説明

温熱治療装置

【課題】患者の体温上昇における個人差に応じて、患者の体温をより正確に治療温度に上昇させることができる温熱治療装置を提供する。
【解決手段】温熱治療装置は、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて温熱治療を施す温熱治療装置であって、前記温水の温度を測定する第1の温度センサと、患者の体温を測定する第2の温度センサと、前記温水の温度を制御するコントローラと、前記第1の温度センサで測定された温水の温度及び前記第2の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温が予め設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温及び降温するように前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータと、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬して治療を行う温熱治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、正常細胞と癌細胞やウィルス感染細胞の温度感受性の差を利用して、患部を39℃〜43℃に加温し、正常細胞を守りながら癌細胞やウィルスを死滅させる温熱治療方法(ハイパーサーミア)が、非侵襲的治療方法として注目されている。
【0003】
風邪などの場合に人体が発熱するのは、体内で産生される発熱物質の量が一定の値を超えるとスイッチが入って発熱するためと考えられ、体内の環境が大きく変化して免疫機能が働き始める。これに対し温熱治療方法は、生体の温度上昇を人工的に引き起こすことにより発熱と同じ環境を誘導することで、免疫機能の始動を促すものである。
【0004】
温熱治療方法は加温の方法により複数種類に分類され、患部に高周波や超音波を照射する方法や、体外循環によって血液を加温する方法等がある。その一つとして、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて体温を上昇させる全身浸漬温熱療法が提案され、それを実現するための治療装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
全身浸漬温熱療法は、患者を直接温水に浸漬させることから熱伝導性が飛躍的に高まり、患者を必要以上の高温に晒すことなく全身の体温を短時間に治療温度に上昇できるので、患者の肉体的負担が抑えられ、長時間の治療が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−299789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の全身浸漬温熱療装置においては、患者が浸漬する温水の温度を調節することによって、患者の体温を39℃以上に上げ、治療効果を生み出している。より具体的には、温熱治療装置の温度センサで温水の水温を測定しながら、コントローラによって温水の温度を予め定められた温度まで上昇させることにより、体温を設定された治療温度まで上昇させている。
【0008】
しかし、水温の上昇と体温の上昇は患者によって個人差があるため、水温が同じでも、患者によっては治療温度よりも体温が上昇してしまうことがあり、反対に、患者によっては治療温度まで体温が上昇しないこともある。
【0009】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、患者の体温上昇における個人差に応じて、患者の体温をより正確に治療温度に上昇させることができる温熱治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため本発明にかかる温熱治療装置は、患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて温熱治療を施す温熱治療装置であって、前記温水の温度を測定する第1の温度センサと、患者の体温を測定する第2の温度センサと、前記温水の温度を制御するコントローラと、前記第1の温度センサで測定された温水の温度及び前記第2の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温が予め設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温及び降温するように前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータと、を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかる温熱治療装置の第2の温度センサは、患者の体温として直腸温を測定するセンサであることが好ましい。そして、前記温熱治療装置は、第1及び第2の温度センサに加えて、患者の心拍数を測定する心拍計や血中酸素濃度を測定する酸素飽和度計を備えていることがより好ましい。
【0012】
さらに、本発明にかかる温熱治療装置は、間質性膀胱炎の治療に使用することができる。なお、間質性膀胱炎の治療に際しては、患者の体温として直腸温を測定し、かつ直腸温が平熱+2℃±0.2℃となるように前記コントローラで温水の温度を制御し、また治療時間を15分〜90分に設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の温熱治療装置では、患者の体温を測定ながら温水の水温を制御することにより、患者の体温をより温熱治療に適した温度に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】温熱治療のため、患者が治療槽に浸かった状態を示す断面図である。
【図2】治療中の患者の体温と心拍数の経時的な変化を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置のうち制御系を除くシステムの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】図4のディスプレイに表示されるモニタ用画面の一例を示す図である。
【図6】実施の形態にかかる温熱治療装置における温熱治療の流れを示すフローチャートである。
【図7】実施の形態にかかる温熱治療装置を間質性膀胱炎の治療に用いた実施例における、治療前後の好酸球数及び白血球中の好酸球の割合を示すグラフである。
【図8】同実施例における直腸温と血液pHとの相関性及び直腸温と血中酸素飽和度との相関性を示すグラフである。
【図9】実施の形態にかかる温熱治療装置を肥満解消の目的で用いた実施例における、施術回数と体重との関係とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態にかかる温熱治療装置について、図面を参照して説明する。
【0016】
<温熱治療における体温の制御>
温熱治療装置の構成及び動作について説明する前に、図1及び図2を参照して、温熱治療における体温の制御について説明する。図1は患者が治療槽に浸漬した状態を示し、図2は治療中の患者の体温と心拍数の時間的な変化を示す。
【0017】
治療槽10は、上方が開放されたほぼ箱状に形成されており、配管11を通して加温された温水Wが浴槽に注入され、かつ配管12を通して排出される。温水Wは、後述のコントローラによって温度が制御され、治療槽10を含む循環ラインを循環する。なお、煩雑さを避けるため、治療槽10内の配管は省略している。治療を行う際は、治療槽10の上面は、患者Pの首から上の部分を除いて図示しない蓋で覆われ、温水Wの熱が外部に逃げることを防止している。
【0018】
患者Pは、乗せ部材13に乗せられた状態で、車輪付きのリフト(図示せず)により治療槽10まで搬送される。患者Pを温水Wに浸漬する際は、リフトを用いて乗せ部材13を上下方向に移動させる。なお、リフトの代わりに車輪のついた乗せ部材を用い、治療槽10の側壁の一部を開いて、そこから乗せ部材13を搬入するようにしてもよい。
【0019】
患者Pを乗せ部材13に乗せ、治療槽10まで搬送した後、患者Pの核心温を測定するために温度センサを直腸に挿入し、また心拍数及び血液中の酸素飽和度を測定するために計測プローブを患者の耳介や指に取り付ける。
【0020】
次に、図示しないリフトを下降させて、患者を治療槽10内の温水Wに浸漬し、治療槽10の上面を蓋で覆った後、温熱治療を開始する。図1に示すように、患者Pは、温水Wに浸漬した状態では、乗せ部材13の腕置き131に腕を置き、足受け132に足裏を付けて姿勢を安定にする。また、気道を十分確保するためにあごの位置を調節し、さらに血流を促進するために膝を曲げた状態を保つ。
【0021】
図2のグラフの上半分には治療槽10内の温水Wの温度(破線)と患者Pの直腸温(実線)の時間的変化を示し、下半分には心拍数の時間的変化を示す。
【0022】
体温の制御は、昇温処理、保温処理及び降温処理の3つのステップで構成されている。最初に患者の体温(核心温)を上げる昇温処理を行う。患者を温水Wに浸漬させた状態で温水Wの温度を体温より3〜3.5℃高い値に設定しながら上昇させ、患者の体温を上げる。温水Wの昇温カーブは、予め測定した標準的な体温の上昇率に基づいて設定されており、コントローラによって温水Wの温度が図2の破線のカーブを描くように制御される。
【0023】
図2の治療例では、後の保温処理において患者の体温が39.5℃に保持される。昇温処理において温水Wの温度を上げ続けると、体温が39.5℃を超えてしまうため、昇温処理の途中で温水Wの温度を直腸温より0.3〜0.5℃低い温度まで下げ、保温処理の開始時点で体温が39.5℃になるように制御する。
【0024】
保温処理において患者の体温が治療温度(39.5℃)になったら、所定の治療カロリーになるまで患者の体温(直腸温)を保持する。この状態では、温水Wの温度(破線)は体温(実践)より若干低い値に保持される。
【0025】
温熱治療において、心拍数をモニタする理由を説明する。外部から供給される熱は、主として血液によって全身に運ばれ、かつ心拍数は血流量に比例するので、心拍数と体温の上昇率との間に相関関係があるためである。図2の下半分に示すように、患者の心拍数は、昇温処理において体温の上昇と共に上昇する。心拍数が一定の値(約115回/分)になると、上昇が止まって一旦下降し、その後、保温処理が終了するまで、ほぼ一定の値を保つ。
【0026】
所定の治療時間が経過したら降温処理に移り、温水Wの温度を低下させて患者の体温を下げる。患者の体温が治療槽10からの脱出体温以下になったら、リフト(図示せず)により患者を治療槽10から脱出させる。最後に、治療槽10の排水と洗浄を行い、温熱治療を終了する。
【0027】
図2に示すカーブに沿って温水Wの温度制御を行えば、設定された治療温度まで昇温できる。また、体温を設定されたレートで昇温できるので、患者の負担も少ない。治療時においても、高い精度で体温を保持できる。さらに降温時も、体温を設定された降温レートで降温できるので、患者のへ負担が少ない。なお、図2に示したカーブに基づいて体温を制御する場合、身体への負担を軽減するため、体温が0.2℃〜0.3℃/5分のレートで昇温及び降温するように制御される。
【0028】
<温熱治療装置の構成と機能>
次に、図3及び図4を参照して、本実施の形態にかかる温熱治療装置の構成と各構成部材の機能を説明する。図3は温熱治療装置1のうち制御系を除くシステムの構成を示し、図4は温熱治療装置1の制御系の構成を示す。
【0029】
温熱治療装置1は、基本的に治療槽10、温水Wの循環ライン20、加熱用のヒータ30、給水ライン40、排水ライン50(以上、図3参照)、コントローラ60及び制御用のコンピュータ90(以上、図4参照)で構成されている。最初に図3に基づき、温熱治療装置1のうち制御系を除くシステムの構成と機能について説明する。
【0030】
治療槽10の構造については図1の説明を参照されたい。治療槽10には温水Wの温度を測定する温度センサ83が設置されている。また、治療槽10には8つの温水吐出ノズル15と連結管16〜18が取り付けられている。図3では、配管の連結状態を分かり易く示すため、浴槽内にノズル及び配管を配置しているが、実際にはこれらのノズル及び配管は壁の中に収納されている。
【0031】
隣接する2つのノズル15は第1の連結管16で連結され、また隣接する2つの第1の連結管16は第2の連結管17に連結され、さらに隣接する2つの第2の連結管17は第3の連結管18に連結されている。このような構成とすることにより、配管11から注入された温水は、第3の連結管18を介して第2の連結管17に分配され、さらに第1の連結管16に分配されるので、温度が均一に調整された温水を治療槽10に供給できる。
【0032】
循環ライン20は治療槽10とヒータ30との間で温水Wを強制循環させる配管で、途中に温水を加熱するヒータ30、温水を循環させるポンプ21、温水に含まれるゴミを取り除くストレーナ22及び逆止弁23が配置されている。
【0033】
ヒータ30で加熱された温水Wはポンプ21の圧力により治療槽10に送出され、温水吐出ノズル15から拡散噴射される。治療槽10から排出された温水Wは、ストレーナ22でゴミが取り除かれた後、ポンプ21から送出されて循環ライン20の配管内を循環する。
【0034】
給水ライン40は、温水Wの温度を下げるために水道水を温水Wに注入する配管で、途中に、水道水の供給を遮断するモータ弁41、水道水の流量を測定する流量計89、水道水の温度を測定する温度センサ85、及び逆止弁42が設置されている。モータ弁41を開くと、給水ライン40を介して水道水が循環ライン20に注入され、温水Wと混合される。
【0035】
排水ライン50は、治療槽10、循環ライン20及びヒータ30から温水Wを排水する配管で、治療槽10からはモータ弁51を介して、循環ライン20からはモータ弁52を介して、ヒータ30からはモータ弁53を介して、それぞれ温水Wが排水溝に排出される。
【0036】
つぎに、図4に基づき、温熱治療装置1の制御系について説明する。制御系は、温度センサで測定した温度、及び計測プローブで測定した患者の生体情報に基づいて、ポンプや弁、ヒータ等の動作を制御するコントローラ60と、治療装置1や患者Pの状態をモニタすると共に、コントローラ60に制御指令を与えるコンピュータ90で構成されている。
【0037】
コントローラ60は、制御部70、モニタ部80及び不揮発性メモリ61を含む。制御部70はコンピュータ90からの指令信号に基づいて、ポンプ21、モータ弁41及び51〜53、並びにヒータ30(以上、図4参照)の動作を制御する。
【0038】
モニタ部80は、流量計89で測定した水道水の流量を制御部70に送信し、モータ弁41の制御に利用する。また、モニタ部80は、温度モニタ81と生体モニタ82とを含んでいる。温度モニタ81は、温度センサ83、84及び85で測定された治療槽10の浴槽の温度(浴槽温)、患者Pの直腸温及び給水ライン40の水温(給水温)をモニタし、その値をコンピュータ90に送信する。
【0039】
生体モニタ82は、計測プローブ86、87及び88で測定された患者の心拍数、血圧及び血液中の酸素飽和度をモニタし、その値をコンピュータ90に送信する。前述したように、温熱治療においては、体温を39℃以上に強制的に昇温して保持するため、生体モニタ82により生体の状態を常時監視している。
【0040】
温熱治療において血圧をモニタする理由を説明すると、外部から供給される熱は、主として血液によって全身に運ばれ、かつ血圧は血流量に比例するので、血圧と体温の上昇率との間に相関関係があるためである。また、酸素飽和度をモニタする理由を説明すると、血中酸素飽和度は血液中の好酸球の濃度と関係している可能性があるためである。
【0041】
生体モニタ82でモニタされた治療中の患者の心拍数、血圧及び血液中の酸素飽和度のデータはコンピュータ90に送信され、制御指令作成の基礎データとして使用される。例えば、心拍数が所定の値を超えたときは、コンピュータ90は、昇温のレートを下げたり昇温を中止する制御指令をコントローラ60に発信する。
【0042】
不揮発性メモリ61には、ポンプ21等を制御する際に必要となるパラメータや、モニタ部80から得られるデータ等が保存される。
【0043】
情報処理手段であるコンピュータ90は、市販のパーソナルコンピュータ等で構成され、演算装置であるCPU91、記憶装置であるハードディスクドライブ(以降、「HDD」という)92、キーボード等の入力部93及び液晶表示装置等のディスプレイ94を備えている。
【0044】
コンピュータ90は、HDD92に格納された治療装置制御用のプログラムを読み出してCPU91で実行させることにより、コントローラ60のモニタ部80から受信したデータをディスプレイ94に表示し、治療従事者に対してガイダンスを与える。またコンピュータ90は、入力部93から入力された治療条件に基づき、コントローラ60に対して制御指令を与え、一連の治療処理を行う。
【0045】
図5に、ディスプレイ94に表示されたモニタ用の画面の一例を示す。画面D1には、中央のグラフD2に、モニタされる患者Pの直腸温の時間経過に対する変化が表示されている。また、画面D1には、患者名D3、設定温度D4、現在時刻D5等の患者をモニタする上で必要な情報がグラフD2と共に表示される。
【0046】
温熱治療装置1の運転は、画面に表示された運転開始のボタンD6や運転終了のボタンD7を指で触れることにより操作できる。設定温度を変えるときは、設定温度変更D8の温度を変更し、治療装置1の使用を終了するときは、終了ボタンD9を指で触れる。図示しないが、画面D1には、これ以外に呼び出しボタンや保存ボタンが表示され、これらのボタンを操作することによって治療槽10の浴槽温や治療装置1の動作状態などのモニタ情報の呼び出しや保存ができる。
【0047】
次に、コントローラ60による温水Wの温度制御について説明する。コントローラ60はコンピュータ90からの指令信号により、図2に示した温度カーブを実現するように制御される。温度センサ83で測定した浴槽温が設定した温度より低いときは、ヒータ30をオンにして温水Wを加熱する。一方、治療槽10の浴槽温が設定した温度より高いときは、モータ弁41を開いて水道水を循環ライン20に注入し、温水Wの温度を下げる。
【0048】
このように、現在の浴槽温と設定温度の差に応じて、ヒータ30による加熱、又は水道水の注入による冷却を行うことにより、浴槽温を設定温度に対して高い精度(例えば0.05℃以内)で保持できる。
【0049】
<温熱治療装置の動作>
つぎに、図6のフローチャートを参照して、温熱治療装置1における温熱治療の流れを説明する。
【0050】
図示しないリフトを用いて、乗せ部材13(図1参照)に乗せられた状態の患者を、治療槽10内に下ろし、温水Wに漬ける(ステップS1)。その後コントローラ60は、コンピュータ90からの制御指令に従い、図2で説明した昇温処理を行う(ステップS2)。
【0051】
昇温処理(ステップS2)の開始後、コンピュータ90は、温度センサ84で測定した直腸温の上昇率及び計測プローブ86で計測した心拍数の上昇率に基づいて、患者Pの体温(直腸温)が設定した治療温度に到達したか否かを判断し(ステップS3)、治療温度に到達した場合(S3でYes)は、図2で説明したように、所定の治療カロリーとなるまで患者の体温を保持する保温処理を行う(ステップS4)。反対に、ステップS3において、治療温度に到達していない場合(No)は、ステップS2の昇温処理に戻る。
【0052】
つぎにステップS5において、コンピュータ90は、予め設定した治療時間が経過したか否かを判断し、設定した治療時間が経過した場合(Yes)は、図2で説明した患者の体温を下げる降温処理を行い(ステップS6)、そうでない場合(No)はステップS4の保温処理に戻る。
【0053】
ステップS6の降温処理の後、コンピュータ90は、患者Pの体温(直腸温)が治療槽10の脱出温度まで低下した否かを判断する(ステップS7)。脱出温度まで低下した場合は(S7でYes)、ステップS8の処理に進んで患者を治療槽10から脱出させ、そうでない場合は(S7でNo)、ステップS6の降温処理に戻る。以上で温熱治療を終了する。
【0054】
なお、前述の実施の形態では、前述の実施の形態では、温水を加熱する手段としてヒータを用いたが、これに限定されず、ボイラを用いても良い。更に、循環ライン20上に熱交換器を設けて温液体によって熱交換する方法等、あらゆる加熱手段が適用でき、同様の効果を実現できる。
【0055】
また、前述の実施の形態では、温水を冷却する手段として水道水を循環ラインに注入する方法を採用したが、これに限定されず、治療槽に冷却水を直接注入するようにしても良い。更に、循環ライン20上に熱交換器を設けて冷却液と熱交換する方法等、あらゆる冷却手段が適用でき、同様の効果を実現できる。
【0056】
さらに、前述の実施の形態では、患者の体温は直腸温度センサを採用した。ただし、これに限定することなく、鼓膜温度センサを使用してもよく、排尿器を取り付けて膀胱温度を測定してもよく、これらを併用するようにしてもよい。
【0057】
<適用疾患>
本願発明の温熱治療装置は、温熱治療装置により治療可能な疾患であれば、特に限定することなく処置・治療に使用できる。このような疾患としては、例えば、癌、感染症、生活習慣病、寄生病、免疫亢進、免疫不全及び薬物中毒などが挙げられる。より具体的には以下のとおりである。
【0058】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる癌としては、白血病、胃癌、肝細胞癌、胆道癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、睾丸癌、子宮体癌、卵巣癌、肺小細胞癌、胆道癌、大腸癌、肝癌、子宮頚癌、結腸癌、直腸癌、甲状腺癌、乳癌、泌尿器癌、食道癌、絨毛癌、異所性HCG産生腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、神経芽腫、上顎癌、口腔癌、口腔底癌、尿路性癌、悪性リンパ腫(ホジキン性及び非ホジキン性)、膀胱癌、造血器腫瘍、肺非小細胞癌、褐色細胞腫、ガストリノーマ、インスリノーマ、カルチノイド、高カルシウム血症を伴う悪性腫瘍、成人T細胞白血病、外陰癌、皮膚癌、上気道癌、睾丸腫瘍、肉腫、悪性黒色腫、及び転移・再発癌が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0059】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる感染症としては、種々の細菌感染症、真菌感染症、HIV−1感染、HIV−2感染症、ヘルペスウイルス(HSV−1、HSV−2、CMV、VZV、HHV−6、HHV−7、EBVを含むが、これらに限定さない)感染症、アデノウイルス感染症、ヒトパピローマウイルス感染症、肝炎ウィルス(例えば、HAV、HBV、HCVなどを含むが、これらに限定されない。)感染症、Helicobacter pylori感染症、寄生生物感染症、HTLV−1感染症が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0060】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる生活習慣病としては、糖尿病、動脈硬化症(脳梗塞、狭心症、心筋梗塞を含むが、これらに限定されない)、高血圧、悪性腫瘍、肺気腫、骨の退行性変化が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0061】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる寄生病としては、アメーバ症、バベシア症、コクシジウム症、クリプトスポリジウム症、二核アメーバ症、交疫、外部寄生生物感染症、ジアルジア鞭毛虫症、蠕虫病、リーシュマニア症、住血吸虫属感染、タイレリア症、トキソプラスマ症、トリパノソーマ症、並びにトリコモナス属感染及び胞子虫(例えば、Plasmodium virax、Plasmodium falciparium、Plasmodium malariae及びPlasmodium ovale)の感染、疥癬、ツツガムシ病、眼感染、腸疾患(例えば、赤痢、ジアルジア鞭毛虫症)、肝疾患、肺疾患、日和見感染症(例えば、AIDS関連)、マラリアが挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0062】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる免疫亢進としては、アレルギー性皮膚炎、乾癬が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0063】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる免疫不全としては、膿皮症、口腔内ガンジダ症、ウィルス感染症が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0064】
本発明の温熱治療装置の処置・治療の対象となる薬物中毒としては、アルコール中毒、ニコチン中毒、ヘロイン中毒が挙げられるが、これらに限定するわけではない。
【0065】
なお、これらの疾患に加えて、本願発明の温熱治療装置は、間質性膀胱炎の治療に貢献できるという点において特出している。ここで間質性膀胱炎とは、細菌感染を伴わない慢性の膀胱炎症のことであり、激しい痛みや尿意切迫感、頻尿などの症状を有するため、患者者の常生活に大変な支障をきたす疾患である。間質性膀胱炎の患者は、日本には約25万人、アメリカには約100万人いると言われているものの、その原因については確定しておらず、根本的な治療法は未だ確立されていない。
【0066】
現在のところ、間質性膀胱炎の症状は、以下の原因によって引き起こされるものと考えられている。すなわち、アレルギー抗原や毒性物質の暴露、尿路感染、機械的刺激、自律神経のアンバランスなどの様々な要因により、生体反応として白血球、特に好酸球が膀胱組織に集まって炎症を起し、この炎症によって、1)膀胱壁が線維化して膀胱の収縮・拡張機能が低下し、2)膀胱粘膜が傷ついて保護の役目を果たせなくなり、3)粘膜に潰瘍が形成される。
【0067】
以上の疾患に加えて、本願発明の温熱治療装置は、生活習慣病、及び変形性膝関節症などの関節疾患の原因の多くを占める肥満の解消にも貢献することができる。
【実施例1】
【0068】
以下、前述の温熱治療装置1を間質性膀胱炎の治療に用いた実施例について、治験結果に基づいて説明する。具体的には、間質性膀胱炎の患者に対し、以下に示す内容の治験を行った。
【0069】
<被験者>
被験者は62才の男性である。7年前に前立腺肥大の既往症があり、痛み、尿意切迫感、頻尿(15分おき)などの症状から間質性膀胱炎と診断され、発症してから本治験の開始までに6年が経過していた。被験者は、治験開始1ヶ月前(2010年6月)に3度目の膀胱拡張手術を受けたものの、術後間もなく(2週間程度)痛み及び頻尿が再発している。さらに、被験者は、4年以上に亘って両上腕部にスティーブンス・ジョンソン症候群(薬剤が原因で発症する最重症型薬疹)が現れている。なお、被験者の直腸温の平熱は、37.2℃であった。
【0070】
<治験の手順>
治験は次の手順で行った。まず、被験者に直腸温度を測定する温度センサ84、及び血中酸素飽和度を測定する計測プローブ(パルスオキシメータ)88などの各種計測プローブを取り付け(図4参照)、被験者を37.15℃の温水を張った治療槽10に浸漬した。つぎに、被験者の直腸温が39.0℃となるように45分間かけて温水の温度を上げて昇温処理した後、直腸温が39.0℃を維持するように治療槽10の浴槽温を制御しながら、被験者を治療槽に50分間入浴させて、保温処理した。保温処理の終了後、患者の体温の上昇が止まり、低下が始まった直後に、被験者を治療槽10から脱出させた。
【0071】
入浴の前後及び入浴中に被験者から静脈血を採血し、採血した静脈血中の好酸球の数、白血球中の好酸球の割合(%)を血液分析装置(Horiba製 Pentra 60 LC-5000)よって測定するとともに、血液のpHを血液ガス分析装置(IL製 GEM Premier 3000)によって測定した。そして入浴と測定を、日を変えながら-複数回行なった。その結果を表1、図7及び図8に示す。
【0072】
<治験の結果>
表1は治験前後の白血球中の好酸球の割合を示したものであり、図7(a)は治験前後の血液1μL中の好酸球数を示すグラフ、図7(b)は表1をグラフ化した図である。また、図8(a)は直腸温と血液pHとの相関性を示すグラフ、図8(b)は直腸温度と血中酸素飽和度との相関性を示すグラフである。図中、Rは相関係数を示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1及び図7から、治療を繰り返すことによって、血中の好酸球数及び好酸球の割合が大きく低下することが分かった。特に、4回目の治療後、好酸球の割合が、治療前の9.4%から2.2%に著しく低下し、基準値である1.0〜3.6%の範囲に収まった。また、図8から、直腸温と血液pHとの間、直腸温と血中酸素飽和度との間に、それぞれ相関性があることが分かった。すなわち、直腸温を上げると血液pHと血中酸素飽和度も上がることが分かった。
【0075】
温熱治療装置1を用いた治療を繰り返すことにより、血中の好酸球数が低下するとともに、臨床症状も改善した。すなわち、間質性膀胱炎に伴う痛みは、1回目の治療によってかなり軽減した(体感で約半分に軽減)。また、2回目の治療をした日には、夜間の排尿回数が著しく減少し(治療前の1/4)、久しぶりに3時間以上熟睡することができた。
【0076】
4回目の治療前は1時間に4回あった痛みに起因する尿意切迫感が、治療後は正常排尿回数である2時間に1回に低下し、その症状が著しく改善した。また、4回目の治療後は、膀胱の炎症に伴う痛みがほぼ消失した。さらに、4回目の治療後は、スティーブンス・ジョンソン症候群の後遺症と思われる両上腕部の湿疹が消失した。
【0077】
6回目の治療前は2時間に3回あった日中における排尿回数が、治療後は約2時間に1回と激減し、ほぼ正常な回数に戻った。これによって、従来は困難であった遠距離旅行ができるようになった。また、6回目の治療後は、膀胱の炎症に伴う痛みが完全に消失した。
【0078】
以上の結果より、本発明の温熱治療装置1を用いて治療を行うことによって、血液中の好酸球が減少するとともに、間質性膀胱炎の症状が大きく改善することが確認できた。このことから、血液中の好酸球の数や濃度を減らすことによって、間質性膀胱炎の症状を緩和できることが確認できた。
【0079】
なお、入浴時の温水の温度や治療時間は、被験者(患者)の年齢、性別、体型、病状などに応じて調整する。意識障害などの他の疾患を生じない範囲であれば、直腸温をなるべく高くし、治療時間をなるべく長くする方がよい。その理由は、好酸球はpHや酸素飽和度が高いと減少する傾向があり、図8に示すように、直腸温が高くなれば血液のpHや血中酸素飽和度が高くなるためである。具体的には、直腸温が平熱+2℃±0.2℃、治療時間が15分〜90分の範囲となるように、入浴時の温水の水温や入浴時間を調節すればよい。
【実施例2】
【0080】
以下、前述の温熱治療装置1が、減量に与える効果を調べた。具体的には、以下に示すようにして調べた。
【0081】
<被施術者>
被施術者は、年齢、性別の異なる3人であり、被施術者に応じて施術回数(施術日数)を変えた。具体的には、被施術者(a)は、49才の男性(直腸温の平熱は37.15℃)であり、施術回数は13回(施術日数は165日)であった。また、被施術者(b)は、52才の女性(直腸温の平熱は37.04℃)であり、施術回数は26回(施術日数は135日)であった。さらに、被施術者(c)は、45才の女性(直腸温の平熱は37.59℃)であり、施術回数は16回(施術日数は128日)であった。
【0082】
<施術の手順>
被施術者の体重を測定したのち、次の手順で施術を行った。まず、図4と同様に、被施術者に各種計測プローブを取り付け、被施術者を平熱+2.5℃の温水を張った治療槽10に浸漬した。つぎに、被施術者の直腸温が39.0℃となるように30〜45分間かけて温水の温度を上げて昇温処理した後、直腸温が39.0℃を維持するように治療槽10の浴槽温を制御しながら、被施術者を治療槽10に60分間入浴させて、保温処理した。保温処理の終了後、患者の体温の上昇が止まり、低下が始まった直後に、被施術者を治療槽10から脱出させた。
【0083】
<施術の結果>
施術結果である施術回数と体重との関係を図9に示す。なお、図9(a)は被施術者(a)の施術結果、図9(b)は被施術者(b)の施術結果、図9(c)は被施術者(c)の施術結果を示している。図9から、施術回数を増やすことにより、何れの被施術者においても体重の減少、すなわち減量の効果が確認できた。
【0084】
なお、入浴時の温水の温度や施術時間は、被施術者の年齢、性別、体型、病状などに応じて調整する。意識障害などの他の疾患を生じない範囲であれば、直腸温をなるべく高くし、治療時間をなるべく長くする方がよい。その理由は、直腸温が高くなれば、心拍数もが上がり、発汗作用やカロリー消費が高くなるからである。具体的には、直腸温が平熱+2℃±0.2℃、治療時間が15分〜90分の範囲となるように、入浴時の温水の水温や入浴時間を調節すればよい。
【符号の説明】
【0085】
1 温熱治療装置
10 治療槽
11、12 配管
13 乗せ部材
15 温水吐出ノズル
16、17、18 連結管
20 循環ライン
21 ポンプ
22 ストレーナ
23、42 逆止弁
30 ヒータ
40 給水ライン
41、51、52、53 モータ弁
50 排水ライン
60 コントローラ
61 不揮発性メモリ
70 制御部
80 モニタ部
81 温度モニタ
82 生体モニタ
83、84、85 温度センサ
86、87、88 計測プローブ
89 流量計
90 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部以外のほぼ全身を温水に浸漬させて温熱治療を施す温熱治療装置であって、
前記温水の温度を測定する第1の温度センサと、
患者の体温を測定する第2の温度センサと、
前記温水の温度を制御するコントローラと、
前記第1の温度センサで測定された温水の温度及び前記第2の温度センサで測定された患者の体温に基づき、患者の体温があらかじめ設定した所定の曲線を描きながら昇温、保温及び降温するように前記コントローラに制御指令を与えるコンピュータと、
を備えていることを特徴とする温熱治療装置。
【請求項2】
前記第2の温度センサが患者の体温として直腸温を測定することを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療装置。
【請求項3】
患者の心拍数を測定する計測プローブを備えていることを特徴とする、請求項1に温熱治療装置。
【請求項4】
患者の血圧を測定する計測プローブを備えていることを特徴とする、請求項1に温熱治療装置。
【請求項5】
血液中の酸素飽和度を測定する計測プローブを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療装置。
【請求項6】
間質性膀胱炎の患者を温水に浸漬させ、体温を所定の治療温度に保持して温熱治療を施すことを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療装置。
【請求項7】
患者の体温として直腸温を測定し、かつ直腸温が平熱+2℃±0.2℃となるように前記コントローラで温水の温度を制御し、また治療時間を15分〜90分に設定することを特徴とする、請求項6に記載の温熱治療装置。
【請求項8】
被施術者を温水に浸漬させ、体温を所定の治療温度に保持して温熱治療を施し、被施術者を減量することを特徴とする、請求項1に記載の温熱治療装置。
【請求項9】
被施術者の体温として直腸温を測定し、かつ直腸温が平熱+2℃±0.2℃となるように前記コントローラで温水の温度を制御し、また治療時間を15分〜90分に設定することを特徴とする、請求項8に記載の温熱治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−187397(P2012−187397A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34911(P2012−34911)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【出願人】(511046977)株式会社GMI (1)
【Fターム(参考)】