説明

温度調節機構付き靴

【課題】低コスト及び軽量化を実現でき、耐久性及び安全性に優れた温度調節機構付き靴を提供する。
【解決手段】温度調節機構付き靴100を、靴底と中敷との間及び靴外側面の靴内部に配設され、水(熱交換用流動体)が一方向に流動可能に供給された経路1と、当該経路1の一部に配設され、靴底に加わる荷重の変化により開閉する逆止弁2と、靴外側面に配設された経路12の一部と接するように加冷剤又は加温剤4を保持可能な収納部3と、を備えた構成とした。そして、靴底に加わる荷重の変化により逆止弁2が開閉して、経路1内を水が流動し、水が保冷剤又は前記保温剤4と接することで、靴内部の温度を調節できるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴内部を冷やしたり温めたりすることができる温度調節機構を備えた靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような温度調節機構を備えた靴として、特許文献1及び特許文献2に記載の温度調節機構付き靴が公知となっている。
【0003】
特許文献1では、靴外装部の複数箇所に配設され、可逆なペルチェ効果により靴内部を加温および加冷するための複数個の熱交換器と、これら熱交換器の近傍にそれぞれ設けられた温度センサと、靴の底部に設けられて歩行などの運動に伴う機械力で電気エネルギーを発生する発電機構と、この発電機構の出力から所定の直流を得る電源回路と、この電源回路の出力により作動し、各温度センサの検出値と適宜な設定値とを比較するとともに、その比較結果に基づいて各熱交換器を加温モードまたは加冷モードで適宜に駆動する制御回路と、を備えた自動温度調節機構付き靴が提案されている。
【0004】
特許文献2では、靴底部の上面側に断面が半円状又は四辺形状の細長い溝を設けて、冷却媒体又は加熱媒体を着脱自在に収納できるように構成した温度調整機構付き靴が提案されている。
【特許文献1】特開平10−229902号公報
【特許文献2】特開2006−204411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の靴においては、靴内部を加温又は加冷するために、靴に熱交換器、温度センサ、発電機構、電源回路、及び制御回路装置が具備されているため、温度調節機構が複雑であり、製造コスト及び修理コストの点や、靴の軽量化の点で更なる改善の余地があった。
【0006】
また、上述した特許文献1に記載の靴においては、靴に発電機構や電源回路等の電気装置が取り付けられているため、これらの装置に水が浸入すると最悪の場合ショートや感電を生じるおそれがあり、耐久性及び安全性の点でも更なる改善の余地があった。
【0007】
一方、上述した特許文献2に記載の靴においては、靴底部に加冷媒体又は加温媒体を収納可能な溝が設けられているため、靴を履いた状態で冷却媒体又は加温媒体を着脱することは困難であり、取り扱い性の点で更なる改善の余地があった。
【0008】
また、上述した特許文献2に記載の靴においては、靴底部に冷却媒体又は加温媒体を収納可能な溝が設けられているため、歩行時の耐久性及び安全性の点でも更なる改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低コスト及び軽量化を実現でき、耐久性及び安全性に優れた温度調節機構付き靴を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明は、靴内部に配設され、熱交換用流動体が一方向に流動可能に供給された経路と、当該経路の一部に配設され、靴底に加わる荷重の変化により開閉する逆止弁と、前記経路の一部と接するように加冷剤又は加温剤を保持可能な収納部と、を備え、靴底に加わる荷重の変化により前記逆止弁が開閉して、前記経路内を前記熱交換用流動体が流動し、前記熱交換用流動体が前記加冷剤又は前記加温剤と接することで、靴内部の温度を調節できるように構成されていることを特徴とする温度調節機構付き靴を提供する。
【0011】
つまり、本発明に係る温度調節機構付き靴においては、歩行時の踏み込みにより足底に加わる荷重が変化すると、逆止弁が開閉して、経路内の熱交換用流動体を一方向に流動させるポンプ機構を備えている。そして、このポンプ機構により経路内を流動する熱交換用流動体が、経路の一部に配設された加冷剤又は保温剤と接することで、加冷剤又は加温剤と熱交換用流動体との間で熱交換が行われ、靴内部の温度が調節されるように構成されている。
【0012】
すなわち、本発明に係る温度調節機構付き靴によれば、上述した特許文献1に記載の靴のように発電機構等の電気装置を用いずに、歩行時の荷重の変化を利用したポンプ機構を用いて靴内部の温度を調節する構成としたため、温度調節機構が簡易となる。よって、製造コスト及び修理コストを低減させることができるとともに、靴の軽減化を実現することができる。
【0013】
また、本発明に係る温度調節機構付き靴によれば、上述した特許文献1に記載の靴のように発電機構等の電気装置を用いず、且つ、上述した特許文献2に記載の靴のように靴底に溝部を備えていないため、耐久性及び安全性を向上させることができる。
【0014】
ここで、本発明に係る温度調節機構付き靴においては、前記経路を、足裏、甲、踝近傍、脛に接する靴内部のうち少なくとも一部に配設された構成としてもよい。
【0015】
また、本発明に係る温度調節機構付き靴においては、前記経路に、前記熱交換用流動体の流量を調節可能な流量調節部材を備えた構成としてもよい。
この構成によれば、経路内を流動する熱交換用流動体の流量を調節することで、熱交換前後の流動体の流量を調節することが可能となるため、靴内部の温度を微調節することができる。
【0016】
さらに、本発明に係る温度調節機構付き靴においては、前記収納部を、靴側面の一部に配設された構成としてもよい。
この構成によれば、加冷剤又は加温剤の着脱が靴を履いた状態で容易に行えるため、靴内部の温度調節をより簡単に行うことができる。
さらに、本発明に係る温度調節機構付き靴においては、前記経路、前記逆止弁、及び前記収納部の少なくとも一つが、着脱自在に配設された構成としてもよい。
この構成によれば、メンテナンス性や収納時の取り扱い性を向上させることができるとともに、既存の靴に本発明に係る経路、逆止弁、及び収納部を配設することで本発明に係る温度調節機構付きの靴を低コストで得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る温度調節機構付き靴によれば、歩行時に変化する荷重を利用したポンプ機構を用いて靴内部の温度を調節できるように構成したことにより、低コスト及び軽量化を実現でき、優れた耐久性及び安全性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る温度調節機構付き靴の一例を示し、(a)は斜視図、(b)は温度調節機構の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示す温度調節機構付き靴の温度調節機構を示し、(a)は靴底と靴中敷との間に配設した経路内の構成を示す説明図、(b)は靴外側面に配設した経路内の構成を示す説明図である。
【0019】
この温度調節機構付き靴100は、図1及び図2に示すように、ゴム製の長靴であり、その長靴内部において、水(熱交換用流動体)が一方向に流動可能に供給された経路1と、当該経路1の一部に配設され、靴底に加わる荷重の変化により開閉する逆止弁2と、当該経路1の一部と接するように加冷剤又は加温剤4を保持可能な収納部3と、を備えている。
【0020】
経路1は、靴底と靴中敷との間に設けられた第一の経路11と、靴外側面の一部に設けられた第二の経路12とが、樹脂製の中空管からなり且つ逆止弁2が設けられた二本のチューブ13で連結された構成となっている。
【0021】
第一の経路11は、図1(b)及び図2(a)に示すように、樹脂製の平板で構成され、靴底と靴中敷との間において、土踏まず部分と接する部位には配設されないように、踵部分と接する部位にジグザグ状に設けられた踵側経路11aと、爪先部分と接する部位にジグザグ状に設けられた爪先側経路11bとが、一部で繋がった状態で配設されている。
【0022】
第二の経路12は、図1(b)及び図2(b)に示すように、樹脂製の平板で構成され、その平板の中央に直線状の折れ目部分Xを残して、ジグザグ状に設けられており、この平板の折れ目部分Xを折り曲げて底面として配置した状態で、靴外側面の一部に側面視略U字状に固定されている。
【0023】
チューブ13は、第一の経路11から第二の経路12に向かって一方向に水を流動させる第一のチューブ13aと、第二の経路12から第一の経路11に向かって一方向に水を流動させる第二のチューブ13bと、から構成されている。
【0024】
第一のチューブ13aには、第一の逆止弁21が設けられており、第二のチューブ13bには、第二の逆止弁22が設けられている。
また、第二のチューブ13bの一部には、チューブ13bの径を調整することで、内部を流動する水の流量を調節可能な調節式オリフィス(流量調節部材)14が設けられている。この調節式オリフィス14を調節し、第二の経路12から第一の経路11に流動する水の流量を調節することで、靴内部の温度を微調整することができる。
ここで、経路1内の水の流動性を向上させるために、経路1内に供給する水に所定量の空気を混入させたり、経路1の一部に伸縮スペースを設けることが好ましい。
【0025】
収納部3は、第二の経路12をなす平板の折れ目部分Xを底面とした凹部に保冷剤又は保温剤4を保持できるように、第二の経路12が設けられた靴外側面の一部に袋状に設けられている。また、収納部3には、図1(a)に示すように、凹部の開口面を被覆可能な開閉自在の蓋部31が設けられている。
【0026】
次に、本実施形態に係る温度調節機構付き靴100の構成について詳細に説明する。
【0027】
この温度調節機構付き靴100は、図2に示すように、歩行時の踏み込みにより、第一の経路1の踵側経路11a又は爪先側経路11bに荷重が加わると、第一の逆止弁21が開いて、図2に示す矢印の方向に、第一の経路11から第二の経路12に向かって水が流動するとともに、第二の経路12に水が流動することで第二の逆止弁22も開いて、第二の経路12から第一の経路11に水が流動する。
【0028】
この時、第二の経路2を流動する水が加冷剤又は保温剤4と接することで、水の温度が変化し、靴内部の温度が調節されるように構成されている。すなわち、収納部3内に加冷剤4を保持した場合には、水は冷却され、靴内部の温度が低下し、一方、収納部3内に加温剤4を保持した場合には、水は加温され、靴内部の温度が上昇するようになっている。
【0029】
なお、温度調節機構付き靴100は、歩行時の踏み込みが解除されると、各逆止弁21,22が閉じて、経路1内の水が流動しなくなる。
ここで、通常、歩行時には、踵側経路11aと爪先側経路11bに交互に荷重が加わるとともに、左右の足に交互に荷重が加わるため、この荷重の変化に伴って、第一及び第二の逆止弁21,22がそれぞれ開閉し、ポンプ機構として作用し、靴内部の温度調節ができるようになっている。
【0030】
すなわち、本実施形態に係る温度調節機構付き靴100によれば、歩行時の荷重の変化を利用したポンプ機構を用いて靴内部の温度を調節する構成としたため、温度調節機構が簡易となる。よって、上述した特許文献1に記載のように、発電機構等の電気装置により温度調節を行う靴と比べて、製造コスト及び修理コストを低減させることができるとともに、靴の軽減化を実現することができる。
【0031】
また、本実施形態に係る温度調節機構付き靴100によれば、上述した特許文献1に記載の靴のように発電機構等の電気装置を用いず、且つ、上述した特許文献2に記載の靴のように靴底部に溝を備えていないため、耐久性及び安全性を向上させることができる。
【0032】
さらに、本実施形態に係る温度調節機構付き靴100によれば、収納部3を、靴外側面の一部に配設した構成としたため、加冷剤又は加温剤4の出し入れが靴100を履いた状態で容易に行えるため、靴内部の温度調節をより簡単に行うことができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、経路1を、足裏と接する部分(靴底部と中敷との間)に設けた第一の経路11と、脛に接する部分(靴外側面部)に設けた第二の経路12とで構成した場合について説明したが、靴の用途や使用者の要望に応じて、経路1の配設位置は適宜変更可能である。
【0034】
例えば、経路1を、足裏と接する部分のみ又は脛と接する部分のみに設けてもよいし、足裏及び脛と接する部分に加えて、甲や踝近傍に接する部分に設けてもよいし、甲や踝近傍に接する部位のみに設けてもよい。
但し、靴の構成上、通常は足裏を加温又は加冷したい場合が多く、また、歩行時の荷重の変化により効率よく逆止弁を開閉させることを考慮すると、少なくとも足裏と接する部分に経路1を配設することが好ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、加冷剤又は加温剤4の収納部3を、靴の外側面に設ける場合について説明したが、少なくとも経路1と接する部分に設けるのであればこれに限らず、靴の内側面、靴の甲面、靴の背面などに適宜変更可能である。
【0036】
さらに、本実施形態においては、加冷剤又は加温剤4の収納部3を一つ設ける場合について説明したが、これに限らず、片方の靴に二つ以上の収納部3を設けるようにしてもよい。この時、靴内部に配設する経路1を複数設けて、それぞれの経路1で熱交換用流動体を別個に循環させるように構成し、さらに、各経路で加冷剤と加温剤とを使い分けるようにしてもよい。この構成にすれば、例えば、靴の踵部分と爪先部分は加温し、靴の踝部分は加冷するなど、靴内部の箇所に応じて温度調節を行うことができる。
【0037】
また、本実施形態においては、本発明をゴム製の長靴に適用した場合について説明したが、本発明の適用範囲はこれに限らず、皮製のブーツや、布製、皮製、或いはゴム製のスニーカー等その他の形態の靴に適用することもできる。
さらに、本実施形態においては、本発明に係る温度調節機構付き靴を構成する経路1、逆止弁2、及び収納部3を全て靴本体に固定して配設した場合について説明したが、これに限らず、経路1、逆止弁2、及び収納部3の少なくとも一つを靴本体に対して着脱自在に配設した構成としてもよい。この構成によれば、メンテナンス性や収納時の取り扱い性を向上させることができる。また、経路1、逆止弁2、及び収納部3の全てを靴本体に対して着脱自在に形成し、既存の靴に本発明に係る経路1、逆止弁2、及び収納部3を配設するようにすれば、低コストで温度調節機構付き靴を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る温度調節機構付き靴の一例を示し、(a)は斜視図、(b)は図1(a)の温度調節機構を示す斜視図である。
【図2】図1に示す温度調節機構付き靴の温度調節機構を示し、(a)は靴底と靴中敷との間に配設した経路の構成を示す説明図、(b)は靴外側面に配設した経路の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 経路
11 第一の経路
11a 踵側経路
11b 爪先側経路
12 第二の経路
13 チューブ
13a 第一のチューブ
13b 第二のチューブ
14 調節式オリフィス(流量調節部材)
2 逆止弁
21 第一の逆止弁
22 第二の逆止弁
3 収納部
4 加冷剤又は加温剤
100 温度調節機構付き靴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴内部に配設され、熱交換用流動体が一方向に流動可能に供給された経路と、
当該経路の一部に配設され、靴底に加わる荷重の変化により開閉する逆止弁と、
前記経路の一部と接するように加冷剤又は加温剤を保持可能な収納部と、
を備え、
靴底に加わる荷重の変化により前記逆止弁が開閉して、前記経路内を前記熱交換用流動体が流動し、前記熱交換用流動体が前記加冷剤又は前記加温剤と接することで、靴内部の温度を調節できるように構成されていることを特徴とする温度調節機構付き靴。
【請求項2】
前記経路は、足裏、甲、踝近傍、脛に接する靴内部の少なくとも一部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の温度調節機構付き靴。
【請求項3】
前記経路に、前記熱交換用流動体の流量を調節可能な流量調節部材を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の温度調節機構付き靴。
【請求項4】
前記収納部は、靴側面の一部に配設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の温度調節機構付き靴。
【請求項5】
前記経路、前記逆止弁、及び収納部の少なくとも一つが、着脱自在に配設されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の温度調節機構付き靴。

【図1】
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【図2】
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