導型プロモーターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。
【0012】
本発明は、本発明の温度誘導型プロモーターの使用にも関する。したがって1態様において、単離された温度誘導型プロモーターは、形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞においてトランスジーンの発現を調節する。他の態様において、宿主細胞はCHO細胞である。本発明は、HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する単離された温度誘導型プロモーターを含む、温度誘導性の哺乳動物発現ベクターをも提供する。1態様において、本発明の温度誘導性の哺乳動物発現ベクターの温度誘導型プロモーターは、SEQ ID NO:2のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:3のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:7のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:16のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:17のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する。他の態様において、本発明は、本発明の温度誘導性の哺乳動物発現ベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。他の態様において、宿主細胞はCHO細胞である。
【0013】
本発明は、本発明の温度誘導性の哺乳動物発現ベクターを使用する方法にも関する。1態様において本発明は、下記の工程を含む、細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法を提供する:発現ベクターを細胞に導入し、その際、発現ベクターは哺乳動物の温度誘導型プロモーターを含み、この温度誘導型プロモーターがトランスジーンの発現を調節し;そして細胞を誘導温度で培養する。1態様において、温度誘導型プロモーターは、SEQ ID NO:2のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:3のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:7のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:16のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:17のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する。本発明の1態様において、誘導温度はその細胞の生理的温度より低い。本発明の他の態様において、誘導温度は25℃〜34℃の範囲である。他の態様において、本発明は、哺乳動物発現ベクターを含むキットであって、哺乳動物発現ベクターがHMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する温度誘導型プロモーターを含むキットをも提供する。
【0014】
本発明において提供される方法を用いて、異なる培養条件下で差次的に発現する他の配列、たとえば誘導性発現系に有用な可能性のあるプロモーターを単離できることは、当業者に認識されるであろう。したがって、1態様において本発明は、下記の工程を含む方法により判定された、異なる培養条件下で差次的に発現するハムスター配列を提供する:第1ハイブリダイゼーションプロファイルおよび第2ハイブリダイゼーションプロファイルを形成し、その際、第1ハイブリダイゼーションプロファイルは第1細胞から調製されたターゲット核酸を第1ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと共にインキュベートすることにより形成され、第2ハイブリダイゼーションプロファイルは第2細胞から調製されたターゲット核酸を第1ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと同一の第2ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと共にインキュベートすることにより形成され、第1細胞は培養条件に関して第2細胞と異なり;第1および第2ハイブリダイゼーションプロファイルを検出し;第1および第2ハイブリダイゼーションプロファイルを比較し;そして第1ハイブリダイゼーションプロファイルにおいて、第2ハイブリダイゼーションレベルにおける発現レベルに対して差次的な発現レベルをもつ少なくとも1つのハムスター配列を判定する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】37℃〜28℃の温度で培養したCHO細胞によるHMT−7またはライリンの発現をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応により測定したもの。図1には、37℃(白い棒)、34℃(黒い棒)、31℃(横線を施した棒)、28℃(斜線を施した棒)で培養したCHO細胞により発現した(A)HMT−7または(B)ライリンのRNAの量(ng;y軸)を示す;4または8実験(実験;x軸)から、リアルタイムPCRにより測定したもの。
【図2】HMT−7ゲノム遺伝子座の図。図2にはHMT−7ゲノム遺伝子座の模式図を示し、これはRIKEN 0610039N19のATG開始部位(N19“開始部位”)、HMT−7の転写開始部位(転写開始部位)、HMT−7エキソンおよび対応するペプチド配列(それぞれ長方形および黒矢)、ならびに2つの推定プロモーター部位(P1−HMT−7、P2−HMT−7;白矢)を表わす。
【図3A】対照ヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体、およびP2−HMT−7プロモーターを含むドメインを含むヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体の模式図。図は、下記の制御下にあるヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体をの図を示す:(図3A)HMT−7プロモーターなし。
【図3B】対照ヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体、およびP2−HMT−7プロモーターを含むドメインを含むヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体の模式図。図は、下記の制御下にあるヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体をの図を示す:(図3B)CMVプロモーター。
【図3C】対照ヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体、およびP2−HMT−7プロモーターを含むドメインを含むヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体の模式図。図は、下記の制御下にあるヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体をの図を示す:(図3C)P2−HMT−7を含むスモールドメイン。
【図3D】対照ヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体、およびP2−HMT−7プロモーターを含むドメインを含むヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体の模式図。図は、下記の制御下にあるヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター構築体をの図を示す:(図3D)P2−HMT−7を含むラージドメイン。
【図4】37℃〜31℃の温度で培養したCHO細胞によるP2−HMT−7の制御下でのヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター遺伝子の発現をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応により測定したもの。図4には、P2−HMT−7を含むラージドメインの制御下にあるSEAPを含むレポーター構築体でトランスフェクションしたCHO細胞(中空の棒)、またはP2−HMT−7を含むスモールドメインの制御下にあるSEAPを含むレポーター構築体でトランスフェクションしたCHO細胞(中実の棒)、またはプロモーターの制御下にないSEAPを含むレポーター構築体でトランスフェクションしたCHO細胞(斜線を施した棒)により37℃または31℃(温度;x軸)で培養した後に発現したヒト胎盤アルカリホスファターゼ(SEAP)RNAの量/GAPDH RNAの量(SEAPのng/GAPDHのng;y軸)を示す。両温度において、トランスフェクションしていない対照CHO細胞のプールにSEAP RNAは検出されなかった。
【図5】37℃または31℃で培養したCHO細胞による、CMVプロモーターまたはP2−HMT−7を含むラージドメインの制御下でのヒト胎盤アルカリホスファターゼレポーター遺伝子の発現をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応により測定したもの。図5には、P2−HMT−7を含むラージドメインの制御下(▲、●)または対照CMVプロモーターの制御下(◆、黒四角)にあるレポーター構築体でトランスフェクションし、37℃(◆、▲)または31℃(黒四角、●)で培養した、22クローンのCHO細胞(クローン番号;x軸)からのヒト胎盤アルカリホスファターゼ(SEAP)の相対発現レベル(SEAP RNAのng/GAPDH RNAのng;y軸)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、ハムスターオリゴヌクレオチドアレイ(参照:U.S.Patent Application No.11/128,049および11/128,061;これら両者を全体として本明細書に援用する)を用いて、特定の培養条件(単数または複数)下で誘導される遺伝子、およびこれらの遺伝子の温度誘導型プロモーターを同定した;したがって、これらを誘導性の哺乳動物発現系の一部として用いて、細胞によるトランスジーン発現を特定の細胞培養条件、たとえば温度に応答してそのような発現を誘導する(たとえば増大させる)ことができるように調節できる。生理的温度より低い温度で差次的に発現した(たとえば2倍大きな発現レベルをもっていた)遺伝子を同定した(実施例1)。リアルタイムPCRおよびノーザンブロット分析により、種々の培養条件での遺伝子配列の差次的な発現を確認した(実施例2)。遺伝子の詳細な特性分析(実施例3)により推定プロモーター配列を同定し、これらを用いて温度誘導性の哺乳動物発現ベクターを作製し(実施例4)、これを用いて誘導温度で組換え遺伝子の発現を誘導することができる(実施例5)。したがって、本発明は、細胞の生理的温度より低い温度で培養された細胞により誘導される(たとえばより高いレベルで発現する)遺伝子のポリヌクレオチド配列(およびサブ配列)を提供する。本発明は、トランスジーンの発現を調節するために使用できる、遺伝子配列のサブ配列(たとえば、それらの遺伝子についてのプロモーター配列および/またはエンハンサー配列)のポリヌクレオチド配列をも提供する。特に、これらの温度誘導型プロモーターを用いて、細胞を誘導温度、たとえばその細胞の生理的温度より低い温度で培養した場合に、細胞によるトランスジーン(そのような温度誘導型プロモーターの制御下にあるもの)のより高い発現を誘導できる。さらに本発明は、本発明の温度誘導型プロモーターを含む温度誘導性発現ベクター、およびそのような発現ベクターを使用する方法を提供する。
【0017】
単離されたポリヌクレオチドおよびポリペプチド
したがって、本発明は、生理的温度、たとえば37℃で培養したCHO細胞による2種類の遺伝子の発現レベルと比較して、誘導温度、たとえばCHO細胞の生理的温度より低い温度で培養したCHO細胞において誘導される(たとえばより高いレベルをもつ)2種類の遺伝子の精製および単離されたポリヌクレオチド配列を提供する。これらの遺伝子は、好ましくは、細胞による、たとえばトランスジーンの、発現を調節するための適切なターゲットである調節配列(たとえば、コード領域、プロモーター、エンハンサー、終止シグナルなど)を提供する。本発明の遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質およびポリペプチドには、ハムスター乳腺腫瘍−7(HMT−7)およびそれの相同体ならびにハムスターライリンおよびそれの相同体の遺伝子配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0018】
したがって、本発明は、下記のいずれかまたは両方である新規な単離および精製されたポリヌクレオチドを提供する:1)細胞培養温度に応じて細胞により差次的に発現する、したがって、2)細胞表現型、たとえばトランスジーン発現、を調節するための誘導性の哺乳動物ベクター発現系の一部として使用できる。本発明の新規な単離および精製されたポリヌクレオチドに対する阻害性ポリヌクレオチドを提供することも本発明の一部であり、これはたとえば本発明の新規な単離および精製されたポリヌクレオチドに対するアンタゴニストとして使用できる。
【0019】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含むことができ、全体的または部分的に合成によるものであってもよい。本明細書に示すヌクレオチド配列という表現は、状況からそうではないことが要求されない限り、特定の配列またはゲノム均等物(たとえば相補配列)を含むDNA分子、および特定した配列に対応するRNA分子(TがUで置き換えられている)を包含する。
【0020】
たとえば、本発明は、ハムスター乳腺腫瘍−7(HMT−7)、HMT−7プロモーターおよび/またはHMT−7エンハンサーなどをコードする新規な単離および精製されたポリヌクレオチドを提供する。本発明の好ましいDNA配列には、ゲノム配列、cDNA配列および化学合成したDNA配列が含まれる。
【0021】
新規遺伝子のヌクレオチド配列(単数または複数)、たとえばハムスター乳腺腫瘍−7をコードするゲノムDNA(HMT−7ゲノムDNAと表記する)は、SEQ ID NO:1に示すヌクレオチド配列を有する、および/または本質的にそれからなる。本発明のポリヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:1もしくはそれの相補配列にハイブリダイズする、および/または全長HMT−7の実質的な生物活性を保持するポリペプチド(すなわち活性フラグメント)をコードする、ポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:1に示す配列の少なくとも21の連続ヌクレオチドを含む連続部分も含まれる。
【0022】
P1−HMT−7およびP2−HMT−7と表示される2つの新規なHMT−7プロモーターは、それぞれSEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3に示すヌクレオチド配列を有する、および/または本質的にそれからなる。SEQ ID NO:2はSEQ ID NO:1のヌクレオチド5616−5762のヌクレオチド配列であり、SEQ ID NO:3はSEQ ID NO:1のヌクレオチド2423−2673のヌクレオチド配列である。本発明のポリヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:2もしくは3および/またはその相補配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド、、および/またはP1−HMT−7もしくはP2−HMT−7の実質的な生物活性を保持するものも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3に示す配列の少なくとも21の連続ヌクレオチドを含む連続部分も含まれる。
【0023】
HMT−7をコードする新規cDNA(HMT−7 cDNAと表記する)のヌクレオチド配列(単数または複数)は、SEQ ID NO:4に示すヌクレオチド配列を有する、および/または本質的にそれからなる。本発明のポリヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:4もしくはそれの相補配列にハイブリダイズする、および/または全長HMT−7の実質的な生物活性を保持するポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:4に示す配列の少なくとも21の連続ヌクレオチドを含む連続部分も含まれる。
【0024】
新規HMT−7タンパク質のアミノ酸配列(単数または複数)をSEQ ID NO:5に示す。本発明のポリペプチドには、SEQ ID NO:5に示す配列の少なくとも7の連続アミノ酸を含む連続部分も含まれる。本発明の好ましいポリペプチドには、SEQ ID NO:5に示す配列のいずれかの連続部分であって全長HMT−7の実質的な生物活性を保持する部分、すなわちHMT−7の活性フラグメントも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、前記のハムスター由来のポリヌクレオチドのほか、SEQ ID NO:5に示すアミノ酸配列またはその連続部分をコードするポリヌクレオチドであって、遺伝子コードの周知の縮重のため前記のポリヌクレオチドと異なるにすぎないものも含まれる。
【0025】
他の態様において、本発明は、ハムスターライリン、ライリンプロモーターおよび/またはライリンエンハンサーなどをコードする新規な精製および単離されたポリヌクレオチドを提供する。本発明の好ましいDNA配列には、ゲノム配列、cDNA配列および化学合成したDNA配列が含まれる。
【0026】
ハムスターライリンをコードする新規遺伝子、すなわちゲノムDNA(ライリンゲノムDNAと表記する)のヌクレオチド配列(単数または複数)は、SEQ ID NO:6に示すヌクレオチド配列を有する、および/または本質的にそれからなる。本発明のポリヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:6もしくはそれの相補配列にハイブリダイズする、および/または全長ライリンの実質的な生物活性を保持するポリペプチド(すなわち活性フラグメント)をコードする、ポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:6に示す配列の少なくとも21の連続ヌクレオチドを含む連続部分も含まれる。
【0027】
新規ライリンプロモーター(P−ライリンと表記する)のヌクレオチド配列(単数または複数)は、SEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列を有する、および/または本質的にそれからなる。本発明のポリヌクレオチドには、ストリンジェントな条件下でSEQ ID NO:7もしくはそれの相補配列にハイブリダイズする、および/またはP−ライリンの実質的な生物活性を保持する、ポリヌクレオチドも含まれる。本発明のポリヌクレオチドには、SEQ ID NO:7に示す配列の少なくとも21の連続ヌクレオチドを含む連続部分も含まれる。
【0028】
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、ハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして用いて、開示したポリヌクレオチドをコードする核酸と同一または類似の配列を有する核酸を同定および単離することができる。核酸を同定および単離するためのハイブリダイゼーション方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サザンハイブリダイゼーション、インサイチューハイブリダイゼーションおよびノーザンハイブリダイゼーションを含み、当業者に周知である。
【0029】
ハイブリダイゼーション反応は種々のストリンジェンシーの条件下で実施できる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーには、いずれか2つの核酸分子が互いにハイブリダイズする際の困難度が含まれる。好ましくは、ハイブリダイズする各ポリヌクレオチドはそれに対応するポリヌクレオチドに、低いストリンジェンシーの条件下で、より好ましくはストリンジェントな条件下で、最も好ましくは高度にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。ストリンジェンシーの条件の例を下記の表1に示す:高度にストリンジェントな条件は、たとえば条件A〜Fと少なくとも同程度にストリンジェントである;ストリンジェントな条件は、たとえば条件G〜Lと少なくとも同程度にストリンジェントである;低いストリンジェンシーの条件は、たとえば条件M〜Rと少なくとも同程度にストリンジェントである。
【0030】
【表1−1】

【0031】
【表1−2】

【0032】
一般に、前記のように、本発明の単離されたポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして用いて、開示したポリヌクレオチドに対して相同なDNAを同定および単離することもできる。これらの相同配列は、開示したポリヌクレオチドのものとは異なる種から、または同一種内で単離されたポリヌクレオチドであるが、開示したポリヌクレオチドに対して有意の配列類似性をもつポリヌクレオチドである。好ましくは、ポリヌクレオチド相同配列は、開示したポリヌクレオチドと少なくとも60%の配列同一性(より好ましくは、少なくとも75%の配列同一性;最も好ましくは、少なくとも90%の配列同一性)をもつ。好ましくは、開示したポリヌクレオチドの相同配列は哺乳動物種から単離されるものである。
【0033】
本発明の単離されたポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションプローブおよびプライマーとして用いて、本発明のポリヌクレオチドを発現する細胞および組織ならびにそれらが発現される条件を同定することもできる。
【0034】
さらに、本発明のポリヌクレオチドを用いて細胞または生物における本発明のHMT−7ポリヌクレオチド配列に対応する遺伝子の発現を変更する(たとえば、増大、低下、または改変する)ことができる。これらの対応する遺伝子は、転写されて本発明のHMT−7ポリヌクレオチド配列を誘導するmRNAを生成する、本発明のゲノムDNA配列である。
【0035】
阻害性ポリヌクレオチド
細胞または生物における本発明に包含されるHMT−7またはライリンのポリヌクレオチド配列の発現変更は、種々の阻害性ポリヌクレオチド、たとえばアンチセンスポリヌクレオチド、本発明の遺伝子から転写されたmRNAを結合および/または開裂させるリボザイム、遺伝子の調節領域をターゲティングするトリプレックス形成オリゴヌクレオチド、およびターゲットmRNAを配列特異的に分解するshort interfering RNA(siRNA)の使用により達成できる(たとえば、Galderisi et al. (1999) J. Cell. Physiol. 181: 251-57; Sioud (2001) Curr. Mol. Med. 1: 575-88; Knauert and Glazer (2001) Hum. Mol. Genet. 10: 2243-51; Bass (2001) Nature 411: 428-29)。阻害性ポリヌクレオチドの使用はライリンに対して相同な遺伝子について記載されている(たとえば、U.S.Published Patent Application No.2005/0136435および国際特許出願公開No.WO 2005/060996 A2を参照)が、本発明者らはライリンに対する阻害性ポリヌクレオチドについて公開された報告を知らないことを留意すべきである。
【0036】
本発明の阻害性アンチセンスまたはリボザイムポリヌクレオチドは、本発明の遺伝子の全コード鎖に対して、またはその一部のみに対して相補的であってよい。あるいは、阻害性ポリヌクレオチドは本発明の遺伝子のコード鎖の非コード領域に対して相補的であってもよい。本発明の阻害性ポリヌクレオチドは、当技術分野で周知の方法を用いる化学合成および/または酵素ライゲーション反応を用いて構築できる。化学合成したポリヌクレオチドのヌクレオチド結合を修飾して、それらがヌクレアーゼ仲介による分解に抵抗する能力を増強し、かつそれらの配列特異性を高めることができる。そのような結合修飾にはホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロアミデート、ボラノホスフェート、モルホリノ、およびペプチド核酸(PNA)結合が含まれるが、これらに限定されない(Galderisi et al.,前掲; Heasman (2002) Dev. Biol. 243: 209-14; Mickelfield (2001) Curr. Med. Chem. 8: 1157-79)。あるいは、アンチセンス分子は、本発明のポリヌクレオチドをアンチセンス(すなわち逆)配向でサブクローニングした発現ベクターを用いて生物学的に製造できる。
【0037】
さらに他の態様において、本発明のアンチセンスポリヌクレオチド分子はαアノマー型ポリヌクレオチド分子である。αアノマー型ポリヌクレオチド分子は、相補的RNAと共に特異的な二本鎖ハイブリッドを形成し、この場合、通常のβユニットと異なり、それらの鎖は互いに平行な向きである。アンチセンスポリヌクレオチド分子は、当技術分野で既知の方法に従って2’−o−メチルリボヌクレオチドまたはキメラRNA−DNA類似体を含むこともできる。
【0038】
本発明に包含される阻害性トリプレックス形成性オリゴヌクレオチド(TFO)は、デュプレックスDNAの主溝に高い特異性および親和性で結合する(Knauert and Glazer,前掲)。本発明の遺伝子の発現は、それらの遺伝子の調節領域(すなわち、プロモーターおよび/またはエンハンサー配列)に対して相補的なTFOをターゲティングして、遺伝子の転写を阻害する三重らせん構造を形成することにより阻害できる。
【0039】
本発明の1態様において、本発明の阻害性ポリヌクレオチドはshort interfering RNA(siRNA)分子である。これらのsiRNA分子は、ターゲットmRNAの配列特異的分解を引き起こす短い(好ましくは19〜25ヌクレオチド;最も好ましくは19または21ヌクレオチド)二本鎖RNA分子である。この分解はRNA干渉(RNAi)として知られる(たとえば、Bass (2001) Nature 411: 428-29)。RNAiは最初は下等生物において同定されたが、哺乳動物細胞に効果的に適用されており、最近ではFas mRNAをターゲティングするsiRNA分子で処理したマウスにおいて劇症肝炎を予防することが示された(Song et al. (2003) Nat. Med. 9: 347-51)。さらに、ラットの2モデル(アゴニスト誘導型疼痛モデルおよび神経障害性疼痛モデル)においてクモ膜下送達されたsiRNAが疼痛応答を遮断することが最近報告された(Dorn et al. (2004) Nucleic Acids Res. 32(5): e49)。
【0040】
本発明のsiRNA分子は、2つの相補的一本鎖RNA分子を互いにアニールさせることにより(それらのうち一方はターゲットmRNAの一部に一致する)(Fireら、U.S.Patent No.6,506,559)、またはそれ自身が折りたたまれて必要な二本鎖部分を生成する単一のヘアピンRNA分子の使用により(Yu et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 6047-52)作製できる。siRNA分子は化学合成でき(Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-98)、あるいは一本鎖DNA鋳型を用いてインビトロ転写により作製できる (Yu et al.,前掲)。あるいは、siRNA分子は生物学的に、一過性で(Yu et al., supra; Sui et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 5515-20)、または安定的に(Paddison et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99: 1443-48)、センスおよびアンチセンスsiRNA配列を含む発現ベクター(単数または複数)を用いて産生させることができる。最近、初代ヒト細胞においてターゲットmRNAのレベルが効率的かつ配列特異的に低下することが、ヘアピンRNAを発現しこれがさらにプロセシングされてsiRNAになるアデノウイルスベクターを用いて立証された(Arts et al. (2003) Genome Res. 13: 2325-32)。
【0041】
本発明のポリヌクレオチドをターゲティングしたsiRNA分子は、当技術分野で周知の基準に基づいて設計することができる(たとえば、Elbashir et al. (2001) EMBO J. 20: 6877-88)。たとえば、ターゲットmRNAのターゲットセグメントはAA(好ましい)、TA、GAまたはCAで開始すべきである;siRNA分子のGC比は45〜55%とすべきである;siRNA分子は3つの同一ヌクレオチドを連続して含むべきでない;siRNA分子は7つの混合G/Cを連続して含むべきでない;およびターゲットセグメントはターゲットmRNAのORF領域内にあるべきであり、かつ開始ATG後少なくとも75bpおよび終止コドン前少なくとも75bpにあるべきである。本発明のポリヌクレオチドをターゲティングするsiRNA分子は、以上の基準または他の既知の基準を用いて当業者が設計できる。
【0042】
細胞または生物における本発明のポリヌクレオチドの発現変更は、そのゲノムに本発明のポリヌクレオチドを導入したヒト以外のトランスジェニック動物の作製によっても達成できる。そのようなトランスジェニック動物には、多数コピーの本発明遺伝子(すなわちトランスジーン)をもつ動物が含まれる。特定の細胞または特定の発生段階に本発明のポリヌクレオチドの発現を指向させるために、組織特異的配列(単数または複数)を作動可能な状態で本発明のポリヌクレオチドに結合させてもよい。他の態様において、トランスジーンの調節発現を可能にする選択した系を含むヒト以外のトランスジェニック動物を作製できる。当技術分野で既知であるそのような系の一例は、バクテリオファージP1のcre/loxPリコンビナーゼ系である。胚の操作およびマイクロインジェクションによりトランスジェニック動物、特にマウスなどの動物を作製するための方法は当技術分野で一般的になっており、周知である(たとえば、Bockamp et al. (2002) Physiol. Genomics 11: 115-32)。本発明の少なくとも1態様において、ヒト以外のトランスジェニック動物は少なくとも1つのHMT−7ポリヌクレオチド配列を含む。
【0043】
細胞または生物における本発明の遺伝子の発現変更は、本発明のポリヌクレオチドに相当する内因性遺伝子を外因性ポリヌクレオチド配列の挿入により破壊した動物の作製によっても達成できる(すなわちノックアウト動物)。内因性遺伝子のコード領域を破壊し、これにより非機能性タンパク質を生成させることができる。あるいは、内因性遺伝子の上流調節領域を破壊するか、または異なる調節エレメントで置換し、その結果、依然として機能性の(still−functional)タンパク質の発現を変更することができる。ノックアウト動物を作製する方法は相同組換えを含み、当技術分野で周知である(たとえば、Wolfer et al. (2002) Trends Neurosci. 25: 336-40)。
【0044】
本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの組換え製造のために、本発明の単離されたポリヌクレオチドを、作動可能な状態で発現制御配列、たとえばpMT2およびpED発現ベクターに結合させることができる。組換えタンパク質を発現させる一般的方法は当技術分野で周知である。
【0045】
本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの組換え発現のために、多数のタイプの細胞が適切な宿主細胞として作動できる。哺乳動物宿主細胞にはたとえば下記のものが含まれるが、これらに限定されない:COS細胞、CHO細胞、293細胞、A431細胞、3T3細胞、CV−1細胞、HeLa細胞、L細胞、BHK21細胞、HL−60細胞、U937細胞、HaK細胞、ジャーカット細胞、正常な二倍体細胞、初代組織のインビトロ培養からの細胞株、および初代外植体。
【0046】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを下等真核細胞、たとえば酵母、または原核細胞において組換え産生できる可能性がある。適切である可能性のある酵母株には、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、クルイベロミセス属(Kluyveromyces)株、およびカンジダ属(Candida)株が含まれる。適切である可能性のある細菌株には、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、およびネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)が含まれる。ポリペプチドを酵母または細菌において生成させる場合、機能性を得るために、それらをたとえば適宜な部位のリン酸化またはグリコシル化により修飾することが必要である可能性がある。そのような共有結合は周知の化学的方法または酵素法により達成できる。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、本発明の単離されたポリヌクレオチドを1以上の昆虫発現ベクター、たとえばバキュロウイルスベクターにおいて適切な制御配列に作動可能な状態で結合させ、そして昆虫発現系を用いることにより、組換え製造することもできる。バキュロウイルス/Sf9発現系のための材料および方法は、キットの形で市販されている(たとえば、MaxBac(登録商標)キット,Invitrogen,カリフォルニア州カールズバッド)。
【0048】
適宜な宿主細胞において組換え発現させた後、次いで本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを、培養培地または細胞抽出物から既知の精製法、たとえばゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーを用いて精製することができる。精製には、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを結合することが知られている作用物によるアフィニテクロマトグラフィーも含めることができる。これらの精製法を用いて天然源からポリペプチドを精製することもできる。
【0049】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、精製を容易にする形態で組換え発現させることもできる。たとえば、それらのポリペプチドをマルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはチオレドキシン(TRX)などのタンパク質との融合体として発現させることができる。そのような融合タンパク質の発現および精製のためのキットが、それぞれNew England BioLabs(マサチュセッツ州ビバリー)、Pharmacia(ニュージャージー州ピスカッタウェイ)、およびInvitrogen(カリフォルニア州カールズバッド)から販売されている。本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドに低分子エピトープでタグを付け、その後そのエピトープに対して特異的な抗体を用いて同定または精製することもできる。好ましいエピトープはFLAGエピトープであり、これはEastman Kodak(コネチカット州ニューヘブン)から販売されている。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドは、既知の一般的な化学合成により製造することもできる。本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを化学合成するための方法は当業者に周知である。そのような化学合成ポリペプチドは天然の精製ポリペプチドと共通の生物学的特性をもつことができ、したがって天然ポリペプチドに代わる生物活性代替品または免疫代替品として使用できる。
【0051】
温度誘導型のプロモーターおよび哺乳動物発現ベクター
HMT−7の新規なcDNAおよびアミノ酸配列のほか、本発明者らは、HMT−7をコードする遺伝子の新規配列(すなわち、HMT−7ポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列をもち、かつコードDNAの前後の領域(たとえば、プロモーター、エンハンサー、UTRなど)ならびに、エキソン間のイントロン、を含むDNA)をも提供する。本発明者らは、ハムスターライリンをコードする遺伝子の新規配列(すなわち、ライリンポリペプチド鎖をコードするポリヌクレオチド配列をもち、かつコードDNAの前後の領域(たとえば、プロモーター、エンハンサー、UTRなど)ならびに、エキソン間のイントロン、を含むDNA)をも提供する;ハムスターライリンのcDNAおよびアミノ酸配列は、GenBankタベース中にそれぞれアクセッション番号AF09673およびAAC68695で見出すことができる。これらの新規な遺伝子配列の提供に際して、本発明者らはHMT−7およびライリン両方の推定プロモーター配列をも提供する。CHO細胞は、細胞を生理的温度より低い温度で培養した場合にHMT−7またはライリンをより高いレベルで発現するので、HMT−7およびライリンのプロモーターは温度誘導型プロモーターとして使用できると予想される。事実、本発明者らはHMT−7プロモーター(たとえば、SEQ ID NO:3に示すヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなるHMT−7プロモーター)を用いて、細胞をそれの生理的温度より低い温度で培養した場合、それの制御下で細胞によるトランスジーンのより高い発現を誘導できることを立証した(実施例5)。さらに、ライリンプロモーター(たとえば、SEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなるライリンプロモーター)を同様に使用できると考えられる(実施例6)。したがって、本発明は温度誘導型プロモーターを提供する。
【0052】
前記に述べたように、HMT−7プロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3に示すヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなることができる;ライリンプロモーターのヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:7に示すヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなることができる。これらのプロモーターは、たとえば周知のプロモーター配列の特性に基づいて、たとえば他の既知のプロモーター配列との相同性に基づいてプロモーター領域を推定するコンピューターアルゴリズムを用いて決定された。これらの特性を用いて、当業者はHMT−7またはライリンの他のプロモーターを認識および同定することができるであろう;それらはそれぞれSEQ ID NO:1およびSEQ ID NO:6中に見出せるものまたは見出せないものであってよい。さらに、本明細書に示す方法を含めた周知の方法(たとえば、レポーターアッセイを用い、細胞を種々の温度で培養する方法)を用いて、そのような当業者は、同定したプロモーターが低温誘導型プロモーターであるかどうか、および/またはそのような温度誘導型プロモーターの有効性も判定できるであろう。そのような温度誘導型プロモーターは本発明の範囲内にあるものとみなされる。
【0053】
さらに、当業者は周知の組換えDNA技術を用いて、本発明の温度誘導型プロモーターとトランスジーンを温度誘導型プロモーターがそのトランスジーンに対する調節配列として作用するように、すなわち、温度誘導型プロモーターをも誘導する温度で温度誘導型プロモーターがそのトランスジーンの転写を誘導する(そして、おそらく最終的には組換えタンパク質を発現する)ように、組み換えることができるであろう。そのような組換えによる温度誘導型プロモーター−トランスジーン構築体を単独でまたはより容易には組換え発現ベクターの一部として宿主細胞に導入できることは、当業者に認識されるであろう。さらに、トランスジーンは本発明に用いるレポーター遺伝子またはレポーター遺伝子全般に限定されないこと、すなわちポリペプチドをコードする大部分の遺伝子および/またはcDNAを本発明の温度誘導型プロモーターの調節下におくことができることが、当業者に認識されるであろう。
【0054】
本明細書中で用いる用語“発現ベクター”はそれに連結させた他の核酸を輸送することができる核酸分子を表わすものであることを、当業者は認識するであろう。1タイプのベクターは“プラスミド”であり、これはその中へ追加のDNAセグメントをライゲートさせることができる環状二本鎖DNAループを表わす。他のタイプのベクターはウイルスベクターであり、その場合、追加のDNAセグメントをウイルスゲノム中へライゲートさせることができる。あるベクターはそれが導入された宿主内で自己複製することができる(たとえば、細菌の複製起点をもつ細菌ベクター、およびエピソーム型の哺乳動物ベクター)。宿主細胞への導入に際して、他のベクター(たとえば、非エピソーム型の哺乳動物ベクター)を宿主細胞のゲノム中へ組み込み、これにより宿主ゲノムと共に複製させることができる。さらに、あるベクターはそれらが作動可能な状態で連結している遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターを本明細書中で“組換え発現ベクター”(または単に“発現ベクター”)と呼ぶ。
【0055】
用語“調節配列”は、本発明の温度誘導型プロモーター、他のプロモーター、エンハンサー、およびトランスジーンの転写または翻訳を制御する他の発現制御エレメント(たとえばポリアデニル化シグナル)を包含するものとする。そのような調節配列は、たとえばGoeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, CA (1990)に記載されている。本発明の発現ベクターの設計が、本発明の温度誘導型プロモーターのほか他の調節配列の選択を含めて、形質転換される宿主細胞の選択、目的とするタンパク質の発現レベルなどの要因に依存することは、当業者に認識されるであろう。哺乳動物宿主細胞における発現のための本発明の組換え発現ベクター(すなわち、本発明の温度誘導型プロモーターを含む発現ベクター)に含まれる可能性のある他の調節配列は、好ましくは哺乳動物細胞において高レベルのタンパク質発現を指令するウイルスエレメント、たとえば下記のものに由来するプロモーターおよび/またはエンハンサーである:FF−1aプロモーターおよびBGHポリA、サイトメガロウイルス(CMV)(たとえば、CMVプロモーター/エンハンサー)、シミアンウイルス40(SV40)(たとえばSV40プロモーター/エンハンサー)、アデノウイルス(たとえば、アデノウイルス主要後期プロモーター(adenovirus major late promoter)(AdMLP))、およびポリオーマ。ウイルス性調節エレメントおよびその配列の詳細な記述については、たとえば下記を参照されたい:U.S.Patent No.5,168,062、Stinskiによる,U.S.Patent No.4,510,245、Bellらによる、およびU.S.Patent No.4,968,615、Schaffnerらによる。
【0056】
本発明の組換え発現ベクターは、さらに他の配列、たとえば宿主細胞における複製を調節する配列(たとえば複製起点)および選択マーカー遺伝子を含むことができる。選択マーカー遺伝子は、そのベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(たとえば、U.S.Patents No.4,399,216、4,634,665および5,179,017を参照,すべてAxelらによる)。たとえば、一般に選択マーカー遺伝子は、そのベクターが導入された宿主細胞に、薬物、たとえばG418、ハイグロマイシンまたはメトトレキセートに対する耐性を与える。好ましい選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(dhfr宿主細胞に使用するためのもの、メトトレキセート選択/増幅を含む)およびneo遺伝子(G418選択のためのもの)が含まれる。
【0057】
温度誘導性哺乳動物発現ベクターの使用方法
本発明は、本発明の温度誘導型プロモーターを(たとえば本発明の発現ベクターの一部として)用いてトランスジーンの発現を調節する方法、たとえば細胞を誘導温度で培養することにより細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法をも提供する。たとえば、本発明は下記の工程を含む、細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法を提供する:(1)発現ベクターを細胞に導入し、その際、発現ベクターは哺乳動物の温度誘導型プロモーター(たとえば、HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなる、温度誘導型プロモーター)を含み、この温度誘導型プロモーターがトランスジーンの発現を調節する;そして、(2)細胞を誘導温度で培養する。本発明の1態様において、HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:2のポリヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなる。本発明の他の態様において、HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:3のポリヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなる。本発明のさらに他の態様において、ライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列はSEQ ID NO:7のポリヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなる。
【0058】
本発明の温度誘導型プロモーター(または本発明の温度誘導型プロモーターを含む発現ベクター(単数または複数))を宿主である細胞または生物に導入するために利用できるいずれかの技術は当業者に周知であり、使用できる。たとえば、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを化学的に、またはインビトロ酵素合成により合成する場合、宿主細胞または生物に導入する前に精製することができる。たとえば、温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを混合物から、溶媒もしくは樹脂による抽出、沈殿、電気泳動、クロマトグラフィー、またはその組合わせによって精製することができる。あるいは、試料処理による損失を避けるために、温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを精製せずに、または最小限の精製で使用できる。温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを貯蔵のために乾燥させ、あるいは水溶液に溶解することができる。溶液は、温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターのアニーリングおよび/または安定化を増進するために、緩衝剤または塩類を含有することができる。精製した場合、温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを細胞に直接導入し、細胞外に生物の腔もしくは間質腔内または循環中へ導入し、経口導入し、あるいは本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを含む溶液に細胞または生物を浸漬すること(bathing)により導入できる。核酸を導入するための物理的方法には、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターを含む溶液の注入、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターで被覆した粒子の衝突、溶液中での細胞または生物のソーキングまたは浸漬、あるいはエレクトロポレーションが含まれる。
【0059】
真核細胞について、温度誘導型プロモーター(単数または複数)および/または本発明の温度誘導型プロモーターを含む発現ベクター(単数または複数)を導入するのに適切な技術には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAEデキストラン、エレクトロポレーション、リポソーム仲介トランスフェクション、およびレトロウイルスまたは他のウイルス、たとえばワクシニアを用いる形質導入(transduction)を含めることができる。好ましい態様において、ウイルス粒子内にパッケージしたウイルス構築体は、細胞内への本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターの効率的な導入と、温度誘導型プロモーターにより調節されたトランスジーンの転写の両方を達成する。さらに、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターは、下記の活性のうち1以上を行う構成要素と共に導入することができる:細胞による取込みを促進する、温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターの安定性を増大させる、など。最後に、導入に続いて、たとえば宿主細胞を誘導温度で培養することにより、温度誘導型プロモーターからの発現を引き起こし、または生じさせることができる。本発明の1態様において、誘導温度は宿主細胞の生理的温度より低い。本発明の他の態様において、誘導温度は約31℃である。
【0060】
発現の誘導は、トランスジーン生成物(たとえばmRNAおよび/またはタンパク質)のレベルが観察できるほど増大することを表わし、宿主である細胞もしくは生物の外部特性の検査により、または生化学的技術、たとえばハイブリダイゼーション反応(たとえばノーザンブロット分析、RNase保護アッセイ、マイクロアレイ分析など)、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応、結合反応(たとえば、ウェスタンブロット、ELISA、FACSなど)、レポーターアッセイ、薬物耐性アッセイなどにより検出できる。検出方法に応じて、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターによるトランスジーンの調節は、誘導温度(たとえば、細胞の生理的温度より低い温度)で培養した宿主細胞によるトランスジーン発現において、宿主細胞の生理的温度で培養した宿主細胞によるトランスジーン発現と比較して5%、10%、33%、50%、90%、95%または99%より大きい増大を誘導すべきである。さらに、宿主細胞の集団を本明細書に提示した方法により処理すると、本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターにより調節されたトランスジーンの誘導発現を示す細胞画分を生じることができる(たとえば、処理した細胞の少なくとも2%、5%、10%、20%、50%、75%、90%、95%または99%)。本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターの用量を増加させることにより、検出される誘導の量を増加させることができる。処理した細胞(単数または複数)または生物(単数または複数)におけるトランスジーン発現の定量がタンパク質レベルと比較してmRNAレベルで異なる誘導レベルを示す可能性があることは、当業者に認識されるであろう。一例として、阻害の効率は目的遺伝子のmRNAレベルをたとえばノーザンブロット分析により検出することによって測定できるが、阻害のレベルを測定する好ましい方法はタンパク質レベルの検出によるものである。
【0061】
本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターは、前記のように、少なくとも1コピーの温度誘導型プロモーターを細胞に導入できるのに十分な量で、宿主である細胞または生物に導入できる。より高い容量(たとえば、細胞当たり少なくとも5、10、100、500または1000コピー)の本発明の温度誘導型プロモーターおよび/または発現ベクターは、誘導温度で、より効果的な誘導を生じることができる。
【0062】
本出願において引用したすべての参考文献、特許、特許出願および刊行物の内容全体を本明細書に援用する。
【実施例】
【0063】
以下の実施例は本発明の理解を助けるために示すものであるが、決して本発明の範囲をそれらに限定するものではなく、そのように解釈すべきではない。実施例は一般的な方法、たとえばリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、細胞培養、RNA定量、あるいはベクターの構築、そのようなベクターおよびプラスミド中へのポリペプチドをコードする遺伝子の挿入、宿主細胞中へのそのようなベクターおよびプラスミドの導入、および宿主細胞におけるのそのようなベクターおよびプラスミドからのポリペプチドの発現に使用する方法の詳細な記述を含まない。そのような方法は当業者に周知である。
【0064】
実施例1
異なる培養温度で差次的発現するCHO配列の決定
実施例1.1:ターゲット核酸のプールの調製
試験したそれぞれの時点および温度について、二つ組の培養物は化学的に誘導された適切な無血清培地中において2x10細胞/mlで接種し、直ちに31℃で培養するか、または37℃で24時間増殖させた後に31℃で培養した(細胞量を増加させるために)。細胞を分割または補給しなかった。2または5日後、1x10の細胞を各培養物から収穫した。37℃で2または5日間培養したCHO K1細胞の各集団(対照)、および31℃で2または5日間培養したCHO K1細胞の各集団から、周知の方法を用いて全RNAを単離した。U.S.Patent Application No.11/128,049および11/128,061に従って作製したオリゴヌクレオチドアレイへのハイブリダイゼーションのために、全RNAをビオチニル化cRNAに変換した。要約すると、RNeasy Kit(Qiagen,カリフォルニア州バレンシア)を用いて製造業者のプロトコルに従って全RNAを単離した。単離した全RNA(5μg)を次いで、BACプール対照試薬を含む反応において70℃で10分間のインキュベーションにより、オリゴ−dTプライマー(100pMole)にアニールさせた。次いでこのプライマー付きRNAを、200単位のSuperscript RT II(商標)(Invitrogen,カリフォルニア州カールズバッド)および各0.5mMのdNTP(Invitrogen)と共に1x第1鎖用緩衝液中において50℃で1時間のインキュベーションにより、相補的DNA(cDNA)に逆転写した。40単位のDNA Pol I、10単位の大腸菌(E.coli)DNAリガーゼ、2単位のRNase H、30μlの第2鎖用緩衝液(Invitrogen)、3μlの10mM dNTP(各2.5mM)および最終体積150μlとなる量のdH0を添加し、15℃で2時間インキュベートすることにより、第2鎖合成を実施した。次いでT4 DNAポリメラーゼ(10単位)を添加して、さらに5分間おいた。10μlの500mM EDTAの添加により反応を停止した。得られた二本鎖cDNAを、cDNA Sample Cleanup Module(Affymetrix)を用いて精製した。このcDNA(10μl)を、1750単位のT7 RNAポリメラーゼおよびビオチニル化rNTPと共に37℃で16〜20時間インキュベートすることにより、インビトロでcRNAに転写した。得られたcRNA中へ、ビオチニル化rNTPを用いてビオチンを取り込ませた。次いで、cRNA Sample Cleanup Module(Affymetrix)を用いて製造業者のプロトコルに従ってビオチニル化cRNAを精製し、分光光度計を用いて定量した。
【0065】
実施例1.2:オリゴヌクレオチドアレイへのターゲット核酸のハイブリダイゼーション
ビオチン標識cRNA(15μg)を95℃で35分間、40μlの1xFragmentation Buffer(Affymetrix)中においてフラグメント化した。フラグメント化したcRNAをハイブリダイゼーション液[260μlの1xMES緩衝液:300ngのニシン精子DNA、300ngのBSA、6.25μlの対照オリゴヌクレオチド:オリゴヌクレオチドアレイをアラインさせるために使用(たとえば、Affymetrix から販売されるOligo B2:Affymetrixオリゴヌクレオチドプローブアレイをアラインさせるために使用)、および2.5μlの標準曲線試薬(Hill et al. (2000) Science 290: 809-12に記載)、を含有]中に希釈し、95℃で5分間変性させ、続いて直ちに45℃で5分間インキュベートした。不溶性物質を短時間の遠心により除去し、ハイブリダイゼーションミックスをU.S.Patent Application No.11/128,049および11/128,061に記載のオリゴヌクレオチドアレイに添加した。45℃で16時間、60rpmの連続回転条件下で、ターゲット核酸を相補的オリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせた。インキュベーション後、ハイブリダイゼーション液を除去し、当技術分野で既知のプロトコルを用いてオリゴヌクレオチドアレイを6xSSPETおよび1xSSPETで十分に洗浄した。
【0066】
実施例1.3:ターゲット核酸のプールをオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズすることにより得られたハイブリダイゼーションプロファイルの検出および分析
各遺伝子の未加工の蛍光強度値を3μmの解像度でAgilent GeneArray Scannerにより測定した。ある遺伝子が“存在する”か“存在しない”かを判定するためのアルゴリズムを用いるMicroarray Suite(Affymetrix、カリフォルニア州サンタクララ)、およびアレイ上の各遺伝子の特異的ハイブリダイゼーション強度値を用いて、蛍光データを評価した。各ハイブリダイゼーションミックス中に少量添加した既知存在度の11の対照転写物の発現値と照らし合わせて、各遺伝子の発現値を頻度値に正規化した;Hill et al. (2001) Genome Biol. 2(12): research 0055.1-0055.13、およびHill et al. (2000) Science 290 : 809-12の方法に従う;それらの両方を全体として本明細書に援用する。各遺伝子の頻度を計算した;これは10の全転写物当たりの個々の遺伝子転写物の総数に等しい値である。
【0067】
それぞれの条件および時点を4つの生物学的複製物により表わした。四つ組の生物学的複製物を各時点につきアッセイした。各複製物を二つ組でアッセイした。次いで全実験を繰り返した。当技術分野で既知のプログラム、たとえばGeneExpress 2000(Gene Logic、メリーランド州ガイザースバーグ)を用いて、ターゲット配列の存在および不存在を分析し、1コホートの試料(たとえば、条件または時点)におけるそれの相対発現レベルを他の試料コホートと比較して判定した。すべての複製物試料において存在と呼び出されたプローブセットを、以後の分析用とみなした。p値が0.05以下である場合、一般に2倍以上の変化倍率値を統計的に有意とみなした。
【0068】
発現プロファイルプログラムGeneExpress 2000を用いて遺伝子を同定した。未知の配列をblast相同性検索により検索した。培養温度を低下させた際に遺伝子の転写活性が増大した幾つかの遺伝子が同定された。11遺伝子の発現レベルが2倍より大きく変化した(p値<0.05)。11遺伝子のうち5つは、37℃で経時的に低下するRNA発現レベルを示したが、31℃では定常的な発現レベルをもっていた(“低温誘導遺伝子”;データは示していない)。残りの6遺伝子は、CHO細胞を31℃で培養した際に経時的に増大するRNA発現レベルを示した(データは示していない)。2種類の低温誘導遺伝子、ハムスター乳腺腫瘍−7(HMT−7;RIKEN 0610037N19またはN19とも呼ぶ)およびライリンを以後の分析のために選択した。
【0069】
HMT−7コード領域はMMT−7と91%同一であり、RMT−7と89%同一である。RMT−7およびMMT−7の寄託番号は、それぞれAF465614およびNM_026159である(Wang et al. (2001) Oncogene 20: 7710-21; Katayama et al. (2005) Science 309: 1564-66; Moise et al. (2004) J. Biol. Chem. 279: 50230-42)。ライリンは、CHO K1細胞からクローニングされ、寄託番号AF093673にみられる配列に対して100%相同である(Borowsky and Hynes (1998) J. Cell. Biol. 143: 429-42)。
【0070】
生理的温度より低い温度でのHMT−7およびライリンの誘導を、実施例2に示すように、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応およびノーザンブロット分析を用いて立証した。
実施例2
HMT−7およびライリンのゲノム配列の特性分析
実施例2.1:リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応
非定量型の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)をまず用いて、各遺伝子のcDNAを部分クローニングした。これらのcDNAをベクターpBluescript KS(−)(Stratagene,カリフォルニア州ラホーヤ)内へクローニングし、クローニングしたcDNAフラグメントから生成したインビトロ転写物を、次いで定量した。これらのcDNA配列に基づいてオリゴヌクレオチドおよびTaq−manプローブを設計した。リバースおよびフォワードプライマーならびにTaq−manプローブのヌクレオチド配列およびSEQ ID NO:を表2に挙げる。
【0071】
【表2】

【0072】
37℃、34℃、31℃および28℃におけるCHO細胞の並行培養物から単離した全RNAにつき、定量したインビトロ転写物を標準曲線として用いるリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応を実施した。
【0073】
図1には、4または8つの異なる実験からの、異なる温度で増殖させたCHO細胞により転写されたHMT−7またはライリンのいずれかのRNA転写物の量を示す。HMT−7およびライリンは、31℃で増殖したCHO細胞での発現において、37℃で増殖したCHO細胞と比較してそれぞれ8倍および4倍の増加を示す(図1)。さらに、いずれの遺伝子の発現増大も温度の低下と直接相関していた(図1)。
【0074】
実施例2.2:ノーザンブロット分析
37℃および31℃で培養した細胞からのRNAにつき、単離されたcDNA RT−PCR生成物をプローブとして用いてノーザンブロット分析を実施した。
【0075】
要約すると、37℃または31℃で5日間増殖させた7つの個別のCHO K1培養物からRNAを単離した。合計5μgのRNAを分離し、一般的な様式でナイロン膜へ移した(Ausubel et al. (1995) Current Protocols in Molecular Biology, Sects.)。HMT−7またはライリンのいずれかのコード領域に対応するcDNAフラグメント(50ng)を32Pで標識し、プローブとして用いた(以下にさらに詳細に記載する)。膜への標識ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションおよびその後の膜の洗浄を、Quickhyb Hybridization Solution(Stratagene,カリフォルニア州ラホーヤ)を用いて製造業者の指示に従って行なった。
【0076】
HMT−7に用いたプローブ(SEQ ID NO:14に示すもの)は、実施例2.1に記載したRT−PCR生成物の334bpフラグメントであった。それはHMT−7ゲノム配列(SEQ ID NO:1)のヌクレオチド11514と12200の間のエキソンをコードし、3つのエキソンにわたる。この配列はリアルタイムPCR実験に用いた配列とオーバーラップする。ライリンプローブ(SEQ ID NO:15に示すもの)は397bpのプローブであり、ライリンmRNA配列の塩基325〜721に対応する。
【0077】
HMT−7のノーザンブロット分析は2つのバンドを示し(一方は1.4kbに、他方は3.0kbに)、これはこの遺伝子についてオルタナティブスプライス部位の可能性を示唆する(データは示していない)。ノーザンブロット分析により、前記のリアルタイムPCRデータが確認された;HMT−7およびライリンは両方とも、細胞を31℃で培養した際にCHO細胞による発現増大を示した(データは示していない)。
【0078】
実施例3
HMT−7遺伝子およびライリン遺伝子の特性分析
実施例3.1:cDNA末端の5’側迅速増幅
転写物の5’側末端を単離するために、31℃で培養した細胞から調製したRNAについて、cDNA末端の5’側迅速増幅(5’ rapid amplification of cDNA ends)(5’RACE)を実施した。得られたPCR生成物を単離し、クローニングし、配列決定した。ライリンについて2つの5’RACE生成物配列が実験により回収され、これらのうち一方は先に公開された配列と厳密に一致し、ライリンが2つの転写開始部位をもつことが示唆された。これらの開始部位は両方とも31℃で存在し、低温で一方の部位が他方より好ましいことを示唆する証拠はない。HMT−7遺伝子生成物の5’末端は、公開されたヌクレオチドデータベース中に存在するいずれの配列とも既知の相同性をもたなかった。
【0079】
実施例3.2:プロモーター配列の遺伝子歩行および決定
次いで、ライリンおよびHMT−7両方の5’末端をプローブとして用いて、CHO特異的ゲノム8ファージライブラリーをスクリーニングした。ライリンのスクリーニングからはクローンが単離されず、一方、HMT−7のスクリーニングからは2つのクローンの単離および増幅に成功した。
【0080】
HMT−7スクリーニングからのゲノムDNAフラグメントは、>12kbのサイズであった。先に単離されたcDNAを含む3.5kbのゲノムフラグメント(すなわち一部)をクローニングおよび配列決定した。次いで、HMT−7遺伝子の残りの5’末端を、下記に従って遺伝子歩行により単離した:CHOゲノムDNAを単離し、4種類の制限酵素で完全に消化し、次いで得られたゲノムDNAフラグメントの5’および3’両方の末端にDNAリンカーをライゲートさせた。次いで、3’末端の遺伝子特異的プライマーおよび5’末端のリンカー特異的プライマーを用いるPCRにより、CHO特異的ゲノムDNAを増幅させた。PCR生成物を単離し、Topo−PCR IIベクター中へサブクローニングし、配列決定した。‘推定プロモーター配列’(GRAILソフトウェアが採用しているアルゴリズムを用いて決定;Apocom Genomics,テネシー州ノックスビル)が同定されるまで、このプロセスを繰り返した。HMT−7について2つの推定プロモーター領域が同定された(P1−HMT−7およびP2−HMT−7)。31℃でどちらが活性であるかを判定するために、プライマー延長実験を実施し、5’RACE実験を繰り返した。図2に示すように、活性プロモーター配列(P2−HMT−7)はHMT−7遺伝子の最遠位5’末端に位置することが見出された。TATAボックス(プロモーターの共通特徴)に相当する配列がこの転写開始部位に対して5’側へ33塩基の位置にあることが同定され、P2−HMT−7は活性プロモーターであることがさらに説明される。しかし、5’RACEの結果およびノーザンブロット分析は2つの転写物を示し、これらは全長およびより小さな推定スプライスバリアントを指示するのに適切なサイズであって温度誘導試料においてのみ出現するものであることは、オルタナティブスプライシングが起きている可能性を示唆する。しかし、推定スプライスバリアントに相当する配列または転写物は単離またはクローニングされなかった。
【0081】
同様に遺伝子歩行を用いてライリンのゲノム配列を単離したが、ゲノムライブラリースクリーニングからはクローンが得られなかったので、5’RACE生成物を初期鋳型として用いた。得られたライリンPCR生成物を単離し、Topo−PCR IIベクター中へサブクローニングし、配列決定し、推定プロモーター配列を同定した。
【0082】
HMT−7について組み立てた全長ゲノム配列をSEQ ID NO:1として示す。この組み立てた配列は、5’側および3’側非翻訳領域(UTR)から単離したゲノムDNAを含む。2つの推定プロモーター領域は、SEQ ID NO:1のヌクレオチド2422−2673(すなわちSEQ ID NO:3)およびSEQ ID NO:1のヌクレオチド5615−5762(すなわちSEQ ID NO:2)に位置する。さらに、表3にHMT−7についてSEQ ID NO:1内のエキソンの位置を挙げる。
【0083】
【表3】

【0084】
SEQ ID NO:6に示すのは、組み立てたライリンの5’側ゲノム配列であり、これは開始メチオニンをコードするATG(ヌクレオチド1341−1343)の上流の5’側領域1341塩基を含む。ライリンにおけるこの1341塩基ドメインは、ヌクレオチド223−1341に推定プロモーター配列を含む。同様に、HMT−7ゲノム配列における対応するドメイン(すなわち、SEQ ID NO:1のヌクレオチド1421−2685)は、HMT−7についての推定プロモーター配列(単数または複数)を含む;たとえば、P2−HMT−7についてはヌクレオチド2422−2673に。
【0085】
実施例4
HMT−7プロモーター領域を用いた温度誘導性発現ベクター系の作製
実施例3において特性分析および記載したプロモーター配列を単離し、レポーター遺伝子であるヒト胎盤アルカリホスファターゼ(SEAP)の上流に配置した(参照:図3Cおよび3D)。要約すると、P2−HMT−7を含むHMT−7遺伝子のスモールまたはラージドメインのいずれかをSEAPの上流に配置した。スモールドメインの配列はSEQ ID NO:1のヌクレオチド2404−2685に相当し、ラージドメインの配列はヌクレオチド1422−2685に相当する;これらの配列をそれぞれSEQ ID NO:16およびSEQ ID NO:17に示す。ランダム組込みにより起きるバックグラウンド発現を同定するために、SEAPレポーター遺伝子がいずれのプロモーターの制御下にもない構築体を作製した。すべての構築体をEAM1101部位で線状にし、CHO K1細胞内へトランスフェクションした。
【0086】
実施例5
P2−HMT−7プロモーターをもち、および/または本質的にそれからなる誘導性発現ベクターの試験
実施例4に記載した発現ベクターを、独立してCHO K1細胞に導入した。トランスフェクションした細胞のプールを1mg/mlのG418の選択下で集密状態にまで増殖させた。二つ組セットのプールを3x10細胞/ウェルで接種し、37℃または31℃のいずれかで7日間増殖させた。7日後、細胞を収穫し、トランスフェクションしたすべての細胞からRNAを単離した。全RNA(100μg)の三重試料を、SEAP発現またはGAPDH発現についてリアルタイムPCRを用いてアッセイした。図4は、P2−HMT−7を含むHMT−7遺伝子のスモールおよびラージ両方のドメインが37℃より31℃においてより大きなプロモーター活性をもつことを立証する。
【0087】
トランスフェクションした細胞のプールを試験するほか、個々のクローンをネオマイシン(G418)を用いて選択し、単離し、増殖させた。各クローンを96ウェル皿に接種し、37℃または31℃のいずれかで7日間増殖させた。次いでクローンを洗浄し、細胞溶解し、Qiagen RNEASY(商標)キットを用いて製造業者の指示に従って全RNAを単離した。表4に挙げたオリゴ配列を用いるリアルタイムPCRにより、SEAPおよびGAPDH RNAレベルを求めた。
【0088】
【表4】

【0089】
GAPDHの量も定量して、RNA発現の一般的な変動に対して正規化した。GAPDHの定量は、100ngの全RNAを用いて三つ組の試料において同様に測定された。HMT−7レポーター構築体でトランスフェクションしたクローンは、対照プロモーターでトランスフェクションしたクローンと比較して始動が遅かった。各クローンを37℃および31℃の両方でアッセイした。図5には、CMVプロモーターの制御下にアルカリホスファターゼ(SEAP)でトランスフェクションした22クローン、およびP2−HMT−7プロモーターを周むラージドメインの制御下にアルカリホスファターゼでトランスフェクションした20クローンについて、両温度で培養した細胞によるGAPDH発現に対して正規化したSEAP RNA産生を示す。31℃で増殖させた場合、P2−HMT−7プロモーターを含むスモールドメインの制御下にSEAPでトランスフェクションしたクローンは、CMVプロモーターの制御下にSEAPでトランスフェクションしたクローンと同等のアルカリホスファターゼRNA増加倍率を示した(データは示していない)。これに対し、P2−HMT−7を含むラージドメインの制御下にアルカリホスファターゼでトランスフェクションした細胞のクローン番号1からクローン番号12までにおけるアルカリホスファターゼRNA産生の増加倍率は、細胞を31℃で増殖させた場合、1.7倍から9.6倍の範囲であった(図5)。同様に、31℃でP2−HMT−7を含むラージドメインの制御下にアルカリホスファターゼでトランスフェクションした細胞のクローン13〜16によりアルカリホスファターゼの産生が増加したが、これらのクローンによるSEAP産生レベルは37℃では検出できず、したがって、変化倍率を計算できなかった。最後に、P2−HMT−7を含むラージドメインの制御下にアルカリホスファターゼでトランスフェクションした細胞のクローン17〜22は、いずれの温度でも、検出可能なレベルのSEAPを産生しなかった。これに対し、CMVプロモーターの制御下にSEAPでトランスフェクションした細胞によるアルカリホスファターゼ発現レベルの増大は、1.8倍から9.1倍の範囲であった。その結果、P2−HMT−7、ならびにP2−HMT−7のポリヌクレオチド配列をもち、および/または本質的にそれからなるドメイン(たとえば、SEQ ID NO:16またはSEQ ID NO:17に示すポリヌクレオチド配列をもつドメイン)は、誘導性哺乳動物発現系の一部として使用できる温度誘導型プロモーターであると結論できる。
【0090】
実施例6
ライリンプロモーターをもち、および/または本質的にそれからなる誘導性発現ベクターの試験
実施例3において特性分析および記載したライリンプロモーター配列を単離し、レポーター遺伝子であるヒト胎盤アルカリホスファターゼ(SEAP)の上流に配置する。推定ライリンプロモーターの配列はSEQ ID NO:6のヌクレオチド223−1341に相当し、SEQ ID NO:7に示されている。前記の実施例4および5と同様に、ランダム組込みにより起きるバックグラウンド発現を同定するために、SEAPレポーター遺伝子がいずれのプロモーターの制御下にもない構築体を作製する。すべての構築体をEAM1101部位で線状にし、CHO K1細胞内へトランスフェクションする。
【0091】
ライリンプロモーターの制御下にあるSEAPレポーター遺伝子を含む発現ベクターを、CHO K1細胞に導入する。トランスフェクションした細胞のプールを1mg/mlのG418の選択下で集密状態にまで増殖させる。二つ組のセットのプールを3x10細胞/ウェルで接種し、37℃または31℃のいずれかで7日間増殖させる。7日後、細胞を収穫し、トランスフェクションしたすべての細胞からRNAを単離する。全RNA(100μg)の三重試料を、SEAP発現またはGAPDH発現についてリアルタイムPCRを用いてアッセイする。トランスフェクションした細胞のプールのほか、個々のクローンをネオマイシン(G418)を用いて選択し、単離し、増殖させる。各クローンを96ウェル皿に接種し、37℃または31℃のいずれかで7日間増殖させる。次いでクローンを洗浄し、細胞溶解し、Qiagen RNEASY(商標)キットを用いて製造業者の指示に従って全RNAを単離する。前記の表4に挙げたオリゴ配列を用いるリアルタイムPCRにより、SEAPおよびGAPDH RNAレベルを求める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:5のアミノ酸配列およびSEQ ID NO:5の活性フラグメントのアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の単離されたポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を有する、単離された核酸分子。
【請求項3】
核酸分子が、SEQ ID NO:4のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:4の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:4のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:4のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
核酸分子が、少なくとも1つの発現制御配列に作動可能な状態で結合している、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸分子で形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項6】
体細胞および生殖細胞が請求項4に記載の単離された核酸分子を有するDNAを含む、ヒト以外のトランスジェニック動物。
【請求項7】
請求項2に記載の単離された核酸分子に高度にストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする、単離された核酸分子。
【請求項8】
請求項2に記載の単離された核酸分子に対応するmRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド。
【請求項9】
少なくとも1つのRNA鎖を含み、その1つの鎖が請求項2に記載の単離された核酸分子に対応するmRNAに相補的なポリヌクレオチド配列を有する、siRNA分子。
【請求項10】
請求項2に記載の単離された核酸分子のポリヌクレオチド配列を有する、単離された遺伝子。
【請求項11】
請求項10に記載の単離された遺伝子の単離された対立遺伝子。
【請求項12】
SEQ ID NO:1のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:1の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:1のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:1のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する、請求項11に記載の単離された対立遺伝子。
【請求項13】
ハムスターライリンをコードするポリヌクレオチド配列を有する、単離された遺伝子。
【請求項14】
請求項13に記載の単離された遺伝子の単離された対立遺伝子。
【請求項15】
SEQ ID NO:6のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:6の相補配列のポリヌクレオチド配列、SEQ ID NO:6のサブ配列のポリヌクレオチド配列、およびSEQ ID NO:6のサブ配列の相補配列のポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する、請求項14に記載の単離された対立遺伝子。
【請求項16】
HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する、単離された温度誘導型プロモーター。
【請求項17】
SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:16、またはSEQ ID NO:17のポリヌクレオチド配列を有する、請求項16に記載の単離された温度誘導型プロモーター。
【請求項18】
請求項16または17に記載の単離された温度誘導型プロモーターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項19】
単離された温度誘導型プロモーターがトランスジーンの発現を調節する、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項20】
宿主細胞がCHO細胞である、請求項18に記載の宿主細胞。
【請求項21】
HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列から選択される核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項22】
核酸配列がSEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:3である、請求項21に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項23】
HMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する温度誘導型プロモーターを含む、温度誘導性の哺乳動物発現ベクター。
【請求項24】
温度誘導型プロモーターがSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:16、またはSEQ ID NO:17のポリヌクレオチド配列を有する、請求項23に記載の温度誘導性の哺乳動物発現ベクター。
【請求項25】
請求項23または24に記載の温度誘導性の哺乳動物発現ベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞。
【請求項26】
宿主細胞がCHO細胞である、請求項25に記載の宿主細胞。
【請求項27】
下記の工程を含む、細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法:
(a)発現ベクターを細胞に導入し、その際、発現ベクターは哺乳動物の温度誘導型プロモーターを含み、この温度誘導型プロモーターがトランスジーンの発現を調節し;そして
(b)細胞を誘導温度で培養する。
【請求項28】
温度誘導型プロモーターがSEQ ID NO:2、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:16、またはSEQ ID NO:17のポリヌクレオチド配列を有する、請求項27に記載の細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法。
【請求項29】
誘導温度がその細胞の生理的温度より低い、請求項27または28に記載の細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法。
【請求項30】
誘導温度が25℃〜34℃の範囲である、請求項27または28に記載の細胞によるトランスジーン発現を誘導する方法。
【請求項31】
哺乳動物発現ベクターを含むキットであって、哺乳動物発現ベクターがHMT−7プロモーターのポリヌクレオチド配列およびライリンプロモーターのポリヌクレオチド配列からなる群から選択されるポリヌクレオチド配列を有する温度誘導型プロモーターを含むキット。
【請求項32】
下記の工程を含む方法により判定された、異なる培養条件下で差次的に発現するハムスター配列:
(a)第1ハイブリダイゼーションプロファイルおよび第2ハイブリダイゼーションプロファイルを形成し、その際、第1ハイブリダイゼーションプロファイルは第1細胞から調製されたターゲット核酸を第1ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと共にインキュベートすることにより形成され、第2ハイブリダイゼーションプロファイルは第2細胞から調製されたターゲット核酸を第1ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと同一の第2ハムスターオリゴヌクレオチドアレイと共にインキュベートすることにより形成され、第1細胞は培養条件に関して第2細胞と異なり;
(b)第1および第2ハイブリダイゼーションプロファイルを検出し;
(c)第1および第2ハイブリダイゼーションプロファイルを比較し;そして
(d)第1ハイブリダイゼーションプロファイルにおいて、第2ハイブリダイゼーションレベルにおけるそれの発現レベルに対して差次的な発現レベルをもつ少なくとも1つのハムスター配列を判定する。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−508026(P2012−508026A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535758(P2011−535758)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/063838
【国際公開番号】WO2010/054362
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(309040701)ワイス・エルエルシー (181)
【Fターム(参考)】